whiteday anecdote (147-91)

Last-modified: 2011-10-18 (火) 01:31:54

概要

作品名作者発表日保管日
「whiteday anecdote」147-91氏11/10/1711/10/18

作品

3月9日 日曜日
底冷えの日が減り、日によっては太陽光の恩恵を享受できる程度に暖かくなった頃。
それとは対照的にブリザード状態の山岳をアタックする物好きで命知らずな登山家に同行させられた専属カメラマンの心境に俺は陥っていた。
事の発端はそれよりひと月程度前の2月中旬のとある日の放課後に遡る――
 
朝比奈さん(大)に命じられた、お使いに対する疑念や朝比奈さん誘拐未遂事件での憤怒などで、突発性記憶障害を催してた俺は、2月14日と言う洋菓子業界の陰謀をすっかりと失念し、
それを利用したハルヒ達の陰謀にすっかりと欺瞞され、
挙げ句の果てに手作りチョコの20倍もの架空請求を突きつけてきた。
しかし、涼宮ハルヒという人物は単に20倍の価値がある物品を渡せば済む人間に非ず、アイツは俺達にとんでもない指令を下してきた。
 
「別に不思議な物を持ってこいなんて無理難題を言わないわ。 そうね、とりあえずあたしがアッ!と驚くサプライズを用意してちょうだい。 今回はそれでチャラにしてあげるから!」
何だその抽象的な命令は。それこそ無理難題の極みだろ。
と言う至極真っ当な意見はハルヒにあっさりとスルーされ、言い終わった満足感と自信に満ち足りた表情で長門や朝比奈さんを引き連れ意気揚々とその場を後にした。
 
荒れ果てた不毛の大地に佇む。
そんな不穏さが漂っていた部室に同じ心持ちであろう、古泉から懊悩を敷き詰めた言葉を苦笑いと共に発せられる。
 
「あの涼宮さんを驚かせる、ですか。 これは相当骨が折れる作業になりそうですね。 何せ余程の事がない限り揺れ動く事がないであろう豪胆な心をお持ちの方ですから」
アイツの事だ、たとえ目の前に隕石が落ちてきても、驚くより先にあれやこれやと調査に没頭するだろうよ。
 
「ですが、一つだけ。 涼宮さんを確実に驚かせる方法がありますよ」
その予想外の吉報に驚き半分、期待半分で続きを催促する
 
「簡単な事ですよ。 夏休みの時に使い損ねた耳元で『I love you』と囁くのを当日にでも涼宮さんに実行…」
「そんなもん却下だ却下。 あのな古泉、こっちはわりと真剣に思案しているんだ。 少しは真面目に考えてくれ」
 
いえ、至って真面目だったのですが…。
なんて呟きは無視して再び頭を悩ませるも、悪戯に時間が過ぎただけで結局これといった成果を得られずに解散した。
 
 
そんな出来事を経て、俺は地獄を見つめ思索する人間みたいな物思いに耽る毎日を過ごす。
と言うわけにはいかず、謀略に乗せられ機関誌にこっ恥ずかしい小説を載せたり、
幽霊騒動の真相を暴いたりと予定外のイベントで右往左往させられつつも頭の片隅辺りで少しは考えを巡らせていたんだがついに解答を出せず終いで今日に至る、と言うわけだ。
その経緯を語りつつ、ハルヒに許しを乞う真似をしても無慈悲に断罪され罪人として後世に語り継がれるのは容易に想像出来るため、とりあえず買い物に来たんだが全くと言っていいほど妙案が浮かんでこない。
ならばせめて先に決めてある長門、朝比奈さん、鶴屋さんのプレゼントを購入しようと考え入ったお店で思わぬ人物と出会す事となった。
 
大人びた端麗な容姿は少し会わなかった間、更に磨きがかかり雑誌やテレビの取材が舞い込んでもおかしくはない美貌へと変貌を遂げている。
その人物はちんちくりんな我が妹と同年齢でありながら、その場の誰よりも貴やかさを放っていた。
 
「ミヨキチ」
その呼び掛けにとっさに振り向き、少し驚いた顔を見せるもすぐにハナビシソウのような微笑を浮かべこちらに会釈をしてくれた。
 
「お久しぶりですお兄さん」
最近はSOS団の活動に忙殺されていたため、顔を見る機会は全くと言っていいほど無かったがそれでも昔と分からぬ笑顔を向けてくれた事に感謝する。
 
「久しぶりだなミヨキチ。元気にしてたか」
「はい。妹さんとも仲良くさせてもらっています」
迷惑をかけてるだろう妹の事をおくびにも出さず、丁寧に話す様は相変わらずの物腰の柔らかさを表している。
 
