500年後からの来訪者After Future9-18(163-39)

Last-modified: 2017-02-26 (日) 00:41:16

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future9-18163-39氏

作品

社員旅行当日を迎え、バレーのオンシーズンが終わってから振る舞っていた俺の自家製パンが話題となり、新聞の一面には『それ行け!キョンパンマン!』などと書かれる始末。例のテロ組織による死傷者が出た事件以降何も起こらないからと、敷地外にのさばっていた報道陣を警察に化けた俺たちが刑務所へと連行。一ヶ月は出所して来れないよう催眠をかけておいた。そして、ついに妻+レギュラー陣VSハルヒ+OG五人の対決が実現。終わりの見えないダイレクトドライブゾーンと三枚ブロックに対する対策を監督の目の前で見せ、OGのレギュラー入りが目前となった。子供たちの水泳指導もいよいよ本格化し、明日はクロールの練習。俺もちゃんとした手の動かし方を調べておかないとな。

 

「ねぇ、明日の新聞記事どうなると思う?」
シャンプーと全身マッサージを終えた青ハルヒと抱き合っている最中に、突拍子もなく口から出た言葉がこれ。
「0-1で終わったあの試合で決まりだろう。今日と同じで、逮捕された瞬間を撮影していたわけでもないのに、報道陣が逮捕されたなんて記事が書けるわけがない。それこそ世間に笑われるだけだ。パンがどこにも写っていない写真を掲載して、よくあんな記事が書けたもんだと呆れてるよ」
「いくら敷地外とはいえ、あんなところにのさばっていられると邪魔でしょうがないわよ!社員食堂も口コミが広がるには大分かかりそうだし、あんたの閉鎖空間で閉じ込めてはいるけど……あ~~もう!思い出しただけでむしゃくしゃする!!あんたの三枚ブロック攻略法っていうのも早く見てみたいけど、あたしのストレス解消に付き合ってもらうわ!」
「そうだな、俺も早く試してみたいし……一瞬でハルヒのストレスを吹き飛ばしてやるよ」
「一瞬ってどうやるのよ!?」
「すぐに分かるさ」
青ハルヒの閉鎖空間に現状維持の条件をプラスすると、身動きどころか瞬き一つしなくなった。すでに秘部には、俺の分身と尻尾が入り込んでいたが、もう三本尻尾を増やして秘部の突起と両方の乳房を責め始めた。それでも声を発することなく責め続けること数十分。青ハルヒの胎内には『これ以上入りきらない』と言わんばかりに俺の遺伝子で満たされ、漏れ出てこないように俺の分身が栓の役割を果たしているようなものだ。尻尾は未だに青ハルヒを責め続けているが、そろそろ解除しないと明日に響きそうだ。青ハルヒを抱えて風呂場へ移動すると、現状維持の条件を解いた。料理や食材の保存だけでなく別のパフォーマンスにも使えそうだな。ド○えもんの道具にも似たようなものがあったはずだ。クロールの泳ぎ方のついでに調べておこう。
「えっ!?あっ、嘘!?ダメッ……ああぁ――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
数十分責め続けた分の快感が一気に襲いかかり、エビぞりの状態のまま痙攣し続けている。風呂場に移動して正解だったな。ベッドの上で解除していたら、シーツを変えた程度では、濡れたベッドがすぐにシーツを湿らせてしまう。ドラマの最終回で使ったトリックのようなもんだ。シーツを何重にしても、血が染みこんで服についてしまえばそれで犯人がバレてしまう。軽くシャワーで洗い流す必要がありそうだが、たったそれだけの手間で済むのならこれほど楽なことはない。昨日の青みくる同様、胸は大人でも秘部は小学生。というより、青みくるがコイツ等の真似をしたんだったな。どうしていらないと判断したのか聞くべきだった。青みくる同様、『伸びると下着や水着からはみ出るかもしれない』というのもあるかもしれんが、コイツ等なら『面倒臭かっただけよ!』の一言で終わってしまいそうだ。ようやく痙攣が収まり、上半身の力が抜けて身体を俺に委ねてきた。両手で抱き締めただけで身体がビクンッ!と反応した。しばらくその状態を維持していると、やっと動けるようになったのか、首の後ろに腕をまわしてさらにキツく抱きついてきた。
「ハルヒの気持ちは十分過ぎる程伝わってる。だが、毎日こんな状態を続けていたら本当に胸が潰れてしまうぞ」
「嫌よ!あんたと一秒でも長くこうしていたいんだから!」
「ようやく話せるところまで落ち着いたらしいな。ストレスは解消できたか聞いてもいいか?」
「一瞬で頭の中が真っ白になったわよ。それに、あんたの遺伝子をたっぷり注ぎ込まれたらしいわね。お腹が熱いくらいよ。あたしもこのまま妊娠しちゃおうかな……それより、なんでこんなところに移動してきたわけ?」
言葉には出てこなかったが、現状維持の閉鎖空間を取り付けられたことに気付いているらしい。
「床をよく見てみろ。これがベッドの上だったらどうなるか、アホの谷口でも分かるぞ」
体内に溜まっていた液体がすべて漏れ出たようなものだからな。状況を把握した青ハルヒが頬を紅く染めていた。
「軽くシャワーで流してベッドに戻ろう。ハルヒはこのまま抱きついていればいい」
コクンと首を縦に振ったのを確認すると、事後処理を終えてベッドに戻った。

