ゲッターギアス(1)

Last-modified: 2010-02-19 (金) 20:01:51

皇暦2010年8月10日。
神聖ブリタニア帝国は世界有数のサクラダイト産出国、日本に宣戦布告。
日本はその戦争に敗れブリタニアの属領となり、自由と権利と、名前を奪われた。
エリア11、それが敗戦国日本の名前。
イレブン、それが日本人の名前。
エリア11でイレブンはブリタニアの支配を受けいれるしかなかった。

 

そして、ブリタニアが日本との戦争中のある雨の強い日―――。
世界的なサクラダイト研究の権威だった二人の博士が殺害される。
彼らを殺したのは“流竜馬”。
研究者の一人、早乙女博士の研究に協力していたテストパイロットであった…。

 

いくつも折り重なった刻はいつしかほぐれ、ブリタニアの日本侵攻から既に7年の歳月が流れていた。
今、エリア11の古びた洋館にて、二人の男が蝋燭の明かりだけの暗がりで話をしている。
外は嵐。雷鳴が轟き、風が唸りをあげ、雨が洋館の窓を容赦なく叩いている。
「かつて…、この雷だけが死者をよみがえらせることが出来た」
「ひゃひゃひゃひゃ、だが生者と死者の境界は既に無きも同じ!
まもなくすればその境界も完全に取り払われる!
そう、あやつによってな、。ひゃひゃひゃひゃ!!」
「そう、死者と生者の間に壁はもろくも崩れ去りました。だが彼のやろうとしている事は分からなくもない。
もし彼の行おうとしていることが成功すれば人類に永久(とわ)の安らぎが訪れる。
無論、だからと言って見過ごそうとは思ってはいませんが…」
「かかか、好きにするとええ! ワシは自分の作った武器で人が死ぬのを見れればいいんじゃ!
だが、あの男がどう動くかはわからんぞ? 既に手は打っておるのか?」
「ええ、あの第三皇子の手の中にある駒が手に入ればね…。
もうすぐ世界が動き出しますよ、敷島博士」
雷が落ち、男の顔を照らす。男は笑っていた。これから起こる舞台がどれだけ面白くなるか期待すうかのように。
男に敷島と呼ばれた老人はさらに奇怪な笑いをあげ、手を叩く。
「流石は神くんだ! 面白い! 実に面白いことになるぞこれは~~!!」
男、“神隼人”も敷島につられるようにニヤリと笑みを浮かべる。
館には老人の狂ったような笑い声が響いた。
外の嵐は衰えることなく、世界を呑み込むが如く、勢いを増していた。
まるで、これからの世界が混沌におちいるのを知らせるかのように。

 
 

「チェックメイト。さて、賭け分をはらっていただきましょうか? 
ブリタニアの貴族殿? 」
圧倒的有利だった場面からあっという間に逆転を許し、負けたことを信じられないといった様子でブリタニアの貴族が盤面を見つめる。
この逆転劇を演じたのは学生だった。
ルルーシュ・ランペルージ。アッシュフォード学園に通う学生だ。
そして彼のもう一つの名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
世界唯一の大国の皇子であると同時に、捨てられた皇子であった。

 

「まったく相変わらずルルーシュってばすげえよなあ~。
相手の貴族、何が起こったか分からないって顔してたぜ~? 」
「貴族ってのはぬるいんだよ。既得権益にすがりつくばかりで。
だから自分たちが負けるってことが想像出来ないのさ」
「ははっ。また始まった! ルルの貴族嫌い! 」
「ああ、大嫌いさ。貴族なんてのは」
(そしてそんな中で何も出来ないオレ自身が…)
バイクを運転する同級生、リヴァルと会話しつつ、ルルーシュはこの7年を思い出す。
母がテロリストに殺され、父である皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアに日本への人質に差し出され、
こそ日本に来てしばらくするとブリタニアが日本に侵攻した。
ルルーシュは敗戦の混乱を妹とともになんとか乗り切り、そして誓っていた。

 

ブリタニアをぶっ壊すと。

 

