500年後からの来訪者After Future8-5(163-39)

Last-modified: 2016-12-26 (月) 14:35:44

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-5163-39氏

作品

W有希のカレーに対する執念に呆れ果て、当分の間作るつもりのなかったオリジナルカレーを一人一皿ずつと約束したにも関わらず、W有希は態度だけで満足できないと表現していた。大食い選手権じゃあるまいし丸一日かけて作ったカレーをあんな簡単に平らげられちゃ割に合わん。青俺の発案で二人には全員の雑用係を命じられた。そんなトラブルもありながら、ゴールデングローブ賞では俺たちの映画がなんと五部門で入賞することができ、全員に配った最終話の脚本でついに解決編の撮影が始まった。

 

「じゃあ次、三日目の朝食のシーン。青古泉君がみくるちゃんと耳打ちしているところの撮影よ!」
「皿やナイフ、フォークは情報結合したが料理は催眠だ。全員食べるフリをしてくれ。獅○はもう完食した状態だ」
青古泉とみくるが食堂に戻りようやく食事を食べ始めている。
「(朝比奈さん、証拠は見つかったのか!?)」
「(ええ、さっきのあなたの行動で気付いたわ。ここはあたしに任せて)」
桜○も食べ進めてはいたが度々手が止まり、テーブルを何度も殴りつけていた。そんなことは気にも留めずに食べ進めていた俺と一色。自分が真犯人としてトリックを暴かれ、証拠が提示されたとしても毅然とした態度で立ち向かうのか、はたまた死を選ぶのか、そのしぐさや表情からは読み取ることができなかった。全員が食べ終えたところでみくるが服部の座っていた席の後ろに立った。
「では、この孤島で起きた事件の真相のすべてをお話しします」
「カット。次、獅○の『じゃあ、この事件の真犯人は……』から始めて」
「じゃあ、この事件の真犯人は……」
「私たち四人と彼、それに森さん達を除いて、唯一イニシャルがS・Hにならない人物。一色沙弥華さん、あなたよ!」
「あなた達がここに来た理由も、彼が本当はルポライターでないことは分かったけど、イニシャルがわたしだけ違うという理由だけでどうして犯人扱いされなきゃいけないのか教えてもらえないかしら?」
「言ったはずよ。『この事件の真相のすべてを話す』と。シド殺害の密室トリックもあなたが犯人だという証拠もすべてね」
「証拠も見つかったっていうの!?昨日あれだけ話しても何も出てこなかったのに……」
「ええ、園部さん殺害のときに一樹君が怪我を承知で扉を殴ったときに分かったわ。一色さんあなたが起こした行動のすべてをお話しします。まずあなたは、この孤島についた初日の夜、遊戯室には現れなかった。夕食後、服部の部屋に赴き、あたし達が遊技場でビリヤードやトランプで遊んでいる頃には、すでに服部を殺害してしまっていたのよ。服部には、『ここに着いたときに聞かされた逸話を詳しく聞きたい』とでも言えば、二年前の事故とは全く関係ないあなたなら簡単に招き入れたでしょうね。そして、あらかじめリネン室から盗んでおいたシーツ越しにナイフで服部を突き刺し殺害した。返り血は全てシーツが防いでくれる。ここからがシド殺害のためにあなたの使ったトリック。あなたは自分の服を脱ぎ、『返り血を浴びるのを承知の上で』服部の首をはねた。そのとき身体についた血はシーツでいくらでも拭きとることができるわ。そのあと、シーツやまくらカバーを使って服部の手が拳を握っているように固定して、首から噴き出してくる血をシーツで防ぎながら、服部の胴体を壁にもたれかかるように立て掛けた」

 

