ゲッターギアス(3)

Last-modified: 2010-02-19 (金) 20:12:15

ルルーシュ・ランペルージは不測の事態に焦っていた。
自分が殺した異母兄弟、クロヴィスの殺害容疑で、あのスザクが逮捕されたのだ。
(クソッ! あいつが殺したハズはないのに!! ブリタニアめ、スザクを贄にしてイレブン弾圧の口実を得るつもりか…!
くっ、一体どうすればスザクを救える? オレが殺したと名乗り出るか?
いや、ありえない。あのテロリストたちを利用するか? いや、真正面からやって勝てる相手じゃない…。
駄目だ。問題をクリアするための手札は揃っているはずなのに…! こうも考えがまとまらないなんて! )
ルルーシュはスザクを救うための方法を考えあぐねていた。
このままではラチがあかないと考えたルルーシュは屋上に向かった。
一度外の空気を吸って気分転換を図ろうと考えたのだ。
だが、その屋上には先客がいたようだった。
(? 物音と気配から察するに結構な人数がいるな…。放課後の屋上だというのに珍しいな)
そう思ったものの、自分には関係ないと考え、扉を開けた瞬間、ルルーシュは我が目を疑った。
目の前に広がっていたのは数人の生徒が倒れているという思わぬ光景だったからだ。
「な、なんだこれはっ!? 」
そこかしこから呻き声が聞こえる中、一人だけ立っている生徒がルルーシュの疑問に答えた。
「あ? っとこりゃこいつらから仕掛けてきたんだぜ? 俺はこいつらに殴られるまでは我慢したんだからな。
いわば正当防衛だ。うん、間違いない」
そう答える生徒にルルーシュは見覚えがあった。
確か彼は…。
「お前は…、一文字 號か? 」
「ん? って、あっちゃー、生徒会副会長じゃねーか。まずい奴にまずいとこ見られちまったなぁ。
さっきから言ってるけど、正当防衛だからな? 先に殴ったのはこいつらだから。
ホラ、ココ。殴られた後があるだろ? な?」
そう言って號は自分の頬を指差しルルーシュに見せる。
一文字號。ルルーシュと同じクラスの名誉ブリタニア人-ブリタニアに忠誠を誓ったナンバーズ(日本人)-だ。
体育の授業でいつも必死なルルーシュや他の生徒とは違い、息ひとつ乱れた所を見たことのない、そんな人物だった。
ルルーシュはそんな彼を見て、世の中には体力馬鹿という人種がいるのだと痛感していた。
だからこそ、ルルーシュは一文字號という人間を記憶にとどめていたのだった。
そして、彼の暴力事件の事もよく聞いていた。ブリタニア人にカラまれてやむなく、という話も込みで。
「そうか。キミはこの連中に絡まれたというワケか」
ルルーシュが倒れている生徒をざっと見る。
スザクがクロヴィスを殺したというニュースが、イレブンを蔑視する彼らを調子づかせたのだろう。
「そうそう。そうなんだよ! 俺が屋上でゆっくりしてたらこいつらがいきなり殴りかかってきて。
だから俺も仕方なく。でも流石副会長! 話が分かるじゃねえか!! 」
「だいたいの事情は分かった。君達もこれからは気をつけてくれ。今回の一件は不問としよう。
君達もこれからは同じ学校の仲間を蔑むような行為はやめるんだ。いいな? 」
そう言って、ルルーシュは倒れていた生徒たちにギアスをかける。
生徒たちは、分かった、と一言言うと次々と屋上から立ち去ってゆく。
「君も災難だったな。今回のようなこと、初めてじゃないんだろう? 」
「まあ、副会長の言うとおり。こんなのしょっちゅうだ。
日本がエリア11になってから、オヤジが名誉ブリタニア人になった後も。
ずーっとだ。もう慣れたし、あんまりに気に食わない時はさっきみてえに反撃するけどよ」
いちち、と號は殴られた頬をさすりながら言った。
「副会長、なんて堅苦しい言い方はよしてくれ、一文字 號。俺はルルーシュでいい」
「そうかい? なら俺も號でいいぜ。ルルーシュ。
しかし、あんたは変わってるな。だいたいの奴は名誉ブリタニア人ってだけで、あいつらまでとはいかないが…、
こう見下したような態度をとってくるのによ」
「ああ、嫌いなんだ、そういうの。それに…」
スザクという友達がいたから、とはルルーシュは言わなかった。
しかし號は、ルルーシュが何を言いたいのかだいたいの事を理解した。
「イレブンの知り合いもたくさんいるってか。ま、ルルーシュみてえのが多けりゃ俺も喧嘩しねえで済むんだけど、な」
そうやってしばらくの間、ルルーシュと號は自分たちのことについて語り合った。

