二度目の消失日 (73-254)

Last-modified: 2007-12-19 (水) 22:47:49

概要

作品名作者発表日保管日
二度目の消失日73-254氏07/12/1807/12/18

作品

あれからもう1年経つのか…
 
12月の寒空の下、いつものように強制ハイキングコースを心行くまで堪能しながら俺はちょうど1年前の事を思い出していた。
 
あれから1年が過ぎ、その間俺は相変わらず毎日のようにSOS団、主に涼宮ハルヒによって振り回され続けて過ごして来た訳だ。
よくもまぁ宇宙的未来的超能力的なイベントも底を尽かないもんだと関心する。
とはいえ、去年の今頃に俺が選んだ世界だ。文句も言うまい。
 
何だかんだでドタバタの日常も俺は結構楽しんでいるし、またあの時のような喪失感を味わうのは御免被りたいしな。
そんな事を考えながら俺は2年5組の教室に入りった。
 
…ハルヒが居ない。
 
一瞬背筋に冷たい感覚が走った。
いや、ちょっとまて、落ち着け俺。
今までだって月に1度くらいは俺のほうが早く来ていたこともあった。今日もきっとそうだ。
 
谷口も居ない。国木田は来ている。その国木田はマスクをしていた。風邪でもひいたか?
話し掛けようとした俺を制して国木田は自分の机に突っ伏してしまった。相当具合が悪そうである。
 
ホームルームが始まる。
担任の岡部教諭が出席を取ろうと名簿を開き
 
「風邪が流行っているようだな。谷口は今日は風邪で休むそうだ。あとは…」
 
嫌な予感がどんどん募っていく。
ちょっと待ってくれ、違うよな?誰か違うと言ってくれ!
 
ガラガラッ!ドンッ!
不安で潰されそうになっていた俺の心臓をさらに握り潰さんばかりの轟音が教室に響いた。
教室のドアがぶち破られたのかと思うような勢いで開かれたのである。
 
「間に合った?まだ大丈夫よね!?」
教室中の視線がドアを開けた人物に向けられた。
 
「ハルヒっ!」
俺は立ち上がって思わず叫んでいた。
ドアを向いていた視線が一斉に俺へと向けられる。
 
「ふえっ?え?何?どうしたの?」
予想外の俺の剣幕に気圧されたかのようにハルヒが素っ頓狂な声を上げた。
 
あぁ、済まん。何でもない。
取り繕うように席に座り、ハルヒも俺の後ろの席に着く。
ホームルームが再開されるとハルヒは俺に話しかけてきた。
 
「ねぇ、キョン。さっきの何だったのよ?急に立ち上がったりして。」
いや、何でもない。気にするな。
「それにアンタ何か様子が変よ?何かあったの?」
ホント何でもない。気にしないでくれ。驚かせて済まん。
頭の上にハテナマークを泳がせながら尚も食い下がるハルヒの質問攻めは授業開始のチャイムによって中断された。
 
その後も俺の態度がおかしいのだろうか、ハルヒはしきりに俺の様子を気にしているようだったがまさかその理由を言うわけにも行くまい。俺はハルヒの質問攻めを何とか交わしながら昼休みを迎えた。
 
今日は谷口が休みで国木田は午前中で早退している。ハルヒはとっとと食堂に向かっているし、一人で教室で弁当を突くのも何なので、俺は弁当を持って部室へと足を運んだ。
 
「おや、ここに居ましたか。探しましたよ。」
一人で弁当を食っていると古泉が入ってきた。俺はお前に何の用も無いしお前に探される心当たりも無い。
 
「僕には大有りなんですよ。あなた今朝涼宮さんに何をしたんですか?」
何だ、また閉鎖空間でも作り出して例の化け物を暴れさせてんのかあいつは?
 
