500年後からの来訪者After Future9-9(163-39)

Last-modified: 2017-02-09 (木) 16:19:37

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-9163-39氏

作品

二月のオンシーズンも終わりに近づき、今シーズンの生放送五セットが行われた。俺たちも日本代表選手ももう少し練習の時間があれば、もっと面白い試合ができたのに……というのが俺の率直な意見。いよいよライブやコンサートに向けた今後の動きも有希から発表され、ドラマも第五話が放送終了。明日の新聞も気になるところだが、まずは夜練の内容を更に充実なものにしてからだ。ハルヒとも毎日のように抱き合うことになったし、相変わらず俺が最後にジョンの世界に入った。

 

 ジョンの世界に入ってまず目の前に飛び込んできた光景はOG11人が本体を含めてそれぞれ三人ずつとなり、総勢33人+鶴屋さん+みくる+子供たちでレシーブ練習。球出しはOGの中で一番超能力に長けた元変態セッターがコート全面を使って四か所から球出しを行っていた。青チーム+ENOZは空いたスペースを使って、青俺と青古泉の投球を受ける&打つ練習。生放送一セット目は防御力の差で勝負が決まったようなものだからな。ジョンと朝倉は二人で修業中。佐々木も野球のボールをキャッチするだけならと、本体がミットを構えていた。ハルヒと有希、それに遅れてやってきたらしい古泉が準備体操中。あとはハルヒ達に任せるだけでいいだろう。俺はさっさとバトルフィールドに向かうことにしよう。と、そこへ俺がここに来たことを確認したみくる達とENOZが俺の傍に寄ってきた。どうしたんだ?一体……
『私たちも影分身が使えるようになりたい。何から始めたらいいか教えて!』
『キョン君、わたしも同じです!どうしたらいいか教えてください!』
ENOZは……どちらかというと岡島さんを筆頭にってところか。今日の四セット目のようにセッターが狙われては仕方がない。みくる達はビラ配りで影分身を使っていたんじゃないのか?まぁいい。ENOZにはOGと同じメニューを、みくる達には習熟の度合いに応じた修行内容を伝えると、それぞれの練習に戻っていった。超能力の練習だけがすべてではないからな。ENOZやみくるについてはライブの練習もあるだろう。それに、ENOZ四人はほとんど超能力に頼らずに過ごしてきたからな。演奏と同様、毎日修練を積み重ねて実力をつけていくだろう。バトルフィールドに入ってしばらく戦闘を続けていると、いつの間にやら練習試合に入っていた。昨日と同様、ハルヒ、岡島さん、OG四人VS有希、妻、双子、青ハルヒ、OGセッター。隣のコートでは、みくる、古泉、佐々木、ENOZ残り三人VS青有希、青みくる、青古泉、青朝倉、青佐々木、幸。青OGはそのまま青俺の球を受ける練習を続けていた。ハルヒ達の方は今日は固定になるだろうが、もう一つの方は三チームでローテーションということになりそうだ。寝たのが遅かったのか、時間の経過を早く感じていたのかは分からんが、『ニュースの時間だ』と告げられるまで大した時間は経ってないように思えた。モニターに映ったのは、当然昨日の生放送を行ったTV局。ドラマの件でも一面を飾っているが、やはりバレーの方が多いか。新聞の見出しは『古泉一樹VSキョン社長!?アンチサイコメトラー現る!』『集中力を鍛える二週間!化ける可能性のある選手たちに期待!!』『キョン社長、今後に期待!「もう少し練習を重ねてからこの五セットがやりたかった!」』『高校の引退試合以来!最終スコア35-33の試合内容とは!?』など。ジョンの話によると、バレーで一面を飾ったほとんどの新聞社がドラマの件で二面を飾っていたらしい。しかし、高校の頃のあの試合を思い出せと言われても、アイツがフローターサーブに戻してまでハルヒの理不尽サーブを繰り出したところからしか覚えていないぞ。あとはクイック技の応酬だったからな。当時のVTRをくれなどと言われそうだが、無理の一言で終わる。というより、そうせざるを得ない。誰もカメラで撮影していなかったはずだしな。写真は俺と古泉、OG六人、あとはコートの全体像を載せたものがほとんど。子供たちを含め、不機嫌そうな顔をしている連中がちらほら。さっさとこの場から立ち去ることにしよう。カレーも今日中に仕上げないとな。

 

