500年後からの来訪者After Future3-9(163-39)

Last-modified: 2016-08-29 (月) 11:55:01

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-9163-39氏

作品

全国大会決勝戦も二回表に突入。三人目の左バッターも青俺の指示でなんとかこれをしのいだが、打順が戻ってきた後のことを考えた青古泉が青ハルヒと青俺のポジションをチェンジ。こうなれば左バッターも関係ないと思っていた矢先、レーザービームを使わせろという有希の個人的な采配に、監督から容赦の欠片もない交代が告げられた。その代わりとして俺がレフトポジションにつき、外野手の超光速送球やレーザービームを投げることができた。青鶴屋さんが超光速送球慣れしていないこともあり二点奪われてしまったが、二回裏、打順が戻って一番青ハルヒから続く怒涛の攻撃で得点を重ねていった。一時、SOS団結成前のWハルヒを思わせるような朝倉の姿が見られたが、アンダースローの世界一との勝負ができることでやる気を取り戻した。その勝負が今まさに始まろうとしていた。

 

 いつも球速はジョンや有希に測ってもらっているが、小型カメラでの撮影などやろうと思えばできるというジョンの発言により、スピードガンを情報結合。ステルスを張って有希の後ろから渡辺投手の球速を自分で測ってみることにした。第一球、ジャイロボールなのは沈むところを見れば分かるが……あれはフォーシームじゃないぞ?球速は95km/hだが。
「どうやら、今の球にお困りのようですね。あれはツーシームのジャイロボール。彼のナックルボールと同じく、ジャイロボールにもフォーシームとツーシームの二種類があるんです」
「このあと朝倉がどう出るかは分からんが、解説してもらえるのなら頼んでもいいか?」
「ええ、構いません。このあと、圭一さんたちに実況が何とコメントしていたか聞いてみるつもりですが、あなたと同じく、渡辺投手にも『ミスターサブマリン』という二つ名が存在するんです。明日の各社新聞記事の一面が楽しみで仕方がありませんよ。涼宮さんに『ミスサブマリン』の称号がつくかもしれないんですからね」
『ミスサブマリン!?』
「くっくっ、キョンの『クレイジー野郎』より、よっぽど嬉しい二つ名じゃないか。投球フォームと同じく、ネーミングも実に美しいと感じるよ。僕も明日のニュースが楽しみになってきたよ」
「黄朝倉さんはまだ手を出さないようですね。今のはツーシームのスライダー。ツーストライクで後が無くなりました。第三球はおそらくミスターサブマリンの真骨頂が見られる筈ですよ」
スライダーの球速は102m/h。青古泉の言う真骨頂とは一体何だ?第三球、今度はフォーシームに切り替え…って早い!!」
渡辺投手のフォーシームのジャイロボールを朝倉が叩いた。真骨頂ってのはこういうことか。球速は132km/h。青ハルヒもこれと同じ40km/h差の緩急をつけていた。敬遠された二打席分打球に力が入ってやがる。あんな低い位置からリリースしてさらに沈むっていうのにあいつもよく打ち返したな。だが、流石の朝倉でもあの球をバックスクリーン直撃弾にするのは無理だと判断したらしい。レフト方向に打球を修正し、見事に本塁打を勝ち取った。
「え~~~~~!!渡辺投手のアンダースローが破られた!?」
「いや~今のは僕もとったと思ったんですが……道理で二度も敬遠されるはずです。次に勝負するときまでに、僕も練習してきます。中○さん、選りすぐりのメンバーを集めてきてください。このチームの圧倒的パワーにやられてしまいそうです」
「渡辺投手にそこまで言わせるなんて、僕も思っていませんでした。佐倉選手、お見事でした。ありがとうございました~」
試合を終えてもまだ会場内に残っていた全員から朝倉に拍手が送られた。最後にレーザービームと走力の勝負を3回やらされてようやく現実世界に戻ることができた。ったく、肩に負担がかかると何度も言ったのに………順番が違うだろ順番が。

 

