ゲッターギアス(5)

Last-modified: 2010-02-26 (金) 11:40:14

スザクの事や隼人の事で、不測の事態の続いたルルーシュは自宅としているクラブハウスにつくころにはぐったりとしていた。
(今日だけでもイレギュラーが起きすぎだ…。神隼人、あいつはどこまで信用していいか分からんが、今は信じるしかあるまい…。
正体から何から何まで全て知られているのは誤算だったが…)
「ただいま…」
「おかえりルルーシュ」
部屋の扉を開いた瞬間ルルーシュの思考がフリーズする。
妹と女が何か言ってるがまったく耳に届いてこない。
無理もない。妹のナナリーから言われると思っていた言葉が見知らぬ緑髪の少女から言われたからだ。
もちろんナナリーもその少女の後から言ったのだが、今のルルーシュには届いていない。
「お兄様? せっかくC.C.(シーツー)さんが来られたのにどうしたんですか?」
(C.C.? この女の名か? )
「それにしてもイニシャルだけだなんて。変わったお友達ですね。
もしかしてお兄様の恋人? 」
「将来を約束した仲だ。な? ルルーシュ」
「「 え? 」」
ナナリーの質問にC.C.が即答で面倒なことを言い放つ。
これにはナナリーもルルーシュも困惑するしかない。
「ハハ、ナナリー、それは冗談だよ彼女は冗談が――」
「嫌いだ」
せっかくのフォローをC.C.に一瞬で台無しにされる。
もうルルーシュもナナリーもぽかん、としている。
どうにかしないとさらに面倒なことになる。
そう考えたルルーシュは一番近くにあったカップを床に落として叩き割る。
キャシャン、と部屋に陶器の割れた音が鳴り響く。
「ああ、C.C.、何やってんだよ。服がびしゃびしゃじゃないか。
ほらこっちに来て早く着替えないと風邪ひくぞ」
そして手早くC.C.の手を引いて部屋から移動しようとするルルーシュ。
ルルーシュの妹、ナナリーは目が見えない。そればかりか両足の自由もきかず車椅子での生活を余儀なくされている。
目が見えない、だからこそ、あの時の囚人服のままのC.C.が現れても、姿が見えないから言ったことを信じるしかないし、
ルルーシュが割ったカップの音もルルーシュの言うようにC.C.が割ったと思うしかない。
「大丈夫ですか? お兄様、C.C.さんも」
「ああ、大丈夫だよナナリー。それにC.C.が言ってたのは冗談、冗談だから」
色々と疑問に思いながらも、さっさと出て行く兄に、ナナリーは声をかけることはなかった。

 

「お前は一体何だ? シンジュクで死んだはずじゃあなかったのか? 」
自室にC.C.を連れ込むなり、ルルーシュの言動がキツくなる。
「だから言っただろうC.C.だと。それよりどうだ、気に入ったか? 私が与えた力は? 」
「ああ、俺の計画のスケジュールを大幅に前倒しにしてくれたからな」
「スケジュール? 」
「ブリタニアをぶっ壊す予定のさ。まあ、この力がなくとも実行する予定だったが、もう少し先になると思っていた」
「そうか。それは良かった」
そう言い放つとC.C.は履いていたブーツと着ていた拘束衣をさっさと脱いで、ベッドの中へとはいってゆく。
そのベッドの持ち主がルルーシュなのは言うまでもない。
「おい、待て! お前にはまだ聞きたいことが…!」
「男は床で寝ろ」
質問は受け付けない、といった様子でC.C.は布団をかぶる。
「お、おい! それはオレのベッドだ! それに何故生きている? 契約とは? 」
「おやすみルルーシュ」
冷たくあしらわれる。
隼人との一件もあり、ルルーシュは精神的に限界を感じ、好きにしろ、と言うと床に座り眠ることにしたのだった。

 

そして数日後、ゼロの出現によりスザクは無罪放免となった。
オレンジ疑惑によりジェレミアは軍の統率力を失った。それ以外にも各関連機関との連携もぼろぼろになっていた。
オレンジというのは、ルルーシュの口から出たデマカセだったが、ギアスに操られゼロを取り逃がすよう指示したのは事実であり、
ジェレミアが不正や汚職をしている、というのは公然の事実となっていた。
ジェレミアはその疑惑を払拭しようと行動しているが、一度かけられた疑惑はすぐにはれそうにない。

 

