500年後からの来訪者After Future9-15(163-39)

Last-modified: 2017-02-26 (日) 22:11:06

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-15163-39氏

作品

俺を司令塔に据えた男子日本代表チームVSハルヒ達のダイレクトドライブゾーン対決が行われ、男子日本代表選手たちの防御力やレシーブの正確さ、連携に課題が残り、今後はそれを修正しつつ男子もダイレクトドライブゾーンの習得を図っていくことになるだろう。女子の方も集中力を鍛えたOG四人がついにハルヒ達と同等の反応を見せ、レギュラーメンバーを牛蒡抜き。今後の展開が期待される中、観客と報道陣の紛争が勃発寸前の状態にまできていた。トラブルになった瞬間、喧嘩両成敗で追い出すからいいとしても練習の邪魔だけは御免被りたいもんだ。

 

 昼食時は話題に出なかったが、ハルヒ達はシレ知レセカイのダンスの振り付けを習いにダンスフロアに降りたはず。ホテルの告知、開始日等については青チームで考えるだろうから任せておこう。午後も練習試合として得点はカウントしているものの、やっていることは午前中のフォーメーション練習と変わりはない。セットが終わるごとにセッターが他のコートのセッターと交代して、他の選手も監督の指示で入れ替わっていた。今求められているのはスパイクやサーブの威力やブロックの高さなどでは無く、レシーブを正確にセッターに返せるかどうかだ。セッターの方も飛び込んでくるスパイカーに合わせてトスがちゃんとあげられるのかどうかが問われている。
「すまないが、次のセットはセッターをやって見せてもらえないか?どこまで違いがあるのか見てみたい」
「了解しました」
監督の申し出に二つ返事でOKした俺を見て、妻が不安気な顔をしていた。
『そう心配するな。ゾーンなら采配が読めるくらいの動きはする。ずっと采配を読んできたんだ。どのくらいならゾーン状態でも読めるかについては俺が一番良く知ってる』
『分かった。キョン、ありがとう』
飛び込んできたところに合わせるから、全員で攻撃を仕掛けてきてくれと他の選手に頼み、試合がスタート。両チームとも数点取ったところで大体の感触はつかめた。指示も出しているし、真正面の球なら俺のところに直線で返ってはくるが、ど真ん中となると指折り数えるくらい。ダーツをやっているような気分だ。俺のトスに選手たちは上機嫌だが……もう一度ハルヒ達を入れてやった方がいいな。アイツ等のレシーブがどれだけ正確か男子日本代表のセッターに実感させるには丁度いい。指示は互いに出ていたが、連携ミスが無くなった分こちらの圧勝。これで他のセッターに交代だろうと思っていると、監督からは「今日はこれ以降もセッターで」と指示を受け、トスを上げ続けることしばらく、ついに沸点を越えた観客と報道陣が練習用体育館中に響き渡る怒号を上げ始めた。まぁ、急進派の親玉よりはまだマシか。これが世界大会なら主審が即座にレッドカードを出すところだが、それもできまい。良い見せしめだ。代わりに俺がレッドカードを出してやる。そこまでする必要はないと俺も思ったがこの機会に厳重注意するには丁度いい。俺の全力の殺気で練習用体育館内を埋め尽くした。
「おい」
俺の放った平仮名たったの二文字に沸点を越えていたはずの連中が恐怖に脅えて縮こまる。
「おまえ等がどこから観戦しようが、どこから撮影しようが俺の知ったことじゃない。だが、メインはあくまで俺たちだ。それを邪魔しようとする奴にここにいる資格はない。そんなに怒鳴り合いたいのなら、丁度いい場所に俺が案内してやるよ。じゃあな」
元凶になった連中を本社前の川へとテレポート。機材は水で使い物にならなくなり、この季節の川の水の冷たさに悲鳴を上げている頃だろう。放っていた殺気を消して、主審に試合を続けてくれと願い出た。ようやく主審の笛が鳴り、他のコートもそれに合わせてプレーを再開。その後は、報道陣は勿論だが、観客も静まり返っていた。

 

