第1部
第一章
「不正は無かった」
ジュゲムは口癖のようにつぶやき、そのたびにフラッシュがたかれる。
マリオとファルコンが和解したその翌日、レースについて審判の会見が開かれたのだ。
キャプテン・ファルコンはそれにマリオとリンク、カービィを呼んでこっそり記者にまぎれて参加してみた。
「・・・いったいあいつは何のつもりなんだ?」リンクが小声でマリオに言う。「さっきから同じことばかり言ってるじゃないか」
マリオは肩をすくめた。「そういうもんだろ。 奴は買収されたんだ」
「バイシュー・・・?」
「要は誰かが金でそう言わせてるってことさ」ファルコンが補足した。
「ぺぽぅ・・・」
「金で? しかし一体誰が、何故・・・」
「そうだ」
ファルコンは何かを思いついたように指をパチンと鳴らした。
記者の何人かが振り返る。
「・・・あー、失礼」マリオはカービィとリンクを引っ張り、ファルコンを押して部屋から出た。
廊下にはしゃれたラウンジがついている。そこで立ち話ができそうだ。
「・・・バカ、なにやってんだよ」マリオは歩きながら言う。
「え?」
ファルコンは何を咎められたのか分かっていない。
「指をはじくってのはデフォルトのメタワープのシグナルだろうが」
「はあ・・・?」
リンクもきょとんとしている。無論カービィは聞く気もなさそうだ。
「だがら・・・指を鳴らすと、メニュー画面に飛んじゃうわけだって」
「へえ・・・」
「そうか・・・」
「ぺぷぅー・・・」
マリオは立ち止まり、三人の様子を見てため息をついた。
「いいよ、わかんないんなら・・・で、何を思いついたんだ?」
ファルコンはハッと気がつく。
「そうだったそうだった。 それでだな・・・ジュゲムを買収した奴を俺たちで探してみるのはどうだろう?」
リンクが真っ先にうなずいた。
「そうだ! 金に物を言わせるような奴は懲らしめて・・・」
「俺らにゃ仕事があんだろうが」マリオがとめる。
「マリオー、仕事なんか後回しでいーじゃねーかよー」ファルコンはわざとなれなれしくマリオの肩に腕を回した。
マリオはそれを突っ放そうとする。
「バッキャーロ。 仕事をせずになにができる」
「かたいぞ」
「うっせぇ。 んなもんケーサツがやってくれんだろうが。 俺たちは正義の味方でもなんでもねえ。 ただのキャラクターなんだぞ」
そのセリフを聞き、ファルコンとリンクは少々頭にきた。
「マーリーオー」ファルコンは腕を組んでずいとマリオに寄る。
「ちょっと、話をしようか・・・」リンクは剣に手をやった。
「わ、ちょ・・・放せ!!」
「ぺぽ!」
「わーあーあ? カービィ! ややややめろぉ!!!」
・・・つづく。
「・・・で、この状態でどうしろと?」
マリオはファルコンたちによって暗い部屋に連れ込まれ、椅子に縛りつけられてしまった。「とにかく、これ、はずしてくれよ」
「誓うのが先だ!」リンクが言う。
マリオがいやそうな顔をするとファルコンとリンクとカービィは一歩マリオに近づいて凄みを利かせた。
「・・・わかったから」マリオはビビリながら言う。「わたくしマリオはジュゲム買収騒動の犯人捜査に全力を尽くします! ・・・これでいいか?」
「わかれば、よろしい」
ファルコンはうんうんとうなづき、縄を解いた。「ヒゲのダンナはただのキャラなんかじゃなくて正義のヒーローなんだから、ちゃんと正義のヒーローらしくしなきゃあならんだろう」
「あんたはやりすぎだと思うがな」
「ほっとけ」
かくして、C・ファルコンを先頭としてジュゲム買収騒動対策特捜本部が設置された。場所はメモリーカードの空きスペースである。
「さて、これからの予定を組もうと思う」ファルコンは銀色の指し棒をかざしながら言った。その前方には3人(?)の捜査官が行儀よく腰掛けて話を聞いている。「―――まず、今回の騒動の原因となったジュゲムに事情聴取を行うことから始めよう」
「いきなり?」
