秋祭り①

Last-modified: 2021-11-12 (金) 16:48:56
???: なモら ◆fTv8Bt89cM :2021/11/12(金) 16:41:33 ID:???
【秋祭り】①

チィチィチィ!!
まだ夜が明けてすぐ、5匹のベビしぃちゃんたちは目を覚ましました。
普段はお日様が入射角45度を過ぎるまで夢の世界で遊んでいるベビちゃんたちも、今日だけは早起き。
だって今日は待ちに待った秋祭り!
まだ寝ているママを尻目に、いつつごベビちゃんはチィチィチィチィおしゃべりします。
ママに聞いた秋祭りは、とっても楽しそう。
おいしいご飯をたくさん食べて、みんなで歌って踊って、たくさん遊んでもらって……って!
今年の夏に生まれたベビちゃんたちは、まだ見たことのない秋祭りがどんなものなのかとてもとても楽しみでした。
おいしいご飯って、なにかな?
どんなお歌を、うたうのかな?
お祭りってたのしいんだろうなあ!
そんなふうにおしゃべりしていると、薄暗い段ボールのおうちが隙間灯でだんだん明るくなってきます。
ママも目を覚まし、すぐ朝のダッコのお時間。
ナッコ!ナッコ!ママ ナッコ!
はいはい。順番だよ。
1匹ずつダッコしてもらい、そのあとはみんなでママのミルクを飲みます。
ちゅうちゅうちゅうちゅう。
最近歯が生えてきて、ミルク以外のものも食べられるようになったベビちゃんたちですが、ママのミルクはやっぱり大好き。
いっぴきいっぴき、満腹になると口を離し、ケプーとかわいらしいゲップをするまでママに撫でてもらいました。

しばらく食休みのまどろみの中にいたベビちゃんたちは、ママが毛布の下から取り出したものを見てびっくりしました!
水色だったりピンクだったり、かわいらしい色で、小さな持ち手は一目でベビちゃん用だとわかるそれはおかばんだったのです。
ママはベビちゃんいっぴきいっぴきにそれぞれそのおかばんを手渡していきました。
生まれて初めて自分のもちものを貰ったベビちゃんたちは、もういてもたってもいられないくらい嬉しい!
ママありがと!だいちゅきー!!
ふふふ、よく似合ってるわベビちゃんたち。
おかばんを開けてみると、中には小さなパンが入っていました。
歩いていく途中でお腹が空いて泣いてしまわないように、ママが気を遣って今日のために用意した特製品です。
お腹が空いたらそれを食べるのよ。でも食べ過ぎたら、お祭りのごはんが食べられなくなるから気をつけてね。
ハァーイ!
貰いたてのおかばんを提げて、おうちの段ボールにママが開けてくれたベビちゃん用の出入り口からひょこひょこ、ひょこひょこ、もひとつひょっこり。
抜けるような秋晴れに旅立って行きました。

おうちのある公園から公民館までは、ベビちゃんたちだけで歩きます。
車通りのない一本道で、大人なら歩いて10分とかからない道ですが、ベビちゃんたちなら話は別。
よちよち、よちよち。
あっちに石ころ、いっぱいあるよ!
こっちにお花が咲いてるよ!
5匹で塊になって、あっちへいったりこっちへいったり。
いく先々でいろいろを見つけてはおかばんに入れていきます。
ママにおみやげ持ってきてねと言われましたからね。
(まあそれを見せることは、お察しの通りもう決してないわけですが。)
形のきれいな石だね、ママに見せてあげよう。
きれいなお花だ!ママ、よろこぶかなあ?
それにとってもいい天気!
暑い夏を過ぎて、過ごしやすい秋。
すこし暖かくて、すこし涼しい気候に、早起きしたベビちゃんたちはうとうと、うとうと。
空き地という名の原っぱで5匹、塊になっておひるねをしました。
寝言をウニャウニャ言いながら眠るベビちゃんたちの中、目を覚ました1匹が
(一応、長女でシィカという名前が付けられていましたが覚える必要はありません。どうせすぐ死ぬので)
ポカポカ陽気のなかお腹をキュルルーと鳴らしました。
お腹すいたから、ごはんたべちゃおうっと。
夢うつつの姉妹の中、ひとりおかばんの中にあるママお手製のパン
(と言ってもただ母親が、拾ったゴミの中からまだ食べられそうなパンを見繕ってちぎりひとかたまりにして、それをペタペタこね直しただけのものです)
をひとかじり。
最近ようやくママのミルク以外のものでも口にできるようになったので、パンのひとかじりでも自慢げです。
もぐもぐ、もぐもぐ。
歯はまだ生えたてで柔らかいですから、ママになんでもよく噛んで食べるようにいつも言い聞かされています。
よく噛んで食べると、ひとかじりでもなんだかお腹がいっぱいになったような気がします。
彼女はかじったパンを再びおかばんに戻すと、風になびく雑草を見ながら姉妹が起きるのを待ちました。

