『ザ・フェッツの解放宣言』は、1992年、早稲田大学映画研究会制作(映研)の自主映画。ザ・フェッツ結成のきっかけであり、ザ・フェッツが制作・主演している。製作総指揮、ジョージ・ネクロフ、監督・脚本、トニー・カニバル。
概要
ザ・フェッツのメンバーによる青春&アクション&ラブストーリーである。劇中の映画評論家JUNが言うには、『愛と友情と対立と暴力の物語』であるが、これは劇中劇に対する評論である。
多重のメタフィクション構造を持っていて、それを含めると、やはりJUNが言う『ヌーヴェル・ヌーヴェル・ヌーヴェルバーグ映画』であるのかもしれない。
ヌーヴェルバーグ映画は1950年代末に始まったフランスにおける映画運動のことで、「新しい波」を意味する。映画撮影所における助監督等の下積み経験なしにデビューした若い監督たちによる、ロケ撮影中心、同時録音、即興演出などの手法的な共通性がある。
当作も映研のある種古典的な映画作りに対抗して、小型ビデオカメラを用いて、ロケ撮影中心で即興演出を行うなど、ヌーヴェルヴァーグの特徴を有している。
当時の映研では8ミリフィルムでの撮影が主流であったが、当作はビデオカメラ(主にVHS-C)で撮影されている。フィルム代や現像代などコストが高い8ミリフィルムでは、フィルムを無駄にしないために事前に脚本や絵コンテを準備し、リハーサルを繰り返して本番を迎える。それに対しコストが抑えられるビデオ撮影では、事前準備をせず、その場で演出する即興演出や、長回しが可能であった。また作動音が静かであることから、ゲリラ撮影にも向いている。
冒頭でタマーが『私は今日ここに、全人類のあらゆる束縛からの解放を宣言いたします』と言っている。それは劇中作としてのテーマであるが、トニーが早稲田大学に入学して感じた「不自由」で「不平等」、「不公平」、「常識的」「権威主義的」ななにものかからの「解放」が真のテーマである。映画の中ではラストシーンで、劇中の権威の象徴である映画評論家を処刑、実際の権威の象徴といえる東京都庁を使って宇宙に打ち上げている。
とはいえ、メッセージ性はコメディに包み込んで、エンターテイメントに徹している。
また解放する対象であるはずの映画だが、劇中には名作映画へのオマージュが散りばめられ、映画に対するロマンと憧れがあふれ出している。
当作はザ・フェッツそのものであり、彼らの青春である。
- 時間:1時間24分
- 比率:4:3
- 音声:モノラル
- 言語:日本語
ストーリー
秘密組織のメンバーであるトニー(が演じる男。役名無し)は、組織のボス(おやじ)に東京タワーに呼び出された。しかしそれは対立する組織のメンバーであるジョージ(が演じる男。役名無し)の罠であった。
タマー(が演じる男。役名無し)もおやじから、花やしきに呼び出された。しかしこれもジョージの罠だった。危機一髪のところを駆けつけたトニーによって助けられる。
ジョージを隅田川の河原に連れて行き、そこで殺そうとするが、ジョージがポケットからカズーを取り出し吹いてみせる。同じ田舎から上京してきた幼なじみである三人にとって、カズーは友情の証であり、動揺した二人はジョージを取り逃がしてしまう。
タマーとトニーは同じ女に惹かれていた。しかしその間もジョージの組織による攻撃は続き、タマーとトニーの組織にも魔の手が迫り、とうとうおやじがジョージによって射殺されてしまう。
おやじの墓に復讐を誓うタマーとトニーだが、死ぬのはひとりで良いと、トニーは抜け駆けする。
港公園にジョージを呼び出し、トニーは決闘を申し込む。ところがジョージの卑怯な手でトニーは怪我を負う。とどめの一発がトニーに放たれる瞬間、タマーが助けに入る。そして3人の友情と愛情に決着がつけられる。
以上が劇中劇のストーリーとなる。
登場人物
- タマー(役名なし):主人公の一人。冒頭で解放宣言し、劇中紡がれるラブストーリーの主役である。ジョージ、トニーと同じ高校の出身で、同じ大学に入学した。入学直後にトニーとともにおやじにオルグされ、おやじの政治組織に所属する活動家。おやじの指示のもと、"任務"についている。
- ジョージ(役名なし):主人公の一人。当作の敵役である。白いキャップ、サングラス、どてらがトレードマーク。入学直後に手かざしサークルに捕まったことで、おやじからオルグされなかった。おやじの敵対組織に属する活動家で、焚書坑儒活動を活発化している。カズーを得意としている。
