500年後からの来訪者After Future9-11(163-39)

Last-modified: 2017-02-11 (土) 06:35:37

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-11163-39氏

作品

異世界支部始動初日、取材拒否と垂れ幕を堂々と垂れ下げているにも関わらず、第三人事部まで使って対応しないといけない始末。容赦なく報道規制をかけようと青圭一さんや青古泉と一緒に電話対応にあたることになった。女子日本代表のオフシーズン突入と共に男子日本代表チームが来訪。女子の方は迷いが出るか、現状のダイレクトドライブゾーンでしか読めないが、男子なら話は別だ。采配を読みにくくするための訓練と采配を読んで今後の世界大会でも司令塔として活躍してもらう訓練としてメニューを考案し、練習試合に一人だけ置いてきた。スカ○ターで随時様子は確認して、何かあればテレパシーで連絡をするつもりだが、男ばかりの体育館で一人司令塔として女性の声が響き渡るというのもいささかどうなのかと考えてしまう。とはいえ、俺も今は練習に参加できるような状態じゃない。まずは異世界の取材の電話を鎮めてからだな。

 

「キョン社長、彼女を男子の方に向かわせた意図をお聞かせいただけないでしょうか?」
「俺がこれまで男子日本代表選手にできなかったことをやってもらっているのと、彼女自身色んなセッターと闘ってもらいたかったこと、それに司令塔抜きでダイレクトドライブゾーンの精度を上げてもらいたい、この三つです」
「キョン社長がこれまで男子日本代表にできなかったことと言いますと、どういった内容なんでしょうか?」
「男女見比べていただければ分かります。女子の方は、シーズン毎に相手の采配を読みながら練習試合の相手として闘ってきましたから次第に読めなくなっていきましたが、男子の方は監督からも采配が読めない様にしてくれと頼まれていながら、本職の方が忙しく、それができずにいました。それに、この後男女混合で行う夜練で男子の方も女子と同等かそれ以上の防御力を磨いてもらえたらと思っています。一昨年はたった数日取り組んだだけで大会でも活かされていましたし、少しでも貢献できればと考えています」
「キョン社長、ありがとうございました」
夜練の件で深く掘り下げてくるもんだとばかり思っていたが、諦めたか?……ってか、オフシーズンになってもインタビューしてくる気かよ。
『男子の日本代表にとっては今日がオンシーズン初日のようなものなんだ。数日もすればネタも尽きる』
だと良いんだが……おっと、今日から新しく厨房のスタッフが来るんだった。三階の食堂に赴くと既に調理に入っているスタッフと、どうしていいやら分からないと言わんばかりの人間が三人。俺の顔を見てようやく安堵の表情を浮かべていた。とりあえず厨房のスタッフを集めて事情説明。五階に一人か二人、向かって欲しい旨を伝えてしばしの間相談した結果、五階に行くメンバーが決定。青有希の影分身も呼んで指南役についてもらった。「五階厨房でも注文を承ります」と書かれた立札を設置して、その場を後にした。

 