 

 ジョンの世界に足を踏み入れる頃には一つのコートを囲み、エンドラインの奥にハルヒ、こちら側のコートにセッターのポジションで有希が付き、ブロッカーは青俺、古泉、青古泉の三人。やれやれ、準備運動もさせてもらえんらしい。まぁ、覚醒モードでプレーができる分、五人には感謝しないとな。
「いつでもいい。始めてくれ」
俺が放った一言に容赦の欠片もなくハルヒのサーブが投じられた。しかしまぁ、俺の真正面をピンポイントで狙ってくれたんだ。要望に応えてやらんとな。ダイレクトドライブゾーン用のレシーブをしていると攻撃に間に合わない。通常のレシーブを有希に返して攻撃態勢に入った。古泉たちも俺と同じタイミングでブロックに跳ぼうと待ち構えている。ステップを踏んで跳び上がった俺の目の前を三人の両腕が封鎖。おそらく、これができるのは俺を入れて三人。もう少しで四人になりそうだが、一発で決められるかどうか不安で仕方がない。エビぞり状態のまま上に向かってスパイクを撃つところまでは変わらず。天井サーブならぬ天井スパイクと違うところはトスされたボールに零式の回転をかけたこと。力加減を少しくらい間違えても失点にはならないが、放たれたボールを見つめるしか手は残されていない。超高速回転のかかったボールが三枚ブロックの少し上まで到達すると、古泉の右の手の甲に当たり、腕、背中、尻と蔦って、ボールが相手コートを転がっていった。ハルヒがボールを取ったものの、沈黙することしばらく、最初に口火を切るのはハルヒやコート内にいた四人が喋り出すとばかり思っていたんだが、意外にも妻の方だった。
「凄い、零式にこんな使い方があるの?これじゃ、ブロックに跳んだ瞬間に失点するって決まったようなものじゃない。キョン、その技、私にも出来る?」
「理不尽スパイク零式が撃てるのなら理論上可能だし、力加減に失敗してもネットに引っ掛からない限り失点する可能性も低い。バックアタックで返されるとちょっと厄介だが、ストレートだけでなくクロスも使えるようになればバックアタックには跳んでこない。レシーブで上げたとしても、零式の回転のせいで良くて二段トスで終わる。俺も放った後は古泉の腕や背中を蔦っていくまで心配で仕方がなかったんだが……なんとか成功させることができたらしい。零式スパイクの応用技、『フォームレススパイク零式』ってところか」
「確かに普通のスパイクとは姿勢が全然違うし、『フォームレス』で間違いないが、あの体勢からよく零式の回転をかけられたな」
「僕の腕や背中をまんまとネット代わりに利用されてしまうとは、少々苛立ちましたが、これを試合中に多用されては、ブロックに行く気が失せてしまいますよ」
「くっくっ、別にいいじゃないか。僕たちが試合に出る女子日本代表の方は三枚ブロックなんてほとんど使ってこないし、男子の練習試合の最中か世界大会でしか使いどころがない。キミのやりたい事が終わったのなら、僕たちの練習に付き合ってくれたまえ。ただでさえキミと有希さんは僕たちより早く起きることになるんだからね」
「キョン!私もフォームレススパイクが撃てるようになりたい!影分身で付き合って!!」
「ゾーン状態の影分身を投球に回せば大丈夫だ。零式改(アラタメ)よりこっちの方が使用頻度が高いし、実戦で使えるに越したことはない。やろう」

 

