500年後からの来訪者After Future8-20(163-39)

Last-modified: 2017-01-25 (水) 19:33:20

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-20163-39氏

作品

妻との二泊三日の旅行を終え、ビバリーヒルトンホテルの全メニューを食べ尽くして今後の料理の参考として記憶に留めることができた。それに加えて金塊の発掘に出かけて不純物を取り除く仕分け作業。そしてテレパシーでの会話を通して、妻がゾーン状態へ入ることができるようになった。色々と他のメンバーには黙っておく必要があるものも多いが、旅行中の様子が気になっているOG達は情報結合で製本作業をするどころではなくなってしまった。どうせ話さなければいけないのならと、サイコメトリーで情報を受け渡すよう有希から提案があり、六人揃って一路69階へと足を踏み入れていた。

 

「あれ?黄キョン先輩、テレポートで来てたんですか?」
「いや、影分身を残しておいただけだ。今ディナーを食べている六人も、もうすぐこっちに来る。情報を受け取ったらシャンプーとマッサージを先にしてしまおう。その方が情報結合に集中できるだろ?」
『はい!ありがとうございます!』
『青OGには必要ないだろうが下着の件と……それから、アレの件も一緒に伝えてくれ。男の俺からじゃ話にくい』
『分かった』
人差し指に集めた情報を一人ずつ受け渡していく。アレの件で恥ずかしがっていたり、笑いを堪えていたり、まぁ色々だ。
「聞きたい事もあるだろうが、全員揃ってからだ。同じことを二度説明する羽目になるんでな」
「でも、羨まし過ぎますよ!チェックアウトが済んだあと、自由の女神の頭の上で食事なんて……そんなの黄キョン先輩以外、誰にも思いつかないですし、先輩たちにしか実行できないです!」
「今、影分身から情報が届いた。六人が直接このフロアに向かっている。もう少しだけ待ってくれ」
皿洗いは影分身でやるからいいと告げ、なんでそんな顔になったのかこっちが聞きたいくらいの表情で69階に現れた。口角が大きく上がったハルヒの不敵の笑みにそっくりだ。後から来た六人にも情報が渡ったところで、シャンプーとマッサージを開始した。
「いいなぁ……一日中キョン先輩と話していたなんて。私もそんな時間が欲しいなぁ」
「丸一日話しているだけでいいのなら簡単にできるぞ?」
「ホントですか!?でも、旅行には行けないですし、どうやったら先輩と話していられるんですか!?」
「バレーの練習と練習試合は青チームの自分と交代して、ここのベッドで二人っきりでいればいい。俺はこの三日間と同じように本体がここに来るだけだ。もっとも影分身で店舗の店員を務めてもらう必要があるけどな」
「それなら私もできるようになりました!!」
言い終えた直後影分身が二体現れた……が、いくら今の状態を情報結合したからとはいえ、別に裸でなくてもいいだろうに。他のメンバーも驚いたり、感心したり、呆れたりと反応は様々だ。

 

