ゲッターギアス(4)

Last-modified: 2010-02-21 (日) 12:56:55

ゼロ達の逃げ込んだ廃劇場。
そこでゼロはスザクと二人っきりで話していた。
『これで分かっただろう。枢木スザク。ブリタニアはお前の仕える価値のない国だ。
だからこそ、お前は私と来い。私と共にブリタニアを倒そうじゃないか』
「悪いけれど、それはできない。あと一時間で軍事法廷が始まる。
僕はそこに行かなくちゃならない。行かないと、イレブンや名誉ブリタニア人の弾圧が始まる」
ゼロからの誘いをスザクは即答で断った。
『バ、馬鹿かお前は!! あそこはお前を犯人にするためだけに設けられた場だ! 
検察も、弁護人も、裁判官でさえ! 』
「でも、それがルールだ。ルールがあるならそれに則して行動する。
間違えた方法で得た結果に、価値などないと思うから…。
でも、ありがとう。助けてくれて」
そう言ってスザクはその場を後にする。
ゼロ―ルルーシュ―はそんなスザクを止めることは出来なかった。
(馬鹿が! )
心の中でルルーシュは毒づく。せっかく助けてやったのにまた自ら死地へ向かう親友を。
パン。パン。パン。
『誰だ!? 』
突然聞こえてきた拍手の音にルルーシュは振り返った。
すると暗闇から、長身のスーツを着た男が現れる。
「いや、見事なものだったよ。ゼロ」
『誰だお前は…』
「おっと紹介が遅れたな。私は神。神 隼人。日本解放を謳うテロリスト達のリーダーをやっている」
現れた男はあの、神隼人だった。神隼人、その名をルルーシュは何度か聞いたことがあった。
テロリストのリーダーとしてメディアでにぎわせ、国家反逆の最重要指名手配犯の男だ。
『ほう、君があの噂に名高い神 隼人か。お目にかかれて光栄だ』
「フフ、お世辞は素直に受け取っておこう。
枢木スザクを仲間に出来ず残念だったな、ゼロ? 予定では彼を仲間にし、秘密の共有でもするつもりだったんだろうが」
隼人のまるで心の内側を見透かしたような言葉に警戒心を抱く。
『一体何のことかな? しかし枢木一等兵を仲間に出来ず残念なのは確かだったが』
しかし、表面上は何を言ってるのか、という態度を見せ誤魔化す。
「これは失礼。何、たった数日で数々の偉業を成し遂げた君に興味を抱いてね?
どうだ? これからお茶でも飲みながらゆっくり話さないか? 」
『お茶会のお誘いか? 悪いがこの後先約があってね。また今度にしてもらおうか』
「…ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
これ以上隼人と会話していては向こうのペースに乗せられると考え身を翻した瞬間。
隼人の口から出た言の葉がルルーシュの動きを止めた。
「ゼロ、君はこの名前に聞き覚えがあるか? かつてブリタニア皇帝に捨てられ、そして…。
ここから先はここでは話すのは何だと思うのだがな? どうだ、これでもお茶に付き合ってはもらえないか? 」
ゼロが振り返り、隼人の顔をみると、何を考えているのか読みづらい微笑を浮かべていた。
『…いいだろう。で、どこで話すのかな? 』
こっちだ、と言って隼人は扇たちに用意させた車にゼロを乗せる。
そしてゼロは隼人の所有する―と言っても偽名で偽装した、だが―建物に案内されるのだった。

 

