500年後からの来訪者After Future7-4(163-39)

Last-modified: 2016-12-05 (月) 12:23:27

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-4163-39氏

作品

女子高潜入捜査事件の撮影がついに始まった。OGも29日以降は自主練という形で手が空くということで、教室でのシーンや部活中のシーンの撮影は正月休みを使って撮影するとのこと。ホテルの厨房で料理を作っている青OG達にもテレポートで現地まで飛ぶ練習をしないかと提案。テレポートを極めるとこんなことも可能だと、実際にパフォーマンスとして見せ、超能力の修行に対する士気を高めていた。23日のスーパーライブの図面も届き、年末行事に向けた準備が本格的にスタートした。

 

「それで、どうしてあたしなのよ!?あたししか適任がいないってどういうこと!?」
「それにはまず、女子高で何が起こっているのか話す必要がありそうね。学園内の教室や部室内で突然服に火が付く奇妙な現象が起こって、火傷をした生徒が二人被害に遭っているわ。他の生徒が脅えていて、教員たちもこの不可解な事件が起きた理由が分からず、学園側から調査を頼みたいと連絡が入った。でも、あたし達警察でもそんな事例は今まで聞いたことがないし、もしこれが事故じゃなく事件だったとしたら、警察が来たと犯人にバレてしまえば警戒されるし、わたし達がいなくなるまで事件は起こらない。それで潜入捜査という形になったの」
『煙草でも隠し持っていたんじゃないのか?』
「煙草なら匂いですぐ分かるはず。教員たちもそれを疑って持ち物検査までしたらしいんだけど、誰一人として煙草を所持している生徒はいなかった。教員側も誰一人として吸う人間はいないそうよ」
「それで?どうしてあたしがその女子高に行かないといけないわけ!?話が全然見えてこないじゃない!」
「被害に遭った二人のプロフィールを見ていたら、どちらもソフトボール部に所属していることが分かったわ。単なる偶然の可能性も無いわけじゃないんだけど、わたし達より先に女子高に潜入している人はソフトボール部で何かあったんじゃないかと睨んでる。ハルヒさんが中学高校時代、ソフトボール部でピッチャーをしていたことは前に一樹君から聞いたわ。ハルヒさんが他の部員にピッチングを見せれば、部員たちもあなたに色々と話しかけてくる機会も多いはず。あたしと一緒にソフトボール部に仮入部して情報を集めてもらいたいの」
『なるほど、それならこれ以上の適任はいないな』
「確かに経験はあるけど、随分昔の話だしちゃんと投げられるかどうか……」
「ここに来る前に調べてきたんだけど、SOS女学園のソフトボール部はそこまで強いわけでもないし、顧問の男性教員も野球経験すら無いそうよ」
『SOS女学園!?』
すでにサイコメトリーして情報を得ている青古泉は驚かず、青ハルヒとジョンだけが驚いている。
『それなら眼と鼻の先だ。俺のバイクなら二分とかからない』
「そう。ここからならSOS女学園まで大した距離でもない。一樹君、捜査が終わるまでの間だけでいいから、あたしをここに泊めて!」
『はぁ!?』

 

「ちょっと待ちなさいよ!どうしてそんな話になるのよ!?朝比奈さんにはポルシェがあるじゃない!」
「これはあくまで潜入捜査。あたしのあの赤いポルシェで学園まで行くわけにはいかないの。目立つような行動はなるべく避ける必要がある。あたし達が犯人に尾行される可能性だって十分ありえるわ」
「なら、ハルヒをバイクで送ることもできそうにないな。ここから徒歩で通学することになりそうだ」
「あんた、朝比奈さんをここに泊める気なの!?」
「どの道ここでサイコメトリーしなくちゃならないんだ。駐車場も無いし、たった数日だけだ。我慢してくれ」
「もう、信じらんない!引き受けなきゃ良かったわ!本当に数日で解決できるんでしょうね!?」
「あなたの活躍次第よ」
やれやれ、ファーストシーズンのラストバトル並に長いシーンだったな。サイコメトリー無しじゃ、初めてドラマの依頼を受けた頃の青みくるのようなことになっていてもおかしくない。しばしの沈黙の後、ハルヒの「カット!」という言葉が聞こえてくる。果たしてOKは出るのか?有希が撮影した映像を総監督が確認していた。みくる達も緊張の面持ちを隠せない。これでNGが出ればNG集の仲間入りだが、セリフを忘れたわけでも間違えたわけでも呂律がまわらなかったわけでもない。だがしかし、サイコメトリーありですらNGを出してくる奴だからな。どうなることやら……
「OK!みんなバッチリよ!これで後は学園内での撮影になりそうね!あたしも早く制服を着てみたいし、来週が待ちきれないわ!!みくるちゃんも青古泉君の部屋に泊まりこむんだから、お風呂に入るシーンも撮影するわよ!」
「えぇ―――――っ!?ハルヒさん、そんなシーン脚本にはどこにも……」
「何のためのドラマだと思ってるのよ!!ランジェリーを見せるシーンを一つでも多く取り入れなくっちゃ!!」
「そ、そんなぁ……」