「いきなり証拠不十分で釈放なんて…。ん? 」
無罪放免で釈放されたスザクは門の所に竜馬がいるのを発見した。
シンジュクの一件があったばかりなのでスザクの表情が硬くなる。
「その様子じゃ、別に迎えは必要なかったみたいだな」
「迎え…。何故自分の迎えにあなたが来るんですか? 」
「けっ、知ったことかよ。俺はお前を迎えに行けと言われたから迎えに来た。それだけだ。
別にお前とおしゃべりしにきたワケじゃねえ。とっとと行くぞ」
そういって背中を見せて歩きだす。
迎えにきた、ということはついて来いということだと思い、スザクはその後を追う。
双方無言のまましばらく歩いていると、突然上から声が聞こえてきた。
「どういてくださ~い! あぶな~~い!! 」
「うわぁ!? 」
声が聞こえた方向を見ると、人が落ちくるではないか。
スザクはあわてて助けに走る。なんとか間に合い、落ちてきた人物に怪我などはないようだった。
声とともに落ちてきたのはピンクの髪の女、それも若く、15~16といったところだろうか。
竜馬は「めんどくせぇ事になりそうだ」と少女を見つめた。が、その顔を見て、どこかで見た顔だとも感じていた。
「すみません。下に人がいるとは思わなくて、あら? 」
少女はスザクと竜馬を見て、何かに気付いたようだった。
「ええ、僕も上から女のひとが落ちてくるとは思いませんでした。えっと、どうかしましたか? 」
少女は一瞬思案したあと、ぱっと表情を明るくし、何かを思いついたようだ。
「そう、どうかしたんです、私。実は悪いひとに追われていて、助けてくれませんか? 」
「はい、いいですけど…」
即答するスザクを見て、「やっぱりか」と竜馬は頭を押さえた。

 

3人は街を歩いていた。
スザクと女―ユフィと名乗った―が前を歩き、その後ろを竜馬が歩く。
その光景は結構異様なもので、若い男女のカップルの後ろにごっつい野獣のような男がいれば自然と目立つものだった。
「おい、いつまでこんな観光みてえなことするんだ? 」
「まあ、竜馬さん、少しくらいいいじゃないですか」
「すみません。今日が最後の休日なんです。だからエリア11がどんな所なのか見ておきたくて」
しびれをきらした竜馬が二人に声をかける。
ユフィの纏う空気はいつの間にか竜馬とスザクの間にあった壁をとっぱらっていた。
(不思議な娘だ。なんというか、温かい。そう、まるでミチルさんのような温かさだ…)
竜馬はユフィを見て、かつて自分が恋した女性を思い出していた。
早乙女ミチル。早乙女博士の娘であり、心身ともに美しい女性だった。
彼女に何度励まされただろうか。彼女は何度優しい言葉をかけてくれただろうか。
気付くと彼女に惹かれる自分がいた。
だが彼女はゲッターのテスト訓練中に―――。
「どうしました? 竜馬さん? 顔色が真っ青ですけれど…」
「な、なんでもねえ。気にすんな」
思い出したくないことまで思い出していると、それに二人も気付いたのか、心配そうにユフィが竜馬の顔をのぞきこんでいた。
すぐに思考を打ち切り、前方の二人に視線をうつす。
「で、もう観光はいいのか? 」
「え? いえ、もう一か所だけ案内してもらいたい場所があります」
「なんなりとお申し付けください。お姫様」
スザクが大げさな態度でユフィの要望を聞く。しかし、彼女の行きたい場所とは意外な所だった。
「それではシンジュクに」
竜馬とスザクが驚いた表情を見せる。
シンジュク、一体彼女はあの廃墟、地獄の跡地で何を見たいというのだろうか。
「私にシンジュクを見せてください。枢木スザクさん。流竜馬さん」

 

