【SS】DCO博士 桃田朱里の日常

Last-modified: 2024-05-22 (水) 22:08:07




このSSはDCO機関に関係しています。

目次

詳細

 DCO機関で博士をしている桃田 朱里の日常です。将来博士として働きたい人には参考になるかも?いろいろなDCOを勝手に出すつもりです。お楽しみに!

登場人物

主要人物

人物名桃田 朱里(ももた あかり)年齢26歳
説明本作の主人公。明るい性格で、誰にでもすぐ話しかけれるコミュニケーション能力を持つ。研究や実験にはものすごい集中力を持って取り組む。梨山博士のことが…?


人物名梨山 爽(なしやま そう)年齢26歳
説明桃田博士の同僚。「爽」という名前からは想像もできないほど無愛想。いつも自分で突っ走るが、それは他の人に自分の意見や気持ちを伝えるのが苦手なだけで、無鉄砲なのではない。


人物名柿本 友哉(かきもと ともや)年齢29歳
説明桃田・梨山博士の先輩。二人のお兄さん的存在で、いつもサポートしてくれる。ただ、突き放すときは徹底する。それも二人のためを思ってのこと。


人物名栗井 湊(くりい みなと)年齢29歳
説明「雑食人種」の担当博士。柿本の友人で同期でもある。


人物名柚木 多英(ゆずき たえ)年齢23歳
説明新人博士助手。焦りやすい性格をしており、とっさの判断に弱い。甘え上手で、いつも先輩に頼っている。なぜかよく名前を忘れられる。


人物名葡萄原 紅葉(ぶどうばら もみじ)年齢23歳
説明新人博士助手。めっちゃクールでツンツンしている。効率を大事にしていて、何をするにも効率第一である。梨山に好意を抱いており、桃田を敵視している。

その他の人物

  • 職員
     主に死刑囚、無期懲役囚、懲役60年以上の囚人を各刑務所から買い取り集められた人々。中には自分から志願し、博士にならない変人もいる。

                         随時追加予定!

ガバガバ時間軸設定

めっちゃネタバレ要素ありなので本編を読んでから見てください。
時間出来事
18年前DCO/●●の収容違反により桃田父死亡
4年前桃田、梨山 DCO機関に就職
1年前葡萄原、柚木 DCO機関に就職
2月4日(金)10:00頃(第一話)
14:00頃桃田、梨山、柿本3名が雑食人種収容室に訪れる(第二話)
16:00頃3名が図書館で記録を書き始める(第三話)
22:00頃記録完成。桃田屋上へ
22:30頃梨山屋上へ。桃田を説得し帰宅
2月7日(月)DCO/●●●(カメレオン芋虫)の実験(第五、五・五話)
2月8日(火)(第六話)
2月9日(水)モンブラン・モンブラン探索(第七話)
2月12日(土)(DCO博士 梨山爽の小さな非日常)

コメント欄

  • 要望(例えばこのDCOを出せ、この博士を出せなど)にはできる限り対応いたします。勝手に作ったSSなので世界観に合わないなど指摘してくださったら訂正やそもそもページ削除にもできる限り応じます。 -- ドードー鳥? 2023-02-27 (月) 19:55:14
  • DCOは全く知りませんが面白そうですね!ちょっと調べてみようかな... -- 超合金のスープ 2023-02-27 (月) 20:17:09
    • DCOってここのオリジナルコンテンツじゃない?にしても最近おもしろいSSが多いので暇つぶしができる…なんで書庫で書かないんですか! -- きつね太郎 2023-02-27 (月) 20:21:18
      • す、すみません!書きたかったけど書けなかった(データ紛失とかのせい)話とか持ってくかもしれません…たぶんね -- ドードー鳥? 2023-02-27 (月) 20:26:30
    • 書庫?知らんな(他人事) -- 超合金のスープ 2023-02-27 (月) 20:26:35
      • メガケンサーみたいに、ここのWikiで作られたものを二次創作してないものは書庫で書いたほうがみんな幸せになると思います(適当) -- きつね太郎 2023-02-27 (月) 20:28:54
      • ...うーん、コピペして持っていくかな.... -- 超合金のスープ 2023-02-27 (月) 20:30:41
  • ついにDCO関連のSSが…!応援してます!! -- 博士大量に殺してる人 2023-02-27 (月) 20:50:46
    • ありがとうございます!拙い文章ですが楽しんでください! -- ドードー鳥? 2023-02-27 (月) 21:42:44
  • メガケンサーのシステム(文章をしまうやつ)をめちゃくちゃパクっています。すみません!! -- ドードー鳥? 2023-02-27 (月) 22:22:55
    • 「ケンサー」だぞ... -- 超合金のスープ 2023-02-28 (火) 12:15:03
    • むしろ「ゲンサー」ってどんな感じのものなんだろう?w -- Wikiパックン 2023-02-28 (火) 12:40:01
      • こりゃあまことに申し訳ない…直しときます -- ドードー鳥? 2023-02-28 (火) 17:00:44
  • なんかガバってる気がするな まあいっか(楽観主義) -- ドードー鳥(コテハン) 2023-06-04 (日) 18:16:26
    • 他作品と比べても頭一つ抜けて面白い(個人的に)から大丈夫だって!(GO) -- 超合金のスープ 2023-06-04 (日) 19:49:35
      • そのお褒めの言葉、ありがたくうぬぼれの養分にさせていただきます()
        正直まだまだ未熟者なので他の作品からいいところを盗んで(もちろんガイアダッシャーからも)進化していきたいと思います! -- ドードー鳥(コテハン) 2023-06-04 (日) 20:35:28
  • SS総選挙で当SSに投票してくださった方、ありがとうございました!これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします! -- ドードー鳥(コテハン) 2024-01-04 (木) 20:19:08
  • そういえば仮にネタに詰まったり困ったりした場合、もし良ければうちの博士やDCOを是非とも使って頂けると嬉しいな~と思う所存です…… -- 水色瞳 2024-01-05 (金) 02:39:04
    • ありがとうございます!ネタにはだいぶ困っているので助かります!後々使わせていただきます~。 -- ドードー鳥(コテハン) 2024-01-05 (金) 21:43:46
  • ネタ切れの時は僕のDCOも使って頂けると嬉しいです!(二つしか作ってない俺が言うな) -- B1FC9170-D6F9-4C0B-B4A4-9286D79A90B4.pngコンバットフレーム 2024-01-26 (金) 22:04:14
  • 閲覧数1000人いってる~
    いつも見てくださって本当にありがとうございます。これからも頑張ります! -- ドードー鳥(コテハン) 2024-02-09 (金) 18:18:53
  • あっ、今更なんですが自分が作ったDCOは自由に登場させてもらって差し支えありませんですわよ~! -- まひまひ。 2024-02-09 (金) 18:21:25
  • ジブンガツクッタDCOハジユウニトウジョウサセテモラッテサシツカエアリマセンワヨ~! -- 中国産 2024-02-09 (金) 19:10:15
  • 少ないですが良ければ私のDCOのページもどうぞ…… -- アレン 2024-02-10 (土) 18:47:52
  • しっかし何回みても飽きませんねこれ。すっごい面白いです。 -- アレン 2024-02-13 (火) 00:02:13
  • バレンタイン当日が明日以降にずれ込んでしまうという計画のなさが露呈してしまう事態が発生していますけど許してください! -- ドードー鳥(コテハン) 2024-02-14 (水) 23:40:05
  • 当SSは本日より路線変更し、DCO同士のバトルができる世界線の「DCOバトラー 桃田朱里の決闘」になります!
    「桃田朱里の日常」とは世界線が違うのでキャラの性格や立ち位置が違ってくることもあります!
    今後とも当SSをよろしくお願いします! -- ドードー鳥(コテハン) 2024-04-01 (月) 09:55:03
    • やっぱり無理かも…元路線に戻ります。
      誠に申し訳ありませんでした。お詫びとしておまけを一つ書きましたので、どうかご容赦ください。 -- ドードー鳥(コテハン) 2024-04-01 (月) 16:31:39
閲覧者数?

Tag: 【SS】 DCO

評価投票

ド級のパクリです
ぜひ投票してください!

選択肢 投票
セーフ*1 0  
ソー*2 0  
デンジャラス*3 0  
サラセン*4 4  

本編

プロローグ

 皆さんは妖怪やゾンビ、宇宙人とか吸血鬼、その他諸々…のさまざまな怪物を信じますか?わたしは信じています。なぜなら、そんな怪物に負けず劣らずの非現実的物体や生物を保護・収容・監視・処分したりする組織、DCO機関に所属しているのですから…。
 そんな不思議な組織で体験した話を皆さんに聞いてほしいんです(本来はそんなことしちゃダメなんだけどね…隠蔽義務がなんだとか上がうるさくて)。
 あ、今更ですが、わたしの名前は桃田 朱里。立派な博士です。立派…うん、まあ、立派です。立派なはずです。
 き、気を取り直して、それではどうぞ!

第一話 カフェテリアにて

 
 「あ゛~ 暇だ~」
 わたしは机に突っ伏しながら足をバタバタさせた。ここはDCO機関の施設内にあるカフェテリア。隣の食堂で買ったものや自分で持ってきたものを飲み食いしたり、休んだりできる。職員の憩いの場だ。そんな中でわたしはオンナノコのものとは思えないほど低い唸り声を出していた。
 「最近実験依頼少なすぎませんか?平和すぎるよ~…」
「それならいいことだろう、静かにしろ」
 わたしは隣に座っている梨山博士に話しかけるが冷たく返される。うう、にべもない。もっと愛想良くできんもんかね…そんなことをグチグチ考えていると、
「二人ともリラックスしてるねー、はいこれコーヒーね」
 とメガネのお兄さんがコーヒーを差し出して来た。彼は柿本博士。わたしと梨山博士の先輩だ。博士助手になってすぐのピッカピカの、ホッカホカのころに色々教えてくれた恩人だ。
 「ありがとうございます!…先輩の奢りですか?」
「あはは、桃田ちゃんがっつくね。そうだよ、奢りです。」
 わたしは受け取ると、ふーふーして冷ましてからごくごくと飲んだ。うーん、やっぱりコーヒーはブラックに限るね!
 「桃田ちゃん、そんなに暇ならDCO記録書いたら?結構溜まってるでしょ、ねえ梨山くん。」
 柿本先輩がわたしに提案した。記録かあ…今まで全然書いてなかったしそれもいいかもな。
 「ええ、結構。手に負えないくらい。」
 梨山博士がミルクと砂糖をたっぷり…それはもうたっっっぷりと入れたコーヒーを飲みながら答えた。この人甘党なんだ…なんかイメージと違うな。梨山博士は本を置き、そばにあったタブレット端末を操作し始めた。
 「うーん、これなんてどうだ?」
 梨山博士はわたしに液晶を見せた。そこには…
 「雑食人種?」
「そうだ。最近自分で収容施設に来た奴でな。よくわかんないんだよ、いろいろと。」
「いろいろ?」
「ああ。なぜ自分から施設にきたのか、なぜ雑食…あー、ここら辺の説明は口では難しいな。じゃあさっそく実物を見てもらうか。」
 彼はわたしを見つめる。うーん、面白そうになってきたじゃん。これは、やるしかないね。わたしは立ち上がり、大きく頷いた。
 「見ます!わたし、やってみます!」

第二話 雑食

 「そんで、その…雑食人種?ってのはどんな見た目してるんですか?」
 コツコツと足音の響く音。収容所に続く通路ではなぜか足音がよく響く。粋な計らいなのだろうか。わたしにはよくわからないけど。
 あのあと、雑食人種を見せてもらうことになった。担当博士は柿本先輩の知り合いらしいので簡単に許可が取れた。
 「見た目は普通の人間と変わらないって。…『食事』の時以外はね。」
「あっ、そういえば!名前聞いたときから気になってたんですけど、雑食人種ってなんですか?わたしたち人間は全員雑食じゃないですか。菜食でもあるし肉食でもある。なのになんでわざわざ雑食人種なんて名前なんですか?」
「疑問が多いねえ、好奇心旺盛だなあ」
 柿本先輩はくすくすと笑う。好奇心旺盛じゃないとこんな機関には入りませんけどね、と言おうとして… やめた。ちょうどその時、「雑食人種」が収容されているところに到着した。
 「雑食の『雑』はなんでもって意味があるんだけどね。ホントになんでも食べちゃうんだ。」
 と言いつつ先輩はドアを開けた。ドアの先には担当博士が居て、檻に閉じ込められている人間を見つめていた。
 「やあ湊くん、久しぶりだね。」
 先輩はその博士に手を振った。湊って名前らしい。湊さんはこちらを向いて先輩に手を振った。
 「やあ友哉。よく来てくれた。そして…後ろのお二人さんも。名前は?」
「桃田朱里です、よろしくお願いします!」
「梨山爽です。よろしくお願いします。」
 わたしは湊さんに深々とお辞儀。梨山博士は軽く会釈をした。湊さんは「俺は栗井湊だ。一応博士。よろしく」と言って微笑んだ。
 「それで今回伺ったのは、この桃田が雑食人種の記録を書きたいということで、このDCOには説明が難しいところもあるでしょうから直接博士に話を聞きたくてですね。」
「うん、友哉…柿本博士からも話を聞いているよ。それじゃあ話をしようか。事が起こったのはつい一ヶ月前だ。」
 そう言って、栗井博士は話し始めた。




 20●●年の●月●日。その日は誰にとっても、もちろん収容施設の職員にとっても平和になるはずだった日だ。しかしその平和はたった一人の人物によって破られた。そう、のちに「雑食人種」と呼ばれるようになる男だ。まあ、それまでは「●● ●●」という普通の名前があったんだがな。…え?守秘義務…?ああ、そうだった。まあいいじゃんか、ここだけの話だよ。
 それはともかく、その男は入り口から堂々と入ってきてこう言ったんだ、
 「私を保護してくれないか」

 ってね。言われた職員は肝を冷やしただろうよ、迷い込んできた一般人だと思ったらしいしな。職員は何か不思議な事でもあるんですかと聞いた。すると男は
 「私は雑食なんだ」
 とかなんとか、ふざけたとしか思えないことを言った。職員は新興BOAのイタズラかなんかだと思ったらしい。そのまま帰そうとしたらその男は食いもんをくれ、腹が減ったとか言ったそうだ。職員はこれで完全に彼がふざけていると思ったらしい。その時…あ、ちょっと待った。ちょうど配給の時間だ。

 湊さんは話を中断し、部屋に入ってきた職員を指差した。職員が持っていたのは…焼いた豚まるまる一匹。え?「配給」って、これ食べるの?嘘でしょ?
 職員は嫌々って感じで檻の中に入っていった。恐る恐る豚の丸焼きを差し出す職員にも目をくれず、豚を飲み込む雑食人種。一口だった。職員は逃げ帰ってきた。
 わたしは鳥肌が立ち、両腕をさすった。隣を見ると、いつもと変わらない表情の梨山博士とニコニコしている柿本先輩。なんで恐れてないの?そっちも怖いんだけど…
 「と、このように…その職員を丸呑みしたんだ。まあ、記録に書けるのはその事件と配給の回数が異様に多いことくらいかな…健闘を祈っとくよ。」
「あ、ありがとうございました!」
 わたしはまた深々とお辞儀。そうして私たちは資料を借りて収容室を去った。
 コツコツ響く帰りの廊下でわたしは二人に話しかけた。
 「配給の場面、すごかったですね…いくらお腹が空いているからって、あんな食べ方するもんなんですね。」
「別に。めちゃくちゃ腹減ってるらしいし、DCOだし、あれくらい普通じゃないか?桃田もがっついて食うときあるじゃないか。」
 えっなにこの人超失礼!わたしは心の底でこき下ろす。声に出したらあの手この手で言いくるめられるからだ。口は達者なんだから。
 「それより、次は記録の執筆だ。やり方を教えてやる。」

第三話 図書館

 ドアを開けた瞬間、暖かい空気が肌にあたった。
 「こんなところあったんですね、今まで知りませんでした!」
「お前、そういうことあんまり大声で言うなよ…図書館なんだからさ…」
「しかも悪口に取られかねない発言だよ今のは。それをその場で言うのは度胸あるね。」
た、確かに…心なしか司書さんが睨んでいる気がする…。