「遅いわよ!インタビューに答えるだけじゃなかったわけ!?」
「もしやと思って三階を見に行ったら案の定だ。採用されたはいいが、何をしていいのか分からない状態の三人と厨房にいるスタッフを振り分けてきたんだよ。青有希の影分身も向かわせたし、明日以降はこの体勢でやっていくことになるだろう。ついでに、男子のディナーの件は今日話す必要が出てきてしまった。明日の夕食で、何も知らずに三階に来られたら困るんでな。どの道作ることになるのなら、全部説明してしまってからの方がいい」
「それはすまないことをした。今日面接した三人のうち二人には明日から来るように伝えたが、そちらの方は大丈夫かね?」
「ええ、俺と青有希がつきます。その点については問題ありません」
「話は乾杯の後でもできます。あなたも席についてください。調理スタッフのことについてはご迷惑をおかけしてすみません。僕も配慮が足りませんでした」
飲み物を注いで席につくと、このときを待ちわびていたかのように青ハルヒが立ちあがる。
「オッホン!それでは、あたし達の世界の本社オープン記念と、今後の発展を祈って……乾杯!!」
『かんぱ~い!』
「ところであんた、今は影分身に何させているのよ?」
「ん?それなら、練習用体育館の倉庫の情報結合を弄るのと、明日のディナーの仕込み、青朝倉が注文した大量のキャベツを刻んで、明日の朝食で出すパンを作っている最中だ」
「まだそんなにたくさん抱えているわけ!?そんな状態でパーティなんてやっても気が休まらまらないじゃない!」
「明日のディナーの件は俺が自分で蒔いたタネだから仕方がない。だが、それ以外は簡単な作業だから大したことは無い。それより、女子日本代表選手たちの反応はどうだったか知っている奴いないか?例の洗濯乾燥機の件だ」
「多分、今晩使うはずです。明日以降でないとどうだったかなんて聞けないですよ」
「くっくっ、確かに昼食の合間に洗濯乾燥機を回転させて練習試合後に取りに行こうとは思わないだろうね。それよりいいのかい?午後は男子日本代表チームと報道陣だらけの中、紅一点で試合をしていたそうじゃないか」
「ずっとスカ○ターで様子を見てはいたんだが、その件についても改善策を考え中だ。俺がずっとあそこに立ったままだと、『日本代表選手が何をやっているんだ』なんて話になってしまうし、同じチームに司令塔は二人もいらん。他のOGも連れて来ようかとも考えたが、今の男子日本代表チーム相手にダイレクトドライブゾーンを見せても意味がない上に、四人が成長できない。セッターは采配を読まれない様にすることがメインだから飽和状態だし、修正すべき点を箇条書きにしたところで一気に解決できるわけじゃないからな。すまないが、あと三日だけ時間をくれ。それ以降は俺も男子の方のフォーメーション練習や練習試合に出る。それで少しは緩和できるはずだ」
『練習試合に出る!?』
「何をそんなに驚いているんだ。日本代表選手が練習に出なくてどうする。スイッチ要因を除いて、セッターとして立つことはないが、互いにセッターの采配を読み合うのなら構わんだろう?女子の方で練習試合をさせる方が逆にまずいくらいなんだ。明日からの三日間でおススメ料理も全部作って青チームの世界の報道陣を黙らせる。パンも大量に作り置きしておけばいいし、男子日本代表相手に覚醒モードになる必要はない。ゾーンで十分だ」
「こちらの報道陣を黙らせる程度であれば我々で処理できます。何もあなたが背負う必要はありません」
「明日以降は社員希望の電話や面接が増えていくんだ。青ハルヒや青古泉には面接に出る必要がある上に、その後の方針も考えてもらわんとな。この程度なら手間になることはないし、人事部に社員が入る前に報道陣を潰す絶好のチャンスだ。今はただの人形だが、第三人事部は俺が占拠させてもらった。俺が居座るのは長くとも土曜までだ。取材の電話が沈静するまで誰かに譲るつもりは毛頭ない」
「ここまで自分の意思を貫き通そうとするあなたを見るのも珍しいですね。そこまで言い切るだけの理由でもあるんですか?」
「簡単な話だ。こんなことは他の奴にでも押し付けて、自分たちは他にもやることがあるだろ?ってヤツだよ。さっきも説明した通り、夜練の後、男子日本代表チームにはディナーが火曜になると伝える。今のままの順番でいくと、来週火曜のディナーの仕込みは青ハルヒってことになる。明後日のおススメ料理も控えているし、まずは一旦調理に集中して、やっても精々ビラ配り程度だ。明日の午後はそんなことをしている暇はない。第一、第二人事部に関しては青古泉に任せておけば十分だ。面談も午後三時なんて中途半端な時間にせずに、昼食後から始めて、空いた時間は青古泉だって試合に出られる機会が増えるってもんだ。無論、試合に出るのは女子の方だけどな。現段階での全員の役割と影分身の修錬の成果を加味した上で出した結論だ。その分俺は日曜以降男子の試合に出るつもりだ。妻一人置き去りになんてできるか!」
「黄私、羨ましいなぁ。『妻一人置き去りになんてできるか!』なんて、私も目の前で言われてみたい!!」
「『たかが予選でガタガタ口出しするな!』って言われたときとどっちが惚れ直したか聞いてもいい?」
「今日の午後の練習試合、あんたがいないだけでどれだけ観客が下に降りていったか数えきれないくらいだったよ」
「これじゃ、土日がどうなるか分からないほどだったよね?」
「有希先輩、コンサートで歌う曲って動画サイトにUPするんですか?」
「歌詞や音程の間違いがなければ今週末のものをUPする予定。著作権の問題もすべて解決した」
「古泉先輩や青みくる先輩もいるし、一日もしないうちにアクセス数がミリオン突破しちゃうかも!?」
「ったく、しょうがないわね……いいわ!火曜のディナーはあたしが作るわよ。あんたは雑用係なら雑用係らしい仕事をしてなさい。その代わり、朗報が飛び込んで来たらちゃんと報告しなさいよ!?」
「勿論だ。そろそろ夜練に降りる。ジョンも出てきてくれ」
『分かった』

 

