500年後からの来訪者After Future8-17(163-39)

Last-modified: 2017-01-28 (土) 11:11:12

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-17163-39氏

作品

オンシーズンを終えて以降、異世界支部の運営で青チームも何かと忙しくなるだろうが、タイタニック号処女航海、社員旅行、日本代表の豪華客船船上ビュッフェディナーに関する事の詳細を全員の前で話し、二月後半も充実した毎日を送ることになりそうだ。とはいえ、大変なのは日本代表のビュッフェディナーくらいで、処女航海についてはどちらかというと俺たちのリラクゼーションタイム。何日間の航海になるかは俺にも分からんが、多忙な毎日の中で一時の休息を満喫してもらえると、企画した甲斐があったというもんだ。影分身を置いてきているとはいえ、俺の本体は今現在も一時の休息を満喫中。100階に足を踏み入れることを未だに躊躇っている妻から、初めてのシャンプー&マッサージを受けていた。

 

 毎日のようにシャンプーやマッサージを受けているからか、キューブ同様、サイコメトリーを上手く活用したのかどうかは定かではないが、シャンプーもマッサージもこれが初めてとは思えないほどの手腕に感服していた。そういえば、セカンドシーズンの最終回のトリックを解いたのもこっちのOGの中ではコイツだけだったな。難なく……というわけではないだろうが、俺たちと同じ大学を合格し、ほとんどの講座を講義の板書ノートだけで単位を取得。アレンジをするどころか、俺には理解することにさえできなかった有希の卒論も、見事に変貌させてみせたんだ。変態セッターほどではないかもしれないが、頭が切れると表現しても過言ではない……というより、今さら何言ってるんだか。超能力を応用したのも、そう考えれば納得がいく。今のところ、大食いに関することでしか利用していないけどな。他の大食漢の胃には及ばずとも、充分素質がありそうだ。マッサージの最中で午前中の撮影の様子を一緒に見ようと提案してモニターを出した。サイコメトリーなら手元を見る必要もないだろう。
「とぅ!」
仮面ライダーのようなセリフと共に、みくるを押し倒して両乳房を鷲掴みにした鶴屋さんがモニターに映る。まだ着替え途中の女子までみくるに近づいて、鶴屋さんに胸を揉みしだかれるみくるの姿を眺めていた。
「ちょ、ちょっと鶴屋さん。やっ、やめてください~~~~!」
「ふむふむ、大きいだけでなく弾力も…………」
サイコメトリーしたはずのセリフも途中で途切れ、みくるの胸を揉みしだいていた両手の動きも止まってしまった鶴屋さんを見て「カット!」というハルヒの声が聞こえてくる。突然の沈黙にそこにいたメンバー全員が動揺を隠せずにいた。もっとも、VTRで見る限りは違う生徒たちのように見えるが、どれが誰の影分身なのか分からんからな。全員有希の影分身だったなんてことも十分考えられる。沈黙を破るかのように、一体何が起こったのかとみくるが最初に尋ねた。
「鶴屋さん、どうかしたんですか?」
「この短期間でこんなに成長しているなんて思わなかったっさ!みくるもどれだけ成長すれば気が済むにょろ!?」
周りの笑い声が聞こえたところでVTRが終わっていたが、あの独特な笑い声と共に、佐々木たちが一番に声を上げているに違いない。というより、NG集をもう一度見直す必要がありそうだ。佐々木たちのあの独特な話し方をVTRに残すわけにはいかん。向こうでの夕食時に話しておこう。確認したい事もあるしな。

 