 ここは職員専用図書館。収容所の内部に存在していて、通常の図書館の役割に加えてDCO関連の文献の閲覧ができる。わたしは今まで一回も来たことがなかった。記録を書く機会がなかったから来る必要がなかったのだ。初めて来てみた図書館は厳格な雰囲気だった。収容所そのものがそういう雰囲気だが、ここはそれを凝縮したかのよう。嫌いではないけど、ちょっと息苦しさを感じる。私みたいな初級博士が来る場所ではないみたいな拒絶感も厳格さに含まれている気がする。そんなところになんでわざわざ初級博士が来たのかって?そう。DCO記録の書き方を学びに来たのだ。初めての記録だしヘマがないようにしたいからね。

 「ああ、これだよこれ。」
 わたしが脳内解説*5をしている間に、柿本先輩が記録をまとめた文書を持ってきた。分厚い。わたしは椅子に腰掛けると先輩から文書を受け取った。
 「ふーん、すごい量ありますねー。って、なんかこれセーフクラスばっかりじゃありませんか?」
「そりゃあセーフクラスの記録集だからな」
 梨山博士はもう一つ本を持ってきて、表紙を小突いた。そこには『DCO記録集 ソー ①』と書いてあった。DCOは「セーフ」、「ソー」、「デンジャラス」の3つのクラスで分けられていて、順に危険性が上がっていく。わたしも本の表紙を見てみると『DCO記録集 セーフ ①』と書いてある。なるほど、確かに分けた方が見やすいか。
 「じゃあデンジャラスクラスもあるんですか?」
「もちろんある…が、デンジャラスはややこしいのが多いからな。手本にするなら最初はセーフの方がいいだろ。」
 んー、デンジャラスクラスも見てみたいけど…今は、記録を書くのに集中しないと。
 「それじゃあさっそく始めるか。最初は個体名を書く。その次に記録日…まあ今日だな。2月5日。次にクラス…栗井博士はこいつのクラスをソーと見積もっている。」
「え?なんでですか?デンジャラスに相当するレベルで危険だと思いますけど…」
「確かに危険性は高いな。でも、しっかりと収容はできている。」
「あ、そっか!」
 クラスは基本的に危険性の高さと収容の難易度によって変わる。めっちゃ危険でも収容しやすかったらセーフにもなり得るのだ。
 「確かに雑食人種はヒューマンエラーが起こらない限り収容し続けられますね。」
「ああ。それで本文だが、栗井博士から聞いた話と…この資料をうまいこと混ぜ合わせて書いてくれ。できるな?」
 わたしは受け取った資料を右腕で抱え、左手でピースした。
 「楽勝ですよ。わたしを誰だと思ってるんですか?DCO博士 桃田朱里ですよ!」

~6時間後~

 もう無理…わたしってこんなに文章力なかったんだ…萎縮するわたしの前で記録を読む梨山博士。完全に疲れ切っている。
 「うん…及第点だな…OK…データベースへの登録は俺がしておく。先に帰っていいぞ…」
 掠れた声でそう言って、博士はヨロっと立ち上がった。その姿はまるでホセ・メンドーサ戦の矢吹丈の様。わたしはこれ以上ないほどの罪悪感に襲われた。
 「あ、登録くらいはさせてください…!」
「いい。また6時間かかる。」
 火の玉ストレートを浴びたわたしは尻餅をついてしまう。一発KO…
 ちょうどその時、柿本先輩がわたし達の方に近寄ってきた。柿本先輩は図書館員に頼んで、わたしの激長記録書きが終わるまで図書館を使う許可を得てくれた。もう感謝しかない。
 「お、ついに終わったか。じゃあ帰ろう、さすがにいつまでもここに居たら館員さんに怒られるからね。」
「はい…あ、俺は登録に行ってくるついでに鍵もしめとくんで先帰って貰って大丈夫ですよ。」
「オッケー。じゃあ朱里ちゃん、荷物持って。」
「あ、はい…」
 わたしは立ち上がってカバンを持ち、梨山博士の前に立った。
 「あの、今日は本当にすみま…」
「大丈夫だ。お前が記録の書き方を学べたのならそれでいい。それよりちゃんと寝ろよ。」
 そう言うと博士はスタスタと歩いて行ってしまった。その背中は、さっきまで曲がっていたはずなのに、真っ直ぐとしていた。それを見た瞬間、
 「って、ちょ、朱里ちゃん!?」
 手で覆ってしまった目からは見えないが、柿本先輩はおそらく動揺しているのだろう。ああ、こういう時に元気に笑えないところも。

 わたしってダメダメだ。

Love is Blind-Front

 わたしの父は、優しい人だった。

 人と接するのが苦手で、それでも頑張って接していて、優しくて、わたしがテストでいい点数を取ると、決まって頭を撫でて、好きなものを一つ買ってくれた。わたしはそんな父が大好きだった。でも。

 父は死んだ。





20●●年●月●●日10時15分34秒
収容施設-●●
 ヴウーッ ヴウーッ 緊急事態発生 緊急事態発生 全職員は直ちに避難及び厳戒態勢に入れ 繰り返し告ぐ…




収容違反記録-●●●発生日20●●年●月●●日
概要収容施設-●●にてDCO/●●の収容違反が発生。理由は担当博士による収容室内の操作ミスと断定されています。担当博士は当時残業を繰り返しており、職員の待遇改善で防げた事故でした。
 DCO/●●は収容室を抜け出したのち職員を●●名、再収容を試みた特殊部隊を●名殺害し収容施設-●●から脱出。一般人にも被害が及びました。しかしそれは最小限ですみ、近くにあった●●橋を渡っていた男性1名が死亡、その妻と娘が怪我を負いました。その時一歩遅れて収容施設所属の軍事部隊が到着してDCO/●●の無力化に成功。再収容されました。デンジャラスクラスの収容違反にしては被害が少なかったことは不幸中の幸いと言えるでしょう。
 この事案の事後処理については、「収容違反記録-●●●-事後処理」をご覧ください。




20●●年●月●●日10時18分18秒から21分02秒
●●玩具屋前から●●橋



 「お父さん、ありがとう!」
 ●●玩具屋から親子が出てくる。父と母と娘。娘はテディ・ベアを抱きかかえながら満面の笑みでそう言った。父はニコッと笑ってしゃがむと、娘の頭を撫でた。
 「朱里がテストでいい点をとったからね。ご褒美だよ。これからも頑張ろうね。」
「うん!」
「朱里はスポーツもできるからね~。いい子だね~。」
 両親に褒められて恥ずかしそうに笑う娘。そのままタタタッと走り出してしまった。
 「あー、朱里、危ないよ!」
 父が慌てて追いかけた。二人はT字路に着くと、左に曲がった。少し遅れて母も続く。曲がった先には●●橋がある。娘に追いつき、抱き上げた父は振り向いて母に言った。
 「そうだ!ここで写真取ろうよ!朱里、一回おろすね。」
 父は地面に娘を下ろすと、ポケットからカメラを取り出した。娘は母に近づき、テディ・ベアを落とさないように左手でピースをした。
 「はーい、撮りまーす…あれ?どこのボタン押せばいいんだっけ…?」
「もー、おとーさーんー!」
「ごめんごめん、よし、オッケー!せーの、はいチー…」


ガシャッ。
 

 橋。お父さん。大きなヘビ。頭。右腕。右足。胴。血。大量の血。悲鳴。触手。口。血だらけで大きくてゴツゴツしていて、お父さんがいる口。わたしもお父さんのところに。引き寄せられて。目。笑っている。なんで?死ぬのに。これから死ぬのに。口。開いた。最後に何か…





大好きだよ。朱里…

Love is Blind-And back

 お父さんは死んだ。あいつらのせいで。それなのにあいつらは、自分たちのしたことを無かったことにしようとした。わたしと、お母さんに変な薬を飲ませて。
 お母さんはあのことを忘れてしまった。お父さんが間違って橋から落ちたと本気で信じている。それも全部あいつらのせいだ。




収容違反記録-●●●-事後処理発生日20●●年●月●●日
概要 収容違反の詳細については「収容違反記録-●●●」をご覧ください。
 軍事部隊によるDCO/●●の無力化ののち、●●の運搬、●●橋付近の緊急通行規制、被害者家族の保護などが行われました。被害者家族には記憶消去を施し、死亡した男性は「不注意による橋からの落下」と説明しました。遺体はボロボロになっていたため、機関が回収しました。
 担当博士の処罰は3ヶ月間の減給でした。しかし収容違反記録-●●●にも書かれている通り、当時担当博士は残業を繰り返していました。そのため今後このようなことが起こらないように残業時間の縮小を課題にすべきです。
追記 被害者男性の娘、桃田●●氏に記憶消去処理が効いていないことが本人の発言から判明しました。本人は父の死亡状況を事細かに覚えており、事実が漏洩されてしまう危険性があります。彼女を最優先に監視することが決定されました。





 わたしはもうあの時のわたしとは違う。もう中学生なのだ。泣き喚かず、お父さんの死としっかり向き合うこともできる。でも、それを踏まえても、あいつらは許せない。お父さんの死を隠蔽しようとしたあの謎の集団。あいつらの正体を暴いて、絶対に復讐してやる。

 お母さんはまだお父さんのことを事故だと思っている。完全に奴らの手のひらの上で踊らされてしまっている。なんでだろう。ちゃんと見ていたはずなのに。もしかして、何か特殊な技術でお母さんは記憶を失ってしまったのでは…。だとしたら、その技にはまっていないわたしはやっぱり特別なのかもしれない。あいつらを倒すために生まれてきたのかもしれない。








 走って行ってしまった朱里を見ながら、柿本はため息をついた。
 「まったく、あの二人はなんでこうすれ違うのかねー。もっと素直になればいいのに…」
 そう言いつつ少しの間右目をつむると、急にきびきびと片付けをし始めた。そして片付けが終わったちょうどその時、入り口の扉が開いた。入ってきたのはエプロンをまとった男性。司書だ。柿本はその男に向かってお辞儀をした。
 「すみません、こんな時間まで占領してしまって…」
「いえいえ、いいんですよ。ところで、さっき泣きながら猛ダッシュする女性とすれ違ったんですが…あの方、柿本さんの後輩さんでしたよね。…何かあったんですか?」
 男の心配する口調の中に好奇の色が混じっているのに気づいた柿本は苦笑した。
 「うーん、なんと言ったらいいか…彼女が急に泣き出してしまったんですよね。別に僕は関与していません。」
「はあ、そうですか…」
 絶対に誤解されたなと思いつつ、柿本は男の方に歩む。
 「まあ後日説明しますよ。それより、今日はもう帰らないといけません。残業どころじゃないです。残業代も出ないし。」
「それもそうですね。じゃ、施錠は僕がしておくので。」
「ありがとうございます。それじゃあ、また今度。」
 柿本はもう一度お辞儀すると、扉を開いて出ていった。
 残った男は、カウンターに入るとエプロンを脱いだ。エプロンには名札がついている。名札にはシンプルなフォントで「橘 薫」と印刷されている。橘 薫はカウンターに置いてあったファイルから2枚の書類を取り出した。
 「さて、今度の依頼は…まあこっちからやるか。」
 橘 薫は1枚を持ち、もう1枚はカウンターに置いた。置き方が少々雑で、床に落ちてしまう。その書類には、








 機関に入った直後は、復讐の野望でいっぱいだった。周りはみんな敵だと思って実験手伝いで活躍して、ついに博士に昇進したのに。昇進後初めての実験担当になったとき、一緒に配属された梨山博士は言った。
 「お前、なにをそんなに生き急いでるんだ?もっとじっくりとやった方が人生上手くいくぞ。」
 その言葉にわたしはムッとした。初対面の人にわたしの何がわかるんだ。わたしがどんな思いをしてここまで来たのか、わかるはずもない。無性に反発心が湧いた。この人を超えてやるって、そう思った。
 いつのまにか、復讐の気持ちが薄れていった。それは梨山博士と、柿本先輩の存在が大きい。DCO機関での暮らしが楽しくなっていった。交友関係も広がり、趣味が合う人も見つけた。でも…








 ひとしきり屋上で泣いて、落ち着いてきたら時間がやばいことに気づいた。そろそろ帰らないと明日に響く。梨山博士も言っていたではないか。「今日ちゃんと寝ろよ。」と。
 どうせ誰かが残って作業をしているはずだからまだ職員用玄関は空いているはず。そう考えて後ろを振り向くと、

 梨山博士がいた。

 「どっ…どうしてここに!?…いるんですか?」
 わたしは口から心臓…いや、もう五臓六腑全てが飛び出してきそうな勢いで驚いた。もしかして泣いてるところ見られた…?
 「柿本さんが警備員に頼み込んで監視カメラを見せてもらって、そっから特定した。あの人人望あるからな…」
 そう言ってから急にわたわたして付け足した。
 「あ、言っとくけど俺はそんなこと頼んでないからな。あの人が、『爽君が朱里ちゃんの機嫌を直すべきだよ。だって泣かせたのは爽君だもん』とか言いだすから…」
 声の響きを変えて喋ったから何かと思ったら柿本先輩の真似をしたらしい。この人こういうことするんだと思うと少しおかしくてニヤッとしてしまった。すると突然彼は不安そうな表情を見せた。
 「俺、なんか気に障るようなこと言ったか?だとしたら謝る。ごめんな。俺、空気読めないっていうか、無駄に悪口を言っちゃうことあるから…」
 ああ、だからそういうとこ。
 「違います。梨山博士が優しすぎて…」
「え。ど、どういうことだ?」
「人間、優しさが痛い時もあるんです!」
 言ってから、めちゃくちゃ恥ずかしいことに気づいて顔が赤くなる。しかし暗いからか、梨山博士はそれに気づいていない。今ほど暗闇に助けられたと思ったことはない。
 「そうか。じゃあ怒ってないんだな?」
「はい。もう整理はつきましたし。」
「良かった…。」
 ホッとため息をついて笑顔になる博士。
 「それじゃ、もう遅いし帰ろう。玄関まで送ろうか?」
「いえ、いいです。先行っててください。」
「そうか。じゃあ、また明日な。」
 博士はこちらに手を振って階段を降りていった。足音が聞こえなくなるのを待ってから、わたしは崩れ落ちた。ああ、だからもう。
 いつもは厳しいけど、時々優しいところも。その笑顔も。動作ひとつひとつが。



わたしは梨山博士のことが好きになってしまっている。

第四話 教える側

 …やっばぁ、すごい気まずい…。
 わたしは隣に座っている梨山博士となるべく目を合わせないようにしていた。もちろん、この前の事が尾を引いている。
 この前、自分の気持ちに気づいてからというもの、ずっとそわそわしていた。そうか、わたし、梨山博士のことが好きだったんだ。
 そうすると、まあ意識せざるを得ない。そしてこれまでの自分の言動が蘇ってくる。あれー…わたしめっちゃ失礼なこと言ったことある気がするな…とか、そういえばずっと「梨山博士」って呼んでたな…同期なのに…とか、もう湧き水のようにずっと出てくる。
 そんなことを考えながらぼーっとしてたら始業のチャイムがなった。やば、もう時間か。と思った時、隣でガタガタガタと何かが倒れる音がした。びっくりして横を向くと、そこには、椅子と一緒に仰向けに倒れている梨山博士。
 「…。何やってるんですか?」
「聞くな!」
 梨山博士は頬を赤らめると、そそくさと立ち上がって椅子を戻した後、机の上に置いていた資料をガシッと鷲掴みにして、小走りで部屋から出ていった。
 …足を引っ掛けてこけたな。わたしにはわかる。急いでる時とかにやって痛みで悶絶するから余計時間食ってしまったことが何度もある。チャイムが鳴ったから急ごうとしたのか。わたしはそう結論付けると資料を抱えて立ち上がった。