リンクはもっとうがった捜査を予想していたので少々拍子抜けしたようだ。
ファルコンが言う。
「当たり前だろう? 犯人がいるんだから、犯人に直接聞くのが1番手っ取り早い」
「それはそうだが・・・」
「ま、そういうことだな。 早速ジュゲムの居場所をつかんで押しかけるとしようか」マリオは言った。
「ぺぽ」カービィも賛成する。
ファルコンは、よし、とうなずく。
「そうと決まったらジュゲムの元へ直行だ。 マリオ、ユング氏に外出の許可を取ってきてくれ」
「あいよ。 ぺぽ丸、行くぞ」
「ぺっぽ!」
「・・・まったく、ンなもんケーサツがやってるっての」マリオはぼやいた。上機嫌に歩いていたカービィがそれを聞いて顔を上げる。
「なあカービィ。 そう思わないか?」
「ぺぽぅ・・・」
カービィは困惑した表情を見せた。
マリオは立ち止まる。
見つめられるとカービィはうつむき、次に顔を上げたときには元ののんきなカービィに戻っていて、早く行こう、とマリオをせきたてた。そのまま先に建物へ入ってゆく。
―――あいつを悩ませるなんて、ひどいことをしたもんだ。
マリオは自分の頭を帽子の上から軽く叩き、カービィの後を追い始めた。
・・・つづく。
「なんだって?」
ドンキー・コングは片方の眉を吊り上げ、ようやく英字新聞から目を離してマリオをにらんだ。
ここはいつものモダンな執務室である。ドンキーはいつもどおりしゃれたソファに腰掛け、脚を組んでいる。唯一違うのは、その圧倒的なまでの眼力が発揮されていることだけであろう。
対するマリオとカービィは、入り口前に棒立ちのまま必死にドンキーの視線を受け止めている。
「・・・ですから、エフゼロ区域で起きた犯罪事件の捜査をするので、しばらく外出を・・・」
「だめだ」
ドンキーはびしりとそう言い、新聞をたたんで脇にのけた。
マリオは内心大いに焦っている。
―――これじゃあまるで校長先生にしかられる生徒だ。どうする、俺。
「君たちは、分相応という言葉を知っているかい?」
「・・・」
「ぺぽぅ・・・」
「われわれゲームキャラクターには決められた役割がある。 神より与えられし役割を果たすことこそ、われわれの存在意義なのではないのか?」
「・・・」マリオは黙った。自分も確かにそう思っていたからだ。
まずいことになった。ここでドンキー・コングが首を縦に振らなければ、自分は仲間たちを裏切ることになる。しかし、ドンキーの言うことはまさしく自分の意見そのままだ。
仲間を裏切るのか、敬愛なるドンキーと自分自身を裏切るのか・・・。
マリオは決めかねた。
足元ではカービィが居心地悪そうに身じろぎをしている。
はやく、小心の彼のためにもこの場を脱しなければ・・・。
マリオは焦ったが、取り立てて良いアイデアも思い浮かばなかった。
スマブラ館のロビー。
「ヒゲの奴、おそいな」ファルコンは腕時計を確認して言った。
「どのくらい経ったんだ?」リンクが訊く。
「うんあ・・・」ファルコンはもう一度左腕を持ち上げる。「10分強だ」
「そうか」
リンクは背中の剣を下ろし、コンクリート打ち放しの柱に寄りかかって目をつぶった。「こういうときは、気長に待つのが一番だろう」
ファルコンはその様子を眺める。気付いたことがあったのだ。
「・・・?」
「どうした?」リンクが目をつぶったまま訊いた。
思わず、ファルコンは小さく吹き出す。
「・・・なんだよ」
リンクが目を開けてファルコンをにらむ。なおもファルコンはくすくす笑っていた。
「・・・いやぁ」ファルコンは笑顔のまま大げさにため息を漏らし、「こうやって見てみると、リンクの顔って、かなり女顔だなって―――」
次の瞬間。
キャプテン・ファルコンは自分の身体の一番大事な所を派手に蹴り飛ばされ気絶した。
・・・つづく。
「―――起きろ! 起きろったら!!」
「う、ぅおっ・・・」
ファルコンは三十分ぶりに目覚めた。目の前には―――視界いっぱいのカービィが・・・!