 81階には多丸兄弟、俺の両親、エージェント数名とOG二人が残っていた。
「あっ!!皆さんお疲れ様です!最後の涼子先輩のホームラン、カッコ良かったです!それに、涼宮先輩も『ミスサブマリン』なんて何度も呼ばれてました!!」
「あ~あ、明日の新聞記事を楽しみにする必要がなくなったようだな、監督?」
「ええ、ですが、いい知らせはなるべく早く聞きたいものです。僕も嬉しいですよ」
「ハルヒがミスサブマリンなんて、俺には到底思えないんだが?」
「ちょっとあんた!それ一体どういうことよ!」
「いくら投球フォームが美しくても、そうやって素が出るとイメージが崩れる。頼むから人前でそういうところを見せないでくれ。ただでさえ、こっちの世界じゃ黄ハルヒが生放送中に黄俺の尻を蹴るなんてことしてるんだ」
「フン、分かったわよ!人前で素を出さなきゃいいんでしょ!?」
「問題ない。スポーツ選手なら負けず嫌いな性格の方が丁度いい」
「とにかく、話はこの後いくらでもできる。君達の優勝祝いといこうじゃないか」
「圭一さんの言う通りよ!あたしもなんだかお腹が空いてきちゃったわ!」
『キョンパパ、パーティ!』
酒とジャンクフードで十分だったんだが………豪勢な料理がテーブルに並べられていた。毎日忙しいってのに、新川さんが作ってくれたらしい。明日の朝、みんなでお礼しないとな。
「じゃあ、団長。乾杯の音頭を頼む」
「えっ!?あたし!?黄あたしじゃないの!?」
「圧倒的パワーで勝ち進んできたチームをたった四点に抑えたんです。涼宮さんお願いします」
「うち二点はあたしのせいのようなもんっさ!来週は絶対に仕留めるにょろ!」
「じゃあ、全国大会優勝を祝して……」
『かんぱ~い!!』

 

『古泉、今日は早くダウンしてもいいから量を多くしてみたらどうだ?ジョンの世界でサーブの練習がしたいなら俺があとで酔いを覚まして起こすつもりだが、どうする?』
『それは嬉しい申し出ですね。お言葉に甘えさせていただきます』
今日はドーナツを作らずに済むし、鶴屋さんには悪いが朝比奈さんのところにお邪魔しよう。
「朝比奈さん、応援ありがとうございました。たった二回なのにこんなにガラガラになるまで俺たちのこと応援してくれて……声帯、今治しますね」
「キョン君、ありがとうございます。えっと、わたし、キョン君に一つお願いしたいんですけど、いいですか?」
「なんなりと」
「今のを試合の最中もお願いしたいんです。来週はプロ球団戦ですから、こんなに早く決着がつきそうにないですし。できれば、OGの子たちも」
「すみません、試合中に気がついていればすぐにでも行ったんですが……来週は必ず向かいます!」
「いいんです。キョン君ずっと試合に集中して、朝倉さんのことも考えてくれたり、佐々木さんに自信を持たせてくれたりしていましたから」
「朝倉さんのことでイラついていたからすっかり忘れていたよ。またキミに唆されてしまったじゃないか。来週は交代での出場も無しということにしてくれたまえ」
「おまえな、俺にそれを言ってどうする。打順やポジションを決めるのは監督だ」
「黄佐々木さんには申し訳ありませんが、既に来週の試合は五番手で出てもらうと決めています。前回、それに今回もハルヒさん、黄朝倉さんと四番手が敬遠されていますからね。来週の一番手を黄朝倉さん。それから二番涼宮さん、三番ハルヒさん、四番黄有希さんの順でいきます。六番以降はまだ検討中ですが、僕も含めて周りにいる全員が黄佐々木さんの力を信じているんです。だからこそ、相手に対策を取られるんです。あなたを野放しにしておくわけにはいかないとね。……おっと、戻ってくる前に北口駅前店にシートを被せてこようと思っていたのをすっかり忘れていました。酔いが回ると忘れそうなので、ちょっと行ってきます」
「僕の意見も聞かないで逃げられた気分だよ。キョン、こういう場合、どうしたらいいのか教えてくれたまえ」
「監督もさっき言ってただろ?みんな、おまえの力を信じているんだよ。おまえが手強いからこそ相手に警戒されるんだ。おまえはな、もっと自己肯定感ってヤツを持つべきだ。それだけの練習をしてきたし、今日だってみんなの期待に応えてくれた。わざわざ朝倉の無念をはらすような真似までしてな。面白そうなものにはすぐに興味を持ちたがるのも、ああやって条件を更に厳しくするのも、どうしてだか未だに分からんが、なぜか俺だけが特別扱いされているところも全部ハルヒとそっくりだ。あまり思い出したくはないが、力が入っていないだけで、おまえはハルヒと同じ能力を秘めているなんて超能力の使えない超能力者が言ってたことがようやく分かった気がするよ」