 「…え、新人研修?」
 実験室に着いた途端、わたしと梨山博士は柿本先輩に呼び出された。何かと思えば、そろそろ去年入った新人の本配属が始まるらしい。それで、実験向きと判断された新人が仮配属されるらしいが…
 「なんでわたしが研修を?わたし、人に教えられるほどの能力はないですよ?」
「知ってる。だから梨山君をサポート役として一緒に頑張ってもらおうと思ってね。」
「…俺一人でよくないですか?」
 って、そんなことを本人の目の前で言う人がありますか!なんて薄情なんだこの人は!…まあ反論できないんだけど。
 「教えられる方だけでなく、教える方も力をつけられるように、だそうだよ。実際君たちはまだ若いから、こういう経験は積んでおいた方がいい。」
「なるほど、確かに。それで、いつから配属されるんですか?」
「来週から。だからそれまでにはそれなりに気持ちを整えておいてね。」
「はい。」
「はい!」
 元気よく返事して、自分の机に戻る。んー、まあ実質後輩ができるみたいなことだよね。いやあ、期待半面不安半面って感じかな。わたしは基本的に教えるというより教えられる立場な気がするので、めっちゃ情けないことになったりしないか不安だ。
 「おい、実験始めるぞ」
 あ、そうだ。考え込んでいる場合じゃない。これから実験なんだった。声をかけてくれた梨山博士はすでに準備に取り掛かっている。今回の実験対象は、DCO/●●●。確かカメレオンみたいに擬態する芋虫だったか。どんな色にでも変化するのか、という実験だ。まあそんなに難しいものではないし、すぐ終わるだろう。そう思いながら色とりどりの厚紙を並べていると、
バーン!と大きな音を立てて実験室のドアが開いた。そして、
 「どうも!」
 と大声が聞こえる。びっくりしてドアの方を見ると、ブカブカの白衣を身につけた目つきの鋭い女の子が仁王立ちしていた。どうやらこの子が今叫んだらしい。その後ろでは、真っ赤な顔でオドオドしている、こちらもブカブカの白衣姿の子が顔を覗かせている。
 「…えっと、葡萄原さんと…あの…ん~、その後ろの子…なんて名前だっけ?」
「ゆ、柚木です。柚木 多英(ゆずき たえ)です」
「そうそう、柚木さん。ごめんね、ど忘れしちゃった。」
「いえいえ、お気になさらず~。よくあること…」
「いや違うだろ!!」
 柿本先輩と柚木さんが談笑を始めそうな雰囲気になりかけたところで、また葡萄原さんが叫んだ。
 「ここはわたしが話すターンだろ!なんでそこでほのぼのな会話が始まりかけてんだよ!!」
 見事なツッコミを繰り広げた葡萄原さんはハッとして、一回咳払いをした。
 「ごほん。どうも!葡萄原 紅葉(ぶどうばら もみじ)です!来週から仮配属されます!よろしくお願いします!」
「あ、柚木 多英です。たくさん迷惑をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします。」
 自己紹介を終えると、葡萄原さんはバッバッとキビキビしたお辞儀を、柚木さんはふわふわと柔らかいお辞儀(?)をした。
 「ん、よろしくね~。」
「あ、よろしくお願いします!」
「よ、よろしく。」
 わたしたちも流れに任せて返事をする。
 「っていうか、どうしたの?葡萄原さんも言ったけど、仮配属は来週からだよ?」
「先輩方に挨拶をしたかったのと、ちょっと実験も見たいと思いまして…」
「まあいいけど…次からは先に言ってね?」
「すみません。」
 もう一度お辞儀をする葡萄原さん。柿本先輩は困り顔ながらも、すぐに私たちの方を向いて指示を出した。
 「じゃあ…梨山君。二人に今日の実験の内容を教えてあげて。」

第五話 恋敵が早すぎる

 「今回実験するのはDCO/●●●。先日●●国のジャングルで発見された。外見は完全に芋虫。サイズも一般的な芋虫程度の大きさだ。こいつの異常性は、カメレオンのように体の色を変えて擬態できることだ。ということで、今回の実験内容はこいつのまわりを色付きの厚紙で囲って色の変化を観察し、それを記録することだ。」
 無愛想すぎる内容紹介を終えた梨山博士は柿本先輩の方を見た。
 「うん。ありがとう。じゃあ実験班と記録班で分かれようか。僕は実験のサポートにつくとして…どう分ける?」
 柿本先輩がそう言ってわたしたちを見回した。その瞬間、葡萄原さんが柚木さんの方を睨んだ気がした。気のせいかな?と思っていたら、柚木さんが急にわたしに近寄ってきた。
 「も、桃田先輩、わたしと一緒にやってくれませんか?わたし桃田先輩に教えてもらいたいです…」
「え?ん~、まあいいけど…」
「じゃああたし、梨山先輩とですかね。あたし、実験してみたいです。」
「ok、桃田ちゃん柚木さんコンビが記録班、梨山くん葡萄原さんコンビが実験班ね。じゃあ、実験班の二人はまず実験準備室行こうか。桃田ちゃんは柚木さんに記録の仕方教えといてね。」
「はい。」
 柿本先輩が実験準備室への扉を開き、二人へ手招きする。梨山博士と葡萄原さんは柿本先輩の元へ歩いていき、実験準備室へと入った。
 ここで突然だけど、この実験室の見取り図を見よう。
無題170_20240106140930.png
 実験記録室から本実験室はガラス張りになっていて見ることができる。実験は本実験室で行い、その結果を実験記録室で記録する。一般的な実験室の間取りだ。まあこれとは違うタイプの実験室もある。もっと危険なDCOの実験では、頑丈で強固な実験室を使ったりもする。今回わたしと柚木さんは記録班なので、実験記録室で記録を行い、梨山博士と葡萄原さんは本実験室で実験を行う。
 さて、説明も済んだ事だし、柚木さんに記録の仕方を教えないと。柚木さんの方を見ると、なんだかホッとした感じの表情。なんで?と思って見ていると、見られているのに気づいた彼女は申し訳なさそうな顔でわたしに話しかけてきた。
 「すみません先輩、突然押しかけてしまって…迷惑でしたよね。」
「いやいや、いいですよ。後輩に教えるのも仕事だし。」
「そう言ってもらえると助かります。…あの~…」
「ん?どうした?」
 柚木さんが急にモジモジして歯切れが悪くなった。
 「…ここだけの話にして欲しいんですけど…。誰にも言いませんか?」
「え?なんの話?」
「ちょっと話したいことがあって…誰にも言わないでくださいね!」
「あ、ああ…別にいいけど。」
 モジモジしてると思ったら急に圧で詰めてきた。何を話したいんだ?
 「あのですね、ここに来たのは紅葉ちゃんの提案なんですよ。」
「うん。」
 紅葉ちゃん?…ああ、葡萄原さんのことか。まあ、確かにそうだろう。言動的に葡萄原さんの方がグイグイいく性格な感じがするし、ドアを開けた時にめちゃめちゃ仁王立ちしてたからね。誘われた側の人間があんな仁王立ちはしないと思う。
 「で、で、その理由はというと、早く梨山さんに会いたかったから…らしいんですよ!」
「うん?」
 なんでここで梨山博士の名前が出てくるんだ?
 「つまりつまり、紅葉ちゃんは梨山さんのことが好きなんですよ!」
「…」
 …うん?


ええええええええええええっ!?そうなのお!?!?!?!?!?
「ふーん、そーなんだ。」
 口では平静を装いつつ、心はめちゃくちゃ動揺していた。
いやいやいやなんで!?なんでそうなるの!?急すぎるでしょ!わたしが梨山博士を好きなことに気づいたの昨日だよ!?タイムリーすぎない?ていうかそれをわたしに聞かせてどうするの?もしかして柚木さん恋バナ大好きとか?そういえば「ここだけの話~」って噂好きの常套句だよな…やっぱそういうことなのかな…じゃあ絶対知られちゃいけないな…
 「え、なんで好きになったの?接点なくない?」
 わっちゃわちゃな脳内とは裏腹にまっとうな質問をするわたしの口。考えてることと言ってることが乖離しすぎじゃない?もしかして今脊髄で喋ってる?
 「やっぱそこ気になりますか。長い話になるんですけど、いいですか?」
 え、長い話になるの?これから実験の記録しないとだよ?いやでも気になる~~~めっちゃ気になる~~~好きな人に関する恋バナとか聞くしかないでしょ!わたしは記録のことを一瞬忘れることにして、早く話したそうにうずうずしている柚木さんに頷いた。

第五・五話 葡萄原恋染め物語


 それは桜の花びらが散り始める時期でした。当時、わたし達はぴちぴちの新入職員。講義を受けていろんなことを学んでいたんです。それで、その日は珍しく夕方の講義がありまして、その教官が梨山さんだったんですよ。というか桃田さんも教官補助としていたはずですけど…覚えてない?ほんとに?
 まあそれはいいとして、その日は記録の書き方の実技だったんです。梨山さんと桃田さんが記録用紙、報告書と実験記録のコピーを配って、全員に行き渡ったことを確認すると、梨山さんが説明を始めました。
 「今日は実技だ。DCO/天秤の記録を考えて書いてみろ。報告書と実験記録を参考にして良い。それでは、始め。」
 皆報告書を読み始めました。さてどうしよう。わたしは文章を書くのがとても苦手で、さらに要約をすることがとても苦手なんです。このダブルパンチになすすべなく、わたしは眠りにつくことにしました。やりたくないことはやらない。それがわたしの流儀なんでね…。え?ちゃんとやれって?…本題に戻りましょう。
 わたしが就寝してから5分くらいした時、隣の席からガタンという音がして、わたしは顔を上げました。紅葉ちゃんが立ったのです。なんでこのタイミングで立ったんだ?と思っていると、彼女は教卓の方へ向かっていきました。手に記録用紙を持っていました。もしかしてもう記録を書き終えたの?いやいやそんなわけないよ。時計を見ると17:38と表示されている。まだ開始から5分しか経っていない。しかし彼女は教卓に記録用紙を置くと衝撃の一言を発しました。
 「終わりました。」
 え~~~~っ!?天才か!?この子天才なのか!?わたしがびっくら仰天していると彼女はもう一回衝撃の一言を発しました。
 「もう帰らせてもらいます。」
 え~~~~~~っ!?!?なんでなんで!?どういうことなの!?
 二連ストレートを受けた梨山さんは目を丸くしながら口を開きました。
 「いや…どういうことだ?なんで帰るんだ?」
 すでにドアの方へ向かっていた紅葉ちゃんは気だるそうに梨山さんの方に振り返ると、
 「意味がないんですよ。こんな授業。」
 とだけ冷たく言い放ち、ドアを開けて出ていってしまいました。
 事の行方を見守っていた同期達は一瞬シンとした後ざわつき始めました。教卓の向こうでは何かを考え込んでいる梨山さんとあわあわしている桃田さん。
 「ちょっと梨山博士、追いかけなくていいんですか?」
 桃田さんの問いかけにも応じず下を向いて考え込む梨山さん。かと思いきや急に顔を上げ、ドアへと駆け出しました。
 「桃田、あとは頼んだ!」
「え?きゅ、急にそんなこと言われても…」
 梨山さんが飛び出ていってしまったドアの方を見てさらにわたわたする桃田さん。ここでわたしは思いました。なんか面白そうだなと。面白そうなことには積極的に首をつっこむ。片足どころか下半身全体くらいつっこむ。それがわたしの流儀なので、わたしも梨山さんのあとを追うようにドアへと走り出しました。どうせ記録を書く課題なんてわたしには終わらせられないと思いましたからね。廊下に飛び出したわたしの背中に桃田さんの悲痛な叫びが降りかかってきました。
 「あ~もう、なんなの~!?」


 わたしは足が速いので、梨山さんの背中を追うことくらいは簡単でした。梨山さんは職員用玄関まで一直線に進むと、ついに紅葉ちゃんに追いつきました。わたしはギリギリ二人の会話が聞けそうな、掃除用具入れの陰に隠れて会話を盗み聞きすることにしました。
 「な、なんですか、帰るって言ったじゃないですか。」
「ちょっと待て。なんで急に帰るなんて言い出したのか、理由があるだろう。」
「だから、意味がないんですよ。あの程度の実技なんて簡単にこなせます。簡単に解ける問題を授業でならっても退屈なだけでしょう。」
「いや、違う。本当の理由がある。それは、弟の世話だろ?」
 梨山さんがそう言った時、ばさっという音がしました。どうやら紅葉ちゃんが梨山さんを振りほどいたようです。
 「な、なんのことですか。急に何を言い出すんですか。」
 そう言った彼女の声はさっきよりも震えているように感じました。
 「機関の情報収集能力をなめない方がいい。特に職員に対してのな。他BOAからスパイでも入ったら困るから、職員の身辺調査はすごく丁寧に行われるんだ。お前の調査書には『歳の離れた弟あり』と書いてあった。あと、他に身寄りがないことも。現在時刻17時40分。小学生にしろ中学生にしろ、もう家に帰っている頃だろう。その世話をするために、早く帰りたいんじゃないのか?」
「なんで私の調査書なんて読んでるんですか、気持ち悪い。」
「お前が優秀だって聞いてたからだよ。経歴を知るために見たんだ。養成機関出身らしいじゃないか。すごいな。さっきの記録も完璧だった。将来立派な博士になれる。」
「…じゃあ、弟の世話のために早く帰ろうとしてるとして、そう言えばいいじゃないですか。なんで私はそうはっきりと言わないんですか。」
「周りからの期待に応えたいからじゃないのか。優秀な経歴。将来有望。そんなプレッシャーから、なるだけ講義を入れ込もうとして。結果的に時間がなくなってしまって、さっきのような出て行き方になった。別に弟の世話なんて恥ずかしいことじゃないぞ。むしろすごい。」
 紅葉ちゃんは完全に黙ってしまいました。沈黙。耐えきれなくなったのか、紅葉ちゃんが口を開きました。
 「なんでそんなにわかるんですか…。」
 一瞬の沈黙の後、
 「俺を誰だと思ってるんだ?DCO博士 梨山爽だぞ。それくらいの推察は簡単だ。」


 そういうと柚木さんはニヤッと笑った。
 「この決め台詞で紅葉ちゃんは完全に恋に落ちたでしょうね。いやいや、罪な男ですよ。どうでしたか?面白かったでしょう。」
 わたしは返答せずに心の中でいろんなことを考えていた。
 そういえばそんな時があったなあ、あの時は急に飛び出していっちゃったから何事かと思ったけどそんな舞台裏があったとは。いやそっちが舞台か。舞台裏はなんとか講義を続けようとしたけどどうにもならなかったわたし側か…。それにしても梨山博士すごいな。一瞬で全部わかるとは。それに…かっこいいし。葡萄原さんも好きになる理由もわかる。あと柚木さん意外とアグレッシブなんだなあ。なんでさっきはあんなにオドオドしてたんだろう。
 『それじゃあ実験始めるんで点呼するよ~。梨山くんは大丈夫だね。』
『はい。』
 ていうか葡萄原さんが恋敵ってことだよね?どうしよう勝てる気がしないんだけど。さっきの話を聞く限り超エリートっぽかった。方やわたしはずっこけ博士…。うーんほんとにどうしよう?
 『じゃあ次桃田ちゃん。準備はできてますか?』
「あ、桃田さん、無線聞いてください。点呼ですよ。」
 でも梨山博士の好みっていうかタイプ知らないな。そもそもどうやって知るんだ?直接聞くのは恥ずかしいし、柿本先輩経由もなあ…あの人絶対からかってくるだろうし…。
 「桃田さん、桃田さん!」
『桃田ちゃん?大丈夫?』
 柚木さんに体を揺さぶられ、わたしはようやく無線が繋がっていることに気づいた。やば、早く応答しないと!わたしは机の上に置いてある無線機を取ろうとして手を伸ばす。しかしギリギリ届かない。身を乗り出して取ろうとして、逆に押して奥に追いやってしまった。
 『おーい、桃田ちゃん?』
 やばいやばい!そうだ、立って場所を変えれば距離が縮むはずだ。わたしは立とうとするが、焦りすぎて椅子の脚に足を引っ掛けてしまった。体勢を崩して重心が低くなってしまう。地面が近づく。そういえばさっき、梨山博士もこんなふうに転んでたな…。

どっしーん!

