500年後からの来訪者After Future4-7(163-39)

Last-modified: 2016-10-09 (日) 04:03:21

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-7163-39氏

作品

イタリアの組織からの襲撃も計画が杜撰過ぎて呆れかえってしまい、憤りを感じていた。これ以上末端の連中を放置しておくとアホの谷口が100人いるようなもんだ。ナイフや拳銃を持っただけですぐ強気に出るのはアイツに限ったことではないらしい。だからこそ、殺されてしまったリムジンの運転手たちが報われない。カモラを壊滅させてイタリアの闇を払ってやることにした。ただ一つ、一緒に告知にまわっているヒロインがこの告知が終わったら引退すると心に決め、マネージャーやSPも説得すると言っていること。マネージャーやSPには「ヒロインの精神的ダメージが酷く、襲われたときの記憶を消去した」と伝えてもマネージャーたちが、納得してくれるかどうかは俺にも分からん。だがまずはハルヒや双子がこれ以上寂しがらないようにするのが先決だ。

 

「ただいま」
『キョンパパ!おかえり!!』
「おう、二人とも帰っていたのか。青ハルヒも午前中から準備任せてしまってすまん」
「気にすることないわよ。それより、暴れられるところ見つかったんでしょうね?」
「ああ、あとからみんなで選んでくれ」
子供たちが帰ってくる前から回転寿司用のテーブルに情報結合解除、再結合されていた。青ハルヒが他の魚介類を捌いている間に本マグロの解体に取り掛かった。人事部も含めて社員分20皿、中学生分10皿、本店及び店舗の店員分8皿、ヒロイン&俺とディナーでいない新川さんの分3皿。合計四十一皿か。正直キツイな。まぁ、自分で言い出した手前、少しでも俺が古泉や青ハルヒの負担を減らすしかあるまい。再生包丁をするには影分身では不可能。手立てを考えるよりも手を動かした方が早そうだ。双子は本マグロを捌いている俺の様子をジッと見つめていた。そういえばシャリの用意は……まぁ、青ハルヒなら焚き上がってすぐテレポートしてくるだろう。そのときに子供たちに手伝ってもらえばいい。本マグロを全て解体する頃には、小学校から帰ってきた幸も含めて、シャリを作っている青ハルヒの傍でうちわで扇ぐのを手伝っていた。
「あんたたち、もっと強く扇がないとおいしいお寿司食べられないわよ!!」
青ハルヒも子供たちの扱い方をマスターしたようだ。シャリが出来たところで寿司をどんどん握っていく。子供たちは第二ラウンドに突入していた。第一ラウンドですでに疲れ果てていたが、子供たちの様子見とばかりに経理課から戻ってきた青有希が三人の代わりにうちわを持った。

 

「ああ、来ていたのかね。丁度良かった」
圭一さんと父親がエレベーターから降りてきて俺に一言。手に角二サイズの大きな封筒を携えていた。
「十二月に行うアテレコの脚本が送られてきた。三部入っていたから、おそらくヒロインにも渡して欲しいということで間違いないだろう。どうやら、本当に彼女がアテレコできるのか不安に思っているようだ」
タオルで手を拭いて封筒を受け取った………が、中身を見ずとも自動で伝わってきた。ニュアンスが違いすぎる。すかさずジョンを除く全員分を情報結合して圭一さんに伝えた。
「ニュアンスの違いばかりだったので、修正箇所に赤で直しを入れておきました。こちらから連絡して他の声優にも渡すよう伝えていただけますか?」
「これは驚いた。サイコメトリーと分かっていたとはいえ、封筒を開けずに中身をすべて把握するとは思わなかったよ。すぐに伝えることにしよう」
ジョンの分はサイコメトリーしたからいらないだろ?
『俺のセリフなんて最後の一言、二言しかないだろう。別の人間にやらせてくれ』
あれ?おまえ、そんなこと言ってると後で後悔するぞ?
『後悔?』
科学者役の声優が……………なんだよ。
『何!?本当かそれは!?キョン、俺、サイン貰いにいってもいいか?』
こっちまで恥をかくようなことがなかったらな。あとは本人に直接交渉しろ。
『キョン、それはないだろう。本人に直接交渉しろだなんて、僕だって恥ずかしいんだ。一緒に方法を考えてくれたまえ。それと時間が早く過ぎる方法があったら教えて欲しいんだけどね。どうだい?』
だから、佐々木の真似をしても無駄だ。チクるぞ、まったく。
『おや、どうしたんです?早く握らないと家族の時間が少なくなってしまいますよ?』
「古泉の真似までするようになったのか?おまえは!………って、しまった!」

