500年後からの来訪者After Future9-3(163-39)

Last-modified: 2017-01-29 (日) 12:36:59

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-3163-39氏

作品

カレーが無いと力が出ないという青有希の代役として、さも影分身したかのように演出した煙の中から古泉が現れ、難攻不落の三枚ブロックで日本代表と相対した。俺たちも日本代表選手たちもたった数時間の練習試合の中でも多くのことを学び、活用し、特に日本代表選手たちは次第に自信をつけているように見えた。野菜スイーツ食べ放題ディナーもいよいよ俺たちの出番。仕事に戻る青OG達の分を取り分けて、全員の品定めが始まった。

 

 相変わらず人参が入ったものをメインで選ぶ青圭一さんと、人参が入ったものは一切選ばない圭一さん。今日の給食で食べた人参が不味かったという幸も人参入りのケーキを選んでいた。厨房に立っていた影分身を明日の昼食の支度に向かわせて残りの影分身はカレー作りを継続中。ターメリックライスは焚き上がっているし、後はルーを仕上げるだけ。第三調理場を作ってそこでもカレールー作りをしたいところなんだが、夜練の時間は無理でも、シャンプー&マッサージの時間帯は作業を続けていたい。どうしようか迷った末、今作っている分はシャンプー&マッサージ中も作業が進められる分量。明日実際に配ってみてその後どうするか考えることになりそうだ。しかし、俺たちの分も用意しているせいというのもあるだろうが、今回も俺たちが来る頃に無くなってしまったなどというスイーツは無く、日本代表選手たちの人気スイーツは人参、カボチャ、ゴボウ、マンゴー辺りか。意外と人気がないのがトマト。生野菜と一緒に添えられているし、ミートソース、ケチャップ、ジュース等々、バラエティ豊富なはずの食材がどうしたことか他よりも減っていないな。次回以降は量を減らすことにするか。
「みくるもそろそろ食べたらどうだ?欲しいものが無くなってしまうぞ。お茶以外はOG達に代わってもらえ」
「はぁい」
「でもキョン先輩、有希先輩たち、あんな状態ですけど大丈夫なんですか?」
OGに促されて視線を向けると、皿には大量の野菜スイーツが盛られているにも関わらず、頬をテーブルにあてて突っ伏していた。そんな状態でチョイスしたものが食べられるのか?
「『カレーでないと喉を通らない』と態度で示しているようなもんだ。放っておけばそのうち空腹に耐えきれずに食べるだろ。あぁそうだ、さっき話題に出たから六人にも伝えておく。次にカレーが出てくるのは双子の卒園式の日、三月三十日だ」
『三月三十日ぃ!?』
「そんなに待たなきゃいけないんですか!?」
「有希の一言で二ヶ月に延長になっただろ?祝い事も卒園式と青OGの退職くらいしか無いからな」
『ホワイトデーがあるじゃないですか!!』
「その日はチョコレートケーキを振る舞う。子供たちもケーキを食べるチャンスがなかなか無いからな」
『聞かなきゃ良かった……』
「他の連中も同じ気持ちだよ。あの二人、いや佐々木たちを入れて四人か。アイツ等が改心すれば考えてやらんこともないが、周りも迷惑してるってのに、未だにあんな状態じゃあな」
「ハルヒ先輩たちも結構ガツン!って感じで怒ってましたけど、のれんに腕押しっていうか……」
「効果が見られないのは確かだな。それで、そっちのカレーの件はどうなった?ちゃんと断れたのか?」
「一応引き下がったんですけど………『カレーが食べられる日が分かったら教えて』なんて返事が返ってきているので、もしかしたらキョン先輩にガンガンアプローチしてくるかもしれないです」
「六人揃って平日に休みを取ったりはできるのか?もう全員の前で公言した以上、三月三十日は絶対だ。あそこにいるカレー○ンマン一号二号と違って待っていられるだろ?三号と四号の言ってる禁断症状とやらも出ないだろうしな。何せ、一回も食べてないんだからな」
『カレー○ンマン三号と四号!?』
「って、あぁ、佐々木先輩たちのことですか。でも、あんまりこっちから連絡しない方がいいかもしれないです」
「アイツ等と同じく、あんまり甘やかすなってことか。分かった、また何か進展があったら教えてくれ」
『問題ない』

 

