500年後からの来訪者After Future8-6(163-39)

Last-modified: 2016-12-27 (火) 14:20:01

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-6163-39氏

作品

セカンドシーズン最終回の収録を終え、ゴールデングローブ賞の祝賀会をしたまでは良かったんだが、その後の記者会見で俺の気分を一気に盛り下げられそうだ。鶴屋さん達がそこまで笑わなくなったことや青鶴屋さんが「鶴屋家当主の座なんていらない」という発言に驚いていたが、そんなことが周りに広まればアホの谷口やブラックリスト入りした若手政治家たちのようなバカ共が押し寄せるに決まっている。家の方がそこまで忙しくなければ泊まることも含めてこっちにいてもらうことにしよう。

 

ヒロインに取り付けた閉鎖空間に色をつけて見せると、報道陣が騒然としている。
「その立体が何か……?」
「この立体こそ、ナイフや銃弾をはじき返す役目を果たしています。まずはナイフで刺そうとするとどうなるかやってみましょう」
この説明も一体何度目になるのやら。おそらく、手の指だけでは足りなくなっているに違いない。情報結合したナイフでヒロインを突き刺そうとしたが、閉鎖空間に遮られナイフは折れてしまった。ただ防がれるだけでなく、折れてしまったことに報道陣たちがどよめいている。パーティでのパフォーマンスならいざ知らず、俺たちはさっさと記者会見を終わりにしたいんだ。こいつらが騒いでいるのをわざわざ待っている必要はない。
「次はこれに向かってマシンガンを乱射する。さっきも言った通り、この立体は銃弾をはじき返す。どこに跳ね返るかは分からんが、俺にも同じものがついている。『俺は』銃弾で負傷することはない。どういう意味か分かるな?」
しばしの間をおいて、一人が俺たちから距離を取ろうとすると、周りがようやく察知して似たような行動を取った。
「そう、あんたらには銃弾が当たり、最悪の場合死ぬってことだ。この中の誰が負傷しようと俺の知ったことではないが、死人が出ると面倒だ。あんたらに銃弾が届かないよう、今回はガードしておいてやる。彼女に放った銃弾がどうなるか、その眼でよく見ていろ」
黄色に色づけた防弾膜を張って銃を乱射。司会の人間も防弾膜の外側へと避難していた。弾丸が無くなるまでトリガーを引き続け、会場の壁や机、マイクやマイクレコーダーに跳ね返った弾丸があたって破損。黄色い膜を張った床にはいくつも銃弾が転がっていた。撃ち尽くしたところでマシンガンの情報結合を解除。これで銃刀法違反とか抜かしやがったら、どんな罰にしてやろうか考えておこう。

 

 防弾膜を解除して会場を覆っていた閉鎖空間を解除。破損した箇所がすべて元通りになった。
「これが、今の質問に対する答えだ」
「ですが、これは一体どういう仕掛けが施されているんですか?」
「さっきも言った通りだ。これもすべてパフォーマンスのタネの一つ。公開するわけにはいかない」
そこへ日本人らしき男が立ち上がり、俺たちに質問を投げかける。
「空港前での銃撃戦も含めて、リムジンの運転手三人が犠牲になりました。それについでどう思われているんでしょうか?」
「そこの場違いなバカを摘み出せ!俺たちには通じても、周りの連中には何のことかさっぱり分からん。ここがどういう場所かも分からないような奴に、この場にいる資格はない!」
『日本語で』質問してきた記者に対して、周りから罵声が浴びせられる。もっとも、日本語で質問をしてきたバカに罵声の内容が理解できているとは到底思えないがな。それでも居座ろうとする記者に対して俺たちが動いた。
「これ以上無駄な時間を割くわけにはいかん。俺たちはあんたらがどうしてもというから来てやっただけにすぎない。他に質問することが無いのならこれで記者会見は終わりだ。帰ろう」
「ええ、そのようね」
席を立って会場から出ようとした俺たちの前に立ちはだかり、会場の扉を開けさせまいと身体で扉を守っていた。
「お待ちください!あの男はすぐに摘み出します!!どうかお戻りください!お願いします!!」
「なら、これが最後だ。次はない。仕方ない、戻ろう」
「はぁ……はやく終わってくれないかしら?」
SPも一緒に連れてくれば良かったかもしれん。今のバカを簡単に摘みだすことができたんだが……まぁいい。見せしめの警告はできた。二度目はない。周りの報道陣に押し倒され、蹴り飛ばされてようやく逃げるように会場から去っていった。報道陣が席について記者会見が再開。

 

