dance in (64-714)

Last-modified: 2008-12-13 (土) 23:06:01

概要

作品名作者発表日保管日
dance in64-714氏07/10/1607/10/16

作品

特にすることもない穏やかな放課後。しかしそんなものはいつも暴走機関車こと我らが団長に打ち破られてしまうのだ。
「みんなっ!これに参加するわよ!」
ハルヒが突き出したチラシには『ダンス』の文字が踊っていた。
 
「ダンスなんて出来ないぞ俺は」
「今から練習すればいいでしょ」
大会の開催日を見ると2週間後だった。
「2週間でどうしろと言うんだ」
「大丈夫よ。たいした大会でもないしあたし達なら楽勝よ!これを踏み台として世界に羽ばたくのが目標だから」
当然のように言うハルヒ。こいつの意味不明で根拠のない自信はどこから湧き出ているのだろうか。
「じゃあさっそくペアを作るわ。まず古泉君とみくるちゃん」
「ふぇ~!?」という声が聞こえるが異論は挟みにくい。
見た目は美男美女で朝比奈さんのドジも古泉ならフォローできそうだ。
などと出場する方向で考えてしまっているのは体がハルヒの無茶に慣れてしまっているからだろうか。
「で、もう一組があたしがあんたと組んであげる。他に男もいないしね」
嫌々俺を見るハルヒ。そこまでして組んでもらいたくないぞ。ん?まてよ。
「じゃあ長門はどうするんだ」
「有希?そうね…裏方でもやってもらいましょうか」
今の今まで忘れていたような口ぶりになんとなくイラついた。
「わかったよ参加しよう」
「当たり前でしょ。じゃあ早速、い…」
「ただし俺は長門と組みたいんだが」
「え…」
いくつかの声が重なった気がする。
「長門だけ仲間はずれなんてのはおかしいからな。おなじSOS団だろうが。ハルヒは映画のときみたいに監督をやればいいだろ?」
みんなの視線が俺に集中している。なんというか舞台にでも立っている気分だ。
「だいたいハルヒと俺が組んだらハルヒの無茶な動きに振り回されて失敗するのが目に見えてる」
「しかしそれでは…」
古泉が何か言おうとしたが「…もういい!わかったわよ」というハルヒの声に止められた。
「どうした、何怒鳴ってんだ?」
「…ふん!見てなさいよ。二組とも優勝させてみせるから」
両方優勝はないだろ。せめてSOS団でワンツーフィニッシュくらいにしといてもらいたい。
 
「ちょっとまってて」
とハルヒが出て行った。その隙を逃すまいとするかのように古泉が寄ってきた。
「なぜあんなことを?」
あんなことと言われてもな。一番みんなが楽しめると思ったんだが。
「具体的には?」
「長門にとっては未知のものだろうからな。いろいろやらせてやりたいのさ」
いざとなったら宇宙パワーでフォローも期待できるしな。
「ハルヒなら監督とか仕切るのが好きだろ?わざわざ参加しなくても俺たちを活躍させればそれで満足するだろ」
「あなたは…!」
バン!とドアが開く。
「あれ?どうしたの古泉くん」
「…いえ何でもありません」
古泉が何を言おうとしたのかわからない。それよりもハルヒが持ってきたもののほうが気になった。
「ふふ、これは本番用の衣装よ!」
なぜそっちから先に用意するのか理解に苦しむ。
「じゃじゃーん!」
どこから入手したのか、など疑問はつきないがどうも本物のようだった。
「わぁ~きれい…」
朝比奈さんは釘付けだ。
「ちょっとみくるちゃん立っててね」
上からあわせてみるハルヒ。あれを朝比奈さんが着たらと思うとはやる心を抑えられない。
「キョン古泉くんの分はあるんだけど有希のは待ってて。ちょっと遅れてるみたいなの」
ハルヒにしては珍しい。こういうとき一通り揃えてからくるやつだとおもっていたのだがな。
そんなこんなで練習が始まった。
 
リズムに乗ってくるくると
古泉という男を見くびっていたかもしれない。
あの朝比奈さんと組んで見事にリードし、かつ朝比奈さんの魅力を引き出している。
まあ朝比奈さんは魅力の塊なので普通にしていればすばらしいものになるのだが。
かくゆう俺はというと散々だった。
初めは長門が一切動いてくれなかったせいもあるが途中からはハルヒの「有希ならダンスくらい簡単でしょ」の一言でマスター級となった長門についていくのが精一杯で迷惑のかけっぱなしだった。
少しは運動でもしておくべきだったか。
「大丈夫。わたしがなんとかする」
長門は俺自身にブーストをかけて…なんてことはなく地道に一つ一つの動作を教えてくれた。
その間ハルヒは個人の成長度合いをみたり、練習場所の確保やら曲の選定やらで忙しく動いていた。
やっぱりあいつは総監督みたいなほうがうまく動けるな。
少し気になるのがいつもの無茶な暴走がないことだ。
ハルヒも大人になったという事かも知れないが俺のいないところでもしっかり出来ているのがなんとなく不安だった。
らしくないというかなんと言えばいいのか俺にもよくわからない。
 
