500年後からの来訪者After Future2-8(163-39)

Last-modified: 2016-08-02 (火) 18:48:22

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-8163-39氏

作品

近畿地方代表決定戦、順調にこちらの戦略で相手チームを追い込んでいたのだが、ノーアウト満塁バッターは四番ハルヒという大チャンスに、ハルヒの打球は痛恨の内野ゴロ。ホーム、3塁、2塁と送球され瞬く間に3アウト。青朝比奈さんや青朝倉が四球で出塁し、青佐々木も相手の虚を突いたプレーの後だっただけに、ベンチに戻ってきたハルヒが青朝比奈さんに抱きつき涙を流した。その光景を見たメンバー全員が奮起すると、青俺が「20点取ったら、後は俺のナックルボールで三人潰す」と宣言。メンバーを入れ替えつつ、相手チームを完膚なきまでに叩きのめしてから球場を去った。その試合の間、この会場に応援に来ている青俺の両親と一緒に食事がしたいという幸からの要望にW俺の両親が出揃うという異例の事態。一口食べただけで「会社を辞めてくるから、こっちで働かせてくれ」などという発言が飛び出したが、俺たちでさえ区別がつかないのに社員に紹介するわけにはいかないとして、二人の転職は却下されたのだが、策が無いわけでもない。二人の就職とはまったく違った方向で考えていた案として、俺の両親には本人たちには内緒でジョンの筋トレをさせ、我が社の社員として恥ずかしくないスタイルを維持。ファッションも今着ているものをハルヒや有希にチョイスしてもらってすべて入れ替えるつもりだ。それが完了すれば青俺たち三人以外からは別人に見えるという催眠を施し、戸籍を偽造して偽名を決めてしまえば二人ともこっちで働くことが可能になる。だが、このことは皆に話すわけにはいかない。俺の両親のスタイルの変化に伴って、その策に気付くメンバーも出てくるだろうが、ただ食事にありつきたいだけの理由で我が社に就職しようなんて真似は絶対に許さない。少々不安は残るものの、たまにこちらに呼んで料理を堪能する形で解決して良かった。というわけだから、皆が寝静まっている間のこと頼んだぞ?ジョン。W俺にかけている強さの半分程度にしておいてくれ。急に体格が変わったら、社員どころかここにいるメンバーまで困惑してしまう。
『分かった。取り付けるだけなら5分もかからないだろう。そのあとキョンの考えている練習メニューに参加するよ』

 