「みくるちゃん、どうしてそんな面倒なことをする必要があったの?」
「服部が殺害されたとき、和室のどこを探しても胴体が見つからなかった本当の理由。それは、シド殺害時の密室トリックに服部の死体を利用するためよ!」
『密室トリックに利用する!?』
「そう。シドの殺害現場にあった胴体は、シドの服を着せた服部の死体だった。そして、服部の服を着せたシドの胴体をシーツごと館の外へと運び海へ落とした。あなたは服部を殺害した後、あたし達が全員遊技場から出てくるまで、服部の胴体の様子を見ながら和室に身を潜めていた。あたし達が全員部屋に戻ったのを見計らって下着姿のまま堂々と服部の胴体を拷問部屋へと運び、パイプ椅子で膝が曲がらないよう固定して鍵をかけた。日本刀や脇差も一緒に拷問部屋に隠しておいたはずよ。持ち物検査をされてもいいように。シド殺害を実行に移しやすいようにね。いくら血を拭ったとはいえ、服に血が付くのを恐れたあなたはそのまま部屋に戻り、証拠を隠滅するために血の付いた下着を細かく切り刻んでトイレに流した。翌朝、あたし達がビーチバレーに行っている間、シドの部屋を訪れ、『もし爆弾が取り付けられていても、わたしなら解体できる』とでも言ってシドを安心させ、部屋へと入りこんだところで服部と同様の手口でシドを殺害した。仰向けに倒れたシドの首の下にシーツを敷き、服部のときと同様下着姿でシドの首をはねた。そのあと、シドと服部の服を入れ替え、拷問部屋にシドの首だけを投げ入れて内側から扉を閉めた。固定していた服部の右手に拷問部屋の鍵を持たせたあなたはパイプ椅子に乗り、服部の胴体を脚立代わりにしてあの小窓から出て、小窓付近の指紋を拭き取った後、拷問部屋から脱出した」
「聞いて呆れるわ!死体を脚立代わりにするですって!?そんなことをしたら、いくら女でもわたしの体重に耐えきれずに死体のバランスが崩れて転倒するのがオチよ!」
「だから、シドの胴体ではなく、服部の胴体を使ったんでしょう?死後硬直が最大になるよう時間を見計らって」
『死後硬直?』

 

「あたしも首をはねられた死体の死後硬直なんて調べても、死亡推定時刻を割り出せるとは思ってなかったから、このトリックに気付くのに随分時間がかかったわ。人は死んでから2~3時間で顎関節が硬直し始め、上半身から次第に固まっていく。そして、12~15時間後に最大になり、そのあとは硬直していたのが緩くなっていく。シドの胴体を使えば、まず間違いなく膝の関節が曲がって、あなたの言う通り転倒してしまうでしょうね。でも、半日前に殺害した服部の胴体なら、あたし達がビーチバレーをしていたまさにあの時間、死後硬直がピークに達する。森さんが提案していなければ、あなたが言い出していたんじゃないかしら?あのとき森さんが告げた内容とほとんど同じことを。服部が殺害されている現場を見れば、誰だって脅えるわ。特にシドはそれが顕著に現れていた。二年前のあの事故のことを思い出した齊藤さんや園部さんも自分の部屋から出られなかったでしょうね。あたしたちがビーチバレーをしている場所からは館の様子は全く見えない。服部の硬直しきった胴体を利用して窓の外へと逃げ出したあなたは、シドの胴体をビーチとは反対側から海へと投げ捨て、自室に戻って血の付いた下着を切り刻んで証拠を隠滅した。土台として使った服部の胴体は硬直のピークを過ぎ、次第に筋肉が弛緩していく。昼食が二時頃なら時間も十分あったはず。膝関節が曲がって椅子に腰かけ、その勢いで上半身が背もたれに寄りかかる構図が出来上がった。その間もあなたは次の殺人を実行に移すための準備をしていた。みんなの会話を聞いていれば、あなたにも気づけたはず。でも、他の人と同様イニシャルがS・Hになってしまうハルヒさんをあなたは殺害対象の一人としてしか見ていなかった。『パーカーの中に何か入っている』と偽ってハルヒさんにメッセージカードを手渡し、あの洞窟にハルヒさんを呼びよせ殺害する計画だった。でも、ハルヒさんが居ないことに気付いたあたし達が叫んでいるのを聞いて、諦めざるを得なくなった。当然、凶器を持っていれば犯人として疑われる。だから洞窟に脇差を置いていったんでしょう?」

 