『キョンが予想だにしなかったNGって言ってたのが良く分かった。私もNGが出るならみくる先輩の方だとばかり……鶴屋先輩まであんな反応をするなんて思わなかった。でも、やっぱりみくる先輩も成長してたんだ』
『編集したのかもしれんが、VTRに俺の名前が出てこなくて正直ホッとしたぞ。ただでさえ、バレーの生放送でみくるとコールしただけでみくるファンからブーイングが飛んでくるんだ。もし俺の名前が入っていたら人事部がてんやわんやになる程度じゃ済まない。第三人事部まで使えば、一日で沈静化できるだろうが、イタズラ電話の相手をしている程、俺たちは暇じゃない』
『そういえばそうだったね。鶴屋先輩は「この短期間で」って言ってたけど、みくる先輩の胸が大きくなった理由もキョンと抱き合うようになったからってこと?みくる先輩なら寄ってくる男子が大勢いそうだけど……』
『とりあえず、続きはベッドで話そう。色々と事情があるんだよ。みくるだけでなく、ハルヒや佐々木もな』
ハルヒや佐々木の名前まで出てきたことに困惑していたようだが、お姫様抱っこで抱きかかえられても反応はいつも通り。しいて挙げるとすれば、俺の首に絡ませた腕の力がいつもより強くなっていたくらいか。ピロートークに切り替わったところで疑問をぶつけてきた。
『ハルヒ先輩や佐々木先輩ならファンクラブもできているくらいだし、確かに寄ってくる男子は多そうだけど……事情って一体どういうこと?』
『今もその点に関してはあまり変化がないが、ハルヒの場合は中学時代から面白いことに飢えていた。性格はどうあれ、見た目が見た目だからな。告白されることも多く、その全てをOKしていたんだが、コイツは面白くないと判断するや否や、即別れている始末だ。アホの谷口からの情報だと、最短でたったの五分だとさ』
『たった五分!?』
『「もう少しくらい、相手のことを知ったらどうだ?」と思うだろ?だが、当時のハルヒのことをよく知らずに告白していた方もどうかと思うけどな。佐々木の場合はその真逆だ。今のあの口調になった最大の理由。それは、自分を恋愛対象から除外するため。要するに、自らを変な女扱いさせて告白すらさせないようにしたんだ。「告白されても、どう断ろうか困ってしまうからね」なんて言っていた。しかしまぁ、あの口調ですらデザイン課の男性社員の何人かから告白されたらしいけどな』

 

 ハルヒと佐々木の経緯をようやく飲みこんだ妻が本題に足を踏み入れる。
『……じゃあ、みくる先輩の場合は?』
『みくるの場合は特別だ。前々から何度も話しているが、みくるはタイムマシンで未来からやってきた未来人。今は俺が預かっているハルヒの力を監視するために未来から派遣された調査員だ。いつ、任務を終えて未来に帰らなきゃならなくなるか分かったもんじゃない。恋人ができて互いに親密な関係を保っていたのに、事態が急変して突如として別れなくちゃならなくなった…なんてことになりかねないんだよ。当然、相手に理由を告げることもできずにな。だからみくるは恋人を作りたくても作ることができなかったんだ。ましてや、誰かと結婚して子供を産むなんてもっての外。この時間平面上の未来を安定させるためにやってきた未来人が、自ら未来を変えることになってしまうんだからな。そんなことをすれば、未来の禁則に該当して子どもと一緒に強制送還される』
『えっ!?でも、だったらどうしてキョンと?』
『本人曰く、我慢しきれなくなったそうだ。ハルヒの力が一度消えて、古泉やエージェントの超能力もなくなった。有希や朝倉、みくるにはその時点で帰還命令が届いたんだが、「あれだけの力が突如として消え失せるわけがない。このまま調査を続行する」という旨を伝えた。有希たちはすんなりOKが出たが、みくるはそれでも許可が下りないと思っていたそうだ。しかし、幸運にもこの時間平面上に残ることを許された。ただ、許されたからとはいえ、未来人の禁則に該当するようなことはできない。それでもずっと我慢することができず、ハルヒに何度もアプローチをしてようやくハルヒが折れたんだ。もっとも、アプローチを仕掛けていたのはみくるだけじゃないけどな。そして、妊娠して子供が産めないのであれば、妊娠して出産したことにしようと俺の方から提案した。さっき説明した通り、胸を大きくするための策を両方講じたから、鶴屋さんでも驚くほどの成長を遂げたんだ。これ以上成長するとは誰も思ってなかった程の成長をな』
『そんなことできるの!?』
『みくるの脳に催眠をかけたんだよ。自分は妊娠して出産した身だと。そして、乳房の乳腺を発達させた。VTRには映っていなかったが、今朝、再撮影の件を提案してから後悔したよ。「このままだと母乳が漏れるかもしれない。昨日のうちに絞り取っておけばよかった」ってな。まぁ、そのあと母乳が漏れ出さないように細工をしておいたから撮影中も問題なかっただろうが、母乳で張った胸を揉んでも「弾力が最上級」なんてセリフが出てくるはずがない。おそらく鶴屋さんも、みくるの胸を揉んだときに気付いているはずだ』

 