 いつぞやのW佐々木ではないが、新川流料理の余韻に浸り、ようやく満足したところで青俺たちのフロアを見に五人でエレベーターに乗っていった。幸と一緒に寝るには一人分のベッドでは狭すぎるし、客室を新たに情報結合することになりそうだな。W朝比奈さんは、それぞれ鶴屋さんと連絡を取って鶴屋邸へと向かった。
「これなら来週は大丈夫そうです」
などと既にテレパシーで確認していたようだ。諸連絡も含めて、鶴屋さんとの時間を楽しんできてくれればそれでいい。皆に一言告げて鶴屋さんと二人で出かけてくるなんて時間があってもいいと思うんだが……いくら月曜日が休みの日と言っても、朝倉や森さんは編集部の統括があるだろうし、W佐々木は例のドラマの第二シーズンの脚本を考えたり、一月号のデザインを考えたり、青佐々木は俺にシャンプー&カットをとせがんでくるだろう。古泉もそろそろ主演ドラマの撮影が始まるという連絡が来てもおかしくない。今夜本マグロを捕りに行って明日の夜にでも超高級回転寿司を…と思っていたが、今日の試合で近畿地方代表が俺たちに決定したんだ。夜は派手にパーティというのも悪くないだろう。明日の朝食で皆に提案してみよう。回転寿司はその後だな。飲み物の注文も青朝倉に頼まないといかん。
 結局、「双子に少しでも旅行の気分を味合わせてあげて」と、有希は青朝倉の夕食が終わり次第、自分で異世界移動して来るというので四人で先に旅館へと戻った。双子は「カラオケがしたい」と言いだしたが、カラオケくらい旅行先でやらずとも本社ビル20階のライブステージでいくらでも歌えるし、幸がいない状態でダンスを踊るよりそっちの方がいいだろうと説明すると、ライブステージでダンスができることに満足したらしく、客室で双子が俺にも話したかったという出来事の報告会。有希が戻ってくる頃には、いつ眠ってもおかしくないくらい瞼が重くなっていた。午前、午後とあれだけ興奮していたからな。今夜はジョンの世界には来られないかもしれん。一応ジョンには『子どもと大人では寝る時間が違うから』と双子に説明するよう頼んでおいたし、今日はハルヒや有希と大人の時間を満喫できそうだ。両腕に二人の頭を乗せて布団に横になった。
「今日は青俺の両親が来てできなかったが、明日は祝勝会にしようぜ。夕食前の込み合う時間帯さえ乗り切れば、あとは現地の人たちでなんとかできるだろ?火曜の夜は久し振りに寿司にしようと思ってる。一回やったきりで子供たちも覚えていないだろうからな。人事部の社員も呼んで超高級回転寿司を堪能させてやるよ」
「青キョンも言ってたけど、あたしも驚いたわよ。いつも食べているものに天と地ほどの差があるのに、あたしたちの両親と瓜二つなんだから」
「それについてはジョンと二人でちょっとした計画を立ててる。しばらくすればハルヒ達も気付くはずだ。本社設立当初は社員食堂の料理長として母親だけを呼ぶつもりだったが、残り二人が生活できなくなってしまうからな。仕方なく家族全員呼んだんだが………やっぱり呼ぶべきじゃなかった。あんな大事件まで起こってしまったし、俺の両親は我が社の社員としてはやっぱりふさわしくない」
「社員としてふさわしくないってどういうことよ?」
「以前、古泉一樹が言っていたこと。この会社の社員になるには、ある程度のスタイルとファッションセンスを併せ持つ人間でなければならない。今までは彼の家族だからと容認してきた。でも、社員である以上は社則に従ってもらう必要がある。服はわたしやあなたが選べばいい。けど、今のスタイルではどんな着こなしをしても逆効果になる。おそらく、彼と同じ低周波トレーニングを二人にさせるつもり。それで青チームの世界の二人と区別がつく」
「ちょっと待ちなさいよ!バンダナをつけなくても区別できるようになるんだったら、どうしてさっき言わなかったのよ!?」
「やれやれ『ジョンと二人でちょっとした計画を立ててる』ってだけで有希にすべて見透かされてしまったな。W俺よりさらに微弱な低周波だが、一月もすれば、ハルヒや有希がチョイスした服を着こなせるようなレベルになる。さっきそれを提案しなかった理由については簡単だ。『ただ食事にありつきたいだけ』の理由で我が社に就職しようとするような人間を入れるわけにはいかない。今までもそうしてきたし、これからもそうだ。住まいに関しても81階以上のフロアはすべて埋まっている。98階で青俺たちと一緒に暮らすことになったとしても、青俺たちも何かと気を使うだろうし、オプションで青俺の愚妹が来ることになる。あの頃と比べれば子供たちも成長したし言葉も覚えた。だが、善悪の判断はまだつけられないし、何が安全で何が危険か見分けるなんて、小学校一年生と幼稚園児にはまだ不可能だ。幸や青俺たちが何と言おうと、青俺の両親を迎え入れるなんて俺は絶対に認めない」

 