「影分身が使えるようになったのは分かったから早く解除しろ。いつまで自分の裸を晒しているつもりだ」
「私はキョン先輩と結婚している身ですし、ここにいるみんなになら見られてもいいかなって……」
「理由は前に聞いたが、結婚している身で俺のことを先輩と呼び、敬語を使うってのはなんとかならんのか?」
「それは流石にちょっと……」
「この先50年以上もそれで貫くつもりかよ。それで、特にこっちの六人は下着をどうするつもりだ?」
『自分で情報結合します!!私もお気に入りの下着は捨てたくないです!』
「キョン先輩、私も胸を大きくしたいです!」
「ちょっ、みんながいる前でそんな発言しないでよ!私まで恥ずかしくなるじゃない!!」
「だが、言葉にはしなくとも周りも同じ気持ちのようだぞ?」
「あんな情報を受け取った後じゃ仕方ないよ。キョン先輩、青私みたいにアレの対策をつけてもらえないですか?アレの間も、先輩に抱いてもらいたいのを必死で我慢してたので」
『私にもお願いします!』
「今日は全員あのベッドで黄キョン先輩に抱いてもらうことになりそうだね。それに、さっき先輩が話していた内容、黄チームの私たちに話さなくてもいいんですか?」
『さっき話していた内容って?』
「ああ、旅行中ずっとテレパシーで話していたら、コイツも青俺や古泉同様ゾーン状態に入れるようになったんだ。まぁ、零式を習得しているし、元々集中力は高かったからなんだが、それを有効活用しようと思ってな。俺たち身内や女子日本代表相手では条件が揃わないと無理だが、男子日本代表チームのところへ行って練習試合の相手になってもらおうかと思ってる。さっきは言いそびれてしまったが、相手のセッターの采配を読んだ上でのダイレクトドライブゾーンで男子日本代表を圧倒したい。防御力は十分備わっているし、あとはスパイクの威力さえ持ちこたえることができれば十分実行可能なプランだ。もっとも男子に引けを取らないくらいのスパイクなら各国の代表や日本代表のエースのスパイクを散々受けているから大差はないだろう。ついでに、ゾーン状態に入ったこともあって、零式改(アラタメ)をマスターするのもあとは時間の問題だ。成功率が高くなっていくと代理で出るのが更に厳しくなる。明日以降も他の五人と一緒に練習に参加してみないか?」

 

 説明を終えて、遅れてやってきた六人が湯船に浸かって頭を悩ませていた。
「男子の日本代表チームがどこにいるかはマネージャーに聞けば分かると思いますけど、監督がOKしてくれるかどうか……それに、男子のネットの高さじゃ、いつも通りのスパイクが撃てないですよ」
「ネットについては女子の高さに合わせてもらうつもりでいる。言いにくければ俺が監督に直接話すまでだ。まぁ、実際に指示を出しているところを見せる必要があるだろうがな。それに、さっきは条件付きと言ったが、ラリーが続いて迷いが出てくれば、覚醒状態でなくても読めるようになる。あと、ジョンの世界で試合をするときは、青朝倉や古泉たちのようにセッターとしてまだ経験が浅いメンバーと闘えば采配はすべて読むことができる。『零式が撃てる司令塔』の練習をさせてやってくれないか?これが本物のダイレクトドライブゾーンだと言えるプレーを見せれば、六人で世界大会に出場する可能性が飛躍的に上昇する」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「えっ!?黄キョン先輩、じゃあ私は?」
「この六人でオンシーズン中にそれをやるには、ハルヒ達とは別のコートで他の選手と戦うことになる。ラリーが続かないと司令塔として機能することができないし、これについてはオフシーズンに入ってからでも十分だ。オンシーズンの間だけ交代して、それ以降は二人で話し合って出るといい。大分場慣れしてきたはずだし、オンシーズンの間は毎日ディナーが食べられるからな」
「黄キョン先輩、私も一日中先輩とテレパシーで話していたいです!影分身はまだできませんけど、使えるようになったら……」
「それは構わないが、集中力を高めることが目的であれば、今後はみんなとテレパシーで会話するようにすればいい。他のメンバーの集中力も一緒に上げることが可能だ。ただ、今みたいに12人揃っていると声で誰かまでは判明しても、二人のうちどっちがテレパシーを送ってきたのか分からなくなるから注意しろよ?まぁ、それを判別する例として、俺のことを『黄キョン先輩』と呼んだら青チームってことになる。ついでに、どんなに偽ったとしても大胆すぎる発言はすぐに誰か分かるだろ?」
『あ~なるほど!』
『お願いだからそういう発言はしないでよ?』
『え?だってそっちの方が区別がつきやすいんでしょ?』
『テレパシーで話すのはいいけど、自作自演で私まで巻き込まないでよ!』
『プフッ!』
『じゃあ、そろそろ製本作業に入ろう。アレの対策はベッドで横になってから施してやる』
『問題ない』

 