 

俺の言ったことを頭の中で反芻でもしているのかは分からんが、黙りこくった佐々木の目の前に青古泉が戻ってきた。
「ただいま戻りましたっと。シートは張れましたが、いくら地元でも駅前とあっては閉鎖空間を解除できそうにありません。あとでもう一度行ってくることになりそうです」
「丁度良かった。さっきの話の続きといこうじゃないか。どういう采配をしたら僕なんかが五番手になるのか教えてくれたまえ」
「簡単です。黄有希さんの盗塁をサポートするんですよ。打順は五番でもやることは二番と変わりありません。今回で言えば佐々木さんの前に朝比奈さんでしたから、もしあなたが朝比奈さんの後についていれば、一球損をしてでも朝比奈さんの盗塁のサポートをするでしょう。ですが、黄有希さんにはそれが必要ありませんからね。ボール球までバントに構える必要はありません。あなたなら見事にノーアウトのまま、ランナー一、三塁を獲得するでしょう。その後に黄僕や黄鶴屋さんを配置すれば、すぐに得点につなげることができます」
「監督の用意した一着がここまで細かいとは思わなかったが、それだけ佐々木のことを信頼している証拠だろう」
「やれやれ、キミ達には負けたよ。しかしキョン、僕が自分に自信を持てるまで、キミに練習に付き合ってもらいたいんだけどね。かまわないかい?」
「ああ、いくらでも付き合ってやるさ。ところで青古泉、いつシートを外しに行くつもりだ?」
「明後日のディナーの時間になるでしょう。あなたが黄僕や涼宮さんと寿司を握っている間に、ハルヒさんと黄有希さんにフロアのデザインや配置、マネキンの着こなしなどを見てもらいたいと思っています。そのままアルバイト募集の張り紙を張って一週間放置したら、九月一日にSOS Creative社の第一号店のオープンですよ」
『面白いじゃない!』
「いきなり話に割り込んでくるな!ったく、それで、冊子や倉庫はどうするつもりだ?」
「こちらの倉庫は、当時黄有希さんが言っていた通り、あまりいい場所とは言えませんし、トラックも入りづらいので別の場所を考えています。黄僕が地元の店舗を増やしていったようにこちらの世界の倉庫の場所に移り住んでもらうお宅を検討しているところです。冊子の方は店舗でのみ、今月号を販売します。当然本社の番号や通販用のナンバーなどの記載は全て除外します。あとはなるべくタイミングが合うようにパート、アルバイトの募集をかけつつ、書店を回るのに僕と朝比奈さんペアと、涼宮さんには朝倉さんにペアとしてついてもらおうかと」
「なんだか面白そうね。わたしも入れてもらえないかしら?」
「あくまで僕の頭の中の構想ですよ。ですが、野球で活躍した涼宮さんや朝比奈さんがモデルとして出ている冊子であれば、北口駅前店に置いただけでかなり人気が出るんじゃないかと」

 

