しんのすけとカムイ 第四話

Last-modified: 2009-05-29 (金) 02:32:46

“カムイ君が幼稚園に来るゾ!”

チュン…チュン…
日がまぶしい清々しい朝になり、スズメ達が元気に飛び回っていた。
「ホラ、しんのすけ!早く食べないと幼稚園に遅れるわよ!」
「ほ~い…」
しんのすけはかなり眠たそうだった。
「おはようごさいます」
カムイは2階から降りてきた。
「あらカムイ君、おはよう!」
「カムイ君、おはようございマクリスティ~♪」
「おはようしんのすけ、あれ…ひろしさんは?」
「もう会社へ出かけたわよ!」
「そうですか。早いですね」
するとしんのすけはテーブルから離れた。
「オラ、ウンコ…」
「もう…早くしなさい!」
カムイはテーブルに座った。
「昨日は本当にありがとうございました。」
「気にしなくてもいいのよ。ウチは賑やかの方がいいし」
「ハハ…」

カムイは朝食を食べていると
ピンポーン!
「野原さん!しんちゃんをお迎えにまいりました!」
しんのすけが通っているふたば幼稚園の先生、よしなが先生がもう迎えにきていた。
「あっ…もうこんな時間かぁ…しんのすけ、支度できたぁ?」
しかし
「まだぁ…あともう一本くらい出そう…」
しんのすけはトイレにこもっていた。
カクン…
「はあ…またか…」
みさえは肩を落とした。
「…どうしたんですか…?」
「あの子、またバスに乗り遅れるわ…」
「えっ…?」
そう…しんのすけはいつもトイレ(大)で幼稚園のお迎えバスに乗り遅れるのが日常茶飯事なため、みさえにとって大きな悩みだった。
「すいません…今日も無理みたいです…」
みさえはよしなが先生にペコペコ謝った。
「今日もですか…わかりました…」
ブロロロ…
バスは去っていった。

ジャアアア…
「ああ…スッキリした…」
しんのすけは満足そうにトイレから出てきた。
「もう!アンタはいつもいつも、間に合わせる気はないの!?」
みさえは叱るがしんのすけは全く効いてはいなかった。
「ふ…妖怪おベンピ-…」
ゴチン!
「うう……」
しんのすけはげんこつをくらい、その場に倒れる。
カムイは呆れてモノも言えなかった。
「…たくぅ…またしんのすけを送ってこなくちゃ…」
すると
「みさえさん!俺がしんのすけを送ってきましょうか?」
カムイはこう言い出す。
「えっ…?」
「昨日お世話になった事だし、俺も恩返しとまでいかないけど、役に立つことぐらいしたいです!」
しかしみさえは悩んでいた。
「だけど…カムイ君幼稚園の場所分かるの?」
するとしんのすけが立ち上がった。
「オラが教えるゾ!カムイ君、いこ!」
「しんのすけもそう言ってることだし、送ってきてもいいですか?」
内心、みさえにとって、とても嬉しいことだった。
「わかったわ…じゃあカムイ君、お願いね」
「はい!」

「じゃあしんのすけ、幼稚園まで案内してくれ!」
「ブ・ラジャー!!」

しんのすけはすぐに制服に着替えた。
「じゃあ行ってくるゾ!」
「しんのすけを送ってきます」
「カムイ君、頼んだわよ」
しんのすけとカムイは家を出て行った。「フフ…それにしてもカムイ君って礼儀正しいし、誠実でいい子よね…」
みさえはカムイに対しての印象が良かった。

ズババババ!
カムイは自転車を借り、全速力で幼稚園に向かった。
「うおお!カムイ君速すぎるゾぉ~!!」
「遅れたんだから、間に合わせる!ハジをかかないようにな!」「ハジ?」
「あっ…いや…こっちの話だ…」

