ゲッターギアス(7)

Last-modified: 2010-03-07 (日) 00:24:45

事態は非常にまずい状態になっていた。
コーネリア率いるブリタニア軍が完全に周囲を包囲したものの、ホテル突入には至っていない。
何度か物資搬入用の地下坑道を用いて侵入を図ったものの、日本解放戦線側はここにリニアカノンを装備したKMF“雷光”を設置。
突入を試みるブリタニア軍のことごとくを排除していた。
雷光は鹵獲したブリタニアのKMFグラスゴー4機を移動ユニット兼火器管制装置とした、まさに動く大砲という機体だった。
機動性は皆無だが、狭い坑道内という限定空間で放たれる散弾式のリニアカノンは非常に有効的で突破は困難を極めた。
しかし、ブリタニア軍が突入出来ぬ真の理由。それは人質の中にあのユーフェミアがいたことにあった。
テロリストの要求を飲むワケにはいかない。だが、皇族を死なすことは許されない。
そのため、膠着状態が続き、もう夜になってしまっている。
竜馬はそんな状況に飽き、気分転換に「散歩してくる」と言って一人周囲を歩いていた。
「チッ、ナンバーズとブリタニア人をキッチリ分ける、か。
何のための名誉ブリタニア人制度だよ、たく。ん? なんだ? 一般人が騒いでるのか?」
コーネリアのやり方に愚痴りながらしばらく歩いていると、軍人とイレブンが揉めている所に遭遇した。
「頼む! あそこに息子と娘がいるんだ! 頼むから通してくれ!!」
「バカモノ! 名誉ブリタニア人ごときが軍の任務中の現場に立ち入ることなど許されるか!
これ以上騒ぐのであれば拘置所行きだぞ!」
「おい、その辺にしとけよ。軍人サンも、そこの男も、ってお前…」
あまりに揉めているので暇つぶしがてら仲裁しようと竜馬が近付くと、そこに居たのは意外な人物だった。
「お前、竜馬か? なんだその格好は?」
「弁慶じゃねぇか。おい、こいつはオレの知り合いだ。オレから話をつけておくからここは見逃してやってくれ」
「なんだ。特派の関係者か。いいだろう。だがお前らは名誉ブリタニア人なんだ。分をわきまえろよ」
竜馬が特派の制服を来ているのを見て、吐き捨てるように言うと軍人は立ち去っていく。
「弁慶、なんでお前がこんなところに居るんだ」
軍人が立ち去るやいなや、竜馬は弁慶に詰め寄る。
車弁慶、かつてともに早乙女研究所で過ごした仲間の一人だった。
「そういうお前こそ、一体どういうことなんだ? お前は、その…刑務所に居るはずなんじゃ…」
「ああ、そういえばそうだな。世間じゃ俺はまだじじい殺しの罪で投獄中だったな。
だが弁慶、オレは早乙女のじじいも、アイツも殺しちゃいない!」
「分かってる。オレもお前が博士たちを殺したとは思っていない。
だけどよ、お前がそんな服着て、軍にいるとなれば不思議に思うのは仕方ないだろう。
竜馬、よかったらでいい。俺に教えてくれないか?」
そう言った弁慶の要望に応え、竜馬はこれまでのあらましを説明した。
もちろん早乙女博士が生き返った、ということは伏せて、だが。
「…なるほど。特派、か。お前も大変なようだな」
「そういうお前はどうなんだ。弁慶。なんでお前がここにいる。それに息子と娘っていうことはまさか…」
「竜馬、お前も犯行グループからの映像を見ただろう。その中に日本人、いやイレブンの子供たちがいたのに気がついたろう?」
竜馬は先ほどの映像を思い出し、渓の顔を思い浮かべる。
「…じゃあやっぱりあの娘は」
「ああ、元気ちゃんだ。今は車 渓と名乗っているが…。それともう一人、息子の號もいっしょに捕まっている」
「やっぱりか。だが息子? どういうことだ。お前に息子はいなかったはずだろう?」