長門の丁寧な指導もあって一週間後には俺もなんとか形になった。
「ふーん、キョンのくせに一応踊れてるじゃない」
「まあな、全部長門のおかげだけどな」
「…有希の?」
「ああ、長門が丁寧に教えてくれたからな。相手がお前だったら無理だったろうな」
やれ「なんで出来ないのよ!」とか「気合が足りないわ!」とか「バカキョン!」やらでまったく上達しなかったに違いない。
「…」
「まあ少し言いすぎかもしれないけどな」
「…ふん」
ハルヒはどこかへ行ってしまった。
まあいいさ練習練習。
 
「精が出ますね」
古泉か、こいつだって楽じゃないだろうに。
「まあそれでも楽しんでいますよ。涼宮さんのおかげです」
「何言ってんだ。俺にとっては長門のおかげで何とかなってるだけで楽しくなんてないぞ。ハルヒも面倒なことをさせるなよな」
「…その言い方はどうかと思いますよ。涼宮さんなりに楽しくなると思っての行動でしょうし」
「だから厄介なんだよ。お前はいいかもしれないけどな、俺や朝比奈さんはきついんだぞ」
「え?わたし楽しいですよ」
幸せという言葉そのもののように微笑む朝比奈さん。
「楽しいですか?こんなやったこともないようなこと」
「はい。やったことのないものだから楽しいんですよ」
ニコニコしてる朝比奈さん。そういう考え方もあるのか。
「ま、それでも俺は嫌ですよ。長門のおかげでなんとか形になってるだけです」
「…僕としてはあなたには涼宮さんの相手をして頂きたかったですがね」
「断る。なんで俺がそんなことせにゃならんのだ。あいつのわがままに付き合ってやってるだけでも感謝して欲しいくらいだ」
目に浮かぶよ。あいつに散々につき合わされ、まともな練習も出来ずになし崩し的に大会に臨む姿が。
もしそうなってたらいつかの野球みたいに長門に迷惑かけることになっただろうしな。
「でも…涼宮さん、すごく頑張ってますよ?わたし達のためにいろんなことして…」
「自業自得ですよ。むしろそういう裏方的な仕事をやってたほうがいいんです」
朝比奈さんは目を伏せ、古泉は心なしか鋭い視線で俺を見る。
二人ともハルヒに甘いからな。俺くらいは正しいことを言ってやらなきゃ。
「涼宮ハルヒ」
長門の呟きに振り返ると誰もいない。
「ハルヒがどうかしたのか?」
「…そこにいた」
もう一度見ても誰もいない。なんだか知らんが勝手に帰ってしまったらしい。
本当に好き勝手してるな。
長門が俺をじっと見ていた。
 
さて新しい週が始まったわけだが今週末には大会があり気を抜くことは出来ない。
珍しく気合を入れて部室のドアをくぐると全員揃っているものの妙な空気だった。
「どうかしたんですか?」
近くにいた朝比奈さんに話しかけると聞いてもいないのにハルヒが答えた。
「ダンスの大会への参加は中止よ」
「…は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。何言ってるんだこいつは。
「ちょっと待てよ。なんのために練習してきたんだ」
「知らない。でも不参加は決定だから。いつもみたいに古泉くんとゲームでもしてたら?」
「…ああそうかい。少しはまともになったかと思ってたが間違いみたいだな」
「そんなのあんたが勝手に思ってただけでしょ」
「っ!お前いい加減にしろよ!」
ハルヒの胸元を掴み上げる。
「何よ」
「お前は知らないだろうけどな、俺たちは頑張ってたんだぞ。お前のわがままに付き合って慣れないダンスなんてもんをな」
「…」
「こんな中途半端でやめるなら始めからやらせるな!迷惑なんだよ!」
「…」
「…はぁ」
「言いたいことはそれだけ?じゃあこの手離しなさい」
強引に俺の手を解きスタスタと外に出ようとするハルヒ。
「おい、ハル…」
「勝手にしなさいよ」
バン!と強くドアを締められた。なんなんだあいつは、逆切れかよ。
無言の部室。こんな空気は耐えられない。自分の鞄を持ってさっさと帰ろうとする。
「待って」
長門の声。振り向きざまに本を渡された。
「読んで」
一応受け取ってきびすを返す。背中に声が聞こえた。
「あ、あの涼宮さんもきっと考えがあってのことで…」「もうすこし涼宮さんの気持ちになって考えるべきだと思います」
まるで俺が悪者みたいじゃないか。
 