青古泉ももうそこまで手を打っているのか。って、佐々木が話に割り込んできたせいで折角の朝比奈さんとのお喋りタイムが無くなってしまった。当たり前のように古泉と二人でダウンしていた。朝比奈さんはこのまま休んでもらおう。声がかれるまで必死に応援してくれていたんだ。古泉も酔いを醒ませばまた起きてくるだろ。佐々木の練習も今日から始めるわけじゃなさそうだし、明日からはまたバレーの練習試合に出てもら…………まずい!!
「話が盛り上がっているところですまん、青俺!大至急確認したいことがある!」
「いきなり黄キョン君が立ち上がるから吃驚したにょろ!どうしたっさ?」
「青鶴屋さんにも大きく関わることです!順番に説明しますから聞いててください」
「それで、黄キョン君。キョンに大至急確認したい事って?」
「実家の青俺の部屋を荷物や家具を片付けるなり、キューブに収めるなり、青有希の部屋に移すなり、やり方は任せる。至急、あの部屋を空けて欲しい」
「それは構わんが、俺の部屋なんかで何をするつもりだ?」
「明日、青俺の両親に確認を取ってきて欲しい。俺の愚妹をそこに引っ越しさせて、明日から青鶴屋さんのところで人事部として働かせる。愚妹の分の食事を頼んで欲しい。特に明日は青チーム全員がかりでも、黄チームや圭一さん達が参加したとしても電話が鳴りやまない恐れがある」
「全国生中継の野球の試合で勝ったのですからそれはそうでしょうが、そこまでの大事になるとは思えませんが…彼女を引っ越しさせることもないはずです」
「東日本代表が50人以上プロ野球選手を輩出している学校だとおまえが言ったんだぞ、青古泉。その名前を背負って試合に出たのに、最後は朝倉の顔面狙った暴投で終わった。明日のニュースが俺たちの勝利で各社新聞記事の一面を飾ってくれるのならまだいい。だが、事と次第によっては汚名を着せられたとして野球会が荒れてもおかしくない。まだ二回とはいえ、こちら側は二巡まわしていたんだ。投手だけでなく『なんでピッチャーを変えなかったんだ』と監督やチームまで責任を取らされるようなことにでもなったらどうなるか分かるだろう!それに、さっき話していた月曜に北口駅前店のシートをはずすのなら、SOSと見た瞬間に誰がどんな行動に出るか、ここにいる全員が想像できるはずだ。それにパートやアルバイトの希望者もいちいち青古泉が受けていたんじゃ交渉に行くことも店長として店に立つこともできん。こっちの世界では機関のメンバーが対応してくれていたが、青チームの世界にはそれが無い。一人でも多く鶴屋邸に向かわないと、これから先、異世界での本社設立もどんどん進行が遅れるんだよ!」
「その誰かさんに対する手立ては既に打ってあります。ですが、どうやら僕は相手のことを知っているようで理解していなかったようですね。報道陣からの取材の電話は勿論ですが、あのチームからのイタズラ電話が来ることになるでしょう。謝罪の電話をかけてきて報道陣に伝えてくれというようなものもありそうです」
「鶴ちゃんのところにイタ電!?ふざけんじゃないわよ!あたしが全部潰してやるわ!」
「ハルヒ、おまえは黄俺と仕込みが……いや、ジョンの世界で食事の支度もすべて終わらせてしまえばいいか。とにかく練習していられるような状態じゃなくなった。俺の部屋のものについてはとりあえずキューブでまとめておくことにする。明日の朝一番で母親に確認を取ってくるよ。ところで古泉、あのアホに対する手立てってなんだ?」
「こちらの世界の彼が我々に関わろうとしてどうなったか、毎晩夢で見るように催眠をかけておきました。しかし、この状態ではもう別の場所に簡単な建物を用意して、電話の回線はすべてそちらにまわした方がよさそうですね。青チームSOS Creative社の仮人事部とでも言っておきましょう。先ほど話題に上がっていた倉庫の土地に建てることにします。鶴屋さんに関連する案件は食事のときにまとめてお伝えするような形でもよろしいですか?」
「大丈夫にょろ。黄キョン君が気付かなかったら明日は家の人間が大混乱していたかもしれないにょろよ!」

 

