概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
Hand in hand | 97-673氏 | 08/09/07 | 08/09/07 |
作品
なんとも収まりが悪いというか、しっくりこないというか、その日俺はずっと自分の身に付きまとう違和感に悩まされ続けていたのだった。
さて、一体何がおかしいのか……今日の俺が普段とは異なる点を思い浮かべていてふと愕然となった。
そういえば、今日はまだハルヒから一言も声を掛けられていないじゃないか。
朝に俺が「おはよう」と挨拶しても、こっちの方すら向きもしなかったし、授業中もいつもならシャーペンの先で背中を突っついてちょっかい出してくるはずなんだが、どうしたことか本日はそれがただの一回もなかった。
その後、機会を見てこっちからいくら話し掛けようとしても、窓の外を眺めたままナシの礫状態。
何だろう、俺……ハルヒにシカトされるようなことなんかした覚えないんだがな。
結局、そのまま放課後を迎えてしまい、何故か俺は複雑な心境なのだった。
いつもはハルヒに対して「うるさい」とか「やかましい」とか散々文句言ってたのに、いざコイツが静かになってみれば、こんなにも居心地の悪い思いをするだなんて――俺ってどうかしちまったのかね?
とにかく、ハルヒが俺に対して怒っているようにも思えたので、俺はむしろこれ以上刺激しない方が得策なのかも、と考えて、そのために取るべき行動を決め、ハルヒに伝えようとしたのだった。
◆◇◆◇◆◇
何だろう、居心地が悪いというか、どうにも違和感が拭い去れずに、あたしは窓の外に向かってまた嘆息してしまう。
イライラの原因は――多分、今朝の寝起きが最悪だったからだと思うのよね。
それにしても、今朝方見た夢、アレって一体何だったのよ?
目の前に立ち尽くしているキョンは、何処か虚ろな瞳をしていて、あたしが何を言ってもまるで聞こえてないみたいだし。
つい、イライラしちゃったあたしは、キョンを捕まえようと、その手を取った――つもりだったのよ。でも……。
その瞬間、まるで砂か何かが崩れ落ちるかのように、キョンの全身は粉々になって――そのまま消えちゃったの。
あたしは、もうわけわかんなくなっちゃって、思わず声にならない叫びを上げてしまったわ。
まるで、世界が終わってしまったみたいだった……。
朝の教室で、キョンはいつもと同じようにあたしに声を掛けてきてくれた。でも、あたしは何だか怖くて――キョンの方を見ることが出来ないでいたの。
なんだか、キョンに触れるだけじゃなくて、話し掛けたり――ううん、キョンの方を見ただけで、あの夢みたいに、キョンが壊れてしまうんじゃないか、それだけが心配で。
でも、一体何なんだろう、この気持ちって?
キョンに話し掛けられない、キョンの顔を見ることが出来ない、それだけなのに、何であたし、こんなに辛い想いをしてるのかしら?
ダメダメ! 全然わかんないわ!
そうやって、悶々とした時間を過ごしながら、とうとう放課後になってしまった。
このままじゃいけない、でも、なにをどうしたらいいの? 全然わかんないわよ、あたしには!
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずしてか、キョンはあたしに向かって――まるで予想もしていなかった一言を告げてきたの。
◆◇◆◇◆◇
「なあハルヒ、俺にはお前が何を怒ってるのかさっぱり見当もつかなくて申し訳ない。でも、もし俺が傍にいるのがその不機嫌の原因なら、俺も無理にお前に近付いたりしない。何だったら今日の部活も、俺休んで――」
「……ま、待ってよ、キョン!」
俺の台詞は最後まで告げることは出来ず、突然立ち上がったハルヒは、何故か俺のネクタイを引っ掴むと、駆け足で廊下に飛び出して行った。
慌てて俺が自分とハルヒの分の両方の鞄を手にしたものの、半ば引き摺られるようについて行くのが精一杯だ。
しかし、一体どうしたっていうんだ?