 祝勝会のことを二人に伝えるだけのつもりが、折角のムードを台無しにしてしまったらしい。ハルヒは不機嫌オーラを通りこして冷徹さを醸し出しているし、有希はさっきまでの和やかな面持ちがSOS団結成当初のような無表情になってしまった。俺たち三人の沈黙が続き、双子の寝息が聞こえてくる。
「もういい。あんたがそうやって考えてくれているのなら、あたしはそれでいいわよ。それより、さっきのトリプルプレーの分も含めて、あたしのストレス発散に付き合いなさい!」
「一人だけずるい。わたしも混ぜて」
結局こうなるのかよ。まぁ、経路としてはあまりいいものとはいえなかったが、辿り着いた先がこちらの予想していた展開で良かった。夫婦…もとい、親子の時間も九月以降どうなるかは俺にも分からない。今週は火水木が野球の練習、木曜の午後に披露試写会があって、金曜日は古泉たちとジョンが練習。俺たちが午前中から調味料の製造店を回りながら土日の試合会場まで向かうことになる。試合のあとは二日連続で全国ツアーのファイナルが残っている。青ハルヒは「徹底的に練習するわよ!」とか言ってたが、練習しているのかどうか怪しいもんだ。こっちも古泉と朝比奈さんで練習させないとな。
「ちょっと、あんた。また一人で考え事して……少しはこっちに集中しなさいよ!」
「あぁ、すまん。九月までにこうやっていられる時間がどのくらいあるのか数えていたんだ。九月以降はどうなるか分からんからな」
「毎日に決まってるじゃない!妻をほったらかしにして半年も主演女優と一緒なんてありえないわよ!」
「たまにはわたしも混ぜて」
「疲れや眠気を取っても、それでも休みが欲しいと主演女優が言ってくるようなことがあれば、本社のスイートルームで休ませるつもりだ。その間は俺も自由に行動できる。昼夜問わずこうして一緒にいてやるから、そんなに拗ねるな」
芸能人の離婚報道が多い原因が分かった気がする。既に俺たちも芸能人の枠に入ってしまっているけどな。だが、コイツと離婚するようなことは絶対にありえない。鶴屋さんが書いてくれたあの四文字のように、俺とハルヒは生涯を共に生きると約束した。毎日というのは難しいかもしれんが可能な限り傍にいることにしよう。ハルヒの髪を撫でると暗闇の中でも赤面しているのが分かる。「拗ねてなんかないわよ」と返ってくるかと思ったが、どうやら空振りしてしまったようだ。いや、図星と表現した方がいいのかもしれん。青古泉やW佐々木が嫉妬するくらい、Wハルヒや古泉のことが分かってしまうようになったのは一体いつ頃からだろうな。満足気に余韻に浸っている二人を抱き寄せて眠りについた。

 

『キョン、交代だ』
ハルヒや有希より先にジョンの世界に来てしまったらしい俺を見るやいなや、すかさずジョンが声をかけてきた。野球の練習や試合中を除いて、俺の考えていたことは全てジョンに伝わっている。バレー合宿まであと10日ほどだというのにジョンの世界に集まっていたメンバーがやっていたのは野球の練習。ENOZは全国ツアーのファイナルに向けた練習と新曲について四人で意見を出し合っていた。ENOZならバレー合宿が始まっても午前の練習にいくらでも参加できるし、問題はないだろう。それに加えて、OG六人が三人ずつ交代でキャッチャーを務めていた。特に日本代表二人は起きている間にこんな練習はできないからな。他の四人と同様、ジョンと青俺の投げる球に脅えていたが、スピードに慣れさえすれば、次第に受けられるようになるだろう。
「後がつまっているんだ。ジョンと交代するのなら早くしたまえ」
「やれやれ、こっちは今来たばっかりなんだ。状況を把握する時間くらいよこせ」
「やぁやぁ、キョン君じゃないか。ようやくみくるからOKが出たから練習に参加させてもらっているにょろよ。次の試合のポジションも青古泉君から聞いたにょろ。よろしく頼むっさ!」
俺に声をかけてきた鶴屋さんと、少し離れたところで青ハルヒの投球を受け止めている鶴屋さんがいた。向こうの鶴屋さんが青鶴屋さんらしいな。朝比奈さんにOKを貰ったということは、二人とも「四郎君」と「亀島さん」では笑わなくなったと解釈していいだろう。青ハルヒも今日はバトルの日のはずなんだが、俺の存在に気付いてもピッチング練習を止める素振りすら見せずにいた。この状態ならハルヒが遅れてきてもバトルをするなんてことにはならないだろう。こっちの鶴屋さんと青朝比奈さんは朝倉の超光速送球を受ける練習中。ハルヒや有希もそっちに加わることになりそうだ。どうして俺とジョンが交代するのかについては知らされていないようだが、ほんの五分もすればジョンもやることを終えて戻ってくるだろう。W佐々木のバント、青有希たちのバッティング、OG六人の捕球練習も三ヶ所同時に行うことができそうだ。グローブを情報結合してジョンからボールを受け取ると、OGが構えているミットめがけてボールを投げる。朝倉がやって見せた程の逆回転はまだかけられないが、容易くバントを許してしまった。しかもピッチャーゴロにはならず、三塁目掛けて一直線。逆回転をかけずとも、これで十分なんじゃないか?おい。5,6球投げたところでジョンが戻り、三ヶ所に別れて練習をしていると、案の定、叫び声と共にハルヒと有希がやってきた。
「あ――――――――――!!あんたたちばっかり面白そうなことやってないで、あたしも混ぜなさいよ!!」
「ようやく全員揃ったようね。ボールを投げるのも少し疲れてきたところだったし、有希さん代わってもらえないかしら?」
「分かった」
結局Wハルヒからはバトルのバの字も出ることなく、投球練習、捕球練習、バッティング練習を繰り返して翌朝を迎えた。そう言えば、子供たち三人はどうしたんだ?