ジョンの世界を抜けてすぐ、影分身が調理場に向かいカレー作りと熊肉調理の続きに取り掛かった。今日は朝から晩まで色々とやることが多すぎる。朝食を摂り始めた
「以前にもお知らせしましたが、今日の夕食後、第三人事部の電話回線を異世界のものに繋ぎ直します。加えて、今夜ジョンの世界から遠隔操作になるでしょうが、シートを外し、超サ○ヤ人状態の彼にここと同じ閉鎖空間を備えつけていただくことになります。ご了承ください」
「それだけか?」
「え?……えぇ、僕からは以上ですが……何かありましたか?」
「青チーム、特に青OGの人事関連についてはどうするつもりだ?影分身も使えるし、店舗の店員なんざ影分身で十分だ。今はまだいいが、今後も社長が率先してビラ配りに行ってちゃ話にならない。適材適所に配置した方がいいんじゃないのか?それに、オフィスの電話回線はいつ切るのかとか、人事部への引っ越し作業は誰がするのかとか、青鶴屋さんの家には行くのは誰かとかそういうものも含めて全部だ。このまま継続するようなら俺が決めてしまうぞ!?特に、青OG六人の中で唯一、ドラマの最終回を解いた程の頭脳の持ち主なら、人事部部長は青圭一さんだとしても、人事部の副部長や経理課課長、女性誌の編集長だってこなせるはずだ。仕事は影分身に任せて、本体は異世界にも体育館を情報結合してそこでバレーの練習をさせたっていい。青俺ももう、ヘリ二機の運転だけで他に影分身を割けないわけでもないだろう。青鶴屋さん宅の電話対応だけでなく青OG相手に投球をしたっていいはずだ。青有希の方も人手が足らん。デザイン課として配属されたOG達には佐々木たちの横でデザインしてもらいたいし、昨夜のように昼の間も影分身の修錬を積ませる。どう配属するかは青ハルヒと青古泉で決めてくれ」
「それもそうね……でも、さすがに今決めろって言われても……あんたはもう決まってるの?」
「大体はな」
「聞かせていただけませんか?影分身を踏まえた上でのあなたの采配を」
「まず、このあとすぐOG全員で体育館客席の修復作業。その間に青俺が異世界支部50階に体育館を情報結合する。日本代表である以上、いくら影分身だと説明がついても、今後は編集部やデザイン課に顔を出すことはできん。佐々木たちと一緒にデザインを考えてもらうのが一体ずつ。店舗や仕事にも影分身で出て、本体は午前中バレーの基本的な練習と青古泉か青俺の剛速球を受ける練習。残り一体で段ボールの情報結合だ。特に一番小さな段ボールには今後、ランジェリーの三点セットが入ることが多くなるはずだ。どちらの世界でも必要になってくるし、本社のシートをはがせば異世界でも認知度が跳ね上がるはずだ。あとは異世界支部の本店に服を並べる作業。本店だけでも明日からオープンするなら準備は今日中にやった方がいい。やるなら垂れ幕も追加で下げてくれ。エレベーターには立札を置いてスイッチも押せない様にしておく。天空スタジアム直結のものも含めてな。店舗を見て買い物に来るだけなら敷地内に客を入れても構わない。本店の店員も交代で務めて欲しい。ランジェリーを買いに来る客が多いはずだから店員は女性の方がいい。青朝倉はビラ配りをやりながら、明日以降の材料をどうするか母親たちと相談に向かってくれ。男子日本代表も早ければ明日の朝からここで食事をすることになる。キャベツの千切りなら俺が作るから大量に発注しておいて欲しい。しばらく調整をしながら安定してきたら、こっちの方は社員に任せて、向こうでも経理課の対応と食材の発注に追われることになる筈だ。こっちのOGは青有希の手伝いと、自分で情報結合した色紙にサインを書く練習。午前の練習にどんな影響が出るかは俺にも分からないし、まずは簡単な作業から始める。その第一段階と思ってくれればいい。サインペンをサイコメトリーすれば思うように綺麗なサインが書けるはずだ」
『サインの練習!?』
「あれだけの観客が見に来ていたんです。今後強請られてもおかしくありません。あなた方はビラ配りにはいけない立場ですからね。しかし、ランジェリーのセット販売を見越した段ボールの情報結合とは考えましたね。青有希さんも未来にばかり気を配っているわけにはいかなくなってくるでしょう。人事部には青圭一さんと青僕でみたされることになるでしょうし、彼女は経理課の長でいいのではありませんか?あなたのおっしゃる通り、青朝倉さんも今後は色々と動き回ることになるでしょうから。おでん屋の経営もあることですしね」
「男子日本代表がどうするのか聞いておくのをすっかり忘れていた。午前のうちにマネージャーと連絡を取ることにするよ」
「話し相手が増えると僕たちも助かるよ。デッサン用の机は僕が情報結合しておく。二人で来てくれたまえ。因みに、デザイン課と同じような棚と過去の冊子も用意したいんだけどね。それでも構わないかい?勿論、新しいスケッチブックや鉛筆、色鉛筆等も含めて全部」
「青チームの携帯を置くスペースだけ確保できればそれで十分だ。配置は任せるがキッチンだけは外さないでくれ」
「キョン、私はどうしたらいい?サーブ練になったら影分身は解いた方がいいよね?」
「ああ、折角零式改(アラタメ)が一発成功したんだ。今日も成功するかもしれん。午後は練習試合にはずっと出てもらうからそのときもってことになるな。明日以降は昨日確認した通りだ。ところで、昨日は何も言わなかったが、混声三部合唱の件はOKってことでいいのか?」
「ちょっと緊張しそうだけど、サイコメトリーで歌詞や音程を間違えずに済むのなら平気」
「影分身で仕事に向かうなんて考えもしませんでした!夕食でここに戻ってくることなく仕事ができそうです!」
「んー…明日から丁度服が入れ替わるし、エレベーターも階段も使わせないのなら、本店だけ準備して明日オープンしてもいいんじゃない?涼子には経理課の課長についてもらう予定だったけど、食材の注文も考えたら経理課にいない事の方が多いわよ。あたしもあの子に経理課を指揮してもらいたいわ!」
「そのようですね。彼女たちに店員をしてもらっている間にアルバイトの募集についての垂れ幕も下げておきます。本店に来店しようと立ち入る一般人と一切入れない報道陣の違いを見せつけるには丁度いいかと。マネキンもできるだけ前に寄せることにします」
「凄い……たった二、三ヶ月の行動や発言だけで経理課の課長なんて……それ以前は私たちまで恥ずかしくなるようなことしかやってなかったのに」
「鶴屋さんの家の電話は俺だな。オフィスの引っ越し作業も俺がやる。データについてはこっちの圭一さんに任せて、明日からは人事部ってことになりそうだ」
「分かった。まとめたデータをUSBに移しておくことにしよう。電話の配線についてはどうするかね?」
「夕食後、僕の方で異世界支部に移しておきましょう。明日からは人事部でお願いします」
「客席の修繕作業を見られるわけにもいかん。他に無ければこれで終わりにする。午後から試合に出ると立候補したメンバーは忘れずに来てくれ。みくる、お茶を煎れてくれるか?文芸部室の奴等にドラマを見せに行くぞ」
『問題ない』

