500年後からの来訪者After Future9-13(163-39)

Last-modified: 2017-02-25 (土) 22:28:17

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-13163-39氏

作品

可能性は低かったものの、予知の映像を受けて未来の時間平面に足を踏み入れたが、ジョン達四人との手合わせによる囮作戦でも急進派が襲来することはなく、要するに単なるヘタレの集まりだったってことだ。本社で待機しているメンバーも心配で仕方がなかったらしく、その後のライブリハーサル&パーティでは久方ぶりにメンバーが酔い潰れる結果となった。いよいよライブ当日の朝、俺が好きでやっているパン作りに「そこまで負担することは無い」とメンバーからの声があったものの、発酵時間を短縮できるようになったんだ。手間はかからない。

 

「ちょっと待ちなさいよ!発酵時間たった三分でパンが出来上がるわけがないじゃない!」
「普通の人間ならそうだ。だが、生憎と俺は普通じゃない」
「……まさか、これも閉鎖空間ですか!?」
「ああ、佐々木に現状維持の閉鎖空間をつけてから、もしやと思って試しにやってみたんだ。『閉鎖空間内の時間の経過を現実世界の10倍の早さにする』ってな」
『現実世界の10倍の早さ!?』
「だから、発酵時間がたった三分だったんですね。それなら発酵するまで待つ必要はないです!」
「まったく、またしても『やれやれ』と言いたくなりましたよ。あなたは天空スタジアムの更に上空に神様の神殿でも作るおつもりですか?そんなことが可能になるのなら、精神と時の部屋まで作れてしまうではありませんか」
『伸びろ、如意棒――――――!』
「おまえな、そんなものが天空スタジアムから出ていたら、すぐに神殿があることに気付かれてしまうだろうが!」
「くっくっ、否定はしているけれど、その言い草だと神様のいる神殿は作るつもりだったのかい?面白いじゃないか、僕たちの研究がはかどりそうだ。その条件で閉鎖空間をつけてもらえないかい?」
「やめておけ。精神と時の部屋と同じ条件で閉鎖空間を張れば現実時間で30分もしないうちに餓死するぞ」
「一分で約六時間経過することになりますね。いくら黄キョン先輩が料理を作り続けていても、とてもじゃないですが間に合いそうにないです」
「パンが発酵していくところを早送りで見ているようなもんだ。あとは焼き釜に入れて次の生地をこねるだけだからな。もう一週間分くらいはできているはずだ。異世界の報道陣を潰したら、堂々と練習に参加してやるよ。ついでに『鈴木四郎の規格外のパフォーマンス』を見せつけるにはいいチャンスだ。こちらの世界と同じように、報道陣を満員電車に乗せる。そろそろ膜から壁に変えてもいい頃合いだしな」
「そうしていただけるとこちらも助かります。体感しないと納得しない連中ばかりですからね。今日の午後からこちらの圭一さんと面接に入ります。この土日で社員希望者が面接に雪崩込んで来るでしょう。まずは経理課から埋めて、編集部、受付、最後に人事部に振る予定です」
「ちょっとあんた!人事部が最後っていったいどういうことよ!?今一番忙しいのは人事部じゃない!」
「サイコメトリーもできない人間に電話対応をさせては報道陣を調子に乗せるだけです。我々で押さえつけるまでは逆に邪魔なんですよ」
「愚妹がどれだけ役に立ってないのか証明しているようなもんだ。採用された社員の登録等で忙しくなるのは経理課で間違いない。本社設立当初も、青有希や青朝倉が経理に振ってくれと進言していただろ?」
「そういえば、黄キョン君にその件で文句を言ったことがあったわね。どうして受付に三人も付ける必要があるのか、そのときは理由を聞くまで納得できなかったから」
「では、異論なしということでよろしいですか?」
『問題ない』

 