「あいつもオレが引き取った子だ。あの戦争中にな…。
ブリタニア軍に親を殺され、ダイナマイト片手に復讐しようとしていたのを止めた縁でな。
それもあってオレの息子だが一文字の性を名乗ってる」
「そうか。義理とはいえ、自分のガキが捕まってるんだ。親としちゃ気が気じゃねえよな。
そういえば名誉ブリタニア人、って言われてたな。いつの間にブリタニアに?」
「…あの戦争のあと、オレみたいなのが子供二人も養うためにはそれしかなかった。
仕事を探すにもただのイレブンを雇う所なんてねえ。
武蔵先輩から元気ちゃんを頼まれて、號だってオレが育てると決めたんだ。
そのためになら俺は自分のプライドくらい犠牲にしてやるさ」
弁慶の事情に竜馬はどう言っていいかわからなかった。
自分ばかりが地獄を味わっていたと思っていたが、まさか弁慶まで、辛い経験をしていたとは思ってもみなかった。
だが、ひとつだけ、竜馬の頭に引っかかることがあった。
「そうだ、元気ちゃんは、博士が死んだ後、武蔵が面倒を見るはずだったろう?
その武蔵はどこに行ったんだ!?」
武蔵、彼もかつての竜馬たちの仲間だった。
博士殺害の容疑で逮捕された後、一度だけ面会に来て早乙女博士の遺児、元気は自分が育てると言っていたのを竜馬は思い出した。
「…武蔵先輩はあの戦争で死んだよ。一人で、ミチルさんの事故で修復中だったゲッターに乗ってブリタニアと戦ってな…。
研究所に迫るブリタニア軍をひきつける囮になって、俺達が逃げるチャンスをつくるためだった。
何度も謝られたよ。元気は自分が育てるって言ったのに俺に任せることになってスマンって」
「そう、か…」
弁慶の口から武蔵の死を告げられショックを受ける。
これまで自分が去った後の研究所がどうなったかなど気にしたことなどなかったが、知らないでは済まされない事が起こっていたことに驚いた。
「あの武蔵が…」
「ああ。いくらゲッターがあの当時でもKMF相手でも優位だったとは言え、ブリタニア軍のあの数じゃあなあ。
しかもゲッター本体も修理が不完全で、パイロットも一人だけ。
初めの内はブリタニア軍を圧倒していたが、物量差でじわじわと…。
最後には武蔵先輩がブリタニアにゲッターのデータを渡すまいとして自爆。
それを見た元気ちゃんは完全に自分の過去を忘れちまった。
そう、武蔵先輩も、元気ちゃんも研究所もろとも消え去ったんだ。止めれなかった。スマン。俺には止めれなかった!」
「いや、悪いのはお前じゃねえ。武蔵が死んだのは俺のせいかもしれん。俺の…」
過去を思い出し、自責の念に駆られる弁慶を竜馬は慰める。
「リョウ君、ここに居たの!? 大変なの! 人質が!」
そこにセシルが現れる。かなり焦っているようだ。
「人質? まさか!」
人質が大変なことになっていると聞いて、弁慶が走り出す。
「おい弁慶! セシル、あいつの説明は後回しだ! 一体人質がどうなったんだ?」
弁慶を追いかけようとしたが、すぐに見失ってしまい、竜馬はセシルを連れて戻ることにする。
「それが、軍が要求をのまないから、ハア、30分ごとに、ハアハア、ひと、じちを…」
「ああくそ!」
竜馬の速さに合わせようと走ったため、セシルはすぐに息を切らす。
それでは肝心の情報も、戻るのも遅くなるため、竜馬はなかば強引にセシルを抱きかかえ走る。
「え、ちょっとリョウ君!」
「で、30分ごとにどうするって?」
「あ、そう! これ以上要求に対する返答がない場合30分毎に一人ずつビルの屋上から人質を…」
「…っ! 馬鹿どもが!!」
セシルの言わんとしたことが分かり、舌打ちをする。
「セシル、舌をかむなよ」
「へ、きゃっ!」
これは早急に戻る必要があるとみて、竜馬は全力で走り始めた。