「今日はお一人ですか! 最近休みの日は部活動でこの界隈を探索してると聞いたのですが…」
「…ああ、そっちについては休みでな 今日はちょっとした用事があって買い物に来たんだよ」
妹にはSOS団の事は口止めしとくべきだったかも知れん。
もし罷り間違えて興味を持ってしまい、ハルヒと出会うなんてサプライズがあればミヨキチがどんな目に遭うか想像に難くない。
一般人のしかも小学生をハルヒ旋風に巻き込むのは俺の精神衛生上良くないしな。
それに、名残惜しいがここでミヨキチと和気藹々と話してる時間的余裕もなかったりする。
 
「すまん、ミヨキチ。色々話したい事は四方山あるんだがいま抱えてる用事を先伸ばしにすると、ハルヒに鬼のような形相で怒られかねん。 だからまた今度、続きは家に遊びに来た時にでも話そうぜ」
と言い残し踵をかえそうしたんだが、珍しく言葉を荒げながらミヨキチは俺の行動を阻んだ。
 
「待ってください! その涼宮ハルヒさんについてお話があるんです!」
へっ? と言う声を発するより先行して続けざまに言葉をぶつけられる。
 
「先日、妹さんからバレンタインデーのお返しに色々悩んでいるとお聞きしました。 出来れば私にその協力をさせて貰えませんか! 昨年の、映画でのお礼を返させていだたいんです。お願いします」
巡礼時に出会った参拝者へ挨拶する高僧よろしく深々と頭を下げるミヨキチの深甚さに敬意を払わざるを得ない。
あれぐらいの事をいつまでも恩義にしてくれているとは、いやはや、彼女は俺とは違い将来的に立派で義理堅い人間になるんだろう。
 
「あのぅ……やはりダメでしょうか?」
無言を拒絶と捉えたのかミヨキチの気持ちが日中の朝顔のようにどんどんと萎んでいく。慌てて、
「いやそんな事はないよ。寧ろ大歓迎さ」
と返したが、咄嗟だったとは言えこの承諾は軽率だった。
なんせ俺がこれから選定しなければならないのはあの涼宮ハルヒのプレゼントなのだから
 
しかし、ハルヒだって生物学上ではミヨキチと同じカテゴリーに分類されるわけで、少しぐらいは参考になるだろう。
そう思いここに至った経緯を掻い摘まんで話したわけだが、それに対する返答は朝靄を分けた先にある日差しに当てられた白鳥のごとく、余りにも清雅な言葉であった。
相手が朝比奈さんなら見事に合致し成功するだろうがことハルヒに関しては参考になりそうに無い。
曰く、『誠意があればどんな物でも喜んでもらえる』、『その人に貰えるという事が大事』といった趣意であり、
アイツにそれが通用するなら俺はここまで苦労をピラミッドの煉瓦を運ぶかのごとくひたすら積み重ねてくる事はなく、
今頃は買い物を終えて14日までの時間を何も考えずのんべんだらりと過ごしていただろう。
だからといってそれをミヨキチに愚痴っても八つ当たりしかならないので、貴重なアドバイスとして有り難く頂いておく。
 
「参考になったよ。ありがとなミヨキチ」
「は、はい! 御力添え出来て光栄です!」
「出来る事ならホワイトデーを兼ねる形で御礼をしたいんだが…」
「え! い、いいんですか? わたし…その、お兄さんにチョコをお渡ししていないのに…」
そんな事は別に構わんよ。
そうだな、ミヨキチがいいなら来年にでもくれると嬉しかったりするんだが。
 
「は、はい。わかりました。来年は頑張って作ってみます」
そんな事でさらに出費が嵩む事になった訳だが、これに関しては全く後悔してない。
なんせ可愛い女の子からのチョコが確約されたんだ。
それがたとえ小学生でも嬉しいと思うのは、ハルヒの言う俗物だからなんだろうな。
 
「これです! 良かった、置いてあって…」「あー…ミヨキチよ もしかして欲しかったのは、これなのか?」
「はい。どこにも売ってなくて、先月からずっと探してたんです。今日入荷したと噂で聞いて思わず買いに来ちゃいました」
安堵した表情でミヨキチが選んだ品は何処にでもありそうな何の変哲もないキャラ付きの携帯ストラップだった。
話によるとここ最近、小学生の間でトレンドアイテムとなっているらしく、わざわざ一人で買いに来たのは明日学校で友達を驚かせたかったからだそうな。
こういった可愛らしい所は妹と同じく年相応で安心する。
 
「じゃあな、ミヨキチ」
「今日はどうもありがとうございました」
買い物を終え、用事のあるミヨキチと別れた俺は改めて沈吟の時間へと誘われたのだが、どうにもしっくりくる結果を得る事が出来ない。
そんな拮抗状態が長く続き、いい加減真面目に考えているのがバカバカしくなってきた。
こうなったらクッキーでも買ってお茶を濁してやろうかと、半ばヤケクソな愚案で決着を着けかけたその時、天啓のごとく名案が…とは行かないまでも妥協案的なものが頭を駆け巡った。
 
どうせなら真剣に普遍的なプレゼントをハルヒに渡してみたらどうだろうか?
 