 

 朝食の支度に古泉が一番にジョンの世界を抜けると、青ハルヒ以外のメンバーはしばしの休憩。青鶴屋さんも明日の練習のときは超光速送球を捕ってみたいそうだ。
「これでようやくメンバーが揃いました。わたしも鶴屋さんと一緒に戦えるなんて嬉しいです」
「時間がかかってしまって申し訳なかったっさ。でも、ここまで勝ち残ってくれてあたしも嬉しいっさ!次の週末が楽しみにょろ」
「あぁ、そうだ。今日の夕食は祝勝会をしようかと思っているんですが、鶴屋さんたちも来ませんか?昨日はおでん屋の営業だったり、青俺の両親が来たりでできなかったので。因みに明日の夜は超高級回転寿司店を開こうかと。ここでの練習を途中で抜けて本マグロを捕まえてくるつもりです。子供たちに色々と体験させてやらないといけないので」
『おぉっ!それなら是非とも参加させて欲しいっさ!回転寿司の方も行ってもいいにょろ?(黄)キョン君が本マグロを捕まえるところも見てみたいっさ!』
「それなら、明日の夜に全員の前で見せることになると思います。直前まで生きたままの状態にしておきたいので」
「……??キョン君、それはどういうことっさ?ここにいる間に捕まえに行くんじゃないにょろ?」
「くっくっ、なるほど、閉鎖空間で生け捕りにした本マグロを海水ごとキューブに縮小して全員の前で元の大きさに戻す。違うかい?」
「ご名答。本マグロにストレスがかからない程度の広さは確保する必要があるから、元の大きさに戻すまで時間がかかるが、捕れたての新鮮な本マグロを食べられることに変わりはない。少しの間だが、我慢してくれ」
「いいなぁ…キョン先輩、わたし達の分のお寿司も作ってください!わさび抜きで!」
「それならここで食べるといい。みんなが食べている間はおでん屋を有希に任せるつもりだったからな。二人分増えたところで何ら問題はない。ちなみにわさび抜きにしたい奴は他にいるか?」
俺の問いに呼応してW朝比奈さんと青有希、OGは六人とも手を上げた。
「でも、わたし達が食べ終わるまで、黄有希さんだけおでん屋の切り盛りじゃ可哀相よ」
青朝倉の発言に何人ものメンバーが肯定の意志を示しているが、コイツがどういう奴なのか忘れてもらっちゃ困る。
「あのな、みんなで寿司を食べるところを想像してみろ。俺と古泉で回そうとしても有希一人に全部食べられてしまうぞ。折角生け捕りにした本マグロも有希がすべて平らげてしまいかねん。みんなが食べ終わった後で有希の分を作る。OG二人の分はそのときに作ればいい」
『なるほど』
「……ずるい。わたしも新鮮な本マグロがいい」
「心配するな。本マグロなら最初から『二匹』生け捕りにしてくるつもりだったんだ。それ以外のものを食べている間にさばいてやるよ」
『面白いじゃない!あたしも混ぜなさい!』
いつの間にやら青ハルヒが話に参加していた。まぁ、有希には敵わないにしても、どちらのハルヒも大食いには変わりないからな。
「双子の世話をしている黄ハルヒならまだ分かるが、黄有希に大食いで勝負を挑む気か?おまえは」
「週末は野球の試合とコンサートツアー最後のライブがあるんだから、このくらい当然よ!」
「あ、キョンが言ってたバラード曲の練習もしないと……」
「僕も涼宮さんがライブの話をするまですっかり忘れていたよ」
「しかし驚きました。ここまで綿密に計画が練られているとは思いませんでしたよ。あなたに説明されるまで、黄有希さんの食欲のことを全く考えていませんでした。朝倉さんとおでん対決をしたときのことをすっかり忘れていましたよ」
「まぁ、というわけだから、青朝倉。明日のために米を大量に注文しておいてくれ。俺も多分としか言えないが、一升や二升じゃまず足らん」
「分かった」
『キョン、時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

