概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
無題 (季節外れの花見) | 91-193氏 | 08/06/07 | 08/06/07 |
作品
梅雨に入り、その日も前のも日も、きっと次の日も雨だった。特に活動をするわけでもなくSOS団の面々はそれでも部室に集まる。ジメジメした空気では特に何かやることも浮かばない。いつも通りキョンと古泉は古泉がどこからか持ってきたボードゲーム。長門は読書。みくるはお茶を汲んだりしながら、ハルヒと時折おしゃべり。ハルヒはパソコンを睨みながら考え事、思いついたままに何かをいってはキョンにツッコミを受けていた。
「そういえば、あたし今年お花見してないわね。なんでかしら?」
ハルヒが、本当にふと思いついたらしく、窓の外の桜の木を見ながら呟く。
「そりゃあ、お前俺たちはまだ出会ったばかりだったからだろう。桜はお前が団を立ち上げる頃には散っていたさ。」
思わぬ発言にそういえば、と一瞬沈黙する部室。がキョンのすばやい指摘に全員納得。ハルヒの
「そっか、そうね…。お花見したかったなぁ。」
という言葉を最後に再び各々がまたしたいことをするように戻っていった。桜の木はすっかり緑色になっている。雨の音だけが部屋に響く。外で部活する連中はすでに帰ってしまったようである。文系の部活も、今日は活動しているのだろうか。ひたすらに静かな夕方。空の色はどんよりとした鉛の色。古泉とのゲームにも飽きたキョンは何気なくハルヒに声をかける。
「お前、花見がしたかったのか。」
振り向かずにハルヒは答える。
「別に。そういえばしてなかったなぁ、って思っただけよ。来年の春にはやりましょ。」
そう答えると再びパソコンと睨めっこを始めた。ふむ、といかんせん納得がいかない表情ながらキョンも自分の定位置に戻る。やるべきことも無いが、帰る必要性もなかった。机に倒れこむ。机の魔力と言うものだろうか、自然に眠気が襲ってくる。キョンは、その魔力に逆らわないことにした。なに、時計は見ていないがまだそんなに遅い時間ではないはずさ、と思いながら。
「キョン…!ちょっと…!」
寝入ったキョンを激しい振動が襲った。そういえば学校で寝ていたのだと思い出し、瞬間的に目が覚める。ガバっと起き上がると目の前にはハルヒがいた。部屋を見回してもハルヒしかいない。
「なぁ…他のみんなはどうしたんだ?」
「知らないけど、帰っちゃったんじゃないの…?私も寝ちゃったみたい。ほら時間も遅いし。あたし達も帰りましょ。」
この展開で、キョンの脳裏には少し前の出来事が思わずよぎった。閉鎖空間にハルヒと二人きりで閉じ込めかけられたあの時の出来事が。とりあえずカバンを取りハルヒと部室を出る。まるであの時のように校内には二人の気配しか感じられない。車の音も聞こえない。
「ねぇ、あんたこんな状況遭遇したことない、わよね?」
先に口を開いたのはハルヒだった。おもわずキョンもぎくりとするが、
「あるわけがないだろう。」
とピシャと言い返す。理由はわかっているのだが、言い出すわけにもいかず気まずい沈黙のまま下駄箱まで着いてしまう。ハルヒが先に靴を履き替え、ゆっくりと外に向けて歩き出す。キョンもぼんやりと嫌な予感を抱えながら、靴を履き替えていた。
「え、ちょっと…!なんで!?」
ハルヒの驚きと喜びの混ざったようななんともいえない大きな声が聞こえてきた。まさか、本当に…とキョンは心の中で身構えた。
「一体どうしたん…!」
ハルヒを追い、外に出た瞬間思わずキョンも言葉を失った。目の前に広がるのは緑の葉をつけていたはずの桜がまるで数ヶ月戻ったかのように満開になっていた。雨だったはずの空は月がくっきりと見えている。
「おや、お二人ともお目覚めでしたか。」
ぼーっと桜を見上げている二人の前に古泉達が現れた。三人の手にはお菓子やらジュースがたくさん入った袋がかけられている。
「僕たちも外をみたらあの状況に驚きまして。それでせっかくだから花見でもしましょうということで買ってきたわけですよ。」
説明を頼まれたわけでもないのに古泉は几帳面に答える。
「さすが古泉君ね!今夜はSOS団花見大会よ。ほら、キョン、ボサっとしてないで荷物運ぶの手伝いましょ。」
ハルヒは荷物を長門やみくるから受け取ると、次々とキョンに移していく。
「くっ…重い…。ペットボトルのジュースとはいえバカにできんぞこれは…!」
短い距離とはいえ、その重さは相当なものだったようで、ぜいぜいといいながらなんとか一歩一歩足を進める。横にはなぜか気付いたら古泉がいる。
「この桜はやはりあいつか?」
「ええ、お察しのとおり涼宮さんです。口ではああいいながらも一度思いついてしまった以上抑えがきかなかったんでしょうね。」
「まったく…。しかしこれだけなんだろうな?それともこの間みたいに世界中今現在俺たちだけとかになっているのか?」
「ご安心ください。どうやらこの学校が我々だけしか認識できないようになっているようです。いや、学校が別の空間に隔離されたとも言えるかもしれません。ともかく今夜こうして団員で花見を楽しむことができたのできっと明日の朝には元通りですよ。」
「そうか、よかったよ…。俺はてっきりまたハルヒが俺だけ連れて新しい世界でも創造したのかと思って気が気じゃなかった。」
荷物をドスんと、地面に置きキョンは大きく体を伸ばす。先ほどまで不自然なほどに散ることも無い満開の桜だったが、ゆっくりと一枚一枚花びらを落としていることに気がついた。
ハルヒはみくるにジュースを勧めながら絡んでいる。長門は何か考え事でもするかのようにぼーっと桜を見ている。きっとハルヒはSOS団でないとできない、こんな花見がしたかったのだろう。
「まったく、しょうがない団長だよ。」
やれやれとため息をつきキョンはセクハラ中のハルヒを止めに行くのだった。