「あ~~~吃驚した。いつかああなるとは思っていたけど、それよりもキョンの方が怖かったよ」
練習試合を終えて専用エレベーター内で妻から一言。
「ああなったときに、じゃあ誰が止めるんだ?って話だ。他の連中に見せしめるなら丁度よかったからな。あんな連中、10%程度の殺気でも十分だったんだが、全力で放ってみた。小競り合いが起こるならこっちより体育館の方だとばかり思っていたんだが、これで体育館にいる連中にも伝えられるだろ。観客と騒動を起こしたらどうなるかってな。勿論、観客の方ももう二度と入ることはできない。たとえライブやコンサートでもな」
俺が話している間に81階に到着し、新川さんを除くメンバー全員が揃っていた。
「久しぶりにあなたの殺気を浴びて興奮しちゃったわ。今夜は将棋よりバトルにさせてもらえないかしら?」
「まったく、ダンスフロアにまであんたの殺気が届くなんて思わなかったわよ!」
「観客と報道陣の間のトラブルで間違いなさそうですが……どんな状況になったのか聞かせていただけませんか?」
「まぁ、食べながらでもいいだろ?それに、ハルヒ達に男子の方の試合に、また出てもらいたくなった」
席について夕食を食べ始めたところで、トラブルの詳細を話し、試合に出てもらいたい件についても詳しく説明した。練習用体育館では影分身に清掃と不要物の吸着、テレポートを任せている。置いていったはずのものが戻ってくるとなれば、アホの谷口でもそのうちマナーを守るようにはなる。
「なるほど、予定調和とはいえ、止め役があなた以外にいなかったようですね。女子の方もそういう役柄がいればいいのですが……」
「心配いらん。そのときは俺のSPが動く。今回は最初ってこともあって敢えて俺が動いた。それだけだ。ハルヒ達に試合に出てもらいたいって話については、監督が承諾すればOKってことで構わないか?」
「面白いじゃない!ダーツのど真ん中にレシーブしてやるわよ!」
「ダイレクトドライブゾーンで『セッターがトスしやすいレシーブしてくれ』なんて初めて聞いたぞ」
「ゾーンを使う絶好のチャンスと言えそうですね」
「問題ない、わたしに任せて」
「これで監督にもOKを貰って五人のレシーブを実際に体感すれば、セッターも実感が湧くだろうし他の選手にも『もっとこうしてくれ』なんて注文ができる。フォーメーション練習前の基礎練習にもスパイクからのダイレクトドライブゾーン用レシーブの練習が追加されると思う。済まないが付き合ってくれ」
『問題ない』
「それと、本社と異世界支部の天空スタジアムの使用の件で思いついたことがあってな。一つ提案がある」
「提案って何よ!?社長のあたしが納得いかないものだったら許さないわよ!?」
「パーティも含めてだが、今年の年越しは天空スタジアムから見る絶好の星空と打ち上げ花火を見せたいと思ってる。当たり前だが、100階のビルの更に上だから、打ち上げ花火も閉鎖空間で足場を作って打ち上げることになる。大画面には一分前からカウントダウンを表示する。他の国でも年越しと同時に花火なんてよく見るだろ?そのあと天空スタジアムから初日の出を拝むってのはどうだ?年越しライブも今年は断って、夏場も本社で買った浴衣を着た人に天空スタジアム入場券を渡して年越し同様、花火を見物してもらう。世界で一番高い花火をな」
「も~~~~~~~っ!このバカキョン!!そんなアイディア出されたら、やるしかなくなるじゃない!!どうして去年はそれに気がつかなかったのよ!!」
「仕方がないだろう。天空スタジアムをどう使うか考えていたら、ようやく出てきたんだ。俺もどうして去年閃かなかったのかと後悔してるよ」
「分かった、年越しライブの依頼が来ても断ることにするよ」
「しかし、世界で一番高い花火ですか。超サ○ヤ人での投球と同様、ギネス記録には登録できそうにありませんが、やりがいがありそうですね。ヘアアレンジのチケットがそのまま天空スタジアム入場券ということになりそうです」
「………おい、涼宮社長。今の古泉の発言で何か気がつかなかったか?」
「まったくもう!今度は一体何!?」
「あっ、わたし分かりました!ヘアアレンジじゃなくてヘアメイクですね!わたし達の世界の店舗に黄有希さんが撮影したDVDを送って今のうちから練習してもらわないといけないです!」
「『やれやれ』が口癖になってしまいそうですよ。黄僕の発言から一瞬にして見当違いな方向にベクトルが向くんですから……ですが、両方の世界で一大イベントになりそうです。影分身が使える今だからこそできる所業ですよ」
「とりあえず、明日全店舗にDVD送るわよ!古泉君、店舗の数だけ複製しておいて頂戴!」
「了解しました」

 