 さっき影分身をやってのけた妻を含めてこれで四人。余計な雑念も無くなったようだし、それぞれのペースで作業を進めていた。
『黄キョン先輩、一つ質問してもいいですか?』
『どうかしたのか?』
『先輩たちが製本作業をすると一回でどのくらい作れるんですか?』
『えーっと……アメリカ支部が起動したときに500万部一気に用意したくらいで、あとは会社ごとに分けないといけないから一回で何部まで作れるかは俺にもわからん。日本なら100万部が四つと10万部が四つ、異世界の方は30万部が四つだから、12回の情報結合が必要になる』
『500万部!?』
驚いてすぐ、全員が両耳を塞いだ。テレパシーでそんなことをしても意味はないのだが、かき氷を一気に食べて頭痛に遭ったかのようにこめかみを押さえている。
『テレパシーで叫ぶと今みたいになるから気をつけろよ。俺だって最初は一部ずつ製本するところからのスタートだったんだ。毎晩ジョンの世界で製本作業をしたり、みくるやハルヒ、佐々木のファンクラブの会員カードを作ったり、品物をサイズ毎に用意したり、何事も修錬だよ』
『なら、私も後はジョンの世界で作ることにします。黄キョン先輩、ベッドに連れて行ってください』
『別に一人で立ち上がれるだろう』
『先輩にお姫様抱っこされたいんです』
『(黄)キョン先輩、私もお願いします!』
やれやれシャンプー台からキングサイズのベッドまで抱きかかえていた情報も渡したようだ。明らかにキリが悪いOGもいたが、我慢しきれなかったらしい。残り十人に女の子の日用の対策を施して口づけを交わしていた。そういえば、今日は全員湯船に浸かっていたな。12人もいれば一人くらい入れない奴が居てもおかしくないと思うんだが……まぁ、些末事だ。全員の乳房を執拗に責め、今後の成長に期待を込めてOG達と共に眠りについた。

 

 これで当分の間は他のメンバーと同様にジョンの世界に来ることができそうだ。俺が三枚ブロックの件を伝えたせいか、ハルヒと朝倉はバレーの練習に参加し、青古泉もそちらに入っていた。バトルフィールドの片方にジョンと青ハルヒが揃って俺を待ち構えていた。どうやら、青ハルヒから除け者にされたらしい。OG達が練習試合に参加するのは最低でも来週月曜日の夜から。それまではバトルに集中できそうだ。
「あ―――――――もう!あと一週間なんて待ちきれないわよ!!早く15日にならないかな……キョン、ジョンのタイムマシンであたしを一週間後に連れて行って!」
朝のニュースも大きく変わった出来事が報道されているわけでもなく、全員が揃って朝食を摂り始めたところで青ハルヒが文句に似た一言。まぁ、気持ちが分からないでもないけどな。
「おまえな、前に何度も話しただろ?たとえ一週間後の未来に行ったとしても、俺たちのいるこの時間平面とは違う流れで進んでいるんだ。このビルも無ければ、青チームのメンバーがこちらの世界にいるなんてこともない。有希ならコールドスリープが可能だろうが、一週間分のおまえの仕事をみんなに任せることになるんだぞ」
「くっくっ、面白いじゃないか。確か、黄有希さんがキミと黄朝比奈さんをあの部屋の和室ごと時間凍結したんだったね。近未来に必要になる技術で間違いなさそうだ。そっちの方の研究もしてみたくなったよ。ところで、僕もド忘れしてしまったんだけどね、そのときはどれくらいの期間時間凍結されてたんだい?」
「俺が高一の年の七夕の日、みくるに連れられて、当時中一のハルヒの手伝いをされられた後からだから、丁度三年だ。ってか、その場の発想で研究テーマをコロコロと変えるな!」
「ですが、異世界支部の発展のためとはいえ、長期間単調作業ばかり続けていると誰だって飽きてしまいます。涼宮さん、今日の午後は垂れ幕を作って吊下げておいていただけませんか?」
「どうしてあたしがそんな雑用を押し付けられなくちゃならないのよ!そんなの有希にやらせればいいじゃない!」
「おや?このビルでは社長自ら垂れ幕を情報結合して、会議室の窓から垂らしていたのをお忘れですか?黄新川さんのディナーの垂れ幕も写真入りで作っていたではありませんか。気分転換には丁度いいかと思いましたが、どうやら違ったようですね。では、僕の方で用意しておきましょう」
「も――――――っ!!分かったわよ!今日のディナーの仕込みが終わったら作っておくわ。どんな垂れ幕を準備すればいいのか、後で情報を寄こしなさい!」