 既に物置と化した社長室から看板を持ってSPが外に出る。ったく、朝食に自家製パンを振る舞ったくらいで大袈裟に報道するからこうなるんだ。どこまで続いているのか分かりゃしない。看板には『こちらに並んでお待ちください』と書いてあるものの、ライブやコンサートのときとほとんど変わらない列が出来上がっていた。報道陣が何人も紛れ込んでいそうだな。まったく、やれやれだ。……しかしまぁ、各新聞社は例の試合のことで一点張り。『たった1点で監督がセット終了宣言!直結連動型ゾーンのラリー止まらず!!』などと見出しが付けられていた。掲載されている写真も司令塔として動いていた妻より、スパイクを撃っていた四人の誰かがアップで載っていた。あの状況下でこの写真が撮れるのなら観客と押し合いなんてしなくとも撮れるだろうに……監督のコメントも、
「あそこまでラリーが続くとは私も想定外でした。司令塔が入ってようやく互角の戦いになり、三枚ブロックもいとも簡単に破ってくる。ミスもありましたが、経験を重ねていくうちにそれも無くなってしまうでしょう。どういうメンバーで世界大会に臨んだものか困ってしまいましたよ」
などと、終始OG達を褒め称えるものだった。昨日の報道陣逮捕の件は記事にはなっていないようだし、敷地外に報道陣は一人もおらん。取り付けておいた監視カメラで逮捕されるシーンをモニターで見ていたんだろう。機材は『没収』という名の『破壊』をしておいたし、例の刑務所の人間に問い詰めたとしても、知らぬ存ぜぬの一点張り。諦める他に選択肢はない。ジョンの世界でもハルヒ達がニュースを確認している頃だろう。あの後はバレーの練習というよりも野球の練習をしていたと言うべきだろう。みくる達と青圭一さんは情報結合の練習、妻のフォームレススパイク練習に俺が付き添い、零式の練習をしていた青OG以外は青俺たちの投球を受けるか打つかのどちらかだった。だが、俺が考案したフォームレススパイクも、あと二、三日もあればマスターしてしまいそうだ。あとはそのお披露目の機会がいつ来るのかってところだな。ブロッカーが三枚である必要はないし、一枚でもできないこともないんだが……そこまでやる必要があるのか?って話だ。もっとも、あんなことをされてはおいそれとブロックに跳べなくなることに違いない。社員食堂が満席になると同期で情報がSPに伝わり、看板がひっくり返された。『ただいま社員食堂が大変混雑しております。こちらに並んでお待ちください』と書かれた面が表に出ている。『社長のご多忙により、パンをご用意できません』なんて看板も用意しておかないとな。
 朝食にメンバーが集まってくると、有希のデザインした靴を履いた三人がご機嫌な顔で現れた。しかし、結び方は合っているものの、案の定縛り方が甘く三人とももう一度縛り直すことに。
「これくらいしっかり縛っていないと転んで怪我をするし、バレーも水泳も出来なくなる。周りから何か言われるかもしれんが、三人の方がみんなよりも先に新しいことを覚えただけだ。そのうち、これが出来ない奴の方がバカにされるようになるだろう。次から自分で出来なかったら今日はバレーも水泳も無しだからな?」
『問題ない!バレーも泳ぐ練習もするの!』
「くっくっ、この子たちのように物覚えが早いと嬉しいんだけどね。このあと、ダンスを最後まで踊れるか不安になってきたよ」
「おまえがそんなことを言い出したら、俺は一体どうなるんだ?とにかくみくると青佐々木はダンスに集中、青有希たちを未来に送って、その間に次の料理を作ってもらう。青OG達はハルヒの料理を覚えられたのか?」
「手伝いながら調味料をどのくらい入れるのかとか見てはいるんですけど、そこまで色んなレシピを作っているわけじゃないので……ハルヒ先輩から料理を教わっていたときはどうしていたんですか?」
「黄キョン君が部室からデジカメを持ってきてくれて、それでハルヒさんが料理をしている様子を後ろから撮影してメモを取ってた。それ以降はハルヒさんが作っているのを手伝いながら見て覚えた」
「俺の母親の場合は、ハルヒが母親の手伝いをしていたのが、母親の方がハルヒの手伝いをするようになっただけだ。たった一日で主従が入れ替わったときは驚いたよ。もっとレシピが見たいのなら、調理スタッフとして厨房に入ったらどうだ?時間はズレるだろうが、賄い飯は食べずにここで昼食をとる。まぁ、影分身を残してくるなんて手もあるけどな」
「調理スタッフが慣れるまでは人数が多いに越したことはありません。本人がOKなら是非入っていただきたいですね」
「私でいいのなら厨房に入れてください!昼食のときは影分身を置いてきます!」
「ところで古泉、段ボールはもう情報結合してしまったのか?」
「いえ、様子を見て増量する予定でしたので、まだ。どうかされましたか?」
「修練を積めば、ここまでのことができるってのを実際に見せるにはいい機会だと思ってな。目の前で作って見せてくれないか?」
「なるほど。そういうことであれば今作ってしまいましょう」
古泉が掌を上に向けると、キューブに収まった原寸大の段ボール箱が情報結合されて現れた。
「すごい。黄古泉先輩これ一体いくつあるんですか?」
「あまり作り過ぎてもどうかと思いまして、作業場と倉庫合わせて10万ほど作ってみました」
『10万!?』
「やろうと思えばこれ以上作れると言うのかね!?」
「ええ、何事も修錬ですよ。彼の言葉の受け売りですけどね。それで、社員食堂の方はどんな感じなんです?」
「ライブやコンサートのように人が並んでるよ。紛れ込んでいた報道陣は閉鎖空間のトラップに押し込んでおいた。並んでいる客に配ってやりたいくらいだが、報道陣が調子に乗るからな。朝食タイムが終わればそれまでだ」
「あんた、そんな大量のパンを作っている余裕がどこにあるのよ!?男子の練習にも出ているんでしょうが!」
「言ったろ?『影分身を持て余しているくらい』だってな。朝起きてから夜寝るまで、パーセンテージは違っても随時パンを作り続けているし、今日の昼食ももう出来上がってる。一口食べて涙を流すようなシーンを見せられたら作る方もやりがいがあるってもんだ」
「ようやく追いついたと思ったら、もうそんな先まで進んでいたのか……俺もまだまだだな」
「それで、女子の練習と練習試合の方はどうなるんだ?今朝のニュースで監督のコメントも聞いたが、ハルヒとOG六人を称賛しているだけでこれ以降の練習については何も触れてなかっただろ?」
「多分、今日の午前中に指示が出ると思う。でも、私は男子の方に入れるはず」
「それを聞いて安心した。司令塔が俺一人じゃ、どんな練習をしたらいいのか迷っていたところだ。他に無ければこれで解散にしよう」
『問題ない』

