500年後からの来訪者After Future8-12(163-39)

Last-modified: 2017-01-07 (土) 21:56:54

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-12163-39氏

作品

ついに他の時間平面上の情報統合思念体と同期した急進派の残党たち。5000体を超える涼宮体の出現に飽きを感じながらもジョンやその仲間たちはその怒りをあらわにしていく一方だった。主流派に抑えられたところで、事後処理をして戻ってきたが、まだまだ修行の日々は続きそうだ。いよいよバレーオンシーズン。影分身の修錬で培った集中力を発揮するときがついに訪れた。

 

 OGからの素直な質問に『殺し屋より愛をこめて』と朝倉が一文字増やしてアレンジしていたが、ジョンもやはりあのシーンが一番印象に残ったか。
『あれは笑った。だが、キョンの言う通り、あのシーンをちょっとでも思い出すと、本来の声優の方が良いと俺も思った。界○様も声優代わってしまったしな』
そういえば、初代亀○人の声は聞いたことはあったか?復活の『○』のときとは質が全っ然違うからな。かめ○め波も超カッコイイぞ?威力が倍以上違うと言っても過言ではないくらいだ。確かジョンは、サ○ヤ人編からしかアニメを見てないだろ?
『それはもっと早く言って欲しかった。すぐに用意してくれ』
ついでにあの時間平面上のジョンにも漫画本も入れて全部用意するから、DVDが見られるように配線を弄ってくれるか?DVDの方をあの時間平面上のモニターに映るようにしてくれてもいい。その辺は任せるよ。
『分かった。当分の間、あの時間平面上の俺だけ修行に参加しなくなりそうだ』
おまえだって同じだろうが!昼の間は心配いらないが、夜の修行は朝倉と二人でやれなんて言いかねん。
『キョン君、準備できました。そろそろ行きませんか?』
やれやれ、どこぞの格闘家じゃないが、熱湯をかけられても他のことに気がつきそうにない。テレパシーで割り込む以外、方法はないと諦められているな、これは。
「すまん、さっき話題に上がったTVスペシャルの件で、ジョンと盛り上がっていたんだ」
「ふふっ、あんなアレンジの仕方があったなんて、わたしも聞いたときはどちらかというと驚きました。でも、やっぱり本来の声優さんが一番良いです!」
「ド○ゴンボールをかき集めて蘇らせたいくらいだよ。寿命だから叶えられないだろうがな」
「そうですね。本当に惜しい人を亡くしてしまったとわたしも思います!」

 

 みくるの煎れたお茶が冷めないうちに閉鎖空間を取り付けて文芸部室へ。鍵を開けるついでに、あるものの情報結合を解除した。みくるとみくるの煎れたお茶『だけ』が迎え入れられ、俺は招かれざる客なのは相変わらずだ。しかし、コイツ等というより、みくるが当時座っていたパイプ椅子を本社にスカウトしたいんだが、周り全員が羨ましがるはず。いっそ文芸部室ごととは思っているんだが、異世界の69階より下に移してくるしか方法がない。移動して全員に連絡すれば、最初の頃はハルヒや有希も顔を出すだろうが、結局は俺とみくるだけになるだろう。これについては諦めるより他に手立てがない。
「よう、第二話はどうだった?」
『面白かった!』『みくるちゃんがカッコ良かった!』『異世界の古泉君もカッコ良かった!』『でも、古泉君も出てたよね?』『そうそう』『美容院のときは古泉君だったよ?』『やはり俺のデザインした下着はみくるでなくては…』
「おまえら、良く気付いたな。美容院のときは古泉で間違いない。今後は俺が古泉に化けていることもあるけどな」
『古泉君に化ける!?』
どうしてそこで全員のセリフが一致するんだ!?おい。まぁ、見せた方が早そうだ。
「やぁ、どうも。皆さん、お久しぶりですね。お元気でしたか?……なんてな、古泉にしか見えないだろ?」
『えぇ――っ!古泉君に見えない』
「えっ!?みんな催眠を見破れるんですか!?」
「それなら話は早い。今後、同じように催眠をかけた状態のハルヒや有希、本物の古泉が出てくるからどれが誰なのか当てるクイズでもしよう。だがまずは、第三話を見せるところからだな」
『クイズ!?やるやる!』『し――――――っ!!ドラマが始まるんだから、静かに!!』
古泉の催眠を解いてみくると二人で北高を出た。アレも情報結合し直したし、アイツも喜んでいる頃だろう。デザインもすぐに朝倉や有希に渡したいものだらけだ。