長門に渡された本を開くと予想通りしおりが挟まっていた。
住所を頼りに進んでいくといつか見たような場所に出た。
どこだったか、ああそうだ、ハルヒが昔のことを語った踏み切りだ。
ハルヒは佇んでいた。まるで今にも自殺しそうな様子で。
背筋が凍る。何が何でも止めなくてはいけない。そう思った。
「ハルヒッ!」
「え?」
間抜けな顔をして振り返ったハルヒ。俺はその体を抱きしめていた。
電車が通る。ガタンガタンとすぐ隣を通り過ぎていく。しばしの無音。
「何してんのよ」
冷静なハルヒの声で我に返る。
「あっ…っと、悪い、そのまま飛び込むのかと思って…」
ハルヒの体を離す。自分の胸に手を当てると人生で体験したことないくらい心臓が早鐘を打っていた。
「はあ?そんなことするわけないでしょ」
いつもどおりのハルヒにほっとする。自分でも驚くくらいに。
「で、何?まだ文句言い足りない?」
そうだった。…待てよ、俺は何のために追ってきたんだ?わけがわからない。
「いや、なんていうか、………俺だけ文句言うのも不公平だろ?お前も文句があったら聞いてやろうと思ってな」
自分の頭の回転の悪さが嫌になる。もう少し何かあるだろうに。
「じゃあ言わせてもらうけどね、あんた何様よ。あたしが持ってきたのになんであたしが止めちゃいけないのよ」
しまったと思ったときにはもう遅い。ハルヒに火がついた。
「あたしと踊るのは嫌とか言うし、長門長門うるさいし、あたしの苦労なんてわかろうともしないし」
いつのまにか声が震えていた。
「あんたは有希と楽しそうだし、古泉くんもみくるちゃんも楽しそうだし、あたしだけ…」
グスッという鼻声。
「なのにあんたはあたしのこと除け者にしようとするし…」
もう止められなかった。
「あたしはっ…むぐっ」
ハルヒを抱きしめていた。これ以上聞きたくなかったし話させたくなかった。
「ごめん、すまん。いくら謝っても足りないと思う、でも悪かった」
ハルヒは楽しいそうだと思ったことを見つけ、みんなで楽しもうとした。
そして最善を尽くしていた。衣装なんかも用意してたしきっとはじめから場所やら曲やらだって決めていたに違いない。
そしてハルヒが長門を仲間はずれになんかさせるはずもない。きっとちゃんと役割を用意していたはずだ。
ここまで思うのはひいきが過ぎるだろうか。
そんなの知ったことか。俺がハルヒを傷つけたことに比べればもっとひいきしたってかまうまい。
古泉だって、朝比奈さんだって、長門だって楽しんでいた。
いや、俺だって楽しんでたじゃないか。上達しようなんて思ってたのがその証拠だ。
「ばか…キョン」
正直このまま抱きしめていたかった。けれどやることがある。
「ハルヒ、部室へ戻るぞ。練習だ」
「でもあんたは有希と…」
「長門には土下座でも何でもしてペアを交代してもらう。埋め合わせが怖いけどな」
 
学校に着く。もうあたりは暗くなっていた。みんな帰っちまったか?
だが電気のついている部屋があった。あまりにも見覚えのある位置だった。
「おや、遅かったですね」
3人ともまだ残っていた。
「よかった~」
朝比奈さんの笑顔に癒される。…じゃない。長門に言うことがあるんだ。
「あのな、長門」
長門は答えずに朝比奈さん用ハンガーに手をつっこむ。
「はい」
取り出されたのは俺用の衣装と朝比奈さんのものとも違う女物の衣装。まさか…。
「な、なんでこれがここにあるのよ!?」
あせるハルヒ。さてはこいつ最初から自分用の衣装用意してやがったな。
でも、このまま長門と組んでいたらこいつはこの衣装を表に出さないつもりだったのだろうか。またも自己嫌悪。
「練習」
長門の声に我に返る。
「長門さんが体育館で用意をしてくれています。合わせの練習といきましょう」
古泉もその手に衣装を持っていた。
 
体育館には電気がともっていた。長門、無茶してないだろうな?
先に着替えて待っていると女子二人がやってきた。
言葉に詰まる。なんていえばいいのかわからない。
「褒めて差し上げてはいかがです?」
古泉もたまにはいいことを言う。ああやばい、頭が回ってない。
「綺麗だぞ、ハルヒ」
「…ありがと」
結婚式みたいです、という朝比奈さんの言葉は意図的に無視。精神衛生的に仕方ないんです。すいません。
 
正直ハルヒはめちゃめちゃうまかった。こっそり隠れて練習してたんじゃないかってくらい。
相性もバッチリでおそらく今までで一番うまく踊れたように思う。
くるくる回って、くっついては離れて、それでも手は取り合って。
そんなダンスをずっと踊っていた。いつまでもいつまでも。
 
「今日は有希の日よ。どこ行きたい?」
週末、俺たちは集合し、長門の為の日を作ることになった。
ちなみにダンス大会はハルヒの「飽きたからもういいわ」のひとことでおじゃんになった。
まああれだけ踊ればな。学校側にばれて大騒ぎになったからな。まったく長門様様だ。
「…図書館」
「わかったわ!いい?みんな、町中の図書館をSOS団で制覇するのよ!」
相変わらず無茶を言う。けれどそれは長門の願いとみんなで楽しいことをするということの両立なのだろう。
「じゃあいくか、長門」
コクリとうなずいて俺についてくる長門。だがその長門の手をハルヒが掴んだ。
「今日はあたしがエスコートするわ」
結局のところハルヒは俺なんかよりずっと団員のことを考えている。
形式なんて関係ない。ただ手をとって踊っていよう。それがきっと楽しく遊ぶと言うことなんだから。