 さて、青古泉の言う『体感しないと納得しない連中』とやらに実体験してもらうことにしよう。予想通り異世界支部の前に蔓延り、車道を封鎖するかのように集まっていたバカ共を閉鎖空間で強引に歩道へと押し込み、透明な膜から壁に切り替えた閉鎖空間で押し潰されていた。こればっかりは諦める以外、そこから出ることはできん。早めのギブアップをお勧めしておくよ。オンシーズン前に作っておいたジャムも底をつき、調理場では甘い匂いが漂ったまま、閉鎖空間の換気機能をもってしても間に合わないほどだったが、逆遮臭膜を張るようなことでもない。来週は古泉の負担が大きいが本人が今のうちから準備すると言っているんだ。俺は俺のやるべきことをやって余裕ができたら男子の練習に参加することにしよう。
 妻を連れて男子日本代表のコートに入り込むと、互いにブロック可能なときは三枚、セッターの采配を読み、相手チームのセッターに対して一つだけアドバイスをして、他のコートのセッターと交代というサイクルが続いた。ブロックアウトやブロックアウト封じも次第に慣れ始め、WS達は三枚ブロックをなんとか攻略する方法を編み出そうと計画し実践する方にベクトルを向けつつあった。
「おや?今日も二人揃って男子の練習ですか?どうです?進捗状況の方は?」
「大分ブロックアウト封じに慣れつつある。指示を出してすかさず三枚ブロックにもいけるようになったし、セッターは俺とアイツで一つアドバイスをしたら、他のコートのセッターと入れ替えるサイクルで回している。あとはWSが三枚ブロックに対してどう対処するか考え中ってところだ。壁を越えようとすれば後ろからバックアタックだと伝えてあるからな。それ以外の方法でないと通用しないようにした」
「お二人が入っただけで世界大会のレベルを超えた練習ができるとは……セッターの采配が読めなくなるのも時間の問題と言えそうで…」
『キョン先輩―――――――――――――――――っ!!』
「おう、六人揃ってどうした?何かいいことでもあったのか?」
「この子、零式改(アラタメ)が五回も成功したんです!サーブ練習なんてほとんど時間がないのに五回ですよ!?ストレートだけですけど、クロスなんて角度が変わっただけですし、この土日でマスターしちゃうかもしれないです!!監督も吃驚していました!」
「それはおめでとうございます。ですが、彼女に負けていられないようですね」
『絶対にダイレクトドライブゾーンをマスターしてみせます!!』
「キョン、午後の練習試合も来てもらえるの?」
「今朝話しただろ?ジャム作りと電話対応だけだから影分身もそこまで必要ない。午後も出る。しかし、こっちの世界は明日の一面記事が決まったも同然だな」
「そのようですね。零式改(アラタメ)を放つ彼女の写真が掲載されるでしょう」
「嬉しいのは分かったから、あんたたちも配膳の手伝いをしなさい!」

 

