「小春日和」 (62-621)

Last-modified: 2007-09-28 (金) 23:13:20

概要

作品名作者発表日保管日
「小春日和」62-621氏07/09/2807/09/28

作品

ある日の団活終了後、あたしはキョンと下校していた。それにしてもヒカルちゃんのお遊戯姿、可愛かったなぁ。
あ、ヒカルちゃんって言うのはあたしの親戚の子でね、こないだお遊戯会のDVDを貰ったの。
でも家で見る暇が無かったから部室で見てたって訳。見てるとあたしもその頃に戻りたいなぁってちょっと思っちゃった。
 
その時だった。あたしがキョンより先に校門を出て、曲がった瞬間急に頭がクラッと来て尻餅を着いてしまった。
「いたた…」最近夜中までSOS団の今後の活動について色々考えてたからなぁ。寝不足かしら?
すると校門を曲がったキョンがあたしに向かって来た。ちょっと!止まんなさいよ!
「おわっ!」
「キョン!あたしを蹴り飛ばす気!?気付きなさいよ全く…」
「君、大丈夫かい?怪我は無いか?」
「何よ急に他人行儀になっちゃって。それで気を使ってるつもり?」
「ん?俺君とどっかで会ったかな?その、何というか…馴れ馴れしい子だなぁと…」
うるさいわよ!…って、あれ?キョンにボディーブローお見舞いしてやろうと思ったのに…
届かない、それに手が小さい、あたしもう立ち上がってるハズなのにキョンがやけにデカイ…いや、デカ過ぎる。
「あはは、元気な子だな。所でココに座って何してたんだ?」
何言ってんの?あたしはあんたと下校し…て…。あたしは絶句した。自分の姿を見てみると、身体が小さくなっている。服も。
「見掛けない制服だな?そんな制服ここらの小学校であったっけ?デザインが北高の女子のにそっくりだが。君の私服か?」
何よコレ、もう訳分かんない。どうして小さくなってんの?あた…
あたしは気を失って倒れてしまった。
 
気が付くとソコにはぬいぐるみや漫画本が所せましと並べてあり、学習机が置かれていた。
「あっ、キョンく~ん!起きたよ~!」この声は妹ちゃんだ。って事は妹ちゃんの部屋か。
そうか、あたし倒れちゃったんだ。キョンが家まで運んでくれたのね。
「よう、気分はどうだい?」キョンが話かけてくる。
「ええ、もう大丈夫よ、心配掛けたわね」するとキョンがニヤついた。「何よ」とあたしが言うと、
「ホントしっかりしてんなぁ。ウチの団長みたいな話し方だし。妹にも見習わせたいよ」横で妹ちゃんはふくれていた。
あ、そうか。あたし小さくなってたんだ。冷静になってみると、コレってとんでもない体験してるんじゃないの?あたし。
でもまさかこんな事になるなんて…。するとキョンが話始めた。
「しかしハルヒの奴ドコ行きやがったんだ?鞄をほったらかして。妹は妹でこの子を知らないみたいだし…参ったな」
多分ここで本当の事を言っても無駄でしょうね。頭がちょっと爽やかな小学生としか見られない。
「君、名前は?」キョンが聞いて来た。
「ハル…」いや待って。ハルヒはまずいわよね…えっと、どうしよう…あ、そうだ。
「小春」
「小春ちゃんか」
「そうよ」
「小春ちゃん、家の番号分かるか?」
「昨日引っ越して来たばかりだからまだ電話繋いでないの」
「そっか…」
はぁ…嘘をつき続けるのも難しいわね。でも今はしょうがないわ。この姿である以上、あたしに行き場所は無い。
ひとまずキョン家にお世話になって、この後どうするか考えなきゃ。
 
そこへ一旦部屋を出ていた妹ちゃんがやって来た。
「二人ともご飯だよ~」
二人?不思議な顔をしていたあたしにキョンが話しかける。
「あぁ、俺が小春ちゃんの分も作るようにお袋に頼んどいたんだよ。それにもう外は暗いし、小春ちゃんはまだ体調万全じゃないだろうと思ってな。」
キョンは続けて…
「親御さんに連絡を取り様が無いのが困りもんだが…今日はもう遅いから泊まっていくといいよ」
キョン!何で団活の時はいつもああなのに、家ではこうなのよ!気配り完璧じゃない!…と、あたしは心の中で叫ぶ。でも一応説明しとかなきゃね。
「親なら大丈夫よ。うち放任だから」
「おいおい、その歳で放任って…軽い育児放棄じゃねえか」とキョン苦笑い。
 