「よし、やることを整理して動くことにしよう。まずこの後すぐ、青古泉は北口駅前店の閉鎖空間を解除。青俺は倉庫がある土地にシートを被せて簡単な建物でいいから建設して欲しい。なるべくすぐにシートがはがせる建物の方がいいだろう。人事部をサイコメトリーして似たような設備も準備してほしい。電話にはすべて遮音膜だ。念のため外側に閉鎖空間を張っておいてくれ。ジョンの世界では俺と青ハルヒで食事の支度と仕込みをする。ジョンにはW佐々木のバッティング練習に付き合ってもらいたい。ジョンの世界で他にできることと言えば、あとはジョンが有希に撮影した映像を渡して編集したり、今いないメンバーに一部始終を話したり、青俺と有希でナックルボールの練習をしてくれても構わんし、バレーの練習をしたりってところか。今日はW鶴屋さんは泊って行ってください。明日の朝食を食べてから戻っても遅くはないはずです。W鶴屋さんは家の仕事、古泉はドラマ撮影、青古泉は交渉に回ってくれ。向こうでの電話の対応はW俺、引っ越しを終えた愚妹、Wハルヒ、相手チームの代表から謝罪の電話が来た時点で、記事を作って報道陣にまとめて送って欲しいので有希、「佐倉さんに取材を」なんて電話がくるかもしれんから朝倉、青朝比奈さんの八人。こっちの朝比奈さんじゃ断りの電話には不向きだから、食事の配膳、片付けのことを伝える。青有希と青朝倉はこっちの人事部で電話対応。圭一さん達は休みの日だからな。W佐々木は最終回の脚本を仕上げてくれ。九月一日は無理でも二日以降なら最終話の撮影が可能になるはずだ。子供たちとOG、ENOZでバレーの練習に参加。OGは時間になったら復興支援の方に向かってくれ。朝比奈さんもテレポートできるが、多人数で長距離はまだ難しいだろう。時間を見計らって俺が戻ってくる。青有希は電話対応しながら、たまに子供たちの様子を見に行ったり、試合に出たりしてくれ。青朝倉は食材の注文があるからこっちの世界にした。ざっと話したが、漏れ、訂正、追加はあるか?」
「しかし、我々は本当に休みでいいのかね?」
「ええ、今回の一件はすべて俺たちの行動によって生まれたものです。あのピッチャーの暴投のせいというのもありますが、圭一さん達の休日を奪ってまで手伝っていただくことではありません」
「あんた、あの子をどうするの?」
「さっき説明した通りだ。どの道、青古泉が人事部に縛られるような状態にならないようにする必要があったからな。社員が受けた電話の判断を仰ぐ人間がいないといけない。それに異世界にも本社ビルが建てば社員食堂のチーフとして、青有希と一緒に向こうに行ってもらう必要もある。二人ともいずれ向こうに出向いてもらう時期が出てくるからそのつもりでいてくれ」
「やれやれと言いたくなりましたよ。既にそこまで先読みしているとは。今、仰っていた通り、僕もあなたのご両親には本社が安定するまでの間、我々の世界に来ていただくつもりでした。あなたが今回の問題に気付いてからここまでの流れは見事なものでした。あなたにはまだまだ敵いそうにありませんね。では、やることを済ませてしまいましょう。折角新川さんが用意して下さった料理がもったいないですからね」
「俺もさっさと終わらせてくる」

 

『佐々木、すまなかったな。パーティでぬか喜びさせてしまったみたいで……』
『くっくっ、キミが事の重大性に気付かなかったら、青鶴屋さんの言った通り彼女だけ大忙しになっていただろう。機会はいつだってあるんだ。僕は僕で仕事があるようだし、それまではそっちの方に打ちこむことにするよ』
青古泉と青俺が戻ってきたところで乾杯のやり直し。俺や青古泉と話していたから話に入ってこれなかったOG達がW佐々木のプレーに賛辞を述べ、二人とも照れを隠し切れていないようだった。
「そういえば、青古泉君。青チームの世界の本社の構造って決まってるの?」
「このビルとほとんど変わりません。ですが、体育館を使用することはほとんどありませんし、このフロアは会議用として似たようなものを作りますが、これより上のフロアはホテルにする予定です。ただ、一つだけ大きく違うのが、100階の上に東京ドームと同じ人数を収容できるほどのものを作りたいと思っています。そうですね……名前を付けるとすれば『SOS天空スタジアム』といったところでしょうか。そこでも野球の試合ができるようにする予定です。一気に100人は乗れるエレベーターをビルの左右に取りつけてね。ただ、ライブ会場としては使えそうにありません。SOS団がデビューしても二つの世界で全国ツアーなんて不可能ですからね」
『面白いじゃない!』
「ねぇ、キョン。こっちでも天空スタジアム作りましょ!」
「やってもいいが、まずはバレーが終わってからになりそうだし、東京ドームは45000人収容するんだ。一気に100人乗れたとしても何往復もしないといかん。それなら東京ドームを抑えた方がいい。収容人数を10000人にしたとしても左右に分かれても50回往復しないといけない」
「ん、どうやら眠ってしまっていたようですね。今のお二人の会話が聞こえてきましたが、天空スタジアムとは面白そうです。ですが、エレベーターで何往復もしなくてもおでん屋と同様テレポートの膜を張れば済むのではありませんか?」
『あ―――――――――!!』
「流石黄古泉君!冴えてるわね!一瞬にして問題を解決しちゃうんだから!」
「古泉、ちょっと手出してくれるか?」
「僕が眠っている間に何か?………確かにこれは大問題ですね。撮影さえなければ僕も電話対応に参加したいところなんですが……」
「まぁ、気にせず俺たちに任せて行ってくるといい」

