500年後からの来訪者After Future5-16(163-39)

Last-modified: 2016-10-23 (日) 06:56:50

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-16163-39氏

作品

青OGの性癖が暴露され、北高の文芸部室にあるみくる専用の椅子も、青古泉も、女性陣が多かったせいもあってかこれまでの予想をはるかに下回る性癖に正直鼻で笑いたくなったのだが、みくるのセカンドシーズンでのピアスもハルヒに似合うであろうネックレスも案としてはいいものが挙がり、佐々木たちの研究もようやく一歩前進することができた。たまには報道陣にもきっちりと謝罪させようと有希に一面の差し替えを頼んだのだが、どこも器は小さくプライドは大きいというアホの谷口と同レベルばかり。だが、それもようやく動きを見せ始めた。野菜スイーツ食べ放題ディナーもいよいよ終盤。81階で自分たちの出番を待つ女性陣が少しでも早い時間の経過を願っていた。

 

 古泉が用意したディナーもすべて配膳を終え、料理に満足した監督やコーチ陣が最初に席を立った。ここまではこちらの予想通り。高タンパクな分、寿司のように胃で消化の時間がかかり、短時間で腹が膨れてしまうはずなのだが、甘いものは別腹というのはアスリートだろうが関係ないらしい。
「ところでシャミセン。おまえ、野菜スイーツ食べてみるか?」
『野菜スイーツ?どんなものかは分からないけど、食べてみようかな』
「じゃあ、あとで俺たちと一緒に行こう。モニターを見ながら気になったものを今のうちに選んでおけ」
『そんなに沢山あるの?僕にも見せてくれないかい?』
コイツだけ別のカメラで野菜スイーツだけ映したものを見せることにしよう。指を鳴らすとシャミセンの目の前にモニターが現れた。視線がモニターのあちこちに向いている。
『どれも美味しそうだね。いくつ食べていいの?』
「食べられるならいくつでもいいぞ。あまり一気に選び過ぎると食べきれなくなるから注意しろよ?」
『分かった。考えておくよ』
「キョン、僕たちが食べる分が更に減ってしまうじゃないか。僕の食べたい物がなくなってしまうよ」
「夕食も食べているし、コイツは雄だ。胃袋もそこまで大きくないから心配する必要はない」

 

選手が一人、二人と席を立ってエレベーターに乗っていくと、次第にその人数が増え、OGたちも古泉たちの片付けを手伝うようになってきた。専用エレベーターに乗ったかと思うと、しばしの間をおいて81階に姿を現した。『夕食の片付けにきました!』
「くっくっ、それはありがたい。これで僕たちも心おきなくスイーツを食べられそうだ」
「さっきの韓国料理も、スイーツに対する発言も含めて、おまえ、いつからそんなに食べるようになったんだ?ジョンの世界でバレーに励んでいるとはいえ、大丈夫だろうな?」
「美味しいものを目の前にして我慢しろと言う方が無茶だとは思わないかい?特にキミのオリジナル料理となれば尚更だよ。それに、二人分の栄養を取る必要が出てきたのかもしれない。これについての確証は持てないけどね」
「まだ二ヶ月も経ってないのにそれはないんじゃないか?」
「くっくっ、どうやら僕たちの番のようだ。黄古泉君がテレポートで皿を片づけているよ」
「残り全部あたしたちで食べつくすわよ!」
『問題ない』
シャミセンも含めた全員でテレポート。シャミセンを抱えて二つほど選ばせると、小皿に盛ってシャミセンの前へと置いた。先ほどのOGと同様、個数制限なしということもあり、小皿にスイーツが山のように積まれていた。それでもまだ残っているんだから、今回も作り過ぎたか?ヒロインの分として10種類ほど選びテレポートしておいた。
『野菜スイーツってこんなに美味しいの!?もっと食べてもいいかい?』
「まだたくさん残っているから好きなだけ食べていいぞ。その代わり、あとからお腹壊すなよ?」
『さっき夕食を食べたばっかりなのに、もうお腹が鳴っているよ。色々食べてみたいな』
どうやら、シャミセンの世話役を務めることになりそうだ。自分でシャミセンに声をかけたんだから仕方がない。

 