 

「しかし驚いたな。あいつらにも催眠が効かないとは予想外だ」
「わたしも吃驚しました。古泉君が言いそうなセリフをそのまま言ったのに……あれ?キョン君、あいつら『にも』ってどういうことですか?他にも催眠だとバレてしまう人がいるんですか?」
「バレるというより、催眠そのものが効かない。有希も朝倉も、昨日の戦争で倒した涼宮体も……要するに宇宙人全員だ。古泉と園生さんの結婚指輪もあの二人には最初から見えていた。青古泉のネックレスもな」
「じゃあ、古泉君たちの指輪に最初から気付いていたのに黙っていたってことですか?」
「高三の頃、俺と古泉を同時に青チームと入れ替えたときも、あの二人には即バレてしまったんだが、黙ってくれていたからな。催眠をかけるには相応の理由があると、その辺の礼儀はわきまえているってことだ。それで、みくるはこのあとどうする気だ?練習に出るか?ビラ配りに参加するか?」
「わたしはキョン君のお手伝いがしたいです!」
「分かった。なら昼食の支度を手伝ってくれ。調理場で夕食のおでんを作る」
「はぁい」
みくるにはそう伝えたものの、調理場は古泉と青ハルヒの影分身でディナーの準備をしていた。明日のディナーの準備は俺が担当すると提示して、俺⇒古泉⇒青ハルヒの順で決まった。おススメ料理についてはその日空いている人間がやればいい。異世界支部の81階に降りておでんの仕込みを開始した。半分に縮小されたテーブルの上に所狭しと置かれた青チームの携帯とその充電器。そして、その後ろに佐々木たちのためのデザイン用の机が二つ。二人の影分身がデザインを考えていた。って、二月に入ったからレストランに入れる報道陣が増えるんだったな。バレーの取材で本社に入ってくる報道陣も多いだろう。昼食時に伝えておこう。

 

『ここで調理を始めるのは構わないけれど、ちゃんと遮臭膜を張っておいてくれたまえ』
「おまえらに揃って言われなくてもそのつもりだ。だが、匂いでアイディアが閃くなんてこともあるんじゃないか?」
「くっくっ、確かにあり得るかもしれないけれど、可能性としてはかなり低い。僕たちのお腹の音が鳴るだけだ。あまり恥ずかしい思いをさせないでくれたまえ」
あと二ヶ月もすれば社員食堂の厨房も使えなくなってしまうのか。だがしかし、そこまでして作るものと言えば精々カレーくらい。あとは調理場と両方の世界の81階でなんとかなるだろう。
 昼食時、真っ先にデザイン課から上がってきた有希と朝倉にみくる専用のパイプ椅子がデザインしたものを受け渡した。現在進行形でみくる達が座っている椅子に負けるわけにはいかないと強い思いが伝わってきたからな。二人の表情が違う意味で曇っている。
「困ったわね、四月号でも下着の特集を組まないと収まりきらないわよ」
「でも、このデザインは例の椅子だけで考え出したもの。この二台もそれ以上のものを考えていてもおかしくない。あなたがサイコメトリーでデザインを受け取って。わたし達は直接受け取りたくはない。気分を害する」
「だそうだが、おまえらちゃんと考えたのか?」
『もっ、勿論です!!』
二台の椅子から情報を受け取ったが……さらに参ったことになった。四月どころか五月も下着の特集を組む必要がありそうだ。SOS団の次のシングルのPVもランジェリー姿の五人が映ったシーンが半分を占めかねない。
「朝倉、三月で終わりにして、来年に回したらどうだ?サイコメトリーしたが、これじゃ五月もランジェリーの特集を組まざるを得なくなるぞ。SOS団の次のシングルまでPVが下着姿のものになりかねない」
「それもそうね。デザインを受け取ってもいいかしら?三月号に載せるランジェリーを、もう一度仕分け直してみることにするわ!」

 