「閉鎖空間が発生しているのは間違いないんですが、今回はいつもと様子が違います。神人も居るには居るんですが、暴れることも無く現れては消えを繰り返すばかりで我々もどうして良いのか分からず打つ手が有りません。幸いにも閉鎖空間が拡大する気配は今のところは無いようなので、今のうちに原因を解明して対処できればと思いまして。」
 
暴れても居ないし拡大もしていないなら放っとけば良いんじゃないのか?
「そういうわけにも行きません。閉鎖空間を放置しておくと何時どんな切っ掛けで急に拡大しないとも限りません。」
何時爆発するか分からん爆弾はとっとと回収しておきたいって事か。
やれやれ。原因は恐らく今朝のあれだ。そんなに気にする程の事かねぇ。
無駄に勘の鋭いやつだから、俺の心情を中途半端に察して戸惑ってるって所か。
俺は古泉に今朝の出来事とその後のやり取りを話した。
 
「原因は分かりました。涼宮さんはあなたの態度にただならぬ物を感じた。それで戸惑っている。彼女は非常に勘の鋭い方です。ただ事ではないと強く思っているのでしょう。それが今回の閉鎖空間発生の原因です。」
 
本当にあいつの勘の鋭さには感心するね。今度勘だけで馬券でも買わせて見たら良い。きっと大儲けできるぞ。
 
「それは我々が成人したら試してみることにしましょう。ここで一つ提案です。涼宮さんの不安を取り除いては頂けないでしょうか?難しい事ではありません。僕もあなたの話を聞いて今回の件は納得しました。涼宮さんも理由が分かれば納得していただけるはずです。」
 
去年のあの出来事をあいつに話せって言うのか?お前の出番は無かったかも知れんが世界改変だの時間移動だのと言った非常識ワールドの話だぞ。
 
「そういう夢を見た。という事にしてしまえば良いんですよ。その夢と今朝の光景がオーバーラップしてしまいあなたは一瞬冷静さを失った。そういう筋書きであれば涼宮さんにも納得してもらえるでしょう。」
 
俺としても何時爆発するか分からん不発弾を放置しておくのも気が引けるしな。古泉の提案に乗ることにした。
 
放課後、俺はハルヒと二人きりの部室で、長門が世界を改変したとか朝比奈さんと時間遡行したとかその辺のことは省略して登校したらハルヒが消えていたあの朝の部分だけを昨晩見た夢として話した。
 
「…そんな訳でな。冷静に考えればそんな事ある訳ねえんだが、今朝の教室の光景が余りにもその夢の内容と似ていたんで、本当にお前が消えちまったんじゃないかと一瞬不安になったんだ。それで焦っていた所にお前が来た。そういう事だ。」
 
「ふーん。あんた、夢の出来事と同じようにあたしが消えちゃったと思って不安に思ってたんだ?」
 
「まぁな。俺も急にお前が居なくなった時の喪失感は二度と味わいたくないと思っていた所だったからな。それで教室に入ってみたらその時と同じようにお前が居なかった。冗談だろ?と思っていた所でお前が来た。その安心感から思わず叫んじまったんだ。ま、今朝のことはそういう事だ。悪かったな。混乱させちまったみたいで」
 
ハルヒは俺の話を神妙な顔で聞いていたが、話し終わるとどうやら納得してくれたらしい。
そして、珍しく視線を泳がせてオドオドしながら俺に尋ねた。
「あたしがあんたの前から居なくなるのは嫌?」
 
それが嫌だから今朝の話になるんだろうが、聞いてたか?俺の話。
正直あんな気分はもう二度と味わいたくないね。だからお前も勝手に俺の前から居なくなったりすんなよ?
 
俺の話が終わるとタイミング良く古泉が部室に入ってきた。まさか立ち聞きでもしていたか。
聞かれて困るような話でもないし、まぁいいだろう。って何だそのいつも以上のニヤケ顔は?
 
「別に。何でもありませんよ。」
程なくして長門と朝比奈さんも部室に姿を現し、二度目のこの日は去年とは違い普段どおりの平凡な日常となった。
ハルヒがいつも以上に上機嫌なのはまた何か良からぬことを企んでいるからに違いない。
普段どおりとはいえ古泉のニヤケ顔や朝比奈さんの頬に入っている朱色や長門の瞳の冷たさがいつもより増している気がするのはきっと去年のことを思い出していた俺の気のせいだろう。