 青古泉は本体だが、影分身三体とジョン、それにこっちのOG六人を連れたエレベーターが下に降りていった。説明は影分身に任せればいいだろう。キャベツも全部刻んだし、明日の分だけならパンも焼き上がった。影分身二体だけだが、仕込み作業はこのまま続行しよう。夜練にはゾーンに入れるギリギリの意識で十分だ。
「プッ……あんなに顔を真っ赤にしてちゃんとボール捕れるの?交代した方が良かったんじゃない?」
「黄キョン先輩の球はいくらゾーン状態でもミットの方が揺れるだろうから無理だけど、こっちのキョン先輩なら、揺れることがない限りちゃんとミットに収めてくれるはず」
「でも、それってストレートじゃないと無理ってことだよね?」
「今日は夜練も男子と一緒の方がいい」
「ところで、明日も夜はパーティって話だったけれど、僕らが演奏している間も食べ進めてもらってもいいんじゃないかい?でないと、演奏が終わるまでお預けを喰らっているようなものじゃないか」
「そう言われてみれば確かにそうね。みくるちゃんや古泉君が酔い潰れないうちに演ってしまった方がよさそう。今だって、夜練のせいで古泉君はただのジュースだし」
「僕のことはお気になさらず。彼の影分身に説明を任せて青僕と一緒に戻ってきたとしても、大した時間もかからずに潰れてしまうでしょうから」
「らめれすよぉ、こいるみ君。もっとこうりょう心をもたらいと」
「言ってることは正しいとは思うんだけど、黄みくるちゃんも毎日お酒を飲んでいるのに一向に強くなる気配がないわね。キョン、そろそろ一段階上げたら?毎日ワイン二杯とか」
「俺もそうしたいところなんだがな。みくるはまだいいんだが、古泉の場合は平日の夕食後は毎日のようにディナーか夜練になってしまう。土曜日も有希が提案したみたいにコンサートで歌うなんてことになると、飲ませたくても飲ませられん。すぐに酔いを覚ましてしまうんじゃ、訓練になるのかどうかも怪しい。男子日本代表がストレートに慣れるまでに、古泉がその量でも平気な顔をしていられるようになるというのなら俺が影分身で古泉の分を補うだけで済むんだが……ましてや、一ヶ月間浴びるほど酒を飲めと言うわけにもいかんだろう?」
「それもそうっさ!影分身も使えそうにないにょろ!黄古泉君が抜けたらそれを埋めるのに、どれだけ負担がかかるのかわかったものじゃないにょろよ!」
「でしたら、就寝前に一樹には朝比奈さんと同等のワインを飲ませてから寝ることにします。酒の肴くらいなら私が作ります。余った食材があれば分けていただけると助かります」
「それは嬉しい提案ですね!園生の作った料理を食べながら酒に酔いしれることができるとは思いませんでした。余った材料もありませんし、明日からということになりそうですね」
「くっくっ、そんなことをしなくても必要な材料の情報を受け取ってキミが情報結合すれば今日からでも始められるんじゃないのかい?」
「名案です!今晩から僕も第二段階に入ることにします!」

 

 夜練だろうがディナーだろうが関係なく酒に対する強さを高めることができるのならそれにこしたことはない。
「それにしても、黄キョン君が影分身を使いださなかったら今頃どうなっていたか……」
「男子日本代表は有無を言わさず断ることになるだろう。日本代表を君たちが育てていると言っても大袈裟ではなさそうだ。異世界の日本代表と闘わせてみたいくらいだよ。特に女子の方はね」
「あ、それダメです!私たちと似たような結果にしかなりそうにありません。体育館を設置してあることも秘密にしておいた方がいいかもしれないです」
「練習用体育館も作って世界大会は是非ここで……なんて十分あり得る話だな」
「それにしても、野球の試合の連絡はまだ来ないんですか?バレーのオンシーズンも終わりましたし、我々も野球の練習をした方がいいのではないかと思っていたところです」
「それなら昨日キョンと話していたわよ!10点差でコールド勝ちされるような相手に勝つためには、今度は海外組が三人どころじゃ済まないかもしれないって言ってたわ。あたしの投球が全部打ち返されるって」
「それで涼宮さん、昨日はあんなに必死になってピッチングをしていたのね」
「国民的アイドルも虎視眈々と試合に向けて鍛えてそうだしな。ところで涼宮監督、次の試合の采配は?」
「そうね……前回とあまり変わらなさそう。一番レフト黄有希、二番ショート佐々木さん、三番サード鶴ちゃん、四番センター黄古泉君、五番ライト黄涼子、六番セカンド黄あたし、七番ファーストみくるちゃん、八番キャッチャーキョン、九番ピッチャーあたし。こんなところかな?黄古泉君には催眠をかけずに出てもらうつもりよ。こっちの古泉君に今泉和樹の催眠をかけることにするわ!」
「あのー…今日の練習からでいいんですけど、ミットじゃなくてグローブで捕球してもいいですか?」
「青みくるちゃん、えらいっ!青キョンもさっさと返事してあげなさいよ!あんたが投げるんでしょうが!ファーストとしての仕事をこなすための練習がしたいって言ってるんだから、期待に応えてあげないでどうするのよ!!」
「え!?あ、あぁ。勿論OKです」
「しかし、そんな強力なメンバーの中にどうして僕なんかが入っているんだい?こっちのキョンすら出ていないじゃないか。僕がボールを拾っても朝比奈さんに送球する自信がないよ」
「そういえば……佐々木の方だったか?振り逃げして有希をホームベースに生還させたの……」
「確かにそれは僕で間違いない。でも、あのときは有希さんをサードで刺そうと素手でボールを捕った古泉君に驚いていたよ。イチロー相手でも通用するんじゃないのかい?二番手で初球を敢えてチェンジアップにして三塁で刺すというのも一つの策として考えておいてくれたまえ」
「折角ですし、試合前にもう一度紅白試合をさせてもらえませんか?あのときのリベンジをしたかったんですよ」
「面白いじゃない!今度こそ決着をつけてやるわ!」
「キョン、済まないけれど、影分身でキャッチボールの相手をしてもらえないかい?スパイクで腕や肩の筋肉はついているはずなんだけどね。ショートゴロをアウトにする自信が持てないんだ。どうだい?」
「え?あぁ、俺か。そんなことで良ければ、いつでも相手になってやる」
文句は言うものの、それに対して着々と準備を始めるところがコイツの成長を感じさせるところだ。