 

 今まで青ハルヒの尻に敷かれて喜んでいた奴が、青ハルヒを手玉に取るとは驚いた。今のやり取りに驚いているのはどうやら俺一人じゃないらしい。手玉に取られた本人が一番気付いていないだろうがな。
「では、確認の意味も込めて口頭で。涼宮さんには、後ほど同じ内容の情報を受け渡しますのでよろしくお願いします。追加、あるいは修正すべき点がありましたらお知らせください。一つ目、『社員募集18~20代』、二つ目、『調理スタッフ募集』、三つ目、『作業場のピッキング、梱包作業のパート、アルバイト募集』、四つ目、『デザイン課社員募集中卒~20代(面接の際は自分の考えたデザインでスケッチブックを埋めて持参すること)』、五つ目、『取材、番組取材はすべてお断りします』勿論電話番号も記載しますが、この場では割愛させていただきました。以上ですが、いかがですか?」
「やれやれ……やっぱりその五つ目は必要になるのか」
「どの道電話対応をしなくちゃいけないのなら、先に牽制を仕掛けておいた方が後が楽でいいにょろよ!」
「古泉君、購買部はどうするのか聞いてもいいかしら?」
「書店やコンビニを運営している会社と契約して、店員についてはそちらから派遣してもらうつもりでいます」
「デザイン課の年齢制限が変わっただけで、あとはこのビルを建てたときと変わらん。異論なしと見てよさそうだな。有希、社員旅行のFAXの件はどうなった?」
「問題ない。全員参加」
「よし、他に議題が無ければ先に出る。OG達は影分身で製本作業をしても構わないが、店舗の店員ならまだしも、バレーの練習や練習試合をしながらというのだけは避けてくれ。すぐに治せるが、怪我の可能性が極めて高くなるし、痛い思いをするだけだ」
「あなたが一番にこの場を抜けるというのも久方ぶりですね。何かあったんですか?」
「なぁに、やることが溜まっているだけだ」
「わたし達にもできることならお手伝いさせてください。キョン君、何をするんですか?」
「みくるは楽団の練習があるだろ?既に取り掛かってはいるが、まずは今日の昼食の支度と今週末のおススメ料理の仕込み。それに、タイタニック号は施設を作ればそれで完成だからな。今日中に終わらせてしまいたい。それから、未来の建物を修復に行く。こればっかりは俺か青俺でないと閉鎖空間の解除ができないし、前にも言った通り、非戦闘員は命に関わる危険が伴うから連れていけない。もし可能なら、タイタニック号に温水プールを設置するから、水着の情報結合を頼む。去年冊子に掲載した水着の他に、今までの特集で人気が高かったものも作って欲しい。勿論、一種類でもサイズ違いで何着もな」
「分かった。それはわたしの影分身で対応する。あなたは水着販売用のスペースを確保しておいて」
「異世界のタイタニック号の方はどうするつもりだ?」
「キミ一人にそこまで任せるわけにはいかないよ。僕たちの世界のものは僕たちで対応する。時間を見つけて進めていくから気にしないでくれたまえ」
「分かった。じゃあ、あとは頼む」

 

