秋祭り(小説作品・中編完結)
チィチィチィ!! まだ夜が明けてすぐ、5匹のベビしぃちゃんたちは目を覚ましました。 普段はお日様が入射角45度を過ぎるまで夢の世界で遊んでいるベビちゃんたちも、今日だけは早起き。 だって今日は待ちに待った秋祭り! まだ寝ているママを尻目に、いつつごベビちゃんはチィチィチィチィおしゃべりします。 ママに聞いた秋祭りは、とっても楽しそう。 おいしいご飯をたくさん食べて、みんなで歌って踊って、たくさん遊んでもらって……って! 今年の夏に生まれたベビちゃんたちは、まだ見たことのない秋祭りがどんなものなのかとてもとても楽しみでした。
作者
秋祭り①
???: なモら ◆fTv8Bt89cM :2021/11/12(金) 16:41:33 ID:??? 【秋祭り】① チィチィチィ!! まだ夜が明けてすぐ、5匹のベビしぃちゃんたちは目を覚ましました。 普段はお日様が入射角45度を過ぎるまで夢の世界で遊んでいるベビちゃんたちも、今日だけは早起き。 だって今日は待ちに待った秋祭り! まだ寝ているママを尻目に、いつつごベビちゃんはチィチィチィチィおしゃべりします。 ママに聞いた秋祭りは、とっても楽しそう。 おいしいご飯をたくさん食べて、みんなで歌って踊って、たくさん遊んでもらって……って! 今年の夏に生まれたベビちゃんたちは、まだ見たことのない秋祭りがどんなものなのかとてもとても楽しみでした。 おいしいご飯って、なにかな? どんなお歌を、うたうのかな? お祭りってたのしいんだろうなあ! そんなふうにおしゃべりしていると、薄暗い段ボールのおうちが隙間灯でだんだん明るくなってきます。 ママも目を覚まし、すぐ朝のダッコのお時間。 ナッコ!ナッコ!ママ ナッコ! はいはい。順番だよ。 1匹ずつダッコしてもらい、そのあとはみんなでママのミルクを飲みます。 ちゅうちゅうちゅうちゅう。 最近歯が生えてきて、ミルク以外のものも食べられるようになったベビちゃんたちですが、ママのミルクはやっぱり大好き。 いっぴきいっぴき、満腹になると口を離し、ケプーとかわいらしいゲップをするまでママに撫でてもらいました。 しばらく食休みのまどろみの中にいたベビちゃんたちは、ママが毛布の下から取り出したものを見てびっくりしました! 水色だったりピンクだったり、かわいらしい色で、小さな持ち手は一目でベビちゃん用だとわかるそれはおかばんだったのです。 ママはベビちゃんいっぴきいっぴきにそれぞれそのおかばんを手渡していきました。 生まれて初めて自分のもちものを貰ったベビちゃんたちは、もういてもたってもいられないくらい嬉しい! ママありがと!だいちゅきー!! ふふふ、よく似合ってるわベビちゃんたち。 おかばんを開けてみると、中には小さなパンが入っていました。 歩いていく途中でお腹が空いて泣いてしまわないように、ママが気を遣って今日のために用意した特製品です。 お腹が空いたらそれを食べるのよ。でも食べ過ぎたら、お祭りのごはんが食べられなくなるから気をつけてね。 ハァーイ! 貰いたてのおかばんを提げて、おうちの段ボールにママが開けてくれたベビちゃん用の出入り口からひょこひょこ、ひょこひょこ、もひとつひょっこり。 抜けるような秋晴れに旅立って行きました。 おうちのある公園から公民館までは、ベビちゃんたちだけで歩きます。 車通りのない一本道で、大人なら歩いて10分とかからない道ですが、ベビちゃんたちなら話は別。 よちよち、よちよち。 あっちに石ころ、いっぱいあるよ! こっちにお花が咲いてるよ! 5匹で塊になって、あっちへいったりこっちへいったり。 いく先々でいろいろを見つけてはおかばんに入れていきます。 ママにおみやげ持ってきてねと言われましたからね。 (まあそれを見せることは、お察しの通りもう決してないわけですが。) 形のきれいな石だね、ママに見せてあげよう。 きれいなお花だ!ママ、よろこぶかなあ? それにとってもいい天気! 暑い夏を過ぎて、過ごしやすい秋。 すこし暖かくて、すこし涼しい気候に、早起きしたベビちゃんたちはうとうと、うとうと。 空き地という名の原っぱで5匹、塊になっておひるねをしました。 寝言をウニャウニャ言いながら眠るベビちゃんたちの中、目を覚ました1匹が (一応、長女でシィカという名前が付けられていましたが覚える必要はありません。どうせすぐ死ぬので) ポカポカ陽気のなかお腹をキュルルーと鳴らしました。 お腹すいたから、ごはんたべちゃおうっと。 夢うつつの姉妹の中、ひとりおかばんの中にあるママお手製のパン (と言ってもただ母親が、拾ったゴミの中からまだ食べられそうなパンを見繕ってちぎりひとかたまりにして、それをペタペタこね直しただけのものです) をひとかじり。 最近ようやくママのミルク以外のものでも口にできるようになったので、パンのひとかじりでも自慢げです。 もぐもぐ、もぐもぐ。 歯はまだ生えたてで柔らかいですから、ママになんでもよく噛んで食べるようにいつも言い聞かされています。 よく噛んで食べると、ひとかじりでもなんだかお腹がいっぱいになったような気がします。 彼女はかじったパンを再びおかばんに戻すと、風になびく雑草を見ながら姉妹が起きるのを待ちました。 いつつごベビちゃんたちが目を覚ましたのは1時間ほど経ってからでした。 おうちを出発してから約90分。 公民館への道はまだ半分も来ていません。 お日様はすっかり高く登りました。 5匹はまたよちよち、よちよち歩き始めます。 あついねえ、あついね。 季節は秋ですが空は真っ青な快晴で、このカンカン照りでは、地面近くを歩くベビちゃんたちにとっては夏と同じです。 少し歩いては休憩、少し歩いては休憩。 小さな日陰を見つけては、みんなで入って涼みます。 でも、まだ見たことのない秋祭りを見てみたい一心でベビちゃんたちは頑張りました。 