 

 しかし、食パンとカレーパンがあってあんパンが無いというのもいささかしっくりこない。フランスパン、くるみパン、バターロールと作っているからこれ以上種類を増やすのもどうかと思うんだが、ジョンの嗜好品で例えるなら○ニュー特選隊のメンバーが欠けてスペシャルファイティングポーズが決まらないようなもんだ。
『なるほど、それではしまらない。キョン、あんパンも作ったらどうだ?』
時間はそれなりにかかるが、作るのは簡単だ。だが、パン生地とつぶ餡だけで勝負をしないといかん。カレーに関わることでは無いし、焼き上がったらアイツ等に食べさせてみるか。しかし気になるのは今日の練習メニュー。今は他のパンを作っている最中だから、あんパンについてはそれが終わってからになりそうだが、観客や報道陣を見張るSPの配置も兼ねて体育館での女子の練習内容を見ていることにするか。基本的なレシーブ練習は3:3に分かれ、観客もそこまで数はいないし、練習シーンを撮影したところで一面が飾れるわけもなく報道陣も少ない。このくらい平穏であって欲しいし、いい加減、報道陣には出ていってもらいたいところだ。妻がエレベーターで下に降りようとしても止められるようなことはなく、観客と報道陣の一部がそれに合わせて男子の方に降りていった。昨日のダイレクトドライブゾーンの応酬がどんな様子だったのかは定かではないが、結局は俺と妻が別れてコートに入り、セッターの采配を読めなくする練習と、できるだけレシーブを正確にセッターに送る練習。しばらくその練習を繰り返していると、男子の体育館に女子日本代表の監督がエレベーターで降りてきた。どうしたんだ?一体……報道陣もここぞとばかりにカメラを向け、両チームの監督同士の話し合いの場面を撮影していた。まぁいい、そのうち分かるだろう。今は采配を読むことに集中しよう。
「ちょっと集まってくれ」
あと数分でランチタイムになろうかとしていた頃、コートの中にいた俺たち12人が呼び出され、監督から先ほどの密談の内容が伝えられた。昨日のOG達の練習試合の結果を受けて、男女合同で互いに三枚ブロックを相手にどう攻略をするかの練習をするとの事。ネットは当然女子の高さに合わせ、ローテはほとんど無し……というよりできない。高身長の選手が女子の体育館に集まる分OG達五人はこっちに降りてきて男子を相手にダイレクトドライブゾーン。ネットもこちらに合わせてくれるらしい。昨日のフォームレススパイクを試すいいチャンスになりそうだ。エレベーターで妻とそんな会話をしながらタイタニック号に戻り全員が揃うのを待っていると、最後にやって来たのは、意外にも朝倉。
「できたわよ!」
有希の平仮名三文字もどうにかならんのかと感じてしまうんだが、何ができたのか教えて欲しいもんだ。いくら異世界支部が優秀な社員で満たされてきたからとはいえ、こんな時期に四月号が仕上がるわけがない。一体何ができたと言うんだか……
「黄涼子、できたって何の話よ!?もう四月号ができたわけ!?」
「違うわよ。この前、裕さんが提案した楽団員の衣装のデザインがまとまったわ!実際に情報結合して見せたいところなんだけど……テーブルの上に広げるわけにもいかないし、どうしようか困っているのよ」
「それなら簡単です。ドラマの撮影のために情報結合した女子高の制服やランジェリーのように、マネキンに着せた状態で我々の周りに並べれば、ここにいる全員が見ることができます!」
「ごめんなさい、そのことをすっかり忘れていたわ。すぐに準備するわね」