 

 OG12人がテレポートで体育館へ、青俺もどこ○もドアを潜ってテレポートで降りていった。81階に運び込まれていた食材を持って影分身がどこ○もドアを潜ると、既に二人分のデザイン用の椅子や棚、過去の本社の冊子、スケッチブックや色鉛筆が用意されていた。追加で大量に情報結合したキャベツも含めていつもの仕込み作業、本体はみくるを連れて文芸部室へ。今日はお茶を持ってきたのと、ドラマを見せにきただけで感想等については来週聞くことにしよう。これ以上デザインを頼んでも朝倉がパンクしてしまいそうだからな。ウェディングドレスのデザインを考えさせるのも一つの手だが、ランジェリーどころかドレスのデザインまで考えられてしまってはデザイン課が不貞寝してしまう。次に来たときは水着や浴衣でも考えさせることにしよう。異世界支部の体育館では青古泉の投球を青OG達が受けていた。いくらストレートでも少しでも狙いを定めた投球をしたいんだろう。青俺は青鶴屋さんを連れて鶴屋邸に向かったらしい。片付けが済んでいた81階で昼食の支度を始めていた。
『できたわよ!』
ハルヒの方は楽団の練習がない日だから問題ないが、どうやら青ハルヒの方も本体で歌詞を考えていたらしい。揃って有希に歌詞を手渡していた。
「分かった。夕食までには確定して五人でアフレコをしたい。すぐに振り付けを考えてもらうように依頼する」
「それで、男子日本代表がどうする予定なのか確認はとれましたか?」
「今日の練習後にこっちに向かってくるそうだ。今晩から近くのホテルに泊まることになっている。朝食から頼みたいとのことだ。それと調理スタッフ希望の電話が一件入った。午後も来るかもしれないが、とりあえず明日の三時に面接予定と伝えてある。駐車場のクレームの方は対応が早かった分、そこまでではなかったよ」
「くっくっ、キョンが生放送中にシートを張った影響が出たみたいだね。こっちも四人になった分、話が弾んで時間を忘れるくらいだったよ」
「時間は忘れてもいいが、仕事を忘れてもらっては困る。とりあえず俺の方は、午前中のうちに大量の千切りキャベツを用意しておいた。今日のランチの分はサラダも含めて食堂にテレポートしてある。パンは夕食後に用意する。青有希、残りのメニューは今日中に仕込みを終えておいてくれ。足りない食材があれば情報結合で対応する。うちの母親とも相談しておいてくれるか?同じものを二人で作るよりは分担して調理にあたった方が少しは楽になる」
「問題ない。朝食の終わり頃に黄キョン君のお母さんと話してきた。黄チームのOG達も手伝ってくれたし、大分作業が進んだ。全シェルター分とまではいかないけれど、明日、未来に行くときは一緒に連れて行って欲しい。もう少し影分身に慣れたら黄キョン君みたいに一人でも多く作れそう」
「俺はキリのいいところで一旦中断だ。この後は、女子日本代表の司令塔のお披露目だからな。一、二セットは影分身を解いて様子を見るが、何も問題が無ければ作業に戻る。午後が潰れてしまうと、ちょっと間に合いそうにない。まぁ、ものの見事に采配を読んでしまうだろうがな」
「是非見ていたいものですね。スカ○ターをお借りできませんか?」
「それは構わないが、スカ○ターの音声も入ってくるのに電話対応なんてできるのか?」
「耳からではなく、サイコメトリーで情報を得ていますから何ら支障はありませんよ」
それなら構わないか。影分身は作るが本体はずっと体育館にいるし、ジョンに新しく出してもらうこともあるまい。
「じゃあ、それぞれで仕事はあるだろうが、応援よろしく頼む」
『問題ない』