 「色々な事情がある」と言ったのは俺の方だが、いくらなんでも暴露しすぎたかもしれん。どちらのみくるも初体験の相手が俺だということは伏せておこう。もっとも、話の流れで気付いてしまいそうだけどな。しかし、みくるの方はれっきとした理由があるとはいえ、青みくるの方は縛りがあるわけでも何でもない。一人くらい付き合う相手が居てもいいんじゃないかと疑問に思ったが、青みくるが心惹かれるような相手がいなかったか、あるいは青ハルヒや青鶴屋さんが相手を突っぱねていたってところか。初めて異世界移動した当初は、俺ですらまともに話をさせてもらえなかったからな。さて、今の話を基に、コイツがどういう結論に達するか……だな。
『キョン!私にもその催眠をかけて!お願い!!』
『胸を大きくするだけなら、催眠までかけずとも、これからまだまだ成長していくはずだ。今まで成長していなかった分も含めてな。それと、あまり大きくなり過ぎると、零式が撃てなくなる可能性も十分にある。今だってこうしてテレパシーで会話して集中力を鍛えるトレーニングをしているんだ。それを全部水の泡にするつもりか?』
『みくる先輩が妊娠できない理由はこれでようやく分かった。でも、それが無かったとしても、自分が妊娠してもいいのか迷うんじゃないかな。だって、佐々木先輩は既に妊娠しているし、青佐々木先輩だってキョンとの子供を産むつもりなんでしょ?ただでさえ双子がいるのに、これ以上子供が増えたらって考えると……。いくら一夫多妻制って言ったって、キョンからすれば五人目の子供になるんだよ?立場的なことを考えても、青私に代役を務めてもらったとしても「現役の間に妊娠して子供を産んだとしか思えない」って疑われちゃうでしょ?』
『そう言われれば確かにそうだが……俺自身そこまでは考えてなかった。四人ですら同等に接することができるかどうか悩んでいたのに、五人以上となるとちょっと厳しいな。しかし、おまえはそれでいいのか?自分の子供が持てなくなるかもしれないんだぞ?』
『「一夫多妻制でもいいからキョンの妻にして欲しい」って思った時点で半ば諦めていたようなものだし、双子が成長して、私が日本代表を引退する頃になってからでも遅くはないでしょ?「四人同時に接することができるかどうか」でキョンが悩んでいたのも四人のうち二人はまだ生まれてすらいないからであって、双子が自らの意思で行動をするようになればその心配もなくなるよ、きっと』
『だったら、催眠をかけるのはもうしばらく後になりそうだ。今はまだ成長途中かもしれないし、それが止まったら催眠をかけることにする。それまでに零式改(アラタメ)をさっさと修得して監督を安心させないとな』
『三月号の情報結合が終わったら、青私と二人で零式の練習に集中しようと思ってる。ところでキョン、今日は………』

 

 話が一段落したところで、ようやく夫婦の時間の到来か。照明が消えていても、赤面して心拍数が上がっているのが腕から伝わってくるんだが……どうして欲しいのか言うのも恥ずかしいというのは何も今に始まったことではないが、果たしてどんな妄想をしているのやら。もっとも、数分後にはそれが現実になるがな。サイコメトリーせずに今回は待ってみることにした。
『えっと、その………あのね、朝起きたら立てなくなっちゃうくらい抱いて欲しい。……ダメ?』
『おまえ、ここの料理を全部食べ尽くすんじゃなかったのか?いくらスイートルームでも料理を運んで来てくれるわけじゃないんだ。邪魔が入らなくて良いというメリットはあるが、レストランまで移動しなくちゃいけなくなるんだぞ?移動中は抱きかかえていたとしても催眠で済むが、食べるときはどうする気だ?』
『だって、こんなチャンス今日を逃したら一生無いかもしれないんだよ!?ここなら皆に知られることは無いし、練習も青私に出てもらっているから平気。それに、当分寝られそうにないよ』
そのセリフを受けて時刻を確認した。あれだけ食べたとはいえ、レストランに向かったのはこっちの時間で午後五時。互いにシャンプーとマッサージを終えてテレパシーで喋っていても、日本はまだ夕食の時間にすらなっていなかった。眠れなくて当然か。やれやれ、オンシーズンの間に旅行に行くと言い出した後、顔を紅潮させていたのは、この場面を想定した上でという意味でもあったようだ。一生に一度のチャンスと考えれば、いくら恥ずかしくても絶対に逃すわけにはいかないというわけか。念のため同期をしてから要望に応えた。
『「明日の朝立てなくなるくらい」というのが、どの程度のことを指しているのか俺にもよく分からん。そう言ったからには途中で止める気はさらさら無いが、それでもいいんだろうな?』
『私はそれでいい。キョン、来て……』
秘部からは大量の蜜が漏れ出し、「準備は整った」と言わんばかりに俺の分身を待ち構えていた。後ろの方は、いきなり俺の分身と同じ太さの触手が通っても容易に受け入れられるくらいにまで成長、開発したし、これ以上焦らす必要はなさそうだ。秘部の奥の奥まで俺の分身と触手が入り込む。待ち望んだ快楽に身を委ねるように、自然と声が漏れる。OG全員同時に抱いても、周りを気にすることなく喘ぎ声を出していたんだ。今に限ったことでもないか。

 

