Aパート
ミサト:……お父さん?…
ヒデアキ:…
ミサト:…
トウジ:済まんなぁ、シンジ、雨宿りさせてもろて。
ケンスケ:ミサトさんは?
シンジ:まだ寝てるのかなぁ。最近徹夜の仕事が多いんだ。
トウジ:あー、大変な仕事やからなぁ。
ケンスケ:ミサトさんを起こさないように、静かにしていようぜ、静かに!
トウジ・ケンスケ:シィーッ!
アスカ:あーっ!あんたたち、何してんのよ!
シンジ:雨宿り。
アスカ:ハン、私目当てなんじゃないのォ!着替えてんだから、見たら殺すわよ!
トウジ:チックショー、アホンダラ!誰がおまえの着替えてんのをみたいっちゅうんじゃ!
ケンスケ:自意識過剰な奴。
トウジ:ん?お、おおおおお…
ケンスケ:お邪魔してます!
ミサト:あら、2人とも、いらっしゃい。お帰りなさい、今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね。
シンジ:はい。
ミサト:アスカも、わかってるわね?
アスカ:はーい!
ケンスケ:あぁん?わぁっ!このたびはご昇進、おめでとうございます!
トウジ:お、おめでとうございます!
ミサト:ありがとう…
ケンスケ:いえ、どういたしまして!
ミサト:じゃ、行ってくるわね。
トウジ・ケンスケ:いってらっしゃ~い!
シンジ:どうしたの?ミサトさんに何かあったの?
ケンスケ:ミサトさんの襟章だよ!線が2本になってる。一尉から三佐に昇進したんだ!
アスカ:へぇー、知らなかった。
シンジ:いつのまに…
トウジ:マジにいうとるんけぇ?情けないやっちゃなぁ。
ケンスケ:ぬぁぁ!君たちには人を思いやる気持ちはないのだろうか!
ケンスケ:あの若さで中学生二人を預かるなんて、大変なことだぞぉ!
トウジ:わしらだけやなぁ、人の心持っとるのは。
マヤ:0番2番、ともに汚染区域に隣接。限界です。
リツコ:1番にはまだ余裕があるわね。プラグ深度を後0.3下げてみて。
マヤ:汚染区域ぎりぎりです。
リツコ:それでこの数値?たいした物だわ。
マヤ:ハーモニクス、シンクロ率もアスカに迫ってますね。
リツコ:これを才能というのかしら?
オペレータ:まさに、EVAに乗るために生まれてきたような子供ですね。
ミサト:本人が望んでいなくてもね。
ミサト:きっとあの子は嬉しくないわよ。
リツコ:3人ともお疲れさま。
リツコ:シンジ君、よくやったわ。
シンジ:何がですか?
リツコ:ハーモニクスが前回より8も伸びているわ。たいした数字よ。
アスカ:でも私より50も少ないじゃん?
リツコ:あら、10日で8よ。たいした物だわ。
アスカ:たいした事ないわよ!良かったわねぇ、お褒めの言葉を頂いて。
シンジ:はぁ…
アスカ:先に帰るわ!バーカ!
シンジ:あ、あの、昇進おめでとうございます。
ミサト:ありがとう。でも、正直あまり嬉しくないのよね。
シンジ:それ分かります。僕もさっきみたいに誉められてもあまり嬉しくないし、逆にアスカを怒らせるだけだし…どうして怒ったんだろう…何が悪かったんだろう…?
ミサト:さっきの気になる?
シンジ:はい…
ミサト:そうして、人の顔色ばかり気にしているからよ。
トウジ・ケンスケ・ヒカリ・アスカ:おめでとうございまーす!
BGM:1-8
ミサト:ありがとう。ありがとう、鈴原君!
トウジ:ちゃうちゃう、言い出しっぺはこいつですねん。
ケンスケ:そう!企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!
ミサト:ありがとう、相田君。
ケンスケ:いぇ、礼を言われるほどのことは何も。とーぜんのことですよ!
トウジ:せやけど、なんで委員長がここにおるんや?