 

 今日の撮影はそれで終わりになったものの、最終話は俺が密室トリックを提案したせいで作りなおすことになったし、明日はSuper DriverのPV撮影。明後日はNG集の撮影になるかもしれん。夕食時、またもや有希の「できた」の一言から始まり巨大モニターにレストラン前の報道陣の様子が映る。
「クソッ!いつまでこの状態が続くんだ。こんなことなら、さっさと社長に土下座させときゃ良かったぜ」
「間仕切りが邪魔で中の様子が一切分からないですしね。あれが無ければズームで撮れるんですけど……」
「おい、許可はまだ降りないのか?」
「ダメです。もう誰もいないみたいで、いくらかけても繋がりません!」
「やめておけ。入れるようになる時期が更に伸びるだけだ。今朝の新聞記事を逆手に取られてる」
「あんな記事にするからじゃないッスか!」
「馬鹿野郎、他の記事で一面を飾り続けてみろ。シーズンが終わる頃には新聞が売れなくなるだろ!」
「そりゃそうッスけど、明日の新聞の一面どうするんすか?」
「俺が知るか!」
ここまでは先々週の映像だな。「定時帰りでいい御身分だな」とか言っていたはずだが、カットされている。
「くそっ!いつまで俺たちの邪魔をすれば気が済むんだ!!」
「先週のようなネタが出てくるといいんですけど……」
「あんなのはただの偶然だ!スキーシーズンが終わるまでそんな偶然が重なるわけがないだろ!!」
「レストランの様子抜きじゃ駄目なんすか?」
「当たり前だ!そんなことを繰り返していたら、例の会社の新聞しか売れなくなるだろ!!」
「もうちょっと早く社長が謝ってくれさえいれば入れたんですけどね~」
「あの社長が土下座謝罪しただけでも、俺からすれば驚天動地だよ!」
「なんだ、おたくらまだ入れないんだ?なんなら撮影した映像をくれてやってもいいんだぞ?」
「チッ、高値で売り付けようとしているのが目に見えてるんだよ!とっとと消えろ!!」
「あっそう。それは残念だ。精々有意義な時間を過ごしてくれたまえ」
「くそったれ!俺たちも入れさせろ!このっ!くそぉ!!」

 

「なるほど、アホの谷口と同レベルだというのが良く分かった。『驚天動地』なんて言葉を使うのはアイツだけだと思っていたが、他にもいたんだな」
「そんなにレストラン内の様子が知りたいのなら、高値で買えばいいのに」
「くっくっ、毎週そんなことを続けていたらスキーシーズンが終わるまで利益がほとんど得られないってことになりそうだ。ここは会社存続の危機と言うべきかもしれないね。各新聞社の経営状況がどれほどのものなのか調べてみたくなったよ」
「とにかくこれで各メディアに送るってことでいいな?有希、DVDと一緒に『このままではいつまで経っても取材許可できない』とメッセージを入れておいてくれ。許可されてないところには社長室の机の上に直接置いて欲しい」
「分かった」
「ハルヒ、佐々木にはさっき話したばかりなんだが、木曜日の撮影はNG集の撮影をしてくれないか?」
「はぁ!?もう撮影が終わったシーンをわざと間違えてもう一度撮り直せっていうわけ!?何でそんな無駄なことをしなくちゃいけないのよ!!」
「おそらく、僕がNGを一度も出さなかったせいでしょう。セカンドシーズンの最終回直前に、先日のクイズバラエティのようなNGシーンだけを集めたVTRを番組内で流すなどということになりかねません。因みに、今日まででいくつNGがあったんです?」
「みくるちゃんの髪をキョンが洗っていた一回だけね」
「青古泉だけなら、この前と同様『サイコメトリーした』で済まされるかもしれんが、それ以外はそうも言ってられん。すでに第七話の撮影に入っているのに未だにNGが一つだけじゃ、いくらなんでも不自然だ。それに、今朝佐々木に渡したトリックで最終回のストーリーが変わってくるし、自主練に切り替わる29日以降でないとOG達が撮影に参加できない。佐々木たちが脚本を仕上げてくるまで、時間を有効活用する。遅くとも金曜の午後には最終話の撮影ができるだろ。もし完成してなくても、ハルヒや有希は作詞作曲にまわればいい」