「こちらからも朗報だ。社員希望の電話が午前中だけで十数件。電話の段階で不採用の人間もいたが、明日は午前中から面談を始めることになるだろう。ただ、経理課ならまだしも、編集部は翌日から仕事に来るなんてことができるのかね?」
「そろそろ店舗の方も店長候補がいるんじゃないですか?こちらのOGや裕さん、森さんには異世界支部に来て指示を出してもらいたいです!」
「今日と明日で様子を見てから決めたらどうっさ?森さんとその子が抜けた穴は他のメンバーの影分身でサポートに入ればいいにょろよ!」
「そのついでに、鶴屋さんの家の電話がどうなっているか確認に行ってもいいですか?まだ報道陣から色々とかかってくるようなら遮音膜で防ぎますし、ほとんど無くなっていたら家の人間に伝えてもらうというのはどうです?」
「それは名案っさ!是非ともお願いするにょろよ!」
「涼宮さんも午後の面接に入りませんか?社長自ら面接するいい機会ですし、選ばれた人間からすれば、社長に大抜擢されたと考えるでしょう。加えて、コーディネートのサービスや料理を振る舞えば、我が社への貢献度がより高まるというものです」
「面白いじゃない!あたしの眼にかなった人間しか絶対に認めないんだから!」
「黄キョン君、シェルターにいる人たちに配る料理ができた。また未来に連れて行って欲しい」
「じゃあ、昼食後すぐに行こう。俺も練習試合にでないといかん」
「こちらもようやく調理スタッフの希望者が二名現れた。どちらも電話をしている限り問題は無かったから、採用で間違いないだろう。これでシフトも組めるはずだ。垂れ幕も外してしまっていいかね?」
「あっ、えっと来なかったら来ないでいいんですけど、一応明日の面接後までは外さないでください。まだ慣れてないせいもあるんですけど、もう少し人手があったほうがいいかな……って」
「なるほど、では面接後に採用の場合は外してくるよう社員に伝えることにするよ」
「そういえば、打ち上げの件は楽団員には伝わっているんですか?」
「問題ない。明日、旅立ちの日にのリハーサルを最初に行う。三人は天空スタジアムに来て欲しい」
「じゃあ、体育館での基礎練は私が出るね。フォーメーション練習から交代ってことでいい?」
「うん、それでお願い」
「すまん、青俺と青有希。影分身で構わないから、明日の午前中に子供たちの泳ぐ練習を手伝ってくれないか?カラーヘルパーをつけるための蝶結びを練習させたいんだ。今後は靴紐のことにも絡んでくるからな。機会があるうちに教えておきたい。ハルヒと有希は楽団の練習で抜けられん」
「そういうことなら俺も行く」
「うん、わたしも問題ない。そろそろ難しいことも教えてもいい頃」
「くっくっ、キミの水泳教室の様子を映像で見させてもらえないかい?閉鎖空間を足場にするなんてキミ以外思いつかないよ」
「おまえの場合は、本体で実際に見に来た方が早いだろう。撮影するまでもないんじゃないのか?」
「そうかい?そう言ってくれるのならお邪魔させてもらおうかな?」
佐々木のセリフの後、着信音が鳴った。この曲は……Lost my music!
「来た―――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
「どうやら、野球の試合で間違いないようですね。どちらの世界で試合をすることになるのか楽しみです!」
「古泉、ハルヒはどこ○もドアを通って携帯を取りに行ったんだ。俺たちの世界での試合に決まっているだろうが!」
「おっと、僕も野球の連絡がようやく来たと興奮して冷静な判断ができていませんでした。ライブやコンサートとかぶらなければいいのですが……」

 

 メールの内容を確認してご満悦な青ハルヒがどこ○もドアの向こう側からこっちへ戻ってきた。
「それで、青あたし、いつなのよ!?早く教えなさいよ!!」
「『四月二日(日)各球団の主砲クラスを引き連れて天空スタジアムに行くんでよろしく』だって!各球団の主砲クラスが相手だろうが絶対に打たせないんだから!!」
「どうやら、こちらの報道陣とは真逆になったようですね。野球の試合が終わらない限り、天空スタジアムは公開されないとなれば、選手を強引に集めてでも早急に試合をさせてしまおうという魂胆が丸見えですよ」
「どちらにせよ、番組取材もすべて断るし、アーティストのライブ会場って話も……どうする?どこまで許可するか意見を出してくれ。俺は精々野球の試合とスーパーライブくらいだな。現時点では」
「四月三日から一般開放なら使わせる必要はありませんよ。僕もその二つでいいかと」
「では、それ以外の依頼はすべて断るということでいいかね?」
『問題ない』
「………おい、涼宮社長。こうなったとき次に行動すべきことがあるだろう。指示を出せ!」
「指示って何を指示するのよ?」
「やれやれ……天空スタジアムを使うときに、客の座る席をどうやって決めるんだ?」
「なるほど、チケット業者との提携とその日のチケット販売の委託ですか。僕たちの世界ではまだやっていなかったことをすっかり失念していましたよ。こちらでは黄僕が担当していますし、僕が業者に連絡を取ってみます」
「それから、青朝倉には青ハルヒの返信メールを確認して欲しいのと、異世界の倉庫にいって状況を確認してきて欲しい。この土日で一気に注文が増えそうなんでな」
「じゃあ、涼宮さんが書いた文面を見せてもらうことにするわね!」
「倉庫の状況確認なら俺だな。中に入るより、サイコメトリーで確認した方がよさそうだ」
「あぁ―――――――――っ!もう!!またキョンに先に言われた!あたしが社長なのに!!古泉君、こっちの世界と同じ全席3000円で統一して頂戴!」
「了解しました」
「ジョンの世界に青圭一さんが段ボールの情報結合をしに来たくらいなんだ。こっちは人手が足りても異世界はどうなるか分からん。それに、青圭一さんも社員希望とは言ったが、パートやアルバイト希望とは言ってなかった。場合によっては影分身を駆使して、ピッキング作業なんて事にもなりかねないんだよ」
「あぁ、すまない。それは私のただの言い間違いだ。パートやアルバイトの希望者も含めて社員と伝えてしまった。どうやら、語弊があったようだ。作業場の希望者も着々と集まっているから心配しないでくれ」
「では、すぐにでも動きましょう。午前中だけで大分進展したようです!」
『問題ない』