 燃費の悪い同位体と言われても仕方のない程の胃袋の持ち主がいて余るはずもなく、シャミセンも七個をペロリと平らげた。OGが片付け作業をしてくれているが、81階のものならまだしも、今回のスイーツのための食器類はすべて今日だけのために情報結合したものに過ぎない。全て無くなった時点で情報結合を解除すると、元の社員食堂の状態に戻っていた。
「おかしいね、満足しているはずなのに、まだ食べたいと思うのはどうしてなのか説明してくれたまえ」
「説明する必要もないだろうが。『まだ』じゃなくて『また食べたい』だろ?告知が終わったら作ってやるよ」
「カレーも作って」
「あ、わたしも」
「どっちも告知が終わってからな。そろそろ部屋に戻って休もう。子供たちは特にな。明日、明後日と練習も試合も出るんだろ?」
『問題ない!』
前回の食べ放題とは違い、栄養のバランス的に考えれば逆に丁度いいくらいだ。マッサージ中に『食べ過ぎて気持ちが悪い』などと言う奴がいるかと思ったがそれもどうやら杞憂に終わった。
「キョン、結局、記憶は末梢したの?」
「いや、特に末梢すべきものでもなかったし、それで俺自身に影響が出ているわけでもない。それ以外の情報をサイコメトリーしたときに、頭の中がパンクしそうなら消そうかと思っている程度だ」
「あ、あのさ……後ろってそんなに気持ちいいの?二人が丸一日ダウンしちゃうくらいだったんでしょ?」
「アイツは別格だが、ハルヒたちも今みたいに半信半疑で俺に提案してきて、実際に体感してみたら良かったってだけだ。影分身じゃ入り込めないところまで責めるから、こんな体験他じゃできない。初体験した後すぐ後ろの方はどんな感じなのか気になって顔を真っ赤にしていた奴もいるくらいだ。試しにやってみるか?」
「えっ!?初体験した後すぐってことは、私たち六人の中の誰かってこと!?」
「誰かまではまだ内緒だ。そのうち本人がみんなに見せてもいいと言えば、見られるはずだ。当分無理だろうがな」
「そんなに恥ずかしかったんだ……でも、今みたいに誰にも見られないなら私も体験してみたい」
「ハルヒたちみたいに限界を超えてまで続けようとするなよ?やろうと思えば毎日でもできるんだ」
「うん、さすがにダウンして起きてこられないなんて恥ずかしくてできない。でも、毎日お願いすることになるかもしれない。ねぇ、キョン。私も変態なのかな?」
「目の前であんなものを見せられて気にならない方がおかしい。人がやっているのを見て、自分もやりたくなるなんて良くあることだ。別にこれに限ったことじゃない」
「青私のセリフじゃないけど、キョン、優しすぎるよ。みくる先輩たちが一夫多妻制のこと切り出したのが良く分かった。私もチャペルまで連れて行ってくれるの?」
「そうしたいところなんだが……零式を抜きにしても、青チームとまだ実力に差があり過ぎる。それでどうしようか迷っているところだ。午後だけ試合を抜けて、ポルシェに乗って全速力で向かうことになるかな。ただ、二人は初めて行くチャペルだから、道中の景色も見て欲しいと思っている」
「嬉しい。そこまで考えてくれているんだ。私は全速力でもいい。早くチャペルに行ってみたい」
「なら来週の月曜日だな。明日の昼食の支度とそれが終わったらコンサート後にやる打ち上げの仕込みもあるし、みくるのピアスも含めて、日曜の朝にはネックレスを四人に渡したいと思っている」
「あんなに悩んでいたのにもうデザインが決まったの?」
「青古泉から貰った情報もあったからかもしれん。だが、これで青チームとの区別がつくようになる」
「みんなどんなネックレスになるんだろ。私も楽しみ。キョンお願い、今日は時間を忘れさせて?」
「初体験した感想、後で聞くから考えておけよ?」

 