『妄想しただけでこんな状態じゃ、服にも滲むんじゃないか?久しぶりにアンスコでも履いたらどうだ』
『アンスコを履いても、ショーツが濡れて気持ち悪い状態が続くのは変わらないから……ブラも一緒にドレスチェンジするか、トイレに入って磁場で吸着するようにしてる。毎日練習ばっかりだし、練習用の服が濡れていても汗と勘違いされるから平気。……それより早く動いて!』
『そう焦るなよ。時間はたっぷりあるんだ。それにしても、覚えた超能力をそこまで応用しているとはな。69階のアンスコは情報結合を解除してもいいかもしれん。いい使い方を閃いたら俺にも教えて欲しいくらいだ。やってみたことがないだけで、影分身を使えるだけの実力はもう備わっているんじゃないか?』
『影分身しても、情報だけしか残らないんでしょ?みくる先輩がシャンプーやマッサージするみたいに』
『明日の朝、立てなくなるのが目的なら、確かに影分身では意味がない。使えるだけのレベルに十分達しているって話だったんだが……今はどうでもいいか。もう二段階上のサイズに変更しなくちゃいけなくなるくらい、徹底的に胸も刺激してやる。覚悟はいいか?』
『ハルヒ先輩の真似をするなら……「いいからさっさとしなさい!」かな』
『なら、遠慮なく』
触手を迎え入れ、快楽を得るためだけの仕事しか出来なくなってしまった入口と大腸に刺激を与え続け、俺の分身は子宮口と何度もキスを交わしていた。しばらくして現れた二本目の触手が秘部の突起を執拗に責め、手は両乳房を意識的に揉み続けている。異世界の自分と比較することもこれまで何度もあっただろうが、もうほとんど違いが分からなくなっていた。料理で新川さん達と比べるのと同様、胸の大きさでみくると張り合おうなんて勝負をする相手が間違っている。豊満と呼ぶにはまだまだ時間がかかりそうだが、日を追うごとにそれに近づいていることは間違いない。ドラマの話ではないが、女子高生の枠で考えるのであれば、当時のみくるには及ばないにせよトップクラスであることに誰も異議は唱えないだろうな。

 

 何度痙攣したか数えるのも止めたが、トレーニングの成果は未だ顕在。俺の分身を絞り出すような痙攣に耐えきれず、とうとう俺の遺伝子が子宮内へと注がれた。痙攣も収まり、荒げていた息を整えて、ようやくその事実に妻が気付いた。
『ちょっ、キョン!これじゃ私、妊娠しちゃう!』
『心配しなくとも、卵管の一番内側に俺の遺伝子がそれ以上奥に進めないような膜が張ってある。OG全員と、青佐々木を除く妻全員にな。それに、本当に今日が危険日だと計算して出したのか?』
『それは……え――っと……』
俺の記憶も曖昧だが、確か生理開始日を一日目として十五日目から五日間くらいが妊娠の可能性が非常に高くなるんだったな。動きを止めた分身と触手を体内に受け入れたまま、冷静に日数を指折り数えていた。それくらい、女性なら誰でも持っていて当然の知識だ。
『あ、あはははは……、危険日をとっくに過ぎちゃってたみたい。でも、有希先輩たちは毎日抱き合っているんでしょ?アレのときはどうしているの?』
『有希の場合はみくるとは別の意味で子孫を残すことはできない。元々、人類とコミュニケーションを図るために生み出されたものだ。抱き合って快楽を得ることはできても、生殖機能は存在しない。当然、有希にはアレがない。青ハルヒとアイツについては簡単だ。子宮から流れ出る前にテレポート膜に引っかかる。青古泉のように、出てきた鼻血を大静脈に移動という手も考えたが、色んな液体が混ざり合っている以上、大静脈へのテレポートは避けた方が良い。血液だけに限定してしまえば、それ以外が流れ出てくるからな。移動先は……名前も顔も覚えていないが、俺が告知に行っている間にSPに何度も殴りかかってきた奴の胃の中へテレポートすることになってる。全員の不要物も含めてな。素行が悪すぎるせいでとっくに解雇されていてもおかしくない。胃が圧迫されて所々で胃の中のものを戻していれば尚更だ』
『その話なら、キョンから何度も聞いた気がする。確か……TBSの藤堂って言ってたっけ。私も話を聞いてて、馬鹿な連中だなって思ってたから。えっ?ってことは、アレが続いている間も、そのテレポート膜でキョンに抱いてもらえるってこと?』
『思い出したくもない名前を思い出させられた気分だ。だがまぁ、テレポート先を指定するのにこれ以上の情報はない。もし、張って欲しければそうするが……どうする?それに、この後も続けるかどうか聞いてもいいか?』
『アレのときはいくらキョンに抱かれたくても、それができなくて困ってたんだ。そんな簡単な解決方法があるのなら私にも付けて!それに、今日は夜が明けるまで抱いて欲しい。このくらいじゃ、まだまだ足りなさそう』
『言ってくれるじゃねぇか。夜が明けるまでだな?変更したいなんて言っても、絶対に止めないから覚悟しろよ?』
『問題ない』