キキーッ
しんのすけ達はふたば幼稚園に到着した。
「おお~い!只今オラ参上!」
するとみんなはしんのすけ達に気づく。
「あっ…しんちゃん!」
「よおしんのすけ!今日も自転車か?」
「うん!今日はカムイ君が送ってくれたんだゾ!」
すると、みんなはカムイに気付いた。
「あっ、昨日のカムイお兄ちゃん。おはようございます」
「おはよう、昨日はしんのすけの家に泊まったんだ」
風間君達はカムイが来て喜んだが、カムイを知らない子は顔を見てびっくりした。
「あの人…誰?」
「顔にウロコがついてるよ…なんか怪しい人…」
カムイを知らない子達はひそひそ話を始めた。
するとそこによしなが先生がやってきた。
「あらしんちゃん、今日も自転車?」
「おお!よしなが先生、今日はカムイ君に送ってもらったんだゾ!」
よしなが先生はカムイを方を見ると面食らった。
(げっ…怪しい人…顔にウロコがついてる…)
カムイの方も
(うっ…こっち見てる…)
少し気まずい雰囲気になった。

すると、よしなが先生が口を開いた。
「あのぅ……、あなたは…?」
「えっ…俺は…ある事情で昨日、しんのすけ君の家に泊めさせてもらった者です…」
「あら…そうなんですか…?」
二人の話がぎこちなかった。
するとしんのすけがしびれを切らす。
「んもう…カムイ君はウロコがあるだけであとは普通の怪しい人だゾ!」
バタっ…
「怪しくないわ!!」

「しんのすけ、俺もう行くから」
カムイは帰ろうとしたがしんのすけは引き止めた。
「カムイ君、せっかくだし幼稚園に遊んでいこうよぉ!」
カムイはしんのすけの言葉に戸惑う。
「えっ…でも俺がいたら迷惑じゃないか?しかも外見もアレだから変に思われないか?」
「大丈夫!オラに任せて!よしなが先生、カムイ君を幼稚園に入れていい?」
するとよしなが先生も困った顔をした。
「えっ…いきなり言われてもねぇ…この人の素性が分からないし…」
「よしなが先生、カムイ君はいいお兄ちゃんだゾ!顔がアレだけど」
「こっコラ!!」

すると
「…わかったわ。園長先生に相談してくるわ、少し待ってて」
カムイは顔を赤くした。
「すっ…すいません…」
そんなカムイにしんのすけは生意気に肩を叩く。
「ここはオラのおかげってことですなぁ」
「………」

しばらくして、よしなが先生は戻ってきた。
「園長先生が入園していいそうよ!こっちに来て入園手続きして下さい。」
するとしんのすけは大喜びだった。

「おお!組長太ももぉ!」
「それを言うなら太っ腹だろ!本当にすいません…」
「いいのよ、しんちゃんがそう言ってるし、園長先生がいいってゆうなら否定は出来ないわ」
カムイはよしなが先生に頭を下げた。

カムイは入園を許可されて、幼稚園に入っていった。

一方、女の子と黒いスーツを着た男がカムイ達を見ていた。 「黒磯、しん様のそばにいたあの男…どう思いますか?」
「個人的にあの男は得体がしれません。しんのすけ様と何か関係あるのでは…」
「私は見ず知らずの得体のしれない男が私のしん様のお家に泊まったのが許せません!
私はあの男を監視します」
「お嬢様、いけません。万が一お嬢様の身に何かあったら…」
黒磯という男が心配するも女の子は振り払う。
「心配は無用です!しん様の将来の花嫁、酢乙女あいがあの男の正体を掴んでみせますわ!」

――酢乙女あい――
しんのすけをこよなく愛するふたば幼稚園に通うお嬢様。
可愛く、礼儀正しく、同年代の男の子を虜にしているがお金持ちゆえ、時折人を小馬鹿にしたような言動が目立ち、ネネちゃんとは犬猿の仲である。
いつも黒磯というボディーガードと一緒に行動している――――

「カムイ君、一緒に遊ぼぉ!!」
「ああ!しんのすけ!」
「カムイお兄ちゃんと遊ぶ人、集まれ~!!」

カムイは子供達から一気に人気になった。元々、異生物同士のハーフということを除けば、常識にある普通の青年である。
しんのすけ達と出会ってから、今までのカムイより心が和らぎ、性格が変わりつつあった。