 

「凄い。もう第六話まで撮り終わったんですか!?」
「NGが一つしかないのなら、順調過ぎるくらい。予定より早く進んだとしてもおかしくない」
「有希先輩、今日は第三話と第四話を見るんですよね?第五話と第六話はいつ見れるんですか!?」
「日曜の予定。これから第三話と第四話を流す。わたしは見る必要が無い。おでん屋にはわたしが行く」
「黄有希さんに押し付けちゃってごめんなさい。見終わったらわたしも行くから、それまでお願いね」
朝倉たちのこのしぐさも何度も見てきてはいるが、誰かが真似したところは見た試しがないな。まぁ、どちらもほとんど使わないから当然か。
「しかし、金曜の午後までに最終回を仕上げろなんて無茶振りに僕が応えられるわけがないじゃないか。キミも手伝ってくれたまえ」
「最初からそのつもりだ。シャンプーと全身マッサージを終えたら、個室で三人で考えるぞ」
「キミに腕枕された状態ならすぐにでも話が膨らみそうだけれど、脚本として書きとめることができそうにない。記憶力に自信がないわけじゃないんだ。でも、細かいセリフまですべて覚えていられるとは到底思えないよ」
「そんなもの簡単に解決できる。ノートパソコンにセリフを入力するための影分身を一体用意するだけだ。それに、ストーリーの概要なら考えてある。佐々木たちは知らないだろうが、北高時代、夏休みの最初に出向いていた孤島を最終回のステージにするつもりだ」
『あの孤島をステージにする!?』
「先輩たちの言っている孤島って何のことですか?」
「この際だから撮影するときはOG達も一緒に連れていこう。ビーチバレー用のネットもあることだしな」
「しかし、あの孤島を最終回の舞台にするとは僕も驚きました。ビーチバレー用のネットや支柱は新しいものに変えるだけですが、一体どんなストーリーにするんです?」
「まず、園生さんが青古泉の自宅に訪れて、みくるや青ハルヒと一緒に孤島に来いと呼び出す。要するに完全犯罪計画を用意したから解いてみろと挑戦状を叩きつけに来るわけだ。そこにファーストシーズン同様、面白そうだからという理由でジョンが加わり、四人で孤島へと向かう。その道中で鉢合わせをするんだよ。俺たちが高校一年の夏休みに孤島に出かけたときのように執事兼料理長と名乗る新川さんや、ただのメイドだと言い張る園生さんとな」

 