 

 日本ではようやく夕食の時間になり、妻を除くOG五人と代役として出ていた青OG、子供たちが最後にやってきた。それまでの間、俺の影分身は昼食の支度と木曜日の野菜スイーツ作りに没頭。スカ○ターで体育館の状況を見ながら、別の影分身で正セッターを有希に切り替えたダイレクトドライブゾーンでの闘いをベンチで見学していた。確かにハルヒや朝倉より、伊織と美姫の方が攻撃に転じるタイミングが若干早い。それに気付いたからか、有希のトスは双子メインで上げられ、ハルヒが文句を言っている始末だ。
「ちょっと有希!あたしにももっとボールを寄こしなさいよ!」
「あなた達よりこの二人の方が攻撃に転じるのが早い。ボールを回して欲しければ、この二人と同等の反応をして。攻撃的なレシーブをされる以上、待っている暇はない」
「あら、それは聞き捨てならないわね。有希さん、双子よりもわたし達の方が遅いって言いたいのかしら?」
「ほんの僅かな差。でも、ダイレクトドライブゾーンをするには命取り。選択肢が限られる。昨日美姫が正セッターを務めていたときも似たような状態だったはず。わたしもさっき気が付いた」
「上等じゃない!さっさとコースを見極めて、双子より早く動いてやるわ!」
有希の発言にハルヒと朝倉に火が付き、それに負けじと幸が喰らいついていたのだが、81階に到着してエレベーターから降りてきたハルヒや朝倉が不満気な表情をしていた。インタビューを終えた影分身からの情報によると、有希の発言を受けた後も攻撃のコースを読み取るまでに時間がかかったり、読み違えたりしてそこまで上手くはいかなかったようだ。経験を重ねれば慣れてくるだろう。俺が司令塔として動いていたから、相手の攻撃を読むことに関しては黄チームが一番弱いはず。そういえば、三月号はできたのか?
「も―――――――っ!悔しい!!このあたしが双子の足を引っ張ることになるなんて!!」
「黄ハルヒが双子の足を引っ張った!?当の本人が認めるほどとは驚いた。幸、一体どんな試合だったんだ?」
「えっと……伊織ママ、織姫より攻撃するのがちょっと遅い。伊織パパがいるときが一番面白い!」
「くっくっ、いくら試合に出ていたからとはいえ、小学一年生に説明を求めるキミもどうかと思うけどね。でも、説明としては十分だったんじゃないかい?花丸をあげたい気分になったよ」
「えっ!?佐々木さん今の説明で分かったんですか!?」
「ダイレクトドライブゾーンがどういうスタイルなのか考えれば、自ずと答えに辿りつくことができます。双子より攻撃するのがちょっと遅いというのは、相手の攻め手を見極めて攻撃に転じるのが若干遅れていたということ。彼が一緒にいるときは、彼の指示によって誰が捕るべきなのかはっきりしますからね。自分の名前をコールされなかった時点で攻撃に転じることができる。『自分ではない』と判断するまでの時間分ロスが出てしまったのでしょう。我々黄チームが彼の指示に頼っていた分のつけが、今頃になって浮き彫りになったということですよ」
「俺のセリフじゃないが、食べながらでも話はできるだろう。みんな待ちくたびれているし、席についたらどうだ?」

 

『……?キョンパパ、ご飯食べないの?』
「ああ、俺はもう済ませた。会議のために残っているようなもんだ」
「おっと、一つ困ったことになりましてね。その報告をするのを忘れるところでした。話してもよろしいですか?」
『困ったこと?』
「こっちの鶴屋さんの家にかかってくる電話なら、俺の影分身で向かうつもりだが?」
「いえ、確かにその要員も必要ですが、僕が懸念しているのは異世界支部に関する内容です。しばらくはオフィスに届く電話も異世界支部の本社人事部で対応する予定ですが、シートを外して以降、出勤してくる社員のことで困っているんですよ。どういう条件をつけたものかとね」
「出勤してくる社員のことでどうして悩む必要があるのよ!?その前に、まずは面談じゃないの!?」
「なるほど……そういうことか。彼女なら既にこの会社の社員だ。面談の必要はない」
「二人だけで納得していないで、早くその全貌を僕たちにも教えたまえ」
「最初に気付いたのが青圭一さんだということは、彼女というのは愚妹のことで間違いない。確かに、シートを外して面談すら行っていないのに一人だけ異世界支部を出入りしている人間がいるというのはまずい。かといって、その間本社に寝泊まりさせるつもりもないし、閉鎖空間の条件をどうするかで青古泉が困っていたってことだ。あのバカの周りを報道陣が囲めば、何を喋られるか分かったもんじゃない」
「やれやれ、そういうことか。こっちと違ってアホの谷口と同レベルの奴がまだ大勢いるからな。因みに聞くが古泉。敷地を覆う閉鎖空間についてはどう説明するつもりだ?」
「『鈴木四郎の規格外のパフォーマンス』と応対するつもりでいます。シートを外すときも、彼に改めて閉鎖空間を張り直してもらうつもりです。許可した人間以外は入ることができないとね」

