「悪夢を食べる聖獣」

Last-modified: 2008-07-22 (火) 01:56:36

概要

作品名作者発表日保管日
「悪夢を食べる聖獣」94-412氏08/07/2208/07/22

作品

ジャランジャランと鐘の音が聞こえる小さな教会の中、あたしはそこにいた。
立っていたのは出入り口のドアの前、たくさんの人がいるのに誰も後ろを向かないから、あたしに気づかない。
みんな大人になったね、古泉君は礼服を着て相変わらず笑っていたけど、部室で見ていた時より何倍も楽しそう。
あのきれいな女の人はきっとみくるちゃんね、また胸が大きくなったんじゃない?
有希はちょっと大人っぽくなったけど、あんまり変わらないわね
着物を着て日本髪を結った鶴屋さん、谷口と国木田は並んで立っていたけど全然変わってない。
外人の神父さんがたどたどしい日本語で言った。
 
「デハコレヨリ、ケッコンノアカシトシテユビワノコウカンヲオコナイマス」
 
なんで?なんであいつが白いスーツなんか着ているの?
やめて、こんな光景見たくない、古泉君、有希、みくるちゃん、みんな!あいつの目を覚まさせてあげて、お願い、あたしはこんなの見たくない・・・
あたしがいくら叫んでも誰の耳にも聞こえてないみたい。
もうひとりでいるのは嫌、あいつがいなくなったら、あたしはまたひとりぼっちになっちゃう
だって最初にあたしに話しかけてくれたのはあいつだったし、あいつのヒントがあってSOS団を作った。
みんなと会わせてくれたのもあいつだと思ってた。
あたしは結婚式に乱入して滅茶苦茶にしてやろうと思って祭壇に向かって走ろうとしたけど足が進まない
キョンはすごく嬉しそうな顔をしていた。まわりのみんなも祝福している。
 
「デハ、コレヨリ、チカイノキスヲ・・・」
 
神父の言葉にあたしは金縛りになった。キョンが花嫁のベールを上げようとしたとき
あたしは反対方向に向かって走った。あいつの相手の顔なんて見たくない・・・
 
「こんなの酷いわ、でもキョンが幸せになれるなら我慢しなきゃ・・・」
 
教会のドアを開けるとあまりに強い光があたしの視界を奪った。
涙がとまらない目を閉じてあたしに出来る精一杯の祝辞をキョンに送った。
 
「さよならキョン、幸せになってね・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
ようやく目を開けることができると、映っていたのは部屋の天井、朝日が窓から差し込んできて凄く眩しい
 
「夢だったんだ・・・」
 
でもあたしの目から流れてくる涙が止まらなかった。怖い夢をみて泣いちゃったのは子供の時だって記憶に無い、
あたしは洗面所で顔を洗って、鏡で見たら目は真っ赤、しかも腫れている
それにしてもリアルな夢だったわ、キョンとキスした夢以来よ
こんな顔をして学校に行ったら、またキョンが「どうしたハルヒ、なにかあったのか?」なんて言いながら心配するから、せいぜい夜更かししたと言っておこう
もうあんな夢見たくない・・・
 
 
 
その日の明け方、僕の携帯が鳴って非常呼集がかかった。なんでもかなりの規模の閉鎖空間が発生して神人が大暴れしているらしい
また彼女は悪夢でも見たのだろうか?
新川さんの車に乗って現場に急行し、すぐさま閉鎖空間の神人を消滅させた。
一仕事を終えて帰宅しようとした僕を森さんが呼び止める
「古泉君、涼宮ハルヒはかなり辛い夢を見たようね、君がケアしてあげなさい、これは命令です」
 
その日の放課後、僕は部室にいた。ここに通うのはもう任務でも仕事でもない、僕の義務だ。
「朝比奈さん、今日は渋いお茶を頂けませんか、少々寝不足でして」
彼女から熱くて濃い緑茶を受け取りそれをすすりながら眠気の残る頭で考える。
誰にだって不安を抱える時や、ストレスを感じる時がある、彼女が閉鎖空間を発生させてしまう事を責めることなんて誰もできない
もし責める人間がいるとしたなら、たとえ「彼」でも僕は許せない
 
いや失礼、お聞き苦しい物を聞かせてしまいましたね。くだらぬ愚痴と思って忘れて下さい。
僕の考えは杞憂に終わります。何故なら僕以上に「彼」は涼宮さんを大事に思っていますから、素直でないのが欠点ですがね
僕たちSOS団を新撰組に例えるなら、近藤勇はもちろん涼宮さん、長門さんは沖田総司かな、朝比奈さんは誰だろう?
さしずめ僕は山南敬助か伊東甲子太郎ですね、きっと「彼」ならそう言うでしょう
そして「彼」はもちろん・・・
申し訳ありません余談が過ぎました。
 
先程涼宮さんが部室にやってきて今朝見た夢を面白おかしく語ってくれました。「彼」は進路指導で今日は遅く来るみたいですね
「あんなバカキョンと誰が結婚するのかしらね?」
なるほど今朝の閉鎖空間はそれが原因でしたか、つらい夢だったのでしょう
そして落ち着いた涼宮さんは団長席に座ってネットサーフィンを始めました。
長門さんは何事も無かった様に読書を続けています。そして朝比奈さんが話しかけてきました。
「古泉君、気づいてましたぁ?涼宮さん一生懸命泣くのを我慢してましたね、別に規定事項だから心配しなくても大丈夫なんですけど・・・」
「おやおや、そんなこと僕に言って良いのですか、未来に関する情報なんて「禁足事項」でしょう?」
朝比奈さんは手のひらで口を塞いで僕の前から逃げて行きました。
さて、未来人がヒントをくれたのですから、森さんからの命令を実行します。
あと涼宮さんには予知能力があるかもしれないと森さんに報告しましょう
 
「涼宮さん、よろしいですか?」
「なに?古泉君」
「先程の話ですが、疑問に思う点があります。涼宮さんの声が周りの人に聞こえなかったのは、映画に例えるなら教会の中はスクリーンで、
涼宮さんは観客だった。そんな感じがしますね、予知夢を見るとき良くある事らしいですよ」
「やめて古泉君、なんであたしがバカキョンの結婚式の夢なんて見なきゃなんないのよ」
本当に似たもの夫婦といいますか、お互い素直じゃないですね、それでは治療開始
「ええそこなんですよ、団員の結婚式に涼宮さんが出席しないはずはありませんよね、話を聞く限りでは、あなたはご自分の姿を見なかった。
僕たち団員がそろって祝福しているのですから、そのときの涼宮さんはその教会にいたはずです。顔を確かめなかった登場人物はいませんか?それが涼宮さんだと僕は思うのですが」
 
涼宮さんは少し考えたあと、顔を真っ赤に黙ってしまいました。もう大丈夫のようですね
そろそろ「彼」もやってくるので今日は人生ゲームでもやりながら追い詰めてあげましょう。
いつまでもはっきりしないあなたが悪いのですから