「ちなみに、今の男はどういった質問をしてきたのでしょうか?」
「質問自体は事件に関する内容で間違いなかった。この後も出てくるはずだ」
「香港や台湾、中国も含めて、お二人が襲われた理由というのは一体何だったんでしょうか?」
「そんなもの、俺たちが知っているとでも思っているのか?あの連中も今頃監獄の中に入れられている頃だ。そんなことが知りたければ、現地へ飛んで直接警察に聞け!」
「イタリアでは空港に飛び立つ前の銃撃戦も踏まえて、リムジンの運転手三人が犠牲となりました。それについてどのように思われているのでしょうか?」
その直後、会場全体が俺の殺気で満たされた。咄嗟に俺から距離を取り報道陣全体が後ろに下がって脅えている。
「匂いと同様、俺の殺気はカメラには収まらない。だが、これが今の質問に対する答えだ。銃を持ってちょっと強気になっただけのバカが運転手を殺害した。イタリアを飛び立つ直前に起こったあの事件は、リムジンを返すために予め空港で待機していた業者の人間になりすますところから始まった。俺が運転していたリムジンのキーを返したあと、背中を拳銃で撃たれたが、さっき見せた通り俺たちに拳銃は効かない。拳銃が効かない事が分かった時点でどうするつもりかと聞いてみたら、車の中に隠れていたり、客や報道陣になりすましたりしていた連中が本性を現して大勢現れた。さも、この計画は失敗に終わることを見越しているかのようにな。そんな杜撰な計画ためだけに、運転手二人が殺害された。許せるわけがないだろう?今すぐ全員木端微塵にしてやりたいところだが、俺が聞いたところによると監獄から逃げ出してまだ見つかっていないらしい。見つかり次第、どう処分するかは俺が決める!」
もっとも、空港前で深手を負わせた連中なら、俺が一人ずつ爆発させてもう粉々に消し飛んでいる。ヒロインも俺の隣で報道陣を睨んでいた。どう思っているかについては身にしみて分かっただろう。殺気を放つ必要はもうないこともないが、このままの方がコイツ等も早く終わらせてしまいたいと思っているはずだ。

 

「でっ、では、各国で巻き込まれた報道陣の死傷者に対してはどのようにお考えですか?」
「巻き込まれた!?ふざけるな!逃げようともせず、少しでもスクープが撮りたいがだけのために、その場に居座った奴等のことまで考えてやる必要など微塵たりとも無い!日本での報道陣たちのことを仲間から聞いて呆れ返ったよ。テログループからの警告があったにも関わらず、それすら無視して俺の会社の前に居座り、テロに巻き込まれること数回。これ以上は営業妨害にあたるとして警察に逮捕されるようになってからも、何か起きるたびに本社前に集まってきていた。とうとうテロによる死者が出たらしいが、どの新聞にも死者に対する弔いすら書いてもらえず、再三警告されたのに未だにそういう行動を起こしているからだと書かれていた。俺や彼女、年越しパーティに参加したハリウッドスター達やSPには、先ほど見せたものと同じ細工を施した。本社を訪れる客たちにも今後のテロの被害に遭わない様に自動的にこの立体がつくようになっている。おまえら報道陣を除いてな。ミサイルだろうと爆弾だろうとやれるものならやってみろ!俺たちは勿論、他のハリウッドスター達やSPには一切通用せず、SPどころか女性のパンチ一発で無残に吹き飛ぶことになるだろう。それについては彼女が証明して見せてくれた。後はそいつらの根城を叩き潰すまでだ」
「根城を潰すというのは一体どうやって……?」
「年越しパーティで見せたパフォーマンスの本当の意味が分かっていないらしいな。俺には根城どころか街一つ粉々にするくらい簡単にできるってことだ。……信じられないといった顔がほとんどのようだ。だったら身をもって体感させてやる。出ろ!オ○リスク!!」
情報結合で会場に現れたオ○リスクの巨神兵が、天井を破壊して更に巨大化していく。みるみるうちにパーティで見せたものと同じ大きさにまで拡大された。
「オ○リスクの……攻撃ってほどでもないな。目の前にいる連中を踏み潰せ」
片足を上げたオ○リスクにそこにいた報道陣全員が腰を抜かしている。
『ひいいいぃぃぃぃぃ!!分かった、分かりました!!これ以上はやめてください!お願いします!!』

 