 

 オンシーズン最終日だから報道陣が大量にいるのは当たり前として、平日にも関わらずどうしてこんなに一般客が多く揃って客席に集まっているんだか。おそらくOG達が入るであろう二つのコートを埋め尽くしていた。そんなんじゃいくら撮影しても司令塔の声まではカメラに収まらないだろう。体育館の利用についての諸注意をマイクでアナウンスしてからベンチに立った。今日の出来によって明日以降の日程が決まってくる。昨日の生放送と同程度かそれ以上の緊張感を抱いた妻とOGセッター、青古泉、青みくる、青鶴屋さん、ハルヒの六人がコートに入った。子供たち三人と交代するメンバーがいるのかどうか……二人は固定で残り四人の中から三人出てもらわないとな。2:4に分かれたOGに席を移動する観客もちらほら見受けられる。向こうに行くより、こっちに来る方が多いな。どこかで一度人気投票してみたいところだが、良い場がない。そして、いよいよ試合開始の笛が鳴る。相手エースのサーブからか。丁度いい。テレパシーではない発せられた声がコートに広がった。
「一樹、一歩右!」
指示を受けて青古泉以外の四人が一斉に攻撃態勢に入った。チラッと横を向くと他の選手や監督の驚いた表情が見ることができた。だが、この程度で驚いてもらっては困る。超速攻のハルヒのAクイックも難なくレシーブされたが、これも想定の範囲内。こちらより遅いテンポだが向こうもダイレクトドライブゾーンで攻めてくるらしい。
「バック、みくる!」
どうしても腕ごと後ろに下がるのと、右手が先に出てしまうのは直しようがないな。だが、それがあるからこそバックトスだと読める。囮でCクイックに飛び込んでくる味方もいないようだしな。バックステップで下がりはしたものの、防御態勢もまだ完全ではないところにハルヒの二度目のAクイックが炸裂した。ローテが回って青古泉のサーブ。サーブが簡単に捕られてしまうってのに、六人ともやけに機嫌が良いように見えるのはどうしてかな。
「B、ハルヒ、ネット際!」
指示が出ることで青みくるもハルヒや青鶴屋さんと同等のタイミングで攻撃態勢に移った。真下に落とすスパイクを待ち構えていたハルヒがここぞとばかりにレシーブし、OGセッターがそのままバックトス。采配はバックから飛び込んできた青みくるを通りすぎ、青鶴屋さんのBクイックがサイドラインに叩きつけられた。これまでならここでタイムアウトを取るところだろうが、指示を出している人間も日本代表。監督ももっと見てみたいと考えるはずだ。そろそろ囮を入れてきてもおかしくない。
「ブロード、私が捕る!」
Bやバックもほぼ同時に飛んでいたが、右手が先に出てなかったのと、手首の角度がそこまで大きくなかったことをしっかりと見極めていたようだ。ここまで見ることができればそれで十分だ。すぐさま影分身を叩き起こして調理を再開した。セッターが狙われ、どう叫んでいいか悩んでいたが、セット終了後に話せばいいだろう。日本代表としての経験からか、セッターの質が元変態セッターとまるで違うな。有希に負けずとも劣らずの正確性を見せ、連携ミス以外は大した失点も無く一セット目を勝ち取った。
「まったく、あなたとチームを組んでいる気分ですよ。昨日の生放送でも指示できたのではありませんか?」
「セッターが青古泉で全員攻撃を仕掛けてくる青チーム相手じゃ無理だろうな。ワンテンポ遅れた選手が囮としてしか機能していない今だからこそ読めるだけだ。だからこそ、明日からは男子日本代表の方に加わってもらう。男子の方も相手国に読まれないトスをすることと、まずは三枚ブロックでブロックアウト封じの練習からだ」
「でも、キョンから詳しい説明を聞いておいて良かった。あれがなかったらブロードなんて分からなかったかもしれない。だけど、セッターが狙われたときはどう指示すればいいの?」
「ダイレクトドライブゾーンである以上、スイッチは不可能。だが、一セット目を見ていて俺もようやく閃いた。そういうときは『A、セッター狙い!』とでも叫べば周りの五人が攻撃態勢に入るし、後は前衛の攻撃に合わせてツーで攻撃させるだけだ。これだけ正確なトスができるんだから、レシーブだろうと簡単に上げられるだろ?撃てなかった方が文句を言われるぞ。どこに上げるかはセッターの采配次第。そこまで指示を出す必要もない」
「キョン先輩、私にそんなことができるんですか?」
「できないことを提案したりはしないし、これができなきゃおまえら六人でのダイレクトドライブゾーンもセッター狙いで潰される。防御力なら夜練で十分ついているはずだ。狙っても意味がないと相手の脳裏に叩きこめ!」
「はい!」
「ホンットにもう!入るんじゃなかったわ!あんたがいるときとまるで変わらないじゃない!涼子と交代してこようかしら?あの三人早く帰って来ないかな」
「そんなに気を落とすことも無いにょろよ!あたしもたった一セットだけで気持ちの良いスパイクがいっぱい撃てたっさ!はるにゃんもそうじゃないにょろ?」
「そりゃあ……そうだけど……」
「身体にこのテンポを叩きこむまではコートに立たせてください!」
「それより、青鶴屋さん、コールのされ方が本当に『鶴ちゃん』でいいんですか?俺も聞いたときは驚きましたよ」
「あたしがはるにゃんや有希っ子なんて言っているようなものっさ!何も気にすることはないにょろよ!」
「では、この後も存分に味わってもらうことにしましょう。司令塔の入ったダイレクトドライブゾーンの強さをね」
『問題ない』