- トニー(役名なし):主人公の一人。トニーは監督しながら出演しているので、いくつかのシーンで、トニーがアクションのきっかけを作っているのが見て取れる。当作のコメディリリーフ的立ち位置だが、それもタマーとジョージの対立軸を強調するためと考えられる。黒い帽子と黒いコートがトレードマーク。おやじの政治組織に所属する活動家。"女"に片思いをしている。
- おやじ:タマーとトニーを大学の入学式後にオルグし、自分がボスをする政治組織に引き込んだ。まさやという同志で彼氏がいる。スパイ映画が好き。
- 女:トニーからは"ハニー"と呼ばれるが、それがニックネームなのかどうかは不明。タマー、トニーと一緒に花見をし、その後タマーとはデートする仲になるが、実はジョージと同じ組織のスパイ。
- まさや:おやじの組織の活動家。おやじの彼氏である。活動に嫌気がさし、投身自殺する。俳優で投身自殺した沖雅也が名前の由来。
- 乞食の同志:おやじの組織の活動家。地下通路を寝床としている。
- ジョージの子分:ジョージの組織の活動家。少しトロいところがあり、決闘の際にジョージがズルをしたことを理解していない。
- 子ども達:ジョージの組織と関係があるかは不明だが、タマーとトニーを突然襲う。

- 図書館の男:読んでいた本をジョージに奪われる。
- 先代:おやじの組織の先代ボス。すでに故人であり、事務所に遺影が飾られている。
- 手かざしの男:大学の入学式後に、ジョージに手かざしをする。
- プロデューサー:劇中映画のプロデューサー。プロデューサーでありながら、監督を差し置いて撮影を止めたり、役者を鼓舞するなどパワフル。差別主義者であり、ジョージ、タマー、トニーを『あんたたちねえ、〇〇じゃないの?(〇〇はピー音が被せられている)』という。お説教のシーンはのび太のママのイメージ。
- 映画解説者JUN:劇中映画を紹介する番組『銀幕劇場 My Favorite Movie』のホスト。ピアノは得意だが、手品は苦手。映画を支配する権威者であり、最後に処刑されるが、それもすべては彼の夢であった。映画評論家の水野晴夫がイメージ。
タイトル
『ザ・フェッツの解放宣言』というタイトルはトニーが考案した。
この映画を作るきっかけとなったのは、映画化することを考えずにビデオカメラを回して遊んでいた3人が、ある写してはいけないものを写してしまった事件である。そしてそのことを厳しく追求され、写ってしまった部分は削除を求められ、また名前を名乗らされるなど、3人は恐怖を感じた。そのことに対する復讐の意味も込めて、その時に消えずに残った部分を活かし映画化することとし、また『解放宣言』という言葉にも意味が込められた。
『ザ・フェッツの』という部分は、『ドリフターズの』『クレージーの』といったプログラムピクチャー的なおかしみの要素を加え、『解放宣言』というおどろおどろしい言葉の印象を中和している。
そしてこのタイトルから、『ザ・フェッツ』という名前も生まれた。
構造
『ザ・フェッツの解放宣言』はメタフィクションの構造を持つが、大まかに考えると三層構造になっている。OPとEDの両方にスタッフロールが流れるが、OPでは製作総指揮はH氏であり、EDでは製作総指揮はジョージとなる。実際の製作総指揮はジョージであり、H氏は劇中でプロデューサー役を演じている。
- (第一階層)
- (第二階層)銀幕劇場OP、製作総指揮はH氏
- (第三階層)劇中劇
- 東京タワーの罠
- 都庁での解放宣言
- 解放宣言OP
- 花やしきの罠
- 隅田川での友情確認
- (回想)仲のよかった3人
- (回想)ジョージとの別れ
- タマーとトニーと女のデート
- ジョージ、図書館を襲う
- ジョージ、浮浪者を襲う
- 焚書
- 飛んだマサヤ
- 子供たちに襲われるタマーとトニー
- 銀幕劇場の休憩
- ジョージ、タマーとトニーを襲う
- プロデューサーのすり下ろし
- 女はジョージに通じていた
- ジョージがおやじを襲う
- おやじの墓参り
- 決闘
- 銀幕劇場の解説
- 葬儀
- (第二階層)銀幕劇場OP、製作総指揮はH氏
- 解放宣言ED、製作総指揮はジョージ
- 銀幕劇場ED
- 銀幕劇場ED
スタッフ
- トニー・カニバル 監督、脚本、編集、アニメーション
- ジョージ・ネクロフ 撮影、照明、音楽
- 効果音、題字 タマー
トニーがジョージと事前に大まかなプランを考え、その場で役者の演出やセリフ付けを行った。