『催眠がすぐにバレた!?』
「わたしも吃驚しました。どこからどう見ても古泉君の催眠をかけて、古泉君が言いそうなセリフを喋ったのに、古泉君に見えないって……美容院のシーンだけ古泉君になっていたのも全部バレてました」
「今後はハルヒや有希も催眠をかけた状態で出てくるから、クイズでもするか?なんて提案したらやる気満々だったぞ。女子高潜入捜査の回で出てくる青みくるの鶴屋さんっぷりでも、本人じゃないとバレるかもしれん。ところであの二人は今日は来ないのか!?俺たちと一緒に試合するもんだとばっかり思って二人分作っておいたんだが」
「一緒に練習していたわけじゃなかったですし、昨日の一件もあって……ジョンの世界でも当分はバレーの練習にはならないだろうって鶴屋さんに伝えておいたんです。今日、午前中のうちに連絡はしてみたんですけど、キョン君のダイレクトドライブゾーンに本番で合わせられるか不安らしくて……観戦には来るそうなんですけど、試合には出るかどうか分かりません。でも、キョン君が鶴屋さん達の分の昼食を用意してくれたって言えば食べてくれるかもしれません」
「問題ない。食べきれなければ、わたしが食べる」
「ところで、ドラマの視聴者プレゼントのお知らせについてなんだけどね、第七話以降のストーリーやトリックを考え出したのはキョンだ。第六話の次回予告から視聴者プレゼントのお知らせを入れてもいいと思うんだけどどうだい?脚本はすべてキョンが手掛けたことももう告知しているからね。第七話だけで犯人とトリックを暴いた人にも古泉君のシャンプーとマッサージを体感してもらうのも悪くないと思うんだけどね」
「黄佐々木先輩、第七話だけじゃ、トリックの解明と15の数字の意味なら分かっても、犯人を特定するの不可能です。例の酸素を発生させる装置を、空気清浄機だと言い張った女子が現れたのが、確か第八話になってからだったはずです」
「彼女の言い分に間違いはない。確かに第七話だけで犯人を特定するまでは不可能。でも、次回予告は編集し直してもいい。第六話の終わりから、視聴者プレゼントのお知らせを入れるのはわたしも賛成。大画面でも映すことにする。第七話で犯人の特定が不可能な分、最終回を解き明かした人の中から抽選で20名に増やせばいい。それに、そろそろ例の生放送番組からオファーが来る頃。収録後、解けたかどうか聞くことも可能」
「フフン、ならあたしが採点するわよ!それに、NG集はいつ撮影するわけ?」
『ごめんごめん、サードシーズンの脚本を考えるのに夢中でそのことをすっかり忘れていたよ。NG集としてふさわしいシーンを用意しておくから堂々と間違えてくれたまえ。ところでキョン、サードシーズン以降で何か閃いたものは無いのかい?』
「サードシーズンの途中で、青古泉が反撃に出るシーンを入れたいと思ってるくらいだ」
「僕が反撃に出るということはあなたの演じる役に対してということになりそうですが、一体何をするんです?」
「ほとんど毎日のようにサイコメトリーを繰り返している青古泉と俺のサイコメトラーとしての実力が逆転するシーンを入れたい。みくるから『一樹君、例のアンチサイコメトラーについてなんだけど、彼は以前、あなたとはサイコメトラーとしての実力が違うと言った。その彼でも、情報を書き換えることはできても、情報を無にすることはできないはずよ。だってそれが可能なら、あたしならすべての情報を消去して、サイコメトラーとしてのあなたを使い物にならなくするわ。つまり、書きかえられた情報を元に戻すことだって可能なはずよ!』とでもアドバイスさせて、書きかえられた情報を元に戻せないか試させる」
「キョン、それをサードシーズンに組み込んだら、それ以降のストーリーがすべて変わってしまうじゃないか。でも、いつまでもやられっぱなしというのもどうかと思うし、キミのその案で反撃の狼煙をあげようじゃないか。その後の展開も考えておいてくれたまえ」

 