 

 しばらくして古泉たちが戻り、古泉がアルコールを持ったところで二度目の乾杯。子供たちは三人で風呂へと向かっていた。影分身を張りつかせているし、心配いらんだろう。
「それは酷くありませんか?僕のいないところで勝手に采配を決めるなんて……」
「約一名文句を言った奴はいたが、それでも前向きに練習メニューを俺に提案してきたよ」
「文句を言ったのは認めるよ。でも、涼宮さんの采配を聞いて『問題ない』と出るどころか、みんなやる気が漲っていたからね。これ以上の変更は難しいんじゃないかい?」
「まったく……昨日からずっと『やれやれ』と言いたくなることばかりですよ。タイタニック号でひと泳ぎしてきても構いませんか?」
「くっくっ、キョンが第三人事部を占拠した理由もあながち間違ってはいなかったようだね。キミも随分精神的な疲労が蓄積されているようだ。サイコメトリーで得てしまった余計な情報を記憶から削除してしまったらどうだい?影分身を使えば自分自身で可能だろう?」
「ついでに、古泉の記憶操作なんて誰もやりたがらない。自分でやるしかなさそうだな」
「失敬な。ですが、余計な情報を排除するというのは僕も賛成です。この後実際にやってみることにします。それでも駄目そうならひと泳ぎしてからジョンの世界に向かうことにします」
「それで、返事は聞けないまま夜練になってしまったが、長くても三日間、待ってもらえるのか?」
「……分かった。でも、三日しか待たないから」
「三日で十分だ。それ以降は強引にでも俺を連れ出せ」
「まったく、正妻が傍に居ながら、側室となんてやりとりをしているのよ、このバカキョン!こっちの方が恥ずかしくなっちゃうじゃない!!」
「あれ?おまえに羞恥心なんてあったか?」
『ブッ!』
「あるに決まっているでしょうが!!」
「くくく……これは失礼。ですが、似たようなやり取りならハルヒさんとも何度もやっていたではありませんか。ハルヒさんが忘れているか、カウントされていないものがあるだけです。我々も今のようなシーンを何度も見ていますからね。見ていて恥ずかしくなるようなやり取りというよりは、互いの士気をあげると言った方が適切かもしれません。そのやりとりで僕たちまでやる気が漲ってくるんですから。それに、佐々木さんが青僕に言ったセリフにも納得がいきました。この二、三日で青僕が何回『やれやれ』という言葉を使ったか分からなくなってしまいましたよ」
「……ンットにもう!仕方ないわね。古泉君がそういうなら納得してやるわよ」
「黄キョン君が加わってくれるといっても、シートを外したばっかりなのに精神的疲労が蓄積しているのはまずいにょろよ!黄みくるもダウンしているし、パーティなら明日もあるっさ!休みたいときは早く休んだ方がいいにょろ!」
青鶴屋さんの一言を気に、みくるは俺が送り、青古泉、青有希が席を立った。青有希は明日の朝に備えてってことだろうが、青有希が動けば青俺も動かざるを得ない。俺の両親がそれに続き、夜練を終えても尚、紅潮した顔に変化が見られない妻を追うようにOG達が69階へと向かっていった。この後シャンプーや全身マッサージになることを分かっているのか?あいつら。
『さぁ、キョン。あたし達もそろそろ行くわよ』
朝倉の部屋の浴室で抱き合って三人で風邪をひいたときのことを思い出した。
「あのな、俺が『強引に連れ出せ』と言ったのは三日後の話だ。ついでにおまえらが俺を連れ出してどうする」
『早くしないとジョンの世界で練習できないでしょうが!』
「分かったから手を離せ。そんなことをされなくとも自分で歩ける。ったく、どっちもツンデレの女帝(エンプレス)で間違いなさそうだ」
『ツンデレのエンプレス!?』
『ちょっと!それ、どういう意味よ!?』
『くっくっ、二人がツンデレだというのはここにいる全員が納得していることだけれど、どうしてそんな異名がついたのか僕にも教えてくれないかい?』
「ジョンが500トンの金塊を見せたときに言ってただろう?『ツンドラの帝王を作ってくれ』ってな。それをアレンジしただけだ。『帝王』が『エンペラー』なら、『エンプレス』は『女帝』ってことだ」
『あ~なるほど!』
『なるほど!じゃないわよ!みんな、あたし達のことをツンデレって認識してたわけ!?』
青古泉ももうちょっと居座っていればよかったかもしれん。フロアに残っていた全員の首が縦に動いた。
『ぶー…分かったわよ。それよりあんた、覚悟はできているんでしょうね!?』
「あれ?早くジョンの世界に行くんじゃなかったっけ?」
『問答無用!!』
「というわけで離れられそうにない。済まないが片付けを頼む」
返事を聞く前にエレベーターが閉まってしまったが、佐々木達に名乗り出られると俺の睡眠時間とジョンや朝倉とバトルをする時間が削られてしまう。まぁ、その分仕込みを今日中に終わらせられそうだからいいんだが、このあとどうなることやら。『デレ』の部分が早く出て来てくれることを祈ろう。