結局公民館に着いたのは、おうちを出てから3時間も経ってからでした。 楽しげなお祭り囃子が耳に入り、焼かれている焼きそばの香ばしい香りに鼻に入ると、ベビちゃんたちは疲れたのも忘れて走りました。 お祭りはとっても楽しそうでした。 ベビちゃんたちは、屋台からするまだ嗅いだことのないおいしい料理の匂いをいっぱいに嗅ぎ付けました。 それに初めて聞くお祭りの音色! そして、楽しそうに近所のお兄さんお姉さん達が遊んでいます。 5匹の中の1匹(さっきのシィカちゃんです。覚える必要ありましたね)が、チィたちとあそんでー!と声をかけました。 しかし今のベビちゃんの言葉がわかるのはママと姉妹だけ。 ベビちゃんがAAの言葉を覚えるのはもっと育ってからです。 今のベビちゃんたちが話せるのはチィチィかハナーン、せいぜいナッコくらいなものです。 遊んでいた子供たちはみんな不思議な顔をして、聞きづらい半角でチィチィー!!などと鳴くベビちゃんたちを見てきます。 (そりゃそうです。薄汚い野良ベビに話しかけられるなんて思ってもいませんからね。) お囃子の流れる中、不意に天使が通ったように静まり返る空間に、ベビちゃんたちのチィチィ言う声だけが響きます。 「おお、やっと来たか。」 「チ?」 ベビちゃんたちに近づいてきたのは、お兄さんお姉さんではなく、大きな大人の人でした。 片手にダンボールを持ったその人は、先頭のシィカちゃん(あと何度この名前が出てくるんですか?)の頭を鷲掴みにするとダンボールの中に投げ込んだのです! いたあーい! ダンボールに頭をこつんとぶつけ声を上げるお姉ちゃんに(なんだよ、長女要素も出てくるんじゃないか)、妹たちはびっくり。 怖くて足がすくんで動けなくて、はたして全員箱の中に入れられてしまいました。 箱はギシギシと蓋を閉められ、少しの間運ばれたあと、ストンとどこかに置かれました。 ベビちゃんたちは訳が分からなくて、蓋が閉まって薄暗い中お互いに顔を見合わせていました。 末っ子のベビちゃん(シィコという名前です。ひょっとしてこれも覚える必要ある?)は、ウニャーン、チィ、こわいよーうと泣き出しました。 お姉ちゃんたちは代わる代わるシィコちゃんを撫でてあげます。 この箱はおうちの箱と違って、毛布も敷かれてなければ、ママの匂いもせず、ベビちゃんでも出入りのできるための穴も空いていません。 床も壁もとにかく固くて、なんとか外に出ようと爪を立てて引っ掻いても、かりかり、かりかり音が鳴るだけでまったく太刀打ちできません。 さっきまでとっても楽しかったのに、今の5匹はとっても悲しい。 壁も床も壊せないことがわかると、ベビちゃんたちは仕方なく、硬い床にコロンと寝転びました。 お昼寝をして、ママが探しにきてくれるのを待つことにしたのです。 ママー、早く来て。 誰ともなくそう言ってベビちゃんたちは、それぞれクルンと小さくなってお休みをしました。 しかし、ベビちゃんたちがいつも寝ているのは、ママが手入れしてくれているふかふか毛布の上です。 しかもおうちのダンボールは柔らかいボール紙でできているので、毛布の下がマットレスのようになっていてとても気持ちよくおねむできるのですが、 硬いダンボールの上で毛布もなく、更にママの子守唄もないとなれば、落ち着きが悪くてちっとも眠くなりません。 結局眠るに眠れずベビちゃんたちは、こっちなら、開くかなあ、あっちは、どうかなあ、とそこここと移動しては、かりかり引っ掻いたりとんとん叩いたりして時間を過ごしました。 - ツヅク -
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???: なモら ◆fTv8Bt89cM :2021/11/12(金) 16:43:56 ID:??? 【秋祭り】② モララーは、公民館の裏手で一人後悔に落ち込んでいた。 大学生にはバイト代が出るから、などと言われただけで、ふたつ返事に秋祭りの準備会を手伝うなどと言わなければよかった。 そばには、「マタ板名物マターリ大根」と書かれた大きめで丈夫なダンボールが置いてある。 蓋は閉じられているが密閉はされていない。 中からはチィチィチィチィとベビしぃの鳴き声と、カリカリと中を引っ掻く音が聞こえて来る。 これは今日の夜、秋祭りの締めで行う打ち上げのバーベキューで丸焼きにするための材料だった。 近所の公園に住みつく野良のしぃ一家から、モララーの父親が首尾良く連れてきたものだ。 そしてモララーはその下ごしらえをするため父親に雇われたのだ。 「全くオサーン連中は何でこんなもん食いたがるんだか……。」 モララーはベビしぃの丸焼きが苦手だった。 そもそも内臓系の肉自体が苦手で、焼肉屋でももっぱらカルビかロースしか食べない。 ホルモンのあのよくわからない食感、噛んでいるんだかいないんだかわからない食感が、 脂っこいんだか脂っこくないんだかわからない食感がモララーにはおいしく感じられなかった。 「しょうがない、バイト代のためだからな!」 モララーは公民館勝手口の石段に下ろしていた重い腰を上げ、ダンボールの蓋を開けた。 ムワッと野良しぃの臭いがする。 中ではベビしぃが5匹、急に明るくなったからか目をしばたたかせながらモララーを見ていた。 「チィチィ…」 「ウニャーン アニャーン」 原種のベビしぃが5匹である。モララーはホッとした。 フサベビがいたら毛を毟る作業をしなければならなかった。 喋らないところを見ると、生後1ヶ月かそこらだな。 モララーは高校の生物の授業を思い出した。 ベビしぃが鳴き声の他に言葉を喋り出すのは生後2ヶ月頃からと習ったことがある。 「ん?」 ベビしぃがそこここと動き回る箱の隅に、布のようなものがいくつかあることに気がついた。 「なんだこりゃ?」 モララーがつまみ上げてみると、その布は袋のようになっており、中に何かが入っている。 