「すまん、朝言い忘れていたんだが、今週末からレストランに入れる報道陣が増える。レストランに入れないのは他のメディアからレストランの様子を収めたものを受け取った新聞社三社のみだ。俺も入れるときはなるべく電話対応に向かうが『レストラン内に入れなくても、中の様子を毎回載せているだろう』と返して欲しい。その三社だけは今月いっぱいまで入れない状態を継続させる。いくら頼んできても容赦はしない。それと同様、このあとの練習試合からバレーの撮影に入ってくる報道陣が一気に増える。以前、選手の泊っているフロアに入ろうとしたり、ディナーをつまみ食いしようとしたりで本社に出入り禁止になった連中。ついでに天空スタジアムの様子を撮影しようとしたり、バレー以外で俺に取材を試みようとしたりなどという考えの持ち主は入れない。人事部に電話がかかってきた時点でその事実を突き付けて欲しい。影分身で電話対応が可能なら、一体でもいいから第二人事部にまわしてくれ。覚醒モードで相手セッターを見極める以上、俺には影分身が出せない」
『問題ない』
「くっくっ、交代要員として数えないで欲しいんだけれど、僕も試合をベンチで見ていたい。影分身なら膨らんできたお腹を見られることはないからね」
「心配するな。子供たちが帰ってくれば、交代要員ならあの三人がいる」
「では、昨日に引き続き、今日も大暴れさせていただきます!」
「あたしにボールを集めなさいよ!?」
「足手まといにならないように、わたしも頑張ります!」
「殺気が出ているわけじゃないけど、こういう気分になるのも悪くないわね」
「問題ない。わたしが相手をかく乱する」
『私たちも試合するより先輩たちの試合を見ていたいです!!』
「六人全員は難しいでしょうが、二、三セット終えた時点で彼自ら交代すると言っているんです。子供たちがくるまでの交代要員として、ご覧になってはいかがですか?途中で鶴屋さんも来てくれるでしょう」
『あたしに任せなさい!』

 

 赤のユニフォームで体育館に降りるなんて10年ぶりのような気がするな。いつもの黄チームに青みくるが加わっただけだから、サーブは古泉からハルヒ、有希、俺、朝倉、青みくるの順。オンシーズンで俺が出てきたせいか、空気が昨日までとは違うようだ。体育館に現れた報道陣もカメラが俺に向いていた。サービス許可の笛が鳴り、古泉のナックルサーブが炸裂するかと思いきや、至って通常のサーブ。昨日は出番を与えた分、今日は俺に出番をくれると言いたげなサーブだ。
「B!古泉、朝倉、一歩前!」
アンテナからボール一個分ずれてブロックに跳び、その間を通す精密なスパイクも古泉の真正面。味方に攻撃を仕掛けるようなレシーブが有希へと一直線。古泉のレシーブを更に昇華したバックトスで、ハルヒのCクイックが相手コートに叩きつけられた。生憎と、160km/h台投球より更に速い修行を繰り返してきたんだ。このくらい、ゾーンでなくとも止まって見えるってもんだ。
「あんた、ブロックに飛ばなくてもいいんじゃないの?ただでさえ有希が前衛なんだから攻め手を減らすようなもんじゃない!どこから来るかさえ分かれば、あとは腕の角度で誰に行くか、あたしたちでも分かるわよ!」
「分かった、じゃあ、次からブロック無しだ。自分じゃないと思ったらすぐに攻撃態勢だ。いいな?」
『問題ない』
古泉の第二球、もはや零式以外の理不尽サーブなど必要ない。次は・・・
「C!俺だ!」
ライトから跳んできた選手が俺の顔面狙いらしいがそうはいかん。一歩下がって腕でレシーブ。有希の頭上に上がった球をそのままツーアタックで落とすと、古泉の第三球でようやく俺の出番が来た。
「ブロード!スイッチ!!」
ブロードに跳んで真下に落とそうとしたが、有希に遮られ、レシーブされた球をそのまま俺がバックトス。朝倉の見事なバックアタックがブロードに跳んだ選手に下がる暇も与えてもらえず、空いたスペースに叩きこまれた。周りもスライディングレシーブで取りに来ようとしていたが間に合わず。たまらず監督がタイムアウトを取った。

 