「じゃあ、齊藤さんと葉月ちゃんは……」
「ずぶ濡れの状態で部屋に戻ろうとしたとき、おそらくあなたは園部さんに耳打ちしたはずよ。『さっき言っていたのは嘘で爆弾はクルーザーから撤去したわ。園部さんの部屋だと桜○君に聞こえてしまうから空き部屋でここを抜け出す作戦を立てない?光さんにはわたしから連絡をしておくから三人で孤島から逃げだしましょ?』とね。そして、濡れた下着のまま空き部屋で待っていたあなたは園部さんを殺害し、齊藤さんの部屋をノックして扉の下からメッセージカードを投げ入れた。『爆弾は解体しました。犯人に気付かれないうちにクルーザーで脱出しませんか?朝比奈みくる』あたしの名前が入っていれば、齊藤さんは鍵を開ける。そう確信して鍵を開けた齊藤さんの口を封じて殺害した。既に園部さんの返り血を浴びているあなたにもうシーツは必要ない。血を拭き取るだけのタオルさえあれば十分。あとは胴体すり替えのトリックがバレないように二人の首をはね、残忍冷酷な犯人を演出するために園部さんの首を彼女の長髪を利用して天井から吊り下げた。残りの事後処理は、服部、シド殺害のときと同じようにするだけ。どう?どこか間違えているかしら?」
「確かにそれならわたしにも可能かもしれないわね。でも、他の誰かでもそれはできたはずよ?さっきから証拠を隠滅したって繰り返しているけど、じゃあ、わたしが四人を殺害したって証拠がどこに残っているっていうのよ!!」
「あたしがレンズ越しにあなたを見ると輪郭が小さくなって見える。これは、あなたの眼鏡は印象を変えるためのものではなく、視力を補うためにかけているものだということ。この計画を実行に移すならコンタクトにするべきだった。返り血を浴びても下着なら細かく切り刻むことができる。でも、眼鏡に付着した血までは隠滅することは不可能よ。加えて、あなたが履いている靴にも服部の血が残っている可能性が高い。密室殺人のトリックを解くために、あたし達も屋上に行くときにあなたと同じようなことをしたわ。一樹君の肩を借りて屋上へと登った。でも、一樹君の肩にあたし達の靴のあとが残ってしまった。あなたが密室から脱出するときも同じよ。服に足跡が残ってしまえば、このトリックが簡単に解かれてしまう。そう考えたあなたは、靴を脱ぎ、パイプ椅子に乗って服部の死体を土台にした。ほとんど血は固まっていたでしょうけど、本当に血がつかなかったと言いきれるかしら?外に出た後すぐに靴下は脱いだかもしれない。でも、あなたの足に付着してなかったと言いきれる?そして、最大の証拠はあなたの全身についた返り血。身体についた血は、一度や二度洗い流したくらいじゃ落ちないのよ。服部とシドの血の跡は出てこないかもしれないけれど、齊藤さんと園部さんの血の跡なら間違いなく残っている。さっきも話したけれど、あたし達四人はここで殺人事件が起きると呼び出された。警察や鑑識が来られないだろうと踏んで、少量だけどルミノール反応を調べる液体を持ってきているの。あなたの眼鏡や靴、身体に血の跡が残っていないかこれで確かめることができるわ!」
「朝比奈さん、いつそれに気が付いたんだ?」
「一樹君が園部さんの遺体を見てドアを殴りつけたとき閃いたのよ。一樹君は血がにじみ出すのを分かっていながら扉を殴りつけた。それと一緒で、返り血を浴びることを分かっていながらわざと返り血を浴びたんじゃないかってね。返り血を浴びない様にそれを防ぐ手立てだけを考えていたから証拠を見つけるのに時間がかかってしまった。あたしがもう少し、それに気が付くのが早ければ、二人は殺されずに済んだかもしれない。本当にごめんなさい」
『もしものことを考えたところでもう手遅れだ。死んだ人間は生き返らない』

 

「カット。四人がいなくなるタイミングも問題ない。朝比奈みくるがトリックを説明している際の殺害シーンの撮影に移る」
「被害者四人役は俺がやる。その間に、みくると青ハルヒは本社に戻ってシャンプーとマッサージでどうだ?青ハルヒはまだ最後のシーンが残っているからな」
「そういえば……あたしも影分身すれば良かったわね。お風呂に入っている設定だから軽くシャワーは浴びたんだけど、昨日はやってもらえなかったし、お願いするわ!」
「わたしも是非お願いします!」
『俺の出番はここまでのようだ。キョンの頭の中に戻る』
同じ理由で朝倉、青朝倉、森さん、青新川さんがそれに該当するが……どうするつもりだ?
「一色役をやった身としてはこの後の撮影も見ていたいんだけど、食材の注文もしなくちゃいけないし……」
「心配いらないわよ涼子。こっちのキョンに連絡して有希に向かわせればいいわ!雑用係はこういうときにこそ使わなくちゃ!」
「青俺なら影分身を一体増やすくらい簡単にやってのけるはずだ。青ハルヒの案に乗っていいんじゃないか?」
「じゃあ、有希さんには悪いんだけど……そうさせてもらおうかしら?」
同様の理由で朝倉、森さんや青新川さんも残り、みくると青ハルヒは本社100階でシャンプー&マッサージ。俺と有希だけのシーンがスタート。
「有希、影分身だから本物のナイフや刀で構わん。だが、残忍冷酷な犯人の表情を見せろよ?」
「分かった。セリフを加えるかどうかはあとで考える。これはあなたが作った脚本。あなたに任せる」
「なら、アドリブでやってみよう。殺害するシーンさえ撮れれば音声は無くてもいい」

 