「チィチィィ!!」 「アニャーン!! ウニャーン!!」 「うわ、なんだ!?」 袋を持ち上げるモララーの手に、ベビしぃたちがまとわりついてくる。 モララーは左手でベビしぃを払い除けながら袋を取り出した。 袋は大きめのお守りのような見た目だった。材質はフェルトで、短い紐がちょうど鞄のバンドのようにつけてあり、口のところはボタンで閉められるようになっている。 モララーは早速開けてみようと思ったが、ふとある事が頭を過った。 「もしかしてフンが入ってるとかじゃ……ないよな。こいつら確かフンとか食うんだよな?糞虫って言うぐらいだし……。」 よくみるとフェルトも土だか泥だかで薄汚れている。 モララーは一瞬やめようかどうか思いとどまったが、しかし中身が気になって、勝手口から台所に入り、ゴム手袋を持って戻ってきた。 ゴム手袋はモララーの手には少し大きかったが、一応フンを掴んでも完全防備である。 再び石段にあぐらをかき、中を開けてみると拍子抜けで、出てきたのは何の変哲もない石ころや雑草の切れっ端、それに食パンをちぎって捏ねたような塊だけだった。 石が丸石だったり角ばっていたり、雑草がなにかの花びらだったりしたものの、大同小異どの袋からも同じようなものが出てくる。 食パンのまとまりはかじった跡があるものもあった。 「何なんだこりゃ?よく分かんないな……。」 モララーは用意してあった20リットルの黒いゴミ袋に、石だけはその辺に投げてだが、5つとも突っ込んだ。 空を見上げて、モララーはタバコに火をつけた。 近所の子供たちが、秋祭りに際して公民館の前庭で遊んでいる声が微かに聴こえてくる。 前庭には、ブランコと滑り台という公園と呼ぶに最低限の遊具しかなかったが、子供たちはそれでもかなり盛り上がっているようだ。 「なんか雰囲気があるなあ。面倒と思ったけど、たまにはこういうのもいいかもな。」 今日はお祭りにはもってこいの秋晴れで、抜けるような青空と、秋の過ごしやすい気温が気持ち良かった。 タバコの煙を吐くと、1匹のベビしぃが箱から抜け出そうと縁から身を乗り出しているのが目に入った。 「チ チィィィ!!」 「あっ!逃げんな逃げんな!」 ベビしぃに逃げ出されると、ノン気な飼いしぃならともかく野良を屋外で捕まえるのはかなり困難だ。 もし逃げられれば父親から、怒られるまではいかないだろうが小言を言われるのは必至である。 タバコを口に咥え、手でベビしぃの頭を押し戻す。 「チィーー!!」 ベビしぃは泣き声をあげながらポテンと箱の中に戻された。 ダンボールは重い野菜を入れる用の大きくて硬いもので、ある程度の高さがあるので蓋を開けておいても大丈夫と思っていたがそうでもないらしい。 「さっさとやっちまうか……。」 モララーは石段でタバコを揉み消して、吸殻に火種が無くなったのを確認してからゴミ袋に入れ、ベビしぃの下ごしらえを済ますことにした。 食用として売られている養殖のベビしぃにはいらないのだが、野良で捕まえてきたベビしぃには下ごしらえをする必要がある。 当然の話だがつまり、洗わないと食べられないのである。 モララーはプラスチックのタライにホースで水を溜めながら、「ベビしぃ洗浄剤」のパッケージを開け、 ベビしぃの体毛などの「外側」をきれいにするための粉洗剤をタライに入れた。 粉洗剤が溶けて洗浄液になるまではしばらくかかる。 その間にベビしぃの「内側」をきれいにしなくてはならない。内側とはもちろん内臓のことだ。 しかしベビしぃの肉は死ぬとすぐ腐るし、そもそも今日は丸焼きにしなくてはならないから腹を開いて直接洗うわけにもいかない。 そこで浣腸剤と嘔吐剤を使って生きたまま腹の中を空にする必要がある。 この地元の祭りにベビしぃを供する際、誰かが必ずやる作業で、モララーも子供の頃から何度も見たし手伝ってもいた。 性質上便と吐瀉物から逃れられない汚い仕事だが、モララーはこの作業が嫌いではなかった。 モララーは料理が好きだったし、元来几帳面で効率よく仕事をするのが好きだったからだ。 「~♪」 モララーは鼻歌を歌いながら「ベビしぃ洗浄剤」のパッケージからスポイトを取り出すと、適量の浣腸剤を吸い込む。 ダンボールからベビしぃを1匹取り出し蓋を閉めると、必死に逃れようともがくのを尻目に、手早くうつ伏せにして肛門にスポイトを差し込み、浣腸剤を注ぎこんだ。 「ヂ!? ギヂィーー!!」 ベビしぃは目を見開きながらもがいているが、首元をモララーの力で押さえられていて逃れられない。 鼻歌はサビに入った。 小さな肛門からスポイトが抜き取られると、すぐにベビしぃの腹が唸りはじめる。 浣腸剤はベビしぃ用に調整された薬剤で、大腸に強い刺激を与え蠕動を促し、ナノ分子の特殊ポリマーが糞便を吸着して外に出てくる構造になっている。 しかもかなり即効性だ。 モララーがベビしぃの首元を握るように持ち変え垂直になる様に構えると、ベビしぃの足が斜め前にピンと伸びた。 ああ、これも確か反射なんだよな、とモララーはバケツの上にベビしぃを持ちながらまた生物の授業を思い出す。 「ヂ…ヂ…ギヂィィ…」 ベビしぃはしばらく腹痛と闘っていたようだが、しだいに目がうつろになっていく。 やがて肛門からミュルミュルと軟便が流れ出はじめ、下のバケツにポタポタと溜まっていった。 ベビしぃはまだ主に母親のミルクで生活しているため、糞からもいわゆる糞の臭いはしないが、曲がりなりにも排泄物なので、具合の悪い時に吐いた吐瀉物を薄めたようなすえた臭いがうっすらと漂ってくる。 モララーはその臭いをやや気にしながらも、確か凝るならベビしぃの腹をのの字に撫でて排便を促すんだったな、しかし自分が食べるわけではないからそこまでこだわらなくてもいいか、と考えていた。 便が出終わる。 試しに下腹部をグニグニと何度か押したりしてみたが、ギューという呻き以外は何も出なかった。 もう漏れ出す心配もなさそうだ。 