 身体を痙攣させ余韻に浸るルーティンワークを繰り返すこと数回、息を荒げた状態で身体が震えている。俺の分身と尻尾は秘部の奥に身を潜めたまま嫁が落ち着くのを待っていた。十分満足しているようだし、今日はここまでだな。呼吸が落ち着くと「どうだ?感想は?」と聞く前に口角が上がり、笑いながら話しだした。
「ふふっ……キョキョロット」
「はぁ?」
「だって、宇宙人にしか見えないんだもん。尻尾なんて生やして……影分身じゃ入り込めないところまでっていうのが良く分かった。またテレポートしたの?」
「いや、毎回テレポートじゃもう面倒なんでな。必要な栄養素を絞りだしたところまで行ったら自動でテレポートするように、膜を張ってある。尻尾が入り込んだのはその手前までだ。超サ○ヤ人もスカ○ターも影分身もそうだが、これも漫画の実写化の一つだ。青ハルヒに『こんな漫画、一体どこにあるのよ?』なんて聞かれたが、中学の男子生徒が興味を示すような代物でな。少女漫画じゃ、抱き合っているシーンが無い漫画の方が少なくなってきているって話らしいが、流石にこんなものはないだろ?最初はすべて触手で責めてみたんだが、有希や青佐々木が『抱かれている気分にならない』なんて言い出したから、その一回だけで止めて、その代案として出てきたのがこれだ。確かに、尻尾生やしてスカ○ターをつけて超サ○ヤ人に変身すれば、宇宙人扱いされてもおかしくないな」
「道理で……トイレに行く回数が少なくなったと思った。ずっと便秘だって思っていたけど、何も無いんじゃ当たり前だよね。もう!それならそうと私にもすぐに教えてよ!」
「ん?まぁ、やっておいて損は無いだろうと思って付けていただけだ。話したら話したで嫌がるかもしれんからな。俺が強要するようなことはしたくなかっただけだ。それで?初体験の感想は?」
「キョンなら分かるでしょ!?私にこれ以上言わせないでよ、恥ずかしいな……」
「じゃあ、今日はこれで休もう。次からは両方だな」
「繋がったまま寝させて」
「随分甘えられるようになったもんだ。他のメンバーと口調が違っていても、そこまで違和感を持ってないみたいだし。ようやく緊張感がほぐれて、おまえの可愛らしいところが見られるようになった気がするよ。これからも好きなだけ甘えてこい。可能な限り叶えてやるから」
「じゃあ、腕枕!それに、指輪やネックレスにあったピアスが欲しい!キョンがデザインしてくれたのがいい!」
「その指輪とネックレスに合ったピアスならすぐにでも作れそうだ。しかし………そうすると他のメンバーも同じことを言い出しそうだな。ハルヒ辺りは特に」
「本当!?私のピアス作ってくれるの!?」
だから、こんなところで嘘をついてどうする……といつもなら言うんだが、言っても効果がなさそうだ。
「ああ、本当だ。日曜の朝に他の奴のネックレスと一緒に渡してやるよ」
「キョン、おやすみなさい」
キスをされてから額を俺の胸にあてた。ジョンの世界にテレポートで行ったのか、俺なんかの腕枕ぐらいでそんなに寝やすいのかは知らんが、しばしの間もしないうちに寝息を立てていた。こんな満足気な顔で寝られたんじゃこっちが恥ずかしくなってくる。

 

