500年後からの来訪者After Future3-11(163-39)

Last-modified: 2016-08-31 (水) 22:50:42

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-11163-39氏

作品

週が明け、異世界では未だに土曜日の決勝戦の余韻が残ったまま鶴屋邸には報道陣からの取材という名の迷惑電話が止まることがなく、現在進行形でその対応に当たっている。また、相手チームのピッチャーやその他の選手からもイタズラ電話がかかり、報道陣にその事実をすべてつきつけ、月曜の朝の新聞の一面がどの新聞社もそのネタで一面を飾った。俺達が日本代表に豪華絢爛回転寿司を振る舞っている間に青古泉たちは異世界の北口駅前店のマネキンのコーディネート、服の置き方などもろもろのチェックに入っていた。夜練後に時間を見計らって北口駅前店の披露。それに本社の屋上にシートを張り、垂れ幕でSOS天空スタジアムの告知と完成まで100階の一般開放ができないことを告知する。本マグロの赤身を口に入れ、81階でメンバーに振る舞ったときと最初は同じ。さてこのあとどんな反応を示すか楽しみだ。

 

 ようやく口の中のものを飲みこんだ日本代表たちが隣同士で話し合っている。これは直接聞いた方が早そうだと判断したんだろう。再度監督が声をかけてきた。
「驚くと予め聞いていたにも関わらず、噛んだ瞬間吃驚したよ。赤身の踊り食いなんて初めてだ。それに、赤身がこれほど美味いとは思わなかったよ。先ほど見せてもらったが、中トロや大トロも出てくるのかね?」
「ええ、今夜のディナーのために本マグロを四匹捕まえてまいりました。赤身を味わっていただいたあとは中トロ、大トロと皆様に召し上がっていただきます」
「でもキョン先輩、どうして噛んだとたんに赤身が動き出したんですか?」
OGだけじゃない。周りの選手も監督もそれが気になって仕方がないって顔だ。これで三回目だからな。さっさと説明してしまおう。
「これまで、食材の旨味を最大限にまで引き出す切り方でディナーをご用意させていただきましたが、今回はそれに加えて再生包丁という技を使っています。再生包丁と言っても何のことなのかよく分からないという方がほとんどだと思いますので、この技を使うとどうなるか、実際にご覧にいれましょう」
中落ちもカマも全て取り去った本マグロの尻尾を再度持ち、指を鳴らした。
『え―――――――――――――――――!?』
「頭と骨だけで動いた!?」「どういうこと?」「彼が動かしているんじゃないの?」
「どうして頭と骨だけで動いたのか、それを可能にする技が再生包丁なんです。再生包丁とは細胞を一切傷付けずに切る方法のことを指します。細胞が破壊されていないので傷一つ負ってない、自分はまだ生きているんだと本マグロが錯覚し、僕の手から逃れようと身を捻った。それと同様、噛むという刺激をあたえることで仮死状態から元に戻り、なんとか口の中から逃げ出そうとして赤身が暴れ出した。もう一貫の方も召し上がってみてください。先ほどと同じことが起こる筈です」
すぐにでも確かめようと選手たちが動いた。その間に古泉が二匹目の本マグロを捌き始める。残り三匹は既に仮死状態にしてある。海水をただ抜くだけなんて見ていてもつまらないだけだ。俺は中トロ、大トロの準備に入り、青ハルヒは赤身を握っていた。この人数で大トロを食べようとすれば一匹だけじゃ足りないからな。もう一貫の赤身を堪能すると、もっと食べてみたいとレーンに乗った赤身に手を伸ばしている。

 