 

 子供たちが帰ってきて一番にコートから抜けたのはハルヒ。青古泉とハルヒはそのまま体育館を去って行ったが、青みくるの試合を見ていたいからと青鶴屋さんがベンチに留まった。このメンバーで指示が必要な人間は幸と青みくるくらいか。指示ミスも無く、双子が戸惑うような場面に遭遇することもなく全セット圧勝でオンシーズン最終日を終えた。
「キョン社長、昨日仰っていた『「化ける」可能性を秘めた選手』というのは彼女のことで間違いありませんか?」
「第一号は彼女で間違いありません。この二週間も自身の集中力を鍛え、相手の采配を読み取る練習をさせてきました。本人は自信なさげにしていましたが、指示ミスも一切なく今日の試合を通して少し自信が付いたのではないかと思っています。元々、零式を習得した時点で相応の集中力は持ち合わせていましたからね。零式改(アラタメ)も一度だけですが成功していますし、今後は女子日本代表の『零式使い兼司令塔』として活躍してくれるはずです」
「采配を読むときは一体どこで判断しているんですか?」
「セッターの手首の角度や力の入り加減、腕の角度が判断材料になっています。コースを読むときはスパイカーの最初のステップの位置、視線、腕の角度で誰に行くか判別がつきます」
「彼女が日本代表側として入れば、これ以上集中力を鍛える必要はないのではありませんか?」
「それは大きな間違いです。それでは彼女一人に頼ってしまうことになりますし、彼女が何かしらの理由でコートから抜けたとたんにダイレクトドライブゾーンが使えなくなってしまうでしょう。彼女自身もこれから采配を読む訓練を積み重ねていく必要がありますし、指示を間違えてしまうことも当然あります。そのときにただ指示に従っているだけの状態では困ります。おかしいときはおかしいとカバーに入らなければ、みすみす相手国に点を渡してしまうようなものです。万全の態勢で臨んでも、完全に采配を読みとれるわけではありません」
「キョン社長、ありがとうございました」
この後は……愚妹の引っ越しと青俺の両親に挨拶か。やれやれ……
『キョンパパ、お帰り!』
81階について早々、先にフロアに戻っていた双子が駆け寄ってくる。何かいいことでもあったのか?
「どうした?二人ともやけに嬉しそうだな」
『今日はキョンパパと試合しているみたいで面白かった!』
「そういや、ハルヒも俺がいるのと変わらないなんて言ってたな。明日から男子日本代表も来る。スパイクが強烈だが闘えそうか?」
『あたしに任せなさい!』
夕食までまだ時間もあるし、アレを置いてくることにしよう。そのまま置くだけじゃビルがもたんからな。カレーの方はもうしばらく時間がかかるが、熊肉はようやく臭いを消す作業が終わった。明日中にディナーの仕込みを終えることができるだろうが、まずは朝食のパン作りからだな。週末のおススメ料理も古泉たちと相談………アイツ、大丈夫か?