 昨日の新聞記事を受けて記者会見を開いて社長が謝罪、懲役の軽減を懇願したのが日テレのみ。他はこれまでの新聞社社長と同様だ。「じゃあ、おまえらのところはどうなんだ!?」と言いたげな顔で周りの連中を見ていた。もっとも、その発言をした時点で叩かれるけどな。こういうときは社員には何の被害も出ないところがいい。しつこいというデメリットも加わるのが難点だがな。
『昨日食べ過ぎたみたいだ。朝ご飯のいい匂いが鼻をくすぐるんだけど、ちょっと食べられそうにないよ』
「だったら、このまま取っておこう。今日は俺がずっとここにいるからお腹が空いたら俺に言え。昼食はその分少なめにしておいてやる。野菜スイーツだから健康にはいいんだ。胃が消化してくれるのを待った方がいいだろう」
『分かった。食べたくなったらキミに言えばいいんだね?』
「ああ、それでいい」
シャミセンの分の朝食を現状維持してキューブ化。これなら冷蔵庫に入れる必要もない。
「くっくっ、新メンバーとして国木田君が加わったとしか思えないよ。それに、僕も彼と同じ気分なんだ。どうしたらいいか教えてくれたまえ。彼と違って僕は明日のコンサートのための練習をしなくちゃならない」
「だったら僕が代わりに出ようじゃないか。今日は夜からリハーサルもあるんだろう?そのときに黄僕が出ればいい。キョンとドライブに出かけたときに掴んだヒントとやらをもう少し具体化しておいてくれたまえ。今後も交代することが十分ありえるんだからね。特に僕たちの世界の野球の試合となれば尚更だ」
「やれやれ、今度は催眠無しで出たいくらいだよ。あの布陣に対抗する策はすべて出しつくしてしまったからね」
「おまえもバントじゃなくてバッティング練習をすればいい。レフトまで届くようになればあの布陣を出しぬけるんだからな。ところで、過去の俺と佐々木がいつ来るかは聞いているか?過去のみくると連絡を取ったような話をしていただろう?」
「打ちあげも含めて、夕食から翌朝の朝食まで頼みたいそうだ。六人ともね」
「おまえ、また余計な情報を口走ったんじゃなかろうな!?過去のおまえがマッサージを体験したいといいだしても俺はやらんぞ?エネルギーが尽きてサイコメトリー出来なくなった時点でアウトだからな」
『一度くらいはいいだろう?過去の僕にも堪能させてくれたまえ』
「その一度のせいではまってしまった奴のセリフか?二日いないだけで満足に寝られないなんて言っていただろうが!代わりに二人のうち一人は自分の部屋で風呂に入ってもらうぞ!?」
『うん、それ、無理』
「堂々と朝倉の真似しながら主張するな!駄目なものは駄目だ!」

 

「んー…、だったら俺が今持っている美姫の力の半分を渡したらどうだ?どの道全部持っていても危険なだけだ。それに、あの時間平面上の急進派が逃げるかもしれないんだろ?ジョン達を助けたときは黄ハルヒの力の三割も使わずに涼宮体を三体同時に相手にしていたのなら、半分渡しても俺も闘えるし、どちらも情報爆発は起こせない」
「問題ない。そのときはすぐに同期して連絡がくることになっている。過去の涼宮ハルヒにその力が渡れば、彼女本来の力が復活する恐れがある。その案は推奨できない」
「ついでにあの六人を甘やかすことになりかねん。あいつらにとっては嬉しい申し出かもしれんが、俺たちのような発展の仕方は過去ハルヒが望まないはずだ。『あんた達の真似をするだけじゃ、面白くも何ともないわ!』なんてセリフがすぐにでも飛んでくるだろう」
「フフン、流石あたしの夫なだけあるわね!過去のあたしのこともよく分かっているじゃない!」
「しかし、同期する前に過去の我々に取り付けた閉鎖空間が涼宮体によって破られなければいいのですが……」
「ジョンも見てくれているし、そこまで悩む程のことでもない。すぐに闘えるようにしておけばいいだけの話だ。とにかく、スイートルームに泊めることはあっても100階に呼ぶことは絶対にない」
「そうですね、いくら過去の黄古泉君でも、裸を見られるのはわたしもちょっと……」
「プッ……ふふっ……」
『どうしたの?いきなり……』
「みくる先輩たちの裸を見られる前に、多分、過去のハルヒ先輩が一番に声を上げると思ったら笑えちゃって……尻尾の生えた状態のキョンを見て『あんた、いつから宇宙人になったのよ!』なんてハルヒ先輩に言われそう。それに、過去の私たちが青チームの私たちと同じ状況にあるのなら、人材に困っていたら引き抜いて欲しいなって」
『あ~なるほど!』
「あのな、頼むから半分以上のメンバーが訳が分からない顔をするようなことは言わんでくれ」
『キョンパパの尻尾?』
「ほれみろ、こうなるだろうが!」
「しかし、彼女の言う通り異世界の彼女たちと同じ状況で異世界支部と同様人材が足りないという現状であるならば、引き抜いてもいいかもしれません。その際は過去のハルヒさんに説明して、この六人が過去の時間平面上に向かう必要があるでしょう。未来から来たと受け入れてくれるかどうかは分かりませんけどね」

 