 OGたちは「問題ない」で済んでも、それを真似された方は間違いなく「問題あり」だな。
「ちょっと有希!自分で皿に盛った分くらい自分で食べなさいよ!」
「今は駄目。さっき食べた軽食が消化されないとお腹が空かない」
「……すみません、今のは本当に有希さんの発言ですか?彼女が少食になったなんて、とてもではありませんが信じられません。また予知が覆る気がしてなりませんよ。天変地異どころでは済まされません」
「問題ない。彼だけはわたしが守る」
「そんな状態で宣言されても、頼りがいがあるとは到底思えないんだが?弾よけにすらなりそうにない」
俺も自分で作ったものをいくつか摘んで食べていたものの、いくらみくるの煎れたお茶で口の中をリセットしても甘さに耐えきれずリタイア。エージェント達も空腹分を満たした時点で自室へと戻っていった。大食い芸能人10人がかりでも敵いそうにない有希を欠き、ハルヒ達もついにギブアップを宣言。最後まで手をつけることの無かった有希の皿と野菜スイーツの残りを81階にテレポートした。
 シャンプーとマッサージを終え、寝静まった妻やOG達の寝顔を見ながらカレーの仕上げ作業。本体はスカ○ターでジョンの世界の様子を見ながら金塊の仕分け作業を続けていた。土日にOGの母親が来る以上、この金塊を見せるのは月曜日あたりになりそうだ。ジョンの世界で製本作業ができるのも今日を入れて残り四回。影分身を使っているメンバーは変わらずだが、やろうと思えば影分身を情報結合できるだけの実力はついているかもしれないな。サイコメトリーでの確認作業が無くなり、情報結合一回に付き50部単位で作れるようになった。影分身で人数を増やすより、一人で情報結合した方がいいんじゃないかという現状ではあるが、時間の問題だろう。今は10部ずつでも影分身一体につき50部、100部と増えていけば一気に形勢が逆転する。ジョンと朝倉は青俺相手にバトルを繰り広げ、古泉は青朝倉や岡島さんを交互に観察しながら采配を読む訓練をしていた。青ハルヒも双子と競うかのように奮闘しているが、空回りの連続でまだまだ先は長そうだ。

 

「すまん、遅くなった」
『キョン!』
「遅いわよあんた!古泉君も青あたしもずっとあんたのこと待ってたんだから!」
「スカ○ターでここの様子は見ていた。二人ともただ待っていたわけじゃないだろ?青俺と代わってくるが、さっき話していた試合でいいのか?」
「ええ、朝倉さんのところに鶴屋さんが入っていただけることになりました。まずは我々がハルヒさん達と対等に渡り合え無ければOG達の練習試合の相手にすらなれません」
「古泉先輩、そこまで気にしなくても……」
「理由の一つであることに間違いはないだろうが、他にも色々と試したいんだろ?長話をしている暇はなさそうだ。すぐ、青俺と代わってくるよ」
「とてもじゃないけれど、そんな決闘のような試合に僕なんか参戦できそうにない。横からじっくり拝見させてくれたまえ。審判くらいは僕でもできそうだからね」
少しずつだが、佐々木たちも話すようにはなったようだ。有希は無理矢理コート内に引きずり込まれたらしいな。青有希がここに来ていないのが気になるが、アイツのことは青俺に任せよう。ジョンの世界に来るのが遅かったのか、バトルに夢中になっていたからなのかは俺にも良く分からんが、しばらくもしないうちに『ニュースの時間だ』と告げられ、全員がモニターの前に集まった。
「昨日の三枚ブロックがどう報道されるのかずっと気になっていたんですよ。有希さん達のカレーではありませんが、この瞬間をどんなに待ちわびたことか……」
「一面はあたしで決まりよ!ずっと試合に出てたんだから!!」
「昨日は色々とあったからな。ハルヒや古泉の期待している通りにはいかない気がするぞ?」
「どういう意味よ!?」
「OG達に報道陣が集まっていたし、そっちの試合も撮影されていただろ?黄俺の零式改(アラタメ)のことも考えると、各社、何を一面にしようか悩むんじゃないか?三枚ブロックも当然あるだろうが、バラける気がしてならない」
「くっくっ、だったら確かめてみようじゃないか。キミの予測が合っているかどうか、僕も楽しみになってきたよ」

 