 黄チームや青チームのSOS団、圭一さん達は孤島に行ったときのことを思い出しながら、OG達はどんな展開になるのか期待を膨らませながら、黙って俺の話を聞いていた。
「それで、そのあとどうなるの!?早く教えなさいよ!!」
「クルーザーには青古泉たちだけでなく、その回に出演するメンバーの半分が一緒に乗り、もう半分はあの建物ので待っているという設定にする。当然、新川さんや園生さんだけでなく、園生さんと同じメイド役の朝倉の他に俺も登場する。そのときの俺の役回りをどうするかで迷っているんだが、雑誌記者あたりになるだろう。キャストが出揃ったところで殺人事件が幕を開ける。殺害後に首を切ることで絶対に脱出不可能な密室殺人を可能にしたり、服を取り換えて別の人間の死体にすり替えて完璧なアリバイを確保したりなんていうトリックも悪くない。警察が来られなくなるように天候を操るくらいならジョンの超能力でいくらでも可能だ。そして、あの孤島をセカンドシーズン最後の舞台として選んだ最大の理由は、犯人を暴いた後、青古泉たちを建物の中に閉じ込めて火を放ち、その間に新川さん達がクルーザーで脱出。犯人や関係者もろとも孤島に閉じ込めて餓死させるところまでが組織の計画だったってことだ。だが、『もし何かあったら』とみくるが予め行先を鶴屋さんに知らせておいたおかげで、ヘリがやってきて無事に帰還することができたところでエンディングだ。女子高潜入捜査事件のときに鶴屋さんの『みくるって呼んでもいいにょろ!?』なんてシーンを入れておけば、サードシーズンでも鶴屋さんが出演するシーンが増えて青古泉たちの強い味方になるだろ?あとは火を放った後、逃げようとする青古泉たちの道を塞ぐように玄関ホールで俺が待ち構えていて、ジョンと1対1のバトル。ドアを鎖で開かないように固定して、鎖に付けられた南京錠の鍵を俺が持っている。要は、俺を倒さなければ建物の外へは逃げられないって筋書きだ。たとえ俺が負けても、予め作っておいた別の出口から脱出して建物が燃え尽きた後も俺の焼死体は見つからず仕舞い。サードシーズンで久しぶりにご対面ってわけだ」

 

 最終話の内容を話し終えてしばらくの間、フロア内が沈黙で満たされてはいたが、周りのメンバーの表情は様々。総監督はこの上ないほど口角が上がっていた。さて、最初に飛びだすのは誰のどの名言なのやら……
「やれやれ……概要という言葉で収まりきるようなものとは到底言えそうにない。僕たちが用意していた結末よりも、今キミの話した内容の方がはるかに面白いじゃないか。サードシーズンはキミが脚本を書きたまえ」
「面白いじゃない!青古泉君たちを孤島に呼び寄せたのはそういうことだったのね!最後に鶴ちゃんが助けに来るっていうのもナイスアイディアだわ!!そこまで綿密な計画を練ったんだから、最終回の脚本はあんたが仕上げてきなさい!」
「あのな、俺は来週の忘年会までの仕込みがあるんだ。細かなセリフまで考えていられるほど時間は無いぞ?」
「いいえ、僕や青僕と違って、今のあなたなら脚本を考えていても影分身の意識が薄くなるなど考えられません。脚本家がさじを投げ、総監督から直々に脚本を手がけるよう仰せつかったのですから、もはや逃げ場はありませんよ。エンドロールには脚本のところにあなたのあだ名を入れてもらうよう、僕の方から有希さんに伝えておきます」
「参ったな……トリックは考えてあるんだが、キャスティングや犯行に及ぶ動機で困っていたんだ。芸能プロダクションから誰を呼ぶかもう決めてあるのか?」
「僕たちの脚本ならね。でも、その脚本もどうやらお蔵入りということになりそうだ。依頼する予定だった俳優についてはキミにも教えるから、あとはキミ一人で考えてくれたまえ」
「別にお蔵入りすることもないだろう?サードシーズンで十分使えるだろうが。どんな脚本になったのか俺にも見せてくれないか?」
「いくら僕たちの脚本を見せたところで、キミからすれば駄作としか言いようがないだろう。とてもじゃないが、見せられるような代物とは思えない」
「あっそう。なら、仕込みと同時進行で脚本を考えないと間に合いそうにないし、脚本作りに集中する。それまでは自分の部屋で風呂に入ってくれ」
『ちょっと待ちたまえ』

 