ミヨキチの言葉を参考にしたモノだが、この案に頼った所でハルヒが素直に喜ぶとは限らない。
いや失敗する可能性が高い事は涼宮ハルヒを知る人物にとっては自明の理だろう。
しかし、それは普段の不思議に飽くなき探求心を向ける時の場合だ。だが、あの時に何と言って俺達を困惑させた?
アイツは自分が驚くサプライズを用意しろと申し付けを出したはずだ。ならこの作戦は充分にハルヒを驚かせる事が出来るんじゃ無かろうか?
 
ハルヒ的活動理念を元に言わせれば、俺は2割程度の働かない働きアリの中でも突出して働かないアリといった位置付けだろう。
これでも非日常的なイベントでは其れなりに働いてきたんだが、それをハルヒに伝えられない以上、先述の結論に達するのは致し方ない。
だったら当日、俺がどれだけ真面目に働いたかをプレゼントを介して説明してみたらどうだ?
 
流石のハルヒも俺が普段とは違う行動をとれば、多少は驚いてくれるだろう。それで現評価を見直してくれれば御の字だが、そこまでは求めない。
ハルヒが望む驚きとは違うだろうが、サプライズもワンダーも度合いは違えど驚きに変わりないんだ。そこは屁理屈も理屈の内で通させてもらう。
そうと決まればプレゼントの品だが……
そう決意を新たにし、俺は喧騒が広がるショッピング街へと再び足を踏み入れる事と相成った。
 
 
歩きながらハルヒの事を考えてみて一つ気づいた点がある。アイツの趣味についてだ。
特技と呼べる物は数多くあるが、趣味と掲げてる物があるとは聞いた事がない。強いて言うなら朝比奈さんのコスプレ品評会ぐらいだろ。
じゃあ、朝比奈さんのコスプレ衣装でも買うか?
……そんなわけにはいかんか。
朝比奈さんという間接的な要素が入るのもネックではあるが、何よりハルヒの為に朝比奈さんを犠牲にするなんて事出来るはずもない。
もっと直接的な誰にも迷惑をかけず、これがプレゼントの醍醐味だと言う物を渡さないと驚かせる意味がない。
そうやってあれやこれやと思案しながらショッピングモールを彷徨していると、ふと、ガラス張りの向こう側にポツンと寂しげに飾られている物を発見した。
 
カーディガン
 
至って普通の、良く言えば春らしい。悪く言えば地味なカーディガン。
大して目を引くものでないのは店内の客の反応からしても、俺のセンスのない審美眼からも確認できた。だが、妙に惹き付けられる何かを感じ、俺はその店へと入った。
 
「いらっしゃいませー」
マニュアル通りの変に抑揚がある挨拶を気にも留めず、目的であるカーディガンへと足を向かわせる。そしてそれを目の前にした直後、俺の決意はキャサリン・ロンズデールより堅固なモノとなった。
 
よし、これにしよう
 
何の戸惑いも躊躇もなく決意が体全体へと染み渡っていく。理由はわからんが、敢えて言うなら此が直観と言う奴なのかも知れない。
 
そう思わせる程、このカーディガンに俺は底知れぬ魅力を感じた。
そしてこの春の穏やかな気候を模したカーディガンを夏を顕在化させたようなハルヒに着させれば、ミャンマーの黄金の巨岩よりも絶妙なバランスを保ち、普段とはまた違った涼宮ハルヒが見られるだろう。
なんてルネサンス期に名を馳せた予言者のように判然とした直感的確信が芽生える。
 
「ありがとうございましたー」
初めて訪店したにも関わらず品定めをする仕草を一度も見せないで、目的の商品へ一目散に向かい躊躇なく購入を済ませ離店していく。
そんな、そつの無さが際立つ一連の所作事を店員達に訝しまれたがそんな事は一切合切気にしないでおく。
まぁ、二度と訪れる事は無いだろう場違いな店だしな。それより、いま手元にある献上品を入手できた喜びに口輪筋が弛緩しそうになる。
 
らしくないな…
自分らしさの欠如に一種の危うさを感じるも、決壊し氾濫を起こした貯水湖から流れ出ていく濁流のように溢れてくる高揚感を俺は止められなかった。
そのハイテンションは帰路に着き、風呂へ浸かった後床に就くため電気を消した瞬間、ハルヒ以外の御三方にプレゼントを購入し忘れた事を気づくまで続いた。
 
 
3月10日
ハルヒ以外のプレゼントを購入すると意気込んで行ったにも関わらず、ハルヒ以外のプレゼントを忘れてしまう。
そんな間抜けな自分に得も言われぬ罪悪感と失望感を味わいつつ、今日中には何としても買わないとな、と脳内で計画表に最優先事項とチェックマークを書き記しながら教室へ入ったが、
そんな俺の小話的な出来事なんて露知らずであろう団長様にホワイトデーに対する準備の進行状況をそれとなく聞かれた。
 