「見事な滑り出しでホッとしましたよ。しかし、ブロック無しの状態でどうやって判断したんです?自分と有希さんのところに行くと」
「簡単だ。何で来るか分かってしまえば、あとはその選手だけで十分。視線、顎の角度、踏みこむ位置、そんなところだ。日本代表になるほどの実力者なら、スパイクのステップを変えずに最初に踏み込む位置でコースを変える。俺のときも、有希のときも、一歩目がネットに近づきすぎなんだよ。前に落としてくることが容易に判断できる」
「視線についてはブロックアウトのときもそうでしたから納得できますが、顎の角度に、踏みこみの位置ですか。しかし、顎の角度でどうやって判断するんです?」
「視線と同じく、自分がこれから狙う場所を一度見据えてから跳びあがる。顎が下がっていれば前、上がっていればアタックラインよりも後方ってことだ」
「なるほど、この後の試合の中で気にしてみることにします!」
タイムアウト後、日本代表のWの文字が若干小さくなったようだ。向こうの攻撃で空いたスペースを補えるようにする作戦のようだが、どこに固めるかで攻め手が逆に読みやすくなってしまうぞ。真ん中から撃ってきますと言いたげに中央に寄っている。古泉の第四球が放たれた後………案の定!
「時間差!みくる、一歩前!」
生放送ではないし、天空スタジアムに行ったついでに見にきた一般客程度でブーイングなど一つもない。超高速連携に跳んでいた俺に有希の超光速トスが放たれる。有希のトスにブロッカーをつけるわけにもいかず、残り四人でガードを固めていたが、サイドラインギリギリに叩きこんだ俺のBクイックで、その策も通用しないと見せつけることができた。審判の笛と共に古泉が駆け寄ってきた。
「今の時間差はどこで判断したのか教えていただけませんか?」
コイツ、技が増える度に毎回聞きに来るつもりじゃあるまいな。だが、影分身の修錬で古泉もゾーン状態になってもおかしくない頃だ。判断基準を知っておけば、その時々で対応できるようになるだろう。
「セッターの手だよ。他の技より手に力が入るタイミングが若干だが遅かった。こんな試合でオープントスなんて要求されない限り使うわけがない。時間差攻撃以外に選択肢はない」
「バックアタックではなく、一人時間差だとどこで見破ったんですか?」
「見たままだ。スパイクを打とうとしているのに、あの選手だけそれが異様に遅かった。Aクイックなら、あんな悠長にステップを踏んでいる暇など無い」
「いやはや、勉強になりますよ。あなたの解説の一つ一つに納得がいきます。この後も色々と教えてください」
「それは構わんが、主審に急かされているぞ?」

 

『おっと、これは失礼を』などと言いたげにボールを受け取ってエンドラインの外側へと走っていく。しかし、ここ半月はあの時間平面上での戦争のための修行に明け暮れていたというのに、トスにもステップにも乱れ一つ感じられん。簡単に取られてしまうとはいえ、自分の狙ったところに一直線。すでにゾーン状態に入れるようになったことに気付いていないなんて、古泉に限ってそんなことがあるはずもない。
「バック!古泉!」
今度はA、Bのクイック技を囮に使ってきたか。その分こちらの狙う範囲が広くなるってもんだ。しかし、味方のレシーブ力には驚かされるくらいだが、この連携技を使うにはより精密なレシーブ力が必須条件だ。古泉の正確なレシーブから有希が選択したのはみくるのど真ん中からのバックアタック。相手コートの右隅を狙った圧巻のバックアタックで更に追加点を得た。
『今のみくるの攻撃ではっきりした。スパイクを撃ってから下がる時間がない分、他の選手がその分のカバーに回っている。要はそこから攻撃が来て、カバーで寄った分他がガラ空きになるってことだ。スパイクもただ撃つだけじゃなく、狙いを定めていこう』
『問題ない』
 覚醒状態で相手の動きをとらえている分、指示ミスはなかったが、極端に正確性が問われるレシーブも長続きせずにローテーション。だが、これまでのように一セットが異様に長いということもなく、二セットを勝ち取ったところでOGと交代した。小学校や保育園から帰ってきた子供たちも、ベンチに俺がいるだけで嬉しそうにしていた。
「監督、今日の試合を終えていかがでしたか?」
「この日を待ちわびていたと言わんばかりの連携に呆れ果てましたよ。八月の後半では、ラリーが続いてセッターに迷いが出るようになってから、ようやく采配が読める状態だったはずの彼が、約半年の間に更に集中力を磨いていたようです。二セットだけでしたが、一度たりとも間違うことなく指示を出されてしまいました。加えて、他の選手たちのレシーブ力の高さが無ければ、あの連携は絶対に成り立ちません。防御に転じる隙を与えないためとはいえ、セッターに攻撃を仕掛けるようなレシーブは相当な正確性を問われるはずです。いつまで経っても終わりの見えない防御力をこんな形で攻撃に昇華してくるとは……圧巻の一言です」
「監督、ありがとうございました」