ブラインドフィールドで夜を演出し、和室で脅えている服部の元へと一色がやって来てドアを叩く。
「誰だ!?」
「一色です。ここに着いたときに聞いた逸話をもっと詳しく聞かせていただきたいのですが、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
例のメンバー以外の人間だと安心して服部が一色を招き入れた直後、シーツ越しに腹部をナイフで何度も刺され意識を失って倒れた。あとはみくるのセリフ通り、下着姿で首を切断し、拳を固定すると、同体を壁にもたれかけさせる。首を斬るときの表情もここまでの演技ができるのなら問題ない。朝倉に代わってもらおうかと思っていたがその必要もなかったな。他のメンバーの様子を見るシーンを撮影出来れば後は胴体を運ぶだけだ。足を引きずっても良かったが、通路に血痕が残る可能性を考えて、胴体を担いで拷問部屋まで運んでいった。日本刀と脇差を取りにもう一往復して自室へと戻る。トイレに入って下着を脱ぐシーン一色の背中がカメラに映った。そして、持っていたハサミで下着を切り刻んでいく……って、おい!
『カット!有希、血の付いた部分をはさみで切るな!証拠が増えるだろうが!情報結合し直してもう一回だ!』
『分かった』
「くっくっ、キミに指摘されるまで、全くそのことに気が付かなかったよ。ただでさえ僕たちの仕事を奪い取っているんだ。サードシーズンはキミに任せる。いくら二話で一つの事件といっても秋と冬の2クールなんて考えきれないよ。僕たちは研究に没頭させてくれたまえ」
「推理小説や漫画を片っ端からサイコメトリーしてまわったんじゃなかったのか?俺はこの二つで精一杯だ。セカンドシーズンのラストとして考えていたものがあるんだろう?それを無駄にするのは惜しい。秋の最後辺りにいれたらどうだ?」

 

やれやれ、しばらく待っても青佐々木からの返答は無し。相変わらず隠すところはしっかり隠しやがる。その間に服部殺害のシーンはOK。ブラインドフィールドはそのままに先に齊藤、園部の殺害シーンから。有希も下着姿の影分身を海に沈めて空き部屋で待機させていた。扉を叩いた園部を一色が招き入れる。
「一色さん、まだそんな格好で……お風呂には入っていないんですか?」
「この暴風雨の中でクルーザーを動かすことになりそうだし、どうせ濡れるならと思っていただけよ。寒いってわけでもないし、女だけなんだから、下着姿でも別に問題ないでしょ?」
「そうですね、それで、作戦って言うのは……?」
「しっ!誰かに聞かれるといけないわ。もっと近くで話しましょ」
どう編集されるか分からんシーンだ。このくらいのやり取りが丁度いい。近づいて来たところをナイフで殺害、ベッドに寝かせて長髪を切らない様に注意して首を切断した。天井の照明にポニーテールを紐代わりに結んで、第四の殺人が完成した。その後、齊藤の部屋をノックしたあと、『爆弾は解体しました。犯人に気付かれないうちにクルーザーで脱出しませんか?朝比奈みくる』と書かれたメッセージカードを投げ入れ、鍵を開けて出てきた齊藤の口を枕カバーで塞いで腹部を何度も刺して殺害。エントランスホールにあった斧を担いで齊藤の首を刎ねた。自室に戻ってトイレで下着を切り刻んだ。そしてラストはシド殺害後の密室トリック。ブラインドフィールドを解除して一色がシドの部屋を訪れる。

 

「だっ、誰だ!?」
「一色です。シドさん、わたしと一緒に逃げませんか?わたしももうこんなところに居たくないんです!クルーザーに仕掛けられている爆弾もわたしなら解体できます!」
「信用できるかっ!ジャーナリストの卵がどうやって解体できるっていうんだ!?」
「ジャーナリストの卵だからこそ学んだ知識です。今後も危険な国や地域を訪れることだって当然あるんです!行って爆弾を見てみないことにはまだ分かりませんけど、クルーザーの場所に着くまでの間だけでもシドさんに護衛をお願いしたいんです。もし、怖くて部屋から出られないのなら、一緒に逃げませんか?凶器はあっても、拳銃はどこにもありませんでした。狙撃される可能性はほぼないかと」
「本当に生きて帰れるんだろうな?」
「いつ殺されるか分からない状態で脅えていなきゃならないよりは、アクションを起こすべきです」
カチャリとドアのロックが解除される音が鳴り、一式の口角が上がる。シドが扉を開いたその瞬間、すかさず室内に侵入した一色にシドが驚き、気付いた頃には腹部にナイフが突き刺さっていた。仰向けに倒れたシドの首を刎ねてから服を脱がせて、服部の服と交換するとシドの首だけ拷問部屋に入れて中から鍵をかけ、服部の胴体の硬直具合を確認して鍵を握らせると、靴を脱いで服部の胴体を脚立代わりにして見事に密室トリックを成功させた。窓付近の指紋を拭き取って血の付いた靴下を脱いで靴を履き、外からシドの胴体を担いで館の外へ出ていった。海へと死体を放り投げた後、自室に戻って靴下と下着を処分した。これで犯行が行われたシーンは撮影が終了。
「あとは、ラストシーンだけね!キョン、青あたしは?」
「とっくにラスベガスで待ってるよ」
「じゃあ、あたし達も早く行きましょ!」
『問題ない!』