 

 こと愚妹に関して、ハルヒと青有希は我関せずという顔で議論に参加するつもりはないらしい。
「少々危険かもしれないけれど、『本社付近で敷地内に入れずにいる報道陣とそれを確認しにきた一般人以外には見えない』という条件でどうだい?ぶつかることもあるかもしれないけれど、閉鎖空間をつけた状態なら倒されでもしない限り彼女は無傷だ。ぶつかった人間の方がよっぽど重傷になるはずだよ」
「アイツが傷を負おうが俺にはどうでもいい。青古泉、今の案で行けるなら引っ越しの際にその条件で閉鎖空間を取り付けておく。どうする?」
「では、すみませんが宜しくお願いします」
「次はわたしが話してもいいかしら?OG達はこの後すぐにでも、作業に移りたいでしょうから」
朝倉の一言に全員が納得の表情を見せ、目の前に三月号(女性誌)が情報結合された。無論、こちらの世界と異世界の分の二部。電話番号やQRコードは勿論、スーツの特集についてはこちらの世界で人気の高かったものが多く採用されている。
「えぇ――――――――っ!?このデザインが上下セット三つでたったの1000円!?しかも二月号で特集した下着を選んでもいいなんて安すぎますよ!!私も全部揃えてみようかな……」
「読者目線でそういう感想が出てくるとわたしも嬉しいけど、誰がデザインしたものなのか忘れたのかしら?まぁ、それでもドラマでは着けていたみたいだけど」
「もうそんなことどうでもよくなったんじゃないか?デザインしたのが人間じゃなかったとしてもだ。ついでに、OG達の場合、しばらくは冊子作りメインだが、全部揃えるくらい情報結合で十分だ。わざわざ買う必要はない。ところで古泉、明日のヘリの運転変わってもらえないか?ちょっと行ってきたいところがあってな」
「それは構いませんが、今のあなたの実力であれば、追加で影分身を出すことくらい容易にできるのではありませんか?一体どこへ行こうというんです?」

 

 青俺が青古泉に自分の仕事を委ねてまで出かけたい場所があるというのも珍しい。青古泉の言う通り、追加で影分身を出すのも一つの手だろうが、それでは実行に移すことができないと判断したってところか。一体どこへ行こうというのやら。
「色々とサルベージしに行きたくなったんだよ。『殺し屋より愛をこめて』で思い出したんだが、あの金塊に張り合ってみたくなった。ついでにここにいるメンバーの24Kアクセサリーの材料調達ってところだ」
「あんた、じゃあ……まさか………」
「まぁ、ハルヒの想像通りだろう。俺たちの世界で黄俺が発案した財宝発掘ツアーに行ってくる。伊52号の二トンの金塊も全部いただいてくるつもりだ。それでも500トンの金塊には遠く及ばないけどな。だが、タイタニック号の最下層に四トンの金塊を飾るのも悪くないだろ?それに、タイタニック号を改良せずに元の形に戻すだけで処女航海を楽しんでみたい。それだけだ」
『面白いじゃない!!』
「それで僕にヘリの運転を任せるというのは正直納得がいきません。一人でそんな楽しいツアーに出かけるような抜け駆けはしないでいただきたいですね」
「それもそうだ。今回は我々も連れて行ってくれないかね?」
「くっくっ、そうすると新川さんのディナーを待って今夜ということになりそうだ。彼女には悪いけれど、そんな計画を建てられてしまったら明後日までなんて待てそうにないよ」
「青キョン先輩、宝探しツアーはいいですけど、アレだけは勘弁してくださいよ?」
『アレって!?』
「海面から深海5000mの海底までジェットコースターみたいに進んでいくの。真っ暗闇の中でブラックホールに飲みこまれているような気分だった。古泉先輩だって『アレをもう一度というのは勘弁してもらえませんか?』なんて言ってたくらいなんだから!」
「あまりいい思い出とは言えないことに間違いありません。彼やハルヒさんのような怖いもの知らずでなければ、もはや体験したいとは思わないでしょう。その頃からでしたか?あなたやジョンの言う『ちょっとした演出』が『ちょっとの枠に収まりきらない』と言うようになったのは」
「最初に言い出したのは古泉で間違いないけどな。ただ、青俺が一人で行くつもりだったのなら、そんな面倒なことをせず、宝を見つけ次第、次の場所へ移動する目算だったはずだ。宝探しツアーと言えるほどのものになるとは到底思えない。それでも行くつもりか?」
『フフン、あたしに任せなさい!』