『キョンパパ!早く泳ぐ練習したい!!』
「ああ、もう少しだけ待ってくれ。聞いての通り、子供たちを連れてこの後タイタニック号に向かう。どの道、明日の朝出港だし、影分身で80階に行って新川さんと交代してくるから、みんなで今日のうちに部屋を決めて客室に泊らないか?明日の朝食から向こうで食べるようにしたい。どうだ?」
『黄キョン先輩!私もプールで泳ぎたいです!!』
「あなたには子供たちの水泳指導があるようですし、新川さんとは僕が交代してきましょう」
「私も待ちきれなかったんだ。是非そうさせてくれ」
「異論無しってことでいいかしら?」
「明日からまた夕食後も忙しくなるっさ!今夜は盛り上がるにょろよ!」
『問題ない』
「おいおい、俺の報告と提案しかしてないぞ!?他に報告すべき事があるんじゃないのか?」
「問題ない。ダンスはそれぞれで練習するだけ」
「電話の方もWミリオンの件を受けて芸能プロダクションから彼女をうちのプロダクションにという連絡と、出禁になった人間からの悲痛な電話くらいです。デビューなら我々の手で十分可能ですからね。特に報告すべきものはありません」
「動画に気付いた他の芸能プロダクションからも勧誘の電話が飛び込んできそうだ。社員にも断るよう伝えておく」
「全シェルターの半分だけど、支給する料理ができた。明日、黄佐々木さんと一緒に未来に連れて行って欲しい」
「この土日で注文がきた西日本のピッキング・梱包は全部終わった。あとは明日説明するだけだ」
「各店舗一名ずつ店長を決めて社員に昇格することを伝えました。明日来る社員と一緒にデータ入力に入ります」
「パート・アルバイト・調理スタッフを含めて全員人事部に来るよう指示を出してあります。作業場の方は梱包作業の説明を。調理スタッフはすぐに社員食堂に移動させますのでランチメニューの仕込みに入ってください。明日面接を希望する電話もかかってきていますが、今のところデザイン課を希望する連絡は一つもありません。こればっかりはこちらと同様時間がかかりそうです。清掃業者等との提携については終わっています。商品を並べる棚についてはデータを貰ってこちらで情報結合することになりました。明後日から購買部が利用可能です」
「楽団員用のドレスについては明日社員に聞いてみるわね。イメージが湧いていてもテーマと違って描けなかったことだって考えられるし」
『キョン(伊織)パパ!早く練習!!』
「まずは自分の部屋を決めてからだ。子供たちが練習するプールには逆遮音膜をかけておく。見に来ても構わないが、子供たちの集中を欠くようなことだけは避けてくれ。タイタニック号はサウサンプトン港に停泊させておいた。明日の朝出港だ」
「じゃあ、部屋を決めて水着を選んだら温水プール前に集合!思いっきり泳ぎまくってやるんだから!」
『問題ない』

 

