figma制服Ver. の憂鬱 (87-868)

Last-modified: 2008-04-28 (月) 23:02:21

概要

作品名作者発表日保管日
figma制服Ver. の憂鬱87-868氏08/04/2808/04/28

作品

 先日にようやく発売となった我らが団長様のfigma制服Ver.は、俺の目から見ても中々の出来栄えなのではないかと思う。
 まあ、インパクトの面からはすでに超勇者版を見慣れていることもあって物足りないという感想を持つ方もおられるかもしれない。
 だが、俺は声を大にして言いたい!
 やっとスカートが適正な長さになってくれたのだ。これで一月末から続いていた俺の個人的な懸念事項も解消されたってもんじゃないか。
 まあ確かに、左脚側のスカートの裾の捲れ上がり方には若干の心配はあるものの、正面から観る限りでは台座を目の高さに位置させても純白の聖域はガードされている。これ以上何を望むことがあろう?
 というわけで、超勇者様にはパッケージの中にお戻りいただいて、俺は前に設置していた場所よりも一段上に『ハルヒ制服Ver.』を設置したのであった。
 
 
 その数日後。
 
 何やらハルヒの御機嫌があまりよろしくない。ここ最近、まるでfigmaに付属のアヒル口不満顔に交換したかのような表情をずっと貼り付けているハルヒ。一体どうしたのだろうか?
 思い当たることは特にない。何か手掛かり的なものといっても……時期的なことから考えてみるとハルヒの調子が下降線を描き出したのはfigma制服Ver.を部室に設置してからということになりそうだ、ぐらいしか思いつかない。
 だが、あの当日はハルヒだって終始嬉しそうにしていたのだ。自然と滲み出てくる笑みを何とか隠そうとしながらも、結局ニコニコ顔になってしまっていたハルヒの様子はハッキリ覚えている。間違いない!
 何故そうはっきり言い切れるかというと、不覚にもその日の帰り道に古泉の奴に指摘されてしまったのだ。『今日のあなたは涼宮さんの方をずっと笑顔で見ておられたようですね』と。俺の方も誤魔化しきれなかったなんてな。
 まあそんなことはどうでもいい。問題はハルヒだ。
 今朝だって、席に着いた俺を恨めしそうに一瞥するなり、『ふぅ~っ』と憂鬱そうな溜息を吐き出して、窓の方に顔を向けてしまったではないか。
「なあハルヒ、何か言いたいことがあるんならハッキリ言ってくれないか?」
「……別に」
 ハルヒは横を向いたままそっけなく俺に返事する。せめて話してる時ぐらいこっち見てくれてもいいんじゃないのか、おい。
 
 その日の放課後も相変わらずのハルヒだった。自分のだけではなく、長門のfigmaまで持ち出して手元で何やら玩びながらも、焦点の合っていない目で嘆息を繰り返すばかりだ。
「キョンくん、あの――最近の涼宮さん、なんだかあまり元気がないみたいですけど、どうしちゃったんでしょうか?」
 お盆を抱えたメイド姿の朝比奈さんも心配そうに俺に訊いてきた。とはいうものの俺だって理由が解らないからこうして困り果てているわけなんですけどね。
 ふと目を正面に向けると、今度は僕の喋る番ですね、解ります、とでも言いたそうな解説大好き超能力者の姿が映ったので、あえて無視して長門の方に目を遣る俺。
「――」
「……」
 どこか悲しそうに眉を歪めた古泉と、一瞬俺を見たものの古泉に遠慮でもしているのか無言のままの長門。俺的には気が進まないが仕方ないか。
「で、古泉。お前たちは何か知っているのか?」
 俺が尋ねると古泉は一瞬露骨に表情を緩めたが、すぐに微妙な笑顔へとその仮面を変貌させ、
「いえ、残念ながらまだ何とも。今のところ例の厄介なあの空間は発生していませんが、それも時間の問題ではないか、というのが我々の一致した見解です」
 と、やはり役に立ちそうにないことを述べるに留まったのであった。
「なあ長門。何故ハルヒはあんな調子なんだ? 何でもいい、今の時点でお前に解っていることを教えてくれないか」
 長門は僅かにハルヒの方を窺うと、俺たちに向かって静かに話し始めた。
「少なくとも涼宮ハルヒは自分の人形の出来に不満を持っているわけではないと思われる。寧ろ、彼女が気に掛けているのは『あなた』のこと」
 はぁ? 俺? 色々自分でも考えてみてるんだが、身に覚えのありそうなことはサッパリ無い。それとも、これから俺が何かしなければならないってことか?
「現時点では何とも言えないが、一ヵ月後には九十七パーセントを超える確率で問題は解消するものと予測可能。……それよりも早急に事態を解決するためにはあなたの力が必要」
 よく解らんけど、要するに俺次第、ってことなのか、長門?
「そう」
 結局その日もハルヒは早々に帰ってしまい、なし崩し的にSOS団の活動はお開きとなったのであった。
 しかし、長門にはああ言われたものの、俺自身はハルヒに対してどうすればいいのか皆目見当もつかん。やれやれだ。
 
