500年後からの来訪者After Future9-7(163-39)

Last-modified: 2017-02-02 (木) 21:09:37

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-7163-39氏

作品

期限の前日までに製本作業を終えることができ、OG12人もジョンの世界で生放送前最後の練習に加わることとなった。土日続いたOGファンの襲来に良い映像・写真が撮れないとしてベンチの後ろやコートの外を報道陣が占拠。翌日のニュースや新聞の一面記事がどうなろうと俺たちの知ったことではない。アナウンスで注意喚起をして、それでも居座った奴に関してはテレポート後、敷地内出禁とした。子供たちの泳ぐ練習、ほとんどのメンバーがタイタニック号の温水プールを満喫していたのだが、OG全員に取り付けたアレ対策を妻に付けていない事を思い出し、100階に来る妻たちには俺がつけるとして……青有希についてはみくる達に相談することにした。

 

 100階のシャンプー台の一つに俺とハルヒ、有希、みくるの四人と俺の影分身が二体。俺のシャンプーとマッサージの担当はみくる。
「わたしが先に洗います!」
という一言を拒む理由もなく、俺とハルヒ、有希がシャンプー台に横になっていた。
「それにしても、みくるちゃん達、本当にクロールより背泳ぎの方が早いなんて思わなかったわよ!でも、あれはあれでどうかと思うけど……社員や楽団員たちが居たら間違いなく釘付けになるわよ!?」
「だろうな。俺は子供たちの練習に付き合っていたから見ていないが、大体の予想はつく。次に水着の特集をやるときの表紙はみくるの背泳ぎシーンを撮影したものを掲載したらどうだ?」
「えぇ~~~~っ!そんな表紙になるんですかぁ!?」
「問題ない。三度目の480万部もあり得る。バストサイズの大きいあなたの方がベスト。撮影に付き合って。それに来月号は場合によっては涼宮ハルヒよりOGのウェディングドレス姿を載せた方がいい場合もある。朝倉涼子と検討しておく。ファンクラブを結成するのも一つの手」
「そっ、そんなぁ……」
「有希がそこまで言うんだから間違いないわよ!裏表紙はOG達で飾ればいいわ!でも、一番人気が誰なのか分からないのよね。昨日と今日は青あたしが練習に出ていたから……あんた知らない?」
「今日は報道陣がコート付近で撮影しようとしていたし、客席が全部埋まっていたからそこまでは分からん。ただ、2:4に分かれたのに、やけに二人の方に観客が集まっているとは思っていたな」
「ってことはあの二人のどちらかってことになるわね!でも、アクセサリー関係で見るなら、やっぱりあの子かな。青みくるちゃんと色違いのネックレスにそれを縮小したピアスなんて、あんた以外に作れないし、販売できないわよ!」
「俺もそんな気がしてならない。今まで散々零式で点をもぎ取ってきたからな。アイツが司令塔で良かったよ。今度はみくるじゃなくてアイツを呼び捨てにしたらブーイングが聞こえてきそうだ。ところでハルヒ、火曜の午前中に付き合って欲しいところがあるんだが、空いているか?」
「付き合って欲しいところって何よ?」
「今、影分身にタイタニック号の温水プールの下の改装作業をやらせているんだが、シャワールームに置く男性用のシャンプー剤とコンディショナーで困っているんだ。このフロアにいるメンバーやOG達はそれぞれに合ったシャンプー剤を使ってスパでシャンプーとマッサージをやることになるだろうが、俺たちはどうするか迷っているところだ。大浴場に置く男子日本代表のシャンプー剤はダメージケアのもので良いんだが……どう思う?」