アスカ:私が誘ったのよ。
アスカ・ヒカリ:ねー!
ミサト:レイは?
アスカ:誘ったわよ、ちゃんと。でも付き合い悪いのよね、あの子。ふぅー、加持さん遅いわねぇ。
ヒカリ:そんなにかっこいいの、加持さんって?
アスカ:そりゃぁもう!ここにいるイモの塊とは月とスッポン、比べるだけ加持さんに申し訳ないわ。
トウジ:なんやてぇ?もう一遍いうてみぃや!
BGM停止
ミサト:まだだめなの?こういうの?
シンジ:いえ、ただ苦手なんです。人が多いのって。なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろう。
シンジ:…昇進ですか。それってミサトさんが人に認められたって事ですよね。
ミサト:ま、そうなるわね。
シンジ:だから、みんなこうして喜んでいるわけですよね。でも嬉しくないんですか?
ミサト:ぜんぜん嬉しくないって事はないのよ。少しはあるわ。でもそれが、ここにいる目的じゃないから。
シンジ:じゃあなんでここに…NERVに入ったんですか?
ミサト:さって、昔のことなんて忘れちゃった。
BGM:1-8
アスカ:きっと加持さんだわ!
アスカ:ん?
加持:本部から直なんでね。そこで一緒になったんだ。
ミサト・アスカ:怪しいわね。
リツコ:あらやきもち?
ミサト:そんなわけないでしょ!
加持:いや、このたびはおめでとうございます。葛城三佐。これからはタメ口聞けなくなったな。
ミサト:何言ってんのよ、ばーか。
加持:しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、前例のなかったことだ。これも、留守を任せた葛城を信頼してるって事さ。
シンジ:父さん、ここにいないんですか?
リツコ:碇司令は今、南極に行ってるわ。
BGM停止
冬月:いかなる生命の存在も許さない、死の世界、南極。
冬月:いや、地獄というべきかな。
ゲンドウ:だがわれわれ人類はここに立っている。生物として生きたままだ。
冬月:科学の力で護られているからな。
ゲンドウ:科学は人の力だよ。
冬月:その傲慢が15年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。
冬月:結果このありさまだ。与えられた罰にしてはあまりに大きすぎる。まさに死海そのものだよ。
ゲンドウ:だが、原罪の汚れなき、浄化された世界だ。
冬月:俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ。
オペレータ:報告します。NERV本部より入電。インド洋上、空衛星軌道上に使徒発見。
マコト:二分前に突然現れました。
BGM:2-12
オペレータ:第6サーチ、衛星軌道上へ。
オペレータ:接触まで後2分。
シゲル:目標を映像で捕捉。
職員:おおっ…
マコト:こりゃすごい!
ミサト:常識を疑うわね。
シゲル:目標と、接触します。
オペレータ:サーチスタート。
オペレータ:データ送信、開始します。
オペレータ:受信確認。
ミサト:A.T.フィールド?
リツコ:新しい使い方ね。
ミサト:たいした破壊力ね。さすが、A.T.フィールド。
マヤ:落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね。
リツコ:とりあえず、初弾は太平洋に大外れ。で、2時間後の第2射がそこ。後は確実に誤差修正してるわ。
ミサト:学習してる、ってことか。
マコト:N2航空爆雷も、効果ありません。
シゲル:以後、使徒の消息は不明です。
ミサト:来るわね、多分。
リツコ:次はここに、本体ごとね。
ミサト:その時は第3芦ノ湖の誕生かしら?
リツコ:富士五湖が一つになって、太平洋とつながるわ。本部ごとね。
ミサト:碇司令は?
シゲル:使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能です。
ミサト:MAGIの判断は?
マヤ:全会一致で撤退を推奨しています。
リツコ:どうするの?今の責任者はあなたよ。
ミサト:日本政府各省に通達。NERV権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを頼んで。
マコト:ここを放棄するんですか?
