the remainder of her life. (21-115)

Last-modified: 2007-02-07 (水) 00:17:34

概要

作品名作者発表日保管日(初)
the remainder of her life.21-115氏06/10/0106/10/02

作品

キョンと同じ大学に通い始め、お互いの下宿に行き来しながら
なんちゃって新婚さんごっこしたりしていた頃。
はじめは変な咳がでるなーとしか思っていなかったんだけど、
風邪をこじらせたかなくらいの感覚だった。
むしろ心配してくれるキョンが嬉しいくらいだったわね。

 
 

しきりに心配するキョンに無理矢理連れられやってきた病院。
あのときキョンが入院して以来かな。

 

結局検査のために入院することになった私は
そのまま病院を出ることができなくなった。

 

自分の体のことだし、このときはもう、家族の雰囲気でもなんとなく
気がついてはいた。
本当のことを教えて、と、せまった末に聞いた言葉。

 
 
 

「肺ガン」

 
 
 

グーグル先生に聞いてみたら、5年生存率って
3割もないのね。

 

その後何度か手術を受けたけど、お医者様も家族も
きっとよくなるというばかり。きっとそういうことなのだろう。

 
 

大学出たら就職して、いろいろやりたい仕事もあるけど
キョンが安定したら家庭にはいるのもいいわね。
子供もたくさん欲しいから、大家族で暮らせる庭付きの
広い家が必要ね。キョンには頑張ってもらわなきゃ。
でもあんまり頑張っちゃうと二人の時間短くなっちゃうから
やっぱりほどほどでいいかな。

 

なんとなく思い描いていたあたしの将来が、急にかすんで消えて
しまったような気がした。

 
 
 

キョンは毎日私のところに来てくれた。時々古泉くんたちも来て
あたしの病室はあのころの文芸部室みたいになった。

 

キョンは変わらずやさしい。あたしを大切にしてくれていると思う。
そんな彼には幸せになって欲しい。できればその幸せを二人で過ごしたかった
けど、あたしに残された時間はもう短い。

 

あたしは明日からみんなの面会を断ってもらうように家族に告げ、
キョンへの手紙を託した。

 

「あたしにはもう時間がないの。だから限られた残りの時間を充実したものに
 しなくてはならないの。
 あんたにかまってる時間なんかないからもうここにはくるんじゃないわよ!
 みんなにもそう伝えておいて。来たら死刑だから!」

 
 
 

翌日、いつもの時間にキョンはやってこなかった。

 

ほっとしたと思った。

 

ほっとしたと思おうとしたけど、やっぱり悲しかった。
もうキョンにあえないのかと思うと、涙が止まらなかった。

 
 

時計をみて、もうすぐ面会の時間も終わりね、と、独り言を
つぶやいた。
あきらめなきゃいけないのに、やっぱり期待してたのね。あたし。

 
 
 

バンっ!!!

 

突然病室の扉が開いた。見たこともないような形相でキョンが飛び込んできた。
後ろからはみくるちゃんたちも入ってきた。

 

ずかずかとあたしのところに歩いてきたキョンはいきなりあたしの胸ぐらをつかんだ。
「残りの時間が短い?限られた時間を充実したい?上等じゃないか。
 だったらその短い時間を俺が最高に充実したものにしてやる。
 わかったら今すぐこれにハンを押せ!」

 

あっけにとられるあたしに、キョンは紙を突きつけた。

 

「婚姻届」

 

キョンの名前とはんこがおしてあった。

 
 
 

紙を手にとり、それでも呆然としていると、

 

「さあ急いでください、涼宮さん。時は金なりというじゃないですか。」
そう言う古泉君をみると、神父の格好をして、聖書をかかえていた。

 

「いままでいろいろ着させてもらったから、今日はわたしが着させてもらうばんです!」
みくるちゃんが手にしているのはウエディングドレス。

 

「………」
有希が黙々とテーブルにおいたのは、ウエディングケーキ。

 
 

「あ、あたし、死んじゃうんだよ。すぐバツイチになっちゃうよ?」

 

「アホか。離婚しなきゃバツイチとはいわねーよ。ま、俺はこう見えても
 古いタイプの人間なんだ。一度心に決めたら、一生思い続けるさ。」

 

「あたし…あたし…」

 

言葉にならないあたしを、キョンはぎゅっと抱きしめてくれた。

 
 
 
 

消灯時間がすぎちゃった夜の病院。
ベッドの上だけど、純白のドレスをまとったあたしは、キョンのお嫁さんになった。

 

顔を真っ赤にしたキョンは
「今日は柄にもないことをいっちまって恥ずかしくて仕方がないが、でも本心だ。」

 

そういって交換したシルバーのリングに、あたしは誓った。

 

今年いっぱいの命でも、狭い病室がすべてだけど、キョンと笑って幸せな家庭を
築いてみせるわ。

 
 
 
 

ありがとうキョン。あなたの妻になれてあたしは幸せです。大好きだよ。