Suddenly Stomatitis Strikes ! (95-706)

Last-modified: 2008-08-11 (月) 01:17:21

概要

作品名作者発表日保管日
Suddenly Stomatitis Strikes !95-706氏08/08/1008/08/11

作品

「はあ~」
 如何にも憂鬱そうな溜息を吐いて、ハルヒは団長席の机の上に突っ伏してしまった。
 しかし、何故俺たち五人は、夏休み中だというのに揃いも揃ってこんな暑苦しい部室に顔を出しているのやら。暇人にも程があるってもんだぜ。
「では、そう仰るあなたも何故この場においでなのでしょうか? と言っても、僕にはその理由はなんとなく解る気もしますけどね」
 いや古泉、暑苦しいとかそういうの抜きで一々顔近づけるなって言ってるだろ!
「これは失礼。でも、涼宮さんの様子は少々気に掛かりますね。何か気分が優れない感じで、僕もちょっと心配です――もっとも、これはあなたも同じだと思いますが」
 勝手な解釈でもなんでもしてやがれ。まあ確かに、いつもみたいに退屈凌ぎにウェブを巡回しているわけでもなければ、朝比奈さんにセクハラめいたイタズラを仕出かす風にも見えない。
「普段なら涼宮さん、わたしが淹れたお茶を一気に飲んでしまわれるんですけど、今日はまだ、一口も付けていらっしゃらないし――今日のお茶、いつもより上手く淹れられたと思ったのに。お気に召さなかったのかなぁ」
「いえ、朝比奈さん。別にあなたのお茶が悪いなんてことあるはずないじゃないですか。きっと暑いから欲しくなかったとか、そんなところですよ。……そうだ、なあハルヒ。冷蔵庫に昨日買って来たところてんがまだあったろ。食うか?」
「――いらない」
「なんだよ、お前が酸っぱいのが食べたいって言ったから、わざわざ黒蜜じゃなくて酢醤油掛けるヤツを探してきてやったってのに、そんな言い方はないだろーが」
「うるさいわね……放っといてよ」
 ハルヒは怒鳴るのではなく、か細く呟くようにそう言うと、おもむろに立ち上がってドアから出て行ってしまった。
 どういうことなんだろう? いつもの真夏の陽射しにも負けてないハチャメチャなエネルギーの発散っぷりは異次元の彼方にでも置いてきてしまったかのように、ハルヒからは元気のゲの字すら消失してしまったみたいである。
「古泉、そろそろお前……呼び出しが掛かるんじゃないのか?」
「まだ連絡は入って来てませんし、僕も涼宮さんが例の空間を生じさせたという兆候は知覚していません。でも、時間の問題かもしれません。出来ればそうなる前にあなたに何とか解決していただきたいところなのですが」
 さもなければ、またあの神人とやらが暴走し始めるってことなんだろうな。
 かといって、ハルヒの不機嫌の原因なんて俺には解りっこないしな。まあ、とりあえず、追いかけて行ってはみるが、どうしたものやら?
「……待って」
 ドアノブに手を掛けた俺を呼び止めたのは、本日初めて声を発したんではなかろうかって気がするぐらい沈黙を守り続けていた長門であった。
「どうした、長門。何かマズイことでもあるのか?」
「涼宮ハルヒは、現在あなたと二人きりになることを恐れている」
 えーと、あの、それはどういう意味なんでございましょうか、長門さん?
「説明した通りの意味。他にはなにもない」
「ふむ、涼宮さんは普段ならそのような状況は寧ろ好都合に思われるはずなのですが、色々と難しそうですね」
「だめですよ、キョンくん! 涼宮さんだって初めてなんでしょうから、強引なのは禁則事項なんですからね。でも男の子なんだし、ゆっくりと優しくリードしてあげてくださいね。えへへっ♪」
「って、何が好都合なんだよ古泉? それに朝比奈さんまで何が『えへへっ♪』ですか! 何か変なこと想像してませんか?」
 動揺のあまり声が引っくり返りそうになってしまう俺なのであった。
「つーか、長門。そもそも何故ハルヒはあんなに機嫌が悪いんだ?」
 長門は俺の方を直視すると、何のためらいもなくありのままの事実を告げた。
「彼女の口腔内部、具体的には口唇部の裏側に極めて小規模ではあるが裂傷が確認された。しかもその傷は現時点で灰白色斑、いわゆるアフタ状に変移している。簡潔に説明すると、彼女は口内炎の症状のために機嫌を損ねている」
 はあ、口内炎ね……。
 なるほど、そう言われてみれば今日のハルヒの不自然な行動も理解できる。朝比奈さんの熱々のお茶を飲まなかったのも、酸っぱいところてんを食べたがらなかったのも、傷にしみるのがイヤだったのだろう。
「でも、なんでそれが俺と二人きりになるのを嫌がる理由にならんといかんのだ?」
「あっ、なるほど……わたし、何だか涼宮さんが思ってること、解っちゃいました」
「なるほど、僕にも大体のことは理解できました。あくまでも想像の域を出ませんけどね」
 古泉の野郎だけでなく、朝比奈さんまで生暖かい微笑で俺の方を注視していらっしゃる。
 なんとなく、あまり訊きたくないような気もするが、訊かざるを得ないっていうのは何かの陰謀なんじゃなかろうかね?
「どういうことなんだ、長門」
 俺は敢えて朝比奈さんにも古泉にも訊かずに長門に尋ねることにした。
「涼宮ハルヒは今朝の外出前の口内洗浄処理、つまり歯磨きを、自分の納得のいくレベルまで実施出来なかったことを気に掛けている。その状態で、口唇粘膜同士の接触に留まらず、舌部の挿入や互いの唾液循環を……」
 わーわー、すまん、長門! 俺が悪かった。もうやめてくれ! 頼む!
「……そう」
 長門はどこか残念そうに俺を一瞥すると、また読書に戻ってしまった。
 古泉のニヤニヤと朝比奈さんのニコニコのダブル攻撃に耐え切れなくなった俺は、さっさと部室を後にしてハルヒを探すことにしたのだった。
 