 

「くっくっ、キミのセリフだけだとどっちが正解なのか分からなかったけれど、彼の表情を見る限りジョンが真似したようだね。彼の真似をする前に誰の真似をしたのか教えてくれないかい?」
「くっくっ、これまでのジョンの言動を鑑みれば容易に想像がつくじゃないか。ハルヒさんの真似というわけでもないんだけどね。どんな罰がいいかキミも考えてくれたまえ」
「『くっくっ、どんな罰かは知らないけれど、僕に通用するとは到底思えない。まぁ、精々頑張って考えてくれたまえ』だとさ」
『ちょっと待て!今のは俺の発言じゃない!!』
くくく……さっきの失態分のお返しだ。全員にジョンのテレパシーが届いたらしいが、佐々木の真似をしていたと認めたようなもんだ。やはりテレパシーだと時間の経過どころか誰が何をしていたのかすら分からん。どうにかならんものか……
「ところで有希、朝倉。デザイン課に配置した五人の書いたデザインはどうだ?」
「昨日の段階で予め確認しておいた書類は本店にいる一人も含めて全員かかせた。採用したいものもいくつかある。アレンジを加えて出したいものもあった」
「明日は本店の一人をデザイン課に呼んで、絵は得意だけどファッションセンスで手が上がらなかった二人を降ろすつもりよ。異世界のデザイン課の募集は15歳からでもOKにしたいくらいだわ」
「凄い。即戦力になるなんて思ってなかった」
「ええ、わたしも彼の目論み通りに事が進んでいてちょっと気にくわないけどね」
「とにかく、黄有希や黄涼子が納得のいくデザインが出てきたのなら、今のうちに内定しておいたらどう?」
「でも、再来年の四月に入ってきたとして、社員として扱ってもいいのかしら?給料も高額で渡すにはちょっと危ないわよ」
「もう一度サイコメトリーしてみればいいでしょう。朝倉さんから中学校を卒業したら来ないか?と声をかけられたとなれば、高校に進学せず、我が社に就職しようとするでしょう」
「何にせよ社員になる場合は保護者同伴で来てもらう必要がありそうだ。そろそろスタートしたいところなんだが、古泉、青ハルヒ、寿司セットの件なんだが、38セットじゃなくて44セット作ってくれるか?」
『44セット!?』
「ちょっとあんた!日本代表の選手の数とほとんど変わらないじゃない!どうして6セットも増えてるのよ!!」
「ディナーに行ってる新川さんの分、まだ店舗にいる青古泉、それから青チームの森さんと裕さんの分、加えて映画のヒロインと俺の分で6セットだ。イタリアでの襲撃で精神的に相当参っていてな。この告知が終わったら引退したいとまで言いだしている状態だ。少しでも英気を養ってもらいたいんだよ。俺以外のハリウッドスターとは行きたくないそうだ。あんなのSPじゃ止められるわけがないとも言っていた。もし映画の告知に行くとしてもイタリアに行くときだけは俺についてきて欲しいなんてことも言っていたが、巻き添えを喰らったのはヒロインの方だからな。今はスウェーデンにいるが、明日以降も何が起きるか分からん。というわけですまないが6セット追加で頼む」

 