一方、日陰の草むらであのあいちゃんと黒磯が遊んでいるカムイを見ていた。
「む~ん…顔にウロコがついてるカムイって男…明らかに怪しいですわ」
「何か病気なのでしょうか?」
「黒磯、あなたはあの男に一体何者か聞いてきてください」
しかし黒磯は困った顔で否定した。
「おっお嬢様!それはちょっと…」
「何故ですか?」
「それは…いきなり前に現れて何者か尋ねるのは失礼にあたります」
するとあいちゃんは立ち上がった。
「もういいですわ!黒磯、私自ら行って聞いてきます!」
ダーッ!
あいちゃんはしんのすけ達の方へ走っていった。
「あっ!お嬢様!!」

一方、しんのすけ達はというと…
「今日のリアルおままごとは…」
ネネちゃんの恐怖のリアルおままごとが始まろうとしていた。
「ええ!?まじで言ってるの?」
ギロっ…
「何か…言った…?」
「いっ…いいえ…」
「「「はぁ……」」」
もうしんのすけ達はネネちゃんのペースにはまってしまった。
「なぁ…しんのすけ、リアルおままごとって何だ…?」
カムイは小さな声でしんのすけに聞いてみた。
「…やってみればわかるよ…」

ネネちゃんは《台本》と書かれた物を取り出した。
「じゃあ…カムイお兄ちゃんは初めてだから、江口洋介風のトレンディー俳優役ね!
あたしはアッキーナ風のグラビア系タレント役で私達は結婚して4年経ってる子供持ちのラブラブ夫婦よ」
「はっ?何だって?」カムイは全く役割が分からなかった。
「で、しんちゃんは二人の間に生まれた、とても可愛い男の子役、
風間君は私と二股かけてるJanne Da Arcのボーカルのyasu似のヴィジュアル系バンドマン役、
マサオ君は私の夫に恋してる一途な一般女性役で、ボーちゃんは…私達に忠実なペット犬でゴールデンレトリバー役ね」
さすがはネネちゃん…。リアルおままごとの考案者だけあって、役割がかなりドロドロしていた。
「「「「「…………」」」」」
男組は一気に黙りこんだ。いや…落ち込んでいた。

「さあ、始めるわよ!内容はいつもはラブラブな夫婦が仕事上、ストレスの関係で両方とも愛人を作り……(以下省略)」
(なっ…なんだこれは…本当に幼稚園児の考えるままごとか…? )
カムイは心の中で唖然としていた。

するとあいちゃんがカムイ達の方へやって来た。
「あっあいちゃん!ど…どうしたの…?」
マサオ君の顔は赤くなっていた。
「ちょっと…あんた、何しにきたのよ!!」
ネネちゃんはあいちゃんを睨みつけた。しかしあいちゃんはビビることなく平静としていた。
「あなたなんかに用はないですわ!」
「何ですって!!?」
2人とも犬猿の仲だけあって、今にも(ネネちゃんが)暴発しそうだ。
「二人ともやめなよ!!見苦しいよ!!」
風間君が2人の仲裁に立つ。が、
「「うるさいわね(ですわ)」」
「う……」
風間は2人の威圧に圧倒され、後ずさる。
「しんのすけ……あの子は一体誰だ…?」
カムイはまたしんのすけに小さい声で聞いてみた。
「あの子は酢乙女あい。お金持ちでオラのことが好きなんだゾ…」
「へぇ…良かったじゃん…
しかししんのすけは嫌な顔をする。
「ちっとも良くないゾ…オラ、あいちゃんは苦手だゾ…しつこいし、子供に興味ないゾ」
「お前…とんだマセガキだな…」
カムイは呆れてものが言えなかった。