「で、どうなのよ」
…いや、それとなくとは言わないなこれは。脈絡なくの間違いだったかも知れん。
 
「どう、とは?」
「……わかってるのに勿体ぶるのは意地悪いわよキョン。あれよあれ」
まさかとは思うがバレンタインデーの時と同様、教室では秘密にしておきたいんだろうか?
だったら、俺も変に騒がれるのは御免なのでその考えに則り、暈しながらも話を続けるか。
 
「ああ、それなら既に用意を済ませたぞ」
…多少の嘘については気にする必要はない。
洗い浚い全て話せば、嘲りながら笑われるのは目に見えてるからな。
 
「へぇ~。ちゃんと用意してるんだ~。ふ~ん」
なんだその勿体ぶった態度は。
言いたい事があればちゃんと言ってくれ。
 
「別に言いたい事なんて無いわよ。ただ、あたしの勘だとキョンは期限ギリギリまで考えもしないもんだと思ってたから意外だなーて思っただけよ」
それを聞いてしまった、と考え無しに口を滑らせた思慮の足り無さを悔やむ。話の流れで仕方なかったとは言え、少しばかり昨日の事をバラしてしまった。
結果的に普段とは違う意外性を指摘されちまった以上、警戒心が高まりちょっとばかりハードルが上がってしまったかもしれん。
慌てて情報隠蔽を開始し、これ以上の漏洩を防ぐ事に画策する。
「悪いがこれ以上その件については当日に持ち越しって事で、な。それとも話を聞きたいくらい楽しみなのか?」
その言葉に脊髄反射で反駁される。
「そんなわけないでしょ! 今のはちょっとした確認よ確認。あんたが忘れてないかのね」
そういって、その場を取り繕うかのようにプイッと顔を窓に向け外を眺める作業へと移行させたのを確認し、ホッと胸を撫で下ろした。
こう言っておけばハルヒの事だ、当日まで何も聞いてこないだろう。
 
それを示す通り当日までハルヒはホワイトデーに関して一切口にせず、教室にいる間は鼻歌を奏でながら窓の外を観察し、部室では朝比奈さん弄りに没頭していた。
 
 
3月14日
買い忘れていたプレゼントはその翌日に手に入れた。勿論、店員に伝え各々のプレゼントに包装を施してもらっている。
後は今日に対する気概だけだが、それだけはどうしても養う事が出来なかった。仕方ないだろう。
俺は短距離界の黒い稲妻でもなければ、宇宙膨張の加速化を発見した奴でもない。
運動能力も学習能力も平均か或いはそれ以下の一般人の範疇から脱する事が出来ない平凡で凡小なイチ高校生でしかない。だから困難に打ち勝つ力なんて求められても困る。
しかし、やるだけの事はやったんだ。後は神に賽を委ねれば、それがバトンとなり結果を導いてくれるだろう。神役をハルヒに一任するのは全く喜ばしくないがな。
そんな覚悟を胸に秘めて校門をくぐったんのだが、昨日とは違う異様な雰囲気に包まれてるのを肌に感じ、思わずたじろぐ。
ある者達は物に当たり散らす安っぽいチンピラのようにギラついた雰囲気を、ある者達はブライダルを迎えた夫婦のように仲睦まじく朗らかな雰囲気をそれは勝者と敗者の明暗がくっきりと分かれているようにも見てとれる。
現実とは厳しいモノだな。バレンタインデーを良く迎えられたか否かでこんなにもハッキリと線引きされるとは。
 
義理だったとは言え、俺はまだマシだったかも知れん。
その代わりとんでもない罰ゲームが待ってるかも知れないが。
 
プロトンとエレクトロンが雑多に入り交じった異様な雰囲気に圧倒され、足取りが重くなりながらも、何とか教室につき扉を開けた。
その先にいた人物は…なぜか、指令を出した日はあれほど怡然とした態度だったはずなのに、一変して鬱然とした表情を浮かべている。
「どうしたんだ! 杉花粉にでもやられたのか?」
普段通りに話かけたつもりだが、ハルヒは此方を見ようともせず、
「そんなはずないでしょ。 ちょっと考えてるんだから話かけないでよ」
と、いつ以来ぶりかのダウナーモードになっていた。…勘弁してくれ、今日はホワイトデー当日だぞ。こんな態度じゃ俺の罪状は決まったも同然じゃないか。
勝負をしかける前に雌雄を決するなんて、笑い種にもならん。
そんなハルヒの状態は午前中まで続いていた訳なんだが、午後の授業が始まった時ごくごく微細だがハルヒの様子に変化が訪れている事に気づく。
しかも良く観察して見ると、いつもの憂鬱な時とは違い口角が明らかに上がっているじゃないか。その角度は何か良からぬ事を企んでる時の口角に類似している。
…さてはコイツ、不機嫌そうなフリをしているが内心で俺に与える罰ゲームを考えてやがるな?
昨日までは機嫌が良かったのに急転直下のごとく激変してて、おかしいとは思ったがすっかり騙されてしまっていた。そうまでして罰ゲームを敢行したいのかよお前は。
 