撮影は主にジョージが行い、ジョージ出演シーンではトニーがカメラを回した。二人が出演する場合は、三脚に据え置いて撮影したが、スタッフがいる場合には任せることもあった。
音楽はジョージがキーボードを使ってアフレコした。プリセット音源を使っているが、コード進行に加え、メロディを演奏しているシーンもある。
タマーは効果音を得意としている。東京タワーでのトイレシーンは、タマーが急須と皿を使って効果音を付けている。また題字やスタッフロールの筆文字は、すべてタマーが書いている。
スタッフロール
オープニングとエンディングとではスタッフロールが異なる。オープニングは劇中の設定であるためだが、映画プロデューサー役のH・K氏がオープニングクレジットでは「製作」とされている。
以下はエンディングのスタッフロールである。実際は本名がクレジットされているが、ここでは芸名、もしくはイニシャル表記とした。()内は役名、もしくは役どころ。
出演
- トニー・カニバル
- タマー
- ジョージ・ネクロフ
- K・Y(女)
- T・S(おやじ)
- O・Y(ジョージの子分)
- K・H(図書館で本を奪われる男ほか)
- W・K(まさや)
- O・K(乞食の同志)
- T・N(手かざしする男)
- O・R(遺影の男)
- 鶴巻南公園の子供達とネコ
- プッキー(マネキン)
- M・J(映画解説者JUN)
- H・K(プロデューサー)
協力
- 東京タワー
- 浅草花やしき
- (株)西武鉄道
- NASA
製作総指揮
ジョージ・ネクロフ
監督・脚本
トニー・カニバル
1992年度
早稲田大学映画研究会
ロケ地
新宿区
- 早稲田大学
- 大隈重信銅像(GoogleMap)
- 早稲田大学総合学術情報センター(GoogleMap)
図書館のシーン - 早稲田大学6号館屋上(GoogleMap)
プロデューサーを葬送行進曲で送るカット - 早稲田大学第二学生会館(GoogleMap)
『銀幕劇場』の各シーン、タマーとトニーが属する組織の事務所のシーン、マサヤのシーン
- 公衆電話(GoogleMap)
- 東京メトロ早稲田駅(GoogleMap)
- 鶴巻南公園(GoogleMap)
ゴミを埋めるシーン、子ども達にタマーとトニーが襲われるシーン、タマーが女と遊ぶシーン - 戸山公園(GoogleMap)
タマーとトニーが女と花見をするシーン - 戸山公園お手洗い(箱根山北)(GoogleMap)
プロデューサーをすりおろすシーン - 百人町ふれあい公園(GoogleMap)
本を焼くシーン - 新都心歩道橋(GoogleMap)
葬送のマスクを一斉に外すシーン - JR新宿駅東口広場(GoogleMap)
歩道橋のシーンのあと踊りまくるシーン - 東京都庁(GoogleMap)
タマーが解放宣言するシーン
港区
台東区
- 浅草花やしき(GoogleMap)
タマーがジョージに誘い出されたシーン。回転するゴンドラはBeeタワー(旧人工衛星塔)といい、浅草花やしきのシンボルであったが、惜しくも2016年に撤去された。このシーンで『第三の男』のテーマが流れるのは、『第三の男』の名シーンである観覧車のシーンのオマージュのため。『スイス500年の平和は何を生んだ?鳩時計さ。フランス100年の戦乱はルネッサンスを生んだ』というジョージのセリフも、『第三の男』のセリフそのものである。
墨田区
- 隅田川のテラス(GoogleMap)
浅草花やしきから殺すためにジョージを連れてきたシーン。 - アサヒビールのビアホール(GoogleMap)
ジョージが『友情ってなんなんだー』と踊るシーン。フランス人デザイナー、フィリップ・スタルクがデザインした炎をモチーフとした金色のオブジェが有名。炎というよりも、う〇こにしか見えない。次のシーンではおやじがカレーを食べているが、う〇こを連想をする。同様にプロデューサーの顔を壁にこすりつけるシーンの後、おやじが大根おろしを食べるシーンにつながる。
文京区
撮影手法
- メタフィクションとは、それが作り話であると意図的に観客に気づかせることで、虚構と現実の問題について提示すること。当作では映画解説者が直接観客に話しかけたり、劇中劇に登場する。またプロデューサーが劇中劇を止める。トニーは初登場のシーンでカメラ目線をするが、これもメタフィクション的な要素である。