 

この少し前のホテル内。
ホテルビルの上層食糧庫に人質は捕えられていた。
「號、どうしよう…。このままじゃ私たち…」
「安心しろ渓。こいつらも元軍人だ。人質をそう簡単に殺したりしねえよ」
(だが、こう思うのは楽観的過ぎるな…。結局要求が通っちまえばきっとアイツらは俺らをも殺すだろう。
名誉ブリタニア人の俺らはたぶん、国を売った裏切り者扱いで…。
いや、こんなこと考えてる場合じゃねえ。どうやったらここから皆を逃がせるか考えるんだ)
號はこの状況下でなんとか諦めずにいた。しかしいくら考えようが、どうすることも出来そうにない。
(クソ、オレはここまで無力だったのかよ! このままじゃ皆、皆殺られちまうんだぞ!
ミレイ会長も、シャーリーも、ニーナも、そして、渓も…!)
そうやって號が焦っていると、新たに解放戦線の人間が数人、食糧庫に入ってきた。
「君達には悪いが、ブリタニア軍は我々の要求に対し、一切の返答をよこさない。
よって、これから30分ごとに君達の中から一人を選び、屋上から飛び降りてもらう!
恨むのであれば君達を見捨てたブリタニアを恨むのだな!」
突然の死刑宣告に人質たちがざわめく。神に祈るもの、もう駄目だ、と泣き崩れるもの。
様々な反応を見せる中、解放戦線側を最初の犠牲者を選び始める。
そして一人の男性に目をつけたようだった。
「そうだな。ではまず君から―――」
「 待 て ! 」
解放戦線がその男性を選んだ瞬間、號が大声を出してそれを止める。
「なんだ国を売った裏切り者の学生君。我々に文句でもあるのかね?」
「ああ、俺はてめえらみたいに弱いモンいじめするような奴らが大嫌いだ」
「弱いものいじめだと? 学生が! 生意気なことを!!」
銃床で號を殴りつける。だが號は倒れようとはしない。
「抵抗もしない奴に銃向けて、要求が叶わないから死ねだと? これが日本を取り戻そうって連中のやることか!?」
「な!?」
號の気迫に解放戦線のメンバーがたじろぐ。
「く、日本を捨ててブリタニアについた売国奴がほざきおって…。
いいだろう。まずとんでもらうのは君に決定だ。来い!
来なければ君のお仲間からにするが?」
「っく、卑怯モンがぁ…」
啖呵を切ったものの、解放戦線の脅しに號は従うしかなかった。あまりにうかつだったことに今さらになって気付く。
両手を縛られ、連行されていく。
渓が何か言おうとするが、それを號は目で「心配するな」と伝えた。
こうして、初めての犠牲者として號は選ばれてしまった。
屋上に着くまで、號は様々な罵声を解放戦線の人間から言われたが、耐えた。
ブリタニア軍が自分達名誉ブリタニア人を嫌っていても、この次がブリタニア人だと知れば行動を起こすはずだ。そう信じて。
「さあ、とんでもらおうか」
屋上についてすぐに號はそう宣告された。
そして、数十メートルはあるであろう屋上から、静かに號はとんだ。

 

「ゼロが現れた?」
機体の調整を進めていると、ゼロが現場に現れ、コーネリアと取引をしているという知らせをうける。
「うん。どーやら軍が動かないのを見て、ユーフェミア皇女殿下が人質内にいるってバレちゃってるみたい。
んで、自分が首謀者の草壁中佐を説得するから、通せって。
んっふ~、ほんと面白い人物だよねえ~。
しかも、お~め~で~と~! ゼロが草壁中佐を説得して時間稼ぎしている間に僕ら特派は囮役が決定しました♪
地下の物資搬入用の坑道から侵入を試みろってさ。その間に別働隊が人質救出をやるんだって」
出撃が決定したのがうれしいのか、ロイドはかなり上機嫌だ。
不謹慎極まりないが、あとでセシルにシめられるからほっといた方がいいだろう。
「囮、ですか。でも、今僕達が必要とされて、それが人質救出につながるのなら、僕はやります!」
作戦目的に何の文句もないといった様子でスザクが語る。
「で、作戦開始時間と方法は?」
「ええ、それは今から説明するわ。
ランスロットは可変弾薬反発衝撃砲ヴァリスを使用。これによりホテルの基礎の破壊を試みます。
基礎が破壊されたホテルは水没を開始、人質がいる階層まで水没するには時間があるので、別働隊が後の作戦を行います。
また、坑道内のリニアカノンKMF対策として、ドラゴンはアサルトマシンガンを使用。
これにより敵の散弾を可能な限り撃破、回避率を格段に向上させ、敵の兵器を無力化します」
「アサルトマシンガンか…。スペックは…と。ほう、かなりの連射速度だな。
その割に集弾性もいいみたいだ。これなら向かってくる散弾を撃ち落とすのも楽かもな」
モニターに映るアサルトマシンガンは白い銃身に、ドラム型のマガジン、とかなり特異な形をしていた。
軽くシミュレーションを行ったあと、すぐさま坑道入り口まで搬送される。
その間にドラゴンはアサルトマシンガン二丁を両手に装備し、ヴァリスを腰にマウントしたランスロットと共に坑道内に降ろされていく。
坑道に着くと、時間合わせのため、しばらくの待機を命じられる。
その間、機体の最終チェックおよび作戦の概要を再確認する。
「ランスロットの機動力なら、オレが弾を掃除してやらなくても避けきれるかもしれんが、無理はするなよ」
「分かっています。今は人質救出の時間稼ぎが重要です。でも…」
「やりきっちまうつもりなんだろう?」
分かっているさ、というようにスザクの考えていたことを言い当てる。
「…はい!」
スザクはそれに対し、力強くうなずく。
「ランスロット、およびドラゴン、作戦開始です」
セシルのアナウンスが届く。
「MEブースト!!」
「しゃあ! 全開で行くぜ!」
合図が出された瞬間、2機のKMFが出力全開で発進する。