 新川さんに事情を説明した古泉の影分身がディナーを引き継ぎ、食器の片付けは未だ雑用係の有希たち。まぁ、テーブルの上に物が無くなった分、椅子と一緒にタイタニック号の船首へと移動することができたんだけどな。青新川さんには古泉が厨房の案内をしていた。颯爽と水着に着替えてプールサイドに座った子供たちにカラーヘルパーの紐を結ぶ練習をさせた後、10mのバタ足からスタート。逆遮音膜はつけているものの、プールにダイブした水飛沫が跳ね上がっているのが見えた。こんなことをする奴はハルヒ達しかおらん。各部屋の鍵は影分身がそれぞれに手渡したし、あまり遅くならなければこのまま温水プールで遊んでいてもいいだろう。カラーヘルパーとビート板ありだが、三人ともバタ足で15mまで泳げるようになった。海で泳いでバレーの試合に出て流石に足も疲れている頃だろう。カラーヘルパーを外させて今回の勝負内容の説明を開始した。
「三人とも、俺が今からこの小石をプールにバラ撒く。それを拾って俺のところに持ってくる。一番多く小石を集めた人の勝ちだ。持ってくる最中に小石を落としたら数には入れないからな?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
プール全体に足場となる閉鎖空間を広げてプールサイドをまわりながら小石を投げ入れていると、その様子を子供たちがずっと見つめていた。どこに小石が多く投げられたのかチェックしているのかもしれん。
「よし、まずは一回戦だ。今から俺が60数える。その間にできるだけ小石を多く集めてくること。60数えたら一分だ。この機会に覚えておくといい。準備はいいか?……よーい」ピッ!
笛の音と共に三人が散らばり、水の中に潜って小石を集め出した。このゲームは水中で眼を開けていないと小石がどこにあるか分からないし、手探りで見つけたとしても時間のロスをするだけだ。
「30秒前、29、28、27、……」
泳ぎつかれたのか、俺の声が届いたのかは定かではないが、子供たちの様子を他のメンバーが見に来ていた。遮音膜は張ってないからな。俺の声は他のプールにも聞こえている。時間もあとわずかだと悟った子供たちが一度に複数個集めてから顔を出すようになった。いい傾向だ。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、そこまで!拾った石をここまで持ってこい。落とさない様に注意しろよ?」
自分が拾った小石を大事そうに両手で抱えてプールサイドまで持ってきた。
「じゃあ、何個小石を拾ってきたか自分で数えてみろ」
算数の勉強には丁度いい。人差し指で小石を指差しながら一つずつ数を数えている。
「キョンパパ、わたし9個!」「キョンパパ、わたし12個!」「伊織パパ、わたし7個!」
「一回戦は、美姫の勝ちだ!」
『キョン(伊織)パパ、もう一回!!』
「よし、次は一回戦よりも多く取ってくること!どうやったらいっぱい取って来られるか自分で考えろよ?」
『問題ない!』
「時間はさっきと同じ一分だ。いくつ数えたら一分になるんだった?」
『60!』
「よく覚えたな。じゃあ、二回戦、よーい」ピッ!
「くっくっ、キミは小学校の先生に向いているんじゃないかい?ゲームをしながら算数の勉強をさせるとは驚いたよ。それに、このゲームも水に潜る練習の一環のようだね」
「ああ、目を開けたまま水の中に入る練習と、長時間息を止める練習を兼ねている。朝から遊び疲れて、バレーでも足を酷使しているからな。こういうゲームが丁度いい。ただ、もう一段階成長してくれると嬉しいんだが……」
「これ以上の目論みがあるっていうのかい?」
「このゲームでおまえならどうするか考えてみろ」
「……なるほど。水中で泳ぎながら小石を集めさせるんだね。そこまで成長するかどうか僕も見守りたくなったよ」
二回戦の軍配は今日負け続きだった伊織。三回戦と最後に石を全て集めさせて今日の練習は終了。水中を泳ぐシーンは見られなかったが、今後も似たようなゲームをしていくうちにできるようになるだろう。
「明日また練習するから紐の結び方を練習しておくこと!いいな?」
『フフン、あたしに任せなさい!』

 

 泳ぎ疲れた、あるいは温水プールで満足した妻やOGから水着姿のままスパへとやってきた。水着姿のみくるに先にシャンプーと全身マッサージをやってもらっていた。水着姿のみくるをこの角度で見るなんて初めてだ。あまり考え過ぎると興奮しているのがバレるからやめておこう。もうバレているかもしれんがな。しかし、ハルヒ達とOG12人が同じフロアでシャンプー&マッサージというのも久しぶりだな。少しばかり緊張しているようだが、全身マッサージが終わればそれぞれの個室に向かえる。12人でのガールズトークができないというだけだ。しかし……自分にとって不必要な毛は抜け落ちて毛穴も塞がる催眠をここにいる全員……もとい、有希以外全員にかけたのだが、どうして大事なところまで不必要と判断したのかが謎だ。これで元じゃなくなったな。秘部の陰毛がすべて抜け落ち、身体は大人でも、秘部だけは小学生になっている奴が三人。無論、ハルヒ達と変態セッターだ。
「わたしもハルヒさん達みたいにしようか悩んじゃいます。でも、抜けたらもう生えてこないんですよね?」
「そのときは有希が情報結合を俺が催眠をかける前まで戻すだけだ。もっとも、みくるの場合は定期的に情報結合を戻していくことになるけどな。別の意味で」
「それなら、わたしも真似してみます!」
「あのな、俺は別にそっちの方がいいなんて考えで催眠の提案をしたわけじゃないんだが?」
「でも、伸びすぎて下着や水着からはみ出てたりしたら……」
「だったら、試しにやってみて気にくわなかったら有希に頼めばいい。催眠ならまだかかっているから『必要ない』と考えただけで抜け落ちるはずだ。俺に止める権利はない」
「わたしはキョン君のものです!権利ならキョン君にしかありません!」
「それなら、『みくるの好きな方を選べ』これが命令だ」
「分かりました」
結局、水着を脱がせた頃にはみくるの秘部の毛がすべて抜け落ち、それを見た青みくるも同様に綺麗サッパリ無くなってしまった。まったく、ニューヨークにつく頃には全員抜け落ちてやしないだろうな……
 昼間放った殺気のせいで朝倉にバトルを強要され、それ以外のメンバーで練習試合……と思いきや、みくる達、青圭一さん、ENOZ四人が段ボールの情報結合をしていた。青ハルヒはピッチング練習、例の二人は零式のサーブ練習をしていた。零式改(アラタメ)のサーブ練習なら影分身なんて出している場合じゃなくなるが、妻にはできるだけ少ない意識でゾーンに入れる練習をしようと提案して、明日の午前練習から始めることになった。