出尽くしたあとは、胃の中の洗浄である。 便を絞り取られ、口を開きぐったりとしたベビしぃを仰向けにさせ、その口に今度は嘔吐剤を吸いこんだスポイトをねじ込む。 「ギュミ!? ギュウーウ!!」 飲ませるのではなく流し込まないといけないから、なるべく喉の奥まで突っ込む。 「オエ…オゴゴゴ…」 ベビしぃは苦しそうに目に涙を溜め、手を動かしなんとか逃れようとするが、やはりモララーの力には敵わない。 嘔吐剤を注ぎ込み切ったモララーは、沈殿のある乳酸菌飲料を振って沈殿を無くすがごとく、ベビしぃの小さな身体を左右に振った。 「ギュエ…オエエ…」 嘔吐剤には、胃液と反応して胃袋を刺激する物質が含まれており、絞扼反射の嘔吐感とも相まってベビしぃに絶大な不快感をもたらす。 「ウエッ ウェエエッ!!」 ベビしぃが嗚咽を漏らすと同時に、モララーは頭が下に来るように手首を回し、バケツにあてがう。 ゴボゴボと下水道のような音を立てながら胃の中のものを吐き出すベビしぃ。 すべてを吐き切らせた後は、ベビしぃを箱に戻し、次のベビしぃで同じことを繰り返す。 1匹あたり5分かかるかかからないかで内側の洗浄は終わり、箱の中はすべてを吐き切りぐったりとしたベビしぃだけになった。 外側を洗う洗浄液は中性で、ゴム手袋をしなくても手肌に影響は無かったが、モララーはそれをつけたままベビしぃを洗うことにした。 単純に外すのが面倒だし、爪かなんかでベビしぃを傷つけて出血させたりするとより面倒だったからだ。 「まとめてやっちゃうかな。」 モララーはダンボールを持ち上げ、タライに向かってひっくり返す。 「チ チィィ!!」 ポチャポチャと洗浄液に落ちるベビしぃたち。 モララーは入れ終わってからすぐ、しまったと思った。 タライは底が浅く、壁も逃げようと思えばすぐに逃げられるほどの高さしかない。 「あ!ヤバい、逃げられちゃうじゃん!やっちまった!」 ベビしぃたちは苦い洗浄液に辟易としたようでやはり逃げ出そうと縁に手をかけている。 モララーは慌ててダンボールをひっくり返してドームのようにかぶせ、台所に別の箱を取りに行った。 モララーが適当に見つけてきたダンボールを手に裏口に戻ると、反対になったダンボールの内側からコツコツ、カリカリと引っ掻くような音がしていた。 「ヂヂヂィ…ウニャーン…」 「やっぱりタライから外には出てるっぽいな。」 ここでダンボールを持ち上げれば、ベビしぃは逃げ出すだろう。 モララーはしばし考えたあと、やはり力技しかないと覚悟して、ダンボールをほんの少し持ち上げて手を入れ、中のベビしぃを1匹ずつ捕まえていくことにした。 「チィ!!チィーィ!!」 うまいこと1匹また1匹と捕まえていく。 しゃがみ込んで地面スレスレに腕を伸ばすさまは少し間抜けな絵面だったが、はたして4匹のベビしぃを持ってきたソフトドリンクのダンボールに捕らえ終えた。 5匹目は少し厄介だった。こちらから手を入れると向こうに、向こうから探ればまた別の方に逃げる。 モララーはこの格闘に痺れを切らし、ダンボールを上から押さえつけながら側面をバンバンと叩いた。 「ウニャッ!?」 ベビしぃは動き回っていたが、いきなり大きな音がしたのに面食らってポチャリと洗浄液のタライに落ちたようだ。 「落ちた?よっしゃ!今だ!」 すかさずドームを跳ね除けタライでもがくベビしぃを掴み、ダンボールはひっくり返し元のように開き口を上向きにする。 「ギヂィ!? ギャッボ!?」 そのままベビしぃの首根っこを掴み沈み込ませ、耳の先から尻尾の先まで揉み洗いしていく。 ベビしぃの体毛は母親に舐められているため見た目は白くてフワフワだが、洗浄液に浸し少し揉むと垢やホコリのような汚れが浮き上がってくる。 「~♪」 モララーは几帳面で、掃除好きだった。 ベビしぃをまんまと捕まえて、ザブザブ洗うと気持ちが良くて、再び鼻歌が溢れてきた。 「…ゴボァ!! ギヂーィ!!」 ベビしぃは顔も身体も関係なく苦い洗浄液に浸けられ、全身を揉まれ擦られ洗われるのがよほど苦しいらしく、顔が水面から出るたびに叫び声を上げた。 あらかた洗い終わると、液から引き揚げ、ホースで真水をかけながらすすぐ。 「ヂィィ…」 ベビしぃはもう憔悴で、秋の冷たい水道水を浴びても手足をピクピクさせるだけだった。 あらかた流し終われば、ペーパータオルでクシャクシャと水気を取る。 100%拭ききらなくとも、今日の晴天なら乾くだろう。 そうしたらもとのダンボールに放り込み、下ごしらえの完了だ。 モララーは気分よく2匹目のベビしぃを掴み洗浄液に浸けた。 全ての工程が1時間ほどで終わり、バケツとタライの中身を側溝の金網に流し、ついでにホースで汚れをすすぐとモララーはタバコに火をつけ一服した。 ベビしぃが逃げ出さないよう、箱のつばを立ててガムテープで固定し、高さを作る念の入れようで満足だった。 中を覗くとベビしぃたちはもう抵抗する気力もないという風にぐったりとしている。 「待てよ、こいつらこのまま死んだりしないよな?」 モララーはタバコを吸いながら考えた。 よく考えるとベビしぃの身体には何も入っていない。 このまま夜まで放置しては、死んでしまうのではないか? ベビしぃの肉の足の速いのはモララーも知っている通りだ。 ふと思いついてスマートフォンを取り出し、検索をかける。 見つけたのは、ベビしぃ料理のページだった。 メニューから「ベビしぃの下ごしらえ」を開き、下にスクロールする。 すると、「ベビしぃは下ごしらえ後1時間、長くて2時間程度で死ぬので、下ごしらえは調理の直前にやること」とあった。 時計を見るとまだ昼過ぎで、バーベキューまではまだ3,4時間はある。 「マジかよ、やっちまったぜ……。」 モララーは独りごちながら更にスクロールした。 するとそのページにはベビしぃの代謝が詳しく載っていた。 「へぇ、『ベビしぃは固形物の代謝は苦手ですが、液状のものなら素早く吸収できます。