俺たちの周りを朝倉が情報結合したマネキンで囲まれた。コンサート用の衣装ということもあり、黒を基調にしたものが大半を占めていたが、たとえ純白に色を変えたとしても、ウェディングドレスとしてはイマイチ。それでコンサート用の衣装になったものも中には混じっているだろう。だが、これなら楽団員も選び放題だし、サイズもピッタリ合わせられる。そういや、今度のウェディングドレスも色、スリーサイズ、丈を合わせるとか言ってたな。
「じゃあ、明日の楽団の全体練習後に本店に並べるってことでいいかい?」
「うん、それ、無理!何をしているのか分からなくても報道陣が撮影を始めちゃうわよ。邪魔が入ることはないし、天空スタジアムで並べた方がいいんじゃないかしら?」
「分かった。練習開始前に音楽鑑賞教室の楽曲の決定、練習後に衣装を天空スタジアムに並べる。楽団員が衣装を選んでいる間、パンフレットの原案を作っておいて」
「そんなの簡単よ!昼食の間に作ってそのまま青キョンに渡すことにするわ!あんたも影分身を持て余しているんでしょ!?」
「分かった。夕食前までには仕上げられるが……届けに行くのは来週月曜以降ってことになりそうだな」
「二週間以上もあるし何の問題もない。それより青俺、四月号が発売されてからのことで頼みがある」
『頼み!?』
「くっくっ、面白いじゃないか。こっちのキョンに一体何を頼むつもりなのか聞かせてくれたまえ」
「俺もマネキンに着せられた衣装で思い出したんだよ。今度の四月号は顧客に色やデザイン、スリーサイズ、丈をサイトに入力させて顧客にピッタリのタキシードやウェディングドレスを発送すると有希が話していたはずだ。全部で何通りになるのかは俺も分からんが、数千や数万通りじゃ済まない。作業場と倉庫、異世界支部の分も合わせて、タキシードとウェディングドレスはすべて青俺が情報結合、梱包作業にあたってもらいたい。パートやアルバイトはそれ以外の品物のピッキング作業だ。まぁ、送付先の住所くらいは任せても構わないだろうが、とにかく、俺たちで対応しないといけないことは確かだ。各店舗には冊子に掲載されたデザインをそれぞれ三色程度置いておけばいい。あとは書かれた内容を元に社員がサイトに入力するだけだ」
「それもそうね。全種類一着ずつ置いたとしても作業場くらいじゃ収まりそうにないわよ」
「古泉たちは電話対応に追われるし、OG達は同じものをいくつも作ることはできるようになったが、毎回違うものを情報結合するとなるとまだ無理がある。それで、俺が適任ってことか。分かった、注文が入った時点で両方の世界の作業場と倉庫に影分身を向かわせる」
「わたしが話したことは確か。でも、それは二人でドライブをしている最中のこと。何人かには話した。でも、全員の前で話すのはこれが初めてのはず。あなたの提案にわたしも賛成。この中でそれに対応できるのは青チームのあなただけ」
「まぁ、まだ先の話だから、そのときになったらまた話題にする。それより、この後のバレーの練習メニューについてだ。午前の練習の最中に監督同士で相談していてな。話し合いの結果、男女混合で三枚ブロック対策の練習をすることになった。このあと参加しようと思っていたメンバーもいるだろうが、参加できたとしても二軍相手に試合をすることになる。子供たちも今日は参戦できないかもしれん。俺を含めた男子チームが体育館に行く代わりにOG五人が練習用体育館に降りて男子日本代表相手にダイレクトドライブゾーンで闘うことになる。もし入るのならそっちに加わってくれ」
「そういう事情であれば、僕がブロック要因として参加することもできそうにありませんね。ですが、見ごたえのある試合になりそうです。SP役を代わっていただけませんか?」
「ああ、女子日本代表のセッター相手に采配を読むには覚醒モードでないと無理だ。パン作りも今日はこれで続けられそうにない。すまないが、そういうことだから、よろしく頼む」
『問題ない』