 はあ…散々だったな…。
 あのあと柚木さんに支えてもらいながら立ったわたしは、幸い体の前半分が痛い程度で済んでいたのですぐに点呼をして無事実験が始まった。実験は梨山博士と葡萄原さんという優秀な二人のおかげですごいスピードで進んだが、記録班は文字通りずっこけ博士となってしまったわたしと書き物と要約が苦手な柚木さんという最悪の人選によってぐだぐだになってしまった。
 もう実験は終わって柚木さんはすでに昼食を食べにいった。わたしは実験の片付けを終えた梨山博士達を待っている。手助けに行かないのは、わたしが手助けなんかしたら逆に遅くなってしまうと思ったからだ。早く帰ってこないかなーと思っているとちょうど実験準備室のドアが開いた。出てきたのは…葡萄原さんだ。
 「あ、葡萄原さん。…梨山博士と柿本博士は?」
「二人はまだ片付け中です。私だけ先に帰してもらいました。」
「なるほどね。柚木さんご飯食べにいったから行ってあげたら?わたしはもうちょっと待っとくから…」
「桃田さん。」
 葡萄原さんは急に顔をつ近づけてきた。
 「な、なに?」
「桃田さん、梨山さんのこと好きでしょう。」
 私の心臓がどきんと飛び跳ねる。え?なんで知ってるの?
 「お互い頑張りましょうね、先輩。」
 そう言ってニコッと笑うと葡萄原さんはドアから廊下に出ていった。
 …わたしの恋路は、今迷宮に迷い混んでしまったらしい。わたしは少し俯いたあと、勢いよく顔を上げた。
 「あ~もう、なんなの~!?」

第六話 山中絶賛遭難中:前編

 ふい~、やっと終わった…。これでゆっくりできるぞ。
 ここはカフェテリア。わたしは実験記録を書き終わり体を伸ばした。さて、コーヒーでも頼むか。と思ってキッチンの方を見ると梨山博士と柿本先輩がいた。ちょうどコーヒーをもらっていた。
 「梨山博士!柿本先輩!」
 わたしが声をかけると二人は振り返った。先にコーヒーを受け取った柿本先輩だけ来た。
 「おはよう桃田ちゃん。明日の探索頑張ってね。」
「あれ、明日でしたっけ。」
「そうだよ。先週言ったでしょ」
 そうだった。完全に忘れてた。モンブラン・モンブランの探索があるのだった。理由は確かモンブラン・モンブラン内に生物は存在しているのか調べる、らしい。
 「確か今日中に現地に着いて明日探索開始ですよね?何時出発でしたっけ?」
「5時。それまでは準備とかしといてね」
「は~い」
 柿本先輩と話していると、梨山博士が隣に座ってきた。
 「あ、梨山博士。明日、モンブランへ探索ですよ。」
「ああ、そうだったな。」
 そういうとコーヒーを飲んだ。あいも変わらず甘そうなコーヒーだ。
 「そういえば、なんでモンブラン・モンブランって通行制限が行われたんでしたっけ。」
「確かその名前から、モンブラン・モンブランに行くと情報汚染が発生するのではというエフ博士の憶測を根拠にしてたはず。」
「げ、エフ博士か…。」
 あっまいコーヒーのはずなのに梨山博士の表情が苦くなった。
 「げ、って…。そんなヤバい博士なんですか?」
「いや、本人自体はいい人なんだ。優秀だし。体質がな。」
「彼の周りでは厄介ごとが多いんだよね。収容違反とか。しかも大なり小なり怪我はせど、必ず生きて帰ってくるんだよ。周りはそうとは限らないけど。ただ巻き込まれやすいだけなのか、それともほんとに体質なのかはわかんないけどね。」
「へえ~…でも直接探索に参加するとかでもないですし、そんな遠因で大事故が起こったりはしないでしょう。大丈夫大丈夫。考えすぎですよ。」
 そんなことよりわたしもコーヒーを頼もう、と思って席を立った瞬間、
ピーンポーンパーンポーン…
 と館内放送の知らせが鳴った。なんだ?談笑していた職員達も皆聞き耳を立てている。
『桃田朱里博士、梨山爽博士、クロード博士がお呼びです。第五収容室までお越しください。桃田博士、梨山博士、クロード博士がお呼びです…』
 わたしと梨山博士は顔を見合わせる。何の用だろう?クロード博士とは特に接点ないはずだし…
 「桃田ちゃん、なんかしたの?」
「いやいや、なんでわたしがなんかしたこと前提なんですか!」
「だって梨山くんがやらかすわけないし…」
「ま、行ってみないとわからないな。行くぞ。」
「はい。」
 梨山博士はコーヒーを飲み干すと立ってドアに向かって歩き始めた。わたしも後に続いた。
 「頑張ってね~」
 柿本先輩は呑気に手を振っているが、わたしは気が気でなかった。何を言われるんだろうか。怒られたりする?別に怒られるようなことは何もしてないと思うけどな~。梨山博士がドアを開けると、わたしは外に出た。冷たい空気が肌に当たる。もう2月か。早いな。


 わたし達が第五収容室に入った時、クロード博士は椅子に座っていた。どうやら机の上にある機械を眺めているようだった。彼はわたし達に気づくと声をかけてきた。
 「よく来たね、お二人さん。さあ、まずは座って。」
 クロード博士と机を挟んで向かい合うように置かれている椅子にそれぞれ座る。梨山博士がさっそく口を開いた。
 「初めまして、クロード博士。それでさっそくですが、お話とはなんでしょうか。」
「うん。こいつをみてくれるかな。よいしょっと…」
 博士は眺めていた機械をわたし達の方へ向けた。
 「これは…ワープロですね。」
 梨山博士はそう言った。ワープロ?ワープロってなんだ?見た感じパソコンっぽいけど…わたしがポカンとしていると梨山博士が説明し始めた。
 「ワープロっていうのはこのキーボードみたいなのを押して文章を作成、印刷できる機械だ。ずいぶん昔に使われていたものだな。」
「おー、よく知ってるね。」
「家にあるもので。父がよく使っていました。」
「へえー。」
 …なんか疎外感。わたしはわたしにも関連する話題にするため本題を聞いた。
 「それで、これがどうしたんですか?」
「こいつの一番下にある記述を見てくれ。」
「どれどれ…『2/9・11:30、桃田博士と梨山博士がモンブラン・モンブラン内で遭難する』…ってなんですかこれは?」
「実はこいつはDCOでな。いわば『予言の書』…ただしほとんど外れる。そんな代物だ。」
 なるほど。つまりこのDCOはわたし達が今日の探索活動で遭難すると予言したということだ。
 「でもほとんど外れるんでしょう?なら大丈夫ですよ。」
「いや、それが…その四個上の記述も見てくれ。」
「えっとどれどれ…『2/8・10:00、エフ博士がモンブラン・モンブラン探索に参加を表明』…」
「…」
 わたしが読み上げると、梨山博士が黙ってしまった。わたしはさっきの会話を思い出していた。
『彼の周りでは厄介ごとが多いんだよね。収容違反とか。しかも大なり小なり怪我はせど、必ず生きて帰ってくるんだよ。周りはそうとは限らないけど。』
 「…いやいやでも!これが外れるって可能性もありますからね!」
「私もそう思ってさっきエフ君に電話したんだ。8分くらい前。そしたら『私も参加しようと思いますよ。原因究明とかしないといけませんし。あとちょっとモンブラン食べてみたいなって思いまして。』って。」
「…」
 わたしはさっき自分が言ったことを思い出していた。
『直接探索に参加するとかでもないですし、そんな遠因で大事故が起こったりはしないでしょう。』
いやいや、そんな遭難なんかがあるはずない。第一、探索にはわたし達以外にも探索隊の人が大体20人くらいいる。そんな大勢いて遭難するって予言されたのがわたし達だけ?どう考えても外れる。それに、エフ博士の体質で遭難が起こるならエフ博士も遭難するはずじゃないか。エフ博士も別に疫病神じゃないんだから、そうそう事件事故が起こるわけじゃない。
 「まあ、一応危険を喚起するということで呼んだんだ。ぜひ気をつけてほしい。モンブラン・モンブランで遭難なんかしたらモンブランまみれになっちゃうからな。」
「わかりました。ありがとうございました。」
 梨山博士は立ってお辞儀すると、
 「ほら、お前も。」
 とわたしにもお辞儀を促した。
 「あ、はい。ありがとうございました。」
「いえいえ、今後もよろしく。」


 わたしは廊下に出ると、ふうっとため息をついた。
 「なんだか不思議な話でしたね。」
「そうだな…。まあ、探索に遭難はつきもの…とまでは言わないが、意外とある話だ。でも今回は20人以上の大規模なものだから遭難してもすぐ見つけられるだろう。心配しなくても大丈夫だ。」
「そうですよね。」
 とはいえ…。わたしはモヤモヤしていた。同じ行動に参加する人物についての予言が立て続けにされて、そのうち一つは当たっている。何か嫌な予感がする。…いやいやそんなことはない。ただの妄想だ。わたしは嫌な考えを取っ払うように顔をブンブンと振った。その時、コツコツと響く足音が廊下の向こう側から聞こえてきた。顔を上げると白衣姿の人物。博士ってことだ。博士はわたし達を見ると、右手をあげてこちらに振った。わたしは知らない人だから梨山博士の知り合いか?と思って彼を見ると、はっと息を飲んでわたしの方を見た。
 「エフ博士だ。」
 え~っ、すごい偶然!エフ博士は目の前まで来るとニコッと笑った。
 「梨山博士と、桃田博士だね。探していたんだよ。」
「そうなんですか。それはまたどうして?」
「実は私も探索に参加することにしたんだ。急で申し訳ないが。」
「そうですか。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。じゃあまたモンブラン・モンブランで。」
「はい。」
 エフ博士は会釈すると、わたし達が来た方向へ歩いて行った。
 「いい人そうでしたね。」
「ああ。」
 体質だのなんだの関係なく、仲良くしたいなあ、と思った。ま、今は遭難なんて考えずに、万全に準備して探索に臨むことに専念しよう。そう思いつつわたしはまだコーヒーを飲んでいなかったことを思い出した。

第七話 山中絶賛遭難中:後編

 「どこですかここ~…」
 遭難してしまった。なんてことだ。あんだけ自分を落ち着けようと理由付けしたのが全部フラグだったなんて。
 「大丈夫だ、いずれ助けは来る。俺達が遭難したってわかったらヘリとか出動するはずだしな。それに食料はいくらでもある。」
 呑気にモンブランを食べる梨山博士。そういえば梨山博士って甘党なのかな?コーヒーにもあんだけ砂糖とか入れてるから多分そうなんだろう。じゃあここは楽園じゃん。って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!
 「流石に虫歯になっちゃいますよ~…」


 遡ること3時間前。午前8時半ごろにわたし達は探索を開始した。
 「ここはまだ探索されていない場所が多いので気をつけて。」
 探索隊長の方が皆に注意喚起する。重々承知している。特にわたしと梨山博士は。エフ博士はというと、少し道端から外れてモンブランをつまみ食いしていた。大丈夫かなあ、とわたしが不安になっていると探索隊の人に声をかけられた。
 「こんにちは博士殿一同!今日はよろしくお願いしますね!」
 以上にハイテンションな彼はわたし達の前で大きなお辞儀をした。
 「よ、よろしくお願いします…。」
 わたしもつられて大きなお辞儀。梨山博士はクイっと会釈をした。彼の胸を見ると、「桜知」のネームプレート。
 「それにしても博士自ら探索に来るとはかなり珍しいんじゃないですか?何か理由とかあったりするんです?」
「話を聞くより実際に見た方が早いからな。…あと、少しモンブランを食べてみたかったというのもある。」
「なるほど、百聞は一見にしかずってやつですね。って、そうだ。自己紹介を忘れてました。桜知 辺斗(さくらち へんと)といいます。以後お見知り置きを。」
「あ、わたしは桃田 朱里です。よろしくお願いします。」
「梨山 爽だ。よろしく。」
 自己紹介の後、わたし達と桜知さんは話しながら道を進んだ。しばらくすると道から外れいよいよ本格的な探索になった。わたしはいつのまにか隣を歩いていたエフ博士に話しかけた。
 「あの~…エフ博士はよく大事故に巻き込まれてるって聞いたんですが、ほんとですか?」
 エフ博士はわたしをチラッと見ると、すぐに前を向いた。
「…まあ。」
 あ~明らかに話題選びミスった~そりゃそうだよね死者とか出てる事故も経験してるだろうし。なんでこの話題選んだんだ?えっとなんか明るい話題明るい話題…
 「えっと、それはそうと、エフ博士って好きな食べ物ありますか?わたしジンギスカンが好きで!焼肉屋行く時よく食べるんですよ…」
 ジンギスカン、と聞いた瞬間、エフ博士は下を向いてしまった。あれ?なんで?もしかしてジンギスカン嫌いだった?と、そんな時、隣で話を聞いていた梨山博士が慌てた様子でわたしに小声で話しかけてきた。
 「博士は赤い羊の収容違反事故の生存者だぞ!ジンギスカンの話はまずいだろ…」
 ええっ、そうだったの!?それは流石にまずいか…っていうかわたしただの的確に地雷を踏み抜く人になっちゃってるんだけど!
 「ご、ごめんなさい!赤い羊のこと知らなくて…本当にすみません…」
「いや、大丈夫だ。」
 エフ博士は手のひらをわたしの方へ向けて大丈夫、という意思表示をした。そしてすぐに手を顎に当てると、
 「しかし、あれはかなりデカかったからほとんどの職員は知ってると思ってたんだが……」
「ああ、わたし収容違反の話題はあんま調べないようにしてるんですよね。」
「…そうか。そういう人もいるよな。」
 エフ博士は何かを察したように話題を終わらせた。…これが大人の対応か。わたしとは大違いすぎる。少し凹んでいた時、隊長さんが皆に呼びかけた。
 「そろそろ食べ物を摂りましょうか。ちょうど昼ご飯の時間ですし。」
 この一言で一同食事の準備を始めた。とはいえ支給されているのはカ◯リーメイトみたいな固形の栄養調整食品と水分だけなのでリュックから取り出すだけで食事ができる。でもここはモンブラン・モンブランだからモンブランのつまみ食いができる!わたしはつまみ食いがしやすいように、リュックを下ろして座って食事をすることにした。他の隊員もわたしと同じようなことを思ったのかただ単に疲れたのかわからないが続々と座り始めた。
 と、その時、上の方からゴゴゴゴ…と大きな音がした。あれは…
 「雪崩だ!」
「いや、この場合はモンブラン崩と言うべきではないでしょうか?」
「そんなこと言ってる場合か!」
 隊長と桜知さんの謎の掛け合いがあったあと、隊長が大声で叫んだ。
 「総員退避!荷物は最低限でいいから命優先で逃げろ!」
 やばいやばい、はやく逃げないと!わたしは持っていくものを考えて…まあ全部機関からの支給品だしいいか!スッと立って状況を確認。隊員達は皆急いで逃げ出している。梨山博士もエフ博士も立ち上がった。
 「桃田、焦るなよ。ちゃんと逃げればどうってことない。」
「はい、わかりました!」
 会話したあと、隊員と一緒に走る。なんとか遠くまで逃れれば…と思った瞬間、
 「うわっ!?」
 小さな石(モンブランにあるってことはマロン?)に足を引っ掛けてうつ伏せに転んでしまった。ゴゴゴゴ…と大きな音が近づいている。まずい、思ったよりも近い!
 「桃田!」
 梨山博士が戻ってきて慌てた様子で手を差し伸べてきた。わたしは手を掴むも…
 「おわ!?」
「博士!」
 不自然な体勢のまま手を差し伸べた状態だったのか、梨山博士も倒れてしまう。こちら側に倒れかけわたしを避けようとしたのか横向きに倒れた。
 「いっつ~…」
「はっ、博士、まずいです!」
 雪崩はすぐそこまで近づいている。わたしはなんとか立ち上がり、梨山博士が立つのを手助けした。
 「とにかく、せめて端に!」
 一緒に全力で走る。でも梨山博士はさっき転んだ時に足を痛めたのかあまり速く走れていない。大丈夫ですか、と言おうとしたその時、

ドン!