「どう思うも何も、あんたが今使っているものでいいじゃない!あたし達以外はタイタニック号に乗ることすらないんだから!」
「ハリウッドスター達を乗せたら、一月の社員旅行として二泊三日でクルージングの予定だ。金曜日の仕事終わりに出発する」
「そんなの一年も先の話でしょうが!今は男子日本代表のためのシャンプー剤が確定していればそれでいいわよ!」
「じゃあ、シャンプー剤についてはそれでいいとして、もう一件聞きたい事があるんだがいいか?青みくるにも影分身が話している頃だろう」
「今度は一体何!?」
「いや、有希と朝倉、それに佐々木は別として、よく全員プールに入ることができたなと思っていたんだ。青ハルヒとOG達にはもうアレの対策は付けているから別なんだが……」
「……あんたね!そんな話題を男のあんたが切り出すんじゃないわよ!こっちが恥ずかしくなるじゃない!」
「でも、そう言われてみればそうです。青有希さんは子供たちを見守っていましたからどうか分かりませんけど、わたし達全員プールに入っていたなんて……でもキョン君、対策なんてあるんですか?」
「簡単だ。テレポート膜一つで解決する。ただ、今のハルヒのように、たとえ妻でもそういう話を切り出すのは俺も言い出しにくかったし、聞かれた方も恥ずかしくなる。できれば青有希にも話しておいて欲しい。可能ならとりつけるところまでな。それで、二人はどうする?」
「問題ない。青わたしにはわたしが話をして取り付けておく」
「あたしはそんなもの必要ないわよ!」
「わたしは付けてもらいたいです。キョン君に抱いて欲しいときにアレのせいで言い出せないのは嫌です!対策があるのならわたしにもつけてください!」
「青ハルヒも『毎日あんたに抱かれたいから』という理由で取り付けた。ハルヒは本当にいいのか?」
「も~~~~~っ!このバカキョン!あたしにこんな恥ずかしい思いさせないでよ!面倒が少しでも減るのなら、あたしもそれでいいわよ!まったく……」
「二人とも取り付け終了だ。これで風呂やプールに入れないなんてこともないし、欲求不満でも我慢する必要もなくなる。抱いて欲しいときはいつでも言え」
「えっ!?もう終わったんですか!?テレポート膜とは聞きましたけど、キョン君一体どうやったんですか?」
「話してもいいが、ハルヒがまた恥ずかしい思いをすることになるぞ」
「もう十分恥ずかしい思いをさせられたからいいわよ!あたしもどうやったのか気になるし」
「簡単なことだ。子宮口の内側にテレポート膜を張った。アレの原理さえ分かっていれば誰にでもできる」
「ちなみにあんた、テレポート先はどこに設定したのよ?」
「SPに殴りかかって小指一本で負けた奴の胃の中だ。ハルヒ達の不要物も全部そいつの胃の中にテレポートするようにした。有希がアップした動画のタイトルに『テラワロスwww』なんて書いていたから顔だけは覚えてる」
「それもそうね。有希がそんなタイトルにしていたら、あたしでも覚えていそうだわ」
「その方が動画を見る人間が増えそうだった。報道陣に対して次第に蔑んだ見方をする人が増えている」
「コンサートやライブなんかでSPとして立つとあからさまに罵倒されているからな。これでレストランの取材が更に一ヶ月延長なんてことになれば、その会社は潰れてしまいそうだ。有希も三月末までカレーを待つ決心がついたのなら皆に謝っておけよ?」
「分かった」