「あのアホと同レベルの奴が100人以上もいたんじゃ、いつ何時襲ってくるかも分からんしな。アメリカ支部を攻撃してきた連中でさえ、ほとんどの組織は夜に仕掛けて来たのに、二人がイタリアに着いた早々に行動を起こしていたんじゃ……もう、何を言っていいやら分からん」
「さっさと44セット作って残りの組織潰しに行くわよ!あたし達のせいでハリウッドスターが告知に行けないどころか引退するなんて真似、絶対にさせないんだから!!」
「暴れがいのあるところなんでしょうね!?食べ終わったらすぐに行くわよ!」
「急いでいくこともないから心配いらん。向こうはまだ真昼間だ。潰すなら一味が全員いるときだ。すまんが、本店の服が変わってしまう前に、ハルヒと有希で俺の両親の服の全身コーディネートを頼みたいんだがいいか?寿司を食べ過ぎてお腹が膨れた状態になる前にやっておきたいんだ。今はまだ無理でももう少し痩せたら履けるようなものを選んで欲しい。サイズが合えばそのまま採寸して丈を合わせてもいいはずだ。服が変わってしまった後もできれば今週中にコーディネートを頼みたい」
「分かった。でもわたしたちが戻って来るまで食べ始めないで」
「黄有希さん、古泉君や裕さんは10貫くらいじゃ足りないと思うわよ?黄キョン君が言っていたのはあくまで最低限の量。わたし達も早く食べ終えて店番の交代に行かなくちゃいけないし、黄有希さんが満足するくらいの材料は注文してあるから、そんな心配しなくてもいいわよ」
「わたしの食べる分はちゃんと残しておいて」
俺の両親も納得して下に降りていった。
「すまん、青朝倉。俺の両親のコーディネートのついでに有希のスタートを遅らせようと思っていたんだが、俺だけじゃアイツを止められなかっただろうな。助かったよ」
「でも、交代で夕食を摂るって決めていたんだから三人ともお腹を空かせて待っているかもしれないじゃない!わたしも早く食べて交代してくるわ」
「黄キョン君も朝倉さんも気にする必要はありません。黄キョン君、もう食べ始めてもいいですか?」
「ええ、皆さん食べ始めていただいて構いません」

 

 しばらくと言うには短いと思う程の時間が経過し、ものの見事にフルコーディネートされた両親が姿を現した。
「大体の予想はつくが、どうしてこんなに遅くなったのか聞いていいか?」
「だってあんた、一着だけで毎日食堂になんて立てないでしょ?」
「母さんと一緒だ。毎日同じ服を着ていると女性社員からの印象を悪くしてしまう」
「まったく……品物が入れ替わったらもう一回と言っただろうが!二人揃って自分がちょっとオシャレになったからといっていい気になりやがって……何が『女性社員からの印象を悪くする』だ。二人とも『馬子にも衣装』だよ。今まで貫き通してきたものをそう簡単に変えられるわけがないだろう。ハルヒと有希に謝っておけ!お腹を空かせた状態でこの時間まで付き合わせたんだからな」
両親がハルヒ達に謝罪をしていたところで、青朝倉と交代で青古泉、青有希と交代で青森さんが現れた。
「では、わたくしが交代して参ります。たいへん美味しくいただきました。ご馳走様でした」
青古泉、青森さん、青裕さんが来たところでとりあえず一人前を出し、それでも足りないようならレーンから撮るように伝えた。
「佐々木、すまないが店舗の閉店の時間になったら王子店と赤羽店の社員とアルバイトを連れてきてくれないか?三階の社員食堂の席に座らせて欲しい。俺が寿司とお茶を届けに行く」
「お茶ならわたしが運びます。キョン君は人数分のお寿司を持って行ってください」
「くっくっ、僕はもうお腹がいっぱいだからね。それまでジョンの罰を考えておくことにするよ」
「くっくっ、僕もそれを考えていたんだけど、別のことを考えているときに限って閃くというのはなんとかならないものかと思わないかい?キョン、君を第二シーズンのキーパーソンになってもらいたい」
『キーパーソン!?』
「催眠をかけて美容院のトップスタイリストじゃないのか?」
「いいや、君にはそのまま出てもらう。古泉君の敵役としてね。そうだな……名前をつけるとすれば、アンチサイコメトラーってところかな」
『アンチサイコメトラー?』
「それは興味深いですね。アンチというからにはサイコメトリーの逆ということなんでしょうが、一体どういう役回りなんです?」
「黄朝倉さんたち組織のメンバーに新戦力が加入したと思ってくれればいい。立案した計画を実行に移した後、その殺害現場に乗り込んで遺留品やその他の物に触れ、サイコメトリーできないようにしたり、間違った情報を与えてしまうという役だ。当然それで捜査は混乱、第二シーズンは二話で一つの事件を解決するようにしたい。来年以降も続くとなるとトリックに困ってしまうからね」
「そのアンチサイコメトラーに対して僕や黄朝比奈さんはどのように対処していくことになるんです?」
「最初はサイコメトリーをしても、妙な違和感を感じ取るだけなんだけど、次第に誰かに情報を書き換えられているという疑念を抱くものの、まだ確信は持てない状態。そこへキョンが現れて自分は古泉君よりも優れたサイコメトラーだと名乗り出る。そこからがサイコメトラー同士の対決に繋げていくのさ」