「まだ中トロや大トロが残っているとはいえ、ここまで美味い寿司は初めてだ。どんな高級寿司屋でもこれには敵わないだろう。それにこの朝比奈さんのお茶もとても美味しい。君が毎日でも飲みたいと言うのが良く分かったよ。選手たちもこの状態では、このあとの練習は難しそうだ。次はいつ食べられるか分かったもんじゃない。この人数でも余るほどだという話だったね。全員で腹いっぱい堪能させてもらうことにするよ」
「分かりました。このあと中トロや大トロも皆様に召し上がっていただきます。その分の余裕は残しておいてください」
監督の一言で選手たちから黄色い歓声があがった。夜練のことを考えてセーブしなくてはならないと思っていたのだろう。腹いっぱい食べていいとあって盛り上がっていた。しかし、チラリと出ただけだが、周りで様子を撮影している報道陣に夜練の件がどうインプットされたかだな。明日はこちらの世界のニュースをメインに見る必要がありそうだ。
『みんな、監督から今日の夜練は無しだそうだ。それぞれやることが終わったら休んでくれ』
『キョン先輩!余ったお寿司、わたし達も食べたいです!!』
『じゃあ夕食の皿片付けて待っていてくれ』
『問題ない』
おいおい、OG四人どころじゃなかったぞ!?夕食を食べたのにまだ食べる気か?まぁ、あいつらが食べる分にはまだいい。そういや、青俺から聞いたことがあったな。俺たちが高校三年生のとき、W朝倉を入れ替えたときは朝倉の目配せだけで殺されそうになった……だったか?ちょっと朝倉の真似をしてみよう。前回の生玉ねぎとは違って、おまえらの分は無いんだよ!

 

 どこの局かは知らないが、俺が目配せしたのはレーンに乗った赤身の皿を取ろうとしていたカメラマン。
「ひっ……ひいいぃぃぃぃ……」
カメラマンの悲鳴に選手たちの視線が集まる。
「困りますねぇ……これまでディナーの雰囲気を台無しにするようなことは絶対にしない様にと再三申し上げてきたはずですが…すみませんが、あなたにはもはやここにいる権利はありません。ご退場願えますか?」
「い……いや、頼む。大トロまで撮影を続けさせてくれ!」
「あなたが引かないのであれば、僕が送って差し上げましょう。あなたにはもう我が社の敷地内に足を踏み入れる権利はありません。それでは…失礼します」
カメラマンを敷地外へとテレポート。ブラックリスト入り確定だ。アイツはもう閉鎖空間に阻まれ続けて入ることは二度とない。今ので他のカメラマンも気付いたらしいな。寿司に手を出せば今の奴と同じになると。さて、VTRが最後まで放映出来ないのはどの局になるのか楽しみだ。
「失礼を致しました。皆様の気分を損ねてしまい大変申し訳ありません。ですが、ようやく中トロの用意ができました。どうぞ、ご堪能ください」
俺は残りの中トロをレーンに乗せて大トロを握り始め、青ハルヒはそれ以外のネタを握っている。古泉は限定20食の社員用の寿司セットを作っていた。明日は11:00から並んでもらうことにしよう。朝比奈さんならその頃に片付けが終わるだろう。また各部署に回ってもらうことにしよう。ハルヒの『みくるちゃん、お茶』ではないが、『すみませんお茶をいただけますか?』と選手達にも朝比奈茶は大人気。他の仕事も頼もうかと思ったが、お茶を出すので精一杯のようだ。青ハルヒの投球ではないが、1℃たりとも温度が違ってしまえば朝比奈茶の本来の味は堪能できない。
「お待たせ致しました。こちらが本マグロの大トロになります。どうぞご賞味ください」
「凄い!大トロの身がこんな贅沢に盛られているなんて……」
「キョン先輩、仮死状態にしてから大分時間が経っているのにまだこんなに動くんですか!?」
「ああ、一日くらい経つといくら仮死状態でも味は落ちてしまうが、この程度の時間なら十分踊り食いが可能だ」
「見事だ。ここまで贅沢な寿司は他にない。大トロの味も何と表現していいやら分からないくらいだよ」
「まだまだご用意できます。存分にお楽しみください」

 

