第拾弐話:奇跡の価値は/EPISODE12:She said, "Don't make others suffer for your personal hatred."

Last-modified: 2020-07-13 (月) 15:29:33

Aパート

ミサト:……お父さん?…

ヒデアキ:


ミサト:


トウジ:済まんなぁ、シンジ、雨宿りさせてもろて。

ケンスケ:ミサトさんは?

シンジ:まだ寝てるのかなぁ。最近徹夜の仕事が多いんだ。

トウジ:あー、大変な仕事やからなぁ。

ケンスケ:ミサトさんを起こさないように、静かにしていようぜ、静かに!

トウジ・ケンスケ:シィーッ!

アスカ:あーっ!あんたたち、何してんのよ!

シンジ:雨宿り。

アスカ:ハン、私目当てなんじゃないのォ!着替えてんだから、見たら殺すわよ!

トウジ:チックショー、アホンダラ!誰がおまえの着替えてんのをみたいっちゅうんじゃ!

ケンスケ:自意識過剰な奴。

トウジ:ん?お、おおおおお…

ケンスケ:お邪魔してます!

ミサト:あら、2人とも、いらっしゃい。お帰りなさい、今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね。

シンジ:はい。

ミサト:アスカも、わかってるわね?

アスカ:はーい!

ケンスケ:あぁん?わぁっ!このたびはご昇進、おめでとうございます!

トウジ:お、おめでとうございます!

ミサト:ありがとう…

ケンスケ:いえ、どういたしまして!

ミサト:じゃ、行ってくるわね。

トウジ・ケンスケ:いってらっしゃ~い!

シンジ:どうしたの?ミサトさんに何かあったの?

ケンスケ:ミサトさんの襟章だよ!線が2本になってる。一尉から三佐に昇進したんだ!

アスカ:へぇー、知らなかった。

シンジ:いつのまに…

トウジ:マジにいうとるんけぇ?情けないやっちゃなぁ。

ケンスケ:ぬぁぁ!君たちには人を思いやる気持ちはないのだろうか!

ケンスケ:あの若さで中学生二人を預かるなんて、大変なことだぞぉ!

トウジ:わしらだけやなぁ、人の心持っとるのは。


マヤ:0番2番、ともに汚染区域に隣接。限界です。

リツコ:1番にはまだ余裕があるわね。プラグ深度を後0.3下げてみて。

マヤ:汚染区域ぎりぎりです。

リツコ:それでこの数値?たいした物だわ。

マヤ:ハーモニクス、シンクロ率もアスカに迫ってますね。

リツコ:これを才能というのかしら?

オペレータ:まさに、EVAに乗るために生まれてきたような子供ですね。

ミサト:本人が望んでいなくてもね。

ミサト:きっとあの子は嬉しくないわよ。


リツコ:3人ともお疲れさま。

リツコ:シンジ君、よくやったわ。

シンジ:何がですか?

リツコ:ハーモニクスが前回より8も伸びているわ。たいした数字よ。

アスカ:でも私より50も少ないじゃん?

リツコ:あら、10日で8よ。たいした物だわ。

アスカ:たいした事ないわよ!良かったわねぇ、お褒めの言葉を頂いて。

シンジ:はぁ…

アスカ:先に帰るわ!バーカ!


シンジ:あ、あの、昇進おめでとうございます。

ミサト:ありがとう。でも、正直あまり嬉しくないのよね。

シンジ:それ分かります。僕もさっきみたいに誉められてもあまり嬉しくないし、逆にアスカを怒らせるだけだし…どうして怒ったんだろう…何が悪かったんだろう…?

ミサト:さっきの気になる?

シンジ:はい…

ミサト:そうして、人の顔色ばかり気にしているからよ。


トウジ・ケンスケ・ヒカリ・アスカ:おめでとうございまーす!

BGM:1-8

ミサト:ありがとう。ありがとう、鈴原君!

トウジ:ちゃうちゃう、言い出しっぺはこいつですねん。

ケンスケ:そう!企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!

ミサト:ありがとう、相田君。

ケンスケ:いぇ、礼を言われるほどのことは何も。とーぜんのことですよ!

トウジ:せやけど、なんで委員長がここにおるんや?

アスカ:私が誘ったのよ。

アスカ・ヒカリ:ねー!

ミサト:レイは?

アスカ:誘ったわよ、ちゃんと。でも付き合い悪いのよね、あの子。ふぅー、加持さん遅いわねぇ。

ヒカリ:そんなにかっこいいの、加持さんって?

アスカ:そりゃぁもう!ここにいるイモの塊とは月とスッポン、比べるだけ加持さんに申し訳ないわ。

トウジ:なんやてぇ?もう一遍いうてみぃや!

BGM停止

ミサト:まだだめなの?こういうの?

シンジ:いえ、ただ苦手なんです。人が多いのって。なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろう。

シンジ:…昇進ですか。それってミサトさんが人に認められたって事ですよね。

ミサト:ま、そうなるわね。

シンジ:だから、みんなこうして喜んでいるわけですよね。でも嬉しくないんですか?

ミサト:ぜんぜん嬉しくないって事はないのよ。少しはあるわ。でもそれが、ここにいる目的じゃないから。

シンジ:じゃあなんでここに…NERVに入ったんですか?

ミサト:さって、昔のことなんて忘れちゃった。


BGM:1-8

アスカ:きっと加持さんだわ!

アスカ:ん?

加持:本部から直なんでね。そこで一緒になったんだ。

ミサト・アスカ:怪しいわね。

リツコ:あらやきもち?

ミサト:そんなわけないでしょ!

加持:いや、このたびはおめでとうございます。葛城三佐。これからはタメ口聞けなくなったな。

ミサト:何言ってんのよ、ばーか。

加持:しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、前例のなかったことだ。これも、留守を任せた葛城を信頼してるって事さ。

シンジ:父さん、ここにいないんですか?

リツコ:碇司令は今、南極に行ってるわ。

BGM停止


冬月:いかなる生命の存在も許さない、死の世界、南極。

冬月:いや、地獄というべきかな。

ゲンドウ:だがわれわれ人類はここに立っている。生物として生きたままだ。

冬月:科学の力で護られているからな。

ゲンドウ:科学は人の力だよ。

冬月:その傲慢が15年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。

冬月:結果このありさまだ。与えられた罰にしてはあまりに大きすぎる。まさに死海そのものだよ。

ゲンドウ:だが、原罪の汚れなき、浄化された世界だ。

冬月:俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ。

オペレータ:報告します。NERV本部より入電。インド洋上、空衛星軌道上に使徒発見。


マコト:二分前に突然現れました。

BGM:2-12

オペレータ:第6サーチ、衛星軌道上へ。

オペレータ:接触まで後2分。

シゲル:目標を映像で捕捉。

職員:おおっ…

マコト:こりゃすごい!

ミサト:常識を疑うわね。

シゲル:目標と、接触します。

オペレータ:サーチスタート。

オペレータ:データ送信、開始します。

オペレータ:受信確認。

ミサト:A.T.フィールド?

リツコ:新しい使い方ね。


ミサト:たいした破壊力ね。さすが、A.T.フィールド。

マヤ:落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね。

リツコ:とりあえず、初弾は太平洋に大外れ。で、2時間後の第2射がそこ。後は確実に誤差修正してるわ。

ミサト:学習してる、ってことか。

マコト:N2航空爆雷も、効果ありません。

シゲル:以後、使徒の消息は不明です。

ミサト:来るわね、多分。

リツコ:次はここに、本体ごとね。

ミサト:その時は第3芦ノ湖の誕生かしら?

リツコ:富士五湖が一つになって、太平洋とつながるわ。本部ごとね。

ミサト:碇司令は?

シゲル:使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能です。

ミサト:MAGIの判断は?

マヤ:全会一致で撤退を推奨しています。

リツコ:どうするの?今の責任者はあなたよ。

ミサト:日本政府各省に通達。NERV権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを頼んで。

マコト:ここを放棄するんですか?

ミサト:いいえ。ただ、みんなで危ない橋を渡ることはないわ。

放送:政府による特別宣言D-17が発令されました。市民の皆様は速やかに指定の場所へ避難してください。

放送:第6、第7ブロックを優先に、各区長の指示に従い、速やかに移動願います。

放送:市内における避難はすべて完了。

放送:部内警報Cによる、非戦闘員およびD級勤務者の待避、完了しました。


リツコ:やるの?本気で?

ミサト:ええ、そうよ。

リツコ:あなたの勝手な判断で、EVAを3体とも棄てる気?

リツコ:勝算は0.00001%。万に一つもないのよ。

ミサト:0ではないわ。EVAに賭けるだけよ。

リツコ:葛城三佐!

ミサト:現責任者は私です!

ミサト:やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です。

リツコ:仕事?笑わせるわね。

リツコ:自分のためでしょ?あなたの使徒への復讐は。

Bパート

アスカ:えーっ、手で、受け止める!?

ミサト:そう。落下予測地点にEVAを配置、A.T.フィールド最大で、あなたたちが直接、使徒を受け止めるのよ。

シンジ:使徒がコースを大きく外れたら…?

ミサト:その時はアウト。

アスカ:機体が衝撃に耐えられなかったら?

ミサト:その時もアウトね。

シンジ:勝算は?

ミサト:神のみぞ知る、と言ったところかしら。

アスカ:これでうまく行ったら、まさに奇跡ね。

ミサト:奇跡ってのは、起こしてこそ初めて価値が出るものよ。

アスカ:つまり、何とかして見せろ、って事?

ミサト:すまないけど、ほかに方法がないの。この作戦は。

アスカ:作戦と言えるの!?これが!

ミサト:ほんと、言えないわね。だから、いやなら辞退できるわ。

アスカ・レイ・シンジ:

ミサト:みんな、いいのね?

ミサト:一応規則だと遺書を書くことになってるけど、どうする?

アスカ:別にいいわ。そんなつもりないもの。

レイ:私もいい。必要、ないもの。

シンジ:僕もいいです。

ミサト:すまないわね。終わったらみんなにステーキおごるから!

アスカ:えぇっ、ほんと!?

ミサト:約束する!

シンジ:ワァーイ!

アスカ:忘れないでよ!

ミサト:期待してて!


シンジ:ご馳走といえばステーキで決まりか…

アスカ:今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら。これだからセカンドインパクト世代って、貧乏臭いのよねぇ。

シンジ:仕方がないよ、そんなの。

アスカ:フン、何が「ワァーイ」よ、大袈裟に喜んだりしちゃってさ。

シンジ:それでミサトさんが気持ちよく指揮できるんなら、いいじゃないか!

アスカ:さてと、せっかくご馳走してくれるって言うんだもの、ど・こ・に・し・よ・う・か・なっと!

アスカ:あんたも今度はいっしょに来るのよ。

レイ:私、行かない。

シンジ:どうして?

レイ:肉、嫌いだもの。


マヤ:使徒による電波撹乱のため、目標喪失。

ミサト:正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータから、MAGIが算出した落下予想地点が、これよ。

アスカ:こんなに範囲が広いの?

シンジ:端っこまで随分ありますよ。

リツコ:目標のA.T.フィールドをもってすれば、そのどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができるわ。

ミサト:ですから、EVA全機をこれら三個所に配置します。

レイ:この配置の根拠は?

ミサト:勘よ。

シンジ・アスカ:カン? 

ミサト:そう。女の勘。

アスカ:何たるアバウト、ますます奇跡ってのが遠くなっていくイメージね。

シンジ:ミサトさんのクジって、当たった事ないんだ…

アスカ:ゲェ!


シンジ:ねぇ。

アスカ:何よ!

シンジ:アスカはなぜEVAに乗ってるの?

アスカ:決まってるじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ。

シンジ:自分の存在を?

アスカ:まぁ、似たようなものね。あの子には聞かないの?

シンジ:綾波には、前聞いたんだ。

アスカ:ふーん。仲のおよろしいこと。

シンジ:そんなんじゃないよ。

アスカ:シンジはどうなのよ。

シンジ:分からない。

アスカ:分からないって…あんた、バカぁ?

シンジ:…そうかもしれない。

アスカ:…ほんとにバカね。


オペレータ:落下予測時間まで、後120分です。

ミサト:みんなも待避して。ここは私一人でいいから。

シゲル:いえ、これも仕事ですから。

マコト:子供たちだけを危ない目に逢わせられないっすよ。

ミサト:あの子達は大丈夫、もしEVAが大破してもA.T.フィールドがあの子達を護ってくれるわ。EVAの中が一番安全なのよ。


ミサト:シンジ君、昨日聞いてたわね。私がどうしてNERVへ入ったのか。

BGM:1-5

ミサト:私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許せなかった。憎んでさえいたわ。

シンジ:(父さんと同じだ…)

ミサト:母や私、家族のことなど、構ってくれなかった。周りの人たちは繊細な人だといってたわ。

ミサト:でもほんとは心の弱い、現実から、私たち家族という現実から、逃げてばかりいた人だったのよ。子供みたいな人だったわ。

ミサト:母が父と別れたときも、すぐ賛成した。母はいつも泣いてばかりいたもの。

ミサト:父はショックだったみたいだけど、その時は自業自得だと笑ったわ。

ミサト:けど、最後は私の身代わりになって、死んだの。セカンドインパクトのときにね。

ミサト:私には分からなくなったわ。父を憎んでいたのか好きだったのか。

ミサト:ただ一つはっきりしているのは、セカンドインパクトを起こした使徒を倒す。そのためにNERVへ入ったわ。

ミサト:結局、私はただ父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない。父の呪縛から逃れるために。

シンジ:(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)

シンジ:(そう、逃げちゃだめだ。)


BGM:2-13

シゲル:目標を最大望遠で確認!

マコト:距離、およそ2万5千!

ミサト:おいでなすったわね…EVA全機、スタート位置!

ミサト:目標は光学観測による弾道計算しかできないわ。よって、MAGIが距離1万までは誘導します。その後は各自の判断で行動して。あなたたちにすべて任せるわ。

シゲル:使徒接近、距離、およそ2万!

ミサト:では、作戦開始!

シンジ:行くよ!

レイ・アスカ:

シンジ:スタート!

シゲル:距離、1万2千!

シンジ:フィールド全開!

シンジ:うっ、ぐぁぁ…

レイ:弐号機、フィールド全開!

アスカ:やってるわよ!

シンジ:今だ!

アスカ:こんのぉーーーーーっ!

BGM停止


アスカ:ふふーん!

シゲル:電波システム、回復。南極の碇司令から、通信が入っています。

ミサト:お繋ぎして。

シゲル:はい。

ミサト:申し訳ありません。私の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて私にあります。

冬月:構わん。使徒殲滅がEVAの使命だ。その程度の被害はむしろ幸運と言える。

ゲンドウ:ああ、よくやってくれた、葛城三佐。

ミサト:ありがとうございます。

ゲンドウ:ところで初号機のパイロットはいるか?

シンジ:あ、はい。

ゲンドウ:話は聞いた。よくやったな、シンジ。

シンジ:え?はい…

ゲンドウ:では葛城三佐、後の処理は任せる。

ミサト:はい。


車内放送:次は新宮ノ下、新宮ノ下、お出口、左側に変わります。

アスカ:さぁ、約束は守ってもらうわよ。

ミサト:はいはい、大枚おろしてきたから、フルコースだって耐えられるわよ。(…給料前だけどね)


アスカ:ミサトの財布の中身くらい、分かってるわ。無理しなくていいわよ。優等生も、ラーメンなら付き合うって言うしさ。

レイ:私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き。

アスカ:私は鱶鰭チャーシュー、大盛りね!

店主:へい、鱶鰭チャーシュー、お待ち!

シンジ:ねぇ、ミサトさん…

ミサト:なぁに?

シンジ:さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする。

シンジ:それに、分かったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、EVAに乗ってるのかもしれないって。

アスカ:あんた、そんな事で乗ってるの?

シンジ:

アスカ:ほんとにバカね。