 

 翌朝、青有希の影分身二体と俺が三階につき、新しく採用された調理スタッフを待っていた。あと一人くらい希望者が出ればそこで止めてもいいはずだ。残りの影分身で昼食の支度とおススメ料理の仕込み、パンの焼き釜があるフロアを制圧して大量のパンとジャム作りを始めていた。青有希の方も午前中に未来へ持って行く分の仕上げにかかっている。昨日立てておいた立札も外したし、調理スタッフを招き入れて仕事を頼めばそれでいい。しかし、昨日は三尾の人柱力になった気分だったな。
「今日はあたしのシャンプーを先にしなさい!」
などとハルヒの催促に素直に従うと、ハルヒの全身マッサージを終え、俺がハルヒにシャンプーされていた頃、全身マッサージを終えた青ハルヒが俺の上に跨り、シャンプー台が壊れるんじゃないかという程身体を揺さぶっていた。当然その後は二人がかりで俺の全身マッサージを……いや、全身マッサージとは名ばかりで、ただ抱き合っているだけに他ならなかった。失神してどちらも歩けなくなるんじゃないのかという程激しかったが、身体が敏感に反応して痙攣が収まった頃には二人とも満足そうに眠っていた。いい機会だから、三人で寝ようと個室に入ったが、今頃どういう反応をしているのやら。ジョンの世界じゃほとんど変わり映えがしなかったからな。昨日との違いを強いてあげるとすれば、パーティの間に話に出ていた、青みくるがミットからグローブに持ちかえて立って青俺の投球を受けていたことと、青俺の影分身と青佐々木がキャッチボールをしていたことくらい。青ハルヒはピッチングに没頭していたし、ハルヒも試合をしながらOG達を鍛えている状態。残りのコートで妻が零式改(アラタメ)のサーブ練習をしていたのも変わらずだ。OG達の方も妻が強引に円形ベッドに連れて行かれ、影分身に抱かれている光景を見ようと周囲に残りの11人が群がり、その後ろから影分身に責められていたからな。零式改(アラタメ)が一度も成功しなくて当然だ。今日の練習でちゃんとできるかどうかも怪しい。
「ん……あれ?ここ、どこ?……個室?」
「よっ、おはよう。たまにはこういうのもいいかと思って個室に連れてきたんだよ。二人揃ってエアマットの上で満足気に眠りやがって。ちゃんと起きられるか?風邪ひいてないか?」
「あ――――――っ!!今日はあたしがキョンの本体を一人占めにする日だったのに!!青あたしまでなんで入ってきてるのよ!!」
「昨日の時点で気付け!というより、気付いていてハルヒがOKしているもんだとばかり思っていたぞ。来週青ハルヒが担当の日に割り込んでくればいいだろう?それで、体調の方はどうなんだ?」
「どこも問題ないわよ!そんなことより、もう少し抱きつかせなさい!」
「朝食に間に合わなくなるぞ?」
「青あたしも起きてこないし、ちょっとくらいいいじゃない!昨日はあのまま寝ちゃったんだから!」
「コイツならとっくに起きているぞ?おまえに文句を言われないように狸寝入りをしているだけだ。あんなに大声で叫ばれたら誰だって起きる」
「何で喋るのよ!このバカキョン!折角いい気分だったのに!」
「俺に文句を言う前に、ハルヒに謝る方が先なんじゃないのか?強引に入ってきたのはおまえの方だろうが」
ハルヒの視線に気付いた青ハルヒが調子に乗ったことを素直に謝罪したのはいいが、来週も影分身無しの三人で抱き合うことを約束させられてしまった。この言葉はこういうときにこそ使うべきだろうな……やれやれ。