 更にその翌日の朝。
 
 教室では口元を突き出してムッツリ顔のハルヒが、真っ黒な欲求不満オーラを周囲に放射していたのであった。
 教室に入った俺の方をクラスメイトの誰もが睨みつけている気がする。声にこそ出さないものの『早いこと何とかしやがれ!』という心のセリフが透明な弓矢となって俺の身体に突き刺さる。
 こうなれば自棄だ。不本意ではあるが、この際致し方あるまい。俺は思いつく限りのことをハルヒに謝ってみることにした。
「なあ、ハルヒ」
「――なによ」
 横を向いたまま俺のことなんてどうでもいいとばかりに返答するハルヒ。挫けそうになる心を必死に奮い立たせ、俺は続けたのだった。
「俺が勝手に超勇者figmaを片付けちまったのを怒ってるなら謝る。俺が悪かった。この通りだ。どうか許してくれ」
「ああ、そんなこと? 別に怒ってなんかないけど」
 どうやらハズレだったか。
「じゃあ、制服Ver.の方、もっと高いところに飾らないとダメだったか?」
「ううん。あんまり高いとこに置いても観辛いし、しょうがないじゃない。あたしは今のままでも構わないわよ」
 これも違ったか。ならば、アレはどうだろうか?
「なあ、もしかしてハルヒ、この前の部室の冷蔵庫に一つ残ってたプリンを俺が食っちまったのを根に持ってたりするのか?」
「ちょっとキョン、アレ食べたのあんただったわけ? 確か賞味期限過ぎてから結構経ってたと思ったんだけど大丈夫だった? まあ、あんたもお腹壊したりしてないみたいだし、あたしが食べとけばよかったかしら」
 その――別に怒ってないのか?
「うん。あ、でも定期的にあんたがちゃんと補充しておいてよね。それでチャラにしてあげないこともないわ」
 またしてもハズレか。
 
 その後も幾つか思い当たる節をハルヒに尋ねてはことごとくハズレを引いた俺なのであった。
 不思議なことにいつもなら烈火のごとく怒り心頭に発するはずのハルヒだが、何故か今朝に限っては心ここにあらずといった雰囲気でさらりと受け流しているのは幸いだったかも知れん。
 って、そうも言ってばかりはいられない。このままでは俺が一方的に墓穴を掘りまくるだけではないか。
 ハルヒ自身もなにやら怪訝そうな表情に変わりつつある。このままでは本当に地雷を掘り返しかねんぞ、俺。
「おいハルヒ。何でまたお前はこの前からずっと怒ってるんだ? 一体何が気に入らないんだ?」
「別になにも怒ってなんかないってば。――こんなこと、あんたに言っても解決するわけないんだもん」
「その、俺に言っても解決しないとかいう、お前の不満は一体なんなんだ?」
「あんたに言ってもしょうがないって言ったでしょ」
「そんなの、言ってみもせずに決め付けるなんて、ハルヒ、お前らしくないぞ!」
 成り行き上、つい声を荒げてしまった俺に対し、ハルヒも負けじと椅子をひっくり返しながら立ち上って大声で叫んだのだった。
 
「だから、あたしは一日も早く『キョン』が欲しいの! ただ、それだけなんだから!」
 
 一瞬にして教室内が静寂に包まれた。
 
 いつの間にか現れていた担任教師岡部も、他の生徒たち同様に目が点状態で俺とハルヒの方を眺めている。
 と、そこで俺自身もパズルのピースがバッチリはまるかの如く納得したのだった。
 長門は『一ヵ月後』には事態は解消すると言っていた。一ヵ月後、つまりその時期は――、
「ハルヒ……まさか、俺のfigma制服Ver.のことを言ってるのか?」
 小声で訊いた俺にハルヒもヒソヒソ声で答える。
「なに当たり前のこと訊いてるのよ、バカキョン! 大体、『あんた』の分が単品発売なんて、キョンのクセに生意気なのよ! 『あんた』なんか、『あたし』のおまけで十分過ぎるわよ。それを、一ヶ月も先だなんて……」
 ああ、解った。解ったから落ち着け。もうホームルームが始まるぞ。
「ふんだ。――ああ。早く五月後半にならないかしら」
 おいおい、あんまり物騒なこと考えるなよな。明日目を覚ましたら、GWをすっ飛ばして五月二十六日とかになってました、だなんて、洒落にもなってねーぞ、とか心の中だけで独り言を呟く俺だったのだ。
 やれやれ、全く本当に勘弁して欲しいものだぜ。
 
 
 
 
 
「さて――後ろのあの二人は置いておいて、そろそろホームルーム、始めるぞ」
「あの……先生」
「どうした、国木田」
「さっき谷口が保健室に行くって出て行きました。『両目から溢れ出すこの体液を、俺はどうしても止めることができない』んだそうです」
「そうか……まあ、気にするな。あいつも放っておこう。他に欠席者は――休んでる奴、返事は? ないな。谷口以外、全員出席っと」

イラスト

ラクガキ#1
 
87-868 haruhi_duckmouth.png
 
「ちょっとキョン、なにあたしのfigmaのスカート覗いてんのよ!」
「誤解だハルヒ! 俺は中が見えない高さを考えてたんだ。角度とか」
てな話が冒頭部分であったとかなかったとか。

ラクガキ#2
 
87-868 haruhi_pony_tail_and_kyon_figma.png
 
五月某日の団長様。念願の『キョンfigma』を手に入れたぞ!
「なあハルヒ、お前何で今日に限ってポニーテールなんだ?」
「う、うるさいわね。なんかそういう気分だったのよ。別にいいでしょ!」

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