 『自分の部屋で風呂に入れ』と言った俺に対して、女性陣のほとんどが慌て始めた。
「なんだよ。今、脚本を考えている最中なんだから邪魔しないでくれ。第三話と第四話をみんなで見るんだろ?俺は議事録用のパソコンで脚本を作る。何も問題はないだろうが」
「キョン、最終話の脚本は100階の個室で三人で考えようじゃないか。別のことを考えていると閃くと言ったのはキミの方だ。もっと詳しい内容を教えてくれたまえ」
「どっちにしろ『最終話の脚本を考える』ということに変わりないだろう?『別のこと』にならんだろうが」
「………分かったよ。僕が悪かった。キミのアイディアに正直嫉妬していたんだ。僕たちの作った脚本も見せる。一日でもキミのシャンプーとマッサージがないと禁断症状が出てしまうんだ。『自分の部屋で風呂に入れ』なんてそんな寂しいことを言わないでくれたまえ」
「『フフン、分かればよろしい!』なんてな。俺の場合はただ単に、案を提供しているだけにすぎない。俺が監督や脚本家を振りまわしているように見えるかもしれないが、トリックもストーリーも脚本家だけで考えろなんて、いくらなんでも無茶だ。トリックだけでも良いアイディアが浮かべば、それを佐々木たちに伝えてみればいい。あとはストーリーやキャスティングを考えるだけで済むこともある。このドラマの本来の目的はランジェリーの告知なんだからTV局から続けてくれと言われても、精々4thシーズンまで。シーズン毎にコンビを組む相手が変わる刑事ドラマのように10年以上もやる必要はない。しかし、俺のせいで大分長話になってしまったからな。どうする?ドラマの披露試写会は延期するか?」
『早く第五話と第六話が見てみたいです!今からでも見させてください!!』
「CMが入るわけでもないし、途中までというのは私も続きが気になって仕方がない。最後まで見させてもらうよ」
「でも、有希先輩、おでん屋に行っちゃいましたよ?」
「有希から編集後の映像を預かっているから、あたしがモニターに映すわ」
「どんな話になったのか、楽しみね」

 

 かなり時間が押してしまったが、途中で自室に戻るようなメンバーは誰一人としておらず、第四話の最後まで全員の視線がモニターに集中していた。第一話や第二話と同様、所々でみくるのランジェリーが見え隠れしていた。しかし、これだけのトリックを考えておいて、最終回のシナリオをお蔵入りするなどもったいなさ過ぎる。青古泉が自分でサイコメトリーした情報に疑惑を持つシーンも「何かおかしい」というセリフが無くとも青古泉の表情にそれが現れていた。
「事件を解決しに奔走するときの曲がカッコイイです!古泉先輩たちのテーマソングみたいです!!」
「僕も撮影にしか参加していないからね。彼のテーマソングとしてこの曲を毎回使うのも悪くない。ドラマの中で使う音楽をENOZが担当して正解だったようだね」
「曲のタイトルは決まってなかったし、『古泉のテーマ』なんて名前でもいい?」
『問題ない』
「僕の名前が入った曲を作ってもらえるとは考えもしませんでしたよ。ストーリーはすべて把握していますが、日曜日に見られる第五話と第六話が待ち遠しくなってきました」
「くっくっ、キョンの発案した設定で最終話のストーリーが少しずつ見えてきたよ。忘れないうちに脚本にしようじゃないか。キミの考えも聞かせて欲しいんだけどね、どんな孤島に行っていたのか僕たちにも教えてもらえないかい?OG達もどんな場所か知りたいだろうからね」
『是非見せて欲しいです!!』
「一人ずつ情報を渡すには時間がかかりそうだ。コイツで投影するか」
『コイツ?』
「立体映写機~!」
『おぉ―――――!!』

 

ド○えもんの声で道具を出した俺に、OGと子供たちから拍手が贈られた。レバーを切り替えると孤島の様子が映し出される。高校三年生の頃に行ったときのものを再現しただけだから、今はどうなってるのか見てこないとな。
「綺麗~♪」
「青い海!白い砂浜!先輩たちこんなところでビーチバレーしてたんですか!?羨ましい~」
「懐かしいですね。この砂浜でビーチバレーをやったのがきっかけで、バレーボールにのめり込んでいったんでした。どちらのチームも丁度六人だからと彼から提案を受けたときのことを思い出しましたよ」
「青みくるちゃんがとんでもなく強かった印象しか覚えてないわよ」
「嵐の中で洞窟に行ったことも覚えてないのか?」
『洞窟!?』
「この島にそんなものがあるのかい?」
「ああ、そこに青ハルヒが呼び出されて眠らされるシーンも加えようかと思っている。犯人の動機も大体決まった」
「黄キョン先輩、どんな話になるんですか!?」
「イニシャルがS・Hの人物が集められて、犯人によって一人ずつ殺されていくストーリーだ。イニシャルがS・Hなら『涼宮ハルヒ』もそれに該当することになる。組織の人間もそこに眼をつけて、この舞台を用意したことにする。挑戦状を青古泉に叩きつけたのは、青ハルヒを呼び出して犯人に殺害させるためでもあったってことだ」
『面白いじゃない!』
「金曜の午後から撮影開始だから、あんた、それまでに脚本を仕上げておきなさいよ!?」
「八割方決まっているようなものですからね。セリフを書くだけなら大した時間はかからないでしょう。ところで、さっきからずっと気になっていたんですが、『簡単に入れても、絶対に脱出不可能な密室』というのはどのようなものなんです?我々が一芝居打ったときも圭一さんが殺され役の密室殺人でしたが……」