「異世界から来たならまだいいけど、何年後から来たって言わなきゃいけないのは嫌かも…」
「でも、ここまで仕事でストレス溜めているんだよ?青チームの私たちと同じ就職先についている可能性だって高いし、何とかしてあげたいと思わない?」
「んー…場合によってはより酷くなる可能性がありそうだ」
「青キョン先輩、それってどういうことですか!?」
「過去の黄俺と別離しているってところが問題なんだ。抑える人間のいない過去の黄ハルヒじゃ、どんな難題を振られるか分かったもんじゃない。森さんの話じゃ過去の黄古泉だって高校時代と変わらないって言ってたし、抑える側の人間が過去の黄有希一人じゃあな。向こうは俺たちが何をやっているか知っているが、こっちは過去で何をやっているのか一切情報が漏れてこないんだ。そう上手く店舗の店員やビラ配りなんてことになるとは思えん」
『ちょっとあんた!それどういう意味よ!』
「そのままの意味でまず間違いない。青俺の言う通り、森さんが過去古泉を見て高校時代の古泉を思い出したと言っていたのと同じだ。大学生になった過去ハルヒを見て、なんでこんなに高校一年生の頃の名残りが残っているのか不思議だったからな。俺も推奨しない………というより、みくるが絶対にダメだと言い張る」
「そうですね。未来人が過去を変える禁則事項に該当します。未来の法律ではそれは禁止されているんです。いくらこの時間平面上ではそんな法律が無くても、わたしやジョンがタイムマシンを持っている以上、未来で処罰を受けることになってしまうんです」
「とはいえ、我々は既にその禁則に該当する行為をしていることになります。閉鎖空間の神人退治だけでなく、今の我々のことを紹介して、過去のハルヒさん達の未来を揺さぶる行為までしているんですからね」
「ところであんた、過去のあたしに初めて会ったときは何て言ったのよ?」
「そういや、あのときは『数年後の未来から来た』とは言ったが『何年後』かまでは言わなかったな」
「言われてみれば、僕もそうでしたね。『数年後の未来から来た未来人兼超能力者です』としか言ってなかった気がします」
俺と古泉のセリフを受けてOG達が一度明るくなったが、再び元に戻った。自分の年齢を言わずに済むのなら過去ハルヒの会社にという目算だったんだろうが、みくるの言っていた未来の禁則に引っ掛かることを思い出して諦めたってところか。

 

「で、何て言ったのか答えなさいよ!」
「確か……『よう、ハルヒ。ここは初めましてと言っておこう。早速だがおまえに一つ提案がある。今から俺と一緒に怪物退治に行かないか?不思議探索ツアーなんてする必要のないくらい、とびっきりの不思議を体験させてやるよ』だったかな?」
「よくそこまで正確に覚えてらっしゃいますね。あなたがあの時間平面上の文芸部室に顔を出してからかなりの年数が経っているはずですが……」
「同じ状況なら多分こう言うだろうなと思ったことを口にしたまでだ」
「くっくっ、キミにそんなことを言われたら、まず間違いなく『面白いじゃない!』と返ってきただろうね」
「織姫、時間!」
「どうやら話に夢中になって時間を忘れていたようだ。我々もそろそろ降りることにするよ」
「楽団の人たち、もう練習始めているんじゃ?」
「私たちも早く練習に行かないと……」
「監督やコーチに何か言われたら、明日のコンサートの件で会議が長引いたと伝えておけ。俺たちもそれに合わせる。今は報道陣が荒れているから、それで納得するはずだ」
『ありがとうございます!』
81階に残ったのは俺と佐々木、それにシャミセン。片付けの担当も、基本は当番制だが、最近は俺たち調理側の人間でない誰かになることが増えてきた。特に朝は研究に没頭しているW佐々木やENOZ四人が担当することの方が多い。そういえば、猫を風呂に入れるには水の音を聞かせる必要があるんだったな。シャミセンの周囲に張ってある逆遮音膜の条件を変えておこう。『起きている間は水の音が聞こえる』という条件を加えておいた。ペット用シャンプーの匂いにもそろそろ慣れた頃だろうし、コイツもシャンプー&マッサージだな。そんなことを考えていると、シンクで皿を洗っている佐々木が話しかけてきた。

