MR

Last-modified: 2019-02-24 (日) 17:21:17

クルマの駆動方式の1つでミッドシップエンジン、リアドライブ(Mid-shipEngine・RearDrive)を意味する。

車の運転席と後車軸の間にエンジンを搭載して後輪を駆動する方式である。

この駆動方式の長所・短所を挙げると、
長所

  • 最も質量の大きいエンジンの重心が車体の重心に近くなるため、運動性能が向上する(ヨーイングとピッチングの慣性モーメントが小さくなり、旋回に入りやすくまた旋回を止めやすい)。*1機敏に走れ、コーナーリング限界が大変高い駆動レイアウトである。
  • FR方式と比較した場合、FRでは必須となるプロペラシャフトが必要ないため、構造を単純化でき、重量軽減に有利である。*2
  • 前述の通り、重いエンジンやトランスミッションが駆動輪の近く(ほぼ真上)に存在するため、加速時には後輪(駆動輪)に荷重が乗ることでトラクションがかかりやすい。またブレーキング時にはリアの荷重が抜けにくくフロントにもバランスよく荷重がかかるため安定性がある。

短所

  • コーナリング性能の限界を超えるとスピンに入りやすい。(前述の長所とも重なるが)旋回に入りやすいということは逆に言うとオーバーステアが出やすいということであり、旋回運動が機敏なため、オーバーステアの出方・戻り方が唐突である。*3
    オーバースピードでコーナーに進入してしまうと、フロントの荷重が軽いため旋回しようとする力が路面に伝わりづらくアンダーステアが出てしまう。ブレーキングによってフロントに荷重をかければ対処できるが、フロントに荷重をかけすぎてしまうと今度は旋回しようとする力が路面に伝わり過ぎて、オーバーステアになってしまう。
    つまり、ドライバーには「フロントにかけるべき荷重をその都度判断してブレーキングの強さで調整する」という高い技量が求められる。一言で言い表すならば「乗りこなすのが非常に難しい」ということである。
  • ボディの車室後部と後輪の間に大穴を開けてパワーユニットを配置するため、ボディ剛性の確保が難しい。また、エンジンフードを開けた時の開口部が広く取れないため、整備性はフロントエンジン車に劣る。作業工数が多くなることから整備工賃も高い傾向にある。*4
  • (日常的に使う実用面で見た場合)運転席と後輪の間にエンジンがあるため、ほとんどの場合は後席を設けられず2人乗りに限定され、荷室も広く取れない。
    まれに横3人乗りや非常に狭い後席付き(2+2)の例もあるが、いずれにせよ乗用車に採用するには実用性に欠ける。*5*6*7*8
    などである。
     
    MR方式にもFF方式と同様に、エンジンを(車の進行方向から見て)横向きに搭載するケースと縦向きに搭載するケースがあるがエンジンの横置き・縦置きにも一長一短がある。

横置きに搭載する場合

  • 既存のFF車種のエンジン、トランスミッション、サスペンションなどを流用することでコストが抑えやすく、安価に仕上げることができる。
  • 横置きエンジンのFF車はエンジンルームがコンパクトにまとめやすいため、横置きエンジンのMRの場合もエンジンルームをコンパクトにまとめやすい。
    結果、全長・ホイールベースが短縮しやすく旋回性を向上させやすい。
     
  • FF車の部品を流用する場合、重心が後車軸寄りとなり、車体中心に重心のある縦置きのような理想的な重量配分は得られない場合が多い。
    同様の理由で重心が高くなりやすいため、運動性能は縦置きエンジンと比べると劣る。*9
  • 採用例:トヨタ・MR2、トヨタ・MR-S、ホンダ・NSX(初代NA型)、ホンダ・S660、ランボルギーニ(ミウラ以前の車種)、ポンティアック・フィエロ、フィアット・X1/9、など

縦置きに搭載する場合

  • エンジン搭載位置が車体中心に近くなるため、理想的な重量配分を得やすく重心位置設定の自由度が高い。
    重心を低くしやすいことから運動性を劇的に向上させることが容易である。
  • エンジン、トランスミッションなどの部品の流用はほとんど利かないため、1から設計・開発する必要がある。
    そのため、コストが嵩み価格も高価になる。
  • (大排気量・多気筒のエンジンを搭載する場合)エンジンルームを横置きエンジンより広く取る必要があるため、車室が狭くなりやすい。
    同様の理由から全長・ホイールベースが長くなりやすいため、旋回性は横置きエンジンと比べると劣り、車体も大柄になるため取り回しが悪くなる。*10
  • 採用例:ランボルギーニ(カウンタック以降の車種)、デトマソ・パンテーラ、ロータス・エリーゼ、ホンダ・NSX(2代目NC型)、アウディ・R8、ポルシェ・ケイマン(ボクスター)、アルファロメオ・4C、ブガッティ・ヴェイロン、など。
    一般的にはコストを抑えて安くしたい場合は横置き、コストや価格を度外視して性能を重視する場合は縦置きが採用されることが多い。*11
 