 

 アレの話を振ったせいもあってか、100階では佐々木たちも含めて全員抱き合うことになり、青有希にテレパシーしたらしき有希がテレポート膜をつけていた。ジョンの世界に入るのは相変わらず俺が最後。アップも既に終わったようで、試合のメンバーを朝倉とジョンを除いた全員で決めていた。青OGの方は零式の練習に入ったが、妻の方は零式改(アラタメ)よりも司令塔としての訓練を積む方が先決。討論の結果、ハルヒ、岡島さん、OG四人VS有希、妻、双子、青ハルヒ、OGセッターで試合。隣のコートでは、みくる、古泉、佐々木、ENOZ残り三人VS青有希、青みくる、青古泉、青朝倉、青佐々木、幸の対戦。セッターが青古泉なのは当然だが、みくる達の方は古泉が担当することになった。残りの青OG五人に対して青俺が野球のボールを投げ、途中で青俺と青古泉が入れ替わるらしい。観戦したいところだが、そうも言ってはいられない。俺は俺でやることがあるからな。頃合いを見計らって本社前のシートを外し閉鎖空間を取り付けた。『SOS Creative社第二駐車場 関係車両以外は入ることができません』と書かれた看板が二つ側面に設置され、『SOS Creative社第二駐車場』よりも注意書きの方を大きく書いておいたくらいだ。これで文句を言ってくるようなバカを相手にしている暇はない。
 翌朝、カレー作りは玉ねぎのみじん切りを炒めるところから再スタート。だが、これが出来上がれば、すべてのシェルターにカレーを配ることができる。後は青有希達に任せることにしよう。余った分はあの時間平面上のジョン達で食べてもらえばいい。
「できた」
朝食開始早々、相変わらずのひらがな三文字と共に楽譜が目の前に現れた。俺の前にも情報結合されたということはダンス用の曲か。タイトル欄には『シレ知レセカイ』と書かれていた。
「SOS団のアンコール曲として踊る予定。ダンス曲だから歌詞はまだ。今回は涼宮ハルヒ、あなたにも歌詞を考えて欲しい」
「あたし!?黄あたしじゃないの!?」
「タイトルを考案したのはあなた。今回は二人の書いた歌詞のうちどちらか一方を選ぶ予定。ただ、衣装をどうするか検討中。以前見せたものを利用してもいい。でも、あれはENOZのカバー曲の衣装として既にライブで見せている。四月上旬にCDを発売して五月のゴールデンウィーク明けにダンスフルバージョンを出す予定」
「それなら六月の運動会にも間に合いそうですね。ですが、まずは我々バックバンドで演奏したものを収録してから作詞に入った方が良いのではありませんか?ハルヒさんは楽団の練習がありますし、涼宮さんはビラ配り。ENOZは今夜の試合のために少しでも練習をしておいた方がいいでしょう。ギターは僕が弾きます」
「カバー曲と同じ衣装じゃ、ファッション会社としての名が廃るわよ」
「でも、私たちのカバー曲のためだけに使うのもどうかと思うけどな。ライブだけで公開するつもりは今のところ無いわけだし……」
「コンセプトもプ○キュアを基に作ったのであれば、新しい衣装を考案してもいいかと。カバー曲も含めてアルバムを出す場合はPVで衣装を見せることが可能です。著作権に関しては黄有希さんが既に交渉を終えていますからね。歌詞でイメージが膨らむかもしれませんし、今決められることではありませんよ」
「なら、午前中は影分身を残して未来に行ってくる。ベースも俺が担当するから、青有希を中心に支給する食糧を作ってくれ。手伝えるメンバーは手伝いを頼む」
「あの時間平面上の未来を安定させるためなら、わたしにも手伝わせてください。午前中は楽団の練習があるので午後からなら手伝えます!」
「僕も参加させてもらえないかい?持って行くだけというのは、何だか悪い気がするからね」
「私もお手伝いさせてください!先輩たちの料理を教えて欲しいです!」
「もし場所が足りなければここも使ってくれ。昼食は99階で作る。バンド演奏は19階だ。それから、見れば分かるとは思うが、昨夜本社前のシートを外しておいた。名前よりも注意書きを大きくしておいたが、強引に入ろうとする奴もいるだろうし、報道陣もアレを見て車で来ようとする奴もいるはずだ。昨日確認した通り、どちらも『自業自得です』と突っぱねてください。古泉がかぶせたシートは三月中旬頃に外すことになる筈だ。そのあと引っ越しをして解体作業、別館建築に移る」
「くっくっ、それは是非見てみたいものだね。駐車場名より注意書きの文字の方が大きい駐車場なんて見たことがないよ」
そこまで話が進んだところで青俺の携帯のアラームが鳴った。先日のように有希たちが突っ伏しているようなことも無く、子供たちを連れた青有希が四人揃ってエレベーターで降りていった。

 