 社員用の寿司セットも古泉が作り終え、たらふく食べた選手は椅子の背もたれに上半身を預けていた。明日の朝食はいらないくらいだな。レーンに乗った寿司に誰も手をつけなくなったところで今日のディナーは終了。朝比奈茶を飲み干して、満足気に選手たちが部屋へと戻っていった。余った寿司ネタをすべて握って皿やレーンの情報結合を解除。いつもの社員食堂に戻してから81階へと戻った。
『お疲れ様~』
俺たちを抜いたメンバーがフロアに揃っていた。俺の両親や森さん、新川さんまでいるなんて呆れたぞ。
「おまえら、さっきあれだけ寿司を食べてまだ食う気か!?ハルヒ達も三人前の夕食食べたんだろ?」
「わたし達はみんなのことを見ているだけになりそうです。もうお腹いっぱいですよ」
「問題ない。まだ八分目」
「黄有希の八分目は俺たちが空腹状態なのとほとんど変わらん!古泉の建てた北口駅前店の画像を写してから食べ始めてくれ!でないと俺たちの食べる分が無くなる!」
「それもそうね。また鏡が無いなんてことになりかねないし、食べながらみんなで確認するのはどうかしら?」
『お寿司!お寿司!』
「ったく、揃いも揃って食い意地張りやがって。まぁいい、全員揃ったところで食べ始めることにしよう」
「あんた一体どういう眼してんのよ!全員揃っているじゃない!」
「いいや、足りない奴がいる。声かけてみるからちょっと待ってろ」
『足りない奴?』
『おーい、シャミセン。また寿司作ったんだが、食べる余裕はあるか?勿論ワサビ抜きだ。どうする?』
『ふむ、私も夕食で満足しておるのだが、あれが食べられると言うのなら行かないでもない』
『だったらすぐテレポートするからカード咥えて待ってろ』
『頼んだぞ』
身体が衰退してきてるってのに言動は相変わらずか。まぁ、少しでも栄養をとって長生きして欲しいとここにいる全員が思っているんだからいいか。テレポートで現れたシャミセンを見てようやく気付いたというメンバーが大半。その間に既に有希が北口駅前店の画像を映し出していた。

 

「じゃあ、とりあえず自分の欲しいものは取ったな?」
『キョンパパ!早くお寿司食べたい!』
「食べる前に言うことがあるだろう?」
『いただきます!』
子供たちも勝手に食べ始めないところは良いところだが、早く食べたいが故に『いただきます』を忘れると言うのは難点だな。俺が座る席の反対側に北口駅前店の画像が表示され、それぞれ寿司を食べながら思ったことを口にしていた。
「流石に僕たちのタワーを建てた土地なだけあって広い店内だね。しかし、それでも土地の半分しか使っていないのはどうしてなのか説明してくれたまえ」
「あの土地すべてを一つの店舗してしまうのはさすがに広すぎます。しばらくはもう半分の土地がオフィスになるでしょう。そこでパートやアルバイトの面接を行って、本社ができればオフィスを潰して他の土地に住んでいる方に引っ越してもらう予定です。その土地があちらの世界の二号店ということになりそうです。既にシートも張ってオフィスごと移動させて来ました。明日からの電話対応は北口駅前店の隣でやることになります」
「やれやれ、明日はこっちも電話対応が大変になるっていうのに……」
「こっちも大変になるとは、一体どういうことだね?」
「おそらく、番組出演の依頼と非公開の練習についてのことでしょう。本当に本マグロの踊り食いが可能なのか彼に作ってもらう算段ですよ。それに、たった一言ではありましたが、夜の練習のことについて監督が漏らしてしまいましたからね。公開練習なんだから取材させろとやってくるのが眼に見えていますよ」
「ディナーの仕込みはジョンの世界でやるが、その分昼間は異世界で電話対応。古泉もドラマの撮影、青ハルヒは練習試合に参加しているし、バレー合宿中も九月以降も番組出演なんてする余裕もなければするつもりもない。とにかくこの後はエージェントもジョンの世界に来てもらって、ハルヒ、有希、W佐々木でジョンVSエージェントの殺陣の練習、俺はその前にSOS天空スタジアムのシートを張って、明日以降は100階の一般開放は出来ないと垂れ幕を垂らす。青古泉、オフィスが移動した件、愚昧には伝わっているか?」
「一緒にテレポートしましたから明日以降は北口駅前店のところに来るはずです。駅前ということもあり、自転車はオフィスの中へ入れるように伝えておきました。他の自転車と一緒に撤去されかねませんし、オフィス前においてもいいと思う輩がでてきてしまいますので。勿論、北口駅前店やオフィス前に止められた自転車は即粗大ゴミ置き場にテレポートさせます」

 