(しかし、それにはオレの力はまだまだ足りない。今のオレは全くの無力だ。)
そう考えていると後ろからトラックが迫ってきているのに気づく。
「おいリヴァル。後ろからトラックが来ているぞ。運転が荒いし、ここはさっさと道を譲った方がいいんじゃないか?」
「ん? おや、ホントだな。こりゃ道を譲るのが良さそうだな」
そうこう言っている間にトラックの運転手は妙にいらだちを見せていた。
そう、何を隠そう、このトラックを運転しているのは日本を解放しようというゲリラであり、
トラックはブリタニアから奪いだした極秘物資であった。
「クソ! ブリタニアの学生が!! 暢気に走りやがって! 」
「駄目! そっちは!! 」
「なっ!? しまった!! 」
トラックは道が分岐しているところを曲がっていく。
だが、その分岐先は行き止まりであり、トラックはモロに突っ込んでしまった。
「あれー? まさかオレたちのせい?」
「まさか」
ルルーシュ達は停車し、事故の様子をうかがう。
するとルルーシュはトラックの貨物部から不思議な光が出ているの気づいた。
(? なんだあれは? )
周りには事故に気付いた交通人たちが集まってくるが、誰一人として我関せずといった様子で野次馬と化していた。
(フン、どういつもこいつも…)
心の中で毒づくとルルーシュはトラックへ走っていく。
リヴァルが止めようと声をかけるが、その声を無視し、ルルーシュはトラックの乗員の救助へ向かう。
「おい! 大丈夫か! 返事をしろ! 」
いくら呼びかけても反応はなく、運転席が資材の中に突っ込んでいるためにルルーシュは貨物室の梯子を登る。
(ミツケタ…ワタシノ…)
「!? そこにいるのか!」
どこかから声が聞こえた気がして、ルルーシュは貨物室を覗き込む。
しかしその瞬間!

 

ギュリリリリリ!!

 

突然停止していたトラックが動き出す。
覗き込むような姿勢だったルルーシュは動き出した反動で貨物室内に落ちる。
トラックはルルーシュに気付くことなく走りだし、その場を離れていく。
「内側にも梯子つけておけよ! ん? 」
落ちた貨物室には大きな半球状の装置なようなものが2つ入っていた。
(一体なんだこれは!? )
ルルーシュが思案していると、トラックが大きく揺れ動き、外からは発砲音が聞こえる。
『警告する! 今すぐ停車せよ! さもなくば次は当てる! 』
(マズイな…。おそらくあれは軍か…)
「分かってる! だから私がいるんでしょう!? アザブルートから地下鉄に入れる?
え? それじゃ虐殺よ!」
今度は運転席側の扉が開き女が出てくる。ルルーシュは物陰に隠れ、女に気付かれないようにする。
(あの女…。たしか…)
女、カレンは搭載してあつKMFに乗り込んでゆく。
そして後部ハッチが開いた瞬間にスラッシュハーケンを放ち、ヘリを一機撃墜する。
「本物のテロリストじゃないか! 」
まさかKMFまで用意していることに自分がどういう状況に巻き込まれたかを理解するルルーシュ。
外では戦闘が行われているようだが、中からうかがい知る術はない。
『フン、どこから流れたかは知らんが、所詮旧型のグラスゴーでは、このサザーランドは止められぬ! 』
何やら自信満々の様子の男の声が聞こえるが、おそらくは軍人だろう。
ああいう大口を叩くのはかませっぽいなとルルーシュは考えていた。

 

そしてそうこうしている内にトラックは暗がりの不整地を走っているようだった。
(この暗さに路面状況…。旧地下鉄を走っているな。行き先はどこかのゲットー。
外に出るのは危険。…よし、見えた。条件はクリア。軍の保護は癪だが、テロリストの通信機を手土産にでもするか…)
ルルーシュは極めて冷静に現状を判断し、自分がどうすれば助かるかに考えをめぐらす。

 

バオーーン!

 

「何だ!? 事故か、それとも!?」
突然トラック全体が大きく揺れ、止まる。どうやら地下鉄内の穴にタイヤを取られたようだ。
貨物室の横の扉も開き始め、これは好機だと考え、行動を起こす。
よじのぼり、外に出てしまえばこっちのものだ。
そう考えた瞬間、人間が回転しながら蹴りを放ってきた。
それを両手で防ぐか、ふっ飛ばされ、首の部分を持たれ、取り押さえられる。
「殺すな! もうこれ以上! しかも毒ガスなんかで!! 」
「殺すな、だと!? 」
軍人らしき男を蹴ろうと足を動かす。
すると相手は即座に後ろへ飛びのき距離をとる
「殺すなだと!? この毒ガスもブリタニアが作ったんだろうが!
殺すなと言うのならブリタニアをぶっ壊せ! 」
「まさか君は…」
軍人が着けていたマスクを外す。マスクの下の素顔にルルーシュは驚く。
その人物はルルーシュがよく知る人物だった。そう、かつての親友――。
「僕だよ、スザクだよ。久しぶりだね…ルルーシュ」
「お前、ブリタニアの軍人になったのか」
「君は、まさかコレ!? 」
「何言ってんだ! 」
数年ぶりに言葉を交わしていると、球状の物体のひとつが光を放ち開放されてゆく。
ルルーシュがそれに驚いていると、スザクはマスクをルルーシュの顔に押し付け地面に伏せさせる。
そして開放された物体の中から出てきたのは緑髪の少女だった――。