シンジュクには何もなかった。いや廃墟しかないと言うべきか。
先の犠牲者たちの墓標が、よりいっそうここが死んだ場所だということを強調する。
「ここまでやられちゃあ、このゲットーはもうオシマイだな」
竜馬の声が廃墟に響く。
「やっと人が戻り始めていたんですが…」
スザクが沈痛な表情で誰かの墓標を見つめる。
「やはり、強くないといけないのでしょうか」
「え? 」
「弱い、というのはそれだけで罪なのでしょうか。
昔、10歳だった僕には世界は酷く醜いものとして映っていました。
飢餓や貧困、戦争やテロ。繰り返される憎しみの連鎖…」
まるで今までため込んだ感情の堰が崩壊したかのように語りだす。
「誰かがその悲しい連鎖を断ち切らなくてはならない。
もちろん、そうしたものすべてがなくせるとは思わない。
でも、大切な人をなくさずに済む、せめて戦争のない世界に…」
「どうすれば、そんな世界が作れるでしょうか…」
ユフィが不安げにスザクに聞く。竜馬は何も言うことなくじっとスザクを見ていた
「僕にはまだ分からない。でも、目指すことをやめたら父さんは無駄死になってしまう」
「枢木首相のことですか? 」
「…あの戦争で、父さんは死ななければならなかった!! 」
「理想の夢物語、だな」
「何!? 」
ここでようやく竜馬が口を挟む。
「弱いことが罪か? 確かにそれは罪じゃねえ。
だが、弱い奴が強い奴に何をされても、文句は言えない。なんせ自分を守ることが出来ねえんだからな」
「だからといって! 強者が弱者を虐げることが許されるはずがない! 」
「そうかもな。だが、これは事実だ。強い奴が弱い奴を支配する。ブリタニアの国是でもある。
それに、争うことは人間の本能だ。進化しようとする生物のな。
その本能まで否定するのか。スザク、お前はそれ相応の覚悟が出来ているのか? 」
竜馬の鋭い眼光にスザクはたじろいでしまう。
竜馬の言ったことを認めたくないという中で、彼の言うことが一つの真理であることも理解している。
「しかし…」
ズワオ!
スザクが何か言おうとした時、近くの廃球場から爆発音が聞こえてくる。
「スザク君! それにリョウ君も!! 」
「セシルさん? 」
「どうした、こんなとこまで」
すると特派のトレーラーが3人の前に現れた。中からセシルとロイドが顔をのぞかせている。
「ここは危ないわ。早く乗って! 」
「純潔派のウチゲバなんだよ。とっとと逃げよ」
「純潔派の…?」
そう、爆発のした球場跡では純潔派によるジェレミアの粛清が行われようとしていた。
4対1という絶対的不利な状況の中、ジェレミアの命の火は風前の灯といっていいだろう。
「待ってください! ランスロットの戦闘データを取るチャンスじゃないでしょうか!? 」
ロイドとセシル、さらには竜馬もスザクの言葉にはっとする。
なるほど、その手があったか、と。
「スザク」
しかし、ユフィは心配そうに声をかける。
「ごめんユフィ、ここでお別れだ。ランスロットなら、止められるはずだから」
「おい、ロイド。オレのドラゴンも持ってきてくれてんだろうな?
オレも行かせてもらうぜ。慣らし運転にちょうどいいしな」
にやっと笑いながら竜馬がスザクの方を見る。
スザクが静かにうなづいたあと、二人は自分たちのKMFの発進準備を進めるのだった。

 