「何やってんのよキョン! さっさと行くわよ! ほら! ほら! ほらー!」
演技と本性のギャップにエンゼルウォール級の高低差を感じ怯んでいた所へ容赦なく押し出しを食らわされる。

「ちょ!? おい! 押すなバカ!」
慌てて前のめりになるのを堪えハルヒの正面に向き直り、ちょいと落ち着かせようと思ったのが、それよりもまず言わなければならない事があった。

「なぁ、ハルヒ」
「なに! 喋るなら部室についてからでも出来るでしょ! だからきびきび歩きなさい!」
「お前…そんなに嬉しいのか?」
俺に罰ゲームを言い渡すのが? と続けようとしたが何故か今の言葉に絶句し、数秒程石像のように固まった後、マシンガンのごとく言葉の羅列が打ち出された。
 
「違うわよ! そう、あれよあれ! あんたに不合格だった場合の罰ゲームを先に言い渡しとこうと思って急いでたのよ! ホントよ! 嘘じゃないわよ!」
…やっぱりそういう事だったんだな。此方は真剣に選んだってのにお前は罰ゲームを考えてた、と。
せめて、プレゼンを見るまでは多少なりとも興味を示してくれてもいいのによ。だが、驚かせる条件としては悪くないか…。
こうなったらぐうの音も出ないぐらいとことん誠意を見せてやろうじゃねぇか?
 
「ハルヒよ」
「…なによ」
「今日は本気でいかせてもらうぞ?」
「意味わかんないけど、誰かと勝負するよりあたしのサプライズはちゃんと用意…」
「任せとけ」
「…あっそ。ならこんな所で立ち話もなんだし、さっさと部室に行きましょ」
先程とは打って変わって、そそくさと歩いていくハルヒの後を俺は歴戦の大勝負で勝ちを拾ってきたベテランディーラーのように悠然と歩を進めた。
 
「おひさっ。今日もめがっさ仲が良いみただねぇ、お二人さんっ!」
部室について真っ先に挨拶をくれた鶴屋さんが言った一言に異論を唱える。
 
「すみませんが鶴屋さん。今日に限って言えばハルヒは俺の敵ですよ。」
「おんや? そりゃ、心中穏やかじゃないにょろね。ケンカでもしたのかいっ?」
「俺は断罪という決められた運命を覆すために闘うんです。そのためならグラップラーにでもウォリアーにでもなってみせますよ」
 
「う~ん、そこまで自分を鍛えなくってもハルにゃんは全然気しないと思うにょろよ? 寧ろ今のままのキョンくんの方がいいはずっさ」
それで勝てるのならいいんですが、残念ながら俺とハルヒには埋められない圧倒的な力の差があるんです。権力という力の差が。
 