食卓はそれは楽しいものだった。ハンバーグに目玉焼きをのせ、手作りのデミグラスソースがかかったのとか最高に美味しかった。
ありがとう、おばさま。それに手伝いをしていた妹ちゃん。
リビングで皆でくつろいでいると、キョンが…
「おい妹よ、小春ちゃんをお風呂に入れてやってくれよ」
「あ、ごめんキョンくーん!明日は合唱コンクールがあるから、お風呂でママにダメなトコとか教えて貰うの~だからキョン君一緒に入って~」
え?妹ちゃん?
「やれやれ、しょうがないな、小春ちゃんお風呂入ろうか」
え!?ちょっとキョン!?
あたしは突然の展開に開いた口が塞がらなかった。マンガだったらアゴが地面に着いてるわ。
まさかこんな事になるなんて…いくら未発達の身体とはいえ、心は元のあたし、全てを見られる様で凄い恥ずかしい…!
「どうした小春ちゃん?おいで」
キョンの後をついていく。お風呂場到着。あたし硬直。
キョンが服を脱いでいる…ダメッ見れない!体温が一気に上がるのが分かる。あぁ~あたし絶対顔赤い…
「おーい何してんだ?体冷えちまうぞ?」
先にお風呂場へ入ったキョンがあたしを呼んでいる。あたしはタオルで前を隠して入る。
良かった、キョンは腰にタオルを巻いていた。さすがにダイレクトに見ちゃったらあたしでも引いてしまうわ。そんな事を考えてると…
「あのー小春ちゃん?タオルどけてくれるか?体洗えないんだが…」
ああ…キョンに全部見られる!もうお嫁に行けない!キョン責任取ってよね!覚悟を決めてあたしはタオルを取った。
「…!……!………?」
あら?キョンは淡々と体を洗い始めた。しかも凄く手際が良く無駄がない。あたしは思わず聞いてしまった。
「何か…慣れてるわね」
「ああ、妹を小学2年位まで毎日風呂に入れてたからな」
もうアホキョン!一人で慌てたり赤くなったりしたのが馬鹿みたいじゃない!
あたしはすっかり落ち着きを取り戻し、あたしの体を洗っているキョンをジッと見ていた。
大きな手…。あたしが小さいからか、キョンの手が大きく、たくましく見える。
「よしっ終わったぞ。小春ちゃんついでに俺の背中洗ってくれるか?」頷くあたし。
キョンが背中を向いた後、何でそんな行動を取ったのかは分からないけど…あたしはキョンの背中に寄り掛かる様に自分の額を付け、目を閉じていた。
 
「ん?小春ちゃん?」キョンの声で我に返る。こうやって洗いっこしているうちに、あたしは本当の子供の様な感覚に陥っていった…
「終わったよ!…お兄ちゃん…」あたしが呟くとキョンは驚いた表情で振り返る。
「小春ちゃんはキョンでいいぞ、むしろその言葉は妹が使…んむっ」
「いいの!」あたしは小さな手でキョンの口を塞ぐ。
それから二人で湯船に浸かり、元のあたしでは絶対聞けない様な話をした。
好きなタイプや、SOS団の皆をどう思ってるかや、今好きな人がいるか、等々…
こんな表情豊かなキョンは初めて見る。困った顔や照れた顔、時折見せる優しいその笑顔にあたしは吸い込まれそうになった…
 
お風呂からあがる直前に、あたしは自分でも驚く様なとんでもない事を口にしてしまう。
「あたし大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!」
…沈黙。そしてキョンは申し訳なさそうに返事をする。
「ごめんな小春ちゃん、その願いは叶えて上げられそうにないよ」
あたしは「どうして?」と不安げに聞いた。すると…
 
「さっき団長さんの話をしてただろ?俺はその人と結婚するからさ」
 
涙が溢れた。
それを見たキョンは急に慌てだし…
「あっ…ご、ごめんな小春ちゃん!泣かす気は無かったんだ!その…」
「お兄ちゃんのいじわる~!いいじゃない結婚ぐらい~!」涙は本当。言葉は嘘…やっぱり嘘つくのは難しい。
 
お風呂からあがり、就寝時間。あたしは妹ちゃんから借りたパジャマに着替えている時、
「お兄ちゃんと一緒に寝たい」とお願いしていた。
二人でベッドに入る。それにしてもさっきから、子供である事をいい事に好き放題やってるわあたし…
この際だから最後のお願いをしてみよう。
「お兄ちゃん…」
「ん?どうした?」
「チューして…」
え?っと困った表情になるキョン。やりすぎたかな?すると…
「じゃあ小春ちゃん目を閉じてくれるかな?」
あたしは目を閉じる。
チュッ
キョンはあたしのほっぺにキスをした。ちょっと期待し過ぎだったかな?あ、でも考えてみれば他人の幼い子の口にキスするのはヤバいわよね…。これはこれで嬉しいんだけどね♪
「おやすみお兄ちゃん」
「ああおやすみ小春ちゃん」
最後にこんな事を考えながら、あたしはキョンの胸の中で眠りにつく…
 
「元の姿になってキョンの胸の中で眠りたいな…」
 
次の日…朝5時。あたしは目が覚めた。うん?なんか窮屈ね…
…………あれ?
体が戻ってる!どういう事よコレ!何なの…今まで全て夢だっ…
夢じゃ無かった。あたしは元の姿でキョンの胸の中にいた。でも…さすがにマズイわよね。昨日ココで眠ったのは小春なんだから。
とりあえず制服来て家を出なきゃ…あたしは渋々キョンから離れる。
支度完了。あたしはじっとキョンの寝顔を見た後で…
「ありがとう。お兄ちゃん…」
そう呟いて、ほっぺでは無く唇にキスをした。そしてあたしはキョン宅を出た。
 
その日、いつもの様に学校へ…アイツが来るのを待っている。
ガラガラッ!来た…!
「おっはよーキョン!」
「ん?ああおはよう…」
キョンはぼーっとしている。無理も無いわよね、昨日まで一緒にいた幼い女の子が消えていたんだから。
「朝っぱらから元気だなお前は。あ!昨日どうしたんだよ、鞄は校門に起きっぱなしだったしどこ行ってたんだ!」
「くひひ、知りたい?」
「言ってみろ」
「未来の旦那さんに会いに行ってたの!」
「なんだそりゃ?」
 
キョン、あたし待ってるからね!幸せにしないと…死刑だから!