 

 男女混合で行う練習試合ということもあり、報道陣がここぞとばかりにカメラを集中させていた。観客も混じってはいるものの、ほとんどは他のOG達五人と一緒に男子の方へと降りていった。向こうは向こうで激戦……にはなりそうにないな。一方的な試合運びでOG達に圧倒されてしまいそうだ。報道陣の周りを囲むようにSPが配置され、この中の一体が古泉の本体に違いない。昨日の練習試合で女子日本代表の方はOG達の三枚ブロック破りを熟知しているはず。こちらの方はニュースで見てはいるだろうが、そこまで気にして無かったはずだ。序盤の失点は仕方がない……いや、それでも対処してみせる!
 俺のサーブからのスタート。前衛に出られるのは当分先か。相手コートの様子を見ると、妻も俺と同じらしい。お互いフォームレススパイクのチャンスが来ると良いんだが……
「A!中央に寄って跳べ!」
さすがは高身長が三人揃っているだけのことはある。サイドステップ一回で三人が並びセンターから飛び込んできた選手に合わせて跳んだ。互いにブロックアウトは通用しない。身体をしならせて天高くスパイクを放った。
「下がって攻撃態勢!天井サーブだ!!」
正確には天井スパイクだが、天井サーブと同じだと味方の脳裏に叩きこむにはこっちの指示の方がいい。前衛三人がバックステップを踏み、セッターが前に出た。舞い上がった球のレシーブは………俺か!
「俺が取る!」
ゆらゆらと落ちてくる上に自然落下のスピードが加わるから厄介なんだが、この程度ならゾーンでも十分。ダイレクトドライブゾーン用のレシーブでセッターへと返した。
「C!」
妻の指示と共に前衛が一気に(俺から見て)ライト側に寄るが、ブロックも三枚は間に合わず二枚半。その隙間を縫ったスパイクもコースを読まれてレシーブがあがるものの、ダイレクトドライブゾーンは使えない。
「時間差!センターと一緒に跳べ!」
さっきは天井スパイクだったが、次はどう出る?……やれやれ、透視能力でも使いたい気分だ。前衛三人の巨体が邪魔になっているものの、腕の隙間から顔の向きが確認できた!
「レフトにフェイント!ネット際!!」
着地したブロッカーが下がり、セッターが前に出る。大きく上がったボールで攻撃態勢を取るには充分な時間が確保できた。セッターを除く五人でのシンクロ攻撃。
「Cでバック!」
どうやら、ハルヒのバックアタックまで読み切れなかったのが悔しかったらしい。ハルヒはCの更に外側からDクイックで入ってきたようなものだったが、今回はセッターとライトの間からバックアタックに跳んだ。妻の読み通り、セッターのトスが俺の方へと向かってくる。身体をそらせたままボールに零式の回転を叩きこみ、ブロッカーの手の甲、腕、背中、お尻と蔦って相手コートに落ちた。先にフォームレススパイクの機会が訪れたのはこっちの方だったか。昨日までとはいかないが、随分と長いラリーだった。周りの反応は、ジョンの世界で見せたときとほとんど変わらん。妻と、SPに化けた古泉以外、現状維持の閉鎖空間の中に入り込んだかのようにピタリと止まっていた。妻がボールを持ってこちらに返してきた。エンドラインの外側でサーブの準備をしながら主審の笛が鳴るのを待っていた。零式を三枚ブロック用に応用しただけなんだ。いい加減納得してもらいたいんだが?俺たちにしか出来ない三枚ブロック破りだと、妻にも機会を作ってやりたいんだ。早くしてくれ。

