10年越しの手紙 (56-836)

Last-modified: 2007-08-22 (水) 01:41:35

概要

作品名作者発表日保管日
10年越しの手紙56-836氏、839氏、840氏、843氏、846氏07/08/2107/08/21

作品

俺達は高校時代にハルヒが埋めたタイムカプセルを掘り起こしに来ていた。
その中には俺に宛てた手紙と黄色いカチューシャ及びヘアバンド、それから写真が一枚入っていた。
 

『キョン!あんたがこの手紙を読んでいるって事はそこに“涼宮ハルヒ”は存在していないでしょう!
ええ、あたしは覚悟しているわ。この病が決して治らないという事をね。
あたしがこの病に感染していると気付いた時にはもう手遅れだったわ。だってこの病原菌はあたしの体を蝕み続け、一色に染めあげてしまったんですもの。
ほんっと手遅れ。あり得ないわ!いつも先手必勝を心掛けてきたあたしが後手後手に回るなんて今回きりね、きっと。
…ごめんね。何を伝えたいのかわかんない。あたしには既に理性は残されていないの。辛うじて精神を繋ぎ留めている感じかしら?
それに…心臓がぎゅうって締め付けられたみたいに苦しいわ。
はぁ…全くもって厄介な病気に感染したわ!キョン!確実にあんたのせいなんだからね!
でもね、あたしはこの病気にかかった事を…恨んでないわ。ううん。むしろ…感謝している。お陰で自分自身を見つめ直す事ができたんだから。
…あはは…何言ってるのかな、あたしらしくないわ。あ、水滴の痕みたいなのは気にしなくていいのよ。目薬よ、目薬。
…血みたいのも気にしちゃダメよ?
…キョン…あたしはあんたと出逢えて幸せだったわ。毎日が充実してた。あんたはあたしの光だった。
…キョン…大好』

 
十年の時を越えて日の光を浴びたハルヒの手紙はそこで途切れていた。
読み終えた瞬間は何故か目頭が熱くなり、胸が苦しくもなったりしたが今は平常を取り戻している。
高校生の頃のハルヒから、今や三児の父親となった俺に宛てられた手紙はどうやら“遺書のような代物”らしいが…
 
「なあハルヒ。お前はここに存在しているじゃねえか。」
 
「バカね。今のあたしの姓は“涼宮”じゃないわ。三人の子供達を優しく見守りダメダメな夫を陰で支え、それでいてあたしは職場の第一線で活躍するスーパーウーマンなの。」
 
そうだ。こうしてハルヒは俺の隣にいる。三児を産んだというのにスタイルは出逢った頃のままであり、俺に対しての呼称も当時のままである。
しかしながら、この“遺書もどき”には不自然な点がいくつか見受けられる。只今より尋問を開始せねばならんようだ。
 
「この手紙で指摘している病気ってのは何なんだ?」
 
「精神病ね。当時のあたしはキョン病と呼んでいたわ。四六時中あんたの事ばかりを考えてしまう病気なの。
それにしてもネーミングセンス皆無ね。まったく、ダメじゃないのよ!当時のあたし!」
 
「無意味な責任転嫁はよせ。」
 
そう悪態を付きつつも、俺はこそばゆいような気持ちでいた。
なるほどな。ハルヒはこの時から俺にゾッコン・ラブだったのか。くそぅ!羨ましいぞ!当時の俺!
…などと言っている場合じゃない。謎が一つ解けたに過ぎないんだからな。
 
「この水滴の痕及び血痕について説明を頼もうか。」
 
「タイムカプセルの中に写真があったでしょ?あれを見てたらよだれが出ちゃったってわけ。同様の理由で血痕は鼻血ね。」
 
なるほど。写真には軽く制服がはだけて鎖骨をチラ見せしている俺が写っていた。
ハルヒはこんな写真で興奮するようだが俺自身には感情の高ぶりが微塵も感じられない。あるはずもない。
ハルヒは色褪せた写真を眺め、現在進行形で鼻血を絶賛放出中だ。
俺はハルヒの鼻にハンカチを当ててやり、新たな質問を投げ掛ける。
 
「手紙の最後が限りなく中途半端なのは何故だ?俺としては“大好き”と書ききってもらいたかったが…」
 
「いやー、それはねー、ちょっととんでもない事があったと言うか…あたしが飛んじゃったと言うか…」
 
「はぁ…」
 
「その…ね…この写真を見てたら体が熱くなっちゃったってわけよ。気が戻った時には手紙を書きかけなのも失念して封筒に入れてたわ。」
 
「…あー、すまん。」
 
なんか悪い事を聞いた気分だ。まあ当時は年頃の娘であったろうし、体も持て余し気味だったろうしな。
 
「ん、いいのよ。気にしないで。」
 
そう言って貰えると助かる。
さて、最後の質問だ。実はこの質問こそが最大の焦点であると言っても過言ではない。
 
「病気は治ったのか?」
 
俺の心配を余所に、ハルヒはニヤリと不敵な笑みをこぼし仁王立ちになる。そして鼻息をフンッと鳴らしてこう言い放った。
 
「残念ながら病気は進行中よ!光栄に思いなさい!今までもこれからもあたしはキョンが大好きなのよ!」
 
なんて可愛い事を言いやがるんだ、コイツは。
俺はハルヒがたまらなく愛おしくなり抱き締めてしまっていた。
 
愛おしいのだから仕方ない、仕方ないはずだ。ハルヒもそれに応え、俺の背中に手を廻してくれる。
 
「薬だって毎日処方してるはずだぞ?」
 
「バカね。いい加減火に油注いでるって事に気付きなさいよ。ま、あたしは大歓迎なんだけど。」



ハルヒは可愛い。それは周知の事実だ。
ハルヒは美しい。それも周知の事実であろう。
しかし、ハルヒを愛おしいと思う感情は誰にも負けるつもりもない。
そう、俺はハルヒを愛しているんだ。
そして俺は一生、ハルヒと子供達を守り続けて行くだろう。それは義務等というものでなく俺の本心から来るものだ。
 
俺達は家族が待つ家に向かっている。
隣のハルヒはと言うと…
タイムカプセルから出土した黄色いカチューシャを装着し、同じく出土したヘアバンドで髪を括りポニーテールを出現させていた。
たったこれだけで当時にタイムスリップする感覚に陥るのだから俺は本当に単純なんだろう。
 
いつも俺の前を歩き、頼もしさ全開で不思議探索をしていた十年前や、
いつも俺の後ろに鎮座し、心の平穏となっていた十年前とは異なること。
それは…
腰まで伸びている美しい黒髪と、
俺の隣を俺と同じ速度で歩いている事だ。
 
END

スレの流れ

二人が幸せなのが伝わってくる感じだ
いいね、こういうSS

 

まったくだぜ……なんか幸せっていいな。GJ!

 

久しく暖かいSSを見させてもらった

 

> …キョン…大好』
 
 
やはりこれは
 
『…キョン…大好物』
 
 
なんだろうな。