「妙ですね……」
「古泉君、妙ってキョン君のことですか?」
「ええ、今週末のおススメ料理なら昨日の時点で八割方終わっているようでした。タイタニック号の施設を設けるのも彼ならば容易いはずです。未来の建物の修復も、ジョンやあの時間平面上のジョン達に協力してもらえば短期間で終わるでしょう。我々に内緒で何か別の作業をしているような感じがしてなりません」
「くっくっ、僕らに内緒で事を進めるなんて今に始まったことじゃない。旅行中に何か閃いて、その作業に夢中になっているんじゃないかい?しばらくすれば、キョンの方から報告があるはずだよ」
 さて、勢いで未来に来てしまったが、あの四人と連絡はついているのか?
『キョンが閉鎖空間を解いたら修復に向かうよう連絡してある。例のシェルターの研究施設近辺から修復していけばいいだろう。俺も出る』
この時間平面上のジョンは結局どうしていたんだ?修行をサボって引き籠もりか?
『告知に行っている間のキョンとさほど変わりはない。眠気を取って夜中にアニメを見ていたらしい。とりあえず、一通り見終わったそうだ』
なら、早く終わらせてしまうことにしよう。昼食時には一旦戻らないといけない。
『キョン、朝食も終わったんだけど、私はどうしたらいい?』
『逆質問で申し訳ないんだが、何がしたい?金の分別なら俺の影分身三体がかりで仕分け中だ。タイタニック号を見回るのもいいが、マネージャーから男子日本代表チームの合宿所を聞いて練習試合の様子を見ているのが一番いいと思うんだが、どうだ?もっとも、女子と同じく練習試合は午後からだけどな』
『じゃあ午前中はタイタニック号を見に行かせて。男子の合宿先はみんなに連絡して聞いておいてもらうから。あと、古泉先輩が「我々に内緒で何か別の作業をしている感じがする」って言ってた。内容まではバレなかったけど、二人の関係が羨ましい』
『旅行先のことは知ってたか?』
『それについては何も。毎年恒例のイベントだし、どこに行ったかまでは深く追求しないんじゃないかな?』
『分かった。タイタニック号までは一人で来られるか?』
『あたしに任せなさい!』

 

 金の仕分け作業を手伝うなどと言われなくてよかった。面白そうだったから、北極で白熊と闘いながら仕分けをしている最中なんて言うわけにもいかんしな。ジョンを連れて超サ○ヤ人状態にならないといけない関係で本体が未来に赴き、異世界支部の調理場では昼食の支度とおススメ料理の仕上げ作業、タイタニック号の改装に加えて、最下層では伊52号の金塊計四トンを並べている真っ最中。後は金の仕分け作業と、まぁ色々だ。ジョンから聞いた話だと、あの四人を除いてシェルターに引き籠ったまま誰も出てこないらしい。もっとも、例の事件が起きて一週間しか経ってないんだから当たり前か。それに、例の組織が予知した日付にまた襲ってくるかもしれん。異世界支部の調理場を全て使ったとしてもおそらく足りないだろうが、一人前ずつカレーを配ることにしよう。アイツ等とは違って、料理人冥利に尽きる場面が拝めそうだ。忘れないうちに異世界支部の人事部にどこ○もドアを設置しておかないとな。
『影分身は結局どうしたんだ?』
『今は69階で製本作業をしている最中。旅行に行っていた分も取り返さなくちゃ!』
『水着は有希が作っている最中だし、見ているだけになりそうだが……それでも平気か?』
『問題ない』
『よし、一気に設備を整える。案内をするから気が付いたことがあったら教えてくれ』
首を縦に振った妻の肯定の意志を確認したあと、両手を床に置いて情報結合を開始した。船尾には温水プールが四つ、プールの周りにはデッキチェアを40台用意した。夜でも泳げるように照明を取り付け、水が光って見えるようプールの側面にもライトを取り付けた。船首と同様、黒い煙突の内側に水着の販売所を設けて、あとは水着が届き次第並べるだけで十分だ。今日の夜練の間に全員を呼ぶのも悪くない。青俺も影分身で見に来ることができるだろう。プールの一つ下のフロアには船内から景色を眺めることができるような大浴場とスパを用意した。残りの空きスペースに遊戯施設とバーをそれぞれ三ヶ所ずつ。加えて、体育館と楽団のコンサートホールを備えつけた。映画のヒロインのドレスや下着ではないが、年に数回しか使いそうにない船にこれだけの設備を整えるのもどうかと思ったが、閃いたんだから仕方がない。それでも余るスペースについては客室で埋めておくことにした。何かまた新たに閃いたらそのときに改造すればいい。妻をそれぞれの施設に案内している間に昼食の支度とおススメ料理の仕込みが終わったと、同期で情報が届き、妻の方も男子日本代表の合宿場所をテレパシーで教えてもらったらしい。女子の日本代表も毎年使っている場所だから、午後は妻の方が案内するとの事。可能な限り意識を削って、カレー作りを開始した。