 モニターに映った各局のニュースの中から、新聞記事の一面を話題にしているチャンネルをいつものようにジョンがセレクト。三枚ブロックに参加したメンバーが食い入るようにモニターを見ていた。
「どうやら、彼の予想通りだったようね」
「あたしの背中しか写ってないってどういうことよ!!」
「三枚ブロックを強調しようとすれば背後からの写真になって当然です。正面からではネットで顔が隠れてしまいますからね。それにしても驚きました。僕が影分身の印を結んでいるところまで掲載されているとは予想外ですよ」
「あれ?キョン、わたしのネックレスに催眠をかけたんじゃないの?」
「さすがにインタビューのときまでブラックアウトするわけにはいかない。昨日はその間だけ解除したが、世界大会のときは自分で催眠をかけたり、解除したりする必要がでてくる。やり方はあとで伝えるからやってみてくれ。折角の大舞台なのに、自分がカメラに映らないなんてことになりかねん。俺たちだって試合の様子をTVで見たいし、俺がずっとついてまわることもできないしな」
「相変わらず、配慮が隅々まで行き届いていて感服しますよ。催眠のことは事前に聞いていましたが、OGがインタビューを受けている場面を見てもまったく気が付きませんでした。しかし、六人の写った一面を見る限り、女子日本代表のアイドルユニット的な存在になりつつあるようですね。昨日、朝倉さんから指摘を受けたことが節穴の眼でもようやくはっきりしました。あなたがプレゼントしたアクセサリーがOG達を一層引き立てているように見えますよ」
「あら、一度落としておいて、そのあと持ち上げるなんて女性を口説くのが上手いわね。園生さんもそうやって自分のものにしたのかしら?」
『プッ!』
「これは手厳しいですね。口説くという程のことを言ったつもりはないのですが……写真を見て思ったことを口にしたまでですよ」
そのセリフすら口説き文句に聞こえるが、今のは本人の言葉通り、思ったことを口にしたんだろう。それでもOG達の気分は上々。口元が緩んでいたが、それを隠そうとする素振りすら見せなかった。本社を訪れて、体育館でOG達の試合を見にくる客もこれから増えてきそうだな。青俺の予想通り各新聞社の一面記事の内容はバラけたものの、一番多いのはやはり三枚ブロック。各社の見出しは『難攻不落の三枚壁再び!古泉一樹驚愕の影分身!!』、『集中力の差!?零式改(アラタメ)に日本代表撃沈!!』、『六人で再び世界大会へ!キョン社長からのプレゼント!』、『三枚壁に完封負け!監督「得たものは大きい」』等。完封されたことを記事にした新聞社も、監督のコメントもあってか日本代表を批判した文面にはならず、選手たちの今後の成長に期待を込めた記事が書かれていた。「習得するまでにかなりの修錬を要するが、タネさえ知っていれば誰にでも影分身のパフォーマンスが可能」だと俺から説明しておいたし、零式改(アラタメ)のことも、「前回は最初の二セットで集中力を使い果たしていたからだと仲間から指摘された」とコメントした結果がこの見出しだ。VTRは監督と俺のコメント、そしてOG達六人へのインタビュー、三枚ブロックの試合を編集したものと、零式改(アラタメ)を撃った場面はそのまま映像が流れ、五本目に通常サーブを放って慌てふためいていたシーンも入っていた。加えて三度セッター(俺)を狙ったエースのスパイクと子供たち三人を入れたダイレクトドライブゾーン。美姫と交代した古泉が影分身を解除したかのように消える場面も収録されていた。もう少し他のニュースに時間を割いてもいいだろうに……余すところなくというのが表現として一番ふさわしい。OG六人に対するインタビューではダイレクトドライブゾーンの習得のことも聞いてはいたが、六人のネックレスやピアスと青みくると色違いのエンジェルウィングのネックレスについて深く掘り下げられていた。予め伝えておいた通り、「みくる先輩より先に、キョン『先輩』から貰ったもの」だと話し、今まで付けなかった理由についても「みくる先輩が歌ったあのバラード曲に合ったネックレスのデザインがこれしか思いつかなかったと私に謝ってくれました。そこまで気にしなくてもいいのにって思っていたんですけど、ずっと申し訳なさそうに思ってくれていました」とコメント。これでどちらのネックレスも堂々と公開できるし、インタビュー時以外ブラックアウトすることについても、俺のパフォーマンスで説明がつく。
「おっと、また身支度の時間にくい込んでしまったようですね。一通り確認できましたし、我々もそろそろ起きましょう。圭一さん達を待たせることになってしまいます」
古泉の一言を受けてジョンの世界を後にした。今回も園生さんからテレパシーが届いたんだろう。

 