 

「キョン社長、日本代表の攻撃をすべて見切っていらっしゃいましたが、あの集中力はどのように培ったものなんでしょうか?」
「元々は、ジョンと二人で話していると周りが何をしていても全然気が付かず、ハルヒには怒られ、古泉からはジョンとのやり取りで得た集中力のことをゾーンなんて呼ばれ方をしていました。ですが、近年はそのゾーンをもってしても相手の動きを見切れず、何とかならないものかと色々と思案した結果、告知で飛行機の中にいる間は、集中力を鍛えるために座禅のようなものをしていただけです。時間ならたっぷりありましたからね。ただ、飛行機から降りる時間になっても一向に動く気配が無く、何度声をかけても反応が無かったと何度もヒロインに怒られましたよ」
「今日のプレーはその鍛えられた集中力から生み出されたものということでしょうか?」
「仲間のレシーブ力があってこその連携技です。一見、味方に攻撃しているように見えるレシーブも、相手に防御態勢を取らせないための一手。俺の指示はそのサポートに過ぎません。ですが、指示した分、それ以外の仲間は相手にスパイクを撃たれる前に攻撃態勢に入ることができる。後は有希の超光速トスにスパイカーが合わせるだけです。仲間の今の実力を加味した新しいゾーンの戦型。以前読んだバスケ漫画をヒントにバレーで同じようなことをできないかと考え抜いた末、このようなプレースタイルになりました。ちなみに、その漫画には『ダイレクトドライブゾーン』なんて名前がついていましたね」
「最近は漫画の世界観を現実のものにするというパフォーマンスが多いようですが、あれは一体どうやって…?」
「では、失礼します」
くくく……無駄だよ。何年このやりとりをやってきていると思っているんだ。バレー以外に関する内容は容赦なく切り捨てる。どこの誰とも分からないオッサンに「お願いしますよ!」なんて言われて応える奴がどこにいるのか聞いてみたいもんだ。しかし、今回からは三階に下りずに81階に上ってみんなと夕食が食べられるんだ。後は頃合いを見て影分身を送ればいい。さて、圭一さんのかけた電話はどんな結果になったのやら。

 

「ただいま」
『おかえり~』
「ちょっとあんた!何よ、あのまわりくどいコメントは!!あんたが『ダイレクトドライブゾーン』って言い出したんじゃない!」
「まぁ、あのバスケ漫画から名付けたのは事実だし、『ゾーン』と言い出したのは古泉自身だぞ?しかし、今回は意外と話しやすかったよ。ジョン、古泉、ハルヒ、有希の名前を出してもすんなりと受け入れられるんだからな」
「明日の新聞がどうなるか楽しみになってきましたよ。ですが、そろそろ影分身を降ろしていただけますか?日本代表やカメラマンが先に来てしまいそうですので」
「ああ、因みに、俺一人と調理スタッフを一人つけるのとどっちが良い?」
「人手は多いに越したことはありませんが、今回はそこまで時間を持たせてはもらえなさそうですし、二人でお願いできませんか?」
「まぁ、今までと違ってここで練習を続けているからな。ペースもそこまでゆっくりになることはない……か。因みに、楽団員は今日は何を演奏するんだ?それに、この二週間、楽団員たちの夕食はどうする気だ?」
「問題ない。五階に調理場を情報結合して夕食のスタッフに作らせている。楽団員もこの二週間は自炊するか、直接五階に行くように伝えてある。それに、一般客用に一階に立札も設置しておいた」
「何とまぁ、非の打ちどころのない配慮をしてくれたもんだ。ありがたい」
『キョンパパ、早くご飯!』
「おっと、すまん」
『いただきます』

 