 

 新川さんの料理も全て平らげ、片付けは青有希と青朝倉が名乗りを上げた。
「他のみんなは明日大変になりそうだから」
だそうだ。子供たちももう眠っていた。ユニフォームを脱いで風呂に入ると、食材の入ったキューブを持ってジョンの世界に足を踏み入れた。
「できた」
たった三文字で説明一切なしなのは相変わらずだが、今回は先ほど話していた内容で間違いない。ジョンと有希が撮影した映像を編集してDVD化したんだろう。それに気付いたハルヒが真っ先に駆け寄る。
「有希、どんな映像になったかあたしたちにも見せて!映像によっては挑戦状の内容が変わってくるんだから!」
「わかった」
巨大モニターに映像が映し出されると、ジョンの世界に来ていたメンバー全員が画面の前に集まる。仕込みをしている俺たちにも見えるように配慮されていた。因みに古泉はサーブの練習。生放送までには間に合わせるだろう。
二人の撮影した映像には、青俺と青有希を除く青チームのメンバーに催眠がかけられた状態で映っていた。俺たちの投球を打つバッティング練習、ハルヒの1000本ノック、青ハルヒのアンダースロー、佐々木のバントに最後は俺の180km/h台後半の投球。こっちの世界でならパフォーマンスの一言で十分だ。さっき説明していた一日三球しか投げられないという内容も収められていた。これなら誰も文句はあるまい。いつもの時間になってもジョンが俺に声をかけることもなく、食事の支度も仕込みも全て終わっている。やることと言えば、頃合いを見てパンを焼き始めるくらい。練習を終えたメンバー達が集まって雑談会が始まった。

 

「キョン君から情報をもらいましたけど、そんなことになるなんてわたしも考えもしませんでした」
「だが、災い転じてなんとやらだ。これでようやく真っ当な理由をつけて愚妹を本社から排除できる。最低でも異世界の本社が安定するまで一年はかかるだろうし、その頃にはチーフとしての仕事についているだろうから本人が戻りたいと言い出そうが戻せない」
「今後はわたしたちが実家に戻るんじゃなくて、お父さんやお母さんを連れてくることになりそう。でも、黄キョン君のお母さん、少し痩せた?」
「そういや、この前もベルトの穴が変わったとかって話になってたな」
「もうみんな気付き始めているし、理由を話してもいい頃だろう。俺の両親にはW俺と同じ筋トレをさせている。本人たちも気付いていない微弱な電波を送ってな。目的は二つ。我が社の社員としてそれ相応のスタイルとファッションを維持して欲しいことと、青俺の両親と区別をつけるためだ。Wハルヒが何も言ってこない以上、W古泉の区別は青古泉のバンダナでしかつけられないが、Wハルヒに対する視線がなくなるのならこのくらい何の問題もない。それに、そろそろ別のもので区別がつけられそうになるかもしれない」
『別のもの?』
「黄キョン君のご両親が少しずつ痩せていた理由は分かりましたけど、古泉君たちの区別をバンダナ以外でどうやってつけるんですか?」
「なぁに、簡単なことです。俺とハルヒ、青俺と青有希は特別だったってことですよ」
「えっ!?ってことは黄古泉君が近々結婚するってことかしら?」
「このメンバーの中でなら、おそらくトップは古泉だろうってただの俺の予想だ」
『古泉先輩、今彼女いるんですか!?』
「今はまだ誰も。ですが、北高時代と違ってエージェント達と閉鎖空間の対処に向かわなくても済むようになりましたから、年代的にもそのようなことも考えていかなければなりませんね」
「古泉君の場合はどんな相手でもスキャンダルになることはなさそうです。テレポートで相手のところに行ったりこっちに呼んだりできますから」
「古泉先輩!!わたしが立候補してもいいですか!?」
『いきなり大胆発言!?』
「くっくっ、面白いじゃないか。彼が撮影している最中のドラマの概要が現実化するとは思わなかったよ。これは彼に対するプロポーズと判断してもいいのかい?」
「僕も驚きましたよ。ですが、あなたはつい先日、日本代表入りが決定したばかりではありませんか。お気持ちはとても嬉しいのですが、双子の誕生日のように一年に一ヶ月しか一緒に生活できないのではお互い寂しい思いをするばかりです。世界各国を回るとなれば当然時差の関係も出てくるでしょう。日本代表としてのご活躍を楽しみにしていますよ」
「ということであれば、僕が涼宮さ…『あんたは黙ってなさい!』
「でも良かったわね。今の彼の発言だと、あなたが日本代表を引退する頃になっても未だに相手が見つかっていなければOKってことになるわよ?」
「涼子先輩本当ですか!?古泉先輩、今度から名前で呼んでもいいですか!?」
「問題ない。バレーのときはいつも呼び捨て。古泉一樹が試合に出るときは同じチームでいればいい」
「なら、マネージャーとして明日から撮影についていったらどうだ?黄古泉が出ない時間帯を把握していればW古泉が試合に出場できる時間だって分かるだろ?向こうにもマネージャーはいるだろうが、俺たちもW古泉が試合に出られる時間帯を確認しておいた方がいい。青チームのみの編成で出るんだろ?」
「ええ、是非そうさせてください。黄僕のスケジュール確認をよろしくお願いしますよ?」
「はいっ!!先輩方もありがとうございます!!」