 
 
 

「へえ、號の親は孤児だった君を引き取って育ててくれてるのか。
なかなかいい親じゃないか」
「ああ、も一人女もいるんだが、一緒に分け隔てなくな。怒った時の拳骨がめちゃくちゃ痛えんだけどよ。
7年間、本当の息子みてえに扱ってくれて、ありがてえって思ってる」
「そうか…。色々と大変だったんだな」
「そういうルルーシュ、お前も妹さんと二人だけで生活してんだろ?
血がつながらねえとはいえ、親のいる俺なんてまだマシさ。
昔は漫画みてえな仮面被ったヒーローが来て、日本を解放してくれる、なんて思ってたが…。
世の中ってのはむつかしくできてんな。って生粋のブリタニア人に言うことじゃねえか」
「いや、號がそう思うのも無理はないさ。7年前は色々とありすぎた」
そう語らっていると、突如、屋上の扉が大きな音を立てて開かれる。
「あー! やっぱりここにいた! また喧嘩したんでしょ! 號!! ってあれ? 」
「うわ、渓! なんでこんなとこまで来てんだ!? 」
「渓? 號、もしかして彼女が君の言っていた? 」
「ああ、車渓。俺を拾ってくれたオヤジの実の娘だよ。いつも喧嘩した俺を説教しにくるんだ。
な、ルルーシュ頼む。ちょっとお前から説得してくれないか?」
「別にいいが…」
そうルルーシュが言うが早いか、渓は號の腕を引っ張り事情の説明を要求する。
「ちょっと號! なんであんたが生徒会副会長のルルーシュ・ランペルージと仲良くしゃべってんのよ! 」
「あぁ? 屋上来たらたまたまあいつがいて、しゃべってみたら意外と気があったってだけだよ。な? ルルーシュ」
「ああ。號の言うとおりだ。渓さん、だったかな? 號は君が思ってるように喧嘩はしてなかったよ」
「ま、渓さん、だなんて。まあルルーシュ君が言うならそうよね。
屋上の方からぞろぞろと怪我した人が来たから勘違いしちゃったみたい。
それじゃあ、ルルーシュ君、ウチの山猿が迷惑かけたわね。私達はこれで失礼するわ」
「誰が山猿じゃ! って痛っ!! すね蹴るんじゃねえ! 」
「いいから行くわよ。馬鹿號」
そう言うとぐいぐいと號を引っ張ってゆく渓。
「お、おお。じゃあまたなルルーシュ」
ひらひらと手を振る號に対し、ルルーシュも手を振る。
(一文字 號か…。悪い人間じゃないみたいだ。しかし、仮面をつけたヒーローか…。
ん、待てよ? 仮面? そうか! この手があったか!)
號との出会いにルルーシュが得たもの、それはスザクを救うために欠けていたピースだった。

 

ゲットーにある、どこにでもあるような廃墟。
扇たち一行は、カレンがシンジュクでの一件で助けてくれた人物からの電話があったことをうけ、その電話の指示通りここに来ていた。
そして彼らの目の前にいるのは仮面をつけた黒ずくめの男。
「君がシンジュクで俺達を助けてくれた人物か」
『そうだ。私が君達を助けるべく、あのシンジュクで君達に救いの手を差し伸べた』
機械を通して変換された無機質な声。
扇たちは不安を抱かずにはいられなかった。
「何故仮面をつけたままなの? 外して素顔を見せたらどう? 」
その彼にカレンは仮面を外すよう要求する。
『見せようだが見せるのは素顔ではない。力だ』
「力? 一体どんな力を見せてくれるの? 」
『ブリタニアを倒すことの出来る力を。不可能を可能にする力だ』
その場にいた全員が息をのんだ。
あまりにも馬鹿馬鹿しい交換条件。しかし、シンジュクの一件を考えれば、彼が優れた力を持っているのは明白、しかし…。
「不可能を可能にする力だと? 」
『そうだな…。ではクロヴィス殺害犯枢木スザクを助ける、というのはどうだ?
これを成せば、君たちは私を信用せざるを得まい? 』
「枢木スザクを…? 」
「そんな無茶だぜ。警備がきつすぎる」
「でも、そんな奇跡みたいなことを出来るなら…」
「ああ、十分すぎるほどの交換条件だ」
扇たちは仮面の男の提案に乗ることを決めた。
『さて、それでは、何人か協力してもらえるかな? もちろん無理強いはしないが…』
「それじゃあ俺が」
「扇さんが協力するなら私も」
仮面の男の協力要請に応えたのは扇とカレンだけだった。
『ふむ。二人もいれば条件はクリアしたも同然だ。ならば二人は今から教えるものを製作しろ。
外側さえそう見えればいい』
「そ、そんなたった3人で何ができるんだ! 」
『愚問だな。3つの心が一つになれば一つの力は百万パワーと言うだろう?
まあ、私の言うとおりに動いてくれれば何の心配もいらない』
そう言って仮面の男はカレン達に一枚の紙を渡す。
それに書かれていたはクロヴィスの専用御料車と、あのカプセルだった。