 梨山博士が雪崩に吹き飛ばされた。隣を走っていたわたしにぶつかる。わたしごと倒れてしまう。
 「博士!」
 飲み込まれていく中で、わたしはなんとか博士の手を握った。


 「ん…あれ…?」
 気がついたとき、甘い匂いがふわっと香り、小さな光が頭の上に見えた。どうやらそこまで深く飲み込まれなかったようである。ホッとして横を見ると…梨山博士の顔がそこにあった。目を瞑っているのでまだ意識がないのだろう。
 ちっか!?少しでも動いたら…キスしてしまいそうな距離感だ。しかも、なんか手を繋いでる。そういえば無意識に握ったような気がする。ぼーっと見つめていると、
 「んえっ…んあ…ん…?」
 博士は少しうずくと、目を開いた。って、見てたことバレちゃう!?
 「あ、桃田。ここは…?」
「ななな雪崩の中ですね!いいい意外と深くなかったようですよ!」
「ああ、そうか…じゃあ早く出よう…ん?」
 博士は手を握っているのに気づくと、パッと手を離した。顔を赤らめるとモンブランを掘り始めた。
 「…」
「…」
 めっちゃ気まずい。


 そうしてなんとか雪崩から抜け出して最初に至る、というわけだ。
 「いって~…」
 梨山博士が顔を歪ませ足を押さえる。やはり痛めていたようだ。
 「これ労災保険降りるかなあ…」
 …。なんかさっきから呑気がすぎる。わたしはそのまま聞いてみることにした。
 「なんかさっきから呑気がすぎませんか?」
「ああ、こういう時は何にもしない方がいいんだ。無駄に体力使いたくないしな。それに大きな絶望が降りかかってきた時は気負いしすぎない方がいいと思ってるからな。」
 そういうと博士はひょいとわたしの顔を覗き込んだ。
 「こういう時はお前のほうが呑気にいくと思ってたんだけどな。いつもみたいに。」
「…非常時は苦手なんです。っていうか普通の人はだいたいそうでしょう。」
「でも俺らはDCO博士だ。非常時の対応はできといたほうがいいぞ。」
 そういうと博士は手を頭の後ろで組んだ。
 「今回はそんな非常時のプロフェッショナルであるエフ博士が救助側に回ったんだ。心配しすぎんな。」
「…そうですよね。」
 確かに、多くの事件事故に巻き込まれてきたということはその対処法も知ってるということだ。でも流石に雪崩による遭難者の捜索の経験はないんじゃないか?いや、博士が本当に言いたいのは「心配しすぎんな」の部分なんだろう。そうだ。心配しすぎても何も始まらない。気分転換に水でも飲もう、あったかな…と思ってハードシェルの内側を探していると、
 「あれ?」
 機械仕掛けの、無線機のようなものがある。これは…
 「ビーコン!博士、ビーコン装備してました!」
 そう、雪崩ビーコン。信号を発信して、受信モードのビーコンに位置を知らせることができる優れものだ。ちゃんと送信モードになっている。
 「これがあればこっちの位置に近づいて来れるはず!」
「俺もあった!よかった、これなら助かるぞ!」
「やった!」
 わたしは興奮のあまり梨山博士の手を取ってぶんぶん振った。…ハッ!ま、また無意識に手を…!わたしは慌てて手を離した。その様子がおかしかったのか、博士はフッと笑うと、
 「別に繋ぎたいなら繋いどいていいんだぞ?」
 え、繋いでいいの?じゃあぜひ繋ぎたいんですけど…
 「こ、子供じゃないんですから…」
 あ゛~っ行動と言動の不一致!もうわたしはなんでこんな時に意地を張ってるの!自分に怒っていると、梨山博士が急に手を握ってきた。
 「わっ!?」
 驚いて梨山博士を見ると、そっぽを向いているがその耳が赤い。意図が分からない。…でも嬉しいからいっか。わたしはその手に全てを委ねることにして…


 「で、手を繋ぎながら肩に顔を乗せて寝てたと。」
 柿本先輩がニヤニヤしてそう言った。
 ここは収容施設。あのあと探索隊の人がビーコンの信号を元にわたし達を見つけて無事に救助されたらしい。らしい、というのはわたしは寝てしまってその部分を知らないからだ。気づいたら医務室にいて、柿本先輩がいた。だいたいのことはエフ博士が報告してくれたそう。あとで何かお礼としてお菓子でも持っていかなきゃな、と思いつつ、今はこの尋問からなんとか逃れられないものかと今までないくらい頭をフル回転させていた。柿本先輩にだけは色恋沙汰は知られちゃいけない。ずっとからかわれることになるからだ。同期の日輪くんは休日にデートしているところを見られてそれを半年くらいからかわれたらしい。相手が職員じゃなくてそこまでからかうってことは職員同士だともう10年くらいはずっと擦るんじゃないか。そう思うと恐怖で震えた。
 「寝ちゃって肩に顔乗せて、っていうのはまだわかるんだけどさ、手を繋いだ状態ってどういうこと?自然にそんなことになる?ならないよね?ねえねえ何があったのって!答えてよ!」

……

続く

DCO博士 梨山爽の小さな非日常


 …目の前で誰かが泣いている。顔は両の手のひらで覆われていて見えない。俺はその人に手を伸ばすが、指は虚空をきり、永遠にその人に届かない。俺がもがいていると、どこからか音が聞こえてきた。

…ヴウーッ…ヴウーッ…

これは…どこかで聞いたことがある。…そうだ。あれは確か小さい頃。無機質な壁についた小さな窓。この音を聞きながら何かを眺めていた。

ヴウーッ…ヴウーッ…ヴウーッ…ヴウーッ…

ヴウーッ ヴウーッ

「…ハッ…!」
 俺は掛け布団ごと上半身を起こす。少し周りを見渡し、枕元に置いてあったスマホに手を伸ばした。
 「…もうこんな時間か。」
 ホーム画面には10:28の文字。どうやら寝過ぎてしまったらしい。ずっとスヌーズが鳴っていた。とはいえ、今日は休みだ。別にいつ起きようと俺の勝手だ。そして俺は、勢いよく起こした上半身をゆっくりと倒し、二度寝の体勢に入った。


 …やっば。もう12時じゃねえか。10分ほどの二度寝のつもりだったが睡魔が9倍ほど膨れ上がってしまったのか、もう真っ昼間だ。せっかくの休日の午前が吹き飛んでしまった。ベッドから出て、洗面所に向かう。目をこすりながら辿り着いた洗面所で鏡を見ると、まだまぶたが開ききっていない、いかにも寝起きの自分の顔が映った。
 顔を洗ってキッチンに行く。もう12時だし、実質昼食だけれど感覚的には朝食だ。食パンと目玉焼き、あとちょっとしたサラダにしよう、と考えながら冷蔵庫の上段(冷蔵室)を開ける。ちなみにうちの冷蔵庫は小さめの2ドアタイプのやつだ。

 何も入っていなかった。いや、正確にいうと600mlのペットボトル麦茶が2本。それだけ。…そういえば、最近仕事が忙しくて買い物に行けていないままだった。
 しょうがない。冷凍食品でなんとかするか。俺はため息をつきながら下段の冷凍室を開いた。
……
 何も入っていなかった。そんなことあるか?ここはだいたい何かは入っているだろ。
 仕方ない。外で買おう。うちの近くには個人経営のパン屋がある。種類は少ないが、結構うまい。そこは水木を定休日にしているちょっと変わった店なので、今日はやっているはずだ。あと食料もスーパーで調達しなければならない。まだ足は少し痛いがそこまでの遠出ではないから大丈夫だろう。俺は財布とマイバッグを持つと、玄関の扉を開け外に出た。


 いい天気だ。からっ風が涼しいこの時期でも、お天道様のおかげで意外と寒くない。こんな日にピクニックでもできたら楽しいのだろうか。そういえば、さっき通った公園で家族らしき人がレジャーシートを敷いて梅を見ていた。いいな。ピクニックか。家族でピクニックなんていつしただろう。もう覚えていないな。
 そんなことを考えていると、目的のパン屋の前まで来ていた。ドアを開けて中に入る。
 「いらっしゃいませー。」
 店主の男の声がレジから聞こえる。俺は店内を見まわして、お目当てのパンを…
パンを…

 「あの。」
「あ、はい。どうか致しましたか?」
「えっと…もう全部売り切れちゃったんですか?」
 見た限り、店内にもうパンは残っていなかった。うまいとはいえ、午前中に全ての商品が売り切れるほど有名なパン屋ではないはずなのだが。
 「ええ、おかげさまで。先日ラジオで取り上げられてから売り上げがものすごいんですよ。なんだっけ。そうだそうだ。『日隈某のなんたらラジオ』だ。この日隈某って人が最近大人気のアイドル?らしくてですね。うちのパンをめっちゃ褒めてくれたんですよ。それでそのファンが押しかけてきてね。もうウッハウハですよ。まあその分仕事が忙しくなっちゃって。いや嬉しいんですけどね?働いてなんぼなんですけど、あ、追加のパンを今焼いててですね、あと30分ほど待ってくだされば、お買いになれますけど、どうしますか?」
 …この人、あまり話したことなかったけどこんなにおしゃべりだったのか。30分。30分の待ち時間なら耐えられるが、そんなに興味ない話を延々と聞かされるかもしれない。食欲をとるか、興味ない雑談からの逃げをとるか。俺は食欲をとった。流石に腹が減り過ぎている。


 「そんで最近新しいパンを作ろうと思って、あんぱんにしようと思ったわけよ。で、前からその国の小豆が美味いって聞いたことがあったから、試しにってことで小豆取り寄せてあんぱん作ってみたのよ。そしたら美味くて美味くて。そろそろ発売しようと思ってるんだけど、お兄さんには特別に今日あげちゃう、せっかくだからね。あ、あとその国の特産品の…なんだっけ。清少納言…じゃなくて、そうだそうだ。大納言あずき!アイスクリームなんだけど、今の時期でも美味くてね。お兄さんも頼んでみるといいよ。あ、そろそろ時間だ。じゃあ、ちょっと待っててね…」
「はい…」
 あれから30分。ずっと経営のことだの娘の就職のことだの色々聞かされた。正直途中から何を話していたか覚えていない。しかしこのタイミングでようやくパンができたようだ。これでようやく食べ物にありつける。そう思ってホッとしていると、
 「あれ、梨山さん?」
 名前を呼ばれて振り返ると、入り口に紫のジャケットを羽織ったショートボブの女性がいた。葡萄原だ。
 「どうしたんですか、こんなところで!」
「こっちのセリフだが…俺はパンを買いに来たんだ。」
「奇遇ですね、わたしもですよ。」
 そういうと彼女は嬉しそうに笑った。
 「ここのパン美味しいから好きなんですよね。いやーそれにしても梨山さんと会うとは。びっくりしましたよ。」
「そうだな。俺もびっくりした。」
 なんかこの前の実験の時よりテンションが高い気がする。気のせいか?
 「お昼ご飯ですか?」
「お昼ご飯というか…いや、まあそうだな。」
 さっきまで寝てて朝ご飯と兼ねています、とは恥ずかしくて言えない。柿本先輩や桃田(は桃田でからかってきそうだが)ならともかく、知り合ったばかりの後輩なら尚更だ。
 「じゃあご一緒してもいいですか?」
「いいが…弟と食べなくていいのか?」
 そういうと葡萄原はびっくりしたらしく、目を丸くした。
 「え、覚えてるんですか、あの時のこと…」
「ああ。割とでかい出来事だったしな。」
「ふーん…」
 葡萄原は小さく微笑んだ。と、その時店主が戻ってきた。どうやら出来たようである。
 「お兄さん、出来ましたよ…って、」
 店主は葡萄原に気づくと何故か俺の顔と葡萄原の顔を交互に見てからニヤッとした。
 「あらら、彼女さんが待ってたならそう言えばいいのに。全く、長話しちゃいましたよ。ごめんなさいね、彼女さん。」
 店主は葡萄原に詫びるように両手を合わせた。…彼女?なんでそうなるんだ?
 「いや店主さん、俺たちカップルじゃ…」
「いえいえいいんですよ。それより私も買っていいですか?」
「ああ、是非どうぞ。」
 俺が訂正しようとするのを葡萄原は遮り、そのまま店主と話し始めた。どういうことだ…?否定して詮索されるのもめんどくさいから認めて早いところ終わらせようってことか?それならわかるが。店主は葡萄原の注文を聞くと、俺が頼んだ分と一緒に持ってきた。
 「はい、これとこれ…で、彼女さんの方がこれね。あとサービスであんパンもあげちゃう。」
「えっ、いいんですか!?ありがとうございます~!」
「どういたしまして。それじゃ、是非またいらしてくださいね。」
「は~い。」
 店主は俺たちに手を振って見送ってくれた。ドアを開け外に出ると、乾いた風が俺たちを襲った。しかし風が残した冷たさはすぐに太陽が取っ払ってくれた。
 「カップルと間違われちゃいましたね。」
「全然そんなことないのにな…
じゃあそこに公園があるからそこで食べようか。」
「はい。」
 少し歩くと梅が咲く公園が見えてきた。さっきいた家族はもういない。公園の中には、滑り台やブランコといったまさに王道遊具が真ん中に陣取っていた。端の方にあったベンチに座り、パンの入った紙袋を開ける。俺が好きな焼きそばパンとサービスしてもらったあんパンがある。俺は焼きそばパンにがぶりとかじりついた。
 うまい。やっぱり絶品だ。ちょうど良い濃さのソースがパンに少し浸透していて、まさにパンと焼きそばが一体化したような感じだ。いい焼き味のパンに焼きそばがうまくマッチしている。焼きそばにかかった青のりもいい味を出している。
 俺が焼きそばパンを堪能している横では、葡萄原がメロンパンを頬張っていた。
 「ん~、美味しい!このメロンパン、焼き加減が完璧ですよ!」
「メロンパンは食ったことないけど、あそこの店主はパンを焼くのがうまいんだよな。」
「そうですね!」
 葡萄原はメロンパンを飲み込むと、俺に話しかけてきた。
 「先日はすみませんでした、突然押しかけてしまって…」
 これは雑談に入る流れだ。俺が関係する雑談なら割と得意だ。
 「いや、大丈夫だ。最初はびっくりしたが、葡萄原がいたおかげで早く進んだから逆に感謝さえしてるよ。」
「ありがとうございます。明後日からもお願いします。」
「こちらこそ。」
「これからも実験できますか?」
「それはどうだろう。記録にまわることもあるだろうな。あと、桃田とか柿本先輩とペアになることもあると思う。」
 そういった時、葡萄原の眉がピクッと動いた気がした。
 「桃田さんは…実験できるんですか?なんか記録ではわちゃわちゃしてたようですが。」
「ん…記録はともかく、実験は結構すごいぞ、集中力が半端じゃない。」
「そうなんですね…」
 葡萄原が急に静かな雰囲気になった。ちょっと明るいのが素かと思っていたが、やっぱりこの少し冷たい方が素なのかもしれない。
 俺は焼きそばパンを食べ終えると、あんパンを取り出す。
 「このあんパンのあんこ、小豆を海外から輸入して作ってるって言ってたぞ。」
「ふーん…アズキニアですか?」
「え?」
「いえ、その輸入先の国。アズキニア王国じゃないですか?小豆が有名なので…」
「そこまで詳しくは聞かなかったが…良く知ってるな。」
「世界地理は得意でしてね。」
 少し雑談したあと、俺はあんパンを口に含んだ。う、うまい!こんなにうまいあんパンは初めて食べた。あんこが主張しすぎないのに甘さが口の中で広がる。そこにちょうどいい焼き具合のパン生地が加わることでうまさが倍増している。パン生地は添えるだけ…あんこも添えるだけ…じゃあ何がメインなんだよと言われるかもしれないが、そうとしか表現しようがない。
 葡萄原もあんパンを食べ、笑みを浮かべた。ご満悦のようだ。あんパンを食べ終わると葡萄原は立ち上がった。
 「それじゃあ、そろそろ帰らせていただきますね。」
「おう。また明後日。」
「はい。あ、そうだ。」
 葡萄原は人差し指をピンと立て、ふわっと微笑んだ。
 「爽先輩って呼んで…いいですか?」
「別に構わないぞ。」
「ありがとうございます!それじゃあ明後日からよろしくお願いします!」
「うん。」
 葡萄原はたすたすと走っていった。俺も帰るか…じゃない、食料を買い出しに行くんだった。俺は立つと、近くのスーパーマーケットの方向へ歩いていく。


 ふう、これでいいか。
 俺はスーパーマーケット「Re Do³」(リ ドゥー)の野菜コーナーで大体のものを買ったことを確認した。あとは…お菓子でも買うか。お菓子コーナーに向かう。さて、何を買おうか。最近和菓子にハマっているのだが、チョコとかも捨てがたいなあ…って、あれ?
 「桃田?」
 呼びかけた瞬間、見慣れた背中はビクッと飛び上がった。彼女はそろそろと後ろを向くと、パッと手に持っていたものを隠した。
 「な、梨山博士!?なんでここに…」
「買い物しにきた。ていうかそれ以外の目的あるか?」
「そうですけど…そうじゃないというか…ここで買い物するんですね。」
「売り物の種類が豊富だからな。」
 りんごだけでも十種類はある。絶対そんなに売る必要ないだろ。
 「そうなんですね。…あっ、わたし時間だからそろそろ行かないと!そ、それじゃあ博士、また今度!」
「え?ちょっと待って…」
 桃田は何故かピューッとレジまで走っていってしまった。俺、もしかして嫌われてる?…心当たりしかない。嫌われてても文句は言えないよな…俺はもうお菓子なんて買う気じゃなくなってしまい、そのままレジに向かった。しかし、同じ日に身近な職員に二人会うってすごいな。割とみんなこの辺に住んでるのか?