「ゼロ、君もコーヒーでいいかな? 」
『いや、私は結構だ。それよりも早く本題に入ろうじゃないか』
ルルーシュは、既に警戒心むき出しで隼人に対応する。
「そう警戒するな。ゼロ。いや、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。今はルルーシュ・ランペルージかな? 」
『一体君が何を言っているか分からないが、その人物が私に何の関係があるんだ? 』
「まだとぼけるか? ならばこう聞こうか。ギアスをどこで手に入れた」
場の空気が凍りつく。
この男はすべてを知っているのか? そんな疑念がルルーシュの脳裏によぎる。
ギアスをかけようにも、隼人はサングラスを外す気配がない。ギアスの対策なのか?
ルルーシュはこの目の前の男、神隼人がどれほどの人物なのか測りかねていた。
『ギアス? だから君は一体なにを――』
「あのジェレミアとのやり取りから察するに、お前のギアスは直に目を見た相手に絶対遵守の命令を下せるモノだろう。
そしてギアスを手に入れたのはシンジュク。あのカプセルの中にいた少女から。違うか? 」
あまりにも的確な事実に、ルルーシュはこれ以上言い逃れることは出来なかった。
『…一体何が目的だ』
やっとのことで絞り出した言葉。それはルルージュの全面的な降伏を意味していた。
「君がどういう人物なのか興味があるだけさ。ブリタニアの皇子が何故自分の国に対し戦争を仕掛けようとしているのか、ね」
ルルーシュは黙りこむ。自分の正体、能力、素性、すべてを知っている男にどう対処すべきか悩んでいた。
「だんまりか、ゼロ? ならば俺が当ててやろう。
ひとつめは自分を捨てた皇帝への復讐。
ふたつめは殺された母の死の真相を知るため。
みっつめは妹のためか?」
『フフ、フハハハハハハハ!!
全部当たりだよ、神隼人。そこまで知っておきながら私をゼロと呼ぶ理由はなんだ? 』
あまりに唐突すぎる事態にルルーシュは笑うしかない。正体を知られているだけでない。
自分が何故反逆を開始したのかすらこの男は分かっている。
ギアスも使えないし、もうお手上げ状態だった。
そんな中で隼人は一口コーヒーを口にするほどの余裕を見せていた。
「なに、君の復讐の手伝いをやらせてもらおうと考えているだけだ。
ゼロ、これから私はお前の命令に従おう。
お前がブリタニアをぶっ壊すというのなら、そのための力、お前の軍を与えよう。
どうだ? 悪くない提案だと思うが? 」
『確かに、悪くない提案だ。悪くないどころか、魅力的すぎる。
そこまで私に肩入れする義理は君にはないはずだが?
いや、私がいなくとも君ならば自分で軍を率いてブリタニアと戦えるハズだ。
私にはメリットはあるが、君のメリットが全くない。
取引としてはおかしくないか? 』
「流石は地獄を潜り抜けた男だ。いい勘をしている。
もちろんこちらかの条件も飲んでもらう」
隼人はルルーシュに一枚の紙を渡す。
『この男は…、早乙女博士か。だが博士は七年前に死んだはずだが?』
紙に描かれていたのは早乙女博士の写真。一体これが隼人の言う条件と何の関係があるのかルルーシュには分かりかねた。
「そう。七年前に死んだはずの男だ。だが、そのはずの男が今現在このエリア11で生きている。この意味が分かるか」
『死んだはずの男が復活し、この国で何かを起こそうとしている、ということか』
「そうだ。何故博士が再びこの世に生を受けたのかは知らん。
だが、博士は蘇り、その行方も分からなくなっている」
行方が分からなくなった? 隼人の漏らした情報がルルーシュの中で様々な情報と結び付く。
そしてひとつの結論を導き出した。
『…なるほど、あのシンジュクで見たカプセルのもう片方に博士は捕えられていたか
それをテロリストに盗ませるように指示したが、確保に失敗。
博士の逃亡をゆるしてしまっている、といった所か』
「その通りだ。少ない状況からよくその考えが浮かんだな」
『フ、愚問だな。私が得ている情報と、与えられた情報を照らし合わせればおのずと答えは出てくる。
早乙女という存在さえ知ればすべての問題がクリアされたというだけだ』
「流石は俺の見込んだ男だ。鋭い洞察力は並じゃあない。
では話を続けようか。私はその行方の分からない博士をなんとしても確保したい。
だが、そのためにはこの国にいるブリタニアという存在が邪魔だ。
だが、だからと言って私自身が先頭に立ち、軍団を指揮し、国を治める立場になれば身動きがとりにくくなる。
そこでゼロ、お前の出番だ」
『私が軍を動かし、この国を取り戻す役を演じれば、君はさほど動きを拘束されることなく、博士探索に専念できるということか。
…いいだろう。その程度で私の軍、国が手に入るならば! 私は喜んで条件を飲もうじゃないか! 』
「察しが良くて助かるよ。ではゼロ、私はこれから君のための軍を揃える。
数日もすれば雛型が完成するだろう。装備もこちらで調達する。
しばらくお前は平和な日常に戻ると良い。またすぐに地獄を見るのだからな」
交渉が成立し、いかにも満足といった様子で隼人がまくしたてる。
『分かった。何かあればこちらからも連絡しよう。それでは頼むぞ、神』
「まかせておけ。最高の戦争が出来るようにしてやる」
『ならば私はそろそろ帰らせてもらう。あまり遅くなりすぎると余計な詮索をされるのでね』
「そうか、では私が送ろう。ここからアッシュフォード学園は遠いからな」
こうしてゼロと隼人のファーストコンタクトは終わりを告げた。
帰りの車の中、ルルーシュは疲れ切った様子で窓の外を眺めていた。