 

「スザク、一体どういうことだ。毒ガスか? こんな女の子が」
「だ、だけどブリーフィングでは確かに――、くっ!?」
ルルーシュとスザクが少女を介抱していると、突然照明にさらされる。
そこにはこのエリア11を取り仕切る総督である、クロヴィスの親衛隊が居た。
スザクは親衛隊の隊長と話しているようだが、この状況をルルーシュは非常に不味いと感じていた。
この少女は確かに毒ガスではなかった。
しかし、毒であるのは確かだった。
これが外部に漏れればスザクの主人たちが危うくなるほどの猛毒。
そしてどうやら、目撃者であるルルージュを殺すことでスザクは恩赦が与えられるらしい。
「しかし、自分は出来ません。民間人を打つことなど…」
だが、スザクは断固としてそれを拒否した。すると親衛隊隊長は容赦なくスザクを撃った。
スザクの身体がゆっくりと地面に倒れてゆく。
「スザクッ!!!」
ルルーシュは叫んだ。久しぶりに会った親友がブリタニアの軍人で、毒だと思っていたのが少女だった。
そしてその親友が理不尽にも凶弾に倒れた。
あまりの予測不能な事態にルルーシュの頭がパンクしそうになる。
親衛隊たちはこの少女を回収すれば自分を始末するだろう。
もう、どうすることも出来ないのか、そう思った瞬間、後ろのトラックが爆発を起こした。
(自爆したのか? だが、このチャンスを逃すワケにはいかない! )
「おい。こっち来い。逃げるぞ!」
トラックの爆発の影響で天井の岩盤が降り注ぐ中、ルルーシュは何とかその場を逃れることが出来るのだった。

 
 

ルルーシュも親衛隊も立ち去った後、瓦礫の中から白衣の男が姿を現した。
「私は、かつてこの国で一度死に、再びこの国に帰る命を得た…。
そう、世界の最後を見るために……」
男の目が怪しく光り、男はゆっくりと歩みだすのであった。

 
 

「ハァハァ、一体何なんだよ。お前は!! お前のせいなんだろう!? この騒ぎは! 
しかもブリタニアはスザクまでも…!!」
ワケの分からない事態にルルーシュは悪態をつく。
分からないことが多すぎた。
だが、まずはこの場から逃げ出すことが先決だ。
「おい。そこで待ってろ」
どうやら倉庫街に出たようだ。ひとまず様子を伺おうと階段の出口から頭を出す。
銃声。
あわてて頭を引っ込める。親衛隊の連中がすぐそこにいた。
子供の泣く声が聞こえる。が、銃声によりそれが途切れた。
ここら一帯のイレブンを始末し終えたのか、親衛隊が立ち去ろうとしている。
しかしその時、ルルーシュの携帯の着信音が鳴り響いた。
それはルルーシュたちの居場所を彼らに教えるのに十分すぎた。

 

「うぐっ」
ルルーシュが倉庫の壁に押し付けられる。彼の視線の先にはイレブンたちの無残な遺体が転がっていた。
少女は親衛隊の隊員が取り押さえている。
「テロリストの、しかも学生にしてはよくやった。流石はブリタニア人だ。だが…」
銃口がルルーシュに向けられる。
「それもここでおしまいだ」
そして引き金が引かれる。その瞬間、緑髪の少女がルルーシュの前に飛び出す。
「殺すなー!! 」
だが弾丸は少女の額を貫き、少女は地面に転がる。
「おい! 」
ルルーシュは倒れた少女に近づいた。少女からは大量の血液が流れ出していた。
「出来れば生かしておきたかったが、こうなっては仕方ない。
我々が来たときには人質はなぶり殺されていた。どうかね? いい筋書きだろう? 」
親衛隊隊長がやれやれといった様子で言い切る。
(なんなんだ、これは…。スザクも、この子も…、オレも…。
何一つ、何一つ出来ないままで!! くっ、ナナリー…!!)
ルルーシュが絶望に暮れたとき、少女の腕がルルーシュの腕をつかむ。
そして思考がルルーシュに流れ込んでくる。
(ほう、終わりたくないのだな? お前は。どうやらお前には生きるための理由があるらしい。
力が欲しいか? 力があれば生きられるか? )
(なんだこれは? このビジョンはなんだ?)
(これは契約。力を授ける代わりにお前に私の願いをかなえてもらう。
契約すれば、お前は次の段階へと進むことがえきる。だが人とは違う理に生きることとなる。
異なる摂理、異なる時間、異なる命。
進化の力はお前を孤独にする。その覚悟があるのなら…)
ルルーシュの頭には次々と見たことのないビジョンが浮かんでは消える。
遥かなる宇宙。消えてゆく星々。喰われてゆく時空…。
そして父、シャルル・ジ・ブリタニア。
(いいだろう。結ぶぞ! その契約!!)
ルルーシュがそう念じた瞬間、体中をエネルギーのようなものが駆け抜けた。
自分は大いなるチカラを得た。そうルルーシュは感じた。