「?」
「ぺぽっ」
「・・・ぺぽ?」
「ぽよっ!」
「・・・ぽ、ぽよ?」
「・・・わけの分からん会話をするな」
「うぉ・・・ま、マリオか?」
ファルコンが身体を起こすとカービィはファルコンの顔面から降りた。どうやらさっきと同じロビーの中・・・ではなく、車の中のようだ。1ボックスのライトバンという車種である。マリオが運転し、助手席ではリンクがヒマそうな表情で頬杖をついて、こちらをながめていた。
「?」
「いつまで寝ぼけてるんだ? お前の言うとおりこうしてジュゲムのもとへ向かってるってのに」
「ん? あ、あぁ、そっか・・・」ファルコンはようやく正気を取り戻した。
「・・・一体どんな蹴りをかましたんだよ」マリオがリンクに訊く。
リンクは「さぁ?」とつれなく応えるばかりだ。
やれやれ、とマリオは呆れたようにした。
「―――まあともかくだ、俺たちは今ジュゲムを追っている。 というか、ジュゲムの自宅を訪れようとしているんだ」
ファルコンは、そうか、とうなずく。
「それでだな、たぶん、奴には普通の方法では会うことができないはずだ」
「何故?」ファルコンは訊く。リンクが答えた。
「記者たちがむらがっているだろうからだ」
「なるほど。 それで、作戦は?」
「あー・・・」
ファルコンが訊くとリンクとマリオは顔を見合わせた。
「それが、」リンクが言う。「特に何も・・・ない」
「ぺぽぉ」カービィも申し訳なさそうにした。
・・・なんだ、そんなこと! ファルコンはヘルメットの位置を直し、にやりと笑った。
「ふふん、わけは無い」
「お、やっぱりなにか策があるんだな?」マリオが期待して言う。
ファルコンはそれを手で制した(もっとも、マリオは前方を向いたままなのであまり意味は無い。バックミラーに小さく映るだけだ)。
そして自信満々に、
「行ってみればどうにかなるに違いないさ」
と言い放った。
ファルコン以外の三人は明らかに失望したようだった。
・・・つづく。
「・・・それで、ユングの許可は出てるんだよな」リンクがマリオに訊く。
「ん? でてねえよ」
「は?」
「だから、でてないって」
「・・・は?」
二度も訊き返したリンクに、マリオは少々苛ついた。
「おい剣士、お前いつからジジイになったんだ? 耳が遠いのか? もう一回言ってやろうか?」
「いや、充分聞こえてる」リンクはむっとして言い返した。
「じゃあなぜ訊き返す?」
「ユングの許可なしにどうやって動くんだよ」リンクが言う。「全ては彼の管理で動いているんじゃあないのか?」
「全くもってそのとおりだ」マリオは認めた。
「・・・じゃあ、私たちは脱走犯としてスマブラ側に追われることになるんじゃないか」
「まあな」
マリオがてきとうに応える。リンクはうつむき、目元を押さえて嘆息し、振り向いて、叫んだ。
「追っ手が来てるぞ!!」
『そこの車、停まりなさい!』
後方、若干高めの位置からハンマーブロスがメガホンで叫ぶ。彼は可動式のリフトに乗っているのだ。
もちろんそのライトバンは停まりそうにない。むしろスピードを上げて逃げようとしているようだ。
『―――いいだろう、その勝負、受けてやる!』
マリオはフフンと鼻を鳴らし、不恰好にデカいハンドルを握りなおした。
「奴め、やる気のようだ。 ちょっくら振り回すけど、いいよな? お客さん」
「勝手にしろ」リンクは腕を組んでうつむいた。
「ぺぽ!」カービィはシートベルトをしめる。
ファルコンは振り向いて後方を見やりながら、「俺にやらせてくれ」と小声で言うが、マリオは無視した。
「マリカで鍛えた腕を見せてやるぜ。 行くぞ!」
マリオは右足でアクセルを蹴り込む。オートマなのだ。
ライトバンは大きく蛇行し、ハンマーブロスの攻撃を巧みによけている。ブロスは何度か体当たりも試してみたが、ことごとくかわされてしまった。