 

時刻はまだ四時を回ったばかり。ラスベガスはまだ眠ったままだ。美容院とその周辺の建物を拡大して準備完了。古泉に化けた俺と青ハルヒのラストシーンで終幕だ。閉店後の美容院で俺が青ハルヒにシャンプーをしていた。
「ホンット、自分から挑戦状を叩きつけておいて、最後は逃げていくなんて信じらんないわよ!」
「いや、最初から館を全焼させるつもりだったんだろう。爆弾もちゃんと用意していたようだし、ジョンでなければアイツに勝てなかった。それに、朝比奈さんがバックなんとか現象だとか言って止めに入らなければ、俺とジョンは木端微塵になっていたはずだ。ドアノブにロープや何かをひっかけて扉を開けるなんて真似もできなかっただろうな。俺たちが無事に脱出できて、こうやって帰ってこられたのもジョンや朝比奈さんのおかげってことだ」
「バックドラフト現象よ。そのくらい覚えておきなさいよ!結局、あいつらとの決着はつけられなかったんだから!またあの手で来るかもしれないのよ!?」
「そうだな。次こそ決着をつけよう。そのときはまた手伝ってくれるか?」
「あんた、あたしがピンチになったら助けに来てくれるんでしょうね!?」
「勿論だ」
「それならいいわよ!」
目隠しをしたままでいる青ハルヒに俺がキスをした。
「カ――――――――ット!!これでセカンドシーズンの全撮影が終了ね!有希、編集頼んだわよ!?」
「問題ない」
「じゃあ、本社に帰るぞ。古泉が祝賀会の準備を終えて待ちくたびれている頃だ」
「もうパーティの準備が整ったにょろ!?」
「『おかえりなさい。撮影の方はどうでしたか?電話対応は続けていますが、祝賀会の準備を終えて待ちくたびれていたくらいです』なんていいかねん」
「くっくっ、なら早く戻って確かめようじゃないか。キミの予想は外れる方が少ないからね」

 

「おかえりなさい。撮影の方はどうでしたか?電話対応は続けていますが、祝賀会の準備を終えて待ちくたびれていたくらいです」
『ブッッ!あっはははははは……キョン君の予想と一語一句違わずなんて思ってなかったにょろよ!』
「なるほど。戻ってすぐ、このフロアにいるであろう僕が最初に何を話すか予想して、見事に的中されてしまったようですね。明後日のディナーの支度を始めてしまおうかと考えていたくらいです」
「折角時間に余裕ができたんだ。色々と聞きたかったこともあったし、談笑していてもいいだろう。鶴屋さん達に女子高潜入捜査事件を見てどうだったか知りたかったんだ。それにハルヒ、トロフィーと書き初めをどこに飾るか考えてもらえないか?」
「シャミセンの仏壇と離れたところで良いわよ。トロフィーもあんたが決めればいいわ!」
「なら、今取りつけてしまおう」
「それにしても、女子高に潜入する事件は黄あたしじゃなくて、本当にみくるが演じたにょろ?」
「あたしも吃驚したにょろよ!青あたしが出演しているようにしか見えなかったっさ!」
「そういえば、OG達が青わたしに『もう役作りに入っているんですか?』なんて言っていました」
「そのときの映像をモニターで出そう。佐々木のネーミングセンスと一緒にな」
俺は記憶に残っているから見る必要はない。俺の後ろにモニターが現れた。

 

『それもそうね。じゃあ、学園長に圭一さん、クラスの学級委員に青涼子、鶴ちゃん役は……授業のときはみくるちゃん、部活のときは青みくるちゃんでどう?』
『問題ない』
『佐々木、おまえ、自分の子供の名前を俺の偽名として使うってのはどういうつもりだ?』
『くっくっ、最初はできるだけ本名を名乗っているように見せたかっただけさ。最終回が「鈴木四郎」だからね。他に思いつかなかったんだ。それともキミは、誰かに名前を聞かれて咄嗟に「江戸川キョナン」と名乗り出るつもりかい?』
『ブッ!』
『あっははははははは……ネーミングセンスが逆にあり過ぎるにょろよ!!毎日のように災難が降ってきそうな名前になるとはあたしも思ってなかったっさ!あははははははは……』
『青みくる先輩もう役作りに入っているんですか!?鶴屋先輩そっくりです!』
『これなら問題はなさそうです。しかし、担任兼野球部顧問役は僕が適任というのはいささか納得がいきません。学園内のシーンでは僕が出ることはありませんが、なんとかなりませんか?』