 

 それからしばらく、ようやく俺のフォームレススパイクが飲み込めたらしく、サービス許可の笛が鳴った。互いに三枚ブロック破りの応酬だったが、やはり目立っていたのは俺たち司令塔。これを司令塔抜きでやったらどうなるのやら。妻にもフォームレススパイクのチャンスが巡り、見事に零式の回転でこちらのコートに落としてみせた。夕方になっても子供たち三人の現れる気配は一向に訪れず、練習試合終了となった。男子の体育館に行っていたんだろう。身体を拡大した誰かが指示を出しているはずだ。
「監督、今日の試合を終えて一言お願いします」
「どちらも三枚ブロックを破る策を身に付け、世界大会ではブロックアウトも通じるでしょう。しかし、こちらが三枚ブロックを仕掛けるためには彼らの指示が必要不可欠のようです。加えて、あの二人が零式スパイクを三枚ブロック破りに応用してきたことは私も他の選手たちも驚きを隠せませんでした。あんな態勢から零式の回転をかけるなど、余程の集中力がないとまず不可能でしょう。だからこそ、司令塔としてセッターの采配が読めるのかもしれません」
「監督、ありがとうございました」
「キョン社長、三枚ブロックを相手に理不尽スパイク零式を応用されていたようですが、あれはどのように生まれたものなんですか?」
「昨日の試合で天井サーブのようなスパイクを放ったと聞いてから閃きました。試しに一度やってみたら成功することができたので、昨日は彼女と二人であの『フォームレススパイク零式』の練習を続けていました。俺がやってみたときは古泉の手の甲や腕、背中を蔦って『僕の身体をまんまとネット代わりに利用されるとは』なんて怒っていましたよ。こんなに早く使う機会が訪れるとは想定外でしたが、お互い上手くいって今はホッとしています」
「キョン社長、ありがとうございました」
やれやれ、俺たちが報道陣をここに留まらせているようなものだ。これでまた監督同士で合同練習をやろうなどという話になれば、俺はいつまでインタビューに応え続ければいいんだ?まぁ、アレも出来上がったようだし、妻と二人でタイタニック号に戻るとしよう。

 

 どうやら、俺たちが最後だったらしい。子供たちもユニフォーム姿のまま原寸大に戻されていた。
「遅くなってすまん。ほとんど俺のせいなんだが、報道陣が本社内に蔓延るのは何とかならないものかと考え中だ。オフシーズンになっても毎日のようにインタビューされるしな。何かいい案があったら教えて欲しいのと、有希の計算では日曜日にニューヨークに着くらしいんだが、別のルートでもう少し続けないか?夕方にならないから船首で例のシーンができなくて困っていたんだ」
「そういえば、処女航海を成し遂げるのも一番の目的だったけど、ジョンの世界にいる頃に夕方になるんじゃタイタニック号に乗っている意味がないわ!キョンの言う通り、別ルートで例のシーンを撮影しましょ」
「問題ない。ルートを選ばなくても夕食時に夕方になる場所に停泊していればいい。でも、それも来週の水曜まで。木曜は女子日本代表のビュッフェがある」
「そういえば、他の選手たちにそのことをつたえなくてもいいんですか?」
「前日の夜練中にこちらのOGに各部屋を回ってもらえば良いでしょう。あまり期間があると待ちきれなくなりますし、報道陣が選手たちの話を耳にすることになってしまいかねません」
「それもそうね。あたしも延長することに賛成!こんな真昼間にシャンパンで乾杯したって雰囲気が出ないわよ!」
「ああ、そうだ。料理とは別にみんなに味見してもらいたいものがある。テレポートするから食べてみてくれ」
『味見!?』
「くっくっ、カレーパンのときは毒見すらさせてもらえなかったのに、一体何の味見をすると言うんだい?」
「見れば分かる。食パン、カレーパンと揃っていて、これがないのはどうもしっくりこなくてな。ジョンにも○ニュー特選隊のメンバーが欠けてスペシャルファイティングポーズが決まらないようなもんだと話したら納得していたよ」
「ってことは……あんパンですか?」
みくるの答案の答えがテーブルの上に現れた。歌にもこの三つが並んで歌詞になっているしな。
「くっくっ、これをキミに投げてみたくなったよ。『キョンパンマン、新しい顔よ―――!』なんてね」
「焼き立てで凄く美味しいです!餡子も丁度いい甘さで、これならいくつでも食べられそうです!」
「いつの間にこんなものを作っていたんです?パン作りは午後はやってなかったのではないのですか?」
「覚醒モードに入れる九割で体育館に向かって、残り一割で材料や生地と相談しながら試しに作ってみた。甘過ぎないのは砂糖の代わりにザラメを使っているからだ。その方があっさりとした味に仕上がる」
『キョンパパのパンおいしい!』
メンバーの1.5倍の量を作っておいたんだが、夕食よりもあんパンの方が先に無くなってしまった。カレーでなくとも一番多く食べていたのは当然有希。カレー○ンマンがあんパンを食べて元気が出るとは到底思えない。
『キョン(伊織)パパ!泳ぐ練習!』
「それはいいが、このあとみんなでダンスの練習に行くんだ。三人とも衣装も持ってるし、ハルヒ達を見ながら振り付けを覚えたらどうだ?」
『ハルヒママのダンス!?わたしも踊りたい!!』
「今日もずっと練習していたんですけど、今頃になって緊張してきちゃいましたぁ……」
「僕もちゃんと踊れるか不安で仕方がないよ」
「安心しなさい!完璧に踊れるまでずっと続けるから。その方が見ている側もダンスを覚えられるでしょ?」
やはりハルヒの『安心しなさい!』は安心できない。だが、理屈は通っているのは確かだ。練習で完璧に踊れなければ、本番で踊れるわけがないし、青チームや子供たちに何度も見せて振り付けを覚えさせられる。全員の夕食が済んだところでダンスフロアへと移動した。今後踊るであろう青チームや子供たち、それに演奏する俺たちは勿論だが、他のメンバーもどんなダンスになったのか見てみたいと一緒についてきた。俺のドラムスティックの音が四回鳴って演奏とダンスがスタート。『緊張してきた』とか『不安で仕方がない』などと言っていた割には、五人揃ってしっかり踊れているだろうが。まったく、いつものみくるや佐々木の悪い癖だ。踊りながら歌うのもこれまでのダンスで慣れているし、青チームや子供たちに見せるために二、三回通した程度でハルヒのOKが出た。