 

「で、枢木スザクはまんまとメディアへの生贄か」
ドラゴンの調整を終えた竜馬は、スザクがクロヴィス殺害の容疑で軍事法廷にかけられることについてふれた。
「ええ…。私達が証言出来れば彼の無実を証明できるんだけど…」
「法廷は特派の証言を認めない、か。ふん良くある話じゃねーか。
下手すりゃ、あのピエロの役目は俺だったかもな」
いかにも辛そうなセシルの横で、面白くなさそうにする。
「そうだね。君でも、スザク君でもどっちでも良かっただろうね。
あ、そろそろスザク君の公開護送だよ」
そう言ってロイドはTVのスイッチを入れた。
沿道には多くのブリタニア人が集まり、護送車の上に縛り付けられたスザクに罵声を浴びせていた。
その護送車の護衛をしているのはジェレミア・ゴッドバルト率いる純潔派と呼ばれるメンバーの乗ったサザーランドだった。
軍は生粋のブリタニア人のみで構成されるべし。
その考えの元、集ったものたちによる軍の一大派閥。
そしてそのリーダーであるジェレミアは、亡きクロヴィスの後、現在エリア11を一時的に治めている人物だった。
純潔派の考えからすれば、名誉ブリタニア人が軍にいるのは許されざることだ。
だからこそ、スザクがクロヴィス殺害の槍玉にあげられたのだ。
(これで純潔派はさらなる拡大を図れるな。ふん、ナンバーズなど不要なのだ…)
『ジェレミア執政官。前方から侵入してくる車両があります。
命令通りノーチェックですが…』
「テロリストどもがかかったか? よい、そのままこちらまで進ませよ」
『しかし、車両がクロヴィス殿下の御料車でして…』
「何? テロリストめ、ふざけおって。全軍停止。ここでマヌケなテロリストどもを迎え撃つ」
ジェレミアの命令通り、護送車を含むすべてがその場に停止する。
TVのナレーションが予定のない行動に焦りを見せてた。
集まった群衆からもどよめきが上がっている。
そして護送車が来た反対方向からそれは来た。
「クロヴィス殿下の御料車だ! 」
「でもなんであんなものが? 」
仮面の男とカレンの乗る、クロヴィスの御料車の偽装をした車だ。
群衆はいまだに事態を把握しかねている。
(こんな真正面から…! 無理よ、逃げることも出来ないじゃない! )
まっすぐ進め、という仮面の男の指示通りに来たが、流石の状況にカレンも狼狽していた。
「そこで止まれ。亡き殿下を愚弄する不届き者よ。車から出てきてもらおうか? 」
ジェレミアがそう言うと、御料車が停止し、車の屋根にかけられていた垂れ幕が燃え、燃え尽きた中から仮面の男が姿を現す。
『私はゼロ』
仮面の男が名乗りを上げる。
ゼロ。それが仮面の男、ルルーシュの仮面の名であった。
「ほう? だが、ショーに付き合う義理はない。その仮面を外してもらおうか? 」
空中に待機していたVTOL機からサザーランドが車の周囲に降り立つ。
ゼロのマントがその風圧でたなびいた。
ゼロは手を仮面にまで持ってゆく。が、その手は仮面を手に取ることなく頭上にまで上げられ指を鳴らした。
すると車両後部のコンテナがバラバラになり、中からあのカプセルが現れた。