 

『これは驚いたにょろよ。役作りなんてレベルじゃないにょろ!あたしがみくるの催眠をかけているみたいっさ!』
「それはこちらのセリフですよ。この映像を見てお二人が笑わないなんて考えられません。黄佐々木さんのネーミングセンスとそれを受けた朝比奈さんのセリフで報復絶倒だと思っていました。おっと、こっちの鶴屋さんにもう一つお見せしたいものがあるんですが、ご覧になりますか?黄鶴屋さんはニュースで既に見ているでしょうから」
「何の話にょろ?」
「日本での披露試写会後のパフォーマンスを受けて、新聞社の見出しで彼にもう一つ異名が付いたんです」
青古泉が例の新聞を情報結合して見せていた。『超サ○ヤ人キョン悟空!!』と書かれたものを見ても、青鶴屋さんの反応はいまひとつ。披露試写会でのパフォーマンスを見せてからでないと無理だろう。
「黄キョン君とジョンがどんなパフォーマンスをしたのか見せて欲しいにょろよ!どうしてこんな見出しがついたのか写真だけじゃ良く分からないっさ!」
「それなら、パーティまでの時間潰しにみんなで見よう。披露試写会のときのものでいいな?」
『問題ない』
鶴屋さん達がモニターに注目している間にジョンとちょっとした相談をしていた。ジョン、いつ見せることになるかは俺にも分からんが、ゴールデンフ○ーザとのアクションバトルやってみないか?次は俺がフ○ーザ役でも構わない。どうする?
『そうだな。そっちの方もやってみたいが、俺はフ○―ザ役の方がいい』
中尾さんとのパフォーマンスで愛着でも持ったのか?それとも、やるなら悪役の方が良いってタイプだったか?
『どちらとも当てはまりそうだが、まぁ、今はそういう気分ってことにしておいてくれ』
それなら、パフォーマンスを見せるときにまた相談をすることにしよう。気が変わったなんてことも十分あり得る。
『そう言ってもらえると、俺も助かるよ』

 

 ショートカットVer.だが、映像が終わる頃にはほとんどのメンバーが揃っていた。あとは、OGや子供たちバレー組くらい。しかし、さっきの青古泉のセリフにも納得がいく。佐々木のネーミングセンスと青みくるの演技やセリフを聞いても抱腹絶倒どころか、唖然としていたからな。
「ようやく納得できたにょろよ。このパフォーマンスを受けて、この一面と見出しになったわけっさね」
「嘘だろ!?ジョンも、他のメンバーもこれを見た瞬間に大笑いしていたのに、青鶴屋さんが笑いもしないなんて」
「多分、黄あたしも同じだと思うっさが、周りから絶対に笑わない様にと口酸っぱく言われてきたにょろ。この口癖も駄目出しされて年末年始はストレスが溜まりっぱなしだったっさ!鶴屋家当主の座なんていらないにょろよ!」
おいおい、鶴屋さん達がそんなことを言っていたら、アホの谷口レベルの奴が山ほど集まって来てしまうぞ。リフトの監視をさせているブラックリスト連中と何ら変わりがない。
「では、ここで思う存分盛り上がっていただくことにしましょう。ジョンもそろそろ出てきてください」
『出てきたついでに今朝の英字新聞だ。こっちでも明日は似たような記事になるだろう』
情報結合された英字新聞の一面には俺やジョン監督に脚本化の四人で撮影した写真が載せられていた。見出しには「『Nothing Impossible』が五部門で受賞」と書かれていた。ノミネーションされなかったからとはいえ、ヒロインも入れた五人で撮りたかったな。ニュースを見て憂鬱な気分になって無ければいいんだが……ただでさえこの後はストレスを溜めることになるんだからな。

 