 

 青有希と佐々木が未来に出向き、青ハルヒはメールの内容に奮闘中。それを青朝倉が横で見守っていた。戻ってくるときはジョンが対応してくれるし、ジャム作りの続き……というか二回目を影分身に任せて本体は練習試合へ。とにかく妻を場慣れさせることと、セッターを読みにくくすること、自然に三枚ブロックに入れるようにすることが最優先。零式改(アラタメ)が五回も成功したのなら、何%の意識でゾーンに入れるかの修行に入った方がいい。WSも三枚ブロックのさらに横を抜こうと模索していたり、視線を見当外れの方向に向けたままブロックアウトを試みたりしていた。セット間の休憩中、監督が俺に近づいてくる。
「ダイレクトドライブゾーンの方も見せてもらいたいんだが頼めないか?勿論ネットは女子のものに合わせる」
「では、仲間に話しておきます。明日でもよろしいですか?」
「それでいい。よろしく頼む」
「了解しました」
明日の午後なら子供たちもいるし、OG四人には司令塔抜きでダイレクトドライブゾーンが出来るようになって貰わないといかん。こっちに来させたら逆効果だ。有希や青古泉にセッターとして入られると覚醒モードで相手をしないといけなくなるが、朝起きてから午前中までの間に作業を終わらせてしまえばいい。シャンプーや全身マッサージをしている最中も影分身を割くことができるようになったし、その時間帯だけならなんとかなるだろう。
『第三人事部の占拠を今日で終わりにする!?』
「ああ、男子の方の監督から申し出があってな。影分身を使えるような状況じゃなくなった」
夕食を取り始めてすぐ、午後の練習試合の様子と明日の件で俺が最初に話を切り出した。
「くっくっ、ということは覚醒モードでないと読めないセッターを相手にするってことになりそうだね。OG六人を相手にダイレクトドライブゾーンでも見せるつもりかい?」
「概ね正解だと言っておく。だが、OGが入るのは一人だけ。残ったメンバーで男子の方の体育館に来て欲しい。OG四人が司令塔有りの状態で練習試合をしても何のメリットも無いし、成長できない。『司令塔がいないとダイレクトドライブゾーンが使えない』と判断させるわけにはいかん。OG以外で司令塔ありじゃないとハルヒ達のような反応ができないというメンバーに入って欲しい。男でも、スパイクの威力は女子のエースくらいだから、今の俺たちなら難なく取れる」
「それならキョン君、わたしも入れてください!」
「男子相手にダイレクトドライブゾーンですか。暴れがいがありそうですね。セッターも必要でしょうし、僕にも出させてもらえませんか?」
「古泉は面接があるんだろ!?ハルヒと一緒にそっちの方に回れ!明日だけ特別ってわけじゃないんだ。だが、俺も参加したい。黄佐々木、ヘリの運転を代わってくれないか?」
「え~~~っ!あたしも出たかったのに!」
「くっくっ、ヘリの運転をしながら、練習試合の様子を見たいんだけどね。撮影した映像をスカ○ターに映してくれないかい?」
「問題ない。わたしが撮影する。青チームの古泉一樹が出られないのなら、セッターはわたし」
「青僕が面接で出られないということであれば、僕に入らせてください。次の機会は青僕に譲ることにします」
「面白いじゃない!男子のスパイクだろうと関係ないわ!あたしも混ぜなさい!」
「これで六人だな。ただ、ゾーンに入れるメンバーが六人中三人ということになる。青俺と古泉はゾーンを使わずに指示を待つようにしてくれ。ゾーンに入れない状態まで影分身を割いてくれても構わない。女子の方はOG達と子供たちで十分だ」
『フフン、あたしに任せなさい!』