 

 ハルヒ達を両腕で抱きながら今日のニュースをスカウターで確認していたが、こっちの世界の一面は妻が司令塔として采配を読んでいるシーンの一点張り。『愛弟子を谷底に突き落した!?難攻不落の要塞三度現る!!』などと、見出しは各社それぞれだが、やっていたことはおおよそ合っているから文句が言えん。体育館で練習していたのを男子日本代表のいる練習用体育館に降り、オオカミの群れの中に……何だっけ。似たような話があった気がするが思い出せん。とにかく、ヤギだか羊だかを置き去りにしてきたようなもんだからな。異世界の方も本社ビルの件で同じく全社統一。『取材、番組取材お断り』の垂れ幕が写っている写真を堂々と一面に載せて気がつかないのかねぇ……まったく。こちらも見出しは様々だったが『鈴木四郎の規格外のパフォーマンス』というフレーズはどの新聞記事にも入っていた。同期された情報が本体にも伝わってきた。
「三日は待つけど、練習用体育館に降りるときは一緒に来て!」
だそうだ。もう片方の妻なら「今日もよろしくお願いします!」なんて気さくに輪の中に入っていけそうなもんだが、あんな状況、逆の立場だったら俺もやり辛い。そのくらいのことはさせてもらうことにしよう。
「ちょっとあんた!厨房をあんたと有希で占領しているって一体どういうことよ!!おススメ料理の仕込みができないじゃない!!」
「くっくっ、キミが占拠したのは第三人事部じゃなかったのかい?それと、解決策ならあるじゃないか。上層階に第三調理場としてフロアを改装すればいい」
「正確には『第四』調理場だ。必要のなくなった時点で元に戻すつもりだったから話さなかったんだが、68階にも調理場を作って作業中だ。67階のフロアを模様替えして仕込み作業にあたってくれ。午後は俺もおまえもそれどころじゃなくなる」
「そういえば、ここに残るのは古泉だったな。予知を覆すような真似は避けたいし、交代できそうにないが精神的ストレスがまた溜まることになりそうだ。大丈夫なのか?」
「今の話を含めて、大丈夫とは言えそうにありませんね。まぁ、使い道に困っていましたから、涼宮さんが第四調理場を情報結合して使うことに反対はしませんし、黄僕も含めてそうなりかねない状況だということですから仕方がありません。ですが、やはり未来でのことが気になります。モニターで見ない方が良いのは僕自身も納得してはいるのですが、無事に帰って来るまでただ待っているだけというのは心細くて仕方がありません」
「でも、古泉君は前回までは参加できたじゃないですか!『みんなお腹空いてないかな?』って、おにぎりやサンドイッチを作って気を紛らわせていましたけど、わたし達はずっと連れて行ってもらえなかったんです!少しは待っていた側の気持ちも考えて欲しいです!」
「最初の戦争は青ハルヒですらただ見ているだけで終わっていたんだ。だが今日に関しては、俺たちは単なるボディガードに過ぎん。例の時刻の15分前には未来に出向くが、10分経っても何も起きなければ必ず連絡する。そのあと、あの時間平面上のジョン達と手合わせをして疲労したところを襲ってこないか確認するまで。それでも来なかったら閉鎖空間の条件を切り替えて敵が閉鎖空間の中に入れない様にする。何かしら攻撃を仕掛けようとすれば、サイコメトリーに引っかかって俺が未来に出向くだけだ。みんなの準備が整い次第呼び寄せる。そのときは青古泉も一緒に来てくれればいい。以上だ」
「あら?あの四人と手合わせなんて面白そうじゃない。わたしも入れてもらえないかしら?」
「僕も初めてあの時間平面に行ったときから手合わせ願いたいと思っていたんですよ。僕も混ぜてください」
『朝倉涼子ならまだしも、他のメンバーは無理だ。一人相手に残り全員でかかっても負ける。キョンがあの時間平面上の俺たちと闘うのは、疲れ果てたところを襲わせる囮になるためだ。五人の情報結合を数時間前に戻している間に襲来してきた敵の相手をする人間がいなければ囮の意味がない。ついでに、話の流れからしてそんなことが話題に上がるのはおかしいんじゃないのか?』