いつつごベビちゃんたちが目を覚ましたのは1時間ほど経ってからでした。
おうちを出発してから約90分。
公民館への道はまだ半分も来ていません。
お日様はすっかり高く登りました。
5匹はまたよちよち、よちよち歩き始めます。
あついねえ、あついね。
季節は秋ですが空は真っ青な快晴で、このカンカン照りでは、地面近くを歩くベビちゃんたちにとっては夏と同じです。
少し歩いては休憩、少し歩いては休憩。
小さな日陰を見つけては、みんなで入って涼みます。
でも、まだ見たことのない秋祭りを見てみたい一心でベビちゃんたちは頑張りました。
結局公民館に着いたのは、おうちを出てから3時間も経ってからでした。
楽しげなお祭り囃子が耳に入り、焼かれている焼きそばの香ばしい香りに鼻に入ると、ベビちゃんたちは疲れたのも忘れて走りました。

お祭りはとっても楽しそうでした。
ベビちゃんたちは、屋台からするまだ嗅いだことのないおいしい料理の匂いをいっぱいに嗅ぎ付けました。
それに初めて聞くお祭りの音色!
そして、楽しそうに近所のお兄さんお姉さん達が遊んでいます。
5匹の中の1匹(さっきのシィカちゃんです。覚える必要ありましたね)が、チィたちとあそんでー!と声をかけました。
しかし今のベビちゃんの言葉がわかるのはママと姉妹だけ。
ベビちゃんがAAの言葉を覚えるのはもっと育ってからです。
今のベビちゃんたちが話せるのはチィチィかハナーン、せいぜいナッコくらいなものです。
遊んでいた子供たちはみんな不思議な顔をして、聞きづらい半角でチィチィー!!などと鳴くベビちゃんたちを見てきます。
(そりゃそうです。薄汚い野良ベビに話しかけられるなんて思ってもいませんからね。)
お囃子の流れる中、不意に天使が通ったように静まり返る空間に、ベビちゃんたちのチィチィ言う声だけが響きます。
「おお、やっと来たか。」
「チ?」
ベビちゃんたちに近づいてきたのは、お兄さんお姉さんではなく、大きな大人の人でした。
片手にダンボールを持ったその人は、先頭のシィカちゃん(あと何度この名前が出てくるんですか?)の頭を鷲掴みにするとダンボールの中に投げ込んだのです!
 いたあーい!
ダンボールに頭をこつんとぶつけ声を上げるお姉ちゃんに(なんだよ、長女要素も出てくるんじゃないか)、妹たちはびっくり。
怖くて足がすくんで動けなくて、はたして全員箱の中に入れられてしまいました。

箱はギシギシと蓋を閉められ、少しの間運ばれたあと、ストンとどこかに置かれました。
ベビちゃんたちは訳が分からなくて、蓋が閉まって薄暗い中お互いに顔を見合わせていました。
末っ子のベビちゃん(シィコという名前です。ひょっとしてこれも覚える必要ある?)は、ウニャーン、チィ、こわいよーうと泣き出しました。
お姉ちゃんたちは代わる代わるシィコちゃんを撫でてあげます。
この箱はおうちの箱と違って、毛布も敷かれてなければ、ママの匂いもせず、ベビちゃんでも出入りのできるための穴も空いていません。
床も壁もとにかく固くて、なんとか外に出ようと爪を立てて引っ掻いても、かりかり、かりかり音が鳴るだけでまったく太刀打ちできません。
さっきまでとっても楽しかったのに、今の5匹はとっても悲しい。
壁も床も壊せないことがわかると、ベビちゃんたちは仕方なく、硬い床にコロンと寝転びました。
お昼寝をして、ママが探しにきてくれるのを待つことにしたのです。
 ママー、早く来て。
誰ともなくそう言ってベビちゃんたちは、それぞれクルンと小さくなってお休みをしました。
しかし、ベビちゃんたちがいつも寝ているのは、ママが手入れしてくれているふかふか毛布の上です。
しかもおうちのダンボールは柔らかいボール紙でできているので、毛布の下がマットレスのようになっていてとても気持ちよくおねむできるのですが、
硬いダンボールの上で毛布もなく、更にママの子守唄もないとなれば、落ち着きが悪くてちっとも眠くなりません。
結局眠るに眠れずベビちゃんたちは、こっちなら、開くかなあ、あっちは、どうかなあ、とそこここと移動しては、かりかり引っ掻いたりとんとん叩いたりして時間を過ごしました。

                                                                 - ツヅク -

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