「・・・やるじゃないか」
ブロスは神経質そうな笑みを浮かべ、ライトバンをにらむ。
―――しかし、気付くと前方にはトンネルのふちが見えていた。
「しまった!」ブロスは慌ててリフトの頭を押さえる。
ヘルメットの天辺がトンネルの天井に当たり、はじけ飛んだ。
火花が散り、目が眩む。
ハンマーブロスがなんとか体勢を立て直し、前方を見たころには、既にライトバンはそこに無かった。
・・・つづく。
マリオたちのライトバンは、対向側の追い越し車線を猛スピードで飛ばしていた。車内は無重力に近い惨状である。
「いってててて!」リンクはシートに逆さに座り、わめいている。
「わぁああああああ!!」ファルコンは開けていた窓から振り落とされそうになっている。
「ぺぽぅ」そしてカービィはシートベルトのおかげでゆうゆうと車旅を楽しんでいた。
そんな乗客たちを尻目に、マリオは運転に集中していた。なにしろ、ちょっとハンドルさばきを間違えれば即あの世行きなのである。
ブロスにばれないよう、できるだけ反対側に行きたいが、そちらは通常の車線なので車が多く、さらに危険だ。
「・・・まあ、なんにしろ危ないのはかわらないさ」マリオはつぶやき、ハンドルを大きく右に切った。すぐ左を大型トラックがすれ違って行く。
案の定、前方からスポーツカーが真っ直ぐこちらへ向かって爆走して来た。
ハンマーブロスは追い越し車線を飛ばしながら、緊張した様子でつぶやいた。
「見失った、のか・・・?」
もしそうなら、彼は職務怠慢で即刻逮捕されてしまう。ブロスの、リフトを押さえる両手は震えていた。
もうすぐでトンネルを出る。もしそれで見つけられなかったら・・・。
視界が開け、急に明るくなる。
次の瞬間に彼が見たのは、視界いっぱいに点々と広がるジュゲムの群れだった。
ブロスはしかたなく、震える手で無線を起動し、「・・・しくじりました」と報告した。
「やばいぜ」マリオは言う。しかしだれも同調するものはいなかった。
さきほど突っ込んできたスポーツカーは後方で黒煙を上げていることであろう。
―――マリオはその車をよけずに正面衝突して撥ね飛ばしたのだ。そのときの衝撃と続く高速スピンで、シートベルトをしていたマリオとカービィを除く2人の乗客は失神してしまった。死んでいないといいんだが・・・マリオは思った。
このライトバンはごく普通の黒いライトバンに見えるが、実際はオネット特製の“最強”ライトバンなのだ。今まで何回この車に撥ね飛ばされたことか・・・いや、そんなことはどうでも良い。
最強ライトバンと言えどもジュゲム軍団にはかなわない。どうにかしなければ四人まとめてスクラップにされてしまうだろう。そう、代わりはいくらでもいるのだ。
どうにかしなければ・・・マリオは考え、とりあえずそのまま対向車線を猛スピードで飛ばし続けた。
・・・つづく。
『当局以南の全接続コネクタ、封鎖しました!』『地上隊の配置を完了しました!』
「そうか」
控え室に備え付けられた臨時の通信機器が次々と発する報告に、ドンキー・コングはため息まじりに言った。「彼らは、発見次第“解雇”してくれ」
『了解、全部隊に連絡します!』
司令官の威勢の良い返答を聞いてから、ドンキーは無線の電源を切って手の甲を額にぶつけた。
「・・・“解雇”か」
『全部隊に告ぐ! 目標は見つけ次第解雇せよ! 繰り返す、目標は見つけ次第解雇せよ!!』
「だとよ」マリオは言い、バックミラーを見る。
リンクは依然としてぐったりと伸びたままだが、ファルコンの方はなんとか意識を取り戻したようだ。
「今の、ラジオか・・・?」ファルコンが訊く。
「いや」マリオは答え、前方の車をよけるため追い越し車線に入った。「・・・奴等の無線を傍受してるだけだ。 マヌケな連中さ」