 青古泉の説明通り、隅々まで配慮が行き届いている。コーディネートされたマネキンの間には青ハルヒや青朝比奈さんがモデルとして掲載されているページが開かれ、レジの前にも冊子が積み重なっていた。青朝倉が懸念していた鏡もバッチリだし、あとは倉庫を建てて人員を募集するだけになりそうだ。ん……?
「ちょっと!古泉君、月曜定休日って何よ!?」
自動ドアに張られたシールに青ハルヒが気付いた。
「向こうの世界でも年中無休では我々も休む暇がありません。人材が集まれば店舗については可能かもしれませんが本社の方までとなると……安定するまでは本店と社員食堂を除いて土日は休みになりそうです」
「確かに、黄俺たちが年越しパーティに出てるってのに、元日の福袋を二つの世界で同時にやれというのは不可能だな。日を変えれば出来なくもないが元日は休みになりそうだ」
「とりあえず、この後シートを外しに行くんだろ?アルバイト希望者には何と伝えればいいんだ?面接は青古泉の方でやるんだろう?」
「ええ、すみませんが次の日の15時と伝えていただけますか?複数いれば早いもの順に15分刻みにしていただけると助かります。本社が建てば、あちらの人事部の統括はしばらくの間あなたのお父上に、社員食堂には母上と有希さん、ハルヒさんに、経理には朝倉さん、編集部&デザイン課には黄朝倉さんに来て頂くことになるでしょう。もっとも、冊子については二つの世界で一つのものを作るわけですから、単純計算で戦力が二倍。年齢を18~20代と指定すれば今後の戦力になってくれることに間違いはありません」
「でも、なんだか心配ね。お父さんもやつれてきたみたいだし……あまり無理はしないでね?」
「やつれるなんてまだそんな年じゃない。母さんの方こそ少し痩せたか?」
「キョン、もう二人とも気付いているし話してあげたら?」
「ハルヒちゃん、話って何のこと?あんた、また何かしたの?」
「ああ、何かしたのは確かだ。だが、嬉しい知らせに変わりはない。二人には他の社員と同じように我が社の服を着こなせるようなスタイルとファッションセンスを持ってもらうために、W俺がやっている低周波トレーニングをさせている。微弱な電波だから、こうやって打ち明けるまでまったく気付いてなかったようだが、大分効果が出てきたようだ。今まできていた服もそろそろブカブカでベルトやゴムで締め付けなければ履けなくなってくるだろう。もう少ししたところでハルヒや有希に選んでもらった服で仕事についてもらうことになる。ついでに父親は髪を染め、母親は以前佐々木が提案した通り、カットして髪型を変えてもらう。折角ドラマに出演するんだ。少しでも見栄え良く映りたいだろうからな」
「そういうことだったの……お父さんがやつれていたんじゃないのならそれでいいけど、あたしはあんた達のようなマッチョになるのは嫌よ?」
「そう言うと思っていた。頃合いを見て低周波トレーニングはやめるつもりだったが、また太ってくるなんてことがあれば再度つけ直すことになる。これで青俺の両親とも区別がつくし、二人をここに呼ぶことが可能だ。幸もそれで喜ぶだろう」

 

 父親の方は髪を染めることに抵抗感を持っていたようだが、それ以外で特に文句を言うこともなかった。結局寿司のほとんどを有希に平らげられてしまったが、みんな満足しているようならそれでいい。シャミセンも残すことなく自分の分を平らげた。ほどなくして今日はこれで解散。青古泉は時間を見計らってシートを外しに行き、俺は屋上に東京ドームと同じ広さのシートを広げ、天井にはSOS天空スタジアムと記載。垂れ幕には『SOS天空スタジアム建設決定!!建設終了まで100階の一般開放はできません。ご了承下さい』と書かれていた。一般の方のエレベーターで100階に行けないようにして終了。あとはジョンの世界で作業に取り掛かることにしよう。
 食材をジョンの世界に持ちこんですぐ、ハルヒ達はバトルフィールドを展開して殺陣の練習や見当。青チームとOGは練習試合をしているし、古泉は一人でサーブ練習に没頭していた。残ったメンバーは殺陣の見学をしたり練習試合に参加したり。俺の仕込みを手伝ってくれる奴は誰一人としておらんとは……悲しいもんだよまったく。まぁ、食事の支度も全てやっている分、いつも俺と青ハルヒが抜ける時間を過ぎてもみんなで雑談会ができるから、その時間が俺にとっての休息時間になりそうだ。
「殺陣も決まったし、あとは撮影するだけね!有希、ちゃんとカメラに収めてよ?」
「問題ない。それより、来週まで忘れないで」
「あれだけ何回も練習したんだ。お互いに自動でサイコメトリーしてるんじゃないかい?」
「それについては大丈夫だろ。ジョン、ニュースがどうなっているか確認したい。モニター出せるか?」
昨日と同様二つのモニターが表示され、両方の世界のニュースが映っていた。こっちの方は……やはり出てきたか。『本マグロの踊り食い!?キョン社長が語る再生包丁とは!?』、『日本代表驚愕!!豪華絢爛回転寿司!!』、『朝比奈みくるのお茶に日本代表絶賛!!』はまだいい。だが、『ディナー後に練習!?未公開の練習内容とは!?』と監督のたった一言で新聞の一面を飾ってしまった。監督も俺もインタビューで問い詰められるし、撮影に来るだろうな。まぁ、閉鎖空間一つで解決できる。それに本社前から勝手に撮影され、俺が作った垂れ幕が映像に映し出されていた。ヘリで上空から撮影された映像もセットで放送されていたがすべてこちらの想定内。異世界の方は、『東日本代表、謝罪会見!イタ電認めた!』『元プロ野球選手から非難殺到!同校の先輩として悲しい!!』など。謝罪会見の様子を全て報道していた。見ている俺たちがどう思っているか聞きに来るだろうな。ついでにこっちもLive映像で北口駅前店が映っていた。SOSとついてWハルヒやW朝比奈さんがモデルとして写っていれば俺たちだと断定する材料としては多すぎるくらいだ。アルバイト募集の張り紙に書いてある番号の方にも電話がかかってくるだろう。こちらも想定内だが、催眠で十分対応できる。謝罪会見を開いたくらいじゃ割に合わん。今日は愚妹をテレポートさせればいい。青俺が張った閉鎖空間も少しサイズを大きくしておくか。