◆◇◆◇◆◇
辿り着いたところは、いつぞやの屋上へ続く階段の最上部の美術部の物置らしき場所なのであった。
俺とハルヒにとっては、実は特別な場所なのかも知れない、が、そんなことは今はどうでもいい。
「何なんだ一体? それに、どうせ引っ張るならネクタイじゃなくて、せめて手首をだな――」
「ダメよ、それは!」
駄目って、そりゃどういうことなんだ、ハルヒ?
「だって……あたしがキョンに触ったら、キョンは粉々になって消えちゃうかも知れないんだもん。そんなこと……あたしにできるわけ、ないでしょ?」
はあ? 全く意味が解らん。
「とにかく、あたしがキョンに触ったら……キョンは、キョンは……」
一人ブツブツと呟いているハルヒ。だがこのままこうして黙っていても埒が明かんな。
かといって、俺には話が全く見えんので、とりあえず訊いてみたところ、どうもハルヒは今朝見た夢の中で、俺に触れた途端、俺の体が崩壊する、なんて場面を目撃してしまったってことらしい。
おいおい、何て夢を見やがるんだ。しかも、下手をすればそれはハルヒの能力によって実現されかねないじゃないか。
少々ビビリはしたものの、俺は深呼吸の後、思い切ってハルヒの手を取った。
「あっ!」
それみたことか、全然平気じゃないかよ。と、半分自分に言い聞かせるように思いながら、俺はハルヒに尋ねる。
「なあハルヒ。まさかお前は俺に消えて欲しいとか思ってるのか?」
「ううん――そんなわけないでしょ」
「それならいいじゃないか? 大体、変な夢見たぐらいで何でそんな心配しなきゃならんのだ?」
「だ、だって、キョンったら、いつもあたしの夢の中で……」
ん? ちょっと待て、お前そんなに俺の夢ばっかり見てるってことなのか?
「うあ……ば、バカキョン! あんたなんかもう知らない!」
まるで瞬間湯沸かし器の如く顔から湯気を出さんばかりになったハルヒは、俺にビンタ一発食らわすと、一人で走り去ってしまった。
やれやれ、俺にどうしろって言うんだ?
◆◇◆◇◆◇
思わずキョンを引っ叩いてから逃げ出しちゃったけど、やっぱあたしが悪いわよね。ちゃんと謝らなきゃ。
って、よく考えたらあたし、手ぶらで教室を飛び出してきたんだっけ? ああもう、バカだ、あたしって。キョンのことなんて言えた義理じゃないわよね。
「ハルヒ!」
背後からキョンの呼び止める声。
振り返ると、あいつは何故かあたしの鞄を差し出しながら、妙に優しげな視線でこっちを見ていたの。
ほんと、普段はマヌケ面でボーっとしてるばっかりなのに、何でこういうときだけ妙に気が利いたり優しかったりするのかしら、コイツって?
意識しまい、と考えながらもつい心拍数の上昇を感じてしまう。
鞄を受け取るときにうっかり指がキョンの指に触れてしまい、そのせいでまたあたしは、おかしな反応をしてしまう。
ああ、またキョンに笑われちゃうじゃないの! 何か悔しい。
「な、なにがおかしいのよ、キョン?」
「いや、別に」
そう言ったキョンは、何故か差し出した手を伸ばしたままにしている。どういうつもりなのかしら?
「ハルヒ……ほら」
って、まさか、あたしに手を繋げってこと、これ?
なに考えてるのよ、このエロキョン!
でも、結局あたしは、そのキョンの手を掴んで、そのまま部室に向かうことにしちゃったの。
い、いいでしょ、別に! ただ、何となく――何となくそんな気分になっただけのことなんだもん、あたしの勝手よ!
そう思いながらも、何故かあたしは自分の顔が緩んでしまうのを感じて、どんどん足を速めるばかりだったの。
「ほらキョン! モタモタしてないで、ちゃんと付いてきなさいよね!」