 俺も含め、さっきまで野球のユニフォームを見に纏っていたはずが、目を覚ますとハルヒも有希も真っ裸の状態。左右からアバラ骨に柔らかいものが二つずつ俺にあたっていた。少しの間をおいて眼を覚ました二人に「おはよう」と告げると、「時間もまだ早いから」と三人で家族風呂に入ろうと有希から提案された。いつ予約をとったんだ?コイツは。双子もまだ起きてくる気配もないし、起きたら起きたで無意識でもテレパシーが飛んでくるだろう。個人的にもゆっくりと湯船に浸かりたかったこともあり、有希の提案に乗った。部屋に戻っても未だに起きていない二人の眠気を取ると、眼を開けた瞬間、がばっと跳び起きて二人同時に叫んだ。
『あ――――――――――――――――――――――!!バレーの練習したかったのに!!』
ったく、間違いなくハルヒの血をひいた娘だ。ジョンの世界に行けずに眠ってしまっていたことを悔やんでいた。昨日の二試合であれだけ喜怒哀楽すれば当然だ。幸も来てなかったことも話すとようやく落ち着いたようだが、練習ができなかったことについては後悔しているらしい。旅行から戻ったら本社ビルの体育館で練習できないこともないが、いくら身体を拡大しても、たった三人じゃ大した練習にはなるまい。
 朝食を取りに本社に異世界移動すると、案の定俺たちが最後だった。三人で朝風呂に入っていたことは内緒にしておこう。
「すまん、双子がなかなか起きなくてな。眠気を取ってようやくだ」
「この子もなかなか起きてくれなくて……わたし達も遅くなった」
「三人ともジョンの世界に来られないほどですから当然ですよ。昨日の試合でよっぽど興奮したんでしょう。ハルヒさんの涙を見て子供たちも号泣してましたからね」
「こっちは起きた瞬間に『バレーの練習できなかった!』って叫んでたよ。…って、青俺はどうした?」
「『確認したいことがあるから』ってお父さんとお母さんのところに行った。でも、何の確認をするのかまではわたしにも…」
「確認したいことがあって実家に戻ったのなら、大体の予想はつく。こっちでは確認できんからな。朝食を作っていた古泉でも知らんだろう?」
「ええ、『こちらの』ニュースでは我々に関するものは何も。おそらく、映像を目に焼き付けて有希さんにモニターで映してもらうつもりでしょう。そのために時間がかかっているものと思われます。遅れそうであれば青有希さんにテレパシーで連絡するでしょうし、もう少し待ってみてもいいかと。彼が持ってくる朗報と一緒にね」
「古泉君、朗報ってなん……」
「すまん、遅くなった」
朝比奈さんの言葉をかき消すように青俺が片手に新聞を携えて現れた。情報結合で部数を増やすとテーブルの中央へとテレポート。新聞の一面は俺たちの野球の記事。ハルヒ……じゃない、精涼院ハルカが本塁打を放ったときの写真が掲載されていた。全国大会とはいえ、まだ地方予選を終えた段階だ。俺たちがトップを飾る新聞なんて数はまだ少ないはずだろうに…。どうやら各府県を回って記事を確認してきたらしいな。『大波乱』だの『想定外』だのと文字がでかでかと書かれていたが、俺たちからすれば『想定内』ってところか。バレーでハルヒの写真が出たことは…俺の記憶では確か無かったはず。催眠がかけられて別人で写っているとはいえ、自分の写真が掲載されて本人も上機嫌だ。
「フフン、どこの新聞社も誰の写真を載せるべきなのか分かっているじゃない!催眠がかかった状態で写っているのがちょっと納得いかないけど……まぁいいわ。来週もこのあたしが新聞の一面を飾ってやるわよ!」
「とりあえず、俺たちがトップを飾ったものだけかき集めてきた。それ以外の新聞も二面、三面には俺たちのことが載っていた。ついでに鶴屋さんのところにも寄ったんだが、俺が行ったときにはすでに大爆笑してたよ。ありゃ、当分収まらんだろうな。今夜の祝勝会に来る頃には書き初めのときのようになっているかもしれん」
『キョンパパ、「しゅくしょうかい」ってなあに?』
「なんだ、今まで何度もやってきただろ?昨日試合に勝ったからそのお祝いをするんだ」
『お祝い?』
「そうだ。どんなときにお祝いしてたか思い出してみろ」
「伊織パパ、わたしドーナツ食べたい!」
「幸はもう気付いたようだぞ?二人はドーナツはいらないんだな?」
『ドーナツ?あっ!キョンパパ、お祝い!パーティ!!』
「やっと気付いたか。だが、まずはパーティの前に朝ごはんを食べないとな」
「くっくっ、究極の料理を目の前にして、いつまでお預けの状態を続けなくちゃならないのかと少々ムッとしたよ。でも、この記事には僕も驚いた。新聞社によっては僕のバントのことまで書いてあるんだからね」
「どうやら僕の予想は外れてしまったようですね。ですが、ここまで大事になっているとは思いませんでしたよ」
「こんなに新聞に掲載されているのに、勝利者インタビューが全っ然無かったのは一体どういうことよ!!」
「記事の通りですよ。それだけ報道陣、取材陣にとっては我々の勝利が『想定外』だったということです。ジョンの時間平面上の教科書にハルヒさんが掲載されていることと何ら変わりありません。後になって僕たちの強さを思い知った。昨日は残念ながら僕の予想が外れてしまいましたが、今度は試合開始前に涼宮さんがインタビューされてもおかしくありません」
「面白いじゃない!今度は『女だけで勝負を挑む』って宣言してやるわ!」