 

「ところで、三月号について何か修正すべき点はある?一応、こっちの世界の冊子は社員にも明日見てもらうつもりよ。でも、特に何も無ければ、この子たちに作ってもらうけど……どうかしら?」
『問題ない』
「三月号、四月号でまた追加発注が来そうな予感しかしませんよ。朝比奈さんと涼宮さんのウエディングドレス姿が売れ行きにどのような影響を及ぼしてくれるのか見物ですね!」
「ちなみに佐々木たちに確認しておきたいんだが、NG集は完成したのか?第七話の予告と視聴者プレゼントのVTRも確認させて欲しい。モニターに出してもらえないか?」
「今朝キミが提案した件のついでにすべて撮影してしまったよ。確認するまでもないと思うけれど、何か気になることでもあったのかい?」
「ああ、特にNG集の方はおまえ等に関する内容だ」
佐々木たちが揃って怪訝な顔をしていたが、指を鳴らす音が鳴ると全員の前に小型モニターが現れた。鶴屋さんは元より、夕食中に吹き出さなければいいんだが……NG集の台本として配られたシーンはもう笑い転げているからいいとして、問題はみくるのシャンプーシーンとジョンの『超サ○ヤ人』発言。二人には箸を置くよう促したが、どうやら杞憂に終わったようだ。流石、家の人間から口酸っぱく言われ続けただけのことはある。しかし、俺の懸念事項は払拭されてはいなかった。
「有希、佐々木の声だけ消してアフレコさせてくれ。素の佐々木の口調を全国放送するわけにはいかん。度重なる番組出演で時折出ることもあったが、VTRとして公に出すわけにはいかない」
「分かった」
『ちょっと待ちたまえ。素の僕じゃダメだって言うのかい?』
「そうだ。大体な、何のためにその口調にしたと思っているんだ。周りの男から自分を恋愛対象から外すために敢えてその口調にして変な女を演じていたんだろうが。だが、これについては全国のおまえのファンが見ているし、その口調のまま全国放映されれば、おまえのファンが減り、SOS団の人気にも影響してしまう。これを見るのは自分の周りにいる人間だけでなく、その他大勢も含まれているってことだ。目的に関係しない以上、相応の口調で話してもらう」
『ぶー…分かったわよ』

 

 『ダメだって言うのかい?』のセリフの直後にすかさず否定され、財宝発掘ツアーで興奮していたのが嘘のように表情が曇っていた。周りも納得しているし、揃ってハルヒ達の真似をしたんだ。渋々だが受けるということで良いだろう。『甘んじで受ける』のように『納得はしていないが、我慢する』という意味で捉えているわけではない。しばしの間をおいて、同じモニターに次回予告が放映された。『脚本・演出 キョン』と画面に大きく映った後、第七話の一部を編集したものが映し出されていた。
『あたしが女子高に潜入捜査ですかぁ!?』
『どうもまた「アイツ」が絡んでそうなんだ』
『何よ!?あんたが注文するから着替えたのに、何か一言無いわけ!?』
『いや、何て言っていいのやらさっぱり分からん。文句のつけどころがない』
『きゃああああああああああああああ!』
女子生徒の服に火が付き、悲鳴が響き渡るシーン。素早く駆け寄ったみくるがブレザーで火が付いた部分を抑えつける場面が入っている。
『サイコメトリーはできたし、違和感もないんだが……』
『とにかく、一刻の猶予もないことは今のサイコメトリーで明らか。容疑者も大分絞れてきたわ!』
次回予告に引き続き、視聴者プレゼントの映像が流れてきた。
「『視聴者プレゼントのお知らせ!!』」
『セカンドシーズンでの事件も残り二つ!あの組織との対決もいよいよ大詰めね!』
『でも、次第に難解な事件になっているのは確かよ。次の事件だって、一樹君は現場に立ち入ることすらできないわ!あたし達でなんとか解決しなくちゃ!』
『そこで!みんなにも事件の謎を解いてもらいたいのよ!』
『サイコメトラーItsuki、セカンドシーズン最後の事件。第九話を見て、事件を起こした犯人と犯行で使ったトリック、それに、犯人である証拠を見つけてきて欲しいのよ』
『真相を暴いた人の中から抽選で20名様に、一樹自らシャンプー&カットをするわ!応募方法はご覧の通り。第十話放送日必着で送ってちょうだい!』
『あたしからのスペシャルヒント!ズバリ、証拠は全部で三つよ!三つ揃えないと真相には辿りつけないから気をつけてね!』
「『ご応募、お待ちしています!』」