 身支度を整えて81階に赴くと、園生さん達が先ほどのニュースをモニターで見ていた。俺たち以外のメンバーが出揃ったところで、どうやら古泉がモニターに映し出したらしい。
「完封したことは聞いていましたが、昨日のバレーの試合だけでここまで内容の濃いニュースになっていたとは思いませんでした。一樹より私の方が早く起きた理由も納得できます」
「あの……待っててくれた皆さんをこれ以上待たせるのも申し訳ないですし、食べ始めませんか?」
みくるの一言を受けて、朝食に手をつけ始めた。異世界支部の調理場では二回目のカレー作りをスタート。68階に第三調理場も設けて10体以上の影分身がみじん切りの玉ねぎを炒め始めている。それを敏感に察知した青有希がテーブルに突っ伏していた。勝手にフロアを模様替えして第三調理場にさせてもらったが、全シェルターにカレーを届け終えた時点で元に戻せばいいだろう。ハルヒと青有希、母親に料理を届けてもらうことを全員の前で話していたが、影分身の使えるハルヒと青有希がいれば十分だ。
「有希さんがこんな状態ってことは……黄キョン君、もう次のカレー作りを始めているのかしら?」
「ああ、同じ鍋で作った方がより熟成されたものになるし、カレーを配り終えてから取り掛かりたかったんだが、例の予知の日時までに配り終えるとなると時間が無い。別にそこまでこだわることもないとは俺も感じているんだが、他のシェルターの人間と連絡を取り合ったり、この時間平面で言うところのFace Bookのように日記をサイトに掲載したりなんてこともあり得る。時間がかかる上に、一度に作れる量も限られているからな。早々に配り終えてしまいたいだけだ」
「カレー作りはいいけど、あたしや黄古泉君が仕込みをする場所は残してあるんでしょうね!?」
「勿論だ。特に異世界支部の81階は是非使ってくれ。カレーを配り終えるまでは、俺も99階で昼食の準備をするつもりでいる。それと、昨日の野菜スイーツがまだ残っている。現状維持の閉鎖空間をつけてあるから劣化したり腐ったりすることは一切ないが、早めに摘んで食べてくれ。おやつ代わりにしてもらっても構わない。ところで有希、自分で皿に盛った分くらいは食べられるんだろうな?」
「問題ない。でも、時間がかかる」
「あんた、楽団の練習には参加しなさいよ!?」
「分かった」

 