 

「くっくっ、それは興味深いね。ジョンの罰は後まわしにして僕も脚本を練る方にまわりたくなったよ」
「ちなみに、他の芸能プロダクションから呼ぶ俳優は決まったのか?」
「問題ない。四人でドラマを見て目星はつけてある。あとは俳優をどういう役回りにするか決めるだけ」
「ふう、これで社員や中学生たちの分も作り終わりましたし、我々も食べませんか?あなたの分も作りましたが、おそらくヒロインに取られてしまうでしょう」
「そうだな。そうさせてもらうか」
「それより早く組織の情報を教えなさいよ!」
「さっきも言っただろう。マフィアとはいえ、表向きの仕事はしているんだ。ジョンの世界を途中で抜け出すことになるだろう」
「でも、誰がどこに行くか決めるだけでもいいんじゃないかしら?」
「じゃあ、この中で暴れたい奴は?」
挙手したのはWハルヒ、青俺、有希、W古泉、朝倉の計七人。
「よし、今から番号をふって情報を渡すから何番の組織のところに行きたいか決めてくれ」
末端組織から得た情報を整理して七人に渡したが、どうせ一番大きなところを希望する奴がいるに決まっている。Wハルヒ、有希、朝倉、古泉が同じ場所を選んだ。
「こうなったらじゃんけんで勝負よ!」
「ちょっと待った。ただでさえ戦闘経験の豊富なメンバーが集まっているんだ。このメンバーがじゃんけんで決めようとすると直前に何を出すか読み取れてしまう。朝倉は知らないが、ここはSOS団らしいやり方で決定する」
『SOS団らしい決め方?』
「毎週のようにやっていた決め方だよ」

 

 これだけヒントを与えているのに、誰も見当がつかないと言いたげな顔をしていた。それが何なのか、見ればすぐに思い出すだろう。情報結合して五人の前に見せた。
「なるほど、我々らしい決め方とはこのことでしたか!」
「色のついたものをひいた奴が当たりだ」
「面白いじゃない!透視能力で見るなんて卑怯な真似したら、ただじゃおかないわよ!?」
「いいからさっさと一本選べ」
俺が提示したのは五本の爪楊枝。高校三年生になる直前まで毎週のようにこれでチームを決めていた。五人が自分の選んだ爪楊枝を掴むと、色のついた爪楊枝を引き当てたのは古泉。てっきり有希かWハルヒあたりと踏んでいたんだが、まぁいいだろう。その後も残ったものの中で一番大きな組織をと結局爪楊枝で決めることになってしまった。
「くくく……ハルヒ達が一番大きいところに行きたがると思って二番目に大きいところにしておいたが、どうやら正解だったようだな。思う存分暴れてくることにするよ」
「あーもう!次こそ一番大きな組織に行ってやるんだから!!」
俺もそろそろ食べることにしようと思ったところで双子にそれを阻害された。
『キョンパパ、みんなでお風呂入りたい!』
「お風呂はいいが、俺はお寿司を作ってばっかりでお腹が空いてるんだ。二人はもうお腹いっぱい食べただろうが有希お姉ちゃんもまだ食べてるし、もう少し待ってくれ」
『ぶー…分かったわよ』
「パパ、わたしもお風呂一緒に入りたい!」
「それはいいが、ママを待ってないといけなくなるぞ?」
「じゃあ織姫と一緒に入る!伊織パパ、わたしもお風呂入りたい!」
「俺が食べ終わった後で良ければいいぞ」
「いいのか?混ぜてもらって……」
「一人増えたところで大して変わらん」
『みんなでお風呂!みんなでお風呂!』
やれやれ、お風呂に入る前に寝てしまわなければいいんだが……

 