 

「くっくっ、とっさの言い訳にしては随分適切だったじゃないか。告知が終わったらキミも僕の研究を手伝ってもらえないかい?」
「おまえ、それができないと分かっていて言っているだろ?話の内容としては当たらずとも遠からじだからな。明日のコンサートを見に来る過去ハルヒ達の話だったんだ。それに報道陣がどういう行動に出るのかいくつか場面を想定している最中だったからな」
「前回あんなことになったのに、まだ紛れてこようとすると思っているのかい?」
「その可能性があるからこそ、青有希に大量の千円札を両替してくるよう頼んだんだ。そして、記者会見で謝罪したのは日テレだけ。日テレは天空スタジアムの映像を手に入れているからな。一番やりやすかったはずだ。対して、他のところは自分の会社は社長任せで、後は自分たちの好きなように動いている。玩具を持ったマフィアと何ら変わりはない。堂々と失敗例が放映されていたからな。要は『ああ言うミスさえしなければ撮影できる』と思ってやってくるバカが大勢いるってことだ」
「キミの社長としての実力がようやく分かった気がするよ。常に思考を続けていればさっきのように簡単に対処してしまうことができる。僕もキミのそういうところを見習わないといけないね。研究に詰まって投げやりになっていた自分が情けなくなったよ」
「だったら青佐々木に言われたことを実行に移したらどうだ?腹が減ったら朝食をラボにテレポートしてやるよ」
「そうかい?そうしてもらえると僕も助かるよ。じゃあ、片付けが終わったら僕も向こうに行ってくる」
影分身も告知用に20%、残りの80%で影分身三体を情報結合し、昼食の支度と打ち上げの仕込みに取り掛かっていた。採掘した原石は既に仕分けを終え、明日OG達に渡すネックレスや、みくるを含めたピアスも出来上がっている。ハルヒや青みくるのピアス、青ハルヒ、有希、みくる、W佐々木のネックレスも考えないとな。

 

 シャミセンも佐々木も昼食までテレパシーが届くことはなく、昼食の時間に朝食を取っていた。双方とも、昼食は取っておいて欲しいと進言し、おやつ感覚で昼食を食べていた。シャミセンも俺の布団が気に入っているのはいいが、少しは運動させた方がいいかもしれん。『おまえの爺ちゃんも太りすぎで食べる量を減らされていた』と言えば、今よりはマシになるだろう。
 コンサート当日、ニュースは一向に変化する兆しを見せず、各社に報道陣が出向いていたが、一部の報道陣が今日になって本社前に集まり始めた。バレー合宿のときと変わらず、一番外側の閉鎖空間の条件は『俺の許可した人間のみ入ることができる』だ。報道陣はもちろん、コンサート開始前に入ろうとする一般客、本店の客として来店していてもそのついでに天空スタジアムへ向かおうとする人間は入れない。朝からSPも五人態勢で警備にあたっていた。
「さて、今日の午前中にみくると二人で北高の文芸部室に行ってくる。あいつらに見せるピアスと、OG達が欲しがっていたネックレスができた。それぞれ気にいるかどうかは分からんが、試しにつけてみてくれ」
『キョン先輩の作ったネックレスなら大歓迎です!!』
みくるには大型のガーネットとダイヤモンドがハートシェイプ。最後の最後まで迷ったが、チェーンは結局プラチナではなくイエローゴールドにした。閉鎖空間で重さも無くしたし耳に負担はかからないはず。小箱と言うには大きすぎるくらいだったが、大型の宝石に周りの視線が集中していた。OGの方は小箱に入ったネックレスを一つずつ確認しながらそれぞれに渡していく。一人目はプラチナでつくったリングの型枠の上にダイヤモンドとアクアマリンを交互にあしらい、中央に中型のアクアマリンをはめたもの。チェーンも当然プラチナだ。二人目は、大型のハートシェイプのアメジスト。そのさらに外側をプラチナのハートの型枠が囲み、ダイヤモンドの粒を隙間なくあしらったもの。三人目はイエローゴールドのチェーンとハートの型枠。その上にダイヤモンドと淡いガーネットを交互に敷きつめ、ハートの中には中型のハートシェイプガーネットがはまっていた。最後はプラチナの三日月の型枠に大小のダイヤモンドを余すところなくあしらい、淡いエメラルドが月の影になった部分を補ってフルムーンに見えるもの。こちらも型枠と同じプラチナチェーン。そして、ラウンド型に加工したダイヤモンドとピンクサファイアをプラチナの型枠にあしらったピアス。ピンクサファイアを上にしてダイヤモンドが若干大きくなるように調節したものだ。
「六つ揃うとどうも単調な気がするんだが……他にアイディアが思い浮かばなかった。これで勘弁してくれ」
『そんなことないです!こんなに綺麗なネックレス、ありがとうございます!』