「おい、有希!昨日は練習試合に出ていたから仕方が無かったが、今日からまたビラ配りだ。早く食べ始めろ!」
「うー…ん、もうちょっと待って……ビラ配りには行くから………」
「言い忘れるところだった。生放送もそうだが、俺はカレーを作り終えるまで夜練には出るが試合には出られない。明日と明後日は子供たちも試合に参加するし、出たいメンバーで参加してくれて構わないんだが……14日と16日については、この場でメンバーを決めてしまいたい」
「16日は分かりますが、14日のメンバーを決定するというのは僕にもあなたの意図していることが分かりません。一体どのような目算なんです?加えて、16日についてはオフシーズンですからOG六人だけでも十分かと」
「うん、それ、無理。彼女たちもそうだけど、こうなった以上、日本代表にもダイレクトドライブゾーンを習得させるまではわたし達も抜けられそうにないわよ。でないと、ここぞとばかりに報道陣が批判してくるに違いないわ。それに、昨日みたいな三枚ブロックを監督からお願いされるんじゃないかしら?」
「はぁ!?今まで散々あたし達に迷惑かけておいて、逆恨みしてんじゃないわよ!」
「あら?涼宮さん、オフシーズンになったら練習試合に参加するって言ってなかったかしら?」
「夕方には子供たちも加わるし、OG達に加えて二、三人出るだけで済むだろ」
「しかし、セッターに困ってしまいます。彼は調理に専念しますし、黄有希さんも今のような状態ではまず不可能です。16日は僕も試合には出られませんし、美姫さんが加わることができるのは平日の夕方と土日のみ。セッターがOG一人では昨日のようなことが起こりかねません」
「キョン先輩みたいなプレーは私にはできそうにないです!」
「くっくっ、そういうときにこそスイッチ要因の出番じゃないのかい?味方からの攻撃的なレシーブを上げるわけじゃないんだ。セッターが狙われたときは素直にスイッチすればいい。それに、ダイレクトドライブゾーンを習得するのが目的なら、昨日のようなプレーはしてこないんじゃないかい?キョンに対策を立てられてしまったし、見本が見られるチャンスをみすみす見逃すような真似をするとは思えない。生放送での試合はそうでもないかもしれないけれど、僕たちからセットを勝ち取りにくる以外は心配いらないよ」
「オンシーズンに入ってから、ENOZの皆さんは新曲作りであまり試合に出ていませんし、生放送の試合前に少しでも試合に慣れておいた方がいいんじゃないですか?戦力にはなりませんけど、わたしも試合に出ます!」
「ということであれば、16日の方は心配する必要はなさそうですね。人事部が忙しくなるようなことが無ければ、スイッチ要因として僕も出場させてください。ところで、いい加減話してもらえませんか?14日の出場メンバーを決定する理由を」
「青古泉から出たセッターの話も絡んでくるが、最終日の練習試合で俺がやりたいのは、相手がダイレクトドライブゾーンを仕掛けてきても、こちらは通常のクイック技やバック、ブロード、時間差攻撃で対応して、できるだけラリーが続く試合をしてもらいたい。一人はコートの中にずっと居てもらうが、他の五人については入れ替えをしても構わない」
『はぁ!?』
「あぁ、そういうことですか。生放送で出られるかどうかも分かりませんし、オンシーズンのうちに見せておきたい。それまでに少しでも修練を積ませるんですね」
「ダイレクトドライブゾーンを使わずにラリーを続けろっていうのなら、僕にもできそうな気がするけれど、キミは一体何をするつもりだい?」
「青私もどういうことなのか教えて!」
「簡単。黄キョン先輩のように、零式が撃てる『司令塔』になったことを監督の目の前で見せつける」
「えっ!?ってことは、最終日にコートの中にずっと居てもらう一人って私のこと?」
「なるほど、ようやく僕にも分かりましたよ。あなたの目算が。男子日本代表を相手にするのならダイレクトドライブゾーンを使ってもいいでしょうが、女子日本代表が相手ではラリーを続けて迷いが出るようにならないと采配が読めないということでしたか。しかし、ダイレクトドライブゾーンを相手にラリーを続けろというのも、またかなりの難題を振ってくれますね。加えて、ダイレクトドライブゾーンに迷いなんて出てくるんですか?」
「どちらも、俺が昨日話したハルヒ達六人のダイレクトドライブゾーンには到底及ばない。セッターを除く五人の反応がまだ遅いってことだ。それを生放送までの練習試合で互いに鍛えていくとどうなるか考えてみろ。反応が次第に早くなって攻撃に参加できる奴が増えてくれば、今度はセッターが誰に上げようか困ることになる。古泉も含めて、二人とも男子日本代表の采配なら簡単に読むことができた。今日は午前中で電話対応さえ沈めてしまえば、午後の練習試合には古泉も出られる。今日から13日まではなるべく二人が試合に出て、采配が読めたときはテレパシーで他のメンバーに伝えればいい。試合中の会話もテレパシーで行えば集中力は更に伸びる。人事部にはOG六人への取材、番組出演依頼、アクセサリー関係の問い合わせが殺到するはずだ。青古泉が異世界支部の電話対応にまわるのは15日から。それまではこっちの人事部で対応して試合にも出てくれ。昨日は体育館にいた人間全員の目の前で影分身を見せているから、エレベーターから古泉たちが降りてきても、もう双子疑惑は出ない。ドラマの視聴者プレゼントのシャンプー&カットでも、影分身が使えるようになるはずだ。視聴者プレゼントの人数を増やしてもいいくらいにな」
「フフン、そういうことならあたしが出ないわけにはいかないわね!日本代表選手を鍛えなきゃ駄目ってことじゃない!」
「そこまで考えてくださっていたとは、たいへん恐縮です。午前中のうちに取材の電話を片付けて、青僕と二人で堂々と試合に臨むことにします!今日のおススメ料理の仕込みは既に終えていますので、その件に関しての心配はいりません」
「黄僕と同じチームで試合をするのはジョンの世界でしか不可能だと思っていましたが、まさかこんな日が来るとは思いませんでしたよ。視聴者プレゼントの件も再アフレコの必要がありそうです。確か、人数のことを話していたのは涼宮さんの方だったと思いますが、間違いありませんか?」
「あたしで間違いないけど、黄古泉君、本当に人数を増やしても平気なの?」
「週末に集中するでしょうが、時間帯を変えてご案内すれば問題ありません。影分身ありで良いのであれば、50人くらいなら他の仕事に支障をきたすことは無いでしょう。目立った行事もありませんからね」
「キミがそういうのなら映像を編集し直して、涼宮さんに再アフレコしてもらうことにする。キョン達が夜練に出ている間に収録して明日TV局に送れば差し替えてくれるはずさ」
「あれ?今日って金曜日ですよね?アラームなりましたっけ?」
『!!!』
「くっくっ、子供たちもバレーの試合の話に夢中だったからね。テレポートしても間に合いそうにないよ。一体どうしたんだい?」
「クソッ!携帯の電池が切れていた。とにかく、有希も黄有希もこんな状態だし、双子は俺が連れていく。有希、小学校に遅れることを伝えておいてくれ。そのくらいならできるだろ?三人とも、行くぞ!」
『問題ない!』「も……問題ない」