 俺、古泉、青ハルヒが食べ始めたところで、朝比奈さんからお茶を配られた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。朝比奈さんも席に着いて食べてください。ただ、有希の隣じゃレーンに並んでいる寿司がすべて取られかねないので青チーム側の席でどうですか?」
「そうですね。そうさせてください」
「じゃあ僕がレーンに寿司を乗せる役にまわることにする。ジョンへの罰も大体決まったし、あとは探すだけだからね」
『キョンが言ったセリフじゃないが、俺に対する罰って一体何だ?ほとんど通用しないぞ』
俺にもまだ分からんが、大体の察しはつく。これ以上考えるとジョンに伝わってしまいかねないから考えないことにしよう。森さん達は食事が済んだところでイタリア支部へという話になったものの、イタリアは深夜零時を回ったばかり。そんな時間にかけてこようとする報道陣はいないはずだからと説明すると自室に戻ると告げてエレベーターに乗っていった。ただ、時間になったらすぐ起きられるようにジョンの世界に行くとの事。ハルヒ達も一緒に行けばいいだろう。前回作った牢獄にテレポートするようジョンの世界で伝えることにしよう。
「ところで青俺、倉庫で働いている人の昼食はどうしているんだ?」
「最初は弁当やコンビニで買ってきたものが主だったが、何人かで作ったものを皆で食べようという話になった。有希には料理を作って皿を片づけている人達に昼の分の給料も出るように伝えてある。黄俺があそこに揃えたものと同じ調味料が揃っているから、あとはその中の一人が買い物をする担当になった。今後はその人に鍵を渡して運営を任せることになりそうだ」
「展開が早いな。もうそこまでになったのか」
『キョン(伊織)パパ、早くお風呂!!』
「分かったって。そう急かすなよ」

 

 結局子供たちに急かされてハルヒ達は遅れて入ってくることになった。朝比奈さんには王子店、赤羽店の社員やアルバイトにお茶を振る舞ってもらわないといけないし、キューブから出すのは佐々木に任せることになった。ついでに店長に客のいる前で大声を出さないように声かけをしておいてくれと伝言を頼んでおいた。子供たち三人が出る前に朝比奈さんが来られると良いんだが。ようやく脱衣所のドア越しに脱衣所で服を脱いでいる三人のシルエットが写り、子供たちも湯船の外から三人が来るのを待っていた。
「待たせたわね、あんた達のぼせてたりしないでしょうね!?」
『問題ない!』
子供たちは問題ないだろうが、有希が不機嫌そうにしていた。満腹になるまで食べられずに急かされたか、そこまで残って無かったかのどちらかだろうと確信に似たものを感じていたのだが、いざ湯船に入ってくると、俺の両腕にハルヒと有希がからみつき、正面から朝比奈さんのダイナマイトバディが俺の胸に直撃。有希が不機嫌そうにしていた理由が判明したが、刺激が強すぎて分身が更にでかくなろうともがいている。更にでかくなるのは閉鎖空間と子供たちの身長だけで十分なんだが……朝比奈さんにもそれがバレていた。
『そんなに刺激が強かったんですか?でも、キョン君に満足してもらえてわたしも嬉しいです』
やれやれ、一夫多妻制を採用したいよ、まったく。だが、さっきの青佐々木の閃きではないが、俺も名案を思いついた。前回と同様三人がリタイアして風呂から上がると、影分身を一体作り、服を着て子供たちの元へ。
「やっぱり今日は三人で寝たい。二人のベッドで俺も寝させてくれ」
『キョンパパ、それホント!?わたしもハルヒママみたいにしたい!』
ハルヒママみたいにって何のことかと思ったら、子供たちのベッドで横になると、二人で両サイドから俺の腕に抱きついてきていた。電気も消したし、本体とハルヒ達が上がる頃には子供たちも寝ているだろう。

 

「キョン、あれ一体どういうこと?」
「意識の一割を影分身させて双子の部屋で三人で寝ようと提案した。いくらダブルベッドで、子供たちがまだ小さいからといっても六人で寝るには狭すぎる。それとな、ハルヒや有希も正面から抱きつくことができる方法を思いついた」
残り九割の意識を三分割して影分身をさらに二体用意した。
『二人ともこっちに来いよ』
眼の色を変えたハルヒと有希が両腕から離れ、影分身した俺に正面から抱きつく。その分空いた両腕で朝比奈さんのお尻を鷲掴み、朝比奈さんの身体を上下に動かし始める。豊満な胸とお尻の弾力の違いが全然分からない。
「えっ、キョン君、ここで?」
「嫌なら止めますけど?」
何も返答は無かったが拒絶してくる気配は無い。それどころか朝比奈さん自ら動き出している。それを見たハルヒも似たような行動を始め、有希に至ってはすでに子供たちに聞こえてもおかしくないほどの声を出している。これだけの声量があるのなら、いつもこのくらいで話せばいいのに。
「んもう!水が邪魔なのよ邪魔!」
水が動きを妨げているらしい。栓を抜くと、水位がどんどん下がっていく。それに反比例してハルヒ達の動きも段々と激しくなっていった。一番に声を荒げたのは朝比奈さん。上半身が弛緩して豊満な胸を押し潰すかのように俺の方へと倒れてきた。つい先日似たようなことがあったような気がするが……まぁ、いいか。