「くそぅ。4人がかりとは…。卑怯なキューエルぅう!」
「黙れオレンジ! コーネリア皇女殿下が御着任あそばされる前に、身内の恥は雪がねばならん!
安心しろ、戦死あつかいとしてやる。皇室のために、オールハイルブリタニアーー!! 」
スザク達が到着した時には、既にオレn、じゃなかったジェレミアは窮地に追い込まれていた。
四方を囲まれ、対KMF用大型ランスがジェレミアのサザーランドを討つべく狙いを定め4機一斉に突進する。
「トマホーーーク ブーメランッ!! 」
そこにランスロットのスラッシュハーケン、ドラゴンのトマホークが飛んできて、動きをけん制する。
「やめてください! 同じブリタニア軍同士で争うのは! 」
「だ、そうだが。まだやるか? あんたたちは」
「あれは特派の嚮導兵器…。ランスロット、それにドラゴンか!? 」
球場の外縁部に白と赤のKMFが立っていた。
場に混乱の空気が流れる。
「特派が何用だ! 邪魔をするならば誰であろうと討つ! 」
だがキューエルの一喝で再び引き締まる純潔派達。
「今さら引き下がれぬ! 」
いっせいにランスロットとドラゴンに向かってスラッシュハーケンの一斉攻撃が開始される。
「仲間同士で…! 」
「そうこなくっちゃなあっ!! 」
2機はすぐにスラッシュハーケンをジャンプで避け、純潔派たちに詰め寄ろうとする。
「小癪な! 」
空中では避けれまいと踏んだキューエル達はすかさずスラッシュハーケンの第二射を放つ。
「甘え! 甘えぞ! 」
だが、ランスロットはMVSをすかさず鞘から抜き、ハーケンをかわし、ワイヤーを切断、使用不能にする。
対する竜馬のドラゴンは迫りくるハーケンを素手で掴み取り、そのまま握りつぶす。
「ば、馬鹿な! 空中で避けるナイトメアに、ハーケンを掴み取るナイトメアだと!? 」
特派の新型の性能をその目で見て、驚愕するキューエル。
しかし、その間にも竜馬たちは迫りくる。
「くっ、全機、着地の瞬間を狙え! いくらあれだけの性能でも、隙が生まれるはずだ! 
2機でかかればやれるはずだ! 」
「イエス、マイロード! 」
ハーケンが効かないと分かると、即座に戦法を変える純潔派達。
2機ずつ二手に分かれスザクと竜馬の着地の瞬間を狙う。
「やるしかないのか…!」
「流石はエリート揃いの純潔派サンだなあ! スザク!! ヘタをうつなよ! 」
そして、2機が着地した瞬間、、純潔派の大型ランスによる挟撃が襲いかかる!
ギャン!!
金属のぶつかる音が球場に響く。
「ふ、これで特派の嚮導兵器といえど…、何ィ!? 」
ランスから感じる手ごたえに仕留めたと思ったキューエルだったが、眼前に広がる光景に再び驚愕した。
大型ランスは穂先から真っ二つに切り裂かれ、そればかりか、サザーランドの腕まで切り落とされていた。
ランスロットの高周波振動兵器、MVS-メーザーバイブレーションソード-と、
ドラゴンの下腕部に装備されたスピンカッターの通常兵器とはケタ違いの切れ味の結果だった。
「MVS…、まさか特派の嚮導兵器がこれほどとは…。各機下がれ。ケイオス爆雷を使う」
ハーケンも、ランスも破壊され、打つ手のなくなったキューエルがケイオス爆雷の使用を決断する。
ケイオス爆雷とは、一定の方向に無数の弾丸を放つ、散弾発射型の手投げ弾である。
その発射される弾の多さから回避が困難であり、キューエルもこれを使うつもりはなかった。
「分かってくれたんですね。キューエル卿」
サザーランドが下がったのを見て、スザクはキューエルが諦めたのだと勘違いする。
「いや、奴さん、まだやるつもりだぜ…、ん? なんであの女がここに? 」
だが竜馬は敵の放つ殺気がまだ消えてないことに気付いていた。
そして次の手がどう来るのか各センサーとモニターを確認すると、球場へユフィが侵入してくるのが見えた。
「おい、お前ら。やめ――」
一般人の侵入ならば流石に戦闘行動をやめるだろうと踏んで、キューエル達にユフィの存在を伝えようようとする。
しかし、時既に遅く、キューエル機は腰部から取り出したケイオス爆雷を空中へと放り出していた。
「なろ! スザク!! 」
竜馬の叫びによりスザクもユフィの存在に気付く。ユフィだけでなく、彼らの後ろには半壊状態のジェレミアもいる。
避けるわけにはいかない状況だ。
「ここは僕が! 」
ランスロットが両腕に装備されたブレイズルミナス-エネルギーの力場を利用したシールド-を展開する。
ドラゴンも同じようにシールドを展開する。
そこに無数の弾丸の雨が降り注ぐ。
ブレイズルミナスで防ぐものの、防ぎきれない弾のい何発かがランスロットとドラゴンに損傷を与える。
そしてついに、散弾を撃ちつくしたケイオス爆雷が地面へと落ちる。
ゆっくりと防御態勢をとくランスロットとドラゴン。
するとその足元からユフィが姿を現す。
「ま、まさか…!? 」
それを見て、キューエルとジェレミアが驚きの声を上げる。
「双方とも、剣をおさめなさい! 我が名において命じさせていただきます!
私はブリタニア第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです。
この場は私が預かります! 下がりなさい!! 」
ユーフェミアの透き通った声が響く。
「そんな、ユフィが?」
「ほう、あの嬢ちゃん、ブリタニアのお姫様だったのか。どうりで」
驚くスザクに、納得する竜馬。
ユーフェミアの登場により、場の空気が一変する。
「ま、まことに申し訳ございません!! 」
キューエル達は下手をすれば自分達が皇族殺しをするところだったのに気づき、ユーフェミアの前にひざまずく。
「皇女殿下! 知らぬこととは言え、失礼いたしました! 」
スザクも機体から降り、ユーフェミアに先の無礼を詫びる。
言葉には出さぬが、竜馬も一応機体の片膝をつき、礼を尽くす態度をとる。
「スザク、私もあなたが父を失ったように、兄クロヴィスを失いました。
これ以上、皆が大切な人を失わずに済むよう、力を貸して頂けますか?
竜馬さんも、あなたがたも」
「「「イエス、ユアハイネス!! 」」」
こうして、ユーフェミアの手により、この場はひとまずのおさまりを見せる。
竜馬は皇族にもユフィのような人間がいるのだということを知った。
そしてこの少女がこのエリア11の新たな副総督として、どうやっていくかに興味を抱く。
総督としてやってくるという彼女の姉コーネリア・リ・ブリタニアは相当の武人でユフィのように甘くはない。
果たして理想をどこまで追いかけることが出来るのか、実の姉という現実にどう立ち向かうのか。
「ま、そんなことより、早く隼人や早乙女のじじいをみつけなくちゃなんねえ。
理想だなんだなんてのは、今のオレには関係ないな…」
己の復讐。それを満たすために竜馬は存在していた。それが今、竜馬の生きる目的だった