ミサト:いいえ。ただ、みんなで危ない橋を渡ることはないわ。
放送:政府による特別宣言D-17が発令されました。市民の皆様は速やかに指定の場所へ避難してください。
放送:第6、第7ブロックを優先に、各区長の指示に従い、速やかに移動願います。
放送:市内における避難はすべて完了。
放送:部内警報Cによる、非戦闘員およびD級勤務者の待避、完了しました。
リツコ:やるの?本気で?
ミサト:ええ、そうよ。
リツコ:あなたの勝手な判断で、EVAを3体とも棄てる気?
リツコ:勝算は0.00001%。万に一つもないのよ。
ミサト:0ではないわ。EVAに賭けるだけよ。
リツコ:葛城三佐!
ミサト:現責任者は私です!
ミサト:やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です。
リツコ:仕事?笑わせるわね。
リツコ:自分のためでしょ?あなたの使徒への復讐は。
Bパート
アスカ:えーっ、手で、受け止める!?
ミサト:そう。落下予測地点にEVAを配置、A.T.フィールド最大で、あなたたちが直接、使徒を受け止めるのよ。
シンジ:使徒がコースを大きく外れたら…?
ミサト:その時はアウト。
アスカ:機体が衝撃に耐えられなかったら?
ミサト:その時もアウトね。
シンジ:勝算は?
ミサト:神のみぞ知る、と言ったところかしら。
アスカ:これでうまく行ったら、まさに奇跡ね。
ミサト:奇跡ってのは、起こしてこそ初めて価値が出るものよ。
アスカ:つまり、何とかして見せろ、って事?
ミサト:すまないけど、ほかに方法がないの。この作戦は。
アスカ:作戦と言えるの!?これが!
ミサト:ほんと、言えないわね。だから、いやなら辞退できるわ。
アスカ・レイ・シンジ:…
ミサト:みんな、いいのね?
ミサト:一応規則だと遺書を書くことになってるけど、どうする?
アスカ:別にいいわ。そんなつもりないもの。
レイ:私もいい。必要、ないもの。
シンジ:僕もいいです。
ミサト:すまないわね。終わったらみんなにステーキおごるから!
アスカ:えぇっ、ほんと!?
ミサト:約束する!
シンジ:ワァーイ!
アスカ:忘れないでよ!
ミサト:期待してて!
シンジ:ご馳走といえばステーキで決まりか…
アスカ:今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら。これだからセカンドインパクト世代って、貧乏臭いのよねぇ。
シンジ:仕方がないよ、そんなの。
アスカ:フン、何が「ワァーイ」よ、大袈裟に喜んだりしちゃってさ。
シンジ:それでミサトさんが気持ちよく指揮できるんなら、いいじゃないか!
アスカ:さてと、せっかくご馳走してくれるって言うんだもの、ど・こ・に・し・よ・う・か・なっと!
アスカ:あんたも今度はいっしょに来るのよ。
レイ:私、行かない。
シンジ:どうして?
レイ:肉、嫌いだもの。
マヤ:使徒による電波撹乱のため、目標喪失。
ミサト:正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータから、MAGIが算出した落下予想地点が、これよ。
アスカ:こんなに範囲が広いの?
シンジ:端っこまで随分ありますよ。
リツコ:目標のA.T.フィールドをもってすれば、そのどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができるわ。
ミサト:ですから、EVA全機をこれら三個所に配置します。
レイ:この配置の根拠は?
ミサト:勘よ。
シンジ・アスカ:カン?
ミサト:そう。女の勘。
アスカ:何たるアバウト、ますます奇跡ってのが遠くなっていくイメージね。
シンジ:ミサトさんのクジって、当たった事ないんだ…
アスカ:ゲェ!
シンジ:ねぇ。
アスカ:何よ!
シンジ:アスカはなぜEVAに乗ってるの?
アスカ:決まってるじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ。
シンジ:自分の存在を?
アスカ:まぁ、似たようなものね。あの子には聞かないの?
シンジ:綾波には、前聞いたんだ。
アスカ:ふーん。仲のおよろしいこと。
シンジ:そんなんじゃないよ。
アスカ:シンジはどうなのよ。
シンジ:分からない。
アスカ:分からないって…あんた、バカぁ?
シンジ:…そうかもしれない。
アスカ:…ほんとにバカね。
オペレータ:落下予測時間まで、後120分です。
ミサト:みんなも待避して。ここは私一人でいいから。
シゲル:いえ、これも仕事ですから。
マコト:子供たちだけを危ない目に逢わせられないっすよ。
ミサト:あの子達は大丈夫、もしEVAが大破してもA.T.フィールドがあの子達を護ってくれるわ。EVAの中が一番安全なのよ。
ミサト:シンジ君、昨日聞いてたわね。私がどうしてNERVへ入ったのか。
BGM:1-5
ミサト:私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許せなかった。憎んでさえいたわ。
シンジ:(父さんと同じだ…)
ミサト:母や私、家族のことなど、構ってくれなかった。周りの人たちは繊細な人だといってたわ。
ミサト:でもほんとは心の弱い、現実から、私たち家族という現実から、逃げてばかりいた人だったのよ。子供みたいな人だったわ。
ミサト:母が父と別れたときも、すぐ賛成した。母はいつも泣いてばかりいたもの。
ミサト:父はショックだったみたいだけど、その時は自業自得だと笑ったわ。
ミサト:けど、最後は私の身代わりになって、死んだの。セカンドインパクトのときにね。
ミサト:私には分からなくなったわ。父を憎んでいたのか好きだったのか。
ミサト:ただ一つはっきりしているのは、セカンドインパクトを起こした使徒を倒す。そのためにNERVへ入ったわ。
ミサト:結局、私はただ父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない。父の呪縛から逃れるために。
シンジ:(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)
シンジ:(そう、逃げちゃだめだ。)
BGM:2-13
シゲル:目標を最大望遠で確認!
マコト:距離、およそ2万5千!
ミサト:おいでなすったわね…EVA全機、スタート位置!
ミサト:目標は光学観測による弾道計算しかできないわ。よって、MAGIが距離1万までは誘導します。その後は各自の判断で行動して。あなたたちにすべて任せるわ。
シゲル:使徒接近、距離、およそ2万!
ミサト:では、作戦開始!
シンジ:行くよ!
レイ・アスカ:…
シンジ:スタート!
シゲル:距離、1万2千!
シンジ:フィールド全開!
シンジ:うっ、ぐぁぁ…
レイ:弐号機、フィールド全開!
アスカ:やってるわよ!
シンジ:今だ!
アスカ:こんのぉーーーーーっ!
BGM停止
アスカ:ふふーん!
シゲル:電波システム、回復。南極の碇司令から、通信が入っています。
ミサト:お繋ぎして。
シゲル:はい。
ミサト:申し訳ありません。私の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて私にあります。
冬月:構わん。使徒殲滅がEVAの使命だ。その程度の被害はむしろ幸運と言える。
ゲンドウ:ああ、よくやってくれた、葛城三佐。
ミサト:ありがとうございます。
ゲンドウ:ところで初号機のパイロットはいるか?
シンジ:あ、はい。
ゲンドウ:話は聞いた。よくやったな、シンジ。
シンジ:え?はい…
ゲンドウ:では葛城三佐、後の処理は任せる。
ミサト:はい。
車内放送:次は新宮ノ下、新宮ノ下、お出口、左側に変わります。
アスカ:さぁ、約束は守ってもらうわよ。
ミサト:はいはい、大枚おろしてきたから、フルコースだって耐えられるわよ。(…給料前だけどね)
アスカ:ミサトの財布の中身くらい、分かってるわ。無理しなくていいわよ。優等生も、ラーメンなら付き合うって言うしさ。
レイ:私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き。
アスカ:私は鱶鰭チャーシュー、大盛りね!
店主:へい、鱶鰭チャーシュー、お待ち!
シンジ:ねぇ、ミサトさん…
ミサト:なぁに?
シンジ:さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする。
シンジ:それに、分かったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、EVAに乗ってるのかもしれないって。
アスカ:あんた、そんな事で乗ってるの?
シンジ:…
アスカ:ほんとにバカね。