 

『キョン、今日はここまでにしないか?大分日も暮れてきた』
そうだな、俺たちの時間平面上でももうすぐお昼時だ。研究所付近は俺が情報結合で元に戻しておいたが、他の場所はどうなっているか分かるか?
『建物の修理をするだけでもあと二、三回は来る必要があるが、シェルターに食糧を支給に行くのならそのときに直せばいい』
なら、あの四人にもカレーを振る舞うとしよう。ところで、例の組織の予知はどうなった?
『俺もそれが気になってこの時間平面上の俺から聞いたんだが、予知は100%ではなくなったが、まだ見過ごせないだけの可能性が残っているらしい。日時も二月十六日の午後三時で変わらずだ』
たとえ襲ってきたとしても、住民は当分シェルターから出そうにないし、閉鎖空間で防いでいる間に俺たちが駆け付けられるだろう。あの四人も涼宮体と同程度の実力にまでレベルアップしていてもおかしくはない。後は前回のように体力を消耗した時点で襲ってくるようなことが無ければいいんだが、正々堂々とか真っ向勝負なんて言葉が一番似合わない連中にそんな期待をしたところで仕方がない。仙豆のようなものは無いのか?
『流石にあんな反則的な回復アイテムを作りだすことは不可能に近い。前回と同じように、同位体が襲ってきた時点で、その日の修行前の時点まで情報結合を戻すそうだ』
その発想が無かっただけで、あの四人にも有希と同じような情報操作ができるってことか。
『そうなるな。とりあえず閉鎖空間を張り直してくれ。大分時間を喰ってしまった』
おっと、ハルヒ達から怒号のようなテレパシーが届く前にさっさと戻ろう。
「遅いわよ!!さっさと席に着きなさいよ、あんた!」
「すまん、ジョンと二人で進捗状況を確認していたら、正午を過ぎてしまった」

 

 ったく、案の定と言うべきだろうな。青俺から鉄拳を喰らったらしい青有希が頭を押さえ、有希の視線がこっちを向いたままズレそうにない。はてさて、誰が最初に口火を切るのやら。
「キョン君、さっきは進捗状況って言ってましたけど、未来の様子はどうなんですか?」
「あの時間平面上のジョン達と一緒に情報結合してまわっていたんだが、建物を治すだけでもあと二、三回は行くことになるそうだ。もっとも、影分身を調理とタイタニック号の修繕に使って、本体だけで修理していたから影分身を使えば回数は減るはずだ。ただ、これに関しては今のうちに話しておいた方がいいだろう。あの時間平面上の未来を予知する組織の出した結論だ。『100%ではなくなったが、看過できない可能性がまだ残っている』らしい。他の時間平面上と同期すらできないほどジョン達のかめ○め波でアジトを吹き飛ばしたが、あの時間平面上の様子を伺っている奴等が攻めてくるかもしれん。日時は変わらず、この時間平面上で今月十六日の午後三時だそうだ。もっとも、当分の間はジョン達以外の人間はシェルターに籠ったきり出てきそうにないけどな。俺の閉鎖空間さえ破壊されなければ誰かが死ぬなんてことはまずあり得ない。その間に俺たちが駆け付ければいいだけだ」
「フン、いつ攻めてこようと結果は同じよ!それよりあんた、今日は練習試合が始まる前からベンチで待機していなさい!双子以上のダイレクトドライブゾーンを見せてやるわ!」
「そいつは楽しみだ。日本代表も真似するようになってはきたが、まだまだ反応が遅いからな。司令塔抜きでダイレクトドライブゾーンを使いこなしてもらいたかったんだ。手本を見せつけてやってくれ。ついでにと言っては何だが、二つ、連絡とお願いをさせてくれ。連絡の方は、タイタニック号の改装が完了した。夕食後、タイタニック号に繋がるどこ○もドアを用意しておくから、夜練をしている間に全員で見に来て欲しい。こっちのOG達は別日に案内する。ただ、影分身を使えるようなら夜練には影分身で顔を出して、本体はタイタニック号を見に行ってもらって構わない。その場合は、少ない意識でもキャッチできるようにストレートしか投げない予定でいる。できれば、販売所に水着を並べてきて欲しい。販売所とは言っても、タダで渡すだけでレジも用意していないけどな。お願いの方は明日の練習試合についてだ。すまないが四本だけ零式改(アラタメ)を撃たせて欲しい。前回上げられてしまったクロスを二回と、ネットに引っ掛からない零式改(アラタメ)のストレートとクロスを一本ずつだ。それが終われば通常サーブしか撃たない。やらせてくれないか?」

