Special Window (83-18)

Last-modified: 2008-03-05 (水) 02:21:07

概要

作品名作者発表日保管日
Special Window83-18氏08/03/0408/03/04

作品

「やっほーっ、みくるはいるかいっ?」
 勢い良く部室のドアを開けて現れたのは鶴屋さんだった。
「あっ、鶴屋さん。ど、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないっさ。ホイっ忘れ物!」
「ふえぇっ、ご、ごめんなさい」
 みくるちゃんはとても申し訳無さそうに鶴屋さんに謝ると、立ち上がってドアの方まで駆け寄ろうとしたんだけど、躓いて転びそうに!ちょっと、危ないわね。
「わひぃ!」
「おーっとっと。相変わらずだねぇ、みくるのおっちょこちょいは。そんなに慌てなくたって、あたしはどこにも逃げたりしないにょろ!」
 みくるちゃんを抱きとめた鶴屋さんとあたしの目が合ってしまう。とたん、怪訝そうな顔をする鶴屋さん。
「あれれっ、どーしたんだい、ハルにゃん?ちょいとばかしご機嫌斜めみたいだけど、何かあったのかいっ?」
「!」
「はは~ん。――みくるも有希っこも、ついでに古泉くんもここにいるわけだし――そーなるとっ、原因はここにいない人物ってことになるっさねぇ」
 図星だった。
 今あたしは何故かイライラしてた。
 ちょっとそこ、何故かじゃないだろう、ってツッコミはお断りよ。
 一応、キョンのヤツはあたしに少し遅れるってことを予め教えてくれてたんだし、別にあたしもそのことでどうこう言おうってつもりは更々ないわ。
 
 ただ――あいつが他のクラスの女子に呼び出されたらしい、しかもここ数日間で頻繁に――ってことが、あたしの胸に棘みたいに刺さって、何だか気になってしょうがなかったのよね。
 
「しかし一体どうしたのでしょうね。涼宮さんは何かご存知ではありませんか?」
「え、ええ。キョンは遅くなるって言ってたけど、理由までは知らないわ」
「そういえば、さっきわたし、キョンくんが女の子二人組みに連れられて、体育館の方に歩いていくのをみたんですけど、何か用事でもあったんでしょうか?」
「おやおやっ、それは聞き捨てならないにょろよっ、みくる」
「えっ、どういうことですか?」
「決まってるじゃないかっ!きっと告白だよ、告白。今頃きっとキョンくんは体育館の裏で、ラブラブな桃色呪文に絡め取られて、顔を真っ赤にしてフリーズしてるに違いないにょろ~」
「ちょ、ちょっと、鶴屋さん」
「あっはっはっは、やっぱりハルにゃんはキョンくんのことが気になって仕方が無いみたいだねぇ!じょーだんだよっ、冗談っ」
「べ、別にそんなこと……」
「でも、キョンくんって、結構モテるみたいですよね。この前のバレンタインのときも、いっぱいチョコレート貰ってたみたいだったし」
「おーっと、それは初耳だねえっ!あれ、でもたしか、キョンくんはあたしが訊いたときは、あんたたち三人からしか受け取ってない、って言ってたにょろよ?」
「えーっと、そ、それは」
「――――あたしが、没収したから」
「ええっ?」
「そ、そうよ。あんなに沢山貰ってもキョンだって食べるのに困るだろうし、お腹壊したり、虫歯になったりしてSOS団の活動に悪影響が出たら困るでしょ。だ、だから手伝ってあげただけなのよ」
「で、でも、アレを全部一気に食べちゃって、そ、その、涼宮さん……ほんとに大丈夫だったんですかぁ?」
「失礼ですが、彼が貰ったチョコレートの量は、一体どれほどだったのですか?」
「えーっと、た、確か…………ダンボール箱一箱分くらい、でしたっけ?」
「みくるちゃん!それ内緒って言ってたのに」
「ふ、ふえぇっ、す、すみませ~~ん」
 