「そうにょろか。まぁよくわっかんないけどさっ、あんまり無理しないで頑張るにょろよ?」
ええ頑張りますとも
 
「こんにちはキョンくん。今からお茶、入れますね」
ありがとうございます朝比奈さん。
あなたの甘美なる御茶は天使の聖水となり、俺の力の源になってくれると思います。
 
「えっ…と…そうなんですか?」
そうですとも
 
「何やら物凄い気迫を感じますが、そこまで今日と言う日に尽力してきたのでしょうか?」
矛と盾は手に入れた。後は闘うのみだ。
 
「決戦へ向かう兵士のような勇ましさは結構なのですが、目的をお忘れにはなっていませんよね?」
「勿論だ。人の心配はいいからお前は早くプレゼンを開始しろ」
 
そう促し、さっさとおっぱじめようという俺の姿勢にハルヒが、
「ちょっとキョン。みんなと何かごちゃごちゃ話してると思ったから待っててあげたのにいきなり進行させるんじゃないわよ」
とストップを掛ける。しかし、さっさとやらないと日が暮れちまって尻切れ蜻蛉になっちまうぞ?
「そんな事はわかってるわよ。じゃあ、あんたのリクエストに応えて、古泉君よろしくね」
「そうですか では…」そんなわけで第一回ホワイトデー大会の火蓋は切られた
「僕が用意したのはこれです」
そう言ってあるチケットを全員に渡す古泉。…なぜ俺にも渡す必要があるんだ?
「仲間外れはかわいそうだと思ったからですよ。それにこれはSOS団活動に直結するものですから」
そりゃどんな奇天烈なチケットなんだ? と手元にあるチケットを読んでみると、興味深い言葉が書かれてる事に気がついた。
「「丹波…竜の里化石発掘ツアー?」」
ハルヒとハモりながら言った言葉、それはまさしくハルヒが好きそうな不思議体験ツアーであった。
「丹波市って県内よね?」
確かここから北西だったか? 黒豆と山芋が有名だったはずだ
「そこに化石があるなんて初めて聞いたわ」「同じく初めてだ」
そんな疑問だらけの俺達はSOS団の物識り博士である長門に事の詳細を聞いてみる事にした。そういえば、一人ヒートアイランド現象を起こしてた為、挨拶を忘れていたぜ。すまん長門。
「…問題ない」
「で、有希。大昔に丹波市近辺で竜がいたってホント?」
「事実。2006年8月7日、兵庫県丹波市山南町加古川水系篠山川河床の篠山層群において、1億4千万年~1億2千万年前の白亜紀前期の地層から、
当時生息していた竜脚類の大型草食恐竜ティタノサウルス形類と見られる化石の一部が初めて発見された。
後の化石発掘でその体長は十数メートルに達すると判明、国内最大級の恐竜と位置づけられる事となる。その恐竜を和名で丹波竜と呼ぶ。学名はまだ存在しない」
相変わらずの知識量に感服する。
長門産アーカイブズに登録されてない言葉は存在しないのではなかろうか?
「流石有希ね。あたしも全然知らなかったわ」
「恐竜ですかぁ…どんな恐竜なんでしょうかぁ?」
「そりゃ、ものげっつい大きいはずっさ。このおっぱいみたいにねっ」
そういいながら朝比奈さんの胸部を縦横無尽に弄ぶ鶴屋さん。
「ひゃぁぁぁ!鶴屋さんやめてくだしゃぃぃぃ~!」
なんという羨ましい光景。ですが、あまり朝比奈さんをイジメないで下さい鶴屋さん。
「いやぁ、ごめんごめんっ。みくるの胸見てっとさぁ~無性にこう…揉みたくなっちゃうんにょろよねぇ。ホントみくるごめんっ」
「鶴屋さんの気持ち…あたしには痛い程よくわかるわ」
感慨に耽るのはいいが重要なのは丹波竜の話だろ?
あと痛がってるとしたらそれは朝比奈さんの方だからお手柔らかにな。
で、古泉。このチケットは一体どこで手に入れたんだ?
「そのツアーを企画した方の知り合いが僕の叔父の友人でして。偶々この話を最近聞かせてもらったんですよ。その会話の最後に『興味があるならぜひ』とこのチケットを譲り受けた次第です」
よくもまぁ次から次へと企画と人脈が間欠泉のように湧いてきやがる。
一度、機関の相関図とやらを見せてもらいたいものだ。
「化石についてはよく知らないけど、不思議が沢山ありそうな気配がするわ。 古泉君、このツアーっていつやるの?」
「長期休暇中は定期的にツアーを行っているみたいですので、春休みにどうでしょうか?」
まぁ妥当な線だな。
「そうね、それがいいわ。 鶴屋さんは春休みは大丈夫?」
「ダイのダイジョーブっさ。春休みは稽古も殆どないっしね。でも、ソメイヨシノくんが寂しがるから花見はみんな来て欲しいにょろ」
「それについては絶対に参加するわ!みんなにはその日はちゃんと予定を空けておくように言っといたから!」
……もう何度目かも忘れたが、なぜ同じクラスの俺にはその手の通達が一切無いんだハルヒ? 部下に活動計画を通達するのは上司として義務だろ。
「ホント何でかしら。言っとくけど、わざとじゃないのよ、わざとじゃ。何でか分からないけど伝えた気になっちゃうのよね…」
「恐らくですが、それは普段から一緒にいる時間が長いからではありませんか?」
「そうなのかしら? まぁ、それはどうでもいいんだけど」
よくないが話が進まないので、泣く泣く泣き寝入りしておいてやる。
「化石発掘は春休みに決定ね。映画の予告編の撮影もあるし、春休みも予定がたっぷりね。みんな気を引き締めて頑張りましょ!」
その意向には大筋で同意するが、あまり予定をカツカツに入れるのは詰め込み主義者のように融通が利かなくなるからそれぐらいで制限をかけとけよ。
「とりあえず古泉君は合格ね。さて、次は…」
E-11ブラスター・ライフルのように熱せられた眼光が俺に容赦なく突き刺さる。
「キョン」
凛とした声が部屋に響く。
「わかってるよ」
ああ、わかってるさ。
古泉の合格は非合法的だったが俺にとって励みになった。
あれで不合格なら俺のは話にならんからな。
とりあえず、ハルヒ以外のメンバーにプレゼントを渡していく。
トップバッターは鶴屋さんから
「キョン君ありがとにょろ!中身は……おや、こりゃ扇子ちゃんみたいだねっ?」
時期尚早ですが、今夏に最適と思いまして。
「いやぁ~。こりゃいいセンスにょろっ!ありがとねキョン君っ!」