 

 翌朝、みくるが選んだ客室で眼を覚まし、影分身を置いて青有希と二人で社員食堂へ。四階には日本代表専用のプレートをテーブルに置きSPを一人つけておいた。平日になって人が減るどころか仕事前の朝食を食べに来たと言わんばかりにOL風の格好をした女性客が集まっている。79階にも日本代表専用テーブルが必要になりそうだ。というより、79階にもどこでもドアを設置するか?今朝のニュースは異世界の方は俺たちに関するニュースは無かったが、芸能プロダクションの人間まで動画を見ていたんだ。古泉、青みくる、妻の三人が『旅立ちの日に』を歌っている写真で一面を独占。『動画視聴者が感涙!天空スタジアムからの卒業ソング!!』などと見出しがつけられていた。殺気を放った件で『キョン社長大激怒!』なんて見出しで一面を飾るかとも思ったが、その怒っているシーンが撮影できなければ意味がない。問題発言がないよう配慮はしたし、観客とトラブルになっていたなんて報道しても自分たちが世間から蔑まれた眼見られるだけだ。だが、それももう遅い。すでに上から目線で見られているのが分かっていないようだな。そんなことはどうでもいいとして、古泉もそろそろ起きている頃だろう。……いや、これ以上は止めた方がいいな。79階にも日本代表専用のプレートを置くだけに留めておこう。これだけの人数が居ても四日くらいはまかなえるだけのパンを用意しているし、今日はおススメ料理の仕込み。81階の中央を占拠していた長テーブルが無くなり、シャミセンがぽつんと俺の布団の上で眠っていた。いつもならとっくに起きているはずなんだが……青新川さんがすぐ傍で調理をしていないからか。料理の匂いを嗅げば眼を覚ますだろう。シャミセンの分の食事をテレポートすると、しばらくしてシャミセンが眼を覚ました。
『あれ?もう朝ご飯できたの?それにみんなは?』
「一週間ほど船の上で食事することになってな。おまえはどうする?布団なら一緒にもっていけばいいし、一人で食事をしていても退屈だろ?」
『船の上っていうのがどんな場所か分からないけれど、行ってみようかな。でも、あまり良い気分がしなかったら戻ってきてもいいかい?』
「ああ、それでいい。料理はちゃんと持ってきてやるよ」
『分かった。僕も連れて行って。朝ご飯もそこで食べるよ』
「それなら、こっちだ」

 