「そういえば、Aクイックとバックアタックの見分け方を聞いていませんでした。どうやって見分けているのかお聞かせ願えませんか?」
「その前に、ようやく自分もゾーン状態に入れるようになったと報告したらどうだ?」
「おや?バレてしまいましたか。ですが、それでも判別が付けられないので困っていたんですよ」
「だから俺は、ゾーンの第二段階になれるよう影分身で修業を積んだんだ。今後は園生さんとテレパシーで会話するように心掛ければいい。この状態までたどり着けたのもテレパシーと影分身だからな。Aクイックとバックの違いならセッターの手首の角度だ」
『手首の角度?』
「Aクイックの場合、すぐ上にトスをあげないといけないから曲げる角度が大きくなる。バックの場合は少し距離が長い分、そこまで曲げる必要がなくなる。だが、ゾーンだけで見破れた頃と違って、日本代表のセッターもほとんど見分けがつけられなくなってしまったからな。他の国の選手を見た方が早いと言いたいところだが、バレーの中継はほとんど真横からだから分かりにくい。かと言って、この中のセッターもほとんど見分けがつかんからな。読み取れたとしても、青朝倉か岡島さんくらい。青OGのセッターは青古泉より分からなくなってしまった」
「それは聞き捨てなりませんね。どっちの方が読みづらいか黄僕に判断してもらうことにします!」
「何!?古泉がハルヒ達との約束を蹴ってまでバレーに参加する!?おいおい、明日はこの時間平面上で戦争が起きるんじゃないだろうな!?あの罰以降、古泉が今までにない発言をすることが増えてきたから、逆に心臓に悪い」
「失敬な。今のは彼の一言がきっかけで涼宮さん達とのバトルの約束を忘れていただけです。ですが、納得がいかないのは確かです」
「俺たちが大学一年の段階で青古泉よりこっちのOGの方が読みにくかったんだ。あのときは最後の最後までAクイックとブロードの違いが分からなかったからな。青俺がもう少し影分身の修行を積めば二人のどちらがより読みにくいか区別できるはずだ。ゾーン状態になれるようになったと言っても、今じゃあまり使い道が……ゾーン状態じゃ無くてもバックスクリーン直撃弾なら古泉も打っていたからな」

 

「くっくっ、彼がそこまで影分身を使いこなせるようになったことは、僕にとっても嬉しいことだけれど、そろそろ話を戻さないかい?日本代表たちの前で、一体何の曲を演奏しているのか聞かせてくれたまえ」
「この後報告がある件と同じ。ル○ン三世と名探偵コ○ンのジャズセッション」
「やれやれ、楽団員にも随分と目立ちたがり屋が多いらしいな。バレーのオンシーズン初日にそんな曲を選ぶとは思わなかったぞ。あとで同期しておくことにしよう。また話を脱線してしまって申し訳ないんだが、古泉がゾーン状態になれたことがそんなに嬉しいのか?」
「今までキミにしか出来なかったことをできるようになったってことだろう?OGが零式を撃ってきたときのことを考えてみたまえ。あのときはキミしかネットに引っ掛かるのかどうか分からなかったんだ。それに、僕らも影分身をマスターすればキミと同じ集中力が得られるってことだ。僕らの研究には必要不可欠だとは思わないかい?」
「とはいえ、OGが相手として零式を撃ってくることはもうあるまい。俺たちが対応策を見せることも無ければ、明後日は零式改(アラタメ)の披露試写会だ。それにしても、そんなにおでんが気に入ったんですか?鶴屋さん達がまったく喋らないなんて驚きましたよ」
『こんなおでんは初めて食べたにょろよ!もうこのおでんでないと美味しいとは思えそうにないにょろ!』
「まったくだ。私もつい食べる方に夢中になってしまったよ。例の電話の件なら君達の予想通りだ。ル○ン役の声優とTV局で揉めているらしい。交代が確定したら今後は毎回君がアフレコに参加することになるんだからね。それにコ○ン側の方も一悶着あったらしい。君の成田での映像を見て、これなら毛利○五郎役も君にと要望してきたそうだ。だが、そちらに関しては元の声優もOKしているとのことだ。今の声優も納得していると言ってたよ」
「くっくっ、ケン○ロウとキン○マンの二役をやれば当然の結果だよ。キン○バスターはプロレスでも使っているけれど、ほとんどアニメだけだった技をあそこまで爽快感溢れるものにして見せてくれたんだからね」
「元はただの物真似芸人だっただけじゃない!急進派みたいな安いプライドを振りかざしているくらいなら、もっと他のところで活躍しなさいよ!代変わりした頃なんて全っ然似てなかったんだから!唯一の仕事が無くなるじり貧状態になるから揉めているに決まってるわ!」
「それも、年に一度あるかないかの仕事ですからね。他にどんな仕事をしているのか逆に伺いたくなりましたよ」
「しかし、黄古泉もゾーン状態か。あの攻撃的なレシーブでもミリ単位で黄有希のところに正確に跳ね返せそうだ」