 

「ちょっと!有希さん、早く小学校に連絡しないと、あの子が先に着いちゃうわよ!?」
「わ、分かってる……でも、もうちょっ…と」
「じゃあ、俺とジョンはこれで未来に行ってくる。何かあれば99階にいる影分身に連絡してくれ。カレーを配り終わっても、時間ギリギリまで建物の修復作業をしてくるつもりだ。ちなみにさっき話した双子疑惑の件だが、古泉と青古泉同様、みくるや佐々木達も二人で別行動していても怪しまれることはない。俺と青俺、有希と青有希は元から別人だと認識させているから平気だし、圭一さんが人事部の社員の前で影分身してもパフォーマンスに耐性のついている社員ならそこまで気にされないはずです。ただし、ハルヒと青ハルヒだけは同時に出ることができないからそこだけは十分注意をしてくれ。青ハルヒが影分身をして三枚ブロックに跳んだり、調理を進めたりする分には問題ないはずだ。じゃあ、後を頼む」
すぐさま席を立ったのは……ほぼ全員だが、エレベーターで仕事に向かったのは新川さんと圭一さんの影分身。それにエージェントの影分身もテレポートして仕事に向かっていった。ハルヒは有希を急かし、青朝倉は青有希の携帯を頬にあてている。残りのメンバーは会議中に席を立つわけにもいかなかったといわんばかりに野菜スイーツの並んだテーブルを囲み、品定めをしていた。昼には無くなっているだろう。しかし、あくまで俺の個人的な予想だが、あの時間平面上の人々にこれだけのカレーを届けても精々シェルター二つ分しか配れないだろうとは思っているんだが、二つ目のシェルターでカレーを配っている最中に無くなってしまっては、あの四人の分が無くなってしまう。シェルターに行く前にあの四人に振舞うとしても、時間的にも昼食を終えてすぐのはず。もっとも、そんなことを言ってしまえばシェルターの方も似たような状態であることには変わりはない。
『カレー好きのあの二人には到底敵わないが、同位体の朝倉涼子ですらあれだけのアクションを起こす程のカレーだ。あの時間平面上の俺も、俺の仲間も軽く平らげてしまうはずだ』
なら、四人にカレーを振る舞ってからシェルターだな。修行場所に連れて行ってくれ。
『分かった』

 

 時間跳躍後、閉鎖空間を解除すると、ジョンと俺の影分身たちが建物の復旧作業に向かった。その間に情報結合した紙皿と紙スプーンで、まずはこの時間平面上のジョン達に振舞い、シェルターへと移動。テレポートで現れた俺にシェルター内の人間の視線が集まったが、驚いているような者は誰一人としていなかった。超能力者が当たり前の時代なんだ。それも当然か。「食べ物の支給をしに来た」と一言告げると、それだけでシェルター内に活気が溢れ、情報結合したテーブルの前に一列で並び始めた。シェルター内に充満していくカレーの匂いに喉を鳴らす人もいれば、青有希のように涎が垂れて服の袖で拭っている人、それすら気にせず順番が来るのを待ちきれずにいる人、カレーを一口食べて叫んでいる人、涙を流している人、カレールーを一舐めして興奮している人。こういう光景が目の前に広がると「丸一日かけて作った甲斐があった」と思える。シェルター内の全員に配り終えたあと、二杯目を要求してくる人達で囲まれたが、「他のシェルターにも支給しに行かなければならないから」とたしなめて一つ目のシェルターを後にした。例の四人と一つ目のシェルターに振舞っただけで用意したカレーの半分近くが無くなった。寸胴鍋一つ丸ごと余りそうだが、次に来るときまで保存するに決まっている。俺が帰ってすぐ有希たちが寄ってくるようならアイツ等だけ一ヶ月延長だな。二つ目のシェルターをまわり、例の四人には「次の分を作っている最中だから、今度来たときにまた振る舞う」と約束して六人+影分身で復旧作業。このペースなら復旧作業自体は次回で終えることができそうだ。カレーの方もあと三回ってところだな。
『余ったのならわたしにも食べさせて!』
案の定、様子を見てやがったか。コイツのせいでもう一ヶ月延長だと、カレー○ンマン一号に死の宣告をしようかとも思ったが、まぁいいだろう。
『なら、今回だけ特別だ。シェルター内の人達と同じ一人前だけ、この件に関して絶対に同期しないと約束でき…』
『問題ない!』
言いきる前に三人揃って返事をしやがった。