 

「何て言うか……飽きもせずよくやるわね」
「朝倉さん、心配ありません。すべて想定内ですよ」
「どこが心配ないっていうのよ!これじゃアルバイトの電話が来ないじゃない!」
「青ハルヒ、そこまで青古泉を責める必要はない。どちらも対処可能だし、どの道起きると思っていたことだ。報道陣を排除することについては避けては通れない。だから今駆逐する。本社が建っても人事部の社員がノイローゼにならないようにな」
「くっくっ、面白いじゃないか。どうやってこれを回避するのか僕達にも教えてくれたまえ」
「まず青チームの方は青俺がそれぞれの家と北口駅前店に出向き、閉鎖空間を拡大。愚妹に今日は自転車ごとテレポートすると伝えておいてくれ。報道陣がそれぞれの家に集まったところで催眠をかける。プロ野球界すべてを巻き込んでいるのに東日本代表が謝罪会見を開いたくらいで終われるような些末事じゃないんだ。もっと執拗に攻め立てるように催眠をかけてくれ。午後から青チームが練習試合に出るから、電話の対応は黄チーム中心に行う。今日からは佐々木にも入ってもらうぞ。それから練習中でもいい。もし監督から夜練の件で俺と相談したいみたいなことを言われたときは『報道陣に見られることなく練習ができるからこれまで通り練習用体育館に来て欲しい』と伝えてくれ。あとは電話対応するだけだが、回線が二つになっているから『鶴屋です』と『SOS Creative社です』の区別をしっかりつけること。でないとアルバイト希望者に番号を間違えたと思われてしまう。俺は今日もインタビューの時間になるまで電話対応だ。報道陣にむしゃくしゃしているメンバーは電話対応しなくても構わない。代わりに練習や練習試合に参加してくれればそれでいい」
「じゃあ、俺は催眠をかけたら午前中は電話対応だな。少ない時間でも一人でも多い方がいい。黄俺の愚妹も俺が連れてくる」
「またあんた一人で抱え込んで……少しは妻の気持ちも考えなさいよ!あたしも電話にでるからね!」
「問題ない。すべて駆逐する」
「ようやく撮影に合間ができましたし、僕も参加させて下さい」
「くっくっ、僕も入れてくれたまえ。午後は皆と試合がしたいけど、本名を言い当てたらどんな風に返ってくるのか試してみたくなったよ」
「わたしも片付けが終わったら、皆さんにお茶を煎れに行きますね」
『みんな、時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