 リバースカードをオープンしたときのようにオ○リスクの足が報道陣を潰す寸前で止まり、次第に情報結合が解除されていく。攻撃どころか足を踏み出すことすらさせてもらえず消えていったオ○リスクを確認して閉鎖空間を解除。破壊されたものすべてが元に戻った。無論、閉鎖空間内に入れたのはこの会場にいる人間のみ。この建物の他の階にいる人間や周りのビルで仕事をしている人間に聞いたところで、「何のことだかさっぱり分からない」としか返ってこないだろう。何事も無かったかのように元に戻った光景を見て、思ったことがそのまま言葉として口から出てきた。
「あっ、あの……今のは一体どうやって?他の建物にいる人間は大丈夫なんですか!?」
「告知で起こった事件に関する内容以外応える必要はない。だが、これだけは言っておいてやる。全世界に伝えておけ!『たった数匹の蟻が恐竜に勝てると思うな!!』」
最後だけアメリカ版フ○―ザの声であのセリフを言い放つと、「事件に関する内容の質問はもう無いようだ。帰ろう」とヒロインに提案した。またしても扉の前に立ちはだかったが、事の詳細は十二分に話した。有無を言わさずテレポートでヒロインの自宅へと戻ってきた。
「ホンット、あなたが一緒に記者会見に出てくれて助かったわ!私、ほとんど何も喋ってないわよ!?それに、アメリカ版フ○―ザの声を使うって言ってた意味もよく分かったわよ!あなたの場合は恐竜じゃなくて神ってことになりそうだけどね。ふふっ」
「とにかくこれで十分情報は与えた。これ以上は俺たちが出るほどのことでもない。もしマネージャーのところに『もう一度記者会見を開いて欲しい』電話が殺到するようなら、テレパシーで連絡をくれ。俺の影分身が対応にあたる。すまないが、日本じゃもう深夜零時を過ぎているんだ。今日はこれで帰るよ」
「そんなことを言われたら、記者会見の電話が殺到して欲しくなってきちゃったわね。マネージャーには私から連絡をしておくわ!ありがとう、キョン。おやすみなさい」
「ああ、またな」

 

 翌朝の一面記事は、まずは俺とジョンがゴールデングローブ賞で受賞したこと。今日明日についてはどの新聞社も同じ見出しになるだろう。また人事部が忙しくなるだろうが一つずつ潰していくだけだ。
「昨日は祝賀会だったから話せなかったんだが、岩手と宮城の県知事から連絡が届いた。『自分たちも現地で働くから引っ越しを頼みたい。できれば、金曜のチェックインが忙しくなる前に仕事にあたりたい』そうだ。どうするかね?」
「少しでも仕事に慣れていただくために今日出向いた方が良いでしょう。引っ越しの準備は済ませてあるのかどうか確認して僕が行ってきます。県知事たちならカードキーを渡しても問題はないはずです」
「すまん、古泉。それに二つ追加でやって欲しいことがある。まぁ、古泉でなくとも大丈夫なものもあるから、他のメンバーにも手伝ってもらいたいんだが、まず一つ目は人事異動をして欲しい。告知に行っていた俺がいきなり現れて今日から別の場所でと言うより、『これまでホテルやスキー場を運営してきて、こちらの方が良いと判断した』と古泉やハルヒから移動の旨を伝えた方が納得するだろう。もう一つは二月号の発売が日曜になるんだが、今週末から新作デザインのウェアをレンタル、あるいは購入できるようにしたい。三ヶ所とも時間のある今日のうちにやっておいた方が良いだろう。ウェアのドレスチェンジだけだから青OG達の修行にもなるはずだ。その分人事部の電話には俺が対応する。日本でも記者会見を開けなんて電話が殺到しそうなんでな」
「なるほど、では、まずは県知事達に連絡をとるところから始めることになりそうですね。ウェアの方はこの後すぐでなくとも良いでしょう。販売所が落ち着いたところで青OG達にやってもらうことにします。人事異動に関しても了解しました。ですが、それに関する情報を後ほどいただいても構いませんか?」
「分かった。それともう一件、明日のディナーの仕込みは任せても平気か?昨日は『ディナーの支度を始めてしまおうかと思っていた』と言っていたからな。メニューが決まっているのならそれで作ってもらってかまわない。そこまで手が回らなさそうであれば、何を出すつもりだったのか教えてくれ。おススメ料理の方はもう一ヶ月以上経っているし、今週末はスキー場OPEN当初と同じものを出すつもりだ。あとは四月の終わりまで、それをループしていけばいい。どうだ?」
「了解しました。では、ディナーは僕が担当しましょう。おススメ料理の方はお願いしますよ?」
「ああ、心配いらん」

 