 

 やれやれ、人生ゲームをゴールから逆に辿っているような気分だ。未来のみくる、有希、古泉のいる時間平面で一度止まってカレーを振る舞うというとんだイベント……もとい、寄り道をさせられたが、何とか昼食前に戻ってくることができたようだ。「次は俺の時間平面上で三月三十日だ」と念を押しておいたし、今作っている分は食べられないことをはっきりさせた。これ以上アプローチを仕掛ければどうなるかも分かっているはずだ。いつもの会議室に戻ると、野菜スイーツは有希が皿に盛った分以外はすべて無くなり、朝食の皿もすべて片付けられていた。足でサイコメトリーした情報によると、女性陣が有希に駆け寄り、食べないのなら分けて欲しいと言い迫ったが、それを拒んで朝食と野菜スイーツの半分を食べて残りは昼。皿洗いは有希と青有希の影分身で片付けたらしい。電話連絡も無事に済んで楽団の練習やビラ配りにも行ったようだし、情報を同期して影分身たちの士気を上げておこう。ビラ配りチームが戻ってきたところで昼食をテレポート。配膳が終わる頃には全員が揃っていた。
「既に何人かには話をしたんだが、私の方から一つ大きな報告がある」
『大きな報告?』
「野球の試合ならあたしの携帯に直接連絡がくるはずだし、それ以外に大きな報告なんてあるわけ?」
「黄私たちに芸能プロダクションから勧誘が来たとかだったりして」
「ああ、それも何件かかかってきたが、男子日本代表が今の場所での合宿を終えたら本社に来たいそうだ」
『えぇ――――――――!!』
「冗談のつもりで言ったのに、本当にそんな電話があったんですか!?」
「どれも六人組のアイドルグループとしてデビューさせたいという話だった。楽曲は向こうの方で用意するから曲に合った衣装はこちらで作って六人に踊って欲しいそうだ」
『私たちがアイドルデビューですか!?』
「ファッション会社に衣装を任せるのは当然として、午前午後と練習して夜練まであるのにダンスの練習をしている暇なんてあるわけな……あるか。ジョンの世界で練習するかこっちのOGに出てもらえばいい」
「あんたバカ?芸能プロダクションなんかに移籍しなくても、SOS団やENOZみたいにこの会社に所属したままデビューすればいいじゃない!広報担当なら黄古泉君がやってくれるし、黄あたしと黄有希で楽曲を作ればいいわよ!」
「ええ、ですから丁重にお断りしておきました。今はそんなことを考えているような場合ではありませんし、デビューさせようと思えばいつでも可能です。すでに朝倉さんはOG六人をモデルに、四月号をどんな形で発刊するのか構想を描いているはずですよ?いきなりテレビに出演するよりも、まずは冊子等で様子を見てからでいいでしょう。何せグループ名すら決まっていないんですからね。ENOZのように六人のイニシャルを並び変えて……」
「一樹、言っていることが矛盾しているわよ?『今はそんなことを考えている場合ではありません』と言っておきながら、あなたが彼女たちの先の構想を練ってどうするの」
「おっと、これは失礼を。では、事の全貌を圭一さんから話していただくことにしましょう」
「男子日本代表のマネージャーからの連絡だった。今の女子日本代表のオンシーズンが終わった二月十五日から、練習用体育館でいいから使わせて欲しいそうだ。明日来る予定の彼女たちの親ならまだ空きはあったんだが、男子日本代表チーム全員となると、いくらこのビルのホテルフロアでも収まりきらないと私の方から伝えたんだが、それなら宿泊施設は他の場所にするから、ここで練習させて欲しいとのことだ。男子日本代表の方もダイレクトドライブゾーンの練習をしているそうなんだが、君たちと闘っている女子日本代表と比べて成果が見られないから直接闘ってみたいらしい。加えて、君を司令塔に据えたあの三枚ブロックの練習と夜練への参加が目的だそうだ。男女合同になることもあるかもしれないからと、女子日本代表の監督には既に話しているそうだ。あとは君たち次第だが、どうするかね?」