 

 あれはトリックでも何でもない。ただ圭一さん本人が自分で刺して倒れていたに過ぎん。だが、気になっていたのは古泉だけではないらしい。他のメンバーの視線も俺に集中していた。
「建物を多少改装する必要があるんだが、天井を貫いて高い位置に小窓が一つあるだけの殺風景な部屋を作る。部屋の中にはパイプ椅子が一つと首なし死体。その部屋の鍵は死体が握っていてそれ以外何も置いていない部屋だ。小窓は大人一人通り抜けられるだけの広さはあるものの、たとえパイプ椅子を使ってジャンプしても届かない位置にある。普段は脚立を使って開けると説明を受けるんだが、そんなものは部屋のどこを探しても見つからない。青古泉たちがマスターキーでその部屋に入ったときは、パイプ椅子に首なし死体が座っているだけで、あとは精々小窓が開いているくらい。さて、犯人はどうやってその密室を完成させたでしょうか?答えは脚本ができるまでのお楽しみにしよう。ディナーやパーティの仕込みもあるからな」
席を立ってようやく皿をシンクに運んでいった俺に倣うように子供たちも皿を下げに来る。他のメンバーもトリックを解き明かそうと、皿を重ねながら考え込んでいた。脚本を仕上げるには佐々木たちだけには密室トリックを話す必要があったんだが、
『キョン、それはないだろう?金曜日には第九話の脚本が完成していればそれでいいはずだ。最終話で犯人を暴くところだけはキミ一人で脚本を書いてくれたまえ』
などと口を揃えて拒否されてしまった。100階にあったコスプレ衣装やランジェリーはそのままだが、大胆下着、玩具は情報結合を解除した。中央のベッドの下に隠しておいた俺のコレクションは自室のダブルベッドの中にしまいこんだし、朝倉に気付かれない様に情報を書き換えておいた。

 

 翌朝、昨日有希が送ったVTRで朝のニュースは大荒れ。『このままではいつまで経っても取材許可できない!』や『撮った映像の高額売買は許されるのか!?』という見出しに透明な閉鎖空間を蹴っている報道陣の写真を載せている新聞が、先月までに謝罪をした一社と記事をすり替えた新聞社。他の新聞社も自分の会社の人間が写っていないところは似たような記事を載せているが、残りはまったく別の記事で「何のことやらさっぱり分かりません」とでも言いたげなものになっていた。TV局もTBSを除いて有希が編集したVTRをそのまま放映し、「同じ報道する側の人間として情けない」とコメント。社長の悪口を言った奴は……このあとどういう処分が下されるのやら。だが、これでもうしばらくは入れないということがどんなアホな奴にでも分かるだろう。
影分身たちと同期すると、案の定みくるからPV撮影に付き合って欲しいという要望があり、本体は午後から撮影に同席。その間、楽団員の練習を終えた天空スタジアムに古泉が赴きFAXで届いた図面を元にスーパーライブのステージを情報結合。通路を除く隙間にパイプ椅子を余すところなく敷き詰めた。あとは明日来る予定のスタッフにすべて任せればいい。前回のPV撮影では、ベッドに敷かれたシーツの色とほぼ似た色のランジェリーだったから、ベッドに寝てしまえばそこまで目立つようなことは無かったが、今回は五人とも色の違うランジェリーをつけている。無論、シーツの色とも合っていない。シャミセンの黄金像をPVに映すわけにはいかないので流石に移動させたが、色はこれで本当に大丈夫なのか?みくるや佐々木が恥ずかしがって何度もNGを出していたが、時間の経過とともに次第に慣れ、何回かランジェリーをドレスチェンジして、それぞれでポーズを変えながら撮影。ランジェリー姿の映像はこれで問題はない。しかし、青古泉がデザインしたものもあったが、ほとんどがみくる専用のパイプ椅子がデザインした下着だった。ドラマの最終回を見せ終わったらPVも見せてやることにしよう。アイツがここまで貢献してくれるとは思わなかった。
「ところで有希、どうして何度もランジェリーを変えていたんだ?五人とも色が違うし、シーツの色とも噛み合ってない。前回と真逆のものになりそうだが本当に大丈夫なのか?」
「問題ない。それだけ朝比奈みくる専用の椅子がデザインしたランジェリーが多かった。それに、前回はあの二人の羞恥心をなるべく少なくするために朝倉涼子が打開策を提示した。NGが出ることは計算済み。でも、前回のようにシーツの色でランジェリーを誤魔化すようなことはしたくなかった。あなたには流れや順番がバラバラに見えるかもしれない。でも、ドラマ撮影のシーンを入れて編集したものをあなたに先に見せる。シーツの色はいくらでも編集可能。五人全員での撮影ではなく、一人ずつの撮影もしている。近日中に完成する。それまで待ってて」
「分かった。有希がそこまで言うのなら俺からは何もない。PVの完成を楽しみにしているよ」