「さて、すまないが箸を置いてくれるか?みんなに見せたいものがある」
『見せたい物!?』
「月曜のこのタイミングでということは、子供たちに知られては面倒な代物のようですね。そして、我々にとっては驚くことに違いないと確信している。一体何を見せようと言うんです?」
「なぁに、以前、やってみたくなったと話題になっていたことだ。キューブを広げるには、このフロアでは狭すぎる。異世界の天空スタジアムにテーブルと椅子ごとテレポートするから、そのまま座っていてくれ」
『このフロアでは狭すぎる!?』
「くっくっ、確かに『やってみたくなった』と聞いた覚えがあるよ。でも、本当に揃えたんだとしたら……一体キミはどこから手に入れて来たんだい?」
「佐々木、おまえ、黄俺が何を見せようとしているのか分かったっていうのか?」
「キミが言い出したんじゃないか。多分、映画の告知で中国にいた頃に起きた出来事と関係しているはずさ」
「とにかく、説明は後だ。移動するぞ」
景色が一瞬にして天空スタジアムへと切り替わり、持っていたキューブを拡大した。
「嘘……こんな金塊、一体どこから取ってきたのよあんた!これ、まさか500トンあるんじゃないでしょうね!?」
「そのまさかだ。正確には512トン。金の延べ棒にして40960本だ」
「このバカキョン!答えになってないでしょうが!どこから取ってきたのか説明しなさいよ!」
「中国の金の生産量ベスト5の山東省、河南省、江西省、福建省、雲南省、それに加えて、ロシア、オーストラリア、日本の菱刈鉱山って所だ。俺もただやってみたかっただけだから、世界経済に影響しそうなら元に戻してくるが、中国には麻薬なら返してやってもいいが、コイツは迷惑料としてもらっておく。『殺し屋より愛をこめて』ってヤツだ。因みに伊52号に積んであった計四トンの金塊はタイタニック号の最下層に眠ったまま。北極でコイツの仕分け作業をしながら、白熊相手に闘っていたんだよ。延べ棒を一本ずつ目の前にテレポートするから触ってみてくれ。99.99%の純金だ」
「金塊番号や商標、精錬分析者マーク、品質表示まですべて彫り込まれているとは……まさに錬金術と言えそうですね。我が社の名前が彫り込まれていては、返せと言われても返せそうにありませんよ」
「ちなみに金は1gで3400円、今みんなが持っているのは、それ一本で4500万円だ」
『4500万円!?』
「きき、きょ、キョン君、わ、わ、わたしそ、そんな高額な品物を、も、も持っていたんですかぁ!?」
「伊52号の金塊も合わせると、ざっと1兆8500億円ってところね」
『1兆8500億円!?』
「に、日本経済の借金を一気に返すことができるじゃないか。世界経済に影響しないわけがない。悪いことは言わないから、全部戻してきたまえ」
「ダイヤモンドやプラチナと同様、磁場で集めただけだ。土の重さで動けなかった金がまだ大量に残っている。当分の間はバレやしないし、それだけの量しか無かったと思われるだろ。日本の鉱山も『あと20年は大丈夫』だとサイトに堂々と書いてあったしな」
「……どうやら有希が戻ってきたらしい。ここに呼んでもいいか?」
「ああ、アイツにも見せてやってくれ。いくら経理課のトップでも、この量なら驚くだろう」
すでにみくるや佐々木たちは金塊をテーブルに置いて触ろうともしていない。青俺がテレポートで青有希を自席に呼び、500トンの金塊を指差した。
「う、そ……キョンが言ってた500トンを本当に揃えたの?」
『キョン、ツンドラの帝王を作ってくれ』
「おまえはレバー操作がしたいだけだろうが!」
ついでに、ツンドラの帝王ならぬ、ツンデレの女帝(エンプレス)なら両隣にいるけどな。
「それで、こんなもの一体どこにしまっておくつもりよ!?」
「とりあえず、この異世界支部の空きスペースに飾って、そのあと別館に移すことになるかな。そろそろ金の延べ棒を元に戻して縮小するが、一通り見終わったか?」
『問題ない』

 

「あんなものを見せられては今朝の会議の内容がすべて吹き飛んでしまったよ」
「心配いりませんよ。僕と圭一さんは調理スタッフの面接と、違法駐車しようとした人間に対する警告だけです」
「あぁ、古泉が居てくれて助かったよ。『自業自得だ』と社員にも伝えるんだったね」
「あら?折角作り上げた三月号を届けるのも忘れないで欲しいわね」
「おっと、これは失礼しました。男性誌と一緒に届けてくることにします」
「問題ない。すべて議事録に記録した」
「俺からは最後だ。タイタニック号の温水プール付近に下り階段をつけて男女別の更衣室とシャワールームを設置した。来週も処女航海で使うし、タイタニック号に繋がるどこでもドアはこのまま置いておく。閉まっていてもドアを開ければタイタニック号の温水プール前だ。泳ぎたいときは使ってくれて構わない。子供たちも時間ができれば泳ぎたいと言い出すだろう。今日の生放送で自分が何セット目に出るか確認はしなくてもいいな?」
「すみません、生放送の件では無いのですが、先ほどの500トンの金塊を異世界支部のどのフロアに置く予定か教えていただけませんか?」
「青古泉から条件が出なければ、60階から上四階分ほど貫いて飾ろうと思ってる。マジックミラーではないが、鏡張りにするつもりだ。専用カードを使っても絶対に入れないようにする。テレポートが使える俺たちだけ侵入可能にする予定でいる。四月末までには別館に移すことができるはずだ。何か不都合あったら教えてくれ」
「了解しました。条件等は無いのですが、念のため把握しておきたかったので」
「じゃあ、朝はこれで解散!絶対に生放送を二時間で終わらせてドラマを見てもらうわよ!!」
『問題ない』
さてと、俺は19階でレコーディング、99階で昼食の支度、異世界支部60階~64階までの改装と金塊を並べる作業、できたカレーを持って未来へ……だな。例の時間平面上のジョン達にカレーを振る舞って、まだカレーを支給していないシェルターへと向かった。
「建物の復旧作業も終わったし、俺たちと手合わせをしてくれ」
と、この時間平面上のジョンやその仲間に誘われたんだが、ハルヒの力自体は本体がすべて持っているが、意識を影分身たちに割いている以上、四人の連携攻撃を相手にするとなると、いくら戦闘力に差があっても負ける気がしてならないので断っておいた。例の組織の予知通り、俺たちがここに来ても何も起こらなければ四人と手合わせをして過去に戻ることにしよう。レコーディングも改装作業も終わり、昼食の配膳を始めていた。カレー作りも玉ねぎを炒め終わったところで現状維持の閉鎖空間で囲い、熊肉の方も部位によって仕込みが変わってくるからな。手だけじゃもったいなかったからとはいえ、調理しようなどと考えるんじゃ無かった。作業行程の半分以上が終わった状態で今さら投げ捨てるわけにもいかんし、今回だけは仕方がないか。