「くっくっ、キミ達だけで話を進めないで僕たちも仲間に入れてくれたまえ。県知事たちをどこに配置するつもりなのか教えてくれたまえ」
「まずはフロントだ。県知事としての仕事もこなしながら、週末の怒涛のチェックイン、チェックアウトを捌いていってもらう。園生さん、森さん、青佐々木がそこでスキー場の運営から外れることになるが、園生さんはツインタワーでの面接、森さんと青佐々木は金曜日に新しくオープンする店舗の店員を務めてもらいたい。しばらくは青OG達と食事のときの交代要員ってことになる。人事異動をして、地元の人間が慣れてきたところで俺たちが抜けていく。その間も現地で働くスタッフを随時募集中だ。特にブラックリスト入りした連中が担当しているところは来年いなくなることも加味しないといかん。リフトの監視要員も必要なんだ。青佐々木の場合は金曜、土曜のライブやコンサートについても頭の中に入れておいてくれ」
「そういえば、カバー曲の練習をしてなかったわね。有希、楽譜用意できる?」
「問題ない。でも、まずは午前中の楽団の練習から。昼食時には渡せるようにしておく。それに、明日のディナーはあなたが完全復帰して初めてのものになる。仕込みは古泉一樹に任せてもいい。でも、何か特別なものがあった方が良い」
「俺は逆に何もしない方が良いと思っていたんだが……俺がいなくても滞りなくディナーやおススメ料理が出せるってな。豪華にするだけなら今までだっていくらでもできたわけだし、特別なものって何か案でもあるのか?」
「わたしが今思い当たるものは、リクエストディナー、食べ放題ディナー、あとは楽団の有志に演奏してもらうことくらい。でもこれは、あなたがいなくともできるもの」
「だが、楽団の有志に演奏してもらうのなら新川のディナーの方もより雰囲気が出るだろう。80階は難しいかもしれないが、79階ならまだスペースもある。やってみてはどうかね?」
「分かった。今日の練習で声をかける」
「有希先輩、それならどんなディナーが良かったか、私たちが他の選手やコーチ達に聞いてきます!」
「わざわざ聞きにいくまでもありませんよ。明日のディナーの最中にこちらのOG達が各部屋をまわってリクエスト用紙を置いて来ればいいだけです。集計したものを来週以降のディナーとして出せばいいでしょう」
「なら前回と同じ用紙を情報結合してテレポートして回ってくれ。今の六人ならそのくらい造作もないはずだ」
『あたしに任せなさい!』

 

子供たちが先にエレベーターに乗って小学校や保育園に送りに行ったあと、圭一さんから二件目の話題が挙がった。
「それともう一件、一大イベントのための番組収録が月曜の夕方からという連絡が入った。夜練もあることだし何とかならないかと聞いてみたら、火曜の夕方に芸人達を集めるから来て欲しいそうだ。大丈夫かね?」
「ええ、俺も担当者と直接話したいことがあったので丁度良かったですよ。俺の方からも連絡してみます」
「くっくっ、面白いじゃないか。キミが担当者と直接話し合いたいなんて珍しい。何を相談してくるつもりだい?」
「ただでさえ、ジョンと青古泉のデュエルを最初から最後まで見せるのに、残った時間で遊戯○芸人達の作ってきたデッキを紹介していたら時間が足らん。一大イベントの方にもちょっとした演出をと思っていたところだったんだ。芸人達が何人来るのかは俺も知らないが、トーナメント形式でそれぞれ違った場所でデュエルを行う。MCの二人には気になる対戦をモニターで見て、ワイプでコメントを挟んでもらえばいい」
「あなたの言う『ちょっとした演出』は我々にとっては『ちょっと』の枠で収まったためしがありません。一体どんな演出をするというんです?」
「簡単な話だ。ベスト4が天空スタジアムでデュエルをするのなら、8人になった段階で特別ルールを設けてデュエルしてもらうだけだ。勿論デュエルディスクを使って演出もする」
『特別ルール!?』
「面白いじゃない!どんなルールを付け加えるのか説明しなさいよ!」
「日本各地にテレポートして、その地形の効果を加える。今のところ候補として挙げているのが、霧ケ峰高原、富士山樹海、阿蘇山、八丈島の四か所。要は、八丈島だったら海のフィールド魔法が最初から付いていて、水属性モンスターの攻撃力・守備力が上がる。同様に、富士山樹海なら森、阿蘇山なら山、霧ケ峰高原なら草原のフィールド魔法効果が付く。当然対戦相手もどのフィールドになるかもその場所に行くまで分からない。その状態で決闘させようかと考えてる」

 