 

『反応2! 敵性ナイトメアです!』
『ふん。ブリタニアめ。何度来ようともこの雷光の超電磁式榴散弾重砲の前では同じことよ! 構わん、撃て!』
スザク達の接近を感知した雷光の砲身が一瞬輝くと、大量の弾丸が竜馬達に向かって放たれる。
「来やがった! いくぜ!! スザク当たるなよ!! うおおおおお!」
発射を確認した竜馬は両手のアサルトマシンガンを乱射する。
吐き出された弾丸は、瞬時にして分厚い弾幕を形成する。
その弾幕に阻まれ、雷光の放った散弾はほとんど撃ち落とされ、ランスロットとドラゴンは易々と残りを回避し、雷光へと近づいてゆく。
『な、回避されました! 敵は強力な連射兵器により弾幕を張っている模様!』
『く、構うな! 撃て!撃て! 撃て~!!』
防がれたことに動揺し、超電磁式榴散弾重砲を乱射する雷光。
「何度やろうが効くもんかよ! スザク、この調子ならあと、もう何発かかわせば敵の懐だ!」
「分かりました! 敵に接近しだい、格闘戦にて敵の無力化を図ります!」
しかし、いくら撃とうとも、竜馬たちは難なくそれらを攻略していく。
そうしていくうちに、徐々に距離は埋められていく。
『く、このままでは…。切り札を使う!! 砲のシステムを切り替えよ!』
『了解、モードGBに切り替えます!』
砲のシステムを切り替える間、一瞬ではあるが、敵の抵抗が弱まる。
「なんだ? もう終わりか? スザク、この間に一気に近づくぞ!」
これを好機と見た竜馬とスザクは、敵を無力化させるために近づく。
だが―――。

 

『ブリタニアの豚ども! 日本の誇る兵器の力受けてみろ!
発射!! ゲッタービーム!!!』
「な!? まさかあの光! やべえ! スザク! ドラゴンの後ろに下がれ!」
「え、うわああ!!」
ドシュォオオ!!!
先程とはまるで異なる光が雷光から放たれるのだった!

 