 

「くっくっ、あの駐車場に関する電話がどうなったのか聞かせてもらえないかい?」
「笑えるような状態ではないとだけお伝えしておいた方がいいでしょう。これに関しては『最初だから』というわけにはいかなさそうです。関係車両と言っても、精々明後日来訪する男子日本代表くらいです。バスの側面をドラマ仕様に変えて止めておくことも考えましたが、悪化する一方としか考えられません」
「分かった。今夜シートを張り直しておく。他に使い道として良いものがあれば教えてくれ。大画面を隠さない程度の高さで頼む」
「そうしてもらえると助かるよ。強引にでも入ろうとする一般人が多くてね。報道陣なら規制をかけられるんだが」
「それから、午前中に収録を終えたんだが、CDが必要な奴はハルヒ達以外にいるか?」
「問題ない。歌が入っていない状態で聞いてもよく分からないはず。二人だけで十分」
「あら、わたしは聞いてみたいわね。どんな衣装にするかイメージが湧くかもしれないじゃない?」
「だったら、朝倉を入れて三人だな。それに有希、二つ頼みたい事があるんだがいいか?二つ目は佐々木たちや古泉にも関係する内容だ」
「僕たちにも関係するってことは、ドラマのCMか何か作るのかい?」
「ああ、来週の第六話終了後、第九話を編集したCMを有希と佐々木たちで作って欲しい。第七話の次回予告『ストーリー原案』だったが、第九話のCMは『制作総指揮』と入れてくれ。古泉はTV局にCMを入れる旨を伝えて朝と夜のゴールデンタイムに流れるように交渉して欲しい。第九話が放送されるまでの間ずっとだ。一つのTV局だけなら、三週間くらいだからそこまでの額はかからないはずだ」
「分かった」『どのシーンを入れるか見直しておくよ』「僕の方も了解しました」
「それからもう一つ、タイタニック号が地球上のどこに居ても日本のTV番組が映るようにして欲しい。来週は俺たちが船に泊まるし、日本代表のディナーの翌日は選手も監督も朝のニュースを見ることになるだろう。年越しパーティのときだけはアメリカのTV番組が映るようにする必要があるが、その後の社員旅行についても同様だ。可能か?」
「問題ない」
「地球上のどこに居てもですか!?黄有希さんは『問題ない』とおっしゃいますが、一体どうやって日本のTV番組を映すというんです?」
「簡単、第二人事部やここにあるどこ○もドアと同じ。TVのケーブルを延長してタイタニック号に繋ぐだけ。でも、年越しパーティ後にハリウッドスター達がTVを見るとは考えられない」
「これは驚きました。目の前にありながら、その方法を失念していましたよ。異世界とすら繋がっているのなら、地球上のどこに居ても繋げられそうですね」
「年越しパーティの件については俺も同意見だ。だが、そのやり方なら俺にもできそうだ。試しにやってみて上手くいかないときは頼んでもいいか?」
「分かった」
「……?有希、何か変な臭いしないか?」
「臭い?わたしには黄キョン君の作ったカレーの匂いしかしないけど?」
「聞いた俺がバカだった。ったく、もしガスが充満している空間にいたとして、有希がそれに気付かなかったら死んでしまうぞ!」
「でも、キョン君の言う通り、何か変なにおいが……」
「おかしいですね。このビルも異世界支部の方にも換気機能を備え付けた閉鎖空間がある筈です。匂いなんてするわけがありません」
「あんたとみくるちゃんの間ってことは……有希しかいないわよね?……って、臭っさ!ちょっと有希!何よこの臭い!あんたの服から臭っているじゃない!」
早々と昼食を食べ終え、CDを手にしていたハルヒが有希に近づいて鼻を鳴らす。……もしかして、
「青有希、まさかとは思うが、熊肉の臭いを消している最中のフロアに本体で行ったんじゃないのか?」
「えっ!?それは、そうだけど、でも、古泉君の言う通り換気機能が備わっているんじゃ……?」
「どうやら再確認する必要がありそうですね。黄僕と交代するまでは僕も電話対応ですし、事のついでに見てまわってきます。それに、第三人事部についてですが、明日の夕食後に異世界支部の第二人事部と繋ごうと思っているのですがよろしいですか?」
「駐車場のクレームについては明日の午前中で片付くだろうし、今日の生放送やドラマの件に関しても明日で対応しきれるだろう。異世界支部の方の対応が忙しくなるだろう。こちらは気にしなくて構わない」
「とりあえず青有希、自分で磁場を出してその匂いを吸着してみろ。午後からは影分身であたった方がいい。ついでに、アイツの引っ越し先はもう決まっているんだろうな?夕食後に青俺の両親に挨拶に行ってこないといかん」
「それについては大丈夫だけれど……あんた、本当にお父さんやあたしがいかなくてもいいの?」
「前に説明した通りだ。娘にすら気付いてもらえなかったんだ。余計に混乱するだけだ。一番迷惑するのは青俺たちなんだぞ?」
「分かったわよ。引っ越しのことは、あんたに任せるわね」
「ああ、造作もない」
「それじゃあ、とっとと体育館に乗り込むわよ!一秒でもオーバーしたらあたしが許さないんだから!」
「疲れは後で取ればいいだろうが、あまり張り切り過ぎて空回りするなよ?」
「あたしに任せなさい!」