実際の上映会では劇中のトイレ休憩シーンで、トイレに行ったものがいる。これはわざと挑発に乗ったものといえる。
機材
- ビデオカメラ
ジョージが家から持ってきたVHS-Cのビデオカメラがメイン機。小型ビデオカメラゆえに携帯が簡単で、鶴巻南公園で子供たちにタマーとトニーが襲われるシーンは、映画化する意図なくカメラで遊んでいたため偶然撮影する事ができた。
劇中子供たちに襲われる前にトニーはメガネをかけるが、これは辻褄を合わせるためである。
終盤の東京都庁の引きのカットや、『To be continued』のテロップ、エンドクレジットなどは、トニーが余った合宿費を流用して買ったHi-8カメラで撮影したものである。オートの露出やテロップ機能、スローシャッターなどのカメラの機能を使っている。
- 広角レンズ
室内のシーンで多用した第二学生会館の部屋は狭いので、ジョージは広角レンズを用意したが、それはジョージの兄のメガネのレンズであった。そのため褶曲が激しく、却って狂気の世界を写し出すことに成功している。
- 編集機
映研の先輩から、いらなくなったVHSの編集機をもらってきて、タマーの部屋に設置した。業務用機で、数十キロもある大型のもの。フライングイレースヘッドという仕組みにより、きれいに編集することができる。またアフレコもできる。
それでもフィルムや、のちのノンリニア編集と比べると、リニア編集といって頭から順番につないでいかねばならず、この編集に慣れていない前半は間が悪い。
- スーパーファミコン
効果音はタマーが急須と皿で放尿シーンを作るなど、生音を入れる方法と、シンセサイザーのプリセット音源を使ったが、アクションシーンではスーパーファミコンのゲームの音声も使った。タマーをトニーが殴り倒すシーンでは、ストリートファイター2の効果音が当てられた。
衣装
- タマーはブラウンのハンチングとグリーンのコートが基本。映画解説者JUNの葬儀シーンでは黒いマスクをしているが、これは当時トニーが住んでいた立川の第一デパートにあった、面白グッズ店で買った「カラスマスク」である。
- ジョージは白いキャップにサングラス、紺のどてらが基本。これはタマーの部屋にあったものを借用している。レイバンのサングラスは、撮影で傷だらけになり、タマーが愚痴っている。
- トニーは黒いハットに黒いコートが基本。中原中也をイメージしている。当時高田馬場にあったアメカジショップ『US VANVAN』で購入したもの。『US VANVAN』は安いだけが取り柄だが、貧乏学生や映画・演劇をやっている学生には重宝された。
小道具
- カズー
3人の友情の証である楽器。金属の筒に薄い膜が貼ってあり、筒を口にくわえて「ウー」と唸ると、膜が震えて音が出る。管楽器に近い音が出る。ジョージはシンセサイザーや民族楽器への造詣が深く、「ジューズハープ」にはまっていたときもある。
- 銃
決闘シーンでは合計5丁程度の銃が確認できる。トニーは銃身の短いリボルバー型、ジョージは決闘のシーンでは火縄銃?、その後の銃撃戦では銃身の長いオートマチック型、ジョージの子分は照準器を付けたオートマチック型、タマーは銃身の長いリボルバーを使っている。その後、女が銃身の短いリボルバー型を使っているが、これはトニーが持つものと同じ小道具か。この銃身の短いリボルバー型は火薬を装填できるようで、女がタマーを撃つシーンでは煙が確認できる。
東京タワーや花やしきのシーンではジョージがこの銃身の短いリボルバーを使っている。
またジョージがおやじを殺害するシーンでは、ショットガンを使っている。
これらの銃はメンバーのコレクションや、部室に転がっていたものなどを使ったと思われる。
考察
本作品は自主映画サークルの作品ということもあってか、古今の映画のオマージュ見受けられる。
- 『ルパン三世対複製人間』
主人公3人の性格付けを考えると、トニーがルパン、ジョージが次元、タマーは五右衛門といえる。ヒロインが主人公たちを裏切るところも似ている。ただし銭形警部に相当する登場人物はいない。
本作のクライマックスはJUNが宇宙空間に都庁ロケットで打ち上げられ、頭部のみが人工衛星となって地球を周回するシーンだが、ルパン三世対複製人間ではマモーの巨大な脳髄が宇宙空間に打ち上げられる。
ちなみにトニーとジョージが師事した白土武は、『ルパン三世 くたばれノストラダムス』を監督している。 - 『第三の男』