 

 ジョンの説教にも似た言葉を聞いて古泉が黙り、それに賛同して自分もと名乗りを上げようとしていたハルヒ達もテンションが通常まで下がっていた。
「くっくっ、じゃあ話を切り替えようじゃないか。青古泉君の本体はここにいるだろうけれど、影分身は電話対応に行くだろう?こっちの方は古泉君がいなくても大丈夫なのかい?」
「以前お話していた通りです。圭一さんだけで第二人事部を埋めてしまう程のレベルにまで進展しましたし、僕は本体で電話対応をしながら仕込み作業をしているか、体育館に赴いて試合を見ながらセッターの采配を読んでいるかのどちらかですからね。あとは先日のCMの交渉くらいですよ」
「佐々木を向かわせるほどのことでもないってことか。それなら、未来に行っている間、第三人事部の影分身を解くからそっちで電話対応してもらえないか?研究やデザイン、脚本作りに影響しない程度で構わない。あとはバレーの試合に出てくれればそれでいい。子供たちが不満げな表情で夕食を食べるなんてことが無いようにしてくれ」
「私も君がいない間は第三人事部に加わろうかと思っていたくらいだ。その時間はそっちに向かわせてもいいかね?」
「ええ、よろしくお願いします」
「ところでキョン先輩、男子日本代表の反応はどうだったんですか?洗濯機の件は今日聞いてみますけど」
「倉庫に取り付けたロッカーと週一回のディナーの件で特に喜んでいたな。今日から携帯や財布等の貴重品も持って本社に入ってくるだろう。ロッカーの鍵についてはポケットが無くとも足首に巻けるようなものにしてある。通常なら手首に巻くものだが、バレーでそんなことができるわけがない。洗濯機の使い方と大浴場の件、女子のディナーのときは五階で夕食を摂る件と、あと男子のディナーを五階で行うことにした。それなら女子の日本代表に連絡しなくとも女子の方は三階に来られるし、楽団員にも連絡する必要はない。一般客向けの立札を火曜日も立てるくらいだ。毎週火曜は五階でディナーだとインプットしておいてくれればいい。っと、ついでに楽団員の打ち上げだが、今月は二週連続だ。来週のコンサート終了後に楽団員と俺たちで打ち上げをする。そのつもりでいてくれ」
「でしたら、その打ち上げ用のビュッフェは僕が引き受けましょう。男子日本代表にある程度の防御力がつくまではダイレクトドライブゾーンも不可能でしょうし、あなたも意識の半分以上を割く必要があります。彼女の傍に付いていてください。ただでさえ朝食のパンやサラダ、キャベツの千切りをあなた一人に任せている状態ですからね」
「俺が好きでやっているだけだ。パンに関しては別に毎日じゃなくてもいい。朝食スタッフが調理場に慣れるまでの空いた時間を利用しているだけだ。昼食の支度ももう終わった」
「残る一人をすぐにでも厨房に入らせたいくらいだ。どちらの世界も垂れ幕が邪魔だからね」
「とにかく!今夜は異世界の天空スタジアムで夕食と同時にライブを演るわよ!これだけは絶対に譲れないんだから!あの四人がそんなに強くなったのなら、『来るのが遅いからもう帰った』って伝えてもらうことにするわ!」
『問題ない』

 