 って、探すまでもなかった。
 中庭の木の下でハルヒは寝転がっていた。
「こんなとこで何やってるんだ?」
「キョン? ――別に、あんたには関係ないでしょ」
 憤慨した様子ではあるものの、やはり声のトーンは低調なハルヒなのである。なるほど、怒鳴り声すら出したくないぐらい症状は酷いらしいな。
「結構痛むのか?」
「えっ? な、何であんたがあたしの……そうね、昨日の晩から、あたし痛くて何にも食べてないんだもん」
「やれやれ、そうやって無茶したら治るものも治らないっつーの。せめてビタミンやミネラルはちゃんと摂取しとけ。この時期だし、口内炎だけじゃなくて夏バテでお前に倒れられでもしたら、俺も困っちまう」
「……キョン」
「で、どうする? 病院に行くんならついて行ってやってもいいぞ」
「えっ? で、でも、病院って、どこに掛かればいいのよ?」
「確か歯科でも見てくれたと思うんだが、まさかハルヒ、お前歯医者が怖いなんて言い出すつもりか?」
「ば、バカにしないでよ! ふんだ、いいわよ、行ってやろうじゃないのよ! ほらキョン、そうと決めたらさっさと行くんだからね!」
 ハルヒは急に立ち上がると、俺の手を掴んで部室に鞄を取りに戻るのだった。
 出迎えた三人の視線が妙に気になったのは多分俺一人だけのはずなんだろうがな。
 
「ねえキョン、歯医者に行った後にはあんたがなにか奢ってちょうだいよね!」
「って、何で俺が奢らんといかんのだ?」
「あんたが言ってたじゃないの。あたしはビタミンとかミネラルを大至急補給する必要があるんだから、そのぐらいいいでしょ?」
 やれやれ、現金なこった。
 でもまあいいか。さっきまでの落ち込んでいた様子もなくなったし、そうやってこの真夏の暑さに負けないぐらいのお前の笑顔を取り戻せるんだったら、安い投資なのかも知れんな。

イラスト

久々にラクガキ付けてみる。
 
95-709 haruhi_pun2.png
 
笑顔なハルにゃんが最高なのは当然として、最近は不機嫌顔も妙にツボなんですよwww
あーキョンになってハルにゃんと口喧嘩した後に仲直りしたいよぉ!!!