「何!? まさかあれは…!」
ジェレミアの脳裏にシンジュクでの指令が思い出される。
テロリストにうばれた強力な毒ガスを回収せよ。
その命令とともに送られてきた画像にあったのは目の前のカプセルと同様のものだった。
「…く! テロリストめ、あのシンジュクの騒ぎの中、盗みおおせたというか! 」
ジェレミアの額に汗が伝う。
おそらく群衆たちはあれが毒ガスだとは気付いていまい。
しかし、彼らに気付かせることなく、奴はこの場にいる市民すべてを人質としたのだ。
(中身を知らない貴様らにとってこれは毒ガス…。まぁ俺が知っているのは片方だけだがな)
「要求を聞こうじゃないか、ゼロ」
『交換だ。コイツと枢木スザクを。ここら一帯をドワオしてほしくないだろう? 』
「何を馬鹿な事を。こ奴はクロヴィス殿下を殺した大逆人! 引き渡せるはずがなかろう!! 」
『違うな。間違っているぞジェレミア。クロヴィスを殺したの犯人はそいつじゃあない…。
クロヴィスを殺したのは…。
こ の わ た し だ ! !』
ゼロの発言に周囲がざわめく。

 

「あはw真犯人登場だね」
TVを見ていたロイドが実に楽しそうに言う。
「まさか」
セシルも流石のこの事態に同様しているようだ。
「なんて野郎だ。カプセルと御料車。おまけにクロヴィス殺害を自白か。
よっぽどの天才か、それとも馬鹿だなこいつは…」
だが、面白いことになってきた、そう竜馬は思っていた。

 

「フハハ! 見ろ神君! このチューリップ仮面、自分で自分の首を絞めおった!
ひゃはは!! こりゃ~この男が銃弾で真っ赤なチューリップになるのが見れそうじゃぞ~」
敷島がTVにかじりつき、公開処刑は今か今かと待ち構える。
「敷島博士、残念ですが、それは拝めないかもしれませんよ。
あの男、ゼロは思いのほか大胆で狡猾な男のようですから」
そう、よっぽどの馬鹿か天才か、そのどっちかだと、隼人は判断していた。

 

「く、こ奴は狂っている! 殿下を愚弄した罪、購わせる!」
この混乱を治めるため、ジェレミアが合図を出すと周囲のサザーランド全機が銃を構える。
『いいのか? 公表するぞオレンジを』
「オレンジ? 一体何を言っているのだ」
オレンジ、謎の単語にその場にいるものは首をかしげるしかない。
ゼロはカレンに合図し、車を前進させる。
『私が死んだら公開されることになっている。そうされたくなければ…』
「何のことだ? こ奴はいったい? 」
困惑するジェレミアの前でゼロの仮面の左目があるであろう部分が開く。
『私達を全力で見逃せ! そっちの男もだ!! 』
そして露わになった魔眼が怪しく輝いた。
その光を直視したジェレミアは哀れ、ギアスによる操り人形となったのだった。
「いいだろう。おい、その男をくれてやれ」
「ジェ、ジェレミア卿、しかし…」
「くれてやれと言っている! いいか、誰も手を出すな! 」
「ジェレミア卿、どういうつもりだ! 計画には…」
「キューエル卿、これは命令だ。おい、早く枢木一等兵をくれてやらんか! 」
ジェレミアの命令なら、とスザクの拘束が解かれる。
ゼロとカレンも車から降り、歩いてくるスザクと合流する。
「キミは一体…」
『話はあとだ。枢木スザク、ついていて来てもらうぞ』
ゼロはそう言うと、手に持った装置のボタンを押した。
ボシュウウウ!!
カプセルが起動し、大量の煙が噴出する。
市民はそれが何か分からず、逃げまどう。
「クソ! 卑怯なイレブンめ!! 」
純潔派の一人、ヴィレッタ・ヌウの乗るサザーランドがゼロ達に銃を向ける。
だが、そこにジェレミアの機体が割り込み、射撃を阻止する。
「ジェレミア卿!? 何故! 」
「言ったはずだ!! 手を出すなと!」
そう言うと、ジェレミアは次々とゼロをとらえようとする味方の妨害をする。
「全部隊に命令する! いいか! 全力を挙げて奴らを見逃すんだ!! 」
ジェレミアの突然の豹変、そして煙に惑う人々と、その混乱に乗じゼロ達は無事に逃走を果たすのだった。