 朝食時に圭一さん達にもニュースの内容を話し、人事部の社員に対応を任せた。あとは一つでも多く電話を取るのみだ。一番に食事を終えてオフィスへと異世界移動。外がざわついていたがしばらくすればそれも無くなる。
「はい、鶴屋です」
「◆▽新聞の栗原と申しますが、SOS団メンバーに取材させていただきたいのですが」
「偽名を語る人間の取材はお断りです。月刊×÷の藤堂さん?あなたからの電話は二度と受けたくありませんのでもうかけてこないでください。繰り返し偽名を語るようでしたら警察に通報させていただきます。それでは失礼します」
「ちょ、警察だけは……」
「はい、SOS Creative社です」
「すみません、アルバイトの張り紙を見たものなんですが…」
「既に就職している方がどうしてアルバイトの希望なんかしてくるんです?◎×TVの新村さん?アルバイトを希望されるのでしたら、おたくのTV局の社長さんにアルバイトの方がいいと本人から連絡があったと伝えましょう。辞表を用意しておいてください。失礼します」
「待て、それだけは…」
無駄だよ。俺たちには全て通用しない。三人前を食べ終えたハルヒと有希、青ハルヒも午前中は参加するようだ。W佐々木も異世界移動で現れた。自転車と愚昧を持った青俺が着く頃には外は静かになっていた。

 

 たった数日にしてブラックリスト入りした人間が100人を超え、二度、三度とかけてくる連中には制裁を加えていた。
「はい、鶴屋です」
「▽◇TVの西……「またあなたですか、◎×TVの小杉山さん。いくら偽名を語ってもこちらにはすべてバレるというのが未だにわからないようですね。いいでしょう、あなたのような学習能力の無い方をまとめて警察に通報することにします。えーーっと、住所は……………、電話番号は………ですね?それでは警察の方がお見えになるのを首を長くしてお待ちください。失礼します」
「なっ、なんでそこま…」
「はい、SOS Creative社です」
「すみません、◆×TVの者ですが、おたくの取材をさせていだだけませんか?TVで放送されれば全国的に冊子が出回ることになると思いますがいかがです?」
「偽りの会社名を名乗る人間の取材など受ける必要はありませんよ、★∀TVの深沢さん?どうやらこれで五回目の偽り電話のようですね。あなたの手など借りずともいくらでも発展していけますし、今後はあなたの方が我々の前にひれ伏すことになるでしょう。アルバイト希望者からの電話を妨害しないでいただきたいですね。あなたのような学習能力の無い方をまとめて警察に通報することにします。他にもたくさんいますので。住所は……………、電話番号は………ですね?それでは警察の方がお見えになるのを首を長くしてお待ちください。失礼します」
「ま、待て!それ…」
「キョン、いくらなんでも言いすぎなんじゃないかい?新聞記事に書かれでもしたら……」
「俺達の世界では一面にはならずとも、相応の場所に嘘やデタラメを並べた記事が載るだろうが、こっちの世界はまだスタート地点に立つ前の状態だ。記事にしようとしたとしても上司に却下されるのが目に見えている」
「そうかい?ならいいんだけど、あまり高圧的にならないでくれたまえ。もうすぐ朝比奈さんも来る頃だ。キョンも少し休んだらどうだい?」
「ああ、朝比奈さんから連絡が来たらそうさせてもらうよ。ありがとな、親友」
一つでも多く電話の処理をしないととしか考えていなかったからな。佐々木にちょっと癒された気がする。しかし、片付けるだけにしてはいくらなんでも遅いな……どうしたんだ?
『キョン君、社員の皆さんにクジを引いてもらいました。十一時からで大丈夫ですか?』
あ……昨日作っておいてそのことをすっかり忘れていた。それで連絡が今来たのか。
『すみません朝比奈さん、そのことをすっかり忘れてました。すぐにそっちに戻ります。80階でお茶の用意をお願いできませんか?何しろ朝比奈さんのお茶で新聞記事の一面を飾るくらいですからね』
『はぁい』
朝比奈さんもあの一面記事が嬉しかったらしい。まぁ、同性の日本代表選手まで認めたんだから当たり前だ。どの道今朝のニュースを見て十一時前から並んでいるはずだ。
「すまん、社員に寿司セットを渡してくるから少しの間だけ頼む」
やれやれ、野菜スティックやノンドレッシングサラダも作ってクジBOXまで用意しておいたのに……やっぱり両方の世界のニュースを見て重要度が入れ替わったせいだろう。寿司セットの入ったキューブを持って80階に降りると予想通り金色のクジを持った社員が並んでいた。朝比奈さんのお茶もそろそろのようだし、すべて配ってしまおう。