 

「いやぁ、電話対応をしながら試合の様子を見ていて驚きましたよ。青僕やハルヒさんがああ言ったのもよく分かりました。ミス一つなく指示を出されてしまってはあなたと一緒にプレーしているようにしか思えないでしょう。これはお返ししておきます。ありがとうございました」
「あぁ、これで明日から男子の方に合流できる。それと古泉、一つ気になったんだが、おまえ、おススメ料理の火入れと夜練は同時に可能か?」
「なるほど、あなたに言われるまで僕も気が付きませんでした。レストランの開始と同時に全テーブルからおススメ料理の注文が殺到しても、夜練開始後しばらくはそちらと被る可能性がある。どうやら、今日から僕も影分身を駆使してレシーブ練習に参加する必要がありそうですね」
「ああ、球出しなら古泉でもいいとは思ったが、たった四体くらいで精度が上がるとは思えない。ゾーンには入れないが、ストレートだけなら問題はあるまい。例のパフォーマンスと交代してくれないか?それとおススメ料理の順番はどうする?」
「了解しました。あなたが木曜日のディナーを担当しているんですから、涼宮さんからということになりそうです。今日のディナーは僕が担当しましたので、涼宮さん、僕、あなたの順でいかがです?」
「ああ、それでいい」
「ちょっとあんた達!そういう相談ならあたしも入れなさいよ!」
「なんだ、古泉の案に反対だとでもいうのか?」
「黄古泉君の案でいいけど、関係者を全員集めてから話しなさいよ!」
「おまえにも聞こえる位置で話していたんだから、別にいいだろ?」
「良くないから文句を言ってるんじゃない!」
「分かった。今後気を付けるようにする。今回はそれで勘弁してくれ」
「分かればよろしい!」

 

 ほぼ全員が夕食のタイミングで出揃ったが、まだ空席が一つできている。
「あと戻ってきてないのは有希さんだけみたいね。調理に手間取っているのかしら?」
「俺が行って呼んでくる」
「いや、影分身と同期して戻ってくるよう伝えた。現状維持の閉鎖空間で覆ったから心配いらないと説明してあるし、本体だけ戻ってくれば、影分身は作業を続けていても平気だとも言ってある。今はこんな状態だが、次第に影分身の数が増えていくだろう。ところで、異世界支部の本店に服は並べてあるのか?今、影分身を向かわせてエレベーターのスイッチに閉鎖空間を取り付けるよう指示を出したところなんだが……」
「それなら昼食後にこちらのOG達がやってくれました。堂々と明日からOPENできますよ」
青古泉の返答を得てしばしの間をおいて青有希がどこ○もドアからこちらにやってきた。
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「話は後!とにかく食べ始めましょ?」
『いただきます』
「有希、そんなに忙しいのならあたしも手伝うわよ?」
「平気。明日の朝食分はもう終わった。未来に持って行く分を作っていただけ。黄キョン君が出かける明日の朝には間に合わせたかったから」
「キョン、非戦闘員でもシェルター内に入ってしまえば、襲われる心配はないという話だったはずだ。僕も彼女の手伝いをしたいんだけど、いいかい?」
「ああ、それは構わない。料理に合わせて紙皿や箸、スプーンあたりを情報結合してくれ」
「ところでキョン先輩、影分身と同期するって一体どうやるんですか?」
「テレパシーとサイコメトリーの複合技だ。情報を伝えたり受け取ったりするときに人差し指で触れるだろ?あれと同じイメージを持てばいい。ただ、そのままサイコメトリーすると『疲れた』だの『単調作業ばっかりで面倒』だのそういう気持ちまですべて入ってくる。テレパシーで今どんな状況か聞いて、こちらの求めている情報を教えてくれと頼むような感じだと思ってくれればいい」
「事のついでで悪いんだけどね。キミはさっき『同期』という言葉の後に『現状維持の閉鎖空間』と言った。これまで現状維持の閉鎖空間で人を覆ったことはあるのか教えてくれないかい?」
「無いな。その閉鎖空間は料理でしか使ったことがない。何なら試しに佐々木を10秒ほど囲ってみようか?」
「くっくっ、それは面白そうだ。コールドスリープと同じ状態になるのかどうかこの眼で確かめさせてくれたまえ」
「確かに話を振ったのは僕だけれど、自分自身が実験台になるなんてこれっぽっちも思ってなかったよ。でも、キミの言い草ならどうやら悪影響はないらしい。試しにつけてみてくれないかい?」
「よし、じゃあ三人で一緒に1~10まで数を数えるぞ」
『フフン、あたしに任せなさい!』
佐々木を色つきの閉鎖空間で覆ってから子供たち三人が数を数え始める。周りも10秒間の佐々木の様子を見つめていた。
『1……2……3……4……5……6……7……8……9……10!』
子供たちがカウントしている間、まるで動かなかった佐々木がようやく動き出した。
「おかしいね、キミが僕に閉鎖空間を取り付けてから本当に10秒数えたのかい?囲まれて、すぐに外されたようにしか見えなかったんだけどね」
「その言葉が本当だとすれば、コールドスリープの技術なんて必要がなくなってしまいます。閉鎖空間に条件を一つ加えただけで、現代科学の最先端の更に先を行くとは思いませんでした」
「くっくっ、研究のやりがいが出てきたじゃないか。しかし、キョン。この閉鎖空間を食材以外のものにあまり多用しないでくれたまえ。僕たち全員の時間が止まってしまうよ」
「問題ない。その時点で他の時間平面上のわたしが閉鎖空間を解除しにくる。でも、その代償は極めて大きい」
「代償って何よ!?」
「今作っているカレーをすべて持って行かれる」
『あ……なるほど』