そう言ってマリオは、左手でMGS風の無線機をラジオとは別に起動した。連絡先は・・・フォックス・マクラウド。
『・・・何の用だ?』
「ちぇ、何の用だとはごあいさつだな」
『・・・用件は?』
「アーウィン三機よこせ」
『・・・お代はそっちもちだぞ』
「わかった」
『・・・仕方ないな。 いつものところで会おう』
「サンキュ」
マリオは無線を切る。そして前方に集中した。
彼らは逆走をやめ、スマブラ館前を通過して同じ高速道の逆方向へ向かっていた。
『こちら90番出口、異状ありません』
『91番、異状ありません』
『92番異状なし』
『93番異状ありません』
『94番異状ありません』
スマブラ館を目前に仰ぐ位置にある、95番出口で検問の様子を見ていたサージェント・ノコノコは無線の報告を聞いてため息をついた。「やれやれ・・・そして95番出口も異状なし、か・・・ほかの所で捕まったのかな・・・つまんないな・・・」
『聞こえているぞ』無線から上司であるコマンダー・ノコノコの声がする。
「ひえっ! す、すみません」
『全く、愚痴なんぞ言ってないでちゃんと仕事しろよ』
「は、はい!」
ランプが消灯したのを確認し、今度は確実に無線の電源を切ってから、サージェント・ノコノコは愚痴った。「・・・この地獄耳!!」
その後方10mほどのところをマリオたちが通過したが、サージェント・ノコノコは知る由も無い。
・・・つづく。
最強ライトバンを空き地に乗り捨ててからしばらく経つ。マリオたちはあるビルに潜入し地下20階を目指していた。リンクは車酔いを起こしてファルコンの背中にしょわれている。
「・・・それで、解雇ってのは何のことなんだ?」階段を注意深く下りながらファルコンは訊く。
マリオは鼻を鳴らした。
「要は“抹殺”ってことさ。 バグをもった危険分子は元から絶たないと感染が拡大するかもしれないって事で」
「ほぉ・・・」
「だから、俺たちは見つかり次第殺される訳だ」
「そうか」
マリオは立ち止まり、振り返る。
「ジュゲム捜索・・・どうする?」
ファルコンはその質問の意味が理解できなかったようだ。「どうするって?」
「だから・・・追われながら誰かを追うことってのは、なかなか大変なことなんじゃねえのかっつってんだよ」
そう説明するマリオの口調は苛立っていた。脱走した自分への自己嫌悪も含めて。
「決まってるじゃないか」キャプテン・ファルコンは不敵に微笑み、言う。「ジュゲムをとっちめてやるのだ!」
マリオは予想通りの答えにふっと笑い、肩をすくめた。
「・・・わかったよ、強情っぱりめ」そして足元を見る。「カービィ? お前もいいよな?」
呼びかけられ、カービィは片手を挙げて二人を見上げた。
「ぺぽっ☆」
「上出来だ。 剣士は?」
「・・・」ファルコンの背中でぐったりしていたリンクがようやく顔を上げた。「・・・問題ない。 上が力でねじ伏せる気なら、こちらは自分の筋を通すまでだ」
「じゃ、気の毒な白イタチ君にごあいさつと行こうか」
マリオは目前の扉を開いた。
・・・その少し前、スマブラの控え室。
「仕方ないな。 いつものところで会おう」フォックスはそう言って無線を切る。
「ん? デートか」
ファルコがからかうように言うが、フォックスは応じなかった。素通りしようとするフォックスにファルコは呼びかける。
「おい、狐!」
フォックスは立ち止まった。
「・・・その呼び方はよせ」
「狐、お前、俺になんか隠し事してるだろ。 ・・・今からどこへ行くんだよ」
「彼女の所」フォックスはてきとうにごまかした。
なぜならここはたくさんの耳目があって、下手なことは言えないから。
ファルコは鼻を鳴らした。