するとあいちゃんはカムイの方へ向いた。
「私はカムイという方に用があるのです!」
「お…俺に…?」
カムイは驚いた。二人共、全くの初対面なのに用があることに。

「あなたは一体何者ですこと?顔にウロコがあるので気になってしょうがありません!」
「こっ…これは…」
カムイは黙り込んだ。
「しん様、あなたはこの方を昨日お泊めになったそうですね…」
「う…うん…」
あいちゃんはカムイを睨みつけた。
「あなたは見ず知らずの分際でこの私を差し置いて、私のしん様の家にお泊まりだなんて、勝手もいい所ですわ!」
(この子…何を言ってるんだ…?)
カムイは苦笑う。
「私はあなたを断じて許せません!決闘ですわ!」
あいちゃんの果たし状宣言にカムイは呆れる。
「はあ!?決闘!?」
「黒磯!例の物を!」
すると黒磯は草むらから飛び出してきた。
「いけませんお嬢様!このような所で!!」
「黒磯、私の言うことが聞けないのですか!?」

カムイ達は無言であいちゃん達を見ていた。
「なぁ…なんか変なことになってないか…」
「うん…」
「……変な予感……」

すると汗だくで黒磯は2本のフルーレ(フェンシング用のレイピア)を持ってきた。
あいちゃんはフルーレを持つと、剣先をカムイに向ける。
「私の得意分野であるフェンシングで勝負ですわ!さあ、フルーレを持ちなさい!」
あいちゃんはもう一本のフルーレをカムイの目の前に投げた。
「バカなまねはやめろ!」
カムイは止めようとしたが、あいちゃんはもうその気だった。
「私は生まれた時からフルーレを持っていましたのよ!フェンシング勝負で私に負けたらしん様にはもう関わらないで!」

(生まれた時からって…親はなんで持たしたんだ…?)
そんなやり取りをしている間に先生達と子供達が集まってきた。
「あいちゃん何やっているの!?カムイ君まで!」
よしなが先生はカムイ達を止めようとした。しかしあいちゃんは振りほどいた。
「よしなが先生、心配は無用ですわ!私はこの方に勝たないと気が済みませんわ!」
「何言ってるのよ!!上尾先生、何か言ってやってください!」
「あわわわわ……」
バタっ!(よしなが先生が倒れる音)

上尾先生はすっかり怯えきっていた。
「上尾先生!それでも幼稚園の先生ですか!?」

園長先生やばら組のまつざか先生まで駆けつけてきた。
「こらこら!一体どうしたんですか?」
「何やっているのよ一体!?」

「園長先生、まつざか先生!あいちゃんとカムイお兄ちゃんがフェンシングで決闘するんだって!」
「「なっなんだって(なんですって)!?」」
マサオ君がそう伝えると2人とも唖然とした。
仁侠顔の組長…いや園長先生とキツい性格のまつざか先生にはわけが分からなかった。

「子供が大人相手に決闘するなんていけません!!」
「そうよ!!どうみてもあいちゃんの方が不利よ!!」

園長先生達はあいちゃんを説得するもあいちゃんはもう本気モードに入っていた。
(あの子はもう本気だ…仕方ない…)
スッ…
カムイはフルーレを拾った。
「分かった…君がそこまでゆうなら相手をするよ!」

「「ええっ!!?」」
カムイの答えにみんなは驚いた。
「ダメですよ!大人が子供と決闘なんかしちゃあ!」
よしなが先生はカムイを説得するもカムイは聞き流した。
「もし君が勝ったら俺はこの幼稚園を去って、もうしんのすけとみんなには会わない!しかし俺が勝ったらもう決闘なんかしないでほしい!!」
その発言でみんなは驚愕する。
「よろしいですわ!その条件でいいですのよね?」
カムイはうなづいた。

「あわわわわ……」
上尾先生はパニック状態になりつつあったが…
すぽっ!
しんのすけは上尾先生のメガネを外した。上尾先生の目つきが変わる。
「おいっ!!ウロコ男と金持ち女、決闘頑張れよ!!」
なんとさっきの気弱な上尾先生から急変して、かなり男勝りな性格へと変貌した。
「うあ…上尾先生……」
先生達と子供達は上尾先生を見て、顔が青ざめた。

もう先生達や黒磯でも2人を止められなかった。
カムイ達の周りに風が通り過ぎる。