 

「ところであんた、結局どっちの歌詞を採用することにしたのよ?あたし?それとも青あたし?」
「今回は青チームの涼宮ハルヒのものを使用する。曲名の考案者ということもあって、タイトルに即した自然な歌詞だった。この後すぐアフレコ予定。19階に来て」
「あのぅ……有希さんアフレコはいいんですけど、今回はどっちのチームで踊るんですか?」
「作詞は青チームの涼宮ハルヒ。でも、今後のことを考えると、どちらもダンスを踊れるようになる必要がある。それに青チームは明日から異世界支部が始動する。ダンスを先に覚えてライブで踊るのはわたし達。でも、数日もしないうちにビラ配りで新曲のダンスをせがまれる。それに、できた」
できたという三文字にてっきり衣装のことだとばかり思ってSOS団五人の前をほぼ全員が見つめていると、青チームの後ろからTVの電源が入る音が鳴った。『制作総指揮キョン』と黒い背景に薄いグレーで文字が大きく文字が表示された後、園生さんのセリフが入り、『孤島を舞台に事件の火蓋が切って落とされる』とTVの枠を辿るように書かれたテロップ。クルーザーから降りて館まで歩くシーンが映っていた。
『こんばんは。今日はあなた方に招待状をお届けにあがりました』
シドの殺害現場の映像になぜか朝倉の悲鳴が耳に入ってきた。朝倉の悲鳴は服部殺害時じゃなかったか?
『この密室の謎を解かない限り、犯人は捕らえられないわ!』
洞窟内で倒れている青ハルヒの映像に加えて、俺が演じたであろう青古泉が青ハルヒを呼ぶ叫び声。
『ハルヒ――――――――――――――――――――っ!!』
『第九話を見て、事件の真相を暴いた人の中から抽選で50名様に、一樹自らシャンプー&カットをするわ!応募方法はご覧の通り。第十話放送日必着で送ってちょうだい!』
「CMのクオリティに関しては文句のつけようがありませんでしたが、衣装のことだとばかり思っていましたよ」
「衣装はまだ考え中。民族衣装を一人に一つずつと考えていた。でも、派手すぎるものや顔が分からないものもあって人数分セレクトしようとすると難しい。踊り子用の衣装をわたしがデザインする予定」
「それを聞いて安心したよ。てっきり僕は、どこぞのカーニバルのような露出度の高い衣装を着させられるんじゃないかと心配で仕方がなかったんだ」
「おまえ、そんなことを言っていると、あとで後悔することになるかもしれんぞ?」
「脅かさないでくれたまえ。黄僕が妊娠している以上、どちらのチームだろうと僕が出ることに変わりはないんだからね」
「では来週からCMで流してもらうよう、明日フジテレビに出向いてきます。ダンスの振り付けについてはいつ練習をするんです?」
「楽曲が完成次第送付する。日曜の午後振付師に来てもらう予定。その時間帯は空けておいて」
『有希お姉ちゃん、わたしもダンス踊りたい!』
「ダンスを踊るのはいい。でも、折角の練習試合ができなくなる。それでもいい?」
『絶対嫌!わたしは試合の方がいい!!』
「ダンスなら試合が終わってからいくらでも踊れる。それまで待てるか?」
『問題ない!』