 

「キョンからの報告はどうやらそれだけのようだね。他の件はどうなったのか聞かせてもらえないかい?まさか土曜日から仕事をさせるわけじゃないだろうね?」
「今日面接に来た人間も明日面接を行う人間も月曜からだと伝えてあります。まずは経理課からとお伝えしていましたが、やはり適材適所と言えそうですね。メンタル面も強い人間には人事部に配置するつもりでいますし、計算に弱い人間を経理課に配置するわけにもいきません。採用した人間にはこちらの圭一さんから月曜日に人事部に来るようにと伝えてもらうことになっています。今のところ報告できるのはそのくらいですね。ただ、店舗の方で店長候補が決まらない場合は、こちらの編集部にしばらく園生さんに入っていただいて指揮を執っていただきたいのですが、いかがですか?」
「それは構いませんが、各店舗の状況を聞いてからでないと……特に土日は混み合って人手が足りなくなるかと。社員も月曜から来るのであれば、青私でも対応が可能なのではないでしょうか?」
「それで?店舗の方はどうなんだ?」
「社員に昇格できる人はどの店舗でも出てきました。この土日は私たちが向かえば心配いらないです。社員になった人の給料については私がやります。履歴書をまとめて保管しているはずなので経理課で預からせてください」
「そういえば、データはあるが履歴書はオフィスに残したままだったのをすっかり忘れていた。この後取ってくることにする。例の機械をまた借りてもいいかね?」
「オフィスに行って履歴書を取ってくる程度であれば僕が行きましょう。経理課の机上に置いておきます」
「凄い……もう経理課課長として動いてるなんて吃驚した。午前中に練習するのもそろそろ無理そうだね」
「大学も受験せずに先輩たちの会社に入れてもらった私と青私じゃ大違いだよ……」
「涼宮社長。青OG三人は月曜からどうするつもりだ?」
「んー…そうね。あたしや有希の催眠をかけてビラ配りをして欲しいのと、支給する料理の手伝いかな。いまのところはね。それよりあんた、倉庫の方はどうだったのよ?」
「建物に触れるまでもなかった。ランジェリーのセット販売の小箱が山積み状態だ。すぐにでも東日本と西日本に分けた方がいい。ついでに、鶴屋さんのところの電話についてはもう心配いらん。遮音膜も外してきた」
「あんた、あたしはどうしたらいいの?月曜から異世界の食堂に入るってことでいいの?」
「そういえば、そうだな。青圭一さん、調理スタッフの希望者はいましたか?」
「まだ二人しか来ていない。念のため朝と夜も可能か聞く予定ではいるが、ホテルとして運営がスタートしないと食事を用意しても意味がないからね。とりあえずランチタイムに来るよう伝えるつもりだ」
「ツインタワーやスキー場の運営と変わりはない。足りないところは俺たちで補助すればいい。とりあえずこの後のことに集中しよう。それに、三人とも日曜日の午前中は水族館に行くぞ。イルカも見るし、海で泳ぐ。明日は泳ぐ練習だ。泳げなかったら、海も水族館も行けないからな。しっかり練習するんだぞ?」
『問題ない!』

 