 

『キョン(伊織)パパ、泳ぐ練習!!』
「じゃあ、水着に着替えてプールサイド集合。今日はカラーヘルパーをつける。俺が行くまで自主練習してていいぞ。今日から新しい泳ぎ方の練習だ」
『問題ない!』
「くっくっ、もう小学校中学年くらいのレベルに達しているんじゃないのかい?これ以上は小学校のプールの授業がつまらないと言いそうな気がするよ」
「スキーも滑れるようになったし、あとは補助輪なしの自転車に乗る練習だな。毎日のように付き合わされているが、親子の時間を持てるのならそれでいい」
「有希、俺たちも行くぞ。黄俺に任せっきりにするわけにはいかん」
「問題ない」
全員でタイタニック号に戻る頃にはカラーヘルパーをつけた子供たちがビート板無しでバタ足で25m泳ぎ、プールサイドを歩いてスタート地点に戻ってプールに飛び込むというループを繰り返していた。三人をプールサイドに上げてクロールの腕の動かし方を徹底的に指導。子供たちからは俺の上半身が透けて腕の動きだけが見えるようにした。青俺と青有希が三人の様子を見ながらレクチャーをしていた。続いて、クロールでの息継ぎの練習。バタ足のときの息継ぎのやり方を子供たちに見せ、クロールでは右手を動かすときに左腕に頭を乗せて息継ぎをすると説明。頭の上にクエスチョンマークが三つ程浮かんでいたが、昨日と同様ハルヒの泳いでいる映像を見せるとようやく納得したらしい。腕の振りと息継ぎを同時に行う練習をしばらく続けて、ようやくプールの中へ。やっと泳げると言いたげな顔でプールに飛び込んだ。
「三人とも、今練習したことを水の中でやる。足はバタ足だ。さっきみたいに手の動かし方に注意しないと、早く泳げないし、勝負をすれば負け続けることになる。プールサイドで息継ぎまでしっかり出来たら、ビート板を持って泳ぐぞ。そこまで行けるかどうかは三人次第。できるか?」
『あたしに任せなさい!』
プールサイドに両手を置いてバタ足をしながら、腕を動かして息継ぎの練習。こういうときに透視能力があると便利でいい。青俺たちを入れた三人で子供たちのフォームを徹底指導。ダンスの練習をしていたせいもあり、とっくに九時を過ぎていた。最後に一回くらいは泳がせて終わりにしよう。

 
 

…To be continued