 

「とりあえず、昨日の試合関係のことについては一旦置いといて別の議題に入りたい。新聞記事が気になるメンバーもいるだろうが、後でいくらでも読めるから会議に参加してくれ。まずは、さっきも青俺から話が出たが昨日で地方代表が俺たちに決定した。W鶴屋さんを呼んでその祝勝会を行いたいと思っている。福島のツインタワービルもあとちょっとで現地の人たちだけで回せるようになるはずだ。俺たちがその支援にまわるのは午前中の食材や各種品物を並べることと、夕食前の混雑時の二回だけだ。合間の時間を縫ってビラ配りに出向いてくれ。青朝倉、今夜の飲み物についてなんだが、この後すぐに注文して届けてもらうことは可能か?」
「祝勝会が復興支援の後の時間帯になるのなら、多分間に合うはずよ。明日のお米の件も連絡しておくわね」
「明日のお米って、あんた一体何するの?社員食堂なら十分足りているわよ?」
「前に一度だけやってそれ以降まったくやってなかったことをしようと思っている。子供たちの学習のためだ。夕食に人事部の社員も呼んで超高級回転寿司屋を開くつもりだ。そのために今夜本マグロを捕りに出かけてくる。俺と古泉で握ってネタは選び放題食べ放題だ。エージェント達も好きなだけ食べてもらって構いません。明日の午前中は野球の練習、昼食後に俺と古泉で仕込みをしている間にビラ配りをしてもらいたい。それから、今週末のライブで全国ツアーが終わる。前に話していた青チームのバラード曲とこっちの朝比奈さんと古泉で演るハレ晴レユカイの練習を同時進行でやってもらいたい。有希、古泉にバイオリンの楽譜を渡してくれ」
「分かった」
いつもの高速詠唱とともに古泉の前に一枚の楽譜が現れた。すかさず手に取ってサイコメトリーすると、古泉が自信有り気に応えた。
「では、午前中の空いた時間を使って朝比奈さんとライブステージで練習をすることにします。そろそろドラマの撮影開始の連絡が届きそうですからね。早めに仕上げておきたいのですが、朝比奈さんよろしいですか?」
「はいっ!わたしも歌詞を間違えない様に一生懸命練習します!」
「よし、なら次だ。水曜日は特にこれといってイベントがあるわけじゃないが、木曜日は野球の練習の後に完成披露試写会が四時から放映される。俺と……もしかするとジョンも含めて、その時間よりも前に来て欲しいという連絡が来ていてもおかしくない。圭一さん、映画関連のことで何か連絡はありましたか?」
「それならもう連絡が来ている。君とジョンには披露試写会の二時間前に会場に来て欲しいそうだ。古泉のドラマの件についてはまだ何も連絡が来ていないが時間の問題だろう。それに、福島のツインタワービルが安定するまで黙っていたんだが、いい知らせが二つある」
『いい知らせ?』
それを聞いたWハルヒが興奮している。ハードルを上げておいて、そこまでいいものじゃなかったなんていうのは勘弁してもらいたい。
「ああ、一つ目は岩手県知事から連絡があった。ホテルやスキー場で働く人材をこちらで確保したから、宮城県のようにスキー場を復旧してもらいたいらしい。二つ目は、若手の政治家から何件か連絡があってね。自分も現地で働かせて欲しいそうだ。どうするかね?」
「くっくっ、キョン、キミって奴はどこまで僕を興奮させれば気が済むんだい?昨今の日本政府をキミの一言でここまで変えられるなんてね。革命を起こしたと言っても過言ではなさそうだ。キミの零式サーブのように名前を考えておいてくれたまえ。キミたちが載っている未来の歴史の教科書とやらも、見ることのできるページが増えていてもおかしくない」
そういえば最近会いに行ってなかったな。土日は野球の試合続きで未来古泉が待ちわびているかもしれん。だが、その間俺たちがやっていたことと言えばせいぜい野球くらいで、試合も現実世界ではなく消失世界で戦ってきた。佐々木には申し訳ないが、見られるページが増えているとは到底思えない。だが、近日中に時間見つけて一度確認に行ってこよう。いい機会だし、W鶴屋さんを連れて行く。水曜日辺りだと野球の練習後は何も無くていいかもしれん。