 

 ディナーの片付けはOG六人が交代で担当しているし、カレーは食べてもW有希は未だ全員の雑用係は変わらず。青ハルヒはすぐにでもシャンプーとマッサージをと要求してきたが、いくら影分身でも明日の午前中だけではちと厳しい。鶴屋さん&みくるはどっちのペアも話が盛り上がっているところだしな。それで、初代亀○人のかめ○め波は見たのか?
『キョンの言っていたことが良く分かった。○空が真似したがるわけだ。カッコ良すぎる』
そうだろう、そうだろう。しかし、明日は楽団の練習から始まって夜練までか。また、長い一日になりそうだ。俺は三日目まででそれ以降出場予定は今のところ無いが、あの時間平面上の建物を直しに行く時間がないな。
『プレコグが信用できなくなって、どの道シェルター暮らしが続くんだ。オンシーズンが終わってからでも十分だ』
それもそうか。なら、早いところ修行に向かうとしよう。去年青ハルヒと二人で行った旅行じゃないが、失神寸前まで抱き合っていたが、それでも両足を絡めて、背骨を折られるんじゃないかと勘違いするほど両腕で強く絞めつけられ、豊満と呼ぶにふさわしくなった乳房を潰してしまうくらい押し付けてきた。本当に離してもらえんらしい。秘部が前後とも塞がったまま青ハルヒが眠りについた。
「ところで、ご主人様に対する貢献度はどうなったんだ?」
「くっくっ、たった一日で影響が出ると思うかい?主従関係の中でも互いの信頼関係を築いていないと貢献度には影響しないよ。でも、昨日お願いしたことが受け入れてもらえて嬉しいよ。これからもご主人様に甘えてもいいですか?」
「ああ、勿論だ」
俺がジョンの世界に足を踏み入れる頃には青古泉VSハルヒ達の対戦が始まっており、もう一つのフィールドでも朝倉VSジョンの対決が幕を開けていた。OG達は朝倉と有希によって選出しなおされたランジェリーの情報結合。青みくるは入れ替えた椅子が元通りになっていることにまだ気づいていないらしい。気付かれたらどういうことになるか、あいつ自身も分かっているだろうし、青みくるがサイコメトリーすることが無ければバレることはないだろう。戦闘力5300000でフィールド上に足を踏み入れた。

 

「昨日もお仲間さん達に呆れられていたけれど、それ以外に力を解放するやり方はなかったのかしら?」
「朝倉だってナイフに関しては人のこと言えないだろう?もっと形状にこだわってみる気はないのか?誰でも持ってそうなナイフじゃなくて朝倉専用のナイフとかな」
「そういわれてみれば、そんなこと考えたこともなかったわね。闘い方によって色々と試してみようかしら?でも、時間も限られているし、わたしが考えている間に早く準備してもらいたいわね」
「その心配はいらない。こっちはいつでもOKだ。それに、しばらくはこの闘いが続きそうだからな。時間を気にすることもない。俺も気の扱い方がまだまだ成ってないんでな」
「なら、遠慮なく」
すかさず俺の背後を取った見事な高速移動に感嘆としながらも、ジョンの繰り出してきた攻撃と合わせて受け止めた。宇宙人に催眠は効かない。超サ○ヤ人化するときにどうしても出てしまうオーラを、何とか内に秘めた状態で気とコーティングのコントロールを同時に行うことが、今の俺の課題になりそうだ。そんなことができるようになったとしてそれ以上どうするんだと言われると応えづらいが、サ○ヤ人達のように修行ばかりでまったく働いてないわけではないし、新しい敵がやってきたときに、パンチ一発浴びせることすらできないんじゃ困るんでな。ジョンだってそれは同じ気持ちのはず。最低でもあの涼宮体と対等になるまでは続きそうだ。

 
 

…To be continued