 

 それぞれでネックレス、ピアスを身につけて情報結合した鏡で確認している。
「いいなぁ~六人とも違う宝石で違うデザインなんて羨ましい~黄キョン先輩、これ何の宝石なんですか?」
「え~と、ピンクサファイア、タンザナイト、アクアマリン、アメジスト、エメラルド、ガーネットだな。誕生石にしてもよかったんだが、最初の二人が誕生石と全く関係がなかったんで似合いそうな色の宝石で埋めてみた」
「ちょっとあんた、みくるちゃんのピアスとOGのネックレスはいいけど、どうしてあの子だけピアスまで揃っているのよ!」
「どうしてって、頼まれただけだ」
『頼まれただけ!?』
「ってことは、あのピアスも黄キョン君がデザインしたの!?指輪やネックレスとセットで販売されていたようにしか見えない……」
「キョン、あたしにもネックレス作ってくれない?」
「あっ、涼宮さんずるいです!わたしにもキョン君のデザインしたピアスを作ってください!」
『僕もネックレスを頼んでもいいかい?』
「やれやれ、案の定か。どうせこうなると思ってみんなの分も考えていたんだが……現段階では青みくるのピアスしか思い浮かばなかった。というより、デザイナーがこれだけいるのに、どうして俺一人で考えないといけないんだ?自分でデザインしてイメージさえくれればいくらでも作るってのに」
「『キミがデザインした』という一種のブランドだと思ってくれればいい。僕たちの求めているのはそこなんだよ」
「おまえな、ティファニーやグッチと並んで『キョン』なんてブランド、あると思うか?」
「問題ない。あなたのデザインをこのまま冊子に載せられる。OG達にそのままモデルになってもらう」
「有希さんがそこまで言うんじゃOKを出すしかなさそうね」
「嫌なら別にOKしなくてもいいんだぞ?編集長。それに、ちょっと前までハリウッドスターをモデルにするなんて話になっていたが、今度は日本代表選手をモデルにするってのか?」
「わたしが嫌なのは『あなたや青古泉君がデザインした』ってところだけよ」
デザインセンスは認めてくれたらしい。まぁ、朝倉との馴れ初めを考えれば、よっぽどマシか。しかし、朝倉にまで認めてもらえるとは想定外だ。このメンバーの身につけるものを作るなら情報結合はありえないが、販売する分には情報結合で構わないってことになりそうだ。
「キョン君、わたしのピアスしか思い浮かばなかったってことは、もう作ったんですか?」
「ん、まぁな。他のメンバーと一緒にと思って持ってきていないだけだ」
「そのピアス見せてください!お願いします!!」

 