 人材を募集するときはこんな状況になって当たり前。確定しているところから順番にこなしていけばいい。だが、三月号発売直後で倉庫の方はランジェリーのセットが入った小箱で山積み状態か。土日の注文のリストをチェックして青俺にピッキング作業を頼むことになるかもしれん。夜練の方は何度か変更があったものの、つつがなく進み、ライブの方は、ドラマに関連したパフォーマンスとそれに合わせたカバー曲でファンも熱狂。イヤリングとネックレスの件も催眠一つで解決し、有希、青佐々木、朝倉の三人がマイク付きヘッドホンで歌っていた。Glamorous ○kyの方は、序盤はハルヒのみ照明があたり、アルトパートが入ってから青みくるにもライトが照らされた。サビの部分でようやくステージ全体が照らされ、ハルヒと青みくるのWボーカルと妖艶な歌声とマイクを持った二人に魅了され、会場の視線が二人に釘付けになっていた。有希のギターソロの後の会場全体の盛り上がり方が半端じゃないな。タダでチケットをバラ撒くチケット屋と、観客に紛れて天空スタジアムに入ろうとするバカな報道陣は相変わらずか。異世界の方も注意しないといかん。
「有希、著作権の問題が解決しているのなら、Glamorous ○kyの方だけ動画サイトにUPしてくれないか?あれだけの観客がハルヒと青みくるに釘付けだったんだ。全国的に広めたい。Driver`s ○ighはドラマが終わってすぐの方が良い。月曜の第六話放送後かその翌日にUPしてくれ。どちらも、UPした後、大画面にも映して欲しい」
「問題ない」
「フフン、あたしと青みくるちゃんならちょろいもんよ!それよりあんた、またみくるちゃんの身体弄ったらしいじゃない!どういうつもりよ!?」
「前回のアレと一緒だよ。排除できるならそれに越したことはない。みくるにはハルヒやOG達にも伝えるよう頼んでいたんだ。おまえはどうする?」
「…ンットにもう!あんたのせいでみんなの女子力が下がったらどうするつもりよ!」
「問題ない。彼に抱いてもらっていればOG達のようになる」
「無駄な時間を浪費するよりは良いだろうと提案しただけだ。その様子じゃハルヒはつけなくてもよさそうだな」
「……つけなさい」
「……は?有希よりも小声で何を言っているのか分からん。どっちなんだおまえは!?」
「いいからつけなさいって言ってるの!あたしに恥ずかしい思いをさせるんじゃないわよ!このバカキョン!」
妻以外のOGも抱いていることに対して文句を言いだすかと思ったが、うまい具合にベクトルが変わったらしい。他の奴等は……どうなっているかな?
 本体はお腹が大きくなった佐々木にシャンプーをしてもらっている真っ最中。こんな状態でシャンプーや全身マッサージができるのか疑問になってきた。
「シャンプーしにくくないのか?」
「やり辛いとは思うけれど、週に一度しかこうすることもできないんだ。子供が生まれる直前までこうしていたいくらいだよ」
「みくる達も週に一度しかとは言うが、まだ一回もシャンプーできずにいる側室もいるんだ。おまえや青佐々木と交代で……とも考えたが、その様子だと無理そうだな」
「彼女たちには申し訳ないとは思っているけれど、キミもなるべく下に行くようにしていただろう?キミの身体を洗うのだけは私たちにやらせてもらえないかい?」
「ちなみに、ご主人様への貢献度はどうなったか聞いてもいいか?」
「そうだね、たとえやり辛くても私自身がご主人様にご奉仕したいと思えるようになった。これじゃ、答えになってないかい?」
「いや、充分だ」
「ところでご主人様、私にも催眠をかけてもらえませんか?」
「みくるも、ちゃんとみんなに伝えてくれたらしいな。シャンプーを交代したときにかけてやるよ」
結局、その夜は有希を除く妻とOG達全員に催眠を施して眠りについた。

 