 プシュッといい音を立ててプルタブが開いた。溢れ出しそうになる泡をなんとか口で受け止め、そのままぐっと呷る。冬の寒い風が俺を優しく撫でる。こんな日だからこそ冷えたビールが美味いというものだ。
 俺はベランダで黄昏ながら晩酌と洒落込んでいた。今日はいつもの味気ない休日とは違い随分と色々あった日だった。DCO機関に従事する人間がこんなことを言うのもどうかと思うが、今日は俺にとって非日常の連続だった。食料がなかった…のは別に嬉しい思い出ではないとして、葡萄原や桃田と会った。葡萄原は意外なテンションを見れたし、桃田…桃田は何をしてたんだろう。まあいいか。俺に関係ないだろうし…って、風が強くなってきた。風邪引くといけなし、流石に中で飲もう。俺はベランダから出ると缶を机の上に置くと座布団を枕にして横になった。あんなに寝たはずなのにもう睡魔が襲ってきた。俺は抵抗せず、夢の世界へと入っていった。

バレンタイン前日-桃田・柚木

 「よっしゃチョコ作るぞ~~!!!」
「気合い入ってますね~」
「そりゃ初めて手作りで好きな人に渡すチョコですし…」
 そう。わたし、桃田朱里は明日2月14日、梨山博士にチョコを渡すことにしたのである!ちなみに本命。
 なんでそんなことになったかと言うと遡ること3日前、2月10日。遭難後の休養時にわたしは天才的な作戦を思いついたのだ。その作戦とは!さりげなく好きなチョコを聞いてそのチョコを作るのを柚木さんに手伝ってもらおう!という作戦である。作戦でもなんでもないとは言ってはいけない。
 第一段階である好きなチョコを聞くのは軽々とクリアした。第二段階のチョコ一緒に作成依頼は、めちゃくちゃからかわれたがなんとか達成。この組織人の恋愛をからかう人間しかいないのか?それともわたしの周りがひどいだけ?ということで、今日柚木さんにはわたしの家に来てもらって一緒に作ることにしたのだ。なぜ柚木さんを呼んだのか?それはわたしにチョコを作った経験がないからだ。今まで友チョコとか義理チョコとか、本命チョコでさえ市販のものだった。そんな時お見舞いの電話をしてくれた柚木さんは作ったことがあったという。わたしの補佐役に適任だ。とはいえ一回溶かしてまた形成するだけなのだが。
 「で、ちゃんとチョコは買ったんですか?」
「うん。何故かちょうど梨山博士と鉢合わせるというハプニングはあったけど、ちゃんとホワイトチョコを買えたよ。」
 昨日は本当にびっくりした。どのホワイトチョコにしようかなと吟味していると、急に後ろから声をかけられたのだ。聞き覚えのある声だった。振り向くと、そこには梨山博士。一瞬幻かと思ってしまった。何故なら梨山博士がそこにいるはずがないから。でも家が意外と近いならまあいるはずがないってことはないだろうけど。
 「それにしても…桃田さんの部屋結構綺麗なんですねえ。ゴミ屋敷かと思ってました。」
「わたしをなんだと思ってるのよ…そりゃ綺麗にはするでしょ。」
 機関のロッカーとかも結構綺麗にしている。というかあそこに持っていくものなんてそんなにないんだけどね…
 「そんなことよりチョコチョコ!柚木さんがリードしてね!わたしは作り方わかんないから…」
「溶かして型に入れるだけですよ。あと多英でいいですよ。なんか苗字呼びって堅苦しくないです?」
 ぐ。やめてくれ。梨山博士のことをずっと苗字呼びしているわたしに刺さる。
「そ、そうかなあ…でも多英ちゃんもわたしのこと苗字呼びしてるじゃん。」
「それは先輩だからですよ。そういえば…桃田さん、梨山さんのことを苗字呼びしてますけど?」
「…。い、いいからチョコチョコ!」
「誤魔化し方が一辺倒ですねえ」
 多英ちゃんは意地の悪い微笑み方をすると、キッチンへ向かった。
 「えーっとそれじゃあ…まな板とクッキングシートと包丁とゴムベラとお湯と耐熱のボウルと型あります?」
「え…え?なんて?」
「まな板とクッキングシートと包丁とゴムベラとお湯と耐熱のボウルと型。あ、お湯は50度くらいでボウルは大きいのと小さいの一つずつです。」
「まな板とクッキングシートと包丁と…?」
「ゴムベラとお湯と耐熱のボウルと型。お湯は50度くらいでボウルは大きいのと小さいの一つずつ。」
「はいはいOK。えーっと…」
 わたしは言われたものをなんとか引っ張り出して全部用意した。あとティーポットに水を入れてっと。
 「よし、これでいいね。」
「はい、大丈夫です。それじゃあまずまな板にクッキングシートを敷いて、チョコを砕きましょう。」
「ふむふむ…よいしょっと」
 わたしはチョコ刻み始める。刻むのだけは得意だ。学生時代の学園祭の出し物でお好み焼き屋をやった時、一生キャベツを千切りしていたからだと思う。
 「おお、いいですね。次はお湯を大きい方のボウルに入れて、チョコは小さい方にボウルに入れてください。」
「よっと。こうでいい?」
「はい。そしたら、溶け始めたらゴムベラでゆっくり底から混ぜてください。」
 こんな感じかな?意外と難しい。
 「溶け切ったら型に入れます。ちなみになんの形の型です?やっぱりハートですか?」
「そんな恥ずかしいのじゃないよ~…。えっと、これ。」
「おお、これは…梨の型ですね。梨山、だからですか。」
「うん。」
「しかしよく見つけましたねこんなの。」
「ネットで探してたら見つけたんだ。我ながら天才だと思う。」
「そうですか…」
 そんな雑談をしているうちにチョコがほとんど溶けた。これを型に入れて、あとは…
 「最後は冷蔵庫に入れて冷えるのを待ちましょう。デコレーションとかはそのあとですね。」
「うん、OK。」
 わたしは型を冷蔵庫に入れた。よっしゃ、ほとんど完成みたいなもんだ!
 「そうだ。多英ちゃんもいる?友チョコ。」
「え、いいんですか?」
「うん。作ったげる。ちょうどチョコもちょっと余ったし。」
「え~、余り物ですか~?」
「貰えるだけありがたいと思いなさい。」
「はーい。」
 じゃ、この普通の円の型に入れてっと。そうだ、自分の分も作っとこう。二つの丸い型も冷蔵庫に入れる。
 「いやー、本当にありがとうね。助かった!」
「これ、貸しですからね!」
 そういうと多英ちゃんはニコッと笑った。
 「そういえば、多英ちゃんは誰かに作ったりしないの?」
「うーん、本命は相手がいないし、友チョコとかも市販のやつで良いかなって。その代わり奮発しようと思いまして。」
「なるほど。じゃあこのあと買いに行かない?一緒に選んであげるよ。」
「いいんですか?ぜひお願いします。」
「じゃあ行こうか。近くに美味しいお菓子屋さんがあるんだ。『しののめ』っていうんだけどね…」
 わたしはバッグを持って外に出る準備をした。うーん、後輩のチョコ選びを手助けする余裕がある。これは明日のバレンタインは大成功に違いない!わたしはそう信じて疑わず、ドアを開けて眩しい太陽の光を浴びた。


メタ追記

チョコの溶かし方はこちらを参考にさせていただきました。

第八話 ドロップバレンタイン

 「…なんじゃこれ~!?」
 わたしはそう叫んで、頭を抱えた。う~、なんでわたしにはこんなにもトラブルがついて回るんだ!
 今日はバレンタイン当日。わたしは起きてすぐに冷蔵庫を開けてチョコを確認した。昨日多英ちゃんのチョコを選んでから帰ってきた後にしたデコレーションも固まっていて完璧だった。…はずなのに。ちょっと味見してみようと思って自分用のチョコを齧ってみるも…なぜか味がしない。完全に無味無臭だ。でも食感はちゃんとチョコなので、味のしない謎の物体が口の中を溶けていく感じが気持ち悪い。なんでこんなことに…デコレーションの時に味見しとけばよかったかな。チョコは当日に食べるべきという考えが完全に裏目に出た。こんなの梨山博士に渡せないよ~…いや、待てよ?作ったんですけど失敗しちゃいました~って笑いに変えれば…いや違う、これ本命チョコだよ!?笑いに変えちゃダメだって!
 仕方ない、背に腹はかえられぬ。『しののめ』でチョコを買うしかない。手作りを渡すという根本的な部分は無くなっちゃうけど、無味のチョコを渡すよりかはマシだ。始業に間に合うように早めに出ないと。


 わたしは泣きそうになりながらも『しののめ』で2000円くらいするチョコを買って、なんとか施設についた。痛い出費だが致し方ない。2階に上がって柿本班の部屋*6のドアの前まで来る。
 「おはようございま~…す…」
 挨拶の勢いが途中で弱くなったのは、少し開いたドアから梨山博士と葡萄原さんの声が聞こえてきたからである。わたしはその隙間から中を覗くことにした。
 「爽先輩、今日なんの日かわかります?」
「今日…あ、バレンタインだな。」
「そうですね。で、わたしたいものがあるので夕方屋上に来てもらえます?」
「あ、ああ…」
「ありがとうございます!」
 爽先輩。わたしは心の中がスーッと冷たくなっていく。二人の距離がこの前より近くなっている。何かあったのだろう。もしや、葡萄原さんが告白して…?わたしはチョコを作るの失敗したのに…。
 わたしは何も考えられず、というか最悪のケースを考えたくなくて呆然としていると、後ろから肩を叩かれた。
 「うわあ!?」
「どうしたの、桃田ちゃん?顔色悪いけど…大丈夫?」
「か、柿本先輩…いえ、なんでも…」
「そう?調子悪かったら休んでもいいからね。」
「はい…」
「…え、本当に大丈夫?」
 心配そうにわたしを見る柿本先輩にもロクな応対ができず、余計に心配させてしまったようだ。わたしは大丈夫ですといい、先に部屋に入りたくないから柿本先輩の後をついていくように部屋に入った。葡萄原さんはわたし達に気づくとお辞儀して、
 「今日からよろしくお願いします!」
 と元気に言った。柿本先輩は会釈すると部屋を見回して、
 「あれ、柚木さんは?まだ?」
「ええ、まだみたいですね。」
 二人が話しているのを横に自分のデスクに座った。梨山博士のデスクの目の前に位置している。梨山博士はわたしに話しかけてきた。
 「おはよう。…なんか顔色悪くないか?」
 その言葉で、ちゃんと気づいてくれるんだ、という気持ちと原因の半分くらいはあなたなんですよ、という気持ちがごちゃ混ぜになる。わたしはなんとか大丈夫です、と喉から絞り出した。
 その時、ドアがバコーン!と大きな音を立てて開いた。勢いがつきすぎたのか、こけそうになるブカブカの白衣の女の子。結局白衣の裾を踏んでしまってこけた。
 「いって…あ、すいません!今日から仮配属の柚木 多英です!先日はありがとうございました!」
 多英ちゃんはなぜかこけたまま顔だけを上げて挨拶した。その勢いがおかしかったのか、梨山博士がふふっと微笑んだ。
 「ゆ、柚木さん、そんなに焦んなくても大丈夫だから…まだ始業じゃないし…って、もう始業か。」
 ちょうど始業のチャイムがなった。柿本先輩は多英ちゃんが立つのを手助けするとデスクへ案内した。わたしの隣だ。多英ちゃんが笑いながら話しかけてくる。
 「へへへ…失敗しちゃいました。」
「うん…どんまい。」
「は~いみんな注目!」
 柿本先輩が小学生みたいな注目のさせ方をした。先輩はホワイトボードの前に立っている。
 「今日から仮配属の二人が加わります!そしてなんと!その影響で班となって専用の部屋も貸してもらえました!拍手!」
 パチパチ…とみんなで拍手をする。
 「それじゃあ今日も頑張りましょう!」
「は~い!」
 多英ちゃんが元気よく返事をした。柿本先輩は自分のデスクに座って、パソコンで仕事をし始めた。それを皮切りにみんな仕事を始めた。わたしも仕事はちゃんとしなきゃと思ってパソコンを起動する。その時、梨山博士が隣に来て肩を叩いた。わたしは梨山博士を見上げる。
 「なんですか?」
「突然で悪いんだが、このDCOの記録、書いてもらっていいか?上司の依頼で。」
「はい。資料とかはありますか?」
「これだ。よろしく。」
「はい。」
 えーっとなになに?怪盗カンミ…?資料を開いて読む。
『…チョコから甘味を奪うのがこのDCOの異常性といえる。最初はこの現象自体がDCOであると考えられていたが、犯行声明によりこのDCOの存在が判明した。当DCOは2月14日にのみ活動する。甘味の奪い方や正体などは未だ分かっていない。以下は犯行声明の文と発見された国のリストである。…』
 こいつが。わたしのチョコから甘味を。せっかく梨山博士に渡そうと思っていたわたしの初めての本命チョコから甘味を。しかも、梨山博士はもう…葡萄原さんと付き合っているかもしれないというのに。わたしだけこんな惨めな。
 わたしは怒りのままに資料をデスクに叩きつけると立ち上がってドアへと歩く。その音にびっくりしてみんながわたしの方を見る。
 「お…おい桃田…?どうしたんだ?」
 目を丸くした梨山博士の問いかけを無視するとわたしはドアを開けて廊下に飛び出した。もうどうなったっていい。何もかも捨てていきたい。


 桃田ちゃんが出て行ったあと、一瞬シンとした。僕は柚木さんと目があった。柚木さんは心配そうな顔をして、
 「かっ柿本リーダー、わたしなんか失礼なことしちゃいましたかね…?」
 と聞いてきた。
 「いや、柚木さんは原因じゃないと思う…」
 十中八九梨山くんが原因だろう。桃田ちゃんが急に感情的になって飛び出すっていうのはこの前も見た。ていうか柿本リーダーて。まあ実際リーダーなんだけど。僕は席を立つと桃田ちゃんが叩きつけた資料を見た。ああ、やっぱこれか。怪盗カンミの資料を見てから急に飛び出した…んで今日はバレンタイン。完全に怪盗カンミの異常性でチョコから甘味を奪われたな。僕がそこまで考えたとき梨山くんが話しかけてきた。
 「あの…俺が探してきましょうか。俺がその資料渡した瞬間キレたから…俺が悪いですよね?」
「うーん、いや、梨山くんはいいや。僕たちで探してくるよ。仕事進めてて。」
「あっ、はい。」
 梨山くんが来ると桃田ちゃんは全てを話してはくれないだろう。ここは僕一人で行くべきだ。そう思って僕はドアへと向かう。ドアを開けたとき、
 「柿本リーダー!わたしも連れてってください!」
「えっ…でも…」
 柚木さんは桃田ちゃんが梨山くんのことを好きだっていうことは知らないだろう。なら連れて行くべきではないが…女子同士でわかることもあるのかもしれない。僕が渋っていると、柚木さんは小声で話しかけてきた。
 「大丈夫です。わたし、知ってますから。チョコも一緒に作りました。」
「…!」
 いつの間に!?僕が声を出さずに驚くと、柚木さんはニヤッと笑った。
 「ふふん、わたしを誰だと思ってるんです?DCO博士助手 柚木多英、ですよ!」
 カッコつけてそういうと、クーっと悶えながら足踏みをした。
 「これ言ってみたかったんですよねえ~!」
 …こんなことしてる場合か?