「クリスタルが悲しむぜ? しらねぇぞ」うすうす気が付いているのか、そう言ってファルコは手を振って去って行ってしまった。
彼はフォックスの手助けをする気は無いらしい。
仕方ない。フォックスはアピールポーズをとってメニューを抜けた。
・・・つづく。
マリオたち四人の前には、アーウィン専用の格納庫に改造された倉庫が広がる。ただし肝心のアーウィンはどれもどこかしら修理中のようでちゃんとした形をとっていない。おまけにかなりのボロのようだ。
某スペースオペラだったら“反乱同盟軍の秘密基地”といった所であろう。
「なんだ・・・これ?」ファルコンが言う。
「アーウィンだろう」ファルコンの背中でリンクは言うが、少々自信なさげだ。
「ぽよ・・・」カービィは、ほこりっぽいと言いたそうにする。
マリオはフォックスを探していた。
「おかしいな・・・狐の奴がいない」
「そのうち来るのでは?」リンクが言うが、マリオは首を振った。
「何かまずいことが起きているかも知れない。 とりあえず、動きそうなアーウィンを探そう」
ファルコンが同意する。「そうだな。 リンク、歩けるか?」
「あ、ああ・・・下ろしてくれ」
キャプテン・ファルコンが背中に負っていたリンクをそっと床に下ろす。そのようすを整備中のアーウィンの影から盗み見る者がいた。
トゲノコである。
彼はドンキー・コング直属の機動隊の斥候で、手中の無線で合図をすればいつでもマリオたちを包囲できるのである。
しかし、すぐにそうしないのには理由があった。
これだけの設備はもちろん違法かつ秘密裏に設営されたものなので、共犯者がいるはずなのだ―――「スター・フォックス」出身者の中に。
トゲノコは、おそらくそれはフォックス・マクラウドであろうと推していたが、誰であろうとマリオ達とまとめて逮捕しなければならない。逃げられたら事だ。
さらに言うと、このトゲノコ機動隊は特命を帯びていた。
脱走者の“解雇”をともなわない捕縛である。
理由は知らない。ドンキー・コング氏直々の命令なのだ。―――氏は、ほかの一般兵達には知られないように、との命令も下している。
だから、マリオ達の動きにいち早く気付いても、機動隊は誰にも告げずに単独部隊で彼らを追跡したのだ。
いくら古いライトバンでも、GPS機能くらいは付いている。ただしそこからの情報を入手できるのは、運転手ではなく管理人なのだ。
さあ来い、フォックス! 斥候のトゲノコは念じた。
・・・つづく。
『聞こえるか!?』
突如、あたりにフォックスの声が響き渡る。明らかに、電気的に増幅された声だ。
斥候のトゲノコはおどろいて頭上を見上げる。マリオたちも同じようにしていた。
『走れ! 本物のアーウィンは入り口から入って右の先に三機だけある!!』
―――しまった、と思ったときにはもう遅い。マリオたちは指示された方へ走り始めていた。
放送を聞きつけた仲間達も突入してくる。
「フォックスはどこだ!?」
「奴らを逃がすな!」
てんでに言うが、リーダーの発砲許可が無いので、多くの隊員はただマリオたちを追いかけることしか出来ない。
そのとき、妙なことが起きた。
「くそっ、止まれ!!」
気の早い青年隊員が叫び、トゲノコ標準装備のトゲ付き鉄球を投げたのだ。
ガゴンッ!!
奇妙な音を立てて、その鉄球は跳ね返ってきた。まるで、マリオたちと自分達の間に見えない壁があるように。もちろんきちんと受け取る余裕など無く、その青年トゲノコは撃沈した。
走り去ろうとするマリオたちだが、ふとその打撃音に気付いたリンクが振り向いた。しかしファルコンが腕を引いて走らせようとする。
「あれは・・・」
「剣士、ここは任せるんだ!」
「フォックス!!」
一瞬のうちに、そこにフォックスが現れ、再び消えた。スパイクロークだろうか?