 
 

「なあ、ブリタニアを憎むブリタニア人はどう生きればいい? 」
ゆらりとルルーシュが立ち上がる。右手で左目をおさえながら。
「貴様、主義者か!! 」
親衛隊が再び銃を向ける。しかし、ルルーシュの先程までとは違う雰囲気を感じ取り、すぐに撃とうとしない。
「どうした? 気づいたのか? 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだと! 」
ルルーシュの手がどけられた左目が赤く輝く。その気配に親衛隊がたじろいだ。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様たちは、死ね!! 」

 

ルルーシュがそう言うと、彼の左の魔眼から光が放たれ、それを浴びた親衛隊の両目が赤い光を灯す。
「イエス、ユア・ハイネス!」
そして次々と銃口を自分の首元に押し当て発砲。鮮血が周りに広がる。
ルルーシュはその絶対的なチカラを得たことを悟ると邪悪な微笑みを見せる。
彼は力をえた。そう、絶対的な力を、世界を壊すための力を。

 
 

トウキョウ、シンジュクゲットー。
今ここではブリタニア軍によるイレブンの虐殺が行われていた。
表向きは演習という名目で。しかし実際にはある事の隠蔽工作のためにすべての住人ごと消されようとしていた。

 

「おい、扇、一体どうすんだよ! このままじゃ俺達も全滅だ!」
テロリストの一人が声を荒げる。今回の発端となる事件を引き起こしたのは彼らであった。
「落ち着け、今俺達の戦力はカレンのグラスゴー一騎だけだ。下手に動くわけにはいかない」
『ここは私が囮になってみんなは…』
「馬鹿! ブリタニアがそんな簡単に見逃してくれるワケないだろう! 
リーダーからの連絡を待つんだ! 」
ゲリラのメンバーの中でその場を取り仕切ってるらしき男が、赤いグラスゴーに乗るカレンの提案をはねのける。
指揮してるらしき男の名は扇要。扇グループと呼ばれる日本抵抗組織の代表であった。
今回の事件の発端となったテロリストたちは、完全包囲され焦っていた。
すると通信機が通信を受信する。
リーダーからの通信と思い、通信を開くが、相手は全く知らない人物であった
『聞こえるか。今から私の指示に従えばお前たちを勝たせてやる。』
勝たせてやる、謎の相手からのいきなりのメッセージ。
扇は戸惑いを見せる。
「一体なぜ君が俺達の通信暗号を知っているのかは知らないが、そんな怪しい人間を信用するわけにはいかないな」
『フ、もちろん信用にしてもらうための材料は用意した。
もうすぐそこを通る列車の中を見たまえ。私からのささやかなプレゼントだ。』
するとタイミングを見計らったかのように列車が扇たちの前で止まる。

 

警戒しつつもゲリラたちは列車の貨物内をのぞきこんだ。
するとその中にはKMF“サザーランド”と多数の武器弾薬が用意されていた。
「こ、これは…」
「ナイトメアじゃねーか! 扇! これなら俺達も戦えるぜ!」
『どうかな? お気に召して頂けたかな? さあ、私の指示に従うか?
それとも君たちだけでそのナイトメアと武器を使って強行突破するかな? 』
力づくで突破できるほど甘くはないだろうがな、と相手はつぶやく。。
扇が判断に迷っていると、さらに通信が入る。彼らのリーダーからの通信だ。
「すまない、まずこちらのリーダーと相談させてくれないか? 」
『…いいだろう。しかしブリタニア軍が気づくのも時間の問題だ。早く決断してほしいものだな』
相手は了承したが、確かに急がねばいずれ包囲されてしまうだろう。
「…わかった。時間はあまりかけない」
そう言って通信をリーダーからのものに切り替える。
『扇、作戦の経過はどうだ? 』
「すまない神。目標の強奪までは成功したんだが…。ブリタニアの妨害で確保には失敗した。ところで相談したいことがあるんだが…」
『そうか、それで相談とはなんだ?』
テロリストのリーダー、それは神隼人であった。
かつて早乙女博士とともにサクラダイトの研究とテストパイロットをしていた男。
小規模反抗組織である扇グループが今日まで生き延びてこられたのも、隼人の手腕によるところが大きかった。
だからこそ、扇は隼人に相談することにより現状で最良の選択をしようと思っていた