 シャミセンを連れてタイタニック号の船上へ。潮風を嫌がるかと思ったが、そうでもないらしい。豪華客船で船酔いなんてことはないだろうが、気分が悪くなったらドアを潜って戻るように伝えておいた。
「しかし、イギリスから出港するとは事前に聞いていましたが、真夜中に朝食を食べることまでは考えていませんでしたよ」
「船長、折角の処女航海なんだ。船出の一言を宣言してくれないか?」
「問題ない、出港」
「ちょっと有希!そんな調子じゃ大海原に出る気になんてなれないでしょうが!!」
「仕方ありませんね。ここはひとつ、彼に叫んでもらうことにしましょう。戦争でも某海賊漫画の技を多用していましたからね。確か成田襲撃事件のときもそうだったはずです」
「ったくしょうがないわね!いいわ、あんたさっさと宣言しちゃいなさい!でないと朝食が食べられないわよ!」
「やれやれ、あれを大声で叫べというのか?二つの意味で、そん(損)な役回りは他の奴に回してもらいたいが……仕方がない」
船首に立ち、両手を握りしめて高々と上げ、声帯を弄ってあの一言。
「野郎共―――――――――――っ!!出港だ――――――――――――――っ!!海賊王に、俺はなる!!」
『ブッ!あっははははははははは……声帯まで変えて本当にやるとは思わなかったっさ!あたしにはそんな堂々と叫ぶなんて恥ずかしくてできないにょろよ!あははははははははははは……』
「俺だって好きで叫んだわけじゃない!恥ずかしいに決まってるだろうが!とにかく、宣言したんだから早く船を動かせ!閉鎖空間と遮音膜をつけているからとはいえ、ここがイギリスで良かった。これが日本だったら、大恥をかくところだ」
「くっくっ、ケン○ロウやキン○マンの技を堂々と繰り出しておいてそれはないだろう?映画のアフレコや再アフレコまでした上に今後もアニメの声優としてスタジオへ出向くことになるんだ。大恥をかくなんて、他の声優さんに失礼なんじゃないかい?」
「終わったことを蒸し返すな!早く食べて、採用者の振り分けをするんだろうが!ったく、とりあえず午前中のうちに男子の監督に昨日の件を伝えて昼食時に報告するから、OKなら練習試合に出てくれ。それと、大画面に今日のドラマを流して欲しいことと、明日からドラマの最終回予告のCMとDriver`s ○ighのライブ映像を流して欲しい。遊戯○関連のCMもあるからGlamorous ○kyのWボーカルについては有希に任せる」
「問題ない。Glamorous ○kyは三月のライブが終わってから。その頃にはドラマのCMも必要がなくなる。それに例のイベントのCMも別のものに切り替わるか、映すまでもないくらい浸透しているはず」
「そういえば、遊戯○カードの大人買い事件が一度報道されてから、それ以降は何もありませんね。子供たちもカードが買えるようになったと捉えていいのでしょうか?」
「買えたとしても精々2~3パック。デッキに入れられるようなカードが入っているとは俺には到底思えない」
「天空スタジアムで闘う人間が、四人とも大人なんてことになってしまいかねません。ここは全国規模にまで発展した我が社の店舗を使ってみてはいかがです?」
『俺も気になる。どういう意図なのか説明してくれ』
「高校生以下の子供たちに各店舗に集まってもらって無料でカードを渡すんですよ。デッキに入れられそうなカードをランダムで……そうですね、30枚ほど入ったパックにすればいいでしょう。大学生以上には相応の額で販売して業者にはその分の代金を我が社で全額負担する。僕もここまでやる必要はないとは思いますが、子どもの日に子どもが主役でないのは納得できません」

 

 まぁ、確かにそれなら解決だが、無料でカードが渡ると全国に広まれば、当然年を偽る中学生・高校生が多く出てくるはず。一度貰ったにも関わらずもう一回来たなんてことも十分あり得る。影分身は足りるか……?
「くっくっ、今キミの考えていることを僕があててみせよう。無料で配るのは構わないけれど、小学生なら外見で判断できる。でも、高校生だと偽りを語ってカードを受け取りに来る一般人が多く現れる。それに大勢集まっているのなら、同じ人間がまた取りに来るかもしれない。店舗の人間に任せるわけにもいかないし、僕たちがサイコメトリーで対応するしかない。そのための影分身が足りるかどうか懸念しているのと、店舗にSPを張りつかせるのはどうかと考えている。どうだい?」
「おまえと同期した気分だよ。もう一度番組出演することも含めて、夕食中にでも担当者と相談しようかと思っていたが、懸念事項としてはそれで合っている。だが、古泉の言う通り、ここまでやる必要があるのかどうかだ。俺たちが食いつくようなイベントを企画すれば、スポンサーになってもらえるなんてバカが出てくるはずだ。今度はフジテレビからド○ゴンボールヒーローズカードの企画が来てもおかしくない」
「それもそうっさ!キョン君がもう一度番組出演するくらいが無難にょろよ!」
「名案ですけど、キョン君が練習試合に出られなくなりそうです!」
「これ以上の負担はあたしが許さないわよ!」
「ところで古泉、こっちの第三人事部の件はどうなった?」
「青僕にも話をして異世界支部の16階を改装してあります。今後フロアを再構築する必要が出てくるでしょうが、使い道が見つかってからということでいいでしょう」
「では、電話も鳴り出す頃ですし、僕はお先に失礼します」
『私もそうさせてもらうよ』
「あたしも行くわ!」
「有希、明後日の社員旅行の件と、こちらの世界もそろそろヘアメイクの練習をしておくようにFAXで連絡を頼む」
「分かった」
『風が気持ちいいね。キミ達がこっちにいる間、僕もこっちにいてもいいかい?それにシャンプーもして欲しいんだけど……』
「よし、それなら一旦戻るぞ。シャンプーが終わったら布団もこっちに持ってきてやる」
『くっくっ、キミのシャンプーと全身マッサージでないと満足できなくなったのは、どうやら彼も同じようだね』
「おまえらも少しは急げ。佐々木も青有希と一緒に未来に行くんだろ?それに、青佐々木にはデザイン課に居てもらわないといかん」