「じゃあ、支給の方は任せた」
「えっ!?黄キョン君は行かないの?」
「俺がシェルター内に入ったらカレーだと勘違いされるし、俺が行くとまた予知が覆ったなんて事になりかねん。午前中については二人で行ってきてくれ。どの道記憶は消されるんだし、あんまり長居するなよ?」
「くっくっ、そうだね。次の支給日まで待つことになりそうだ。電話対応でも構わないけれど、青有希さんの手伝いにまわってもいいかい?」
「普段は古泉の役回りなんだ。今日限りってわけではないが、次に機会が回ってくるとしても大分先になることは間違いない。青有希の手伝いに関してはおまえの判断に委ねる。OG達も練習しながら手伝ってくれているしな」
「分かった。今日くらいは電話対応にまわるよ。特にキミ達のいない時間帯はね。そろそろ送ってくれないかい?」
青有希の方に視線を向けると、眼だけで『問題ない』と返ってきた。二人を未来へと送って、俺は……何をしようか迷ってしまうな。しかし、青鶴屋さん宅は遮音膜を張って数日放置するからいいとして、青俺の家の電話は……青俺に直接テレパシーが届いて対応に向かっているか。あの家から鈴木四郎として玄関から出てしまったからどうしようかと勘繰ったが、報道陣が押し寄せることに関してはこれが初めてというわけじゃないしな。
 結局、おススメ料理を少しでも早く終わらせようと厨房に向かい、昼食を摂りに戻ってから作業を再開した。俺が受けた電話もそうだが、青古泉や青圭一さんからは社員を希望する電話が着々と入ってきていると全体に報告があった。「今度の土日は面接に追われそうだ」と話し、青古泉の方も精神的ストレスを溜めこんでいるとは感じられず、待ちかねた朗報に満足しているようだった。午前中に一度、午後の練習試合開始前に一度妻に連れ添って練習用体育館へと赴いた後、81階には青古泉を含めた戦闘員達が集まった。こちらの世界でのビラ配りは一日くらいやらずとも大した影響は無いし、練習試合の方はOG四人と青みくる、岡島さんがコートに入り、ベンチにはENOZのメンバーや青朝倉たちが控えていた。
「そういえば、一昨日の夜から聞こうと思っていたことをようやく思い出しましたよ。髪が金色に染まらずに超サ○ヤ人に変身する瞬間を見させてもらえませんか?」
「向こうに行けばいくらでも見せられる。退屈な時間を過ごすだけだからな。俺たちはただの安全弁にすぎない」
「それはそれでこっちの古泉に申し訳ない気もするな」
「いいからさっさと連れて行きなさいよ!」
「青古泉、あとを頼む」
「仕事は影分身に任せてありますし、本体はここで皆さんのお帰りを待つことにします」

 

 青古泉のセリフを聞いて時間跳躍。目の前の景色が一瞬にして変わった。辺りの景色を一望するだけでも佐々木の好奇心を煽るくらいなんだ。戦闘員として連れてきたメンバー達も周辺を見回していた。
「おや?てっきりあの四人のいる場所へ時間跳躍してきたものだと思っていましたが、どうやら違うようですね。この場所を選んだ理由でもあるんですか?」
「あの四人と固まって動くのは予知通りの襲来がないと判断してからだ。戦闘力がいくつになっているのかは俺も知らんが、今朝も『一人を相手に全員でかかっても負ける』とジョンが断言するくらいだ。別れて配置についた方がいいのと、ジョンが二人になるとややこしくなるし、身内だけにしか分からないことだってある。それに、閉鎖空間で固めてあるとはいえ、シェルター付近ではあまり闘わない方がいい。爆発音や衝撃で不安を増長させるだけだ。………それより古泉、ご希望通り目の前で変身してやったのに、何か返す言葉はないのか?おまえは」
『もう変身した!?』
「一昨日はバトルを一旦中断してから集まりましたから、変身した状態のままシートを外したんだとばかり思っていましたが、予備動作を誰にも悟られずに変身してしまうとは考えもしませんでしたよ。確かに、その証拠に眼の色が変わっています!」
「黄俺がバトルに参加できないときは、俺が代わりに入ってもいいか?」
「あら?それなら毎晩入ることになりそうね。誰かさん達のおかげで、彼が来るのがいつも最後なんだもの。待っている間、暇なのよね」
「その誰かさん達に『休肝日を設けろ』と目の前で言ってやってくれ。しかし朝倉、今日の件が終わってもバトルを続けるつもりか?来週から未来古泉だって呼ぶんだろ?」
「そうね、たまには将棋やバレーに変えるのも悪くないけど、将棋のときはジョンが相手じゃないとつまらないのよ。日本代表の夜練じゃないけど、週に何回バトルに時間を費やすのか決めてみたらどうかしら?」
『そのときの気分でいいんじゃないのか?俺も時間に縛られるのは性に合わない』
「まるでドラマの撮影をしているようなセリフだな。佐々木たちがジョンならこう言いそうだと脚本を手掛けたのか、黄朝比奈さんのようにドラマの役を演じたからこうなったのか、分からなくなってしまったぞ」
「何にせよ、修行は続けるが、これまでのように毎日、一晩中ずっと続けることもないだろうって話だ。っと、もう予知の時間を大分過ぎたようだ。あの四人がこっちに向かってくる」
「スカ○ター無しで相手の気を探れるようにまでなったというんですか!?」
『下級戦士のキョキョロットにできて、この俺にできないはずがない!』
『ブッ!』
「問題ない、どちらもただのクリアボヤンス。透視能力を使っただけ」

 
 

…To be continued