早めに下ごしらえを済ませ、 スパイスを飲み水やミルク等に混ぜて飲ませると肉に風味が立ちオススメです』……か。」 モララーは読みながら、自分がうってかわってワクワクしていることに気が付いた。 ベビしぃの丸焼きとは、文字通りそのまま丸焼きにするのがセオリーと思っていて、調味料なんかはせいぜい焼く時に醤油かなにかで香りをつけるぐらいのものだと思っていた。 ベビしぃ自体にスパイスを含ませバリエーションをつけるなんてのは、モララーの頭には全く無かった発想だ。 モララーはすぐに台所にいき、同じく夕食の準備をしていた近所に住むモナーのおばさんに一声かけると、そのまま自宅へ走った。 モララーの母親も料理好きだったので、ゴルァンダー、モレガノ、ナシメグ、ロリハァハァエなどモララーの家にはいろいろなスパイスが揃っている。 モララーは少し考えて、親父たちは酒のつまみにベビしぃを食べるんだから、 ニンニクか胡椒なんかを効かせるか、あるいは照り焼きのように少し甘めの醤油味にするか迷った。 アイデアがどんどん浮かんでは消えていくのが楽しくてテンションが上がっていた。 「俺ってどんだけ子供なんだYO!」 モララーは独りごち、数種類のスパイスの小瓶と、それと牛乳をビニール袋に入れまた家を飛び出した。 味付けはすぐに決まったが、問題はベビしぃたちに飲ませる方法だった。 深皿にぬるくなった牛乳を注ぎダンボール部屋の真ん中に設置した時には、5匹が5匹とも目の色を変えゴクゴク飲んでいたのだが、 その後に入れた肝心なスパイス配合牛乳にはほとんど手をつけなかった。 「当然か。先に普通の牛乳飲ませたの、ミスだったなあ。」 先に普通の牛乳を飲ませたのは、皿から牛乳を飲む能力があるのか確かめるためと、ベビしぃたちの警戒を解くためだったのだが、これがすっかり裏目に出た。 次に飲ませようとしたのは、ニンニクとトウガラシのペーストに粗挽き黒胡椒を振りかけ、トドメに醤油とめんつゆを混ぜ込んだ牛乳だったが、こんなものがおいしいはずもない。 これでも空腹なら仕方なく飲んだかもしれないが、当たり前の牛乳を飲んだ後では、こんな劇物を好んで飲むはずもなかった。 ベビしぃたちは普通の牛乳はすぐに飲み切り、次に入ってきた2杯目のミルクにも一瞬は口をつけたものの、 やはりベビしぃたちには刺激が強過ぎたのかチィチィ泣きだし、ダンボールの隅でモゾモゾと丸まってしまった。 「でもここまでしたんだから、どうにかして飲ませないともったいないな。」 しかしあたりを見回してもいいアイテムがない。 洗浄剤についていたスポイトは容量が小さいし、管も細いからニンニクや胡椒と言った粒は吸い込めない。 スパイスを混ぜるのに使った紙コップから直接飲ませるのは、押さえつけても難易度が高いだろう。 何かないかな、とモララーはしばし考えてパッと閃いた。 公民館の台所ではいろいろな行事の料理に備えて、さまざまな調理器具を用意してある。 漏斗も確かあったはずだ。あれなら奥まで差し込めるし、こぼれる心配もない。 すぐに台所から漏斗を取ってきたモララーは、隅で縮こまるベビしぃの中から1匹捕まえると、あぐらに組んだ足の上に仰向けに押さえつけ、喉の奥まで漏斗を差し込んだ。 「チィ!! キチィ!!」 「よーし、大人しくしとけよ?」 「ヂグィッ!? ゴエエエ!! グエエエ!!?」 漏斗の針は、さっきのスポイトの何倍もの太さがある。 ベビしぃは泣き叫んで抵抗するが、ベビしぃの抵抗力などたかが知れていて、モララーはお構いなしだった。 紙コップから漏斗にスパイス牛乳が注がれると、ベビしぃはさらに呻き声をあげた。 「ギューーッ!!グゴ!?ゴボオオオ…!?」 「こんなもんか?」 用意した量の半分、およそ50mlをベビしぃに注いだ。 漏斗を外すと、ベビしぃは半死半生といった風情で目をパチクリさせた後、ゴボァと胃の中のものを吐き出した。 「うわっ!」 あぐらを組んでいたモララーはそれを避けきれず、脛から下を丸ごと汚してしまった。 量としては大したことなかったが、常温に温められた牛乳と大量のスパイス、そしてベビしぃの胃液が混ざりそれなりに強烈な液体だ。 「げー、マジかよー……。」 モララーはすっかり意気消沈してしまった。 仰向けで吐いたから胴全体を吐瀉物まみれにしたベビしぃをとりあえず水で洗って箱に戻すと、自分も台所に入りことの顛末をおばさん連中に話して家に戻った。 モララーがシャワーと着替えを済ませて公民館に戻ってきた時には、あたりは薄暗くなっていた。 前庭では誰が持ってきたのか、大きなラジカセから大音量で祭囃子が鳴り響き、近所のおっさん達が張り切って焼き鳥やら焼きそばやらを焼きまくり、子供達は超ハイテンションではしゃぎ回っている。 モララーも幼なじみのモナーやギコと落ち合い、ようやく堂々と飲めるようになったビールで乾杯して父親が焼いた焼きそばに舌鼓を打った。 箱の中に閉じ込めたベビしぃのことなどすっかり忘れてしまっていた。 モララーがベビしぃのことを思い出したのは、すっかり日も落ちて宴もたけなわとなり、打ち上げの準備を始めた父親に声をかけられてからだった。 「息子よ、そろそろバベーキュをやろうと思うが、俺のベビしぃはどこにいるんだ?」 既にかなり酔っている父親に話しかけられた瞬間、モララーは飛び上がった。 「うわ!ヤバい、すっかり忘れてた!」 急いで台所から勝手口を出ると、明かりのない裏庭は真っ暗だった。 「逃げてませんように……!」 スマートフォンのライトをつけておそるおそる箱の中を覗くと、はたして5匹が箱の中にいた。 「ヂ…チィィィ…!!」 「ハナーン…ハナーン」 「チィィィ アニャ…」 「5匹いる!良かったぁ~……!」 胸を撫で下ろしたのも束の間だった。 ライトの明かりに驚き、動き回ったり鳴き声を上げたりしているベビしぃは4匹で、1匹は真ん中のあたりでぐったりと動かない。 