 翌朝、報道陣が満員電車のように詰め込まれていたと異世界で話題になり、こっちは『奥義修得なるか!?零式改(アラタメ)まであと一歩!!』などと零式改(アラタメ)を連続成功させた妻の一点張り。レストランに入れなかった新聞社がここぞとばかりに一面を飾っていた。さっさと潰れてしまえばいいものを……やれやれだ。
「おや?皆さん雰囲気が変わりましたか?」
事情を知っている青俺を除いて、ゾーンに入れる古泉が女性陣の変化に気付いて尋ねていた。
『まぁ、ちょっとね』
「流石、古泉先輩!ちょっとした変化でもすぐ気付くことができるなんて!」
「どうやら、このような場であまり詰め寄ると、失礼にあたりそうですね。今聞いたことは忘れてください」
「しかし昨日は驚いた。OG達が黄ハルヒと同じタイミングで攻撃態勢に入れるようになるとはな。何かきっかけでもあったのか?今日の午後もあの調子でいけば監督も納得する。黄ハルヒもそっちに入ったらどうだ?今朝の新聞じゃないが、四人の師匠と言っても過言ではないはずだろ?」
「フフン、分かればよろしい。でも男子日本代表相手に闘うなんて言われたら誰にも譲れないわ!」
「女子の方は子供たちもいるから心配いらん。俺たちの方は今までは男子用のネットだったから、変な癖がつかないように敢えて攻撃には参加させなかったんだが、今日の午後は女子用の高さでやる。その間は攻撃にも参加するし、俺の方も日本代表レギュラー側でおまえらを潰しにかかる。場合によっては三枚ブロックもあるからな」
「それでこそ倒しがいがあるというものです!我々も遠慮なくいかせていただきます!」
「わたしも立候補すればよかったわね。途中で代わってもらえないかしら?」
「多分無理だろうな。コートから出ようなんて奴は一人もおらん。とにかく昨日打ち合わせをした通りだ。OG達を見に大勢押し掛けてくるだろうし、修行の成果を見せるには丁度いい。報道陣がコート付近にいた場合はアナウンスをかける。異世界支部の方もようやく発展できる時期が訪れた。コンサート後は俺たちだけでも祝杯をあげるか?やるなら料理は俺が用意する」
『問題ない』
おそらく、男子日本代表VSダイレクトドライブゾーンの記事が一面を飾るだろうが、ようやく残り四人のデビューが確定したようなもんだ。青OGも含めて69階ではテレパシーで会話をさせ続けていたのがようやく実った。これで六人で世界大会に挑める。あとは監督の目の前で見せつけてやるだけだ。しかし、土曜日ということもあるせいかやけに朝食を食べにくる一般客が多いな。念のため、キャベツの千切りが入ったザルをもう一つテレポートしておこう。

 

 本体が楽団のリハーサルを見に天空スタジアムに出向き、俺たちはタイタニック号の温水プールに来ていた。プールサイドに座った三人がそれぞれでカラーヘルパーを自分で結ぶ練習。青俺や青有希が子供たちの手を掴んで実際に紐を結び、二回目以降は「真似してやってみろ」と隣で見本を示しながらできるまで待ってくれていた。
「三人とも、この結び方ができるようになったら、今よりももっとカッコイイ靴が履けるようになる。これができないとモデルにはなれないぞ?」
『モデル!?キョンパパ、わたしモデルになりたい!』
「だったら、この結び方を早く覚えないとな」
時間はかかったが、なんとか結ぶことができたところで三人で拍手していた。泳いでいる最中に外れても閉鎖空間で足場を作ればいい。
『青有希、すまないが影分身を食堂の手伝いに向かわせてくれないか?朝食を食べにくる一般客がやけに多かったからな。体育館も先週のようなことにもなりかねない。支給する料理の方は現状維持の閉鎖空間で囲っておけば問題ないはずだ』
『分かった』
「よーし、準備できたな。まずは三人で水のかけ合いだ。よーい」ピッ!
「くっくっ、いつの間にホイッスルなんて用意したんだい?まさしく秘密の特訓だよ。水泳教室にも通っていないはずの三人がどうしてここまで泳げるのか不思議に思う子供たちも出てきそうだ」
ピピ――――ッ!
止めの合図として笛を鳴らしてみたが、三人とも手がピタリと止まった。運動会関係で聞き慣れているからかもしれん。そういや、運動会に弁当を持参したことはあっても双子が走っている姿は見たことないな。バレーもしているし、普通の子……どこまでを普通というのかは分からんが、中学校の部活のようにバレーに励んでいる子供たち三人が他の子に短距離走で負けてしまうとは考えにくい。小学校で最初の運動会は三人の活躍を見に行くとしよう。
「次、バタ足。膝しっかり伸ばすんだぞ?よーい」ピッ!
午後はバレーの試合だというのに、後のことなどまったく考えずに豪快にバタ足をする三人。注意したことがちゃんと出来ているからいいか。
「そこまで。じゃあ、ビート板を持ってこい。今度は泳ぐ練習だ。最後にまた勝負な」
『問題ない!』
ビート板を持って顔を上げたまま5m泳ぐこと三回、息継ぎをしながら泳ぐこと三回、距離を10mにして泳ぐこと三回を終えたところで時間も頃合い。前回と同じ勝負をして今日は終了。今回は幸に軍配が上がった。筋肉の差なのか双子より半年早く生まれたからなのかは俺にもよく分からんが、誰か一人だけ勝ってばかりというのも面白味に欠ける。切磋琢磨もいいが、負けた方はいい気分ではないからな。カラーヘルパーを自分で外すように指示を出してみると、三人とも簡単に解いてしまった。これは忘れないうちに練習させた方がいいかもしれん。来週からこの船でクルージングだし丁度いい。毎日練習させることにしよう。