日本舞踊にも精通してるであろう鶴屋さんの事だ。扇子なら季節限定に留まらず色んな場面で使ってもらえると考えたんですが…。
「投扇興なんて遊びもあるっからね!色々使わせてもらうよっ」
是非宜しくお願いします。
二番打者は朝比奈さん。そのプレゼントは、
「わぁ~可愛いクマさんの時計ですぅ」
ホントは有名ブランドのぬいぐるみを購入したかったんですが、予算的に手が出せなくて…
「ううん、気にしないでキョン君。この時計が貰えて凄く嬉しいです。ずっと大切にするね」
その微笑みを頂けるだけで買った甲斐があったってもんだ。
朝比奈さんにとって時計は切っても切れない関係であろう事はよく身に付けている腕時計から察する事が出来た。
ならせめて、部屋の中ではこの時代のモノを使用して貰いたいなんて我儘から購入を決断したんだが気に入ってもらえて光栄である。
締めは長門。
しかし、その気になれば何でも出来るお前にとっては下らない物かも知れんな。
「……かばん?」
鞄は鞄でもエコバッグって奴だな。図書館には頻繁に訪れるだろ?
平日なら帰宅のついでに学生鞄にでも仕舞えば問題無いが、休日は無手である以上いつも抱持しか選択肢がない。
荷嵩な書物を抱えてる姿ってのは館内では勉強熱心な学生で罷り通るが一歩外に出れば衆人環視の的となっちまう。
なら、休日はこのエコバッグを書籍専用として使ってみたらどうだ? そうすれば人の目も幾何かはマシになるはずだぜ。
「……了解した。感謝する」
感謝される程の事でもないぞ。お前には散々世話になってるし、これぐらい安い物だ。
さて、
ここまでは御三方に概ね好評みたいでホッと安堵する。しかし、最後にして最大の砦がある事を忘れてはならない。
嘗て外道の限りを尽くした牛若丸でも敵わないだろう、不敵な笑みを浮かべ此方に向けられる。
「ふふーん♪皆には渡し終わったようねキョン。」
「ああ、終わったぜ」
此処までは上手くいった。だが、此処からはそうは行くまい
「じゃあ、そろそろクライマックスなフィナーレの幕開けといきましょう。キョン」
楽に終幕させてくれるようには到底思えないがな。
「言っとくが、後日談が長い物語はそこで得た心情を薄れさせる場合もあるんだぜ?」
「そう思うなら、あたしの指令通りのサプライズをよろしく頼むわよ。 そうすれば、不問にしてあげるから」
任せとけなんて言わない。ただ、俺が考えに考え抜いて出した回答を提出するだけだ。
まずはあのカーディガンをご尊覧に供する事とした。
「ふ~ん…至って普通の手提げ袋だけど、ここに徳川埋蔵金の在り処が書かれた巻物か地球外産物質が保管されてたりするのかしら?」
まぁ、何も言わずにとりあえず開けてくれ。
「そうね、じゃあ開けるわね。」
喜色満面といった表情で袋から開封したハルヒだったが、中身を空けた瞬間に戸惑いを浮べる。
まるで、悪徳ブローカーに贋作を掴まされた絵画コレクターように吟味を二度三度繰り返した後、戸惑いがより一層深まった顔で疑問を投げ掛けてきた。
「これって…カーディガンよね?」
ああ、ごくありふれた何の変哲もない春物のカーディガンだ。
「別にカーディガンは悪くないし、季節的にもぴったりと言えばぴったりなんだけど。あんた、あんなに自信満々だったのに中身はカーディガンだけなの?」
と慨然とした表情で不満気にクレームをつける。
「残念だがそれだけだ。予算的にも余裕がなかったしな。だが…」
言いたい事は山程あるんだよ。
「え?」
先程とは違った毛色の戸惑いを見せたハルヒに俺は自分が如何にしてこのカーディガンに出逢ったのか、その経緯を雄弁に語る。
今回の件でお前のプレゼントを選ぶのが一番悩んだ事、そのカーディガンに惚れ込み、活発なお前と合わせれば引き立つと、確信がどこからか降って湧いた事
そして…
「気持ちが重要だって事を今回、痛いぐらい気付かされてな。俗物的な考えは今後は少し見直そうかと思ったわけだ。」
素直に伝えた。だが、やりきった爽快感を得る代わりに心のモヤモヤが増大した事に気づく。…いや、わかっていたさ。
『眼高手低』
ルールの隙をついて驚かせようとしたのは結局、正攻法で驚かせるプロセスを考える想像力が無いのを誤魔化してたって事だ。
自分でも珍しいと思うぐらい真摯にイベントへ没入したのも、その報告に熱弁を奮ったのもそこに究竟する。
尤も想像力が豊富でもそれをこなす実行力が無かったんだが。だがなハルヒ。
俺が買ったそのカーディガン。それは疚しい気持ち抜きで購入したんだぜ。
「…………………」
俺の情けないプレゼン終了からハルヒらしくない沈黙が続く。
「……………」
沈黙は金、雄弁は銀なんて言うがお前の場合、沈黙に当てはまる貴金属なんて存在しないだろう。
だから何か喋ってくれ。頼む。
「………」
…流石に心苦しくなり何か言葉を、と思った時、
「…………はぁ」
冷淡なる判決を物語るかのように盛大な溜息が聞こえた。
もしかして…
「そうね、悪いけど不合格よキョン」
体の力が抜ける音が聞こえた。目の前に暗雲が立ち込めてる気さえする。
「…なんて言えるわけないでしょ」
「え?」
「だ・か・ら! …今回だけはギリギリ及第点で許してあげるって事よ。」
た、助かった…
ここまでやって不合格なら相当ヘコんでたぞ。
抜けた力を自己血輸血方式で戻していき、なぜ許してくれたのかを聞き質す。
「それは痛み入る限りだが、ホントに良いのか?」
「あたしに二言はないわよ。普段みたいにだらけた態度だったら落第決定だったけど、キョンなりに頑張って選んだんでしょ?」
それについてはさっき言った通りだ。
「なら合格よ。努力した人間を切り捨てるなんて無慈悲な判決は言い渡すつもりないわ」
毅然とした物言いとは対照的に団長殿は柔和な表情を隠しきれていない。
俺の話を咀嚼してくれての合格。及第点であったが合格は合格だ。
そんな普段の活動ではなかなか味わえない達成感に嬉しさが込み上がってくる。
しかし、そんな間抜けな表情をされちゃあ、せっかくのフィナーレが台無しになっちまうだろハルヒ
 