 

OGが六人で黄色い声をあげていた。時間的にも頃合いか。
「よし、本題に入ろう。有希、異世界でのニュースをモニターに出してくれ」
「わかった」
いくつかのチャンネルを別々にモニターで出すものだとばかり思っていたが、丁度俺たちのことを取り上げているチャンネルを見つけていたようだ。大画面で映像に映し出され、これなら記事も読めそうだ。各社新聞記事の一面はやはりバラけたな。『涼宮ハルヒ、ミスサブマリン認定!!』や『宿命の対決!!ミスターサブマリンVSミスサブマリン!!』、『最高速度190km/h!?一日三球限定の超剛速球現る!!』ならまだいい。だが、『無残な終焉!女性選手目掛けて暴投!』、『プロ野球会大波乱!?50人以上のプロ野球選手が泥まみれ!!』、『着せられた汚名!挽回の余地は!?』など、アナウンサーの解説を聞かなくとも、何が起きてこれから報道陣がどういう動きをするのか新聞の見出しを見ただけで分かる。
「これが黄キョン君の言ってたことにょろね。ようやく実感が沸いた気がするっさ!」
「先に出る。青チーム全員の家に報道陣を寄せ付けない閉鎖空間を張ってくる。鶴屋邸に一番集まりそうだからな。ついでに母親に電話線を外しておくよう伝えておくよ。黄俺の愚妹の件も含めてな」
「いってらっしゃい」「頼みましたよ」「宜しくお願いします」「すまんが、よろしく頼む」
VTRにも朝倉の打席が全て映像に出ていたが、ジョンのように声は拾えなかったらしいな。最後のピッチャーに対する声も入っていなかった。あのチームのピッチャーやキャッチャー、それに主審にインタビューすれば答えるかもしれんが、朝倉は相手を蔑んだ発言はしていても罵倒するようなことはしていない。今日中に謝罪会見が開かれてもおかしくあるまい。
「では、そろそろ我々も出ましょうか。これだけ分かれば十分です」
『問題ない』

 

