やわらか 第2話

Last-modified: 2013-06-17 (月) 12:09:17

メカザウルス・ツマミを倒して一週間後。早乙女研究所、所長室では竜馬とキューマルがジミおじさんに呼ばれていた。

「知っている通り、先週鬼塚君が非業の戦死を遂げた。
かといって恐竜帝国の侵攻はおさまらない。
……というわけで今日づけをもって新しいチームメンバーが加わった!!」

「おお~~っ!!」

「なら入ってきたまえ!!彼は三角諸島沖の海からやってきた、通りすがりのタコ君だあ!!」

……ドアから入ってきたのは海パン姿に首回りにうねうねと動いているタコ足をつけた厳つい男……あれ、この人物先週死んだはずの……。

「……あれ?曹長?」

「鬼塚?お前、死んだんじゃなかったのか?」

しかし通りすがりのタコと名乗る人物は首をゆっくり横に振った。

「鬼塚じゃねえ、俺は通りすがりのタコだ」

「「…………」」

絶対に本人にしか見えない、いや、こんなアホな格好と発言を平然と繰り出すのは本人以外あり得ない。

「まあみんな仲良くしてやってくれ!!
ちなみに今、新しい新型やわらかゲッターを開発中だから楽しみにしてくれたまえ」

「新型!!?強いんですか!?」

「当たり前だよ。君たちの現機より全ての性能がなんと10倍ははね上がっているぞ!!」

「超強力だーーっっ!!」

「そして、新しい機能もついているぞ。プールに屋台、遊園地モード、内部に冷蔵庫、アイスクリームサーバー、自動販売機、ありとあらゆる食べ物と設備と施設が完備されているっっ!!」

「凄く便利だーーっっ!!」

「…………」

「早く使いたいか?使いたいに決まってんだ、なあ?」

「使いた~~い!」

「……おい。まさか」

キューマルは嫌な予感に襲われた。

「では新型やわらかゲッターに説明書付きボックス、さらに今ならお徳、開発した私のサインと
さらにさらにゲッター用のメンテナンスセット一式をお付けしてなんとお値段、250000000円だあっっ!!!!」

「また売りつけるつもりかあオラァ!!!」

やはりそういう魂胆であった。

「ちなみにクレジット払いや代引では受け付けません、現金で指定された銀行の口座に振り込んでおいて下さい。確認次第、ロールアウトするので」

「こんのクソアフロヤロウ~~っっ!!」

……一方、恐竜帝国では。

「ゴール様、ニオン率いる地リュウ一族のエージェントが日本各地に例のウイルスをばら蒔きました」

「ふふ、よくやった。皮肉なものよ、とある人間に発見されたウイルス性疾患を我々に利用されるなんてな。
これで日本各地の戦車という戦車全てが使い物にならなくなるな……よしそうと決まれば数日後に早乙女研究所に総攻撃をかける、全メカザウルスの準備を急げ!!」