 

「凄い……犯人もトリックも脚本で確認しましたけど、こんなのを見せられたら第九話が待ち遠しくなりました!」
「お二人の女子高生姿とあっては、ファンも興奮するでしょうね」
「視聴者プレゼントに関しては何の文句もない。ただ、次回予告で一か所修正して欲しいところがある」
『修正!?』
「くっくっ、面白いじゃないか。一体どこを直せというのか、早く教えてくれたまえ」
「『脚本・演出』を『ストーリー原案』に変えて欲しい。この事件の概要やトリックを考えたのは俺で間違いないが、細かな脚本を手掛けたのは佐々木たちだ。それに、最終回ならまだしも、今日再撮影を頼んだシーンや着替えのシーンまで俺が演出したとバレると、特にみくるファンからのクレームが殺到する。人事部が荒れるどころでは済まないだろう。そんなクレームごときに対応していられるほど、人事部も俺たちも暇じゃないんだ。余計な芽は今のうちから摘んでおく」
「なるほど、そういうことであればこちらとしても助かる」
「じゃあ、その部分だけ変更しておくよ。因みに第九話の予告には『制作総指揮 キョン』と入れるつもりだけど、それでもいいかい?」
「ああ、それでいい」
「すみません、今の話の流れから一つ思い浮かんだことがあるんですが、よろしいですか?」
「思い浮かんだことって何よ?」
「異世界支部の電話が落ち着くまで、第三人事部の回線を異世界支部のものと取り換えたいんです。こちらと同様、どこ○もドアを使って、第二人事部から回線を伸ばすつもりでいます。一件一件の対応がどうしても長くなってしまうので台数が必要なんですよ。無論、対応する人材がいなければ意味がありませんけどね」
「古泉の話じゃ、その頃には第二人事部は圭一さん一人で埋められるくらいなんだろ?青古泉で対応しきれない分は俺が応対する。異世界支部の電話対応が最優先事項になるのは間違いない。今のうちから潰してやるよ」
「おや?それでは僕の仕事が無くなってしまいます。僕にも手伝わせてください」
「よし、それなら財宝発掘ツアーにいくメンバーは黄新川さんのディナーが終わる十時半頃を目安にここに集まってくれ。シャンプーやマッサージはツアーが終わってからの方がいいだろう。それまで自由時間ってことでいいか?」
『私たちは69階で冊子作りをします!』
「そうね、わたしも冊子作りに参加しようかしら?有希さん、よかったら一緒にやらない?98階で」
「問題ない。わたしも作る」
「俺はスカ○ターでツアーの様子を見ながら野菜スイーツの準備を進める。いい時間ができた」
「あたしもディナーの準備を進めておくわ!時間は有効に使わなくちゃ!」
「僕は下に降りて新川さんの手伝いをすることにします。おススメ料理の火入れをしている影分身が戻り次第、そちらに参加させてください」
「では、皆様のお夜食の準備はわたくしが担当致します」
『ハルヒママ!アニメの続きが見たい!!』
「幸も含めて、子供たちの面倒を見ることになりそうね。あんた達も宝探しに行くんでしょ?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
『僕はサードシーズンのストーリーを考えることにするよ』
「参ったな。言い出した俺の方がやることが無くなってしまった」
「問題ない。こちらの世界の全店舗を回ってマネキンに細工をするだけ。あなたなら一回の情報結合で全店舗分のアクセサリーを揃えることができるはず」
『たった一回!?』
「黄俺がいつも言ってるだろ?何事も修錬だってな。よし、アクセサリーを作ったら、店舗の営業が終わり次第全国を回る。黄有希、店舗のリストを出してくれないか?」
「分かった」
「店舗に置いてくるアクセサリーでしたら、僕の方で既に作ってあります。一旦あなたに預けますので、後ほど僕に返していただけますか?遅くとも明後日までには終わらせてしまいたいので」
「だったらわたしは、久しぶりにディナーの接客に顔を出してみようかしら?」
『キョン君、野菜スイーツ作りのお手伝いをさせてください!』
「あんたたち、こんな時間まで働いて大丈夫なの?」
「たとえ休んだとしても、頭の片隅にやらなければいけないこととして留めておかねばなりません。それでは休んだことにならないんですよ」
「じゃ、指定した時間まで一旦解散ね。一つ残らずお宝を奪い取ってくるわよ!」
『問題ない』

 
 

…To be continued