 パンを焼き始めてから身支度を始めた。これで俺が映画の告知に出向くと当分出来ないであろう双子との歯磨きの時間を堪能して81階へと降りる。先にジョンの世界を出たはずの青俺を待って全員が揃い、アイコンタクトでOKと伝わってきた。だが、まずはいただきますの前にやっておかないと失礼にあたる。
「じゃあ、食べ始める前に野球関係者は全員起立!」
幸は当たり前として双子ももう習っていたか。応援してくれていたOG四人も含めてSOS団メンバー全員が立ち上がった。
「新川さん、ご多用の中、俺達のために豪華絢爛な料理をご用意してくださり、誠にありがとうございました!」
『ありがとうございました!!』
エージェントや圭一さんたちからは拍手を受け、俺達の挨拶を見て新川さんも立ち上がった。
「皆様、お疲れ様でございました。あの程度の料理など、皆様のご活躍に比べれば極々小さなものでございます。結果は古泉から聞きました。全国大会優勝おめでとうございます」
新川さんの一言に全員で拍手。あとは辞令伝達以外に議題は無い。
「ここにいるほとんどのメンバーには周知させているが、これから辞令伝達をする。どの会社にだってあることだから大したことはない。そこにいる愚妹は朝食後荷物をまとめて青俺の実家に引っ越し作業。青俺の部屋に家具や服などを置くことになるだろう。今日から青チームのSOS Creative社の人事部の社員として働いてもらいたい。こちらの世界で言うところの倉庫にあたる場所に仮のオフィスを建設した。今後は青俺の両親たちと共に食事をし、そのオフィスに通勤することになる。自転車が欲しければ社長室に俺が以前使っていたものがあるから持って行って構わない。以上だ」
身支度の段階で両親から聞いていたんだろうが、それでも涙を堪えきれなかったらしい。まぁ、そんなこと俺にはどうでもいいことだ。
「ああ、嫌なら別に断ってもいいんだぞ?この会社を辞めたいと言うのなら、就職活動を一からやり直してくれて構わない。ただし、社員でもない人間を本社に泊めるわけにはいかん。新しい就職先が決まるまでは一人暮らしになるだろうが、精々頑張ってくれ」
「分かりました。食べ終わったら引っ越しの準備をします」
「よし、じゃあ残りのメンバーは昨日確認したとおりだ。俺はすぐにオフィスへ向かって片っ端から潰していく。ブラックリストが一気に増えるだろうから、偽名の電話が三回来た時点で社長に連絡。「来週の試合の取材は出来ない様に大会委員長に伝える」と言えば、辞令が下るだろう。東京ドームには俺が許可した報道陣以外は入れないという条件の閉鎖空間を張るが、青チームの世界ではあまりパフォーマンスは使わない方向でいくつもりだ。じゃあ、先に行ってるぞ。あとは頼む」
『問題ない』

 

 ドーム全体を閉鎖空間で覆ってオフィスへと移動。呼び鈴は鳴っていないが、すでに電話のランプが点滅していた。パソコンを起動してファイルを開くと、ブラックリストNo.001としてアホの谷口の名前が掲載されていた。まったく、どっちの世界でも変わらんな。
「はい、鶴屋です」
「■×TVの品川と申しますが、鈴木選手の投球を番組取材させていただきたいのですが……」
「本名も会社名もデタラメの人間の相手をしている暇はありませんよ?○□TVの本郷さん?先に言っておきましょう。名前を偽った電話を三回してきた時点であなたの会社の社長に連絡を取らせていただきます。『来週の試合の取材は出来ない様に大会委員長に伝える』と社長さんに伝えさせていただきますのでそのつもりで。では、失礼します」
「待て、嘘については謝・・・」
謝ったところで同じことを繰り返すのは眼に見えている。ブラックリストに追加して電話回数を記載する欄に1と入力して次の電話に出た。
「はい、鶴屋ですが」
「▽◇新聞の小島と申しますが、佐倉選手に取材させていただきたいのですが…」
「報道陣でもないあなたがどうやって取材をするんです?その佐倉選手の頭部目掛けてボールを投げつけたピッチャーさん?今度はナイフでも持ってくるつもりですか?イタズラ電話は困りますねぇ。次にかけてきた時点で警察に通報させていただきますのでご了解ください。では、失礼します」
「ちょ、それだけはまっ……」
くくく……ナイフだろうが拳銃だろうが朝倉にそんなもの通用しない。第一どこで取材をするつもりだったのやら…俺達の地元まで来る気か?

 

「キョン、どんな感じ?」
愚妹を除く六人がオフィスへとやってきた。早速パソコンを起動させて準備にかかっている。
「くくくくく……二つ目の電話で昨日のピッチャーからイタ電が来た。『佐倉選手を取材したい』そうだ。OKしたら横浜からナイフでも持ってここまできたかもしれないな。今度かかってきたら警察に通報すると言ってあるが、面白そうだからナイフの扱い方を教えてやってくれないか?」
「やめておくわ。もう興味がないから。それより、有希さんにそのことを報道陣にFAXしてもらったらどうかしら?」
「問題ない。事実をすべて記事にまとめる」
「上等じゃない!あのチーム全員刑務所送りにしてやるわ!」
「とりあえず、愚昧の引っ越しとOG達の復興支援で何度か戻るが、青朝比奈さん、青鶴屋さんに昼も一緒に食べませんか?と伝えていただけますか?鶴屋邸に関わる内容を報告しないといけませんので」
「分かりました。テレパシーしておきますね」
朝比奈さんの方にも連絡して現実世界の鶴屋さんも呼ぼう。1セットだけでも試合に出てもらいたいところだしな。

 
 

…To be continued