 
 

『なるほど、ナイトメアと武器を調達し、自分の指示に従えば勝たせてやる、か。
なかなか面白い奴じゃないか。扇、俺から命じる。そいつに従え。
おそらくそいつは現在の戦況をもっともよく理解している人間だ。
その場にいない俺の命令よりもお前たちが生き残れる可能性が高いだろう。
それにブリタニアがわざわざそんな回りくどいやり方をするとも思えん。
とりあえずは信用にたる人物だろう』
「分かった神。俺達はヤツの指示に従おう。あんたの判断が間違いだったことはないからな。
それじゃあ、通信を切る。ここから生き残ったらまた会おう」
そう言うと扇は謎の人物に指揮下に入ることを伝えるために隼人との通信を切る。
隼人も通信機を置くとにやりと笑う。
「いいのか? どこの誰とも知らん奴に部下を預けるなんぞ」
敷島が笑みを浮かべつつ隼人に聞く。おそらくはゲットーで殺し合いが行われいるのを愉快に感じているのだろう。
「フフ、面白いじゃないですか。KMF、しかも起動状態のものと多数の武器を提供するだけでなく、
自分の指揮下に入れば勝たせてやるという大口の叩きっぷり。
彼らの命を賭けてやるには十分すぎるほど面白い人物だ」
「カカカ、相変わらず厳しい男じゃのう。これで扇達が死ねばどうするつもりだ?」
「フン、彼らがこんなところで死ぬのなら、そこまでですよ。
到底ブリタニアから日本を奪い返すことなど出来ないでしょう。」
そう言うと隼人はモニターに目をやる。そこにはシンジュクゲットーでの戦況がリアルタイムで映し出されていた。
どうやら、謎の人物は戦術に長けているらしい。
次々とブリタニアの戦力を効果的に削り、活路を開いていっている。
扇たちが目標の確保を失敗した時点で隼人は作戦は失敗に終わると考えた。
しかし、奴の出現により、思わぬ収穫が得られそうだった。
「さて、ここまで出来る人間だとは。面白い、面白いじゃないか」

 
 

戦況は謎の人物―ルルーシュ―の出現によって大きく変化していた。
ルルーシュが得たチカラ、ギアスにより奪い取ったサザーランドと、彼の天才的な戦術。
そして手足として動く駒を手にし、一気にブリタニア軍を押し返していた。

 

それはG-1ベースにて指揮を執っていたブリタニア第三皇子クロヴィスを恐れさせていた。
機密であるC.C.。そしてあの男の行方が分からない以上、一帯を焦土と化してからゆっくりと探索するつもりだった。
しかし、惰弱なテロリストと侮っていた敵が自分の手に負えぬと知ったとき、彼は悪夢を見ているのではないか思っていた。

 

「…ヤツを。ヤツを出せ。」
クロヴィスがつぶやく。それを聞いたバトレーは顔面を蒼白にしながら抗議する。
「で、殿下、まさか、あ奴を御使いになるので!? 危険です! 奴は獣ですぞ! 」
「だまれぇい!! こうなった以上奴を使いでもして、解決を図らねば私は廃嫡だ!
バトレー、三度は言わぬ。奴を、流竜馬に目標の回収、もしくは処分を命じよ!」
「イ、イエス、ユアハイネス…」
クロヴィスの剣幕に押され、バトレーが折れる。
そして部下に一言二言命じ、禁断の獣の鎖を解くのだった。

 
 

流竜馬が連れてこられたのはそれからすぐだった。
長身にボロボロのロングコート、赤いマフラー。そして鎖に繋がれた姿はよく目立っていた。
なぜ、永久囚人たる人物がここまで早くやってこれたのか
それはクロヴィスが最後の切り札として、永久囚人である彼を重要な作戦ごとに囚人車両に乗せ近くに置いていたからである。
竜馬が永久囚人となった理由は7年前の早乙女殺しのせいだった。
早乙女だけならばここまで重い罪ではなかった。
しかし早乙女とともにブリタニア人の科学者まで殺したのだ。
サクラダイト研究の第一人者でブリタニアの国益になるはずだった人間。
そしてブリタニアの誇る世界的な権威をもった人間。
2人をやったことはブリタニアに対しての明確な反逆行為とされたのだ。
そしてこの7年、竜馬は檻の中で地獄を味わわされた。
何度も自分ではないと言った。だが判決は有罪。それがひっくり返ることなどないだろう。
あの地獄にいるよりかは、帝国の坊ちゃんに使われていた方が幾分かマシだった。
なにより、その作戦に参加していれば、いつかは自分に罪を着せた人間、神隼人に復讐できるかもしれないのだ。
「ハヤト…、この礼はてめぇを八つ裂きにしねえと気がすまねえ」
牢獄に入れられてから彼が望んでやまないのはそれだけだった。
自分を地獄へと突き落としたかつて信じていた仲間への復讐。
ただそれだけだった。
途中、特派と呼ばれる連中のトレーラーに積まれていたKMFを竜馬は見た。
布がかぶせられてはいるものの、その隙間から見える機体色に嫌悪感を抱いた。
「白、か。嫌な色だ。奴の乗っていた機体を思い出す。」
なにやら起動準備がすすめられているようだが、今の竜馬にとってはそれ以上はどうでもいいことだった。