湾岸マキシに登場している車でMR方式を採用している車種は、

  • トヨタ・MR2 GT-S (SW20)
  • ホンダ・NSX (NA1)、NSX-R (NA2)
  • RUF・RK coupe
  • BMW・M1 (E26)
  • ランボルギーニ・Countach LP400
  • ランボルギーニ・Miura P400S

が該当する。

  • アウディ・R8 Coupe 5.2 FSI quattro (ABA42)
  • ホンダ・NSX (NC1)
  • ランボルギーニ・AVENTADOR LP700-4
  • ランボルギーニ・Diablo VT

も一見するとMRの様に見えるが、これらはミッドシップエンジンレイアウトを採用した4WDである。*12

余談だが、一部のFRスポーツカーでは重量配分を改善するため、エンジンを前輪の車軸と運転席の間に搭載することがあり、「フロントミッドシップ」と呼ばれることがある。*13


*1 例えるならば、ペットボトルを手に持って振り回す際、腕を伸ばすよりたたんだ方が素早く振れるのと同じである。
*2 ただしトランスミッションをエンジン前方に置き、そこから後車軸までプロペラシャフトで伝達するような配置などもある。そのような配置では、プロペラシャフトは存在するものの、長さがFRのものよりは短い点は有利ではあるが、エンジンの下にシャフトを通すような配置とした場合、エンジン搭載位置、ひいては車体の重心が上がってしまっている場合もある(ランボルギーニの例では、そのようにしてシャフトをエンジン下中央に通すのがカウンタック以来の伝統の配置でありこれに該当するが、ムルシエラゴで改善が図られた)。
*3 フロントエンジン車では重心(正確には質量中心)のある前側が外側に行こうとするため穏やかなアンダーステアになるが、ミッドシップ車では重心のある後側が外側に行こうとするため、オーバーステアとなる。
*4 レーシングカーではボディの一部を丸ごと開ける・外して整備を行うことが多いため、この欠点はほとんどない。
*5 数少ない例外としては、ホンダの軽自動車規格トラック(バン)のアクティがあり、エンジンの上に荷台・座席を置くアンダーフロア式(いわゆるバスと同じエンジンレイアウトである)のMR(4WDの設定もある)を採用しているMR(4WD)方式でありながら最大4人乗り(バンのみ)、大量の荷物を載せられる実用性を確保している。
*6 逆に走行性能を重視し、実用面をあまり気にしないスポーツカー・スーパーカーではこの欠点は実質問題にはならないと言える。
*7 横3人乗りを採用した車には、イギリスの自動車メーカー、マクラーレン・オートモーティブの「マクラーレン・F1」、狭いながらも後席付き(2+2)を採用した車には「ランボルギーニ・ウラッコ」などがある。
*8 余談ではあるがトヨタの有名なミニバン、エスティマ(初代)では同社ハイエースの直列4気筒エンジンを流用して横に75°寝かせることにより平床化、前輪も運転席の前方に置くことにより、前述のホンダ・アクティと同じアンダーフロア型ミッドシップレイアウトを採用したことがある。ミッドシップ=2シーター、実用性に欠けるという常識を覆した画期的なモデルではあったが、競合他車がV型6気筒エンジンを搭載する中で直列4気筒エンジンであるためパワーで劣り、エンジンが座席の下にあるため揺れ・振動が酷かったことから、エスティマは価格に比して静粛性、ひいては高級感に劣ると評され、販売では苦戦を強いられた。そのため2代目以降はFF(前輪駆動)に変更されている。
*9 エンジンのオイル潤滑方式変更(ドライサンプ化)や搭載位置の工夫で改善を図る車種もある。
*10 ただし、高速走行時の直進安定性はホイールベースが長いため有利である。
*11 グループCカーやLMPマシンなどのいわゆるプロトタイプレーシングカーはほぼ縦置きMRを採用している。ただし、スカイラインターボC(FR駆動・グループCカー)、GT-R LM NISMO(FF駆動・LMPマシン)などの例外もある。
*12 ただし、Diablo VTは実車では後輪駆動のモデルも存在する。
*13 一部ではこれもミッドシップに含めるとの声もあるが、エンジンが運転席の前にあることから厳密に言えばFR方式である。