ゲッターギアス(2)

Last-modified: 2010-02-19 (金) 20:08:11

「何の用だ…」
あの戦いの後、飼い主であるクロヴィスの死により、再び竜馬は牢獄に戻っていた。
そんな竜馬の前に現れたのは、特派と呼ばれていた男だった。
「あはぁ! キミが流 竜馬君だね? 」
眼鏡をかけた優男が竜馬に話しかける。妙に軽いノリに竜馬は眉をひそめ不快感をあらわにする。
「…何のようだ」
竜馬はもう一度だけ優男に問うた。これ以上自分の質問に答えぬのであれば無視を決め込むつもりで。
「うん。ボクは特別派遣嚮導技術部のロイド。
実はキミをここから出してあげようと思ってね。迎えにきたんだ」
ロイドの言葉にピクリと反応する。ここから出してやる。以前クロヴィスにも言われた言葉だ。
「で、その代償にオレに何をさせるつもりだ? 」
「う~ん。流石はエリア11で名を馳せたゲッターチームのリーダーだねえ~。
話が早くて助かるよ。じつはね、キミにウチの研究の手伝いをやってもらいたいんだ」
「手伝い? オレに雑用でもさせるつもりか」
「ん~ん~、違う違う。君にはデヴァイサーになってもらいたいんだよ」
「デヴァイサー? パイロットのことか? ならもうお前たちの所にはいるだろう。
わざわざオレの邪魔をしてくれた白いKMFのパイロットが」
「ああ、スザク君とランスロットのことかい? 違う違う。
実はウチではもうひとつ開発、というより実験だね、をしている機体があるんだ。
それがランスロットに勝るとも劣らないほどハイスペックでね。
スザク君クラスのデヴァイサーが必要なんだ」
あの白い奴と同程度のKMF。その存在におおいに興味をそそられた。
「…要はそのじゃじゃ馬の世話をしろってか? 永久囚人のオレに」
「んっふ~、大正解♪ それでキミはどうする? ボクに協力してくれるかい? 」
「いいぜ。この退屈な檻から出してくれんのなら、てめえのシュミに付き合ってやんよ」
こうして竜馬は特派のデヴァイサーとなることによって、再び復讐の機会を得たのだった。

 

特派研究室。
竜馬は出所手続きをすませた後、すぐさまココに連れてこられた。
ロイドが言うには、新型を見せたいから、だそうだ。
「で、コイツがソレってワケか…」
「そうだよ~。どうだい? 君好みに塗装しなおしておいたんだけど、気に入ったかい? 」
竜馬は目の前のKMFを仰ぎ見た。
見れば見るほどに、かつての自分の愛機を思い出す。
「ふん。案の定、趣味が悪いなあんた」
「んっふ~、それほめ言葉かい? まあ、このカラーリングなのは別に君に合わせただけじゃないんだ。
この機体、ランスロットTypeG“ドラゴン”は、ランスロットをベースに近接格闘を重視し、
そして新型の駆動機関を取り入れた意欲的な作品なんだ」
「ユグドラシルドライブじゃないのか? 」
ユグドラシルドライブ。KMFの動力機関であり、ランスロットは高出力のユグドラシルドライブにより高性能を発揮している。
「あっは~、よく勉強しているね。そう、この機体は通常のKMFと違ってユグドラシルドライブじゃないんだ。
一体何を使ってるか分かるかい? ヒントは君にとっても関わりのあるもの! 」
ロイドの思わせぶりなセリフ、そしてドラゴンを見て、竜馬は合点がいった。
「…なるほどな。ゲッター炉心か」
「お~め~で~と~! 大正解! といってもまだまだ試作品だけどね」
「だからこのカラーリングか。やっぱあんた趣味悪いぜ? 」
角のように尖がった耳。腕から生えたトゲ、そして真っ赤に染め上げられた本体。
それは見るものが見ればゲッターロボと答えるであろうモノだった。
「で、コイツはどんだけのパワーを秘めてるんだ? 」
「設計上はランスロットと同等! と言いたい所だけど、炉心の調整が難しくてね~。
パワーが出すぎて誰も乗れない事もあれば、まったく起動しないこともある。
かつて早乙女博士が提唱してたような無限のエネルギー源としてもまだまだで、他のKMFと同じようにエネルギー切れにもなる。
だからキミを呼んだんだ。かつて早乙女博士の元で研究に協力していたキミにね」
「………」
竜馬は押し黙ったまま、KMF“ドラゴン”を見つめる。