 

『満席ぃ!?』
「私たちも午前中だけであんなに人がくるなんて思いませんでした。午後もキョン先輩にアナウンスしてもらわないと報道関係の人たちがコート付近に降りてきそうです!」
「道理で朝食を食べにくる一般客が多いわけだ。食べてそのまま体育館で良い席を陣取ればいいんだからな」
「入口にキミのサイコメトリー膜が張ってあるんじゃないのかい?」
「あまりにも変態度が高い奴ならオートで情報が飛び込んでくるが、無害な人間なら反応せずに通している。ちゃんと注意すればそれに従うってことだ。従わない場合どうなるかは言わずもがなってヤツだ」
「それより、あんた達午前中水泳の練習をしてて、午後はちゃんと試合に出られるんでしょうね!?足を引っ張るような真似をしたらコートから蹴り飛ばすわよ!」
『フフン、あたしに任せなさい!』
男子の試合に来る奴がどうやってこの三人を蹴り飛ばすのか聞いてみたいところだが、まぁいいか。
「それなら少し早めに動くことにする。異世界支部の人事関連は夕食のときでいいだろう。それとみくる、こっちの調理スタッフの面接が終わったら垂れ幕を外しに行ってくれるか?圭一さんは昨日『社員に任せる』と言っていたが、今日は社員が来ないことを俺もついさっきまでド忘れしていた。頼んでもいいか?」
「あ、はい!分かりました」
「私も彼に言われるまで気がつかなかった。すまないが、よろしく頼むよ」
影分身の情報結合をすべて解除して体育館へ。すでに満席状態の体育館に後から足を踏み入れたらしき報道陣がコートを囲むように何人も床に座っていた。やれやれ……
「報道関係者の皆様にお知らせいたします。練習試合の妨げになりますので、撮影は客席からお願い致します。コート付近への立ち入りは禁止とさせていただきます。尚、このアナウンスの後もその場に居座るような場合は、強制的に移動させ、今後一切本社への出入りを禁止させていただきますのでご了承ください。また、会場内で食べ物を食べる行為も禁止とさせていただきます。こちらについても、厳守出来ない場合は強制的に移動していただくことになりますので予めご了承ください」
先週と同じ内容に加えて観客にマナーをわきまえろと注意してみたが、果たしてこれがどうなることやら。「客席に移動しろと言われても場所がないだろ!」などと言い出しそうな奴もいたが、いい写真が撮れなかろうが俺たちにとってはどうでもいい。全員移動したのを見計らってエレベーターに乗り込んだが、俺がいなくなってからコート付近にのさばる奴が出るだろう。スカ○ターで体育館を監視しながらそういう輩を駆逐していった。
『全員に伝える。先週同様コート付近に報道陣が居座っていたから一度アナウンスをかけたが、俺がエレベーターに乗った後、元の位置まで戻ってきた連中がいる。スカ○ターで確認してそういう連中を排除した。加えて、飲み物を飲むのは構わないが、明日以降、食べ物を持ちこんで敷地内に立ち入ろうとする輩は入れないことにする。体育館で試合をしている最中にそういう奴等を見かけたら強制的に敷地外へテレポートさせてくれ。全員出入り禁止にする。人事部にもそのような電話が多くかかってくるはずです。明確な理由を突き付けてやってください』
『問題ない』
練習用体育館でも似たようなものか。妻の入るであろうコートに報道陣と観客が集中していた。これでは撮影は不可能だと判断した奴が床に座っていたが、生憎とそこは撮影場所じゃないんだよ。体育館と同様のアナウンスをして、従わない奴には本社出入り禁止通告をしてやった。練習試合前にストレスを試させられた分、派手に暴れてやる。

 
 

…To be continued