「あ、やっちまったかな……?」 モララーが動かないベビしぃを掴んでみると、ぐちゅりという嫌な感覚が指に伝わってきた。 「うっ……!?」 先ほど洗っている時に感じたハリのある感覚とは全く違う、例えるなら濡らすだけ濡らして絞っていないタオルでも掴んだかのような感覚。 「やっちまいましたかねこれは……。」 ベビしぃは死んでいた。 スパイス牛乳を漏斗で突っ込まれたベビしぃだった。 洗浄後に飲んだ牛乳も、スパイス牛乳を注がれた時にまとめて吐いてしまったためエネルギーがなくなったのと、 水洗いの後ちゃんと拭かれず身体に水気が残ったままで、吹き込んだ風に体温を奪われたこととがダメージとなり死んだのだった。 モララーはベビしぃの死体が腐って崩れ落ちないことを祈りながら、ゆっくりと持ち上げてそのままゴミ袋に入れた。 他のベビしぃたちは、チィチィと少し騒いだあと、また大人しくなった。 「父さんごめん、1匹死んでた……。」 4匹のベビしぃが入ったダンボールを前庭に持ってきたモララーは謝罪したが、父親はあっけらかんとしたものだった。 「まあまあ仕方ない。こういうのは死ぬときは死ぬもんだからな!」 モララーはお互い酔っ払っていて助かったと内心ホッとしながら、残ったベビしぃを焼こうとする父親に言葉を返した。 「そうだ!スパイス持ってきたから使ってよ!」 「スパイス!?いや、父さんは醤油だけの方が……。」 「いや山賊焼きみたいにしたら絶対うまいからさ!俺が焼くから父さんは食べるだけでいいからさ!レシピ調べたんだよ!」 そういいながら手際よくタレを作るとダンボールからベビしぃを掴み出し、頭からタレに浸し仰向けになるように鉄板に乗せた。 「ギヂャァァァァァッッッッ!!?!!!??」 鉄板は250度にも熱されている。 当然ベビしぃは必死に逃げ出そうと猛烈にもがくので、押さえがないと危険だ。 モララーはトングでベビしぃの仰向けの腹を押さえる。 鉄板で焼くベビしぃの丸焼きでは、比較的耐久力のある背中側を最初に強く熱して全体に火を通し、腹側を焼くのは最後の数十秒、焼き目をつける程度でいい。 ちょうどステーキの焼き方と似ている。 「ヂャギャァァ‼︎ アギャァァァァ‼︎」 「おー、元気がいいなあ。」 ベビしぃは、しばらくは手足が焼け焦げるのも厭わず必死にもがいていたが、少しするとそこには火が通ったらしく叫ぶだけになった。 「ギヂィィィィ!!」 モララーがベビしぃをひっくり返すと、あたりに香ばしい香りが広がる。 背中はすっかり焼け焦げ、短い体毛もチリチリになっていた。 「モララー君は料理がうまいモナねー!これから独り身でも安心モナ!?」 幼なじみのモナーのおやっさんがからかってくる。 「レシピ見たからできるだけですよ!」 「ビャギャァァ!! ウギャァァァン!!」 モナーのおっさんに返事をしながら、ベビしぃの焼けた背中をトングでグリグリと押すモララー。 腹側の皮膚は薄いので、全体的に焼き目を付けるにはグリグリと動かし腹側に均等に火が通るようにしなければならない。 「はいお待ち!」 焼き上がったベビしぃを紙皿に乗せ、父親へ手渡す。 「ギ…ヂ…」 ベビしぃは生命力が強いのも特徴だ。 全身に焦げ目がつくほど丸焼きにされても、まだ瀕死で持ち堪えている。 「うまそうだな!いただきます!」 モララーの父親はベビしぃの脇腹にかぶりついた。 「!! …キィー…」 「うおおおっ!うまい!味もしっかりしてるし、中身も半生で焼き加減最高だYO!」 「だろ?醤油よりこっちの方がいいって!」 二口目にかぶりつかれたときになってようやく、焼けたベビしぃは絶命した。 「モナーのおっさんにも焼いてあげましょうか!」 「おー!頼むモナ!!」 箱の隅で震えながら縮こまるベビしぃから1匹掴み取り、どぽんとタレに漬け、鉄板に乗せるモララー。 「ミ゙ャヂャァァァァ!!アヂュゥゥゥ!!??」 「モララー兄ちゃん!オレらベビしぃ花火やりたい!」 ベビしぃの金切り声が響く中、近所の子供たちがハイテンションに叫ぶ。 ベビしぃ花火とは、2匹のベビしぃを使う遊びで、まず片方に花火や爆竹をくくり付けて放しておき、もう片方には体毛に直接火をつけて火だるまにした状態で放すものだ。 火がついたベビしぃは半狂乱で火薬まみれのベビしぃを追いかけ、追いかけられる花火ベビしぃは全速力で逃げ出すのだが、 ベビしぃにとって火薬は重く、更に火のついている方はまさしく火事場の馬鹿力で高速で追い回すため、たいていすぐに追いつかれて着火され、そして2匹とも爆散する。 大量の花火が一度に作動し見た目が派手なので子供には好まれるが、場所によっては危険なので禁止されていることもある。 この公民館なら前庭が広いし危なくないだろう、というのが子供たちの言い分だった。 「俺じゃなくて父さんに頼みなよ、それにこのベビは洗浄したから多分走れないぞ。」 「火つけたら走るでしょ!?」 「そっちはね。花火の方が動かなかったら面白くないよ。」 子供たちは一挙にぶー垂れた。 「息子よ、1匹ぐらいなら花火にしてもいいぞ。火付け役がいなくても花火でぶっ飛ばすだけでも面白いからな!」 「そうモナ!ベビしぃ花火なんて十何年やってないから久々に見てみたいモナ!」 父親どもがそういうと、子供たちも一気呵成にはしゃぎだした。 「チィ…ウミャーン」 ダンボールから拾い出されたベビしぃに子供たちが群がる。 「なあ、とりあえず花火の燃えるとこ全部つけようぜ!」 「導火線は?」 「打ち上げ花火は使える?」 「最後にケツに爆竹だぞゴルァ!突っ込めるだけ突っ込めゴルァ!」 「花火の分解はダメモナよ!」 気が付くとモララーの幼なじみのギコやモナーまでベビしぃ花火制作に混ざっている。 「キチィィ……」 紐やらテープやらで巻き放題にされ、腸内にも爆竹を詰め込まれたベビしぃは、最初こそもがいていたが最後にはもう朦朧で、抵抗する気もない様子だった。 