 

「来たか。流竜馬。簡単な作戦だと思っていたが、どうやらキミの力を借りねばならぬようだ」
クロヴィスがいかにも沈痛そうな声で言う。だが、竜馬にはこれが芝居だということが分かっている。
「で、オレに同族殺しでもしろってのかい、オウジサマよ」
「キサマ! 殿下に向かって…!」
「よい、バトレー。いかにも、いつもと同じテロリストの排除だ。
今回は指揮している者が相当の手練れのようだ。すでに我が軍に多数の被害がでている。
どうやら最新式のサザーランドを奪われ、その使用を許してしまっている始末だ。
そして調査の結果、実行犯のグループは最近、神隼人の指揮下で動いていることが多いということが分かった」
クロヴィスの言葉を聞いた瞬間竜馬の表情が変わった。
「それで、そいつらぶっつぶせばいいのか? 」
「いや、それだけではない。あるモノの回収を頼みたいのだ」
クロヴィスが合図をするとバトレーが数枚の資料を竜馬に渡す。
一枚目はあの少女C.C.の。二枚目はあの男のものだった。
「まさか…。そんなはずはねえ。この男は確かに…」
「そう、死んだはずだ。なにせキサマが殺したのだからな。
教えることは以上だ。これ以上の質問は許さん。貴様は用意したグラスゴーに乗り目的を果たせ」
資料をバトレーに返し、竜馬は用意されたKMFの元に向かう。
資料に書かれていた男、それは7年前に死んだはずの早乙女。
死んだはずの男が何故蘇ったのか。
(そんなことはどうでもいい。今度こそオレの手で殺してやる…。アイツと一緒になぁ…)
竜馬の目には復讐の炎が燃えていた。

 
 
 

狭い空間の中、竜馬は慣れた手つきでKMFを起動させる。
旧式のグラスゴーをクロヴィス配下のものによって極限までチューンされ、サザーランドに匹敵する性能を誇るものの、
設計の古さに加え、無理な改造を施された結果、非常に扱いにくいものとなっている。
それが竜馬に用意されたKMFであった。
現在ではサザーランドの配備により、その乗りにくさの割りに劣る性能で乗り手のいなかった機体だ。
機体全体のカラーリングは赤。そしてマフラー状に巻かれた赤い布が目を引く。
それは竜馬にかつての愛機を思い出させるとともに、自分を裏切った人物を思い出す色だった。
やがてすべての起動準備が終わり、発進の合図を待つ。
特派の試作嚮導兵器が先行しているらしい(おそらくあの白いKMFだろう)が、特に関係はないはずだ。
そして発進を示すアナウンスが聞こえる。竜馬は操縦桿を握りなおす。
「グラスゴーG1!! 発進するぜ! 」
赤いグラスゴーが飛び出す。
そしてそのままスピードを落とすことなく、ゲットーのテロリストたちの居所に急ぐ。
『しかしよろしいのですか、殿下。いくら目的のためとはいえ…』
『よい。それに殺した犯人自身にもう一度殺すチャンスを与えるのだ。趣向としても面白いではないか』

 
 