 
イベント終了後、長門の合図より先にハルヒの独断による早々の解散号令を合図に女性人グループは足早に帰っていった。
後の活動時間は男同士で反省会でもしなさい!と言う事なんだろうか?
「いや、流石といいましょうか。見事な大立ち回りでしたよ」
今月の出費による金銭面と生活面の見直しを図ろうかと思っていたところに、的外れな賛美が飛んできた。
「は! 何のことだ?」
「涼宮さんに対する熱心なプレゼンですよ。まさか、あなたがあそこまで熱い考えをお持ちの方だったとは。僕としても機関としても嬉しい限りです」
「勘違いせんでくれ古泉。俺は言いたい事をただ言っただけに過ぎん」
それにどちらかと言えば、朝起きるのが苦手で睡眠をこよなく愛し、起きるのに億劫さを感じる低体温なロングスリーパーだ。熱血なんて熱苦しい意気とは程遠い。
「そうですか、ではそういう事にしておきましょう。ですが一つ、有耶無耶に出来ない事象があるのですが、よろしいでしょうか?」
許可を出さなくても話すクセにわざわざ申し立てしなくてもいい。聞くに耐えない事なら聞か猿にでもなるからさっさと話せ。
 
「ありがとうございます。先程少し思案していたのですが、涼宮さんは一体あなたに何を望んでいたかがよくわからないんですよ」
「林鶴梁辺りが書いた徳川財宝の地図か或いはダークエネルギーみたいな未発見な物質だろ?」
それぐらいじゃないと驚く気はない見たいだしな。
 
「当初、涼宮さんは不思議な現象や物品を僕達には求められていませんでした。それが突如変更されるとは考えにくくはありませんか?」
「それはお前が話した化石発掘の話で及第点のハードルが上がったと考えれば説明がつく」
立案は悪くないが、あんなイカサマを使った卑怯な切り札を用意してるなら事前に教えてくれて欲しかったぜ
 
「ですが、涼宮さんは化石には興味がありませんでしたよ? 不思議な物があるかも知れない…。そんな漠然とした感情で、不思議とは分け隔てて考えていた今回のイベントのハードルを無意味に上げるでしょうか?」
 
「そんなのはな古泉…」
何か良からぬ予感がしたので、駁せられないであろう終わりの言葉を告げてお暇させてもらう。
「ハルヒの事はハルヒのみぞ知る。だろ?」
週末の日曜日
春休み前最後の不思議探索が開催されたわけなんだが、いつも通り最後に到着した瞬間いつも通りの遅刻に対する叱責を受けると身構えていたんだが、それよりも先になんだかわからぬ弁疏が始まった。
「言っとくけど、一応貰った物だから使ってるだけよ。貰った物を使わずに捨てるなんて勿体ない事はしない主義なのよあたし。エコに反する行為はよくないわ、やっぱり」
それには多いに賛同するが、別に声高々に上げて言う事じゃないような。あと勿体ない精神やエコ精神は昨年末にも聞いたな。
「それはわかってるわよ。 あんたの事だからそんな事忘れてて何かこう…ごちゃごちゃ、って変な事いい出すかも知れないと思ったから言ってんのよ!」
なら何も言わんから多いに着用してくれ。そうしてくれればカーディガンを作った職人さんもそれを売っていた店側も大いに喜んでくれるはずだ。
「…ふん!」
と体を翻してお馴染みの喫茶店へ勝手に向かっていくハルヒ。
カーディガンのお陰かその後ろ姿は普段の快活さとは違い、穏やかな春風を感じさせている。
そんなハルヒを見て、俺は当分驚く姿を視認する事はないんだろうなと予想を立てたんだが、
その一ヶ月後…いや客観的な時間では2ヶ月後になるのだろうか。
この時に下した結論を盆を返したように覆す出来事が発生する。
まさか、あのハルヒがあそこまで驚愕の表情を浮かべるなんてその時までは思いも掛けなかった。

 

                                           涼宮ハルヒの驚愕へ続く…?