 

「最初の四本くらいなら、わたしは平気」
「ゾーンですら捕れないことを思い知らせてやらんとな」
「僕もそれで構いません。それより、セッターに関してはどうするおつもりですか?」
「俺たちの基本は全員攻撃。サインなんて使わない。セッターも勿論攻撃要員としてカウントする。要するにツーアタックができるように、前衛のときはブロッカー兼セッターってことだ。俺と青古泉が対角のポジションにつけばいい」
「了解しました。因みにサーブ順は決まっているんですか?」
「最初のセットは零式改(アラタメ)を撃つ関係上、俺、青ハルヒ、ジョン、青古泉、青俺、青有希の順だ。青古泉がセッターの位置につく以上、ジョンと青ハルヒがレフトにズレる。だが、青古泉と青ハルヒの連携を考えれば、青ハルヒがセンターになる方がいいだろ?ただ、このサーブ順だとローテが一つでも回ってしまうと、青ハルヒとの連携がほとんど使えなくなってしまうから、二セット目以降は俺と青古泉を入れ替えるつもりでいる」
「そこまで計算に入れた上での采配とはお見逸れしました。涼宮さんとの連携技を見ている人たち全員に披露することにします」
「むー…、仕方がないわね。零式改(アラタメ)を撃ち終わっても、あんたの指示で目立っちゃうし……でも、面白そうだから今回はいいわ!古泉君もあたしにボールを集めなさいよ!?」
「勿論です」

 

「ところで、キョン君が来る前に話題になっていたにょろが、キョン君カレーを作っているにょろ?」
「ええ、今作っている量じゃ全然足りなさそうですけどね」
『全然足りない!?』
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、空いている厨房全部使ってカレーを作っていたんじゃないの!?」
「ああ、できるだけ影分身を割いて作っている最中なんだが、俺もどれだけ作ればいいか検討もつかん」
「今のキミの発言で目的がさっぱり分からなくなってしまったよ。キミは一体何のためにカレーを作っているんだい?」
「例の時間平面上のジョン達やシェルター内で脅えている人たちに振る舞うために決まっているだろ。それ以外に目的なんて考えられん」
『えぇ~~~~~……』
ブーイングに近い……もとい、自分たちの分だと勘違いをしていたメンバーからブーイングが飛び出る。
「わたし達の分は?」
「この前食べたばっかりだろうが。しかも妥協案として仕方なく出したんだ。当分の間は作らん」
「まったく、ここにいるメンバー全員に淡い期待を持たせやがって……おまえがカレーの匂いを察知しなけりゃこんなに落ち込まずに済んだんだ。みんな、奈落の底に突き落とされた気分になってるぞ!いい加減、その習性をなんとかしろ!」
「貰ったエネルギーを使い果たしても、カレーに関しては有希さんが嗅ぎつけてしまいそうね。野生の感ってヤツかしら?わたしも黄キョン君のおでんの匂いを嗅いだときは似たようなものだったから、あんまり人のことは言えないんだけど……」
「それでもシャミセンとチーターくらいの差はあるだろうが!」

 