「それで、どうするんです?今回は人材に困ることはなさそうですが、料理長のおススメ料理を目当てに来る客が多数いることに違いありません。宮城県に新しくオープンする予定だったところを含めた二カ所なら僕とあなたで分かれることが可能ですが…」
「フフン。黄古泉君、それはあたしが解決してあげるわ。あたしが残った一つのホテル行って調理すればいいわよ。キョンが政治家たちと一緒のホテルで働いていれば、あんたの方が格上だって見せつけられるわよ」
「ですが、涼宮さんの案で行動に移したとしても、それでは二月のバレー合宿中のディナーが用意できなくなってしまいます」
「問題ない。二月のバレー合宿中は週末だけ80階で食べればいい。まだそこまでの予約は入っていないはず。日本代表チームもずっと三階でディナーを食べていた。80階なら料理と一緒に景色も楽しめる」
「なるほど、予約を入れずに新川がディナーを作るということか。分かった。その期間中の週末の予約は受け付けないようにしよう。社員にもそう伝えるよ」
「どうやら決まりのようね。名前はどうあれ、未来に行くならわたしも連れて行って欲しいわね。土日も試合が続いて将棋が指せなかったし……彼と久しぶりに対戦したかったのよ」
「僕もお願いしたいところですが、立場上、野球の試合が終わらないことには将棋に集中できそうにありません。黄朝倉さんも試合で大いに貢献してくれるでしょうし、今回は残っていただきたいのですが……」
「とにかくだ。一度将棋が始まるといつになっても終わりが見えてこない。とりあえず今月中は二人とも野球とバレーに専念してくれ。今週の水曜にW鶴屋さんを連れて教科書の確認に行ってくる。そのときに将棋の件を未来古泉に伝えておくから、こちらから未来に行かずとも佐々木のラボに未来古泉を呼んで対局することができるはずだ」
「そのときは是非僕も入れてください。実力はまだまだですが、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願いします」
「え?黄古泉君、ドラマの撮影があるんじゃ……」
「朝比奈さんの言う通りだ。いくら頭脳明晰な黄古泉でも、ことボードゲームになると冷静な判断ができなくなるらしいな。ドラマの主演じゃ、将棋どころか今月のバレーの試合すら出られるかどうかも怪しい。こっちの古泉も制限をかけないといかん。それとも、ユニフォームの番号と名前を変えて『今泉』で出る気か?」
青俺の発言を受けて引きつったニヤケスマイルで固まった。どうやら図星らしいな。
「これは手厳しいですね。さっき圭一さんから話があったばかりでしたが、それが今後どのような影響を及ぼすのかまったく理解していませんでした。これでは、宮古市の復興支援の方も手伝えそうにありません。あなたのおっしゃる通り、『今泉和樹』で出るのも一つの策ではありますが、今回の合宿はOG6人の結束力と新メンバー加入がメインになりそうですし、青僕にまで影響が出てしまって申し訳ないのですが、偽名で出場するのは控えた方がよさそうです。三人とも試合に出たいでしょうし、彼女たちに活躍させてあげるべきでしょう」
『わたし、試合に出られるの!?』
「おまえ、日本代表相手に子供たちを出場させるのか!?」
古泉が抜けるとなると、俺の日曜の休みもどうやらなくなりそうだな。まぁ、今までは平日も土日も関係なく俺が食事係だったんだ。どのみち、来月以降もいつ休めるか分からなくなるんだから多少増えても問題あるまい。しかし、子供たち三人は興奮して、とてもじゃないがしばらくは落ち着きそうにない。昨日はジョンの世界にも来られなかったしな。子供たちの練習風景を見ていないメンバーが大きく口を開けて呆けていた。俺を含め、ジョンの世界で一緒に練習していたメンバーすら驚いていたんだから当然か。
「ああ、実力はジョンの世界で練習していた奴全員の折り紙付きだよ。三人とも立ってみろ」
双子と幸が立ったところでユニフォームにドレスチェンジ。そのまま拡大してみせた。
「どうやら、日本代表と試合をするのが待ち遠しくて仕方がないようだね。折角のデビュー戦なんだ。出番を増やしてやってくれたまえ。僕は野球の試合にも出られるし、今回は彼女たちに譲るよ」
『フフン、あたしに任せなさい!』