 ここまで説明して、俺の演出が理解できて面白そうだと思っているメンバーと、説明されてもよく分からないと言いたげなメンバーに分かれた。女性陣が多いから尚のことか。
「えっと……とりあえず八人に絞られた段階で、日本の各地にテレポートして決闘をするってことですか?」
「確かに我々でないとできない演出になりそうですが、どうやら今回は『ちょっと』の範囲内に収まったようですね。ですが、あなた一人で四つのデュエルを同時に演出して、カメラ操作までとなるといささか厳しいのではありませんか?僕にも手伝わせてください」
「問題ない。カメラ操作はわたしがする」
「とりあえず、できれば今日中にその打ち合わせに行ってくる。それから、異世界支部の88階だが、W鶴屋さんのフロアにするのはどうかと考えている。昨日のあの様子じゃ、家にいるよりこっちにいた方が鶴屋さんも居心地が良いだろうと思うんだがどうだ?モデルになってもらってもいいだろうし、ビラ配りやバレーの試合にも参加してもらえばいい。ただ、二人分の料理を用意する必要があるから、鶴屋さんの都合に応じて俺か青新川さんに必ず報告すること」
『問題ない』
『じゃあ、さっそく鶴屋さんに連絡をしてみますね!』
みくる達のセリフを皮切りに一斉に動き出した。俺はフロアに残って昼食の支度をしながら人事部で電話対応。片付けは雑用係の青有希に押し付けられていた。あまりにも話すことが多かったせいもあり、議題には挙げなかったがそろそろブラックリスト入りした連中のことを首相に話してもいい頃だ。スキー場の運営も滞りなく進む中、首相に話したい事があると言ってフロントを園生さんに任せた。これについては古泉に任せようと思っていたが、俺でもなんとか説明できるだろう。これまで我が社独自の合否判断システムで社員を募り、悪影響をもたらすであろう人間は切り捨てていたこと、現在スキー場で働いている若手政治家の中にも、首相の発言の揚げ足をとるかのような甘い考えで、スキー場で働きたいと立候補してきた連中がいること、最後にシーズンが終わっても何の役職にも就かせないという条件で敢えて受け入れたことを伝えた。シーズンが終わってすぐ人事を行おうとしてもいきなり動けるわけじゃないし、俺たちもバレーが始まってしまうしな。この時期に伝えておくのが適切だと言えるだろう。首相も残念そうな顔をしていたが、俺たちで出した案に合意してくれた。
「ブラックリスト入りした若手政治家については残念だが、誠心誠意を持って現場に来てくれた人間を大事にしたい」と返事が届き、どうやら納得してもらえたようだ。

 

 議題に挙がっていた番組収録の件で担当者と話すと、俺以外に芸能人七人を集めるらしい。俺を入れて丁度八人なら、さっき話していた件でイベントの方もどうかと提案すると、担当者の方もジョンと青古泉のデュエルを見る以上、時間の関係もあって収めきれないだろうと踏んでいたようだったが、「それなら全員のデュエルが見られますし、編集でいくらでも時簡短縮ができます!」と喜んでいた。地形のルールも実際に担当者を連れて四ヶ所をテレポートで連れてまわり納得の表情。ただ、地形のルールも見せる以上、昼の間に撮影しなければならないという話になり、担当者の方から他の芸人には再度時間変更の連絡をしておくとのこと。遊戯○芸人なら漫画の世界観をリアルに体感できる上に、こんな地形ルールまで用意されたと言えば簡単にOKしてくれるはずとのこと。来週火曜日の午前十時からに変更となった。その日は特にイベントもないし、有希と古泉に手伝ってもらおう。
 昼食時、各仕事の進捗状況を確認し合うところから会話がスタート。
「どっちの鶴屋さんも夕食からこっちに来たいそうです!鶴屋さんも青チーム全員の携帯のように81階に置かせて欲しいそうです。涼宮さんのように音が鳴るようにしても平気かどうかで困っていたんですけど……」
「いいんじゃないかい?すぐ繋がらないようならオフィスの方にかけてくれれば青圭一さんが応対してくれるはずさ。それにしても年末年始のイベントはもう終わっているというのに、涼宮さんの携帯は一向に鳴らないね」
「それは、食事時以外は皆さんがそれぞれの場所に散らばっているだけです!鶴屋さんにもそう伝えておきます。何を持っていくかで色々と悩んでいるみたいで……」
「どっちの鶴屋さんもフロアに入りきらないほどの大荷物で来そうな気がしてならない。服と携帯、あとは精々習字道具程度でいいんじゃないか?間取りは二人で決めて家具は俺たちが情報結合すればいい。いつでも家に帰れるんだし必要があればその時々で取りに帰ればいいだろう。異世界の方はスケジュール合わせもそうだが、『やるなら天空スタジアムで』なんて思っているかもしれん。それに、どっちの国民的アイドルも練習を重ねて当日に臨むつもりだろう。俺たちは今やるべきことに集中すればいい」