 

 シャミセンのシャンプーをしながらスカ○ターで異世界支部の様子を見ていた。人事部に青ハルヒと青古泉、第二人事部と第三人事部を青古泉の影分身で埋め、こちらの第三人事部は古泉が電話対応にあたっていた。スーツ姿の社員が報道陣の横を通って本社に入り、人事部に集まった社員を青古泉がそれぞれの場所に振り分け作業。社員が集まったところで青ハルヒが会議を開き、スーツでなくても良いと説明をしてくれるだろう。社員食堂では母親と青有希が既に作業を進めており、青新川さんも料理長のスペシャルランチの準備に入っている。経理課では変態セッターがデータ入力を始めていた。78階にはデザイン課の二人と編集部担当の森さんが待機し、作業場には青俺がパート・アルバイト達を待っている。購買部が使えるのは明日からで今日の昼食は社員食堂を使用するよう青古泉が連絡をしていた。
『もし余ったとしても、現状維持の閉鎖空間で囲めば、鮮度をそのままにして明日も出せる。作り過ぎたということにはならないから、今日の分はすべて調理してしまってくれ』
『問題ない』
今日何人面接するのかは分からんが、外すことのできる垂れ幕はまだ無いようだ。ホテルフロアの告知は三月に入ってからということになりそうだな。写真には映っていなかったとはいえ、天空スタジアムでは士気の上がった楽団員たちが練習を始めている。そういえば、青ハルヒにメールが返って来たのかどうか聞いておこう。三月中の予定のこともあるしな。フォーメーション練習前に、昨日の練習試合を受けて、午後の練習試合のやり方について監督に提案したところ、
「そういうことなら今後の練習メニューも変わることになりそうだ。実際にやってみてどうだったかセッターにも確認してみたい。是非見せてくれ」
と快諾を得ることができた。しかし、このメニューだと俺は今日はセッターでは無くなりそうだが……まぁいいか。
「昼食だというのに、こちらはまだ夜だとは驚きましたよ。イギリスからニューヨークまでですと時差が大きくなる一方のようですが、この船の為にもなんとしてもこの航海を成し遂げたいですね」
「その様子だとこっちの人事部には大した電話は来なかったらしいな。午後は男子の方の練習試合に出てくれ。監督から快諾で返ってきた。『実際にやってみてどうだったかセッターに確認してみたい』だそうだ」
「面白いじゃない!『めちゃくちゃトスがやりやすかった』ってセッター達に言わせてやるわ!」
「となると、そこまで影分身を割けそうにないな。俺たちの世界の倉庫の方は、今後は西日本のみと話していたら喜んでいたよ。特にここ数日は大急ぎでピッキング作業をしていたようだったからな。作業場の方は新しく希望者が来た時点でまた説明するが……ハルヒ、スーツ姿の社員は会議室にでも集めて話をするんだろうが、作業場の方は『作業しやすい格好で出社して構わない』と伝えてもいいか?」
「それもそうね。社員しか呼ばない予定だったし、あんたに任せることにするわ!」
「キョン、ついでに家で作ってきた弁当なら食堂で食べても大丈夫だって伝えて。食堂でどうするか悩んでいる人がいるみたいだから。それに黄キョン君、どうしてカレーを作ってるの?」
『カレー!?』
「僕たちの為でも、未来にまた支給に行くわけでもなさそうだ。僕にもさっぱり理由が分からないよ。キミは一体何のためにカレーを作っているんだい?」
「やれやれ、流石はカレー○ンマン二号。さっき閃いて作り始めたばかりだってのに、もう気付かれるとは……まぁいい。結論から言うと、カレーパンを作って朝食メニューとして振る舞ってみたくなった。それだけだ」
『カレーパンを作ってふるまう!?』
「あんた、また自分の負担を増やしてどうするのよ!!別にいいじゃない!今まで作っていた分だけで!」
「思いついたら試しに作ってみたくなっただけだ。レシピを調べて食材と相談しながら試作品を作っているところだ。好きでやってるんだから別にいいだろ。ストレスを溜めるわけでもないしな」
「くっくっ、だったら試作品を日本代表や一般客に出すわけにはいかないね。僕たちで毒味しようじゃないか」
「そうくると思っていたよ。だが、おまえらの場合一個だけじゃ済まないだろ?シェルターに支給するのはさすがに無理だし、他のパンと一緒に未来のジョン達に送り届けるつもりだ。試しに作っているだけだからそこまで量もないしな。それで、他の課の状況はどんな様子なんだ?」
「経理課は社員やパート・アルバイトのデータ入力をさせてます。今後も忙しくなるので暇を持て余すことはないです」
「編集部の方はまだそこまで仕事がありませんので今後どのような特集を掲載するか方針を考えさせています。絵を描くのは下手でもデザインセンスがある者にはデザイン課の方でイメージを描かせているところです」
「こっちのデザイン課の方は社員もいくつかデッサンしていたものがあったみたい。二、三日もすればイメージしたものをスケッチブックにまとめてくるわよ。ハリウッドスターの年越しパーティのときは、わたし達が着ることにもなりそうね」
「人事部にはまだ二名しか配置していません。電話対応の仕方は彼女が社員に教えているようでしたから、ここで決まったことについてはこちらの圭一さんから全体に指示が出るかと。午後も面接が入っていますがデザイン課の希望者からの連絡はまだ来ていません。作業場もまだまだ人が足りませんし、社員食堂もシフトを組める段階に行くまでにはまだ時間がかかるかと。ですが、青新川さんのスペシャルランチが初日にして人気が出てきたようですよ?」
「そんなの人気が出るに決まっているじゃない!想定外でも何でもないわよ!とにかく、採用者にはすぐにでも来てもらって、黄あたしの料理の方も口コミで広めてもらわなくちゃ!本社周辺の飲食系のチェーン店を全部潰すわよ!大画面でより宣伝しやすくしてやるんだから!!」
『問題ない』
「ちょっと待て、青ハルヒ、もう一つ報告することがあるんじゃないのか?」
「も~~~~っ!今度は何だって言うのよ!明日のディナーならもうできたわよ!?こんなの報告するまでもないじゃない!!」
「涼宮さん、アレのことじゃない?黄有希さんから頼まれていたメール。支障がなかったら黄古泉君がチケット業者に連絡するんでしょ?」
『あ~なるほど!』
「とりあえず、場所が場所だからな。一旦本社に戻ってもう一度問い合わせをしてみてくれ。報告は夕食時で十分だ」
「ぶー…分かったわよ」
「いくら涼宮さんでも、まだまだキョン君には敵いそうにありませんね。そんなことまできちんと覚えているなんて、わたしも驚きました」
「絶対にこっちの本社のことは口出しさせないんだから!!見てなさいよ……」