 

「では、私の方から一件報告だ。午前中に調理スタッフ希望の電話が来た後、午後から更に二件希望の連絡が入った。どちらも明日の三時から面談をすると伝えてはいるが、内一件は電話の状態で不採用が確定したようなものだった。何も無ければ前回と同様、古泉に入ってもらいたいんだがいいかね?影分身でも支障はない」
「了解しました。明日の午後三時ですね?」
「ああ、頼んだよ」
「俺から二つ報告だ。金曜のライブのパフォーマンスについてなんだが、古泉も現段階では夜練とおススメ料理を同時にこなすのは流石に厳しいらしい。夜練の方は俺が二人に別れて、パフォーマンスの方は催眠をかけないまま古泉が出る。それを知っておいて欲しいのと、異世界支部の60階に金の延べ棒を全部置いてきた。テレポートでしか入れないようになっているから、見に行きたいときはテレポートで入ってくれ」
「あんたね!500トンの金塊を置いてきたことくらいで報告するようなことでもないでしょうが!」
「おまえ、自分で言ってて気付いてないのか?」
「どういう意味よ!」
「500トンの金塊を、そのままビルの上層階に置かれてしまっては、床がその負担に耐えられないどころか、下層階まで突き破ってしまうことになります。黄朝比奈さんのイヤリングと同様、負担を軽くしてくれたようですね」
「そういえば、撮影が終わってからみくるちゃんがあのイヤリングをつけているところを見たことがないわね。みくるちゃん、あのイヤリング気にくわなかったの?」
「えっ!?いえっ、そんなことは無いです!でも、あのイヤリングをつけると、なんだかスイッチが入って興奮しちゃうみたいで……ドラマの女刑事役が染みついちゃいました。ライブのときはパフォーマンスもありますし、着けるつもりではいるんですけど、バレーの試合のときにそれをつけるわけにもいかないですし……」
「あのイヤリングの案を出したのが他でもないあのパイプ椅子だからな。嫌ならいつでも言ってくれ。2000万円もしたわけでもないんだし、別のアクセサリーにすることだってできる」
「キョン君、あのイヤリング、わたしが持ってちゃ駄目ですか?」
「いや、みくるがそれでいいのなら奪い取るような真似はしない。ハルヒの言っていた通り、もし気にくわなかったらの話だ」
「良かった。折角、キョン君からもらったイヤリングでしたし、着ける機会は少なくなるかもしれませんけど、これからもずっと持っていたいです!」
「じゃあ、この後も仕事のあるメンバーはよろしく頼む。69階と100階にはカレーが出来次第向かう。青俺、青有希、あの二人に何か言ってくることはあるか?」
「特に何も……ないよな?有希」
「うん、問題ない。でも黄キョン君、行くのはちょっと待って欲しい」
「まだ他に議題でもあったか?」
「おや?ディナーの方でもそろそろ出ているかと思いますが、冬のオンシーズン最終日が何の日だったか覚えていらっしゃらないのですか?」
ああ、そういうことか。古泉の一言と共に青ハルヒが指を鳴らす。底面は正方形だが、高さが異様に長いプレゼントボックスが二つ現れた。女性陣全員で一体何人になるのかは知らんが、全員で作っていたらいくらキッチンが広くても作業効率が落ちてしまいそうだ。
『キョンパパ、これケーキ?』
「そのようだな。何のケーキなのかは開けてみてのお楽しみにしよう」
しかし、毎年のことではあるが、ウェディングケーキとして出てくるのはどうにかならんのか?一人ずつチョコを渡されるのも食べきれるとは到底思えないし、それもどうかと思うが……ホールケーキ四つか五つで十分だろうに……まだ夕食の途中ということもあり、今回は舞空術ではなくサイコキネシスで蓋が開けられた。子供たちの期待を裏切ることなく中身はチョコレートケーキ。みくる達が切り分けてそれぞれの手元に渡った。昨日は生放送を終えての祝賀会だったが、冬のシーズンはこれがないと終われないらしい。忘れていた俺の言えるセリフじゃないけどな。ストレスの溜まることをやり終えてから美味しくいただきたかったが、まぁいいだろう。これで愚妹の引っ越し作業に迎える。
「ちょっとあんた!何時頃100階に来るのか説明してから行きなさいよ!」
「昨日より遅くなることは無い。精々夜練が終わった頃だ。じゃ、あとは任せたぞ」

 
 

…To be continued