 僕は柚木さんと一緒にコツコツと金属音を鳴らしながら階段を登った。無骨な鉄の階段は屋上への道だ。
 「しかしリーダー、なんで屋上なんですか?」
 柚木さんは不思議そうに質問した。
 「前もこういうことがあってね。そのとき屋上にいたから今回もそうかなと思って。」
「ふーん…」
 そう話していると屋上に到着した。貯水槽の影から誰かが啜り泣いている声が聞こえた。僕は柚木さんと顔を見合わせると声の方へと歩いた。
 「桃田ちゃ~ん…?」
「桃田さん、いますか~…?」
 僕達は慎重に声をかける。桃田ちゃん(と思われる人の気配)ピタッと泣き声を止めた。少しして、桃田ちゃんがこちらにやってきた。
 「か、柿本先輩と多英ちゃん…ほんとにごめんなさい、急に飛び出してっちゃって…仕事に戻りましょう。」
 桃田ちゃんは笑顔で話しかけてきたが、いつもより引きつっていた。目元は赤くなっている。
 「桃田ちゃん…話したくないならいいんだけど、できるところまで話してくれないかな?」
 僕がそういうと桃田ちゃんは視線を下げ、顔を背けた。目元にじわじわと涙が溜まっていく。彼女はなにか話そうと思ったのか口を開けたが、息を吐くばかりで言葉は出てこない。唇を噛むと、今度は目を擦りながら口を開いた。
 「梨山博士に手作りのチョコあげようと…思ったのに…なんでか味がなくて…それで…お店で買ったん…ですけど…。部屋に行ったとき梨山博士と葡萄原さんが話してて…なんか距離がっ…近くって…わたしはもうなにやってもダメなんだなって、ほんとに。惨めになっちゃって。」
 ポツポツと話していた桃田ちゃんは、最後に自嘲気味に笑った。なるほど、だいたいは予想した通りだ。でも…
 「なんで葡萄原さんの名前が?」
「あっ、それはですね~…。」
 柚木さんがそう言ってから、なぜかキョロキョロとあたりを見回した。そして僕達以外誰もいないのに顔を近づけて小声で話してきた。
 「誰にも言わないでくださいね。実は紅葉ちゃんも梨山さんのことが好きなんですよ。」


えええええええええええええええっ!?そうだったの~!?!?!?!?!?!?
 「ふ~~ん、そ~なんだ。」
 僕は唐突な情報に心中ではめっちゃ動揺していた。動揺が伸ばし棒に出てしまっている。へえ~っそうなんだ~。あとでからかいに行こ!
 …いやいや、そうじゃなくて、今は桃田ちゃんの話だった。ふむ。チョコ。チョコか。
 「桃田ちゃん。もう一回チョコを作る気力と…愛はある?」
「えっ…ええ、あ、あります…」
 桃田ちゃんは一度驚いたようにこっちを見ると、顔を赤くしてまた俯いた。
 「じゃあこうしよう。あるものを使うのが一番だよ。」
 そう言って僕は二人に話し始めた。


 つっまんない!
 私は内心ぷりぷりしながら隣に座る爽先輩をこっそりと眺めた。やっぱりかっこいい。でも今は気に入らない。先輩は桃田さんが飛び出して行ってから明らかにソワソワしている。二人になってから何度か話しかけたがずっと「ああ…」とか「そうだな…」と塩対応だ。明らかに桃田さんのことに気を取られている。
 私が何度目かのため息をついた時、ドアがガチャリと開いた。瞬間、爽先輩が立ち上がった。
 「桃田…!」
 入ってきたのは桃田さんだった。目元が赤い。泣いたのだろうか。桃田さんは爽先輩を見ると少しぎこちなく笑った。
 「あ、梨山博士。ごめんなさい、心配かけちゃって…」
「いや、こちらこそごめん。」
「いいんですよ、大丈夫ですから。それより、仕事を進めましょう。」
「あ、ああ。」
 桃田さんの反応が予想と違ったのか、少し目を丸くする先輩。桃田さんの後ろから柿本先輩と多英も来た。
 「それじゃあ、仕事に戻ろうか。」
 柿本先輩は何気なくそういうと、自分のデスクに座った。…一体なにがあったんだ?ただ流石に桃田さんを慰めて帰ってきたわけでもないだろうし…私は考えたが、あまり思いつかなかったのでやめた。私は私のやるべきことをやるだけだ。


 終業のチャイムが鳴って少ししたあと。俺は屋上にいた。朝、葡萄原に誘われたからだ。バレンタインって言ってたしチョコでもくれるのか?そう思っていると、コツコツと階段から誰かがあがってきた。俺が階段の方を見たとき、ちょうど葡萄原が登り終わったときだった。葡萄原は俺に気づくと
きゅっと唇を閉じた。腕を体の後ろに隠すと俺に近づいてくる。その肩が震えている。緊張しているようだ。
 「葡萄原、話ってなんだ?」
「これ、渡そうと思って…」
 葡萄原は腕を前に出した。開いた手のひらにはカラフルにデコレーションに包まれた箱があった。
 「これは…」
「クッキーです。バレンタインなんで、先輩のために作りました…」
「おお!ありがとうな。」
 俺が受け取ろうと手を伸ばすと、葡萄原はバッと頭を下げた。え、なんで?俺なんか謝られるようなことしたか?
 「爽先輩、好きです!付き合ってください!」
 …
 …え。な、え?えっ…
 「…なんで?」
「私が授業飛び出したとき、あのときの先輩がかっこよくて…それで、今度から先輩と一緒に実験できるって聞いて、それが嬉しくて私、先輩が好きなんだって気づいて…んー、とにかく!先輩のことが好きなんです!へ、返事はあとでもいいので!」
 葡萄原は途中で恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にすると、俺に箱を押し付けるて走っていってしまった。
 葡萄原は俺が好き?そんな、急に言われても実感がわかない。俺は妙に重い気がする箱をぎゅっと両手で握ると、心の中で叫んだ。
 どうしたらいいんだ~~~!?!?

第九話 交錯・恋策

ターゲット→梨山爽

 「あれっ、梨山くん。早いね~」
 柿本先輩の驚きの声で、俺はパソコンの画面から目を離した。
 先輩を見ると目を丸くしながら部屋に入ってきていた。先輩はこの班室が与えられてから、それがよほど嬉しかったのか、それまでより40分は早く出勤している。もちろん毎回一番乗りだった。だから、俺が先にいたのが驚きなのだろう。
 さて、俺がそんなに早く班室に来たのには理由がある。昨日の夜、なかなか寝付くことができず、2時*7にようやく眠れたかと思ったらすぐに起きてしまった。家でじっとしているのもどうかと思い、せっかくなら有効活用しようということで、ここに来て「モンブラン・モンブラン」の探索記録を書いていたのだ。
 ではなぜ寝付けなかったのか?それは、明らかに昨日のことが影響している。なんで葡萄原は俺に告白してきたんだろう?いや、なんで葡萄原は俺が好きになったのか、という方が正しいか。
 それと同時に、睡眠欲を抑え込んで湧き出てくるもう一つの疑問があった。
 なんで俺は、すぐに断れなかったのだろう。断る理由ならあったはずなのだ。機関で恋愛などしている暇はない、博士助手というたくさんのことを覚えなければならない立場なら尚更。そんな生真面目で無愛想で…俺らしい答えが。でも、言えなかった。遠慮したのだろうか。葡萄原とはまだ長い付き合いではないから、きつい断り方は避けるために。じゃあ、他の人だったらそう断れただろうか。桃田の笑顔が浮かんで…かき消した。そしてかき消した自分に動揺した。俺は…俺は桃田のことをどう思っているんだろう。屋上で泣いている桃田に謝ったとき。モンブラン・モンブランで手を握ったとき。そのまま体を許されて枕にされたとき。Re Do³で明らかに避けられたとき。そして昨日、怪盗カンミの資料を叩きつけて出ていってしまったとき。俺はどう思った?なにを考えていた?思い出そうとするほど思考にモヤがかかって、心は軽く飛び跳ねる。そこでいつの間にか桃田について考えていたのに気づいてまた動揺する。
 頭をかきむしる。動揺するってことはそういうことだろう。なぜ遠回りしようとするんだ。しかし、脳みそはその結論を拒む。俺は…俺は…
 その時、がちゃりと扉が開いた。俺は縋るようにそちらを見た。入ってきたのは、桃田だった。桃田は俺を見るとニコッと微笑んで「おはようございます」と挨拶した。俺はああだかうんだか意味のない言葉を舌の上で転がして、
そういえばチョコもらってないな。
 この時期において一番大きい判断基準を思い出し、落ち込んで、落ち込んだことにみたび動揺する、意味のない循環に陥った。

ハンター→桃田朱里

 わたしは内心どっきどきしながら席に座った。うまく、いつも通りに笑うことができただろうか。こっそりと梨山博士の方を見ると、なんだか苦悶の表情。やはり昨日のことを気にかけているのだろうか。当たり前だ。わたしが八つ当たりしたまま謝っていないのだから。しかも、おそらくではあるが博士は博士自身がなにか悪いことをしてしまったと思っているだろう。最悪だ。とにかく謝らなければならない。今のままでは告白どころではない。
 息を深く吸う。ビビるな。わたしが悪いんだから。怯んでも意味がない。よし。机に手をついて無理矢理に立ち上がる。と、そのときドアが開いた。入ってきてしまったのは、葡萄原さんだった。
 彼女は一歩踏み入れるやいなや、梨山博士を見てニコッと笑った。博士はびっくりした様子で、なぜか彼女から目をそらした。わたしは、二人の言葉もない謎のやりとりに勢いを削がれてしまい、机に手をついたまま情けなく座り込んだ。

おまけ

DCO or treat

桃田「ハッピー・ハロウィ~ン!!!」
梨山「テンション高いなお前…」
桃田「そりゃあ高くもなるでしょうよ一年に一度の仮装祭りですよ!」
梨山「あのな、ハロウィンは元々古代ケルトのドルイドの信仰では、新年の始まりは冬の季節の始まりである11月1日のサウィン(サオィン[ˈsaʊ.ɪn]、またはサムハイン等、Samhain)祭であった[8]。ちょうど短い日(1年で最も昼間が短い日)が新しい年の始まりを示していたように…*8
桃田「Wikipediaのコピペじゃないですか、それにそんな堅苦しいこと言わないで、楽しめるもんは楽しんじゃいましょうよ!トリックオアトリート!トリックオアトリート!ほら博士もご一緒に!せーの…」
梨山「それってそんな合唱するものだったか…?」
桃田「いいじゃないですか、ほら早く言ってください。言わないとDCOを世に放ちますよ?」
梨山「シャレにならない脅し方するなよ」
桃田「人が集まる渋谷とかがいいかなあ…」
梨山「呪術◯戦かよ!ってなんの話してんだこれ…」
桃田「まあまあ、言ってみてくださいよ!一回でいいんで!」
梨山「はいはい…トリックオアトリート…」
桃田「はい、じゃあこれどーぞ!」
梨山「これ…チョコか?」
桃田「はい!博士、甘党でしょ?なんで甘いものを~と。」
梨山「あ、ありがとな…」
桃田「それじゃわたしはここで~…あ、食べといていいですよ。」
梨山「おう。」
ガチャ
梨山「じゃあいただくか。はむっ…ってにっが!?…あいつ、これビターチョコじゃねーか!ふざけんなよ~!」

Happy Halloween!

Merry DCO

桃田「メリ~クリスマ~ス!!!」
梨山「相変わらずだなお前…って、なんだそれ?」
桃田「なにって…トナカイの耳ですけど」
梨山「そうだけども、なんでそんなのつけてるんだよ?」
桃田「なんでって…クリスマスだからですけど」
梨山「そうだけども…」
桃田「文句ないですね?」
梨山「…」
桃田「ってことで博士、これ被ってください!」
梨山「これは、サンタ帽?なんで俺が…」
桃田「なんでって…クリスマスだからで」
梨山「それはもういいから!」
桃田「まあまあ、年に一度の聖夜ですよ?楽しめるもんは楽しんじゃいましょうよ。」
梨山「お前、前回もそんなこと言ってなかったか?テンプレ人間なのか?」
桃田「そんなことありませんよ。テンプレしてサボってるとでも?展開を前回に寄せてサボってるとでも?」
梨山「なんか乗り移ってないか?」
桃田「とにかく、早くかぶってください!今だけでいいんで!」
梨山「…しょうがねえなあ」
桃田「おお~、似合っ…てはないですけど、クリスマスって感じが出ていいですね。」
梨山「無理矢理被せたんだったらせめて似合ってるって言えよ」
桃田「だって似合ってないんですもん」
梨山「じゃあなんで被せた!」

柿本「あ、二人ともこんばんは。…なにしてるの?」
桃田「柿本先輩!メリークリスマス!」
柿本「メリークリスマス。そうか、今日クリスマスか。だから被り物してるんだね。」
桃田「そうです。」
柿本「桃田ちゃんはトナカイか。似合ってるね。梨山くんは…ん、なんか…嫌なのに無理矢理被せられたバイトみたいだね。」
梨山「…その通りですけど、もうちょっといい言い方なかったんですか?」
柿本「ごめんごめん。でも梨山くんサンタって口じゃなくない?ソリの助手席で的確な家周りの指示を出す感じのイメージだけど」
桃田「あ~、なんかわかります!柿本先輩はバリバリに運転が上手いサンタって感じがします!」
柿本「で、桃田ちゃんは突っ走るトナカイね?…って、そうだ。二人にプレゼントがあるんだった。」
桃田「え?プレゼント?なんですか?」
柿本「こっちこっち!ついてきて!」

~カフェテリアにて~

桃田「これって…ショートケーキ?」
梨山「いつのまに買ったんですか?」
柿本「友達に作ってもらった。すごいでしょ?」
梨山「へえ…そんなに器用な人がいるんですね。」
柿本「うん。なんか全博士分作ったらしい」
梨山「パティシエかなんかですかその人?」
柿本「いや別に…ただの司書だけど。」
桃田「そんなことより!早く食べましょうよ!というかもう食べちゃう!」
梨山「ちょ、そんなにがっつき過ぎるなよ…」
柿本「あはは、食いしんぼうだな!よし、僕も食べよ!」
桃田「おいしい~!クリスマス、最高!」

Marry Christmas!

???「…」
 暗い図書館の中にページをめくる音が響きわたる。スタンドライトで照らされたカウンターの中にいるのは、深緑色のエプロンを身につけた男。そのまま何枚かページをめくっていたが、あるページで手を止めた。男はニヤリと笑ってそのページに付箋を挟み、本を閉じた。そのままフォークに持ち替え、カウンターの上に置いてあったケーキを一口食べる。
???「…メリークリスマス。」

Marry Christmas?

煩悩の数だけDCO

桃田「梨山博士、こんばんは~。いや~、いい一年でしたね~。」
梨山「…お前、こたつなんてどっから持ち出してきた?」
桃田「第二物置に置いてありました。コードもちゃんとありましたよ。」
梨山「そう…じゃあその半纏は?」
桃田「第一物置に。意外とホコリかぶってなかったんですよ。運いいですね。」
梨山「じゃあその茶碗は?」
桃田「第二給湯室から借りてきました。急須と電気ケトルと茶葉とみかんも借りてきました。あと座布団は第四物置から。この手袋は第六物置から…」
梨山「物置多すぎだろ!一つの施設の中に物置がそんなにあることあるか?あと給湯室から物持ってきすぎだ!そんなにとってきたらなんも残んないだろ!あと手袋つけたままみかんは食べれないだろ!皮が鬼門すぎるぞそれ!」
桃田「そんなに怒涛のツッコミしないでくださいよ~。今日は大晦日ですよ?」
梨山「そうだけど…流石に今日くらいは来なくて良かったんじゃないか?大晦日に仕事っていうのも酷だろ。」
桃田「大丈夫ですよ、別に仕事してませんから。」
梨山「じゃあなんで来たんだよ?」
桃田「なんでって…いや…それはまあ…うーん…まあいいじゃあありませんか、わたしのことは!梨山博士こそ、こんな日に仕事ですか?」
梨山「ああ、最後にちょっとやり残したことがあったからな。もう終わったんだけど。」
桃田「じゃあちょっとお茶して行きませんか?どうせ家帰っても某国民的年またぎ音楽番組を見るくらいしかすることないでしょう。」
梨山「ん、まあそうだが。まあみかん一つくらいは食べてもいいかな。」
桃田「どうぞどうぞ~。お茶も飲みます?」
梨山「ああ。…ん?」
ゴーン…ゴーン…
梨山「なんだこの音?」
桃田「除夜の鐘ですね。多分イジアク博士鳴らしてるんでしょう」
梨山「そんな使い方する鐘じゃないだろあれ…」
桃田「まあ趣が出るからいいじゃないですか。まさに大晦日って感じで。」
梨山「そうか?ん~、そうかもな。」
桃田「はい、お茶どーぞ…って!雪ですよ雪!」
梨山「ちょ、あっぶない!ちゃんと置いてから見に行けよ!」
桃田「あっ、すいません。いや、わたし雪あんま見たことなくて…ついテンションあがっちゃいました。」
梨山「いやいいんだ、実は俺もあんまり見たことない。…おーすごいな、これ粉雪か?」
桃田「そうですね。積もるといいな~」
梨山「積もったら雪かきしないとだぞ」
桃田「え~めんどくさい。雪溶かすDCOいないんですか?」
梨山「そんな小さいことでDCO使っちゃダメだろ…」
ゴーン…ゴーン…






良いお年を…

福は内!DCOは外!