 

ゲッター炉心。
かつて早乙女博士が中心となって研究開発したゲッター線という放射線を利用したエネルギー機関。
早乙女博士はサクラダイトの研究中、サクラダイトからこのゲッター線が放出されていることを発見。
さらには宇宙からも降り注いでおり、これを利用すれば無限のエネルギー源として利用できるはずであった。
そこで作られたのが3機のマシンからなるゲッターロボである。
しかし、ゲッター線の未知のパワーは想像以上であり、ゲッターロボを動かせるのは人並み外れた体力の持ち主だけだった。
そこで選ばれたのが流竜馬、神隼人、巴武蔵、車弁慶の4人からなるゲッターチームであった。
そしてテストは良好、ゲッターロボの完成は間近となっていた。
しかし、ブリタニアの日本侵略、早乙女博士の死亡、テスト中のゲッターロボの戦争中の喪失によりゲッター線の研究は一気に後戻りしていしまうのだった。

 

そんな過去を竜馬はドラゴンを見て思い出していた。
「ん~? もしかして思い出を振り返っているのかい? 」
「ああ、ちょっとな。で、早速コイツの起動テストでもしてみないかい? ロイドさんよぉ」
「そうだね~。今までデヴァイサーがいなかったからロクにデータが取れていないんだ。
そうれじゃあキミが準備いいなら早速動かしてみてくれるかい? 」
「イエス、マイロード。だったか? ブリタニアの挨拶はよ」
「んふふ。別にここではそんな堅苦しい挨拶はいらないよ。じゃ、はやく乗った乗った! 」

 

『G炉心、順調に稼働中。竜馬君、どうかしら? 』
ヘッドセットからセシル、と呼ばれていた女性の声が聞こえる。
この女性も特派のメンバーらしく、ロイドの助手として働いているらしかった。
初めて顔を合わせた時は、竜馬の大柄な体格とゴツイ顔つき、そして纏った雰囲気に気圧されていたが、
こうやって、いざ仕事となれば切り替えられる、出来る女性のようだった。
「こちらデヴァイサー。なかなかいい調子だ。出力もいい所で安定してやがる。
予想以上だぜ、これは」
『それじゃあパワーを上げていってみてくれるかしら』
「OK、パワーレベル上昇開始、50、55、60、65…」
どんどんとパワーを上げてゆく。そしてドラゴンのパワーが上がれば上がるほど感情が高ぶっているのが分かる。
一度は関わったことに心底後悔していたゲッター線だが、そのパワーに竜馬は再び魅了されていた。
「パワーレベル80。すげえ、すげえじゃねえか。こりゃ並のKMFなんて目じゃねえ出力だ」
『こちらでも確認済みよ。それじゃあ今日はこの辺にしましょう。
お疲れ様。竜馬君には専用に部屋を取ってあるわ。ゆっくり休んでちょうだい』
セシルからの指示に従い、竜馬はドラゴンを待機状態に戻す。
そして確信する。この機体ならば自分の復讐を果たすことが出来ると。

 

竜馬が部屋に戻ってから、ロイドとセシルは先ほどの起動実験の結果を見返していた。
「すごいですね、彼。いままでドラゴンの炉心があそこまで出力を上げたのは初めて見ました」
「うん。確かにすごいね。今まで誰が乗ってもエネルギーレベルは50までしか行かなかったのに…。
まるで彼が乗るのを待っていたかのようだね」
「そんなまさか。人によってエネルギー源の出力が上がるなんて…」
セシルはロイドの言うことがまるで信じられないという様子だ。
「でもねセシル君。かつて早乙女博士が発表した論文の中にはこう書いてあるんだ。
“ゲッター線は意思を持ったエネルギーかもしれない”ってね。
もしかしたら僕たちは、とんでもないものに手を出してるのかもしれないね…」
ロイドのいつになく真剣な物言いにセシルは反論が出来なかった。
意思をもつエネルギー? そんなものありえるはずがない。
ましてやそんなものが、全世界に普及しているサクラダイトから放出されているなんて。
そう思いつつも、セシルはロイドの言ったことを否定しきれないでいた。
ふと見れば、ドラゴンの瞳が輝いている、そんな錯覚さえ覚えるほどに。