 

「次は僕の方からですね。ウェア販売所の方は既に青OG達が新作デザインのものに切り替えてくれました。県知事達の引っ越しについては今晩やることになりました。引っ越しと言っても数名だけですし、すべて僕の方で対応します。『怒涛のチェックインを迎える前に少しでも仕事を覚えておいた方が良い』と伝えたところ、今日中にということで一致しました。園生と森さん、青佐々木さんは仕事の引き継ぎをお願いします。明日、明後日の仕事ぶりを見て我々の方から記事を作って送った方が良いでしょう。一面を飾れるとは思えませんが、県知事達もスキー場の運営に貢献しているとなれば、県民たちも重い腰を上げるかもしれません」
「明日は確実に俺が一面を飾ることになりそうだから明後日だな」
「問題ない。ホテル内の様子を撮影したものを元にわたしが記事を作る」
「くっくっ、昨日は吃驚したよ。戦慄の記者会見だったと言ってもいいくらいだ。電話の方はどうなんだい?」
「第二人事部でも対応にあたってくれているのもあって午前中だけでも大分落ち着いたと言ってもいいくらいだ。記者会見で社長に何を聞くつもりなのか何件か聞いてみたんだが、大半は告知と関係のないものか『パフォーマンスの一部』と応えられるのがオチだと伝えるものばかりだったよ」
「それで、黄古泉の人事異動の件はどうなったんだ?」
「彼から貰った情報通り、一人抜けても十分な状態になっていましたので、ランチタイムが終わったらホテルの食堂の方に来て欲しいと伝えてあります。ハルヒさんや青有希さんが厨房から抜けられるのも、後少しというところまできていると見て間違いありません。あとは経験を積ませるだけですからね」
「それで、ブラックリスト入りした連中の代わりはどうするのよ!?人材が揃ったとしても、アイツ等にはリフトの監視役以外ありえないじゃない!優遇するつもりはこれっぽっちもないわよ!」
「ご心配には及びません。その方々には我々が付けているものと同じ閉鎖空間をつけるだけです。あとは新しく入ってきた人に経験を積ませるという理由をつけておけば、リフトの監視役から逃れられませんよ」

 

「今度は俺からになりそうだ。電話の件については圭一さんが話していた通りだ。それと番組収録について担当者と話したんだが、MC二人に自分のデッキを組んできた芸人が七人+俺で四か所同時にデュエルを行う。その影響で、折角のフィールドが夜じゃ分かりにくいということで、来週火曜の午前十時から収録という形になった。すまんがその時間、古泉と有希にも加わって欲しい。四か所同時に対戦している風景をモニターに映してMCがそれを見ながらワイプでコメントを入れていく手筈になっている。流石に俺一人でカメラと演出は厳しくなりそうだし、相手の手札をサイコメトリーで読み取るわけにはいかんからな」
「では、あなたが対戦する舞台の演出は僕がやることになりそうですね。もう一か所影分身を向かわせて、後は人事部で電話対応にあたることにします」
「カメラはわたし一人で十分対応可能」
「すまんが、よろしく頼む。それからさっきハルヒからも話が出たが一つ報告だ。首相にブラックリスト入りした連中の件をすべて話してきた。『ブラックリスト入りした若手政治家については残念だが、誠心誠意を持って現場に来てくれた人間を大事にしたい』と言ってたよ。ブラックリスト入りした方のリストと真っ当な政治家のリストの両方を渡してきたから、日本政府の人事についてはあとは首相に任せればいい」
『フフン、ブラックリスト入りした連中の末路がどうなるかたのしみになってきたわ!』
「できた」
今回の「できた」は何のことかすぐに判断がつけられる。SOS団の前にカバー曲の楽譜が置かれた。
「14日のライブで演奏する。練習しておいて。それに15日のコンサートからフレ降レミライを青チームで踊ってもらうことになる」
「僕は演奏とダンスの両方ってことかい?これじゃ今週はバレーの方はできそうにないよ。それでもいいかい?」
「有希や朝倉、OG達は情報結合の練習をしているんだ。それくらいのことで申し訳なさそうにする必要はない」
「私たちも夜はライブの練習になりそう。貴子、ギターアレンジはできたの?」
「一応ね。でも、まだ変更するかもしれない」
「とにかく、今は時間が惜しいわ!!最優先すべきことをそれぞれで決めればいいわよ!とっとと解散!!」
『問題ない』

 