 

 先陣を切ったのはいいが、エレベーターに乗り込んだのはハルヒ一人。すでに空回りしている感は否めないが、俺も練習試合開始前には体育館に踏み込んで、必要とあらばアナウンスをしなければならん。自分で磁場を作った青有希が熊肉の異臭を全て吸着。体育館で俺たちや日本代表選手を待っているであろう報道陣のところにテレポートして遮臭膜で囲んでやろうと思ったが、俺たちの城の中でそれをするわけにもいかん。
「青有希、その磁場のテレポート、俺に任せてくれないか?」
「わたしは別に良いけど、黄キョン君どこにテレポートするの?」
「敷地外で蔓延っている連中のところだよ。ついでに調理している最中のフロアにも磁場を張って直接アイツ等のところに送りつけてやるつもりだ」
「それにしても、午前中だけで有希の服がここまで臭うくらいなのに、いくら影分身とはいえ、あんたは臭いって思わないわけ?熊肉がここまで臭いなんて、あたしも思わなかったわよ!」
「逆遮臭膜を張っているから臭いもつかないし、臭いと感じることも無い」
「それであの匂いの中でも平気な顔をしてたんだ。黄キョン君もずっと臭いを我慢しているんだとばっかり思ってた。でも、あんなに臭うものをよくあそこまでの料理に……あの料理からはあんな臭いは全然しなかったし」
「それだけ手間暇かけさせられているってことだ。また作ってくれと言われても次からは一匹ずつだな」
「とりあえず、対処法が判明したんだ。影分身で行くとしても、黄俺と同じように逆遮臭膜をつけてから出向いた方がいい。俺もこの後は体育館だ。黄俺もまだカレーを作っている最中だし、そこまで急ぐことでもない。黄佐々木、ヘリの運転を頼む」
「今日はどちらの有希さんも忙しそうだからね。本体で片付け作業をしながら運転することにする。キミは試合に集中してくれたまえ」
佐々木の一言を皮切りに練習試合に参加するメンバーが席を立った。母親から愚妹の引っ越し先の情報を受け取り、同じエレベーターで降りていく。毎シーズン行っているイベントということもあり、誰からも何も言われずとも練習、練習試合ではユニフォームは使わず、ジャージやTシャツで試合をしていたが、今回は……いや、今後OG達は俺たちと同じ赤いユニフォームで練習試合に参加し、生放送では日本代表としてのユニフォームで挑むことになる。オンシーズンに入ってから毎日のように報道されてはいたが、夜のゴールデンタイムにネックレスとピアスをつけてTVに映るのは今回が初めて。まぁ、どちらにせよ胸に『SOS Creative社』と書かれているのは変わりないけどな。土日と比べて少しはマシになり、アナウンスの必要はなかったものの、それでも先週と比べると更に人数が増えていることに変わりはない。しかし、他に意識を割いている状態で観戦するのと、影分身無しで試合を見るのとではまるで違うな。今まで指示ミスをしていた原因が今頃になって分かるとは……だが、明日の披露試写会前に気付いてよかった。生放送では采配が読めてもテレパシーすることはなければ、口頭で伝えることも無い。一セット目を終えてコートから出てきた六人に伝えることにした。
『覚醒状態で見てようやく分かったよ。おまえ、采配とコースを判断してから俺と同じタイミングでテレパシーを送っているだろ?それで焦ってしまって、指示ミスが出てしまっていたんだ。まずは采配を読んでBならBと先に伝えてしまえばいい。その間にスパイカーを見ていればほんの僅かだが、これまでよりコースを読むまでの時間が確保できるはずだ。現実の時間ではほんの僅かでも、ゾーンに入れる人間からすれば10秒以上のアドバンテージがあるようなもんだ。采配を伝えた時点で全員がその選手に集中するし、ハルヒや古泉、朝倉はあのテンポで攻撃できるだろうが、青みくるはたったそれだけでさっきのセットよりも攻撃態勢を敷くのが早くなるはずだ。双子や青俺、有希を除いた他の連中もそうなるだろう。次のセットで試しにやってみろ』
『分かった』
『いやぁ、流石ですね。司令塔としての経験則に基づいたアドバイスとは驚きましたよ。これまでは覚醒状態では無かったからとはいえ、たった一セット……いえ、あなたなら二、三点取った頃にはもう気付いていたようですね。僕にとっても随分参考になりました。僕もその方法で相手の采配を見極めることにします』