『ふぃ~、ブリキ野郎どもざまあ見ろってんだ! 日本人をなめんじゃねぇっての! 
ハハハ! 今までの報いだ! 懺悔しやがれ!!』
テロリストが倒したKMFに罵声を浴びせる。ルルーシュの指示通り動いたおかげで、彼らは信じられない逆転を果たそうとしていた。
『うるせええ!! それはてめえのやるこったぁ!! 』
『んな!? 』
だがそんな彼らの前に、ビルの上から赤いKMFが降ってきた。突然の出来事にどうすることも出来ないテロリストたち。
すると赤いKMFは両手に構えたアサルトライフルを隙だらけのテロリストたちに向かって乱射する!
『うおおおおおおおおお!!! 』
ズガガガガガガ! とアサルトライフルが火を噴き、竜馬が叫ぶ!
『うぎゃあ! 』
『ぴぎゃぁああ!! 』
ズワオ! ズゴォ! と一瞬にしてテロリストのサザーランド数機が蜂の巣となる。
竜馬は倒れたKMFにも容赦なく銃弾を浴びせ、完全に息の根を止める。
少し離れたところにいたテロリストたちは何が起こったのかを理解しかねていた。
どうやらある程度撃った所で竜馬は動きを止め、彼らの出方を伺う。
『な、なんだあいつは! あっという間に味方がやられちまった! あとはオレたち3人だけだぜ! 』
『だ、だけどありゃあグラスゴーだ』
『つーことは旧式のポンコツじゃねえか! オイ、今のは油断してただけだ。
真正面からやりゃあ、最新式のこっちが負けるわきゃないんだ! 』
しかし、竜馬の乗っている機体が旧式のグラスゴーだと分かると冷静さを取り戻す。
そしてサザーランドたちはまっすぐに竜馬のグラスゴーに突っ込む!
竜馬はアサルトライフルをしまい、機体に巻いてある布を先頭のサザーランドにめがけ投げつける。
布は見事にサザーランドの頭部に巻きつき、視界を遮られた機体の動きが止まる。
『ま、前が見えねえ! 』
そこに間髪いれず、竜馬はスタントンファで頭部に巻かれた布ごと殴りつける。
『うわぁ! 』
ドガン! 頭部が爆発し、機体全体が後ろにのけぞる。
仰け反った機体を踏み台にして、竜馬のグラスゴーが跳ぶ。
『な!? あんな旧式が、と、跳んだぁ!? 』
グラスゴーは後続の機体の頭上を軽く飛び越え、その真後ろに着地する。
『スラッシュゥ、ハァーーーケン!! 』
そしてKMFの特殊武装であるスラッシューハーケンが残りの2機の胴体に当たり機体は真っ二つに切り裂かれる。
『フン。機体の性能差は腕でカヴァーすりゃいいんだよ。残念だったな。さて、と…』
竜馬は軽くテロリストを鎮圧すると、生き残っていそうな乗員のもとに近づいてゆく。
なぜならば。彼らには聞いておかねばならぬことがあるからだ。

 

『くっ、向こうの部隊も全滅か…! まさかたった2機のKMFにこうまで掻き回されるとは…』
ルルーシュは今、イレギュラーの出現により窮地に立たされていた。
ひとつは後方から白いKMF-ランスロット-だった。
こいつの出現により、テロリストのKMFが一瞬にして全機撃破され、おまけに自分の位置まで知られた。
グラスゴーに乗った女と、白いヤツのパイロットが人命救助を優先したことによりなんとか逃げ切ったが…。
ふたつめは謎の赤いKMF。通信の様子からグラスゴーらしいが、旧式で現行機を手玉にとるほどのパイロットの出現だ。
たった2つのイレギュラーにより、勝利目前で邪魔をされた。
『だが、一番の目的は今から果たすことが出来る…。テロリストの連中には感謝せえばならんな。
フハハハハハ! ここまで上手くいけば上々だ、あとは艦に潜り込みクロヴィスを始末するだけ。
この力、ギアスがあればそれも容易。オレは世界を壊す一歩を踏み出せるんだ』
ルルーシュは戦術的勝利などくれてやる、ともう見えぬイレギュラーたちにつぶやいた。
そう、彼の目的はテロリストを使い、包囲網を崩し、自分がクロヴィスに近づく隙を作ることだった。
クロヴィスの元に行けば、ギアスを用いて母の死の真相を聞いた上で始末する。
ルルーシュの目的はすでに果たされつつあった。

 
 