 カレーの匂いが漂っていてもカレーにありつけないと知ったショックと青俺から散々怒られた影響で、青有希がどんよりとしたオーラを放ちながら落ち込んでいる。これは当分立ち直れそうにないな。
「まぁ、そういうわけだ。午後はハルヒから誘われた件もあるし、体育館に向かうのと、男子日本代表の合宿所に行ってくる。ゾーンに入れるようになってどれだけ采配が読めるか確認をするのと、指示を出す練習だな」
「おや?それなら僕も同行させてもらえませんか?人事部も至って平穏で練習用体育館でトスを上げる練習をするくらいしか仕事が無くて困っていたんですよ」
「なら、二人とも食べ終わっているようだし、三人で行こう」
「キョン、練習試合開始まではまだ時間もある。ちょっと待ってもらえないかい?」
「カレーを食べることに関してはどんなアプローチをしてきても承諾しないが、それで良ければ待ってやるよ」
「キミはそう言うけれど、僕たちはもう『カレー』と聞いただけで禁断症状が出てきてしまうんだ」
「だからどうした。俺には関係ない。大体な、『カレーの匂いを嗅ぎつけた』とか言っていたが、まだ玉ねぎのみじん切りを炒めている状態だ。それだけでどうしてカレーだと判断できるのか俺の方が聞きたいくらいだよ」
「やれやれ……有希はショックは受けていてもみんなに謝ろうともしないし、他の連中もそうやって食い下がるんじゃいつになったら食べられるか分からん。昼食を食べないのならさっさとビラ配りに行くぞ。そのテンションの下がった顔も催眠で……って、駄目か。言葉までは変えられそうにないな。『カレー』と何度も連呼しかねん」
「キョン、もう行こう」
「ああ、そうだな。合宿所の上空にテレポートしてくれるか?ステルスを張ってから中に入る」
「分かった」

 

 自分でデザインしたジャージにドレスチェンジをした影分身を残して、男子日本代表の合宿所へとテレポート。ステルスを張って体育館内に侵入した。
「目の前にいるのが一軍メンバーだ。指示出しの練習をするのに、背中に俺たちにしか見えない番号でもふろうと考えていたんだが、ユニフォーム姿で練習試合をしているとは俺も予想外だ。とりあえずセッターを見て采配を判断できた時点で声に出してみてくれ」
「分かった」「了解しました」
サービス許可の笛が鳴り、一軍メンバーのサーブからスタート。しかし、今日はフォーメーションや連携に重点を置いているのか?コートの反対側も一軍メンバーに違いないが、闘い方を変えるための交代要員以外はベンチウォーマーばかり。向こうの六人は練習になるだろうが、こっち側は……
『ブロード』
ほぼ同じタイミングで二人の声が聞こえてきた。セッターの采配は二人の予想通りブロード攻撃。ブロックは避けたがコースを読まれて点数にならず仕舞い。
『時間差』
ブロッカーが下がり、AとBのクイック技を囮に使ったバックアタック。ブロックに詰めていた前衛の開けたスペースにピンポイントに叩きこまれてスタメン側に一点が入った。
『どうやら二人とも問題なさそうだな。声に出しても選手たちには届かないが、このあとはテレパシーで話そう。集中力を鍛えるには丁度いい』
『それは名案です。しかし、セッターの采配だけならまだしも、コースを読んで誰が取るべきかまで判断するとなると流石に厳しいですね。普段はどこで判断しているのかご教授願えませんか?』
『オンシーズン初日は全部話したが、俺が話したものについてはあくまで参考として利用するだけで、自分なりのやり方で判断基準を見極めた方がいい。あまりそれに囚われ過ぎると判断ができなかったり、間違えたりもする。どうしても読み切れないときは、予測されるコースにいるメンバーに指示を出せばいい。例えば「B、古泉、朝倉、一歩前!」なんて言うときがそれにあたる。采配を読んでブロックには跳ぶが、コースまでは読み切れなかったってことだ』
『なるほど、例が挙がっただけでその場面がすぐに連想できましたよ。これまで何度もその指示を聞きましたからね。納得のできる解説で勉強になります』
こっちはこの後も同じような形で続けていけばよさそうだ。さて、カレーの件でまた一悶着している奴等はどうなったんだか。

 
 

…To be continued