「いいか?爆竹突っ込んだから蹴っちゃダメだ。俺が火を付けたら思いっきりぶん投げろゴルァ!」 ギコがライターで導火線に火をつける。 子供たちの中のリーダーは、シュボ……と導火線に火が付くや否や前庭の芝生に向かってオーバースローで放り投げる。 そこからは花火らしい刹那の出来事だった。 ポテリと地面に落ちたベビしぃがうめき声をあげると、導火線から着火された花火がその背中で炸裂し始めた。 「チギィ!! ギヂィィ!!」 ベビは背中で弾ける赤、青、緑の火花がよほど熱いらしく、叫びながらのたうつ。手足を半端に縛られていて、走り回ることもできず、ただその場でうごめくだけだった。 「うおお!すげえ!!」 「きれーい!!」 「いい具合にねずみ花火っぽくなってるモナ!」 大人も子供もみな花火と化したベビしぃを見ていた。 「ウミャアアーン!! ニャコ!! ニャゴォォ!!」 ボン!バンバンボボン!!バン! 「ビャヂィィ!!」 ベビしぃの叫びと、体内での爆竹の炸裂はほぼ同時で、心地よい爆発音がすると同時に腹部から下を失い、手と頭だけになったベビが吹き飛んだ。 「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!」 「やっぱりケツ爆竹は最高だぞゴルァ!!」 「HAHAHA 花火は愉快だなあ息子よ」 「……キィー…」 ベビは死んですぐ子供たちの誰だかに拾われ、花火用のバケツの中に放り込まれた。 「なあモララーのおっちゃん!ベビもう1匹いるだろ!?花火にしていい!?」 ベビ花火がよほど楽しかったのか、ガキ大将は誰もいいとも言っていないうちに箱からベビを取り出しそう聞いた。 「HA!? ま、まあしょうがないNE……」 モララーの父親が、ちょうど焼いたベビを食べ終えたころだった。 宴はもう少し続きそうだ。 - ツヅク -
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秋祭り③
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???: なモら ◆fTv8Bt89cM :2021/11/12(金) 16:44:42 ID:??? 【秋祭り】③ 時刻が午後10時を回ると、公民館はさっきまでの喧騒が嘘のように静まりかえっていた。 昼間からずっと動いて飲んでを繰り返していたおっさん連中は、ベビしぃ焼きが終わったあたりで全員ダウン。 午後8時を過ぎる頃には撤収が始まり、午後9時には公民館に鍵がかけられ、解散となった。 子供たちがやった花火のカスや、大人が飲み放題に飲んだビールの空き缶などはきちんと分別され、公民館近くの集積所にまとめられた。 しかし、すっかり秋である。 昼間は日差しで暖かくとも、夜になると肌寒い。 コロコロと虫が鳴く秋の夜長のその静寂の中を一人歩く影があった。 5匹のベビしぃの親しぃだ。 秋祭りに出かけたはずの子供たちが戻らないので、探しにきたのだった。 夏の終わりに生まれた子供たち。 1ヶ月の誕生日を迎え、最近はミルク以外のものを食べられるようになってきたし、オテテもアンヨもしっかりしてきたから最近は身体を動かしたくて仕方ないようだった。 だから今日は子供たちだけでの初めてのお出かけ。 町内の秋祭りで、大人のAAも沢山いる。 住処にしている公園の掲示板に貼られたチラシには、大人のしぃは参加費が掛かるが、子供は無料と書いてあった。 小さな首掛けのかばんを作ってあげて、もしもの時の食料も持たせ、安心して送り出したはずだった。 夕方を過ぎ、あたりが暗くなっても戻ってこなかったが、遊んでもらっているのかな、と思った。 おいしいものをたくさん食べさせてもらっているのかな、と思った。 近所の子に遊んでもらっているのかな、と思った。 しぃがさすがにおかしいと思ったのは、家のある公園の時計が午後9時を回ってからだった。 「ベビちゃんたち、どうしたんだろう?」 遊んでいるにしても遅すぎる。 お祭りももう終わっているだろうし、いつもならとっくにおねんねしている時間だ。 もしかしたらお家までの道のりが分からなくて迷っているのかもしれない。 おうちに帰れなくて、5匹で泣いているかもしれない。 しぃはそう思い、人通りの無くなった道をひとりでとぼとぼと歩き始めた。 「ベビちゃーん、どこにいるのー?」 キョロキョロと辺りを見回しながら、子供たちを探すしぃ。 どこかで寝てしまっているかも、と思い路地裏に入ったりもしてみるが、子供たちの姿はどこにもない。 そうして、しぃが祭りが終わり静寂に包まれた公民館にたどり着いた頃には、午後10時を回っていた。 空気はまだお祭りを覚えているようだった。 花火の火薬の匂い、お肉の焼けた匂い……どれも微かに、しかし確実に残っていた。 それはあと風が一吹きすれば掻き消えてしまうような、わずかな匂いだった。 「ベビちゃんたち、楽しかっただろうな。」 しぃの脳裏に、美味しいものを頬張り、お歌を歌い、たくさん遊んでもらっている子供たちの笑顔が去来した。 「探さなきゃ。ベビちゃーん。」 公民館の前庭は、面積の半分がアスファルト、半分が土の地面になっていて、駐車場としても公園としても使えるようになっていた。 囲いらしい囲いはないものの、背の高い草が公民館の敷地を取り囲むように生えていた。 しぃは声を出しながら、しかし子供たちの助けを呼ぶ声を聞き逃さないように耳をすましながら、敷地を歩き回った。 「ハニャ!?」 草の囲いに沿って歩いて裏庭にたどり着いたとき、しぃは微かな叫び声を上げた。 子供たちの匂いがここに残っていたのだ。 前庭には街灯があり明るかったが、建物でそれが遮られている裏庭は真っ暗で、まだ目が慣れていないしぃでは探り探りゆっくりとしか歩けないほどだった。 