『おい、てめえらのリーダーの居場所を教えろ。じゃねえとぶっ殺す』
生き残り、脱出をしていなかったテロリストを、コクピットブロックを壁に押し付けながら竜馬が問う。
『し、知らねえ! リーダーはいつも向こうから連絡するだけで、こっちからコンタクトとったことはないんだ! 』
『ほう、あいつらしいじゃねえか…。つーことはてめえに聞くことはもうないな』
隼人のことなら、こいつら程度の駒に居場所を教えるようなヘマはしないだろう。
そう、竜馬は隼人のことをよく知っている。だからこそテロリストが嘘を言っているとは思わなかった。
『な? 本当に何も知らねえんだ。だからもう放してくれよう…』
『ああ、いいぜ。楽にしてやるよ』
『な、マジかよ。やめ――! 』
何の躊躇もなく竜馬はアサルトライフルの引き金を引いた。
弾はコクピットを貫通し、開いた穴からは赤い液体が流れ出る。
『チッ、あとは女と早乙女のジジイの回収か。一体どこ行きやがった』
サザーランドを手放し、回収任務につこうと竜馬が移動しようとした瞬間、白いKMFが回転しながら蹴りを放ってきた。
『んだとぉ!? 』
なんとか左手でガードするが、その衝撃で機体は後方に下がり、ガードした左腕は使用不能となっていた。
『なんで殺した! 彼はすでに抵抗する意思も力もなかったはずだ! 』
『けっ、戦場でお情けか? ずいぶんと甘い考えをもってんなあ!! 』
お返しとばかりに右手に残ったアサルトライフルを撃つ!
しかしランスロットはブレイズルミナスを展開し、攻撃を無効化する。
『シールドかよ…。ちょいと分が悪ぃか』
『だがあそこまでする必要はないはずだ! 助けられる命をわざわざ奪うなんて! 』
シールドからメッサーモードに変形したランスロットの腕が迫る。
素早く反応し、回避行動に移るが、段違いの反応速度の差により避けきれない。
かろうじて本体への損傷は免れるが、気づくとアサルトライフルの前半分が切断されていた。

 

(早えな。このグラスゴーの反応速度じゃ到底、いや他の第5世代でも追いつけねえな)
竜馬はランスロットの高い性能を冷静に分析する。
そして馬鹿正直なやり方で勝てるような相手ではないことを感じ取っていた。
『答えて下さい! 何故殺したんです! 返答如何によってはこちらも対応を考えます』
『おいおい、オレは第三皇子クロヴィスの命令で行動してるんだ。それを邪魔するってことが一体どういうことか分かってんだろうな? 』
『クロヴィス殿下の勅令? まさか…』
(今だ、案の定クロヴィスの名前が出た瞬間隙を作りやがった! )
『喰らえ、スラッシュハーケン!! 』
スザクの見せた一瞬の隙を突いて竜馬はスラッシュハーケンを発射する。
『な!? だけど!! 』
『マジかよ! スラッシュハーケンを手で捕まえるなんて、どんな反応速度とパワー持ってんだ! 』
しかしランスロットの驚異的な性能の前にスラッシュハーケンは見事に受け止められ、あまつさえそのまま握りつぶされる。
『クソったれ! 打つ手なしかよ!! 』
『その攻撃、返答と解釈する! あなたには悪いが、その機体の機能を停止させてもらう! 』
先程までの躊躇がなくなり、怒涛の攻撃が竜馬を襲う!
『へ、流石に腕でカヴァーするには性能差がありすぎるな』
しかし、今度は避けることに専念した竜馬は機体表面をかすらせる程度にダメージを抑えていた。
『なんていう操縦だ! まるで僕の攻撃を完全に見切っているようだ! 』
竜馬はスザクの動きを見切っていたわけではなかった。
だがスザクの攻撃は命をとるための攻撃でなく、機体機能を停止させる目的で繰り出されるため、
狙っている場所がある程度絞ることが出来た。あとはそれに合わせて避けるだけである。
しかし、常人であれば旧式のグラスゴーが最新鋭機の攻撃を回避するほどの機動に数十秒と耐えられなかっただろう。
正に機体の限界性能を発揮し、なおかつその負担に耐えることのできる肉体をもつ竜馬だからこそできる芸当だった。
(だがここのままだとジリ貧だな…。ん、あれは…、まさか!? )
ランスロットの猛攻を受け流しつつ、ふと竜馬は雑居ビルの屋上に人影を発見した。
ぼろぼろの白衣が風にたなびく。鋭い眼光が竜馬たちの戦いを見つめていた。
間違いない、早乙女博士だった。
『ジジィぃいいいいいい!!!!! 』
早乙女博士の姿を認めたとたん、これまで冷静だった竜馬の脳内が一瞬で沸騰した!
その隙をスザクは鋭くつき、竜馬のグラスゴーは両足を破壊されてしまった。
『てめえええ!! 邪魔すんじゃねえ! あそこに! あそこに早乙女のジジイがいるんだ!
オレが、オレが引導を渡してやるんだあーーー!! 』
『悪いがあなたの望みは叶えられない。無駄な殺しは僕がさせない! 』
『うぉおおおお! はなせえ! はなしてくれええええ!!!! 』
廃墟と化したシンジュクゲットーに竜馬の絶叫が木霊する。
それはクロヴィスの戦闘中止命令が出されたのとほぼ同時であった。
こうしてシンジュクゲットー殲滅戦は幕を閉じた。
C.C.と早乙女博士の逃走と、クロヴィスが何者かによって暗殺されるという事実を残して。