 昼食の片付け担当は有希。『楽団の練習も終わったし、あんた雑用係なんだから皿洗いでもしてなさい!』とハルヒの一喝により片付けを命じられた。番組収録の件も、首相との話も終わったし、青ハルヒと二人で分担しておススメ料理の仕込み作業にあたっていた。電話の方は時間が経つにつれて次第に落ち着き、ジョンから向こうの今朝の新聞が出たと連絡が入った。見出しはどうなった?
『例のセリフをそのまま使っただけだ。「報道陣が危うくオ○リスクに踏みつぶされるところだった」と書かれている。「あれだけの巨人が出現したにも関わらず、周りの建物に居た人間にインタビューして回ったが、『そんなものは見ていない』と証言されるばかりで、あのパフォーマンスの説明がつかない」だそうだ。写真にはオ○リスクが載せられている』
まぁ、理解されても困るけどな。とりあえず、圧倒的な力の差が伝わるような記事ならそれで十分だ。
 翌朝の記事は、やはり俺の記者会見について。『キョン社長激怒!!どう処分するかは俺が決める!!』、『アメリカ版フ○―ザの声で名ゼリフ炸裂!たった数匹の蟻が恐竜に勝てると思うな!!』と見出しが付き、日本の記者を摘み出したところをカットされたVTRが流れていた。
「昨日アメリカで開かれた記者会見を受けて、各新聞社の見出しがこのような仰々しいものになっています。ですが、杜撰な計画のためだけに殺されてしまった、イタリアのリムジンの運転手三人に対するキョン社長の想い、そして怒りが直に伝わってきた会見だったと言えそうです」
「VTRの方でも確認できましたが、まさに蟻と恐竜の関係そのものでしたね。年越しパーティで見せたときと同様、関係者以外の人々は、キョン社長によって避難されられていたと見て間違いなさそうです」
アメリカより日本の報道陣の方が少しはマシのようだ。あまり時間が遅くならないうちに連絡をしてしまおう。
「はい、Discovery Channelでございます」
「SOS Creative Company社長、クレイジーゴッドの異名をつけられたキョンと申しますが、ハリウッドスター達が集まる年越しパーティで撮影をしている担当者の方とご相談したい事があるのですがお手隙でしょうか?」
「しょ、少々お待ちください。すぐに確認して参ります」

 

 やれやれ、『クレイジーゴッドの異名をつけられた』と告げただけで受付嬢が慌てていた。アメリカのTV局の人間ですら俺が電話をしてきただけでこうなるとは思いもしなかったよ。しばしの間をおいてようやく担当者と繋がった。去年の年越しパーティでのパフォーマンスを受けて、ハリウッドスター達と今年は本物のタイタニック号でクルージングをしながらパーティを開くことは向こうも承知の上。だが、船内を見回り、ハリウッドスター達がバラけてしまうとカメラ一台では撮影しきれない。カメラマンを増やすとハリウッドスター達の機嫌を損なうことになりかねないので、こちらで超小型カメラで撮影した映像を編集してそちらに送付する。生放送にするかどうかはそちらの判断に任せるが、今回ばかりはあまり得策とは言えないと話し、「上の者と相談してどうするか決めることにする」と返答を得た。
『いつまで電話しているのよ、あんた!みんな朝食が食べられないじゃない!!』
「すまん。この時間でないと担当者がいない可能性の方が高いんでな。とりあえず、食べ始めよう」
『いただきます』
「『この時間でないと担当者がいない』と仰るということは、アメリカのTV局に例の件を伝えておいたと捉えて間違いなさそうですね。しかし、いくらなんでも早すぎるのではありませんか?」
『例の件?』
「今年の年越しパーティの件で例年会場にやってくるカメラマンと相談していたんだ。今連絡しておかないと当日になってようやく思い出したなんてことになりかねん。たった一台では撮影しきれないからな。例年通り生放送にするのかどうか、上と相談してみるそうだ」
「くっくっ、そういうことなら今年は編集したものを年明けに放送するとCMを入れた上で生放送にせずに別の特番を組むことになりそうだ。タイタニック号で年越しパーティをする以上、それ自体がキミのパフォーマンスだからね。ところで、どこに船を浮かべるつもりなのか教えてくれたまえ。僕たちでさえ、例のシーンを撮影してみたいと思っているんだ。映画と同じ夕方の時間帯から始めるのがベストだと思うけれど、どうするつもりだい?」

 