「・・・頼む!!」リンクは言い、マリオたちの後を追った。ファルコンが続く。
「光学迷彩・・・奴はやる気だ」マリオは走りながら呟く。カービィがそれを聞きつけたが、理解できずに両手をパタパタ振った。
「いや、お前は気にしなくていい・・・あれか」
前方に完成されたアーウィンが見えた。確かに三機だが・・・「出口はどこだ!?」肝心の、外に出るための開口部が建物に無かった。
「ちっ、スパイクロークだ・・・みんな気をつけぅヲぁっグフッ」
トゲノコ隊隊長の言葉は語尾が乱れ、本人も何か衝撃を食らって倒れてしまった。
しばらくみな無言でその様子を凝視していたが、ようやく誰かがその意味に気付いて悲鳴を上げた。
「うああああっ!!」
これを期に、
「大変だ!!」
「フォックスだっ!! そこにいるぞ!!」
「くるなっ! うっ、うわぁぁ・・・!」
「ぎゃあああああ!」
トゲノコたちはすっかり混乱し、やたらと鉄球を投げまくる。それが味方に当たり、当たった方はフォックスの仕業と勘違いし・・・。
ただの気の触れた烏合の衆、もといカメの集団と化した。
「こうなってしまえば、エリートも形無しだな」そう言うフォックスは、ただ天井の配管につかまって足元を眺めるばかりだ。
しかし、余裕綽々と言う訳ではない。おそらく今の騒ぎで、誰かしら地上と連絡を取ったトゲノコがいたはずだ。じきに下級兵士の大集団が来るだろう。そうなると、脱出手段の無いフォックスが危ない。まともに使えるアーウィンはマリオたちに貸した三機だけだったのだ。
こんなとき、ファルコが協力してくれれば・・・フォックスは思い、鼻先の汗を拭った。
・・・つづく。
「・・・どっ、どっ、どれに乗ればいいんだ!?」リンクは狼狽し、言った。最新の機器に疎いのだ。
「三つのうちのどれかだ!!」ファルコンが、目をつけたアーウィンによじ登りながら言う。「乗ればなんとか、なる、はず、イテッ!!」
ファルコンがコックピットにもぐりこむと跳ね上がっていたキャノピーが自動で下り、ファルコンのヘルメットにぶつかった。
「・・・! ・・・!!」ファルコンが痛がる隙も無く、シートベルトが勝手にファルコンに巻きつき、アーウィンは今にも飛び立とうとエンジンをうならせ始めた。なかでファルコンがわめいているようだが、キャノピー越しには何も聞こえない。
「どういうことだ・・・?」
リンクがうろたえていると、その手をとり、引く者がいた。
カービィである。
「ぺぽ!!」彼は短い手でそばのアーウィンを指し示す。
「・・・の、乗るのか」リンクは彼に従い、あとについてゆく。
身軽なカービィは機体にひょいと飛び乗り、コックピットのふちに立ってリンクに手を差し伸べた。
「わかった・・・乗るよ」
リンクは背中のソードに気をつけながら翼によじ登り、コックピットに入ってみた。カービィがその膝の上に座る。すると正面のタッチパネルに電源が入り、キャノピーが下りてきた。エンジンも勝手に始動し、振動を2人に伝えはじめた。
「・・・」
そして、ゆっくりと平行移動をし始めたアーウィンが目指す先は、壁であった。
「ぁああああああああああっ! とっ、とまれッ!! とまれッッ!!」リンクは叫ぶが、アーウィンは静かに、そして着実に壁に向けて直進する。だんだん加速してきたようだ。
「ぺぽ、ぺぽ・・・むぅぅ」カービィはあわててタッチパネルをいじるが、『リフレクター:充電中』と表示されるだけでなにも変わらない。
「あ、ああ、ああああ・・・」リンクは震え、おびえて逃げ出そうとするがシートベルトがそれを許さない。
そして―――。
ピィーーーーッ!!
・・・という甲高いブザーとともにタッチパネルの表示が『リフレクター:充電完了』に変わった。すかさずカービィが画面に触れる。
するとなにやら低い地響きのような音とともに、前方に白く輝く六角形の何かが現れた。
大きさはちょうどアーウィン一機分で、光が漏れ出し、中の様子はホワイトアウトしている。リンクたちのアーウィンは、そのなかに既に鼻先を突っ込んでいた。あっという間に機体全てが六角形の中に進入する。
2人の視界は、完全にホワイトアウトしてしまった。
・・・つづく。