 

 古泉は『司令塔としての経験則に基づいたアドバイス』と言っていたが、俺の場合はコースまで読めないときはそのままブロックに跳んで、空いたコースにいるメンバーに同時に構えろと伝えていただけだ。だが、今は古泉や青俺ですらブロックに跳ばず、レシーブする一人を除いて全員が攻撃態勢を敷く必要がある。俺がこれまでやってきた指示とは比べものにならない。しかし、どうやらアドバイス一つで落ち着いて相手の動作を見られるようになったようだ。青みくるのテンポも速くなり、相手コートにいる日本代表は勿論、隣のコートで試合をしているOG四人よりも更に上を行く攻撃力で圧倒。指示ミスもほとんど無くなった。スイッチ要因も古泉が担当し、青古泉と入れ替わった後も、違和感はほとんど無いだろう。しかし、困ったことになったな……
『あなたのアドバイス一つでここまで違いが出るとは想定外ですよ。ようやく面白くなってきたところで交代するというのは非常に残念ですが、そろそろ青僕と変わってきます。次のセットが始まる前には青僕が来られると思いますが、間に合わないときは頼みましたよ?』
間に合わないときは……などと言ってはいたが、もう青古泉には連絡を取っているはず。俺が出る幕もあるまい。残りのセットもハルヒと朝倉は持ち前のセンスと能力で、青古泉と青みくるは司令塔からの指示を受けて本来のダイレクトドライブゾーンの速さで圧勝。『話したい事がある』とOG六人に影分身で81階に来るように伝え、体育館内にアナウンス。
「この後、生放送のための準備等がありますので、客席にいらっしゃる皆様は一度本社を出ていただき、生放送の方もここでご覧になりたいという方は、お手数ですが、本社前の列に並ぶようお願い致します。そこで抽選が行われますので合わせて宜しくお願いします」
このまま居座るつもりだった連中が渋々エレベーターで下に降りていく。まぁ、それだけOG達に人気が出て、バレーに興味を抱く人間が増えたということだ。嬉しい悲鳴として受け取っておこう。だが、客席の扱い方が酷くなっているのは事実。磁場には埃の他にもペットボトルや空き缶、シール、落書きされたインク等も吸着されていた。生放送のときは毎回アナウンサーに注意喚起をさせてはいるが、近日中に情報結合し直しておこう。

 