 

寿司セットを配り終えてオフィスに戻ってきたが、午前中は朝比奈さんのお茶にありつけそうにない。しかし、匂いだけでも十分癒された。佐々木に言われた通り、あまり高圧的にならないようにしないとな。とにかく今は電話対応だ。
「はい、SOS Creative社です」
「すみません、アルバイトの張り紙を見た者ですが、多い少ないの多いという字に丸い円の丸と書いて、多丸と申しますが、そちらでアルバイトをさせていただきたいのですが………」
「わかりました、多丸さんですね?では、明日の15時に履歴書を北口駅前店までお越しください。自動ドアは開くようにしておきますので」
「明日の15時ですね。わかりました。よろしくお願いします。失礼します」
「失礼します」
これはすぐに連絡した方がいい。
「全員、今の電話が終わったらそこで手を止めてくれ。ビッグニュースだ!」
ビッグニュースと聞きWハルヒは容赦なく偽名電話を切り、青俺たちは丁寧に応対してから受話器を置いた。
「それで、一体どんなビッグニュースなの!?さっさと教えなさいよ!」
「もったいぶらずに早く言いたまえ」
「アルバイト希望者第一号が出たんだが、これくらいじゃ俺だってビッグニュースとは言わん。聞き慣れた声でアルバイト希望だと俺に伝えてきたよ。『多い少ないの多いという字に丸い円の丸と書いて、多丸と申しますが』ってな!異世界の裕さんでまず間違いない!」
『裕さんがアルバイト希望――――――――――――――――!?』
「ってことは、もしかしたら圭一さんも一緒に働けるかも!!」
「でも、圭一さんは就職している可能性の方が高くないかい?」
「問題ない。明日の面接で履歴書をサイコメトリーすれば分かるはず」
「それで、裕さんは間違いなく採用するとして、黄チームの世界の裕さんと会わせたりするのか?」
「本人に相談してみないとな。もし逆の立場だったら自分はどういう反応示すのかとか聞かないと、異世界人という現実を受け止められるか分からん。それに圭一さんも一緒に会わせるってのもありだ。とりあえず、昼食の段階で全員に報告しよう。夜練が終わるのを待ってもらうわけにもいかないし、明日の朝まで内緒にしておくのも他のみんなに悪いし、裕さんも心の準備があるかもしれん」
『問題ない!』

 

 青古泉は15分刻みと言っていたが、一番手が異世界の裕さんじゃ15分で終わるわけがない。オフィスに連れてくるのも悪くないが、まずは報告が先だろう。二番手には三時半に来てもらうことで全員の意見が一致。昼食にわざと遅れて戻ると、81階に着いた瞬間に机をバンバン叩いてWハルヒが叫ぶ。
『ビッグニュースよ!ビッグニュース!!』
『ビッグニュース!?』
「あら、何かいいことでもあったのかしら?」
「涼宮さんとハルヒさんが二人揃ってビッグニュースだと叫ぶんですから余程のことがあったんでしょう。我々にもその内容を教えていただけませんか?」
『フフン、聞いて驚きなさい!』
電話取ったの俺なんだが?さも自分のことの事のように振る舞う……ってそういや孤島で推理ゲームやったときもそうだった。裕さんや圭一さん、古泉にハルヒの四人を頭に浮かべたら高校一年生の頃の記憶が甦ってきた。
『アルバイトの希望者が出たのよ!!その人、誰だと思う?』
おまえら、そんな聞き方したらこの中にいる誰かだとすぐバレてクイズにならんだろうが……って最初からクイズにする気などなかったか。
「我々に関係する誰かってことかね?」
『そう、それ!圭一さん冴えてる!!』
いや、誰だって分かるだろ普通。だがそれを聞いてOG六人が相談し始めた。どんな回答がでてくるのやら。
「ハルヒ先輩、それもしかして、異世界の私ですか?もしSOS団と練習試合してなかったらって考えたら、大学にも行っていない私かなって」
『惜しい!!』
まぁ、確かに、北口駅前店オープン直前に「オープンまで待てない」と言いだして、俺がテストしたら満場一致で即社員になったくらいだからな。しかし、このあとかかってくる可能性があるかもしれん。
「クイズもいいけど、僕もお腹が空いたよ。早くみんなに報告して食べ始めないかい?」
「ってことは、食べている最中だと吹き出してしまうってこと?」
「ああ、青有希の言う通りだ。アルバイト希望者第一号が……何と、異世界の裕さんだ」
『えぇ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!?』
『このバカキョン!あたしが言おうとしてたのに!!』
「おまえらがクイズ形式なんかにするからだろうが。それに、異世界の裕さんからの電話をとったのは俺だ」
「なるほど、確かにビッグニュースで間違いない。明日の三時に面談をするんだろう?我々も参加させてもらえないかね?異世界の私が何をしているのかも気になるからね」
「僕も驚きました。ですが、異世界の裕さんにお二人を合わせて大丈夫なんですか?」
「そう、それで意見が割れた。もし逆の立場ならどう感じるのか、本人に聞いてからの方がいいと彼が判断した」
「どうです?裕さん。もし目の前に、異世界の自分と圭一さんが現れたとしたらどう感じそうですか?」
「『兄貴がなんでこんなところに?』って思うのが一番だと思うけど、異世界の自分を見たら絶句するしかないだろうね」
「事実を受け入れられそうですか?」
「どうだろう……ちょっと考える時間をもらえないかい?」
「では、僕からビッグニュースをもう一つ報告してから昼食にしましょう」
『もう一つ!?』
「ええ、ディナーの後夜練が終わった段階で暴れたい人はこのフロアに集まってください。本社ビルを建築するための解体工事に入ります」