ゴールのいうウイルスとは一体……?
――次の日の明朝。竜馬はふと目覚める。

「……ん?」

何かがおかしい。いつもより体の位置が高く感じる。ゆっくり下を見ると……。

「……………………?」

キャタピラーと胴体が垂直に盛大に離れている……。段々脳が目覚めていく竜馬は……。

「むぎゃあああああああああああああああっっっ!!!」

やっと自分がおかしいことに気づいたのだ。

……すぐに早乙女研究所内はパニックに陥った。キューマル、ジェーン、そして何とか生きていたベイベ、戦車全てが竜馬と同じ状態になっていたのだ。

「ふんぬう!!」

通りすがりのタコが竜馬を元に戻そうと下に全力で押し込むが全く下がらない。

「強力な磁石かなんかで反発しあっているようだぜ……」

「俺も朝起きたらこんなになってたんだ、なんだこれは!?」

「で、お前らなんともないのか?」

「……ああ。離れている以外は普通に動かせるぜ」

「研究所内の戦車全てがこうなったようだな、まさか日本各地の戦車もこんな感じじゃあ……」

するとジミおじさんが慌てて三人の元にやって来た。

「君たちの異常が分かったぞ!!」

「な、なんだ!?」

「病名は……『ファナレル症候群』」

「ふぁ、ファナレル症候群……?肉離れの親分みたいなもんですか?」

「いやだから、ファナレル症候群だって」

ファナレル症候群……デビッド=ファナレル博士(1901~1975)によって発見された、戦車のみにかかるウイルス性疾患。
発症すると内部に強力な斥力が発生、砲塔部と車体がファナレてしまい本来の戦闘力が発揮できなくなる病気だ。

「おいニュースを見ろよ!!」

テレビを見るとニュースといともかしこも日本各地の戦車がファナレル症候群に発症している映像ばかり流れている。

自衛隊の防護班による迅速な対応により、感染体(キャリア)を次々に捕縛されていく。

「やっぱりボク達だけじゃなかったんですね」

「……だとするとこれはまさか恐竜帝国の仕業か?」

「ないとも言い切れんな。ともかく、問題はお前らのそれをどう治すかだ。お前らこのままファナレルが悪化すればゲッターに乗れんぞ」

「「…………」」

竜馬とキューマルは通りすがりのタコをじっと見つめる。

「なっ、なんだよ?」

「そういえばあなた、タコなのに水に浸からないで大丈夫なんですか?」

「当たりめえよ。元空挺団の……」

「空挺団……?」

「い、いやなんでもねえよ!!」

やはり彼は……いや、多分この二人はもはや分かっているだろう。

……それから数日後、ファナレル症候群が蔓延中の日本は米軍から特効薬を受領していた。
これにより内部のウイルスを無毒化できるらしいが……。

早乙女研究所でも最優先で受領していたのだが……。

「これを飲めってことですか……?」

竜馬の顔が真っ青だ。何故ならこの特効薬は錠剤なのだが、アメリカナズルなサイズあり、例えるならカーリングの玉程の大きさである。

「こ、こんなのどうやって飲み込めっていうんだよ!!」

キューマルも文句を垂らしている。こんなのクジラでもない限り一口で飲み込むのははっきり言って不可能だ。

二人は苦戦している最中であった。

《緊急事態、緊急事態!!南西120km地点より大量のメカザウルスが出現、早乙女研究所へ進行中、繰り返す――》

「「はあああっっ!!?」」

……よりによってこんな時に。しかも大量のメカザウルスとはどうも可笑しい。まさか総力戦か?

「ふざけんなよオイ」

「どうしますぅ!?」

竜馬とキューマルがファナレたままでしかも悪化している状態だ。これではゲッターに乗れないだろう――。

「いいや、まだ手がある」

通りすがりのタコに策があるのか、彼は自身げにそう言う。

「それはなんと――」

――そして格納庫、やわらかゲッターが起動しているが……。

「三号機、オッケーだ。一号機どうだ?」

一号機のモニターを見ると――。

「ふざけんなよオイ、なんで俺が乗らないといけないんだあ?」

なんとジミおじさんだった。しかしその顔を見ると嫌々そうである。
しかし二号機は誰が……。

「二号機……いいか?」

二号機の席には誰もいない。しかし壁という壁に不気味な白文字『不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満不満』と……。

「なんでジャニスまで乗せるんだよおお!」

「仕方ねえだろ、他に乗せるヤツいなかったんだ!」

ジャニス……まさか彼女まで乗せるとはこの機体にどう影響するか分からない……。

「ではいくぞ、やわらかゲッター発進!!」

通りすがりのタコが操縦幹を握り、格納庫から発進していった。

果たしてやわらかゲッターの運命やいかに……。

「うああああああっっ!!まだ未練あるのに~~っ」

『タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪タコ呪』

「おい、赤色で不吉なこと書くなよ!!!」