 

子供たち三人とも椅子の上に立った状態で拡大され、腕を組んでハルヒの真似をしたもんだから青俺が額に手を当てている。俺も似たようなことを感じているし、仕方ないか。
「やれやれ…双子だけならまだしも、幸まで黄ハルヒに似てきてしまったようだ。以前、ジョンが冗談半分で言っていたことが現実になりかねん。『見た目は子供、頭脳はハルヒ』ってな。おっと、今は見た目も大人か。それで?黄古泉の方は撮影に向かうとして、おまえはどうするんだ?古泉」
「これまでの黄朝比奈さんと似たような状態になるでしょう。黄僕なら今後もドラマの依頼が殺到しそうですが、我々で撮影したドラマが今後もシリーズとして続いていくのであれば、すべて断っても何ら問題はありません。認知度は十分高まりましたからね。これ以上は冊子の編集にも影響が出てしまいます。ただ、練習試合に出るにあたって、1つ僕から要望があるのですが、よろしいでしょうか?」
青古泉の要望とやらが一体何なのか、聞いてみないことにははっきりしないが、大体の予想がついたメンバーの表情が曇る。大方、Wハルヒに関することだろうな。
「先に言っとくが、Wハルヒを同時に練習試合に出すなんてことは出来んからな。さっき黄古泉が言っていた通り、黄ハルヒに催眠をかけた状態で出場させるという案も却下だ。やるとしても来年の冬からだ。Wハルヒだけでなくとも、メンバーが足りずに黄青両方出場する必要になることだって可能性として十分あり得る」
「おっと、そのことまでは考えていませんでしたよ。来シーズンは是非それでお願いしたいですね。ですが、お二人と一緒に闘うよりも、涼宮さんとハルヒさんが闘っている姿をベンチで見る側にまわしていただけると助かります。今回の僕の要望は、僕が試合に出るときは青チームのみの編成で出たい、ただそれだけです。折角の連携技を使わずに終わってしまうと練習した甲斐がありません。それと、おでん屋の経営も試合が終わるまでは黄有希さんにお願いしたいのですが、よろしいですか?」
普段の青古泉の行動が行動だけに、コイツからそんな要望が出てくるとは想定外だ。ここにいるメンバーのほとんどが狐につままれたような面持ちをしていた。しかし、そういうことなら青チームは大賛成だろうし、試合が終わるまでといっても、おでん屋が開店してから一時間もしないうちに青朝倉を向かわせることができるだろう。
「黄有希さんさえよければわたしはそれで構わないけど、どうかしら?」
「問題ない。青チームの古泉一樹が試合に出るときは、わたしが食材の仕込みをする。それに、そろそろツインタワーに品物が届く時間」
「よし、大分会議も長引いてしまったようだ。ここにある新聞については欲しいメンバーは必要な分だけ持って行ってくれ。休憩時にでも読めばいいだろう。俺たちはチェックアウトの手続きをしたら調味料の営業所を回って来る。時間によってはすべて回ったところでこっちに戻ってくるつもりだ。古泉、すまないが午前中のツインタワーの様子を見て、明日以降、俺たちが手伝う必要があるかどうか判断をしてきてくれるか?それによって明日の野球の練習時間が変わってくるからな」
「分かりました。夕食の仕込みはお任せしてもよろしいですか?」
「ああ、盛大な祝勝会といこうぜ」
『問題ない』

 
 

…To be continued