桃田「博士博士、今日なんの日かわかります?」
梨山「今日…?なんの日だっけ?」
桃田「マジですか?今日は節分ですよ節分!」
梨山「ああ、そうか…そういえばそうだな。」
桃田「ということで!豆まきしませんか?」
梨山「しません。」
桃田「え~なんでですか?ここ(DCO機関)は何かと悪いものが溜まりがちだと思うんですよ!なんでこう、豆まきで悪霊退散を…」
梨山「そんなことしてる暇ないだろ…と思ったけど割と暇だな。」
桃田「ですよね!やりましょうやりましょう!」
梨山「でも豆なんかあるのか?」
桃田「そりゃありますよ!ほら」
梨山「落花生?大豆じゃないのか?」
桃田「え?普通落花生じゃないです?」
梨山「俺の家では大豆だったけど…ふーん、落花生のところもあるんだな。」
桃田「ええ。わたしの家ではずっと落花生でした。ほんじゃあ、始めましょうか。まず博士が鬼役やってください。はいこれ。」
梨山「鬼のお面…?」
桃田「はい。これをかぶって逃げ回ってください。」
梨山「…?え、逃げ回るって、施設内を…?」
桃田「そうですよ。豆まきって鬼を追い出すためにするものじゃないですか。全体でやらないと他の部屋に移動しちゃうだけだと思うんですよね。なんで博士、施設内を逃げ回ってください。」
梨山「お前は鬼か!そんなことした次の日、俺はどんな顔をして出勤すればいいんだよ!」
桃田「ん~、じゃあこの部屋だけでいいか…」
梨山「意志が弱いな!さっきの鬼の移動の話はどこいったんだよ!」
桃田「なら全体でやります?」
梨山「いえ、ぜひこの部屋だけでお願いします。」
桃田「うんうん、じゃあ早く始めましょう。ほら、被ってください」
梨山「はいはい…よいしょっと。これでいいか?」
桃田「ふふ…OKです…ふふふっ…」
梨山「おい笑うな」
桃田「始めますね!ほいっ!鬼は~そと!福は~うち!鬼は~そと!」
梨山「いて…なんか強くないか…?」
桃田「福は~うち!鬼は~そと!」
梨山「ちょちょちょ強い強い!」
桃田「ちょっと、避けないでくださいよ!鬼が避けたら豆まきの意味がないじゃないですか!」
梨山「いやいやでも痛いんだよ!絶対日頃の恨みを晴らそうとしてるだろ!」
桃田「へ~恨まれてるって思ってるんですか。へ~ふ~ん」
梨山「な、なんだよ…」
桃田「別に。続けますよーおりゃ!鬼は~そと!鬼は~そと!」
梨山「いててて!手加減しろって!」
桃田「鬼を追い出すためですからね!全力でやらないと!鬼は~そと!福は~うち!」
……

よい節分を!

他愛もない会話 0211


……
桃田「そういえば博士っていつもコーヒーにミルクとか砂糖とかドバドバ入れますけど、あんなに入れて甘すぎないんですか?」
梨山「俺はあんくらいが好きなんだ。苦いもんは好きじゃなくてな。」
桃田「ふーん…甘党なんですね。」
梨山「そうだな。」
桃田「じゃあチョコとかもホワイトが好きなんですか?」
梨山「うん。」
桃田「へーそうなんだ。めっちゃビターな顔してますけどね」
梨山「どういう意味だよそれ」
桃田「なんか雰囲気的にビター好きそうかなって。」
梨山「俺ってそんな感じなのか…」
桃田「そ、そんなへこむほどのことでも…ギャップって誰にでもありますし、ホワイトが好きならそれでいいと思いますけどね。」
梨山「そうか。…あ、逆に桃田は何味が好きなんだ?」
桃田「え?わたしですか。わたしはビターが好きですかね」
梨山「それも大概意外だな!…いや、そうでもないのか?よくブラックコーヒー飲んでるもんな。」
桃田「そうですね。わたし苦いの結構好きなんですよね。舌にあってるんでしょうね。」
梨山「そういうもんか。慣れてるってことなのか?」
桃田「多分そうだと思います。」
梨山「なるほどな。俺も今度からブラックコーヒー飲んでみようかなあ…」
桃田「ブラックはちょっと急すぎませんか?まずはミルクと砂糖を減らすところから…」
……

桃田朱里の推理 プリン盗難事件

 「あれっ、わたしのプリンは?」
 室内に多英ちゃんの声が響き渡る。多英ちゃんの方を見ると、スプーンを持ったままキョロキョロして机の上を見ていた。
 「え、なくなったの?」
「はい。食べようと思って置いておいたんですが…どこいったんだろ…」
 プリンがなくなるなんてことあるか?鉛筆とか消しゴムじゃあるまいし。と思いつつ、わたしは顎に手を当てた。
 「ふむ、多英くん、論理的に考えてみようじゃないか。」
「…え?急にどうしたんですか桃田さん?そんなキャラでしたっけ?」
「まず、最後にプリンを見たのはいつ?」
「えっと…さっき桃田さんと一緒に図書室に資料取りに行く前ですかね。」
「つまり20分くらい前と。その間にプリンが盗まれたということになる。」
 わたしは顎に当てていた手を上にあげた。
 「犯人は…あなただ!」
 わたしは人差し指を立て、ビシッと…梨山博士に指した。急に指された博士はびっくりして目を見開いた。
 「えっ…なんで俺なんだよ!?」
「簡単な推理です。梨山博士、あなたは甘党だ。普段からコーヒーに砂糖とかミルクを入れまくってることからもわかります。あなたは無性にプリンが食べたくなった。甘党にはそのような発作があると聞きます。そこでちょうど多英ちゃんの机の上にあったプリンを盗んだ。違いますか?」
「先輩、サイテー!」
「いくら甘党でもそんなことはしないしそんな発作はねーよ!あと柚木は影響されやすすぎだ!」
 博士が抗議する。うーん、さすがに違ったか。わたしは胸の前で手を合わせてごめんなさいのポーズ。
 「ごめんワトスンくん、初歩的なミスだった。」
「絶対図書室でシャーロック・ホームズ読んできただろ!あとワト"ソ"ンな!」
「表記揺れはどうでもいいですから…結局、誰がわたしのプリンを食べたんです?もしかして紅葉ちゃん?」
 多英ちゃんは葡萄原さんに聞く。彼女は眉をひそめて口を開いた。
 「私がそんなことするわけないでしょ。」
「そうか…っていうか、こんなかで一番そんなことしそうなのって…」
 多英ちゃんはそこまで言うと、わたしの方を見た。…ん?
 「えっわたし?わたしそんなことしないよ~。」
「そうですかね。桃田さんって食い意地がはってるからワンチャン無意識のうちに口に放り込んでた、とかないですか?」
「失礼な!そんなことしないよ!」
 あとたとえ食べたとしても放り込みはしないでしょ…プリンほど放り込みにくい食べ物はないよ。
 多英ちゃんはうーんと腕を組むとはっとなにかに気づいたかのように顔を上げた。
 「そういえば、柿本リーダーはどこに行ったんです?」
 わたしは柿本先輩の席を見る。たしかにいない。なんで気がつかなかったんだろう。
 「ああ、柿本先輩ならさっき浜坂博士と会議室に行ったぞ。なんでも心待ち男で復活した人間がいたようでな…それについての調査のための会議なんだってさ。」
「ふうん…じゃあ、今会議室に行けばいるってことですね?」
「そうだが…お前らなんのために資料取りに行ったんだよ。記録書くた」
「ここにいる人に犯人がいないなら柿本先輩が犯人に違いない!いくぞ多英ちゃん!」
「おい?おいちょっと」
「オー!!」
 わたしは梨山博士の言葉を遮ってゴリ押しで外に飛び出した。だって記録書きたくないんだもん!




 会議室につくと、でっかい机の端のほうの椅子に柿本先輩が座っていた。先輩はわたし達に気づくと目を丸くして立ち上がった。
 「あれ、なんでふたりとも来たの?」
「リーダー!わたしのプリン盗んだでしょう!」
「え、プ、プリン…?なんのこと?」
 ありゃ、と頭に手を当てこちらに振り向く多英ちゃん。
 「たぶん違いますねこれ。じゃあ誰が盗んだんだ?」
「まだ容疑者がひとりいるよ、多英ちゃん…」
 わたしはそういうと探偵がよく被っている渋い色の帽子を取り出すと被った。
 「桃田さん、どっから見つけたんですかそんなの…」
「第二物置にあったから来る途中に持ってきた。それはそうと、柿本班の誰もプリンを盗んでないという証言だった。でも、今日班室に入った人は班員以外にも一人いましたよね?そう、つまり犯人は!」
 人差し指を上げる。
「ああ、浜坂博士ですか?」
 わたしが上げた人差し指は多英ちゃんに答えを言われたことで行き場をなくしてしまった。ズルズルと左手を下げ、わたしはやる気のない声を出した。
 「んー…ってことなんで…浜坂博士は…どこ行きましたか…?」
「ごめんなさい、答え盗んじゃって…」
「浜坂さんならさっき湊くんと一緒にどっかいったよ。なんか話したいことがあるとかで…」
「湊さん…?」
 たしか雑食人種の担当博士だったはず。なんで湊さんが浜坂博士に?
 「ちなみに、どっちの方行きました?」
「あっちの方。たぶん第二給湯室かな。」
「わかりました。ありがとうございます!」
 そういうとわたしは駆け出した。これはなにか、事件の匂いがする。




 「桃田さん…」
「しっ!静かに…」
 わたしは多英ちゃんに人差し指を着きたて、給湯室の扉を少し開けた。たぶんここにいるはず…
 と、中から話し声が聞こえてきた。
 「なんのことだ…何も知らない…」
「とぼけないでくださいよ…30分前にも電話してるじゃないですか…」
「いやだからそれはだね…」
 わたしが聞き耳を立てていると、後ろから多英ちゃんが引っ張ってきた。
 「どうです?プリンの話してますか?」
「いや、それよりもなんか深刻そうな…」
 そのとき、浜坂博士と思われる声が大声をあげた。
 「何!それは本当か?」
「浜坂さん、声が大きいですよ…」
「す、すまない…しかし……嘘じゃないだろうな?」
「ええ…わざわざ嘘はつきません…だから、博士も言ってくださいよ…正直に…」
「わ、わかった…私は…イルネシア共和国に情報提供をしている…」
「…!」
 わたしは息を飲んだ。えっ…まじで…?スパイってこと?
 「やっぱりそうですか…まあ、そうでしょうね。」
 ん?声が近づいてきてる。これは…まずい!
 わたしは、はしっと多英ちゃんと腕を掴むと班室へと駆け出した。
 「えっちょっと桃田さん!?」
「出てくる!バレるとまずい!」
「えなんで!?プリン盗んだか追求しないんですか?」
「いいから!プリンはわたしが買ってあげるから!」
 そういった瞬間、しぶしぶひっぱられていた多英ちゃんは急に加速した。わたしの横につくと、
 「『しののめ』の濃厚プリンでお願いしますね!」
 …この子図々しいな!

Case Closed?

エイプリルフール企画 桃田朱里の決闘

第一話

 ふ~っ、疲れたなあ…。今日はこのへんで宿でも探すか。
 わたしはそう考えて周りをキョロキョロと見回した。すると、くすんだ色の空の下、金の穂揺れる水田で一人草刈りに勤しむ老人がいた。
 「あの、すみません!」
 わたしが大声で叫ぶと、その老人はなにごとかとわたしの方を向く。
 「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど!このへんって宿屋、ありますか?」
「ああ、それなら、そっから真っすぐ行ったところに『やどやくりい』ってのがあるよ!」
「ありがとうございます!」
「おう、頑張れよ!」
 最敬礼をすると、彼は笑顔で手を振ってくれた。わたしはもう一度礼をして歩き出した。
 わたしは今、「伝説のDCO」を探すために旅をしている。この世界ではDCOを従属させてDCOバトルをするDCOバトラーという
人たちがいるのだが、わたしもその一人だ。ちなみにDCOを従属させる方法はそのDCOの異常性を突き止めて記録書に書くこと。わたしは記録を書くのが苦手だからまだそう多くのDCOを掴まえられていない。すごい人になると30以上従属させているそうだ。わたしにはとうてい無理。
 ふう、そろそろ着くかな?そう思って顔を上げると、目の前に誰かが立ちふさがっていた。どうやら女性のようだ。彼女はわたしを見てにやりと口角をあげると、私に向かって人差し指を突き出してきた。
 「あなた、桃田 朱里ですよね?」
「えっ、ええ…そうですが…」
 誰だ?あったことない人だと思うんだけど。なんでわたしの名前を知ってるんだ?
 「ふっふっふ…ここであったが百年目!バトルの戦績上げるため!わたくし柚木 多英からの!ひとつ戦いし願い~た~もう~!」
 そう言って見得を切る柚木さん。…なんだこの人?
 「えーっと。つまりDCOバトルがしたいってことですか?」
「ええ、まあ簡潔に言うとそうなりますね。」
 スンと真顔に戻って答える柚木さん。なんだこの人?
 DCOバトルとは、それぞれの持ちDCOを一体ずつ戦わせ、先に三体ダウンさせたほうが勝ちというもの。これに勝つと、バトラー協会という存在意義がよくわからない組織から賞金が貰える。その資金がどっから出てるのかは不明だ。
 「それじゃあ、もう始める?いつでもいいよ。」
「ああ、戦うのはわたしじゃないですよ?わたし、ろくに記録書いてないんで。」
「え?じゃあ誰が…」
「それでは、登場していただきましょうか。どうぞ~」
 彼女がそう言って手を広げる。すると、横の路地から一人の男の人が出てきた。
 「こんにちは。梨山 爽だ。よろしく」
「梨山さんはわたしのマブダチなんですよ~!」
「金で雇われただけだ…」
 梨山さんはつばを吐き捨てる。なんか怖そうな人…
 「んじゃ、はじめますよ~?よ~い、スタート!」
 いつの間にかレフェリー的な立ち位置にいる柚木さんを横目にわたしは記録書を取り出す。先鋒は、
 「いけっ!雑食人種!」
 わたしが個体名を叫ぶと、記録書から中肉中背の男性が飛び出てくる。
 雑食人種は目の前にあるものを何でも食べてしまうDCOだ。普通に強い。
 梨山さんはスッと記録書をかざすと、静かにつぶやいた。
 「てんこ盛り。」
 すると、あちらも中肉中背の男が出てきた。うーん、顔に特徴がないな…まあいいか。
 「いけ、雑食人種!食べていいぞ!」
「お腹すいた…」
 雑食人種は一目散にてんこ盛りへと駆けていくと、大きく口を開いた。
 「いただきま~す!」
「避けろ。」
 雑食人種がてんこ盛りを飲み込みかけたとき、梨山博士がそうつぶやいた。するとてんこ盛りは自分の胸に手を当てたと思うと…消えた。
 え…?どこいった?あたりを見回して探すと…100mくらい先にてんこ盛りが佇んでいた。ど、どうやって?
 わたしがポカンとしていると、梨山博士がふっふっふ、と笑いだした。
 「てんこ盛りの異常性は『触れた相手の一番気にしていることをてんこ盛りにすること』。攻撃を避けるぞと思って自分に触れれば、めっちゃ攻撃を避けることができる。」
「なっ、なんだってー!?」
「さて、終わりにしようか。てんこ盛り、『殺せ』。」
 すると、てんこ盛りは雑食人種を睨みつけて胸に手を当てた。まずい!
 「ざ、雑食人種、避け_」
 そう指示しようとしたときにはもう遅かった。てんこ盛りはものすごい勢いで雑食人種に突進して、雑食人種は吹き飛ばされた。てんこ盛りはそれでは飽き足らず、雑食人種のもとへと飛んでいくと、執拗に腹を殴った。
 「も…もうダウンしているでしょう!必要以上の攻撃はマナー違反ですよ!」
「マナーだろ。バトラー協会から禁止されていないならやったもん勝ちだ。」
「いい心がけですねえ」
 二人はニヤニヤしている。てんこ盛りは満足したのか、梨山の隣へと戻ってきた。手は血でまみれている。雑食人種を見ると、腹から大量出血をしていた。
 「さ、次はなんだ?なにが来ても殺してやるがな…」
「…許せない」
「あ?」
「あなた達は…バトラーの風上にも置けない。ただのクズだ。」
「何…?」
 わたしは勢いよく記録書をかざす。
 「…鬼。」

To Be Continued?

*1 全然だめ
*2 改善点あり
*3 まあまあ面白い
*4 めちゃくちゃおもろい
*5 誰に向けて?
*6 仮配属の職員で人員が増えたので設置された。柿本先輩がリーダー。
*7 もう今日では?
*8 引用元→https://ja.wikipedia.org/wiki/ハロウィン