 

青古泉の告げた事実にそのフロアにいた全員が言葉を失った。しばらくの間をおいてようやく言葉を発することができたのは……青朝倉。
「ちょっと聞いてもいいかしら?古泉君、解体工事ってことは、もう交渉も引っ越しも済んだってこと?」
「あとは取り壊して建てるだけです。SOS天空スタジアムと一緒にね。しかし、異世界の裕さんがアルバイト希望で入るとなると、異世界の本社ビルも我々の部屋で埋め尽くすべきかもしれません」
「やれやれ…何をいつまでも呆けた顔をしているんだ。こっちの古泉もこの本社ビルの土地の交渉を一週間で終わらせたんだ。本社ビルを建てる場所の検討をしている時間は青古泉には必要なかった。その分古泉より早く交渉が終わったってことだ。丁度大学も夏休みだしな。異世界の本社ビルは来年の四月にお披露目ってところか?」
「相変わらず鋭いですね。あなたの仰る通りです。来年の四月一日にシートをはがして、パートやアルバイト、社員希望者の面接をすることになるでしょう」
「それで、100億のうち、いくら使ったんですか?」
「そうですね……今回は少々荒っぽい交渉をしたのでざっと80億ほど」
『80億――――――――!?』
「くっくっ、ここより広い土地を買い取ったとはいえ80億とは僕も驚いたよ。キミの言う通り少々荒っぽい交渉っをしたようだ。こっちの世界での復興支援と同じく、新しい店が完成するまでに予想される収益と従業員の給料もこっちで支払うなんて真似でもしたんだろう」
「おや?バレてしまいましたか。ですが、快諾を得てきましたし恨まれるようなことはしていないと思うので電話対応には影響は出ないかと」
「ちょっと待て、古泉。大学もあと一ヶ月もしないうちに始まるっていうのにどうして今日解体工事なんだ?黄古泉は確かに一週間で交渉を終わらせたが、解体したのは九月になってからだったはずだ」
「簡単です。それまでに我々で建てるんですよ。既に引っ越しするものに関してはキューブに収めてあります。大学を建設した段階でどこに何をおけばいいのか聞きながらキューブを拡大するだけです。それにプロ球団戦を前にして東京ドームのすぐそばに我が社の建物が立つとなれば、これ以上の宣伝はありませんよ」
「とにかくだ。ビッグニュースが二つも出てきて納得していないメンバーも多いだろうが、このあとの練習試合は青チームが闘うんだ。子供たちはその闘いぶりを見学するといい。それと、青古泉から『暴れたい人』とあったが、Wハルヒだけで五分とかかるまい。Wハルヒは間違いなく立候補するとして、それ以外にいるか?」
「お二人がいる段階で誰も立候補なんてしませんよ。それより僕はジョンやあなたが暴れた場合どうなるのか見てみたくなりました」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「なら、それで決まりだな。早く食べてアップしにいこうぜ」
『問題ない』

 
 

…To be continued