 

 ハルヒや有希も同様に倒れこむように俺に身体を預けてきた。余韻に浸っていた三人を抱きしめていると、朝比奈さんがようやく口を開いた。
「ハルヒさん、一夫多妻制を認めてもらえませんか?わたしは未来人ですから、キョン君との間に子供を産むのは禁則に該当します。でも、この世界の戸籍上は、キョン君の妻はハルヒさんと青有希さんの二人になっていて、もう一夫二妻になっています。佐々木さんたちだって、自分の存在意義を満たすためにキョン君と……って言ってました。青佐々木さんの場合は異世界で戸籍登録をすれば………いえ、有希さんに戸籍を書き換えてもらえば、この世界でも……」
「わたしもそれがいい。双子からは姉で構わない。でも戸籍上は妻になりたい。わたしもヒューマノイドインターフェース。人間と同じように作られていても妊娠はできない。子供ができるとしたら、彼女たちだけ」
「みんなキョン君のこと一人占めしたいって思ってます。それに、キョン君。わたしのこと、バレーと同じように呼び捨てで呼んでくれませんか?ハルヒさんも有希さんも名前で呼び捨てなのに、わたしだけ苗字で『朝比奈さん』なんて嫌です!みんなにはわたしから説明しますから」
「でもENOZと一緒で年上の人を相手に呼び捨てなんて……」
「キョン君、わたしの本当の年齢について考えたことありますか?未来人として未来からやってきて情報操作されて高校二年生からスタートしました。未来の教科書は高校生が大学で学ぶような内容もやってるんです。ジョンだってそうだったはずです」
そういや、高校一年生で習うものなんてジョンからすれば基本中の基本で、俺が間違った答えを書くたびに大笑いされていたな。ということは何か?『たった一つの時間平面上に赴く、見た目は可愛い、頭脳は大人』ってことか?
「わかった。本当の年齢については問わないが、今後は呼び捨てにしよう。敬語もやめたほうがいいんだろ?だがな、みくる。青チームのおまえはどうするんだ?」
「嬉しい。キョン君がバレー以外でみくるって呼んでくれました。わたしも青チームのわたしも同じ考えでいるはずです。同い年のつもりで声をかけて欲しいです」
「有希、あんた本当に戸籍を弄ることができるんでしょうね?」
「問題ない」
「しょうがないわね。認めてあげるわよ。今でさえこうやってあんた達と一緒にキョンに抱かれているんだから。また双子がみんなでお風呂なんて言いかねないし。その代わり、あたしとの時間を一番長くしなさいよ!?」
「ハルヒにそうやって言われなくても分かっているから安心しろ」
 風呂から上がって、布団の上で三人が満足するまでさっきの続きをしていた。ハルヒと有希が俺の両腕を枕にすると、みくるは影分身の片腕に頭を乗せ、空いた方の手で髪を撫でていた。
「一人だけずるい」
「さっきも説明しただろ?ダブルベッドで六人は狭すぎる。今日はみくるの順番なんだろ?」
「問題ない。ベッドを大きくすればそれで済む」
そういや、その発想はなかったな。すかさず高速詠唱するとベッドが拡大されていく。いくらフロアすべて俺とハルヒの部屋とはいえ、ベッドだけでどれだけのスペースを取っているんだか。明日の朝になれば、『キョンパパとハルヒママのベッドが変!』なんて言いかねない。双子と一緒に寝ていた影分身をこちらに戻して有希を腕枕。不満そうにしているハルヒに説明をしておいた。
「心配するな。いくら影分身でも本体は必ずハルヒと一緒だ。影分身を解けばここにいる俺しか残らない」
「これからもずっとそうしなさいよ!でないと一夫多妻制は白紙に戻すからね!」
「ああ、ようやくまともに寝られる日ができたよ。今夜ほど癒された時間はない。おやすみ」
『おやすみなさい』