 

 やれやれ、やっぱり忘れていたか。しかし、いくら大画面のためとはいえ、ハルヒの料理で異世界のチェーン店を潰すってのもおかしな話だ。まぁ、そういう系のニュースは青朝倉が逐一報告にくるだろうし、そのときに土地だけ買い取ってしまえばいい。俺の眼の前には男子日本代表のセッターとハルヒ達五人。「全員攻撃でくるからどこに上げても構わない」とセッターに話し、練習試合がスタート。互いに采配を読み合い、ダイレクトドライブゾーンの応酬をしているものの、レシーブを上手くトスにつなげられないこちらの方が失点を積み重ねていくばかり。ハルヒ達と同じチームに入ったセッターの方はサインを出す必要もなくなり、意気揚揚とトスを上げているのが目に見えて感じ取れる。時間が来るまで何セットも続けていたが、俺たちは黒星を重ね、ハルヒ達と組んだセッターがこぞって「レシーブが正確すぎるくらいだった」と監督に伝えていた。明日の練習メニューがどうなるかスカ○ターで見ることにしよう。
「キョン社長、男子の方で練習をしている彼女も含めて、あの六人は集中力をどのようにして高めたのでしょうか?」
「以前にもお話した通りです。坐禅を組ませていたようなものですよ。漫画でもそういうシーンが出てきたはずです。ジョンの大好きなドラ○ンボールで言うなら、初めて神様のところで修業したときも座禅からでしたし、○ッコロの修行のシーンも舞空術で宙に浮かびながら座禅を組んでいるコマが多かったはず。あれとほぼ同じです」
「そんなことで集中力を高めることが可能なんですか?」
「お寺の住職に怒られますよ?『修行が足りませんぞ?』なんてね」
「キョン社長、ありがとうございました」
もう少し深く追求されるかと思ったが、昨日のアレの効果もあったかな?
「大ニュースだ!!」
危うくどこ○もドアに蹴躓いて転倒するところだったが、異世界支部ならまだしも、こっちの世界で何があったっていうんだ?いや……その前に、俺が青圭一さんと間違えているだけか?
「教育委員会から連絡が入った!!」
『はぁ!?』

 
 

…To be continued