『キョンパパ、おかえり!』
「ああ、ただいま」
「どうでしたか?会場の様子は」
「客席の使い方が荒くなっている。近日中に情報結合し直さなければならんと思っていたところだ。磁場に吸着された不要物も……この通りだ。まぁ、平日でもあれだけの人数が来るんだから、特に土日は予め注意喚起をしてから練習や練習試合に入ればいい。アナウンスをしたら渋々エレベーターで降りていったよ。それだけOG達のファンが急増したってことだ」
「問題ない。情報結合の練習をするには好都合。こちらのOG達に客席の修復をさせればいい」
「それで、キョン先輩、話があるってどういうことですか?」
「いくつかあるんだが、一つ目は簡単だ。生放送中はテレパシーでの会話はしないこと。審判に笛で急かされていることにすら気付かない可能性がある。インタビュー込みで二時間以内に終わらせる予定なんだ。無駄な時間を割くわけにはいかない。二つ目、明日の司令塔披露試写会のメンバーについてなんだが、ハルヒ達、有希、朝倉、それにゾーンに入れる古泉と青俺は指示が無くても本来のダイレクトドライブゾーンのスピードで対応できてしまう。それが逆に不都合になってしまったんだ。指示を出しても大して代わり映えが無くなってしまうんだよ。OG四人はさっきと同じ形で別のコートで試合するとしても、監督が見ているコートではそれ以外のメンバーに入ってもらいたい。勿論、別コートの残り二枠は、今名前が挙がったメンバーで入ってくれて構わない」
「別コートの方はセッターが必要。わたしが出る」
「そういう事情じゃ仕方がないな。オフシーズンに入らせてくれ」
「逆にオフシーズンに入ると青僕が忙しくなってしまいそうですね。僕も辞退することにします」
「では僕に入らせてください。スイッチ要因も必要になるでしょう」
「キョン君、わたしもあのテンポにもっと慣れておきたいです!わたしも入れてください!」
「みくるが出るのならあたしにも出させて欲しいっさ!」
「仕方がないわね。有希さんと一緒に別コートでやらせてもらえないかしら?」
「あたしは譲らないわよ!!日本代表選手にはあたし達の速さについてきてもらわなくちゃ!」
「これで六人、決定だな。じゃあ、明日の練習試合はそれで頼む。明後日以降は、基礎練が終わった後、監督に話をして男子日本代表の方に連れて行く。フォーメーション練習で指示を出してもらうつもりでいる。男子の方はまずは三枚ブロックの練習からだ。俺たちと闘っている女子がまだこの状態なんだ。男子を相手にしても面白くないと言って戻ってくることになる。まずは女子日本代表とOG四人を徹底的に鍛え上げてくれ。三つ目、今日の生放送はコートキャプテンがハルヒ達になる。俺は試合に出ないからキャプテンマークを消す必要はないが、ハルヒ達は自分でキャプテンマークをつけておいてくれ。四つ目、ここから見るメンバーが多くなるはずだ。生放送を見てもいいだろうが、有希の撮影した映像をモニターに出してもらうこともできる。並べて見られるようにしておいてくれ。五つ目、有希のカメラとは別に俺たちのコートの真後ろから俺の小型カメラで撮影した映像をスカ○ターに流す。俺たち以外には見えないしカメラにも映らないよう催眠を施しておいたから、コートに入らないときはそれで相手のプレーを見ながら采配を読む訓練だ。試合に出るときは69階にでもテレポートしておけばいい」
「問題ない。どちらもモニターに映す。本社前の大画面にはバレーの生放送とドラマの放映をする」
『キャプテンマークを付けるくらい簡単よ!』
「私もそれでいい。少しでも早く指示が出せるようにしたい」
「ところで、明後日の男子日本代表の来訪は何時頃来る予定なのか教えてくれたまえ。朝食も食べるとなると80階や79階では収まりきらないだろう?」
「私の方で確認をしておこう。マネージャーの連絡先はサイコメトリーで知っているからね。しかし、朝食から頼みたいという返事が返ってきたときに対応はできるのかね?」
「どの道、俺たち専用カードを渡さないといけません。女子の方もオンシーズン中、朝のパンを振る舞うことができなかったし、すまないが青有希、俺と一緒に先にジョンの世界を出て朝食を作ってもらえないか?パンと千切りキャベツは俺が用意する」
「わたしは平気。でも、調理スタッフなら今日面接したんじゃ?」
「六人中三人には、この後連絡をするつもりだが……三人とも夜の方を希望している。十五日から来るように伝えてもいいかね?ちなみに、今日は調理スタッフを希望する電話は一件も無かった」
「分かりました。垂れ幕も一旦外して内容を変更したものを下げておきます。電話の段階で三名は排除する予定だったので残り三名が全員採用というだけでも十分朗報です。それでお願いします」
「では、こちらで初日の朝食も用意できると伝えることにする。それで朝食の依頼が来たら君達に伝えるよ」
「くっくっ、折角大画面を使うんだ。少しでも広い方が見やすいんじゃないのかい?垂れ幕は僕が外して内容を変更しておく。明日キミが垂れ下げてくれるだけでいい」
「すまん。よろしく頼む」
生放送前の会議が一段落したところで、夕食もまだ途中だというのに有希が一人立ちあがった。
「わたしの一言のせいで、カレーを食べられる時期が全員一ヶ月伸びてしまったことを謝罪したい。ごめんなさい」
「あっ、わたしも更に延長させるような行為を繰り返してしまって、本当にごめんなさい」
有希たちが深々と頭を下げ、全員の返答を待った。しばしの沈黙の後、口火を切ったのはハルヒ。
「まったく、あんた達もこれっきりにしなさいよ?」
「ですが、お二人の言葉に対する返答は満場一致のようですよ?」
「なら、揃うかどうか確認してみよう。せ~の!」
『問題ない』

 
 

…To be continued