「スザク君!! リョウ君!」
地上でモニターしていたセシルとロイドが叫ぶ。
雷光が放ったもの。それは、その正体は、ゲッタービームであった。
かつて早乙女博士が開発したゲッター線を利用した驚異の破壊力を誇った兵器。
それが雷光が放った光の正体だった。
「くおおおおおお!!?」
発射の瞬間に感じた既視観を頼りに、即座に防御のためブレイズルミナスを張ったものの、ゲッタービームの威力は想像以上だった。
防ぎきれない衝撃がドラゴンの各部を次々と破壊していく。
そしてついにはブレイズルミナスを発生させている両腕が過負荷に耐え切れず爆発をおこした。
それと同時に雷光のゲッタービームも途切れる。ドラゴンの爆発により、あたりは煙で見えなくなる。
『どうだ! みたかゲッタービームの威力!』
『いえ、反応、まだあります!』
煙が晴れると、そこには両腕を失ったドラゴンと、脚部を損傷したランスロットが存在した。
「く、ランスロットの調子はどうだ?」
「ランドスピナーがさっきの攻撃で…。このままじゃ次の攻撃は避けれそうもありません。
ましてやあのビーム攻撃なんかは…。ドラゴンのブレイズルミナスで防ぎきれないということはランスロットでも…」
「いや、あのビームはしばらくは撃てないはずだ」
「え?」
何故、とスザクは思った。さっきの攻撃がどうして連続して撃てないのかと。
「アレが何発も撃てるんだったら、最初っから使ってるさ。
それにな、アレはゲッター線をチャージする必要がある。今のゲッター線濃度じゃ、そのチャージにも時間がかかるはずだ」
過去の経験と、現在の計器の様子からの推理だった。
「それじゃあ、そのチャージが行われる前に、敵を叩かないと。でもこれじゃあ…」
「ふ、幸い、ドラゴンがぶっ壊れたのは上半身だけみてえだ。足は問題ない
だが肝心の腕がなけりゃ敵を攻撃できない。そこでだ。
機動力はこっちがカヴァーする。攻撃はお前に任す。大丈夫か」
「…そういうことですか、それならば愚問です!」
スザクは竜馬が一体何をしようとしているかを把握すると、ランスロットをドラゴンにもたれかけさせる。
そう、彼らがやろうとしていること、それはドラゴンが足となり、ランスロットが腕となる、欠けた機能をお互いに補う協力攻撃だった。
『敵ナイトメア、再起動! 攻撃来ます!』
『く、ゲッタービームは!?』
『先程の使用により、チャージに時間がかかります!』
『ええい! 超電磁式榴散弾重砲に切り替えろ! 今度はあたるはずだ!』
再び雷光が砲の切り替えを行う。だが、その隙を竜馬達が見逃すはずもなかった。
「スザク! 外すなよ!!」
「分かっています! 敵破壊の爆風の対処、よろしくお願いします!」
『や、やらせるな! 攻撃! 攻撃ぃ!!』
雷光が精一杯の反撃を行うが、ドラゴンはそれを見事に避け、ランスロットは腰に装備していたヴァリスを展開する。
収納されていた銃身部がせり出し、そして照準を合わし、引き金を引く。
バシュ!という音とともにヴァリスから砲弾が射出される。
それは吸い込まれるように雷光に命中する。そして―――。

 

ドワオ!!!!!

 

雷光の機体が大爆発を起こし、坑道の天井ごと吹き飛ばす。
爆風にあおられながらも、その穴から竜馬達は飛び出し、スザクは任務を果たすためにビルの基礎部分めがけヴァリスを連射する。
その何発かが見事基礎ブロックに命中し、ビルは予定通り水没を開始する。
「やった!」
「まて! ビルのあそこを見ろ!!」
竜馬が指摘したところの窓をズームしてみると、そこにはゼロがいた。
スザクは忌々しそうにそれを見つめる。
だが、竜馬はまた別の場所で重要な人物を発見する。
(な!? なんでてめえがこんなところに居やがる!)
竜馬が驚くのも無理はなかった。それは誰あろう、早乙女博士だった。
こちらを見てにやりと笑みすら浮かべている。
まるで待っていたと言わんばかりに。
二人がそうしていると、突然ビルの各所が爆発を起こす。
「ま、まさか! やめろ! 人質も巻き込んで自爆なんて!!」
爆発にハッとし、ビル内の人質のことを思い出す。まだ人質がいるとすればあの爆発は…。
スザクは爆発の中に飛び込もうとするが、ランスロットの脚部の故障により、思うように動けない。
その間にもビルは爆発と水没により、みるみる崩壊してゆくのだった。

 

時間は少し遡り、ビルに侵入した連中は、ゼロの指示どおり行動を開始した。
その中には当然、あの神隼人もいた。
「それで、ビルから飛び降りた少年はどうだった?」
「ええ…驚くべきことに外傷が全くなく、擦り傷以外は無傷といってもいいくらいで…」
隼人はこのビルについた途端、部下にビルから飛び降りさせられた號の安否の確認を行わせた。
すると、なんと驚くべきことに號は全くの無傷で、本人いわく「ちょっと高すぎた」というだけらしい。
「フフ、全く持って面白い男じゃないか。地上数十メートルから落とされて無傷とは。
まるであの男を思い出す。おい、彼は丁重に扱え。そのうち我々の仲間となるやもしれんからな」
「了解しました。ところで、ゼロは一人で草壁の元に行きましたが、よろしかったので?」
部下が隼人にゼロの事を聞く。指示通り、爆弾の設置は完了し、人質の救助を完了したが、未だゼロは戻らない。
「彼の能力は高い。彼