 青みくるの勢いに押し切られ、やむなく……という言い方も失礼だが、OG達と同じ小箱が青みくるの前に現れた。キーの持ち手部分に花柄とリボンをデザインしたプラチナの型枠に、花柄の中心部をアクアマリンで埋めたピアス。横から青有希、青ハルヒが覗きこんでいる。
「みくるちゃん、ペンダントを出してそのピアスはめてみてくれない?」
青ハルヒに言われずともつけようとしていたんだ。それより、W森さんも含めて、女性陣みんなピアス穴が開いているって一体どういうことだ?有希や朝倉にでも頼んだのか?これで母親にまでピアス穴が……って、もう既に空いていたか?正直、どうでもいい。
「凄く似合うじゃない!アクアマリンがこんなに映えるなんて思わなかったわよ!」
「キョン、わたしにもピアスとネックレス作って欲しい」
「こんなデザイン見せられて俺が対抗できるわけがないだろ?」
「問題ない。指輪と一緒。キョンも黄キョン君もデザインセンスは同じはず」
作ったものに関してはそれぞれで納得してくれているようだし、他のメンバーのも作るってことでよさそうだ。そろそろ本題を切り出すことにしよう。これが一番ネックだったんだ。
「すまん、一つ相談に乗って欲しいことがある」
『相談!?』
「みくるが今つけているハートシェイプのピアスだよ。佐々木も脚本家としてOKしてくれたし、この状態で北高の文芸部室の連中に見せてこようとは思っているんだが、一つ問題があってな。さっきOG四人に渡したネックレスなら他の選手からどうしたのかと聞かれて、俺が作ったと応えてもそこまで問題にはならないが、みくるや青古泉たちがドラマの番宣の為にバラエティ番組に出るとなると、まず間違いなく聞かれる。『こんなでかいピアスをつけていて負担にならないのか』と聞かれたり、触られたりしても閉鎖空間の条件の設定でどうにでもなるんだが、『そのピアスどうしたの?』と聞かれて、俺に作ってもらったと素直に応えるとまずい。盗掘の疑いがかけられるし、研磨する時間や技術はあったのかと問われてしまう。それで、そのピアス二つでいくらかかったかこの場で統一しておきたい。俺が作ったのではなく、購入したものだとみくるには答えてもらう。二つセットでいくらか想像で構わない。全員一致でこの価格と決めておきたい。いくらにする?」
「2000万円」
『2000万円――――――――――――――――――――っっ!?』
「ちょっと有希!いくらなんでも高すぎるわよ!」
「そうです!あくまでドラマの設定上、黄朝比奈さんを大人びた風に見せるためのアクセサリーにも関わらず、その価格が2000万円では高すぎます!」
「問題ない。セカンドシーズンに向けて朝比奈みくるを少しでも大人びたものにしたいと言い出したのも、そのためにピアスを購入してきたのも彼。日本一のファッション会社の社長なら、その程度の理由でも2000万円くらい平気で出すと視聴者に思わせることができる」

 

「決まりってことでいいか?」
「分かったわよ、これで文芸部室に見せに行ってきなさい!」
「じゃあ、最後にもう一つまったくの別件だ。明日以降異世界の店舗の方は社員とアルバイトに任せて食事の時間に店舗にいるメンバーも全員戻って来てくれ。プラスして、同じ仕事だと飽きるからな誰か代わりに向かうなんてこともあってもいいと思ってる。とりあえず明日以降は、議事録はつけるが食事時には全員揃うってことで宜しく頼む」
『問題ない』
ピアスさえはめてしまえばすぐにでも行けると言いたげなみくるを連れて一路北高へ……って
「みくる、ポルシェで行ってもそこまで満喫できないし、バイクで行くとなると着替えなくちゃならん。文芸部室に直接テレポートでもいいか?」
「私はキョン君がこれがいいと思ったものがあるのならそれで構いません。すぐ、お茶の準備をしますね!」
「しかし今日のコンサートはみくるは前購入したものに付け変えるとして、青みくるはペンダントも一緒にそのままあのドレス姿で羽ばたかせるというのも悪くないかもしれん。あとはハルヒのピアスか。ビラにも関係するしなるべく早めに決めておきたいんだが……」
「キョン君そこまで考えていて、一体何で迷っているんですか?」
「デザインをどうするかで迷っていてな。使う宝石は決まっているんだが、その二つをどう組み合わせるかが問題なんだ。指揮者としてそこまで目立たないが、ハルヒらしいものを作りたい」
「どんな宝石を使う予定なのか、聞いてもいいですか?」
「イエローサファイアとブラックダイヤモンドだ。ハルヒのカチューシャと俺たち黄チームのカラーだよ。ブラックダイヤモンドの中にイエローサファイアを埋め込んで枠はイエローゴールドにするしか考えつかん」
「そこまで決まっているのなら、作ってしまったらどうですか?今日のコンサートから使えるじゃないですか!」
「勢いで作ってしまおうか。普段つけるものは別のまた作ればいい」
「うふふ……みんなどんな反応をするのか今から楽しみです!キョン君、連れて行ってください!」

 
 

…To be continued