 

「それで、進捗状況はいかがです?ドラマの脚本もそうですが、ディナーやおススメ料理、25日の打ち上げ、さらには忘年会の料理の仕込みまでありますからね。すべてあなた一人に任せてしまったら、社員や楽団員たちにどう説明していいものやら分からなくなってしまいます。僕が担当しているおススメ料理の仕込みはすべて終わりましたし、明日も夕方までは電話対応くらいしか思いつきません。仕込みを手伝わせていただけませんか?」
「だったら、ウェディングケーキ並のクリスマスケーキを二つ作ってくれるか?情報は後で渡すが、部位に応じて違う野菜を混ぜ込んだケーキだ。通常ならケーキをクリスマスツリーのように仕立てるには抹茶を使うが、それを野菜で代用する。低糖質低カロリーのオリジナルケーキだよ。てっぺんのスターも星型に成型したシューの中にクリームをテレポートで入れて金箔を張る。突き刺す棒の代わりにポッキーかトッポを使ってくれ」
「くっくっ、黄金まで食べ物にするとは恐れ入ったよ。黄有希さんのことを考えるとウェディングケーキ二つでも足りないくらいだ。クリームをテレポートで入れるのも、どこを食べてもクリームが入っているようにする。そうだろう?」
「ああ、テレポートでないと何か所にも穴をあけて注入することになってしまう。とりあえず、まずはそれから頼む。脚本の方は第九話まで完成した。次回予告もこうして欲しいというものを用意してある。第九話の最後で例の密室の状態を見せて終わりにする。最終話の方はまだ途中だが、佐々木たちもトリックを解いてみたいらしくてな。脚本が完成しても肝心の解決編だけは抜け落ちた状態だ。解決編の撮影は……バレーのオンシーズンに終わった頃になるか、もしくは最終話の放送直前に撮影して、それ以前に出演するバラエティ番組では、『解決編だけ未撮影で僕たちにも犯人とトリック、その証拠がまだ分からないんです』とコメントしてもらうことになるかもしれん」
「くっくっ、僕たちがその密室殺人のトリックを解いた時点で解決編の撮影をすることになりそうだ。キミがトリックを考えた時点でジョンも知っているはずだから、絶対に喋らないでくれたまえ」
『面白いじゃない!年内に解決編の脚本をみんなに配らせてやるわ!』
「じゃあ、これが第九話の脚本と次回予告だ。月曜日だけで新川さんが出演するシーンを撮りきれなければ青新川さんに入ってもらえばいい。そのときの食事は俺が用意する。あとで情報を新川さんに渡しておけば、ファーストシーズンが終わった後のように、女性社員から新川さんに何か言われても心配いらんだろう」

 