 さすがに鶴屋さんも古泉くんも唖然としていたわね。
 
「あ、あははははっ、じゃ、じゃあ、あたしはそろそろ帰ることにするっさ」
 そう言って鶴屋さんは逃げるように部室から出て行ってしまったの。
 
 残されたあたしたち四人。沈黙がちょっと、辛いかもね。
 
「あの、涼宮さん、大丈夫ですか?お顔の色が優れないようですが?」
「あ、古泉くん。へ、平気よ。あたしは別に人の恋路に口出ししたりしないし、キョンに告白?珍しいこともあるじゃない。明日は大雪にならないといいんだけど」
「あ、あのぅ、涼宮さん。…………あまり、無理しないでください」
「へっ、みくるちゃん。なによ、あたしは無理なんか別に――」
「し、してますよぅ!」
 ちょっと、みくるちゃん?って、あなたが泣くことなんてないじゃないのよ。
「……大丈夫」
 えっ、有希?
「彼は決してあなたの想いを裏切ったりしない」
 有希の、静かだけど力強いその言葉に、あたしは思わず泣きそうになってしまったんだけど、なんとか必死で堪えることができたのだった。


 
 普通の人間なんてものは、長い人生において自身の命の危険に出くわすなんてことはそう無いはずだ。まして、身近な人間、と言うと語弊があるかも知れんので訂正、身近な人物から殺されそうになる、なんてことはな。
 例の朝倉涼子の一件なのだが、長門の情報操作とやらが完璧だったのか、クラスのみんなももう、彼女を話題にすることは皆無だった。不審に思って住んでいたアパートにまで押しかけた当のハルヒでさえ忘れちまっているに違いない。
 だが、その朝倉は俺が思いもよらぬ置き土産をこのクラスのみならず北高全体に残していったのだとしか思えないのだ。
 
 ハルヒ関連の用事全般の窓口係が俺である、ってことをな。
 
 校内一の変人ということで年度の頭から超有名人だったハルヒであるが、文化祭でのライブの件だとか、その他諸々の活躍?のおかげなのかは解らんが、最近の生徒たちのハルヒを見る目が何となく変わったのだという実感は俺にもあった。
 ただ、多少好意的に思われたところで、初期の強烈な印象が覆るところまでには達しておらず、男子生徒連中の大半は谷口のアホが散々広めた噂のせいもあり、みんな君子危うきに近寄らずを実践しているものと思われる。
 
 やれやれ、って、何でこんなことで俺がホッとしなくちゃならないんだろうな。
 
 それからついでに、女子生徒に関しては、阪中の言葉を借りれば、
「う~ん、憧れなんだけど、やっぱりちょっと、気軽に声を掛け辛い、ってところなのね」
 とのことである。
 ハルヒみたいなのに憧れ?とつい疑問に思ってしまう俺なのだが、まあ確かに、美人でスタイルもいいし、運動能力は桁外れで、学問も優秀。おまけに自分の意見をズバズバ言ってのける、なんてのは、羨ましく思ったりするのも解らんでもないかも知れん。
 
 で、そのハルヒに憧れているらしい女子連中が、ハルヒへのプレゼントだとかそういった類を、何故か俺に託けてくるのである。
 最初はクラスの女子に訊いていたらしいが、どうも朝倉と仲の良かったらしい連中が、そういった面倒を全部俺に押し付けてしまったのが始まりだったに違いない。
 今では、何かあると俺が呼び出される始末である。いい加減、勘弁して欲しいんだがな。
 しかも、そういうときに限って、何故かハルヒがご機嫌斜めになってしまうのだ。俺には全く理由は解らんが、困ったものである。
 そういえば、この間のバレンタインデーのときも俺は、全部でダンボール一箱に達する量のハルヒ宛のチョコレートを託されたりしたのだが、女の子同士でチョコ贈るなんてことが実際にあるなんて、世の中俺の解らんことだらけだ。
 で、当のハルヒは何も訊かずに俺からダンボール箱をひったくると、あっという間に全部平らげてしまったんだったっけ。
 まあ、色々と面倒な説明しなくても済んだのである意味助かったと言えばそうなのだけどな。
 
 というわけで、最近の俺は放課後に呼び出されては、ハルヒの好きそうなお菓子とか喜びそうな物だとかを、色々教えたりするハメになっているのだった。
 おそらくは、ホワイトデーの対策なんだろう。そういえばうっかり俺も準備を忘れるところだった。危ない危ない。
 でも好きなものなんて、そんなの本人に訊いた方が早くて確実なのに、誰一人としてそうしないのはどういうことなんだ全く。
 今日も今日とて三組の女子二人組みからの呼び出しだったのだ。また部室に顔を出すのがかなり遅れちまったじゃないか。やれやれ、またあいつに怒鳴られるんだろうな、俺。
 
 しかし、人気者だな、ハルヒ。

 

 
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