 

三人からのキスを受けてジョンの世界へと足を踏み入れた。ヒロインと二人でゆっくり寿司を食べている時間はある。ハルヒ達はそのまま寝るだろうから、来るまでにもう少し時間がかかるだろう。社員分のクジが入ったBOXを情報結合すると、先ほど用意するのを忘れていた野菜スティックとノンドレッシングサラダの準備に取り掛かった。風呂とベッドで三人の相手をするのに随分時間を使ったからな。他のメンバーは全員揃っていた。佐々木はアンダースローの練習をしていた。ジョンの罰はどうなったんだ?と聞く前に、もう執行されたということが良く分かった。あまり思い出したくないが、アホの谷口と藤原のバカが結託して店舗にトラックで突撃したときのこと。警察に捕まって牢獄に入れられていたときのあのアホとほとんど変わらん。座ったまま呆然としていた。後から泣きついてきそうだが今は放っておこう。おっと、寿司のことで頭がいっぱいで明日のヒロインの昼食のことを考えていなかった。すぐに準備しないとな。
『キョン、あんな動画が世に出回っているのか!?』
「あんな動画って何のことだ?」
『キョンが高校一年生のときに朝比奈みくる主演の映画とほぼ同じくらいの駄作を見せられた。いくらドリームマッチでも原作をあそこまで弄るなんて酷過ぎる。○ディッツやナ○パの超サ○ヤ人化はいいがク○リンまで超サ○ヤ人になるなんてありえない。それになんなんだ?あの超サ○ヤ人10って。化け物以外の何物でもないじゃないか!超サ○ヤ人ゴッドの方がまだマシだ!!原作者が関わっているド○ゴンボール超なら俺が文句を言うことはないが勝手に話を広げる奴は俺が許さん!』
やれやれ、ハルヒやみくるがいなくてよかったぞ。俺も古泉も駄作だと感じているが、言葉にするとさすがにハルヒが傷つく。あの頃の自分に対して後悔の念を抱いているんだからな。
「おまえも知っての通り500年後まで続くほどの人気作だからな。セ○編で終わる筈だったのに編集長がもう少し延ばしてくれと言っていた程なんだ。今でさえこれなんだから、ジョンの時間平面上の方がもっと酷い事になっているはずだぞ?」
『俺が全巻揃えたものですら、ボロボロの状態で購入したんだ。所々紙は黄ばんでいるし、破れているところもあるが本当に面白かったんだ!世間では過去の遺物扱いされていたが、俺にとってはあのマンガが一番なんだ!!この胸糞悪い動画をアップしている奴のパソコンのデータを片っ端から粉々にしてやる!』
有希並のスピードでアップしている奴を特定してそいつのパソコンをお釈迦にしてしまいそうだな。放心していたジョンがすかさずリクライニングルームに入ってしまった。青ハルヒと青俺の投球でバッティング練習をしているが、ジョンが閉じこもってしまった以上、有希に超光速球を投げてもらうしかなさそうだ。

 