 

『面白いじゃない!そんなにあたし達と勝負したいって言うのなら受けて立つわ!』
「ちょっと待ってください!夜練に参加するだけでもキョン君たちの負担がさらに増えることになります!」
「いや、どうやら古泉たちも夜練に参加してくれるらしい。でなければ、そんなに浮かれた表情をするわけがない。古泉の方は鈴木四郎の催眠をかけて、自分自身の超能力とコーティング、それにゾーンで変化球も投げる。青古泉の方もすべての球体を纏えば200km/hくらいは簡単に出るだろう。今泉和樹はストレートしか投げられない設定だからな」
『200km/h!?』
「ええ、今夜ジョンの世界でそれを確かめる予定でいます。男子の日本代表相手なら僕も彼女も采配が読めますし、今朝彼の提案したプランも十五日以降、男子日本代表を相手にすれば監督も確証が持てるはずです。『世界大会で司令塔としても活躍できる』とね」
「確かに監督に確証を持たせる絶好のチャンスだ。しかし、色々と考えないといけない事が多すぎる。宿泊施設なら、この建物の斜め前にビジネスホテルがあるから、おそらくそこになるだろう。朝食と夕食はそこで食べることになる。だが、ランチタイムはどうする気だ?社員や楽団員、女子日本代表チーム、それに一般客までいるんだ。その状態で更に男子日本代表チームも入れるつもりか?」
「朝倉さんや黄有希さんのおでん屋のように、五階にどこ○もドアを設置して異世界の15階と繋ぎます。おでん屋と同様、エレベーターの入口や窓はすべて壁紙を貼り付けて隠してしまえばいいでしょう。調理スタッフは新たに募集をかけて、あなたのご母堂にチーフとして入っていただくだけです」
「おでん屋と違って、どこ○もドアが報道陣の眼にも映ることになる。その対応は?」
「その周辺だけ報道陣にはブラックアウトして見える閉鎖空間をつけるだけです。当然カメラにも映りません。……というより、答えが分かっていて質問していませんか?」
「全員が把握していないと意味がない。それだけの多人数を抱え込むことになることを、きちんと理解してもらうためだ。古泉、金曜はゾーン状態で夜練に出ながらおススメ料理の火入れをすることになる。来週からそれが可能か?」
「男子の方は当分ストレートのみになりそうですからね。お二人のようになるべく少ない意識でゾーン状態に成れるよう彼女と二人で更に集中力を磨くことになるでしょう」
「来年度以降のオンシーズンはどうするつもりだ?俺たちは男女両方の試合に出るのか?それとも男女でオンシーズンを分けるか?特に来年の二月は、週末はすべて新川さんに任せるのか?一般客が入れなくなってしまうぞ」
「そう言われてみればそうね。男子の日本代表チームだってディナーを食べたくなるわよ。黄キョン君の言う通り、男女ともオンシーズンに入るのも、四週間オンシーズンが続くのも厳しいんじゃないかしら?結局一番負担がかかるのは黄キョン君と黄古泉君と涼宮さんじゃない!いくら影分身が使えても、異世界支部の運営のことまで考えなくちゃいけないし……」
「かといって、黄ハルヒが黄俺のために覚えた五ヶ国語のように、そう易々とサイコメトリーしていいものでもないだろう。俺たちは俺たちのできることをやるしかない。有希もいつまでそんな状態を続けるつもりだ!?カレーの食べられる日が確定したんだから、いい加減立ち直れ!おまえだけ更に一ヶ月延長になってしまうぞ!それでもいいのか!?」
「それだけは駄目。……でも力が入らない」
「おまえらがそんな状態だから黄俺が力の付きそうな昼食メニューを考えてくれたんだろうが!肉を食え、肉を!」
『ご馳走様。僕はお腹いっぱいだよ。でも、こんな肉は今まで食べた事がないな。何の肉なのか教えてくれない?』
「くっくっ、相変わらず国木田君を連想させる声と口調で驚いてばかりだよ。でも、僕も彼と同じ疑問を抱いていたんだ。僕たちにも説明してくれないかい?」
「そういえばそうね。美味しかったけど、あたしも初めて食べたような気がするわ。羊でも無さそうだし、鹿?」
「いや、白熊だ」
『白熊ぁ!?』

 
 

…To be continued