 おおむね状況を把握したメンバー……特に妻たちやOGが視線を俺に向けている。
「佐々木が今言った通りだ。どこ○もドアを開く前に、『向こうは夕方だから、船頭で例のシーンをやってみたい方はお早めに』と伝える。そのあと時間を見計らって盛大に花火を打ち上げて全員で年越しのお祝いをする。それ以外で全員が集まるのは、ディナーと朝食、パーティ会場に戻るときくらいになるだろう。あんなでかい船の案内を俺一人でやるのはいくらなんでも無茶だからな。すまないが、花火の件も含めてみんなの協力が必要不可欠だ。よろしく頼む」
『問題ない』
W古泉や朝倉たちは将棋に没頭し、古泉は今日のディナーの仕上げ作業。有希はフロントに立っている県知事達を撮影して記事を作っていた。その間、俺は人事部で電話対応をしながら、調理場で明日のおススメ料理の仕込み作業。四つの調理台のうち一つは青ハルヒの影分身二体で調理を進めていた。Wハルヒも必要に応じて影分身の数を増やせるようになったとみてよさそうだ。青朝倉や青有希の方は、落ちこぼれ時代のうず○きナルト同様、影分身を情報結合しても、立ってさえいられない状態。死後硬直後の服部の死体の代わりにすらできん。青朝倉に至っては、影分身がどろどろに溶けていた。どちらも当分影分身は難しそうだな。日本代表のディナーの方も滞りなく終え、各部屋には青OG達がリクエストディナーのお知らせを配っていた。今夜は楽団員から一人三階に姿を現すと、有希が情報結合したペダル付き電子ピアノで場の雰囲気に合った曲を弾き始めた。楽団の中にもピアニストが混じっていたようだ。79階の方も同様にトリオで曲を演奏し、これまでのものと比べてより優雅な雰囲気に包まれていた。
 次の日、新聞社によってバラけたものの、有希が送付した記事を一面にしている新聞社がちらほらと見受けられた。一面にすらならないだろうと思っていたが、他に一面を飾る程の大きなものはなかったようで助かった。これで怒涛のチェックインも影分身が一体ずつ向かえば済む。人事部の方も大分落ち着いたし、おススメ料理の方も明日出す予定の半分は仕込みが済んでいる。これで古泉も入れば今日中に日曜までのおススメ料理の仕込みを終えることができるはずだ。
「今日から新店舗が五店舗同時にOPENするわ!振り分けはこの前古泉君が話した通りだけど、佐々木さんは今日のライブの演奏と明日のコンサートでのダンスがあるから入れ替えは無し。各店舗のアルバイト達には恒例の無料コーディネートをさせてネームプレートをつけるように伝えて!あたしからは以上よ!」
「ハルヒも少しずつ異世界支部の社長らしさが見えてきたようだな。だが、さすがに食事のときだけは入れ替えの必要がありそうだ。俺の影分身を向かわせるから食事に戻ってきてくれ。古泉、今後の店舗拡大の予定はあるのか?」
「いいえ、四月に本社が本格的に始動するんです。店長の店員などやっている暇はありません。経験を積ませて我々がいなくても運営できるようにすればいいでしょう」
異世界に木偶人形が現れた頃の三人とはえらい違いだな。鶴屋さん達も部屋の間取りがようやく決まったようなんだが、二人から情報を受け取るとどちらもフロアの半分を埋め尽くすかのような檜風呂を注文してきた。風呂に関してだけは二人で入れるようにしてみてはどうかと提案し、快諾を得た。流石は鶴屋家現当主だな、俺みたいな一般人とはスケールが違う。
『キョンが一般人なら他の連中は飢えに苦しんでいる人間ばかりということになりそうだ。日本一のビルの社長でハリウッドスターとして名を連ねた上に、ゴールデングローブ賞で主演男優賞を受賞した男が一般人と言えるわけがない』
まぁ、予想以上の規模のでかさに驚いたってことにしておいてくれ。

 

 おススメ料理の半数以上が客の手に渡ったところで、ハルヒ達のライブが始まった。獅○役をやったせいか、SOS団のカバー曲はゆず○れない願い、○ーンプライド、残酷な天使の○―ゼの三曲。ENOZの方はス○イルプリキュアの他にも小さな○の歌、FL○WのCHA-RA-HEAD-○HA-RA、『○』の誓いを歌いあげ、いつの間にやら俺の頭の中からジョンがいなくなっていた。どうやら、ライブのカバー曲を聞きに行っていたらしい。「原曲じゃないとダメだ」と言い出すかと思っていたんだが……そうでもなかったみたいだな。
『あそこまでのギターアレンジを見せられたら、聞きに行かないわけにはいかないだろう?』
中西さんと有希のギターアレンジならそうならざるを得ないか。おススメ料理を出し終えて戻ってきた俺の席の前にはリクエストディナーのお知らせを受けて、選手やコーチ、監督の回答が置かれていた。サイコメトリーでアンケートの集計をすると………しまった、有希に嵌められた!!

 
 

…To be continued