「ん~~~~~」
「急にどうしたんだ?おまえは」
「あたしも最近はドラマをほとんど見なくなったけど、ドラマの後半になるとオリジナルサウンドトラックとかプレゼント商品があったじゃない。今回の密室トリックと犯人を暴いた視聴者に何かプレゼントするのも悪くないかなぁって……」
「それいいわね!ん~~そうね……密室トリックと犯人を暴いた人の中から抽選で10名様に、古泉君自らシャンプー&カットなんてのはどう?」
『女性ファンなら間違いなく飛び付きます!!』
「トリックと犯人を暴いただけじゃ事件は解決しない。証拠をはっきりと提示しないとな」
「犯人なら脚本に書いてある登場人物だけで分かりましたけど、密室トリックや証拠まではまだ……」
「えっ!?もう犯人が分かったんですか!?」
「みくるちゃん!ドラマの中じゃ頭の切れる刑事役なんだから、そのくらい分からないでどうするのよ!?子供たちは別として、犯人だけならもうみんな分かってるわよ!?」
ハルヒの一言にみくる以外の全員が首を縦に振った。
「え――――――――っ!?なんで?どうしてみんな分かるんですか!?」
「昨日、キョン先輩が言ってたじゃないですか。『イニシャルがS・Hの人を集めて一人ずつ殺害する』って」
「それはわたしも聞きましたけど、でもそれが何か関係あるんですか?」
おいおい、みくるには証拠を突きつけるときに色々と専門用語を言ってもらわないといけないんだぞ?
「も――――――っ!!鈍感過ぎるわよ!決めた。金曜日の撮影開始までに犯人が分からなかったら、二月号と三月号のランジェリー特集、みくるちゃんのページだけ増やすことにするわ!!涼子もそれでいいわよね?」
「でっ、でも、異世界の方でも冊子の売れ行きが良くなるように、有希さんと朝倉さんに催眠をかけるんじゃ?」
「うん、それ、無理。わたしや有希さんに催眠をかけて撮影したページも確かにあるけど、朝比奈さんをモデルに撮影したページの方が多くなるに決まっているわよ」
「そんなぁ……」

 

 夜練後、シャンプーをしている最中もみくるは脚本の登場人物欄とにらめっこしたままでいた。
「キョン君、たったこれだけで犯人が分かるんですか?」
「俺からヒントを出すわけにはいかない。みくるには自力で解いてもらうしかないな」
「でも、どうしてみんなこれだけで犯人を見つけられたのかさっぱり……」
全身マッサージ中もエアマットの外に脚本をおいて考え続けていた。この分じゃ、ジョンの世界に脚本を持ちこんでも考えていそうだな。
 結局、翌朝になってもみくるは台本を見つめたまま朝食を食べ進めていた。
「なぁ黄ハルヒ、そろそろヒントくらい出してもいいんじゃないか?」
「駄目よ!ヒントなら昨日沢山出たじゃない!」
「僕らの方こそヒントが欲しいくらいだよ。実際に孤島に行って事件現場を再現してもらえないかい?」
「今日のスーパーライブの準備ができているなら、そのくらいの時間はあるか。なら先に今日の予定を確認してからだ。警備と案内はこれまで通り青俺に任せる。ただ、SPだけは午前中から配備して欲しいのと、アーティストには、入口から入って直結エレベーターで天空スタジアムに行くように指示を出してくれ。地下の駐車場がいっぱいで車両が入りきりそうになければ、我が社で使っている車はキューブ化して欲しい」
「分かった」
「それから、いくらテレビ朝日の人間でも、今夜のスーパーライブとはまったく関わり合いがない人間やスーパーライブのついでに別の取材もしようと目論む人間は入れない。人事部にはそういう電話がくるはずです。ライブ関係者で入れないと電話をかけてくる人間には、入れるようになるまで仕事を他の人間に頼むように告げてください」
「社員にもそう伝えておこう」
「あとは、今日の日本代表のディナーは、青ハルヒと接客メンバーには催眠をかけた状態で三階に降りて来てもらう。佐々木は体調が悪そうなら、ディナーの接客には無理して出なくてもいい。今日は一人一つの品が多いからな」
「そのときは100階でサードシーズンの脚本でも考えることにするよ」
「俺からは以上だ。全員食べ終わったら孤島にテレポートする……って、天気は大丈夫だろうな?テレポートした瞬間に土砂降りの雨なんていうのは勘弁して欲しいんだが」
『なら、俺が先に向かうことにする。例の部屋も俺が作っておこう』
他のメンバーにもテレパシーをしたらしいな。
「すまん。よろしく頼む」

 
 

…To be continued