 ようやくハルヒ達が到着し、みくるには明日のクジの配布の件を話し、俺とヒロインのお茶を煎れてもらった。お茶が冷めないうちに持って行くことにしよう。こぼれるような事の無いように膜を張ると、ジョンの世界から抜け出して影分身を解除。81階に昼食の仕込みとクジで当たった分、クジの入ったボックスをおいてヒロインの自宅へとテレポート。一人で眠っていたヒロインの眠気を取って椅子に座って待っていた。ハルヒ達が暴れまわる頃に死体は一体たりとも残さず塵にしろとジョンに伝えてもらえばいい。一人ずつテレポートしていたんじゃエネルギーが尽きてしまう。あとは、記憶操作した件をマネージャーにどう話したものか……素直に話して対策を立ててもらうことにするか。みくるのお茶の匂いにつられたのかどうかは分からんが、ヒロインがようやく眼を覚ました。
「あっ、キョン!お帰りなさい。だけど、遅いわよ!!ずっと待ってたのに………それにしても、いい香りね…何の匂い?」
「それは、すまない。だが、明日はずっと傍にいてやれる。これは、お茶の匂いだ。年越しパーティのときに寿司と一緒に振舞うと話していたものだ。そして、これがお寿司だ」
「本マグロだけじゃなくて色んな種類があるのね。これは、海老?こっちはイカかしら?」
「その通り。あとは鯛やサーモン、玉子に…こっちはいくらとウニだ。こうやって海苔で巻くのを軍艦巻きって言ってな。軍艦の形をしているからそう呼ばれてる。海老も含めて、食材をそのまま乗せただけのいくらやウニじゃそこまで美味しいとは思わないかもしれないが食べてみてくれ。もっと欲しければ俺のところから取ってもいい。俺はこのお茶で十分なくらいだからな」
「このピンクっぽい色のものは何?」
「ガリって言ってな。生姜をスライスしてアレンジしたものだ。口の中を一度リセットしたいときに食べるものなんだが、好みに合わなければ食べなくても平気だ」
「色とりどりでどれから食べようか迷っちゃいそうね。あなたが言っていたものから食べてみようかしら?」
どれを食べようかと箸を動かしながら考えていたが、結局、甘エビを掴んで口に入れた。
「何よこれ、確かに海老の方はそこまで美味しいとは思えないけど、ご飯が何でこんなに美味しいの!?」
「全部サイコメトリー能力だよ。米一粒一粒にどうしたら美味しいご飯になるかを聞いて、それを実践したんだ」
「じゃあ、次はウニ!」
ウニ、いくらと食べ進めて鯛を口にした瞬間、ヒロインが固まった。
「あなたの言っていたことが良く分かったわ。ただ乗せただけのものはご飯しか美味しいと思わなかったけど、あなたが捌いただけでこんなに美味しくなるの?」
「旨味を最大限に引き出すやり方で切ったからな。本当はこんなに美味しいのに、俺たち以外の人間はそれを全て無駄にしてしまっている。高級料理店でも質の良いものを使っているだけであって、その食材を最大限まで引き出すことはできていないってことだ」
「どんなに高級なホテルやレストランの料理を食べても、あなたの味には勝てないと思っていたのはそのせいだったのね」

 

 本マグロの踊り食いに前と同じ反応を示していたものの、ウニ、いくら、海老以外は俺の分のものもペロリと平らげてしまった。みくるのお茶を啜りながら、はぁと息をはいて満足感を得ることができたようだ。
「このお茶も美味しいわね。あなたが毎日でも飲みたいって言っていたのがよくわかったわ。年末のパーティが楽しみね。どんな人が煎れてくれるの?」
情報結合した冊子に載っていたみくるを指差した。
「彼女が煎れてくれたんだ。パーティに一緒に行って、ハリウッドスター達にお茶を振る舞って欲しいと伝えたんだが、ハルヒですら最初は周りにいるハリウッドスター達と何を話していいのか分からず、持っていたカクテルグラスも震えていたくらいなのに、そんな会場に自分が行けるわけがないと拒否されて……その話をしただけでプレッシャーを感じていたほどだから、ハルヒとも相談したんだが、当日は、日本で煎れてもらったお茶を俺がテレポートして持ってこようかと思ってる」
「こんな可愛い子があなたの仲間なんだ……みんなあなたの料理を食べているんでしょ?」
「冊子の中に掲載されている一部の人間だけだ。他は我が社の社員。今食べた寿司を明日の昼食で社員と職場体験中の生徒にも食べさせるつもりだ。社員の方はくじ引きで当たればだけどな」
「そんなにたくさん作ってたの!?」
「披露試写会のときに料理を作ってくれた古泉ってヤツとハルヒと俺の三人がかりで44セット。社員20人分、生徒10人分、生徒が行っている店舗のスタッフ8人分、あとはここの二つと仕事を入れ替わりで入るメンバーの分だ」
「ちょっと待ってよ、あなたの仲間の分がないじゃない!」
「その44セットに加えてメンバーの分も作っていた。回転寿司って言ってな。好きな物を取って食べることができるシステムがあるんだ。そこに並べて好きな物を食べていたよ」
「そんなにお寿司を作って家族の時間までとっていたんじゃ遅くなって当然ね。さっきは文句言っちゃってごめんなさい。そろそろ行きましょ!」
「気にするな。今夜は二人っきりの時間を過ごすことにしよう」
「そんなこと言われたら待ちきれなくなっちゃうわよ」

 
 

…To be continued