「どうして裏庭に……?」 子供たちはお祭りに遊びに来ただけで、裏庭なんかには用はないはずである。 手探りで歩くしぃの足にダンボール箱がぶつかった。 同時に、子供たちに匂いがふわっと香り出した。 「ベビちゃん!?近くにいるの!?ママはここだよ!」 ダンボール箱は空だったが、匂いを嗅ぐと間違いなくこの中に子供たちが入っていたことがわかった。 しぃはようやく目が慣れてきて、辺りを見回すと、口の閉じられていないゴミ袋が目に入った。 しぃはとてつもなく悪い予感がした。 そのゴミ袋からも、子供たちの匂いがしたからだ。 「ベビちゃん……?」 そしてしぃがその袋の中を覗き込むと、そこには果たしてベビしぃが入っていた。 「シィィィィィィーーーーーッ!!!!」 半角語族の甲高い悲鳴は、周りの背の高い草に吸い込まれ響かなかった。 ゴミ袋に入っていたのは死んで半腐れになったベビしぃで、それは間違いなくしぃの子供だった。 「ベビちゃん!!ハニャァァァン!!どうして!?」 しぃは半狂乱で死骸を取り出す。 身体を掴むとぐちゃりと指が食い込んだが、しぃは気にも留めなかった。 口からはよだれと血が混ざったような液体が漏れており、ギュッと閉じられた目蓋は開く気配もない。 可愛かったお耳もハリを失い、だらりと垂れていた。 しぃは、冷たくなって死んでいる我が子がただひたすらに可哀想だった。 抱きしめたかったが、その首はまだ据わっていない乳児のようにぐらついて、力を込めると崩れ落ちてしまいそうで、できなかった。 「ベビちゃん……どうして……。」 しぃは他の子ももしかして、と思い死骸を石段に寝かせてゴミ袋を探ったが、ほかに出てきたのは5つの布の袋だけで、 ベビしぃの死骸から染み出たらしい体液でバリバリに張り付いているが、間違いなく朝に渡したリュックだ。 汚れの少ないものをひとつ開いてみると、中からは草の切れ端とパンが出てきた。 しぃは恐ろしいシナリオが頭の中に浮かんでくるのを感じた。 子供たちは、お祭りに着いてすぐリュックを取り上げられて、この箱に閉じ込められたんだ。 まだパンも食べないうちに……! そして、殺されて、ゴミ袋なんかに詰め込まれて……。 でも、何のために? しぃはそれが分からなかった。 お祭りでは子供なら食事も参加費も無料なはずだ。 つまりお金がないから殺されたわけではない。 大人のAAもいたのだから、他の子供にいじめられて殺されたわけでもないだろう。 それに、他のベビちゃんたちはどこに行ってしまったのだろう。 反射的に、公民館の勝手口のノブをガチャガチャと回してみたが、当然鍵がかかっていて開かない。 「ベビちゃーん!おながい、返事をしてーっ!」 先ほどまでは、夜ということもあり声量をセーブしていたしぃだが、そのリミッターはすっかり消え去り、しぃはあらんかぎりの声で叫んだ。 走って前庭に戻り、公民館の入り口の扉も開けようとしたが、やはり鍵がかかっていてびくともしない。 しぃはもうパニックで、殺されたのは1匹だけで、他の子は公民館の中に取り残されていて、気付かれず鍵を閉められたから出られなくなっているんだ、 寂しがって泣いているかもしれない、というシナリオに一縷の望みをかけていた。 「ベビちゃん……ママが今行くからね……。」 しぃは前庭から握り拳大の石ころを見つけ出すと、入り口のガラス戸をガンガン叩き始めた。 叩き始めて何度目かでヒビが走り、さらに何度目かで一面のガラスが音を立てて割れ、それと同時にビーッビーッと警報が鳴りはじめる。 しぃは警報など気にも留めず、子供たちの名前を呼びながら一心不乱に公民館の中を駆けずり回っていたが、しばらくしてやってきた警官と警備員の二人組に取り押さえられた。 「こちら現場……成体のしぃが1匹です、どうぞ」 「ちょっとあなた、何してるんですか!?」 「タ、助ケテ下サイオ巡リサン!ベビチャンタチ行方不明デ……オ祭リニ行ッテ帰ラナインデス!!」 「行方不明?お宅のベビちゃんがですか?」 「ハイ行方不明ナンデス……探シテクダサイ!!オナガイシマス……!!」 「あなたねえ、それと不法侵入は関係ないですよ?それに失礼ですが、あなたは公園に住んでいる野良でしょう。 ベビの出生届は出されたのですか?出していないならそのベビはこの町に存在してることにならないんですよ。」 「デ デモ……!! ソウダ!! 殺サレタンデスウチノベビチャンハ……!! 死体ガ裏ニアリマス!! 殺人犯ガイルンデス!! 捕マエテクダサイ!!」 「死体?確認してきますか?」 「お願いします。分かりました。話は場所を変えてしましょう。」 「待ッテクダサイ……!! ウチノベビチャンタチハドコニ行ッタンデスカ!? コンナニ夜遅クマデ戻ラナイノハオカシインデス……オナガイシマス 捜索シテクダサイ……!!」 「場所を変えましょう。ここは公共施設で、あなたは不法侵入者なんですよ。」 言われるがままにパトカーに乗せられ交番に連れて行かれたしぃは、罪に問われることは無かった。 戸籍も住民票もないから、当然だった。 仮に民事で有罪となっても、しぃには財産がないので、差し押さえるものも手段もない。 しぃはしきりにベビちゃんたちの捜索をと繰り返していたが、この町にいないはずのしぃが、この町にいないはずの子供たちの捜索を依頼することは不可能だった。 「この街ではですね、住民票がないからといってあなたを駆除することはありません。 しかしですね、あなたは税を納めていないのですから、我々があなたを助けることもできないのです。」 警官はしぃに何度もこう言って聞かせ、帰らせることにした。 交番にいた宿直の警官からは気の毒に思われたのか、帰り際にありあわせの饅頭をふたつ持たされたが、 しぃはもう心ここにあらずで、公園の家に戻ったときには、ふたつともどこかに落としてしまっていた。 - オワリ - ※実際には、公民館の破壊、侵入は罰せられます。