 そんなことを考えているうちに、全員のグラスが酒で満たされ、準備万端の状態で乾杯の音頭を待っていた。
「ほら、早く!あんたが音頭取らないで誰がやるのよ!?」
「なんだ、てっきりハルヒがやるものだとばかり思っていたぞ」
「今回はキミ以外考えられない。早く始めてくれたまえ」
「じゃあ、記事には載ってなかったから口頭で伝えておく。映画の監督がコメントでこう話していた。『監督賞や脚本賞、そしてこの作品賞は、僕が受け取れるようなものではありません。僕も脚本家もキョンの提案に振り回されてばかりでした。ですが、彼の提案や彼らのアクションバトルをなくして、この場に立つようなことはありえなかったでしょう。この場にいるジョンを始め、彼の仲間達に数多くのサポートをしてもらって受け取れた賞だと思っています。本当にありがとうございました』だそうだ。撮影も告知も今この場にいる全員のサポートで終えることができました!ゴールデングローブ賞五部門受賞を祝して……乾杯!」
『かんぱ~い!』
いつもなら『ドリンクはセルフで』が俺たちのパーティの基本だが、今回は例の実験も兼ねて古泉の影分身が担当していた。注文も人差し指で触れるだけで間違えることなく伝わり、その人のところに届くなどという離れ業をやってのけていた。まぁ、料金のことも含めて通常の居酒屋ではありえない光景だが、パッと見たところ誰も気にしていないらしい。
「ところで、今年の年越しパーティは全員で出ないか?」
『年越しパーティに全員で出る!?』
「くっくっ、結論を先に言うのは構わないけれど、あまりに突拍子もないことをさらりと口に出さないでくれたまえ。どういう経緯を辿ったらそうなるのか説明してくれないかい?」

 

 自分たちでタイタニック号を修理して、イギリスから「タイタニック号を返せ」なんて電話もあったくらいなのに今年の年越しパーティがどうなるかくらい、容易に想像がつきそうなもんだが……まぁいいか。
「今年の年越しパーティは、ハリウッドスター達が会場に集まったところでどこ○もドアでタイタニック号に移動する。その後どうなるか考えてもみろ。すぐに料理にありつこうとする人たちもいるだろうが、船首で例のアレをやりたいなんて人もいるはずだ。今年の年越しパーティは、ハリウッドスター達のその場の気まぐれでどういう行動に出るか分からないってことだ。カメラ一台じゃ、精々船首の様子を映す程度で終わってしまう。その日の天候も気にしてないと、強風のせいで料理が吹き飛ばされたなんてことになりかねん!タイタニック号の内部をどうするかはこれから考えるとしても、ハリウッドスター達が一か所に固まっているなんてことは、まずあり得ない。そこで、船の随所に散らばって船の案内役になってもらいたい。要するに、俺たちが乗組員でハリウッドスター達が乗客ってことだ。古泉や青ハルヒはハリウッドスター達の目の前で料理を作ってもいいだろうし、バーや遊戯室でゆっくりしたいなんて人たちもいるだろう。バーテンダーやバニーガールが必要だったりもするんだ。福袋の方はすべて影分身で対応すればいい。古泉や青俺だけでなく、影分身の修行を始めたメンバーもいるようだしな。客室は好きなところを選べるような形式にしようと思ってる。今日撮影を終えた例の館と同じだ。部屋が決まったらスタッフに声をかけてくれと指示を出すから鍵を出して欲しい。どうだ?」
「そうですね。キョン君の言う通り、タイタニック号に移動したあとどうなるかまでは、わたしも考えていませんでした。皆さんバラバラに船内の見学にまわりそうです!」
「カメラはすべてわたしが担当する。でも、今年の年越しパーティを生放送するのは不可能。どこで何をするかわたしも想像がつかない。こちらで編集したものを、毎年撮影を行っているTV局に送った方が良い」
「ん~どちらかっていうと、あたしは作っているより話していたいかな」
「ハルヒは去年一昨年と行ったんだから、今年は黄ハルヒだろ?」
「本物のタイタニック号に乗ってハリウッドスター達と話すなんて言われたら絶対に譲れないわ!」
「キョン君、わらしも今年の年越しパーティに出るれすかぁ?」

 

 みくるは既にダウン寸前。古泉の方は……影分身まで風前の灯火状態。
「困りましたね。どうやら、本体がダウンしてしまうと影分身の意識も無くなってしまいそうです。告知の間ほとんど寝られなかったというのが良く分かりましたよ。これ以上の接客は難しそうですね」
「今返答をして明日覚えているのかどうかは分からんが、みくるにはまたお茶を煎れてもらいたい。寿司と一緒にみくるのお茶を堪能して和んでいたからな。椅子を情報結合しようか迷っていたほどだ」
「れも、ハリウッドスターの皆さんと直に会話するなんれ、考えられましぇんよ~」
酔っ払っていても駄目なものは駄目か。影分身に二人分の料理の準備をさせておこう。俺は夜食になるが、ヒロインは昼食だ。少しでも英気を養ってもらってからの方が良い。だが、これでタイタニック号の乗務員という形で全員が参加することが可能だ。あとはヒロインにイギリスから「タイタニック号を返せ」と連絡が来たことを告げ口しておけばいい。主催者からテレパシーが届くかと思ったが、どうやらまだらしいな。こちらからアメリカのTV局に交渉してみよう。次第にダウンしていく者、眠気に負けてその場で寝てしまったもの、料理に満足して自室に戻った者と様々だったが、ジョンを含めて佐々木たちと時間まで思う存分話すことができた。ヒロインに連絡を取ると案の定新聞の一面が不満らしい。俺も五人で撮影したかったと伝えてランチはこっちで用意したと告げると、一気に表情が明るくなった。
「年越しパーティでのパフォーマンスを受けて、俺の会社にイギリスから電話が来たんだ」
「イギリス?どうしてイギリスから電話がかかって来るのよ?」
「『タイタニック号を返せ』だとさ」
「ふざけんじゃないわよ!キョンがサルベージしなきゃ、ずっとそのままだったはずよ!!他人にサルベージさせておいて今さら返せなんて言語道断だわ!」
「ああ、電話を受けたのが丁度俺だったんでな、『元の場所に戻してくるから自分たちでサルベージして修理しろ。だが、その場合、ハリウッドスター達との約束が果たせなくなってしまう。ハリウッドスター全員を敵にまわしたいのならいくらでも返してやる』と返答をしたら、すぐに謝って切りやがった。もうかけてこないだろうがそういうことをやって来たっていうのを知らせておきたくてな。告げ口してまわってくれ。ついでに今年の年越しパーティはタイタニック号の上でやるから、みんなも船内を見てまわりたいだろうし、俺の仲間が船内の乗務員として各所に散らばるつもりだ。今度の年越しパーティは生放送じゃ不可能だろうな。どこで何が始まるのか俺にも分からん。カメラ一台ですべて撮影できるとは到底思えないし、カメラが何台もあるとハリウッドスター達が嫌がるだろう。映画のバトルシーン同様、有希に撮影を任せて編集したものをTV局に送るつもりでいる」
「言われてみれば……そうね。みんな本物のタイタニック号を見てまわりたいと思うはずよ!イギリスからそんな電話がかかってきていたってみんなに言いふらしてやるわ!彼にも伝えておかなくっちゃいけないわね」
「そうなるな。さてと、報道陣を黙らせてくるか。関係のない質問が出てきた時点で帰ることにしよう」
「やっぱり、あなたがいると頼もしくて安心していられるわ。行きましょ!」

 

「まずは記者会見の会場前の上空にテレポートする。様子を見て降りたつことになるだろう。フラッシュをたかれてもサングラスをかけているのと同じ細工を施しておいたから、眩しいということはないはずだ」
「変な顔を写真に収められなくて済みそうね」
記者会見の会場入り口には大勢の取材陣達が待ち構えていた。アメリカ、日本だけじゃなさそうだ。ちゃんと英語が理解できる奴が来ているんだろうな?少々不安がよぎったがまぁいい。そのときは相応の対応をするまで。これまでと同様、報道陣を押しのける閉鎖空間で会場入りし、案内役のスタッフに従って会場へと移動した。会場の入口で待機するよう伝えられた直後、会場にいた司会らしき男性が口火を切った。
「皆様、お待たせ致しました。お二人の御到着です。どうぞお入りください」
司会に従い、一礼をした後、長机の後ろに置かれていた椅子に座る。
「時間が限られておりますので、質問はできるだけ簡潔に少数でお願いします」と一言。
目の前には20本近くのマイクとボイスレコーダー。サングラス機能を付けていなければ目を開けていられない程のフラッシュが焚かれる中、一人の男性記者が立ち上がって質問を投げかけてきた。
「お二人が告知に出向いている間に起こった数々の事件について、まずはイタリアで起こったことについてあの映像以外で一体何があったのか聞かせていただけませんか?」
「イタリアの空港を出てすぐ、狙撃手数名による狙撃がありました。そして、リムジンに乗り込んだところで異変に気が付き、運転手がこちらで手配した運転手ではないことが発覚しました。運転手をリムジンから引きずり降ろしたあと、俺が狙撃手の相手をしている間に、運転手に化けた奴の仲間がリムジンを取り囲み拳銃を彼女に向けていました。その後は映像に映っていた通りです。その後はイタリアでの告知はすべて俺が運転していました」
「運転手が偽物だとどうやって気が付いたんですか?」
「これについては俺のパフォーマンスの一部となりますので、タネを明かすことはできません」
「では、お二人への狙撃やリムジンの中にいた彼女への発砲はどうやって防いだんですか?」
「実際にお見せした方が早そうですね。彼女やリムジン、そして年越しパーティに参加したハリウッドスター達とそのSP全員にこれと同じものをつけてあります」

 
 

…To be continued