浅草花やしきのシーンは第三の男の、ウィーンの遊園地のシーンのオマージュである。タマーは旧友であり今は敵対しているジョージに遊園地で出会い、観覧車に一緒に乗る。このシーンでは第三の男のチターの調べが鳴り響いている。空中から下界をみていうジョージの言葉は、
反響
- 1年後輩のD氏は、トニーがD氏の新入生映画のメンターであった。新宿花園神社の境内で準備をする黒テントの脇で、役者である同期の女優に、「革命」と大きく墨書された紙を張ったフレームから、顔を突き出させた。黒テントの団員をして、そういうのはほかでやってほしいと言わせた。
そのようなアナーキーなD氏をして、上映直後に絶賛の感想を伝えてきた。
トニーは万人に受ける作品よりも、D氏ひとりに絶賛される方が嬉しかった。 - 2010年ごろ、当時の映研の2年先輩で、ピアフィルムフェスティバル等で受賞し、当時の自主映画界でも評価が飛び抜けて高く、将来を嘱望されていたK氏(フェッツって何?とは別人)と、ジョージが会う機会があった。K氏はジョージにアニメーション制作の方法について聞くためであった。
そのとき食事をしながら当時を振り返り『(ザ・フェッツの解放宣言には)正直、嫉妬しました』と述べた。
ジョージの所感では、脚本や絵コンテを作り込み、美術や音楽にもこだわるK氏にとって、それに反すようなアプローチの『ザ・フェッツの解放宣言』に、羨ましさを感じたのだろう。
エピソード
- トニーがフジテレビの就職面接の際、1分程度に再編集した『ザ・フェッツの解放宣言』のビデオテープを持参した。途中までにこやかに進んだ面接であったが、ビデオを流したところ面接官の表情が変わり、『これって、いじめじゃないの?』と発言した。もちろん面接は落ちた。
- 劇中トニーが公衆電話をかける直前に電柱の支線の黄色いカバーを見て『ロワ・ペトー?』と発言している。これは劇中にも出演する同期のK氏の映画にトニーが出演しているが、ロワ・ペトーとは映画の中の扇動者の名前であり、カバーにその名前が書いてあった。
- 決闘シーンは港区の埠頭公園にてロケがされた。ここは日本初の南極探検を記念した石碑が立っている。また同じく、トニーが最期に寄りかかったペンギンのオブジェがある。
解放宣言の公開からしばらくしたころ、写真週刊誌FLASHにて篠山紀信による連載がされていたが、ペンギン像のお腹の部分に赤い塗料が残っているのが分かる。
戦いの場となる船の遊具だが、当時のものはすでにないが、今も似たような船の遊具がある。
また手でハンドルを回転させて、小さな船をレール上で水平移動させる遊具がある。トニーにとどめをさすカットで、移動撮影に使われた。 - メタフィクション強調すべく、ザ・フェッツの3人でテレビ出演する計画がされ実行した。日本テレビ系列の『ズームイン朝』は見学にいった観客がテレビに映ることがある。そこでタマーの部屋で寝て起きて、早朝に当時麹町にあった日本テレビの局舎に衣装を着て向かった。ズームイン朝の放送画面に仲良く3人が映っているのは、画的にも面白いという期待があった。タマーの部屋に戻ってきたところビデオの録画に失敗していた。
- 映画解説者のシーンは第二学生会館の一室で撮影されたが、暗闇の中、レンブラントライトを当てている。画家レンブラントにちなんだライティング手法で、照明とは反対側の頬に三角形の照明が当たった部分ができる。人物をドラマチックに見せる効果がある。撮影のジョージがこだわった。
- 学生で賑わうキャンパスのシーンは1992年の4月に撮影された。サークルの新歓で賑わっているなか、学生服を着てゲリラ撮影していたため、新入生に間違われてたくさんのチラシをもらい、トニーはそれを手に持っている。
ジョージに手かざしをするT氏は、数日前に映研に入部したばかりの新入生であり、部室にいたところを駆り出された。
キャンパス内を俯瞰しカメラがパンすると大隈重信像の顔が大写しとなる大隈ショットは、照明用のポールの先端にカメラをくくりつけて撮影された。
続編
続編が企画され、一部脚本も書かれたが実現していない。
構想
- 1作目で人工衛星となったJUNの首が、富士山に落下した。その首を探しに行くところから始まる。
- オープンカーによるロードムービーを構想していた。これは1990年の映画『Wild at Heart』の影響か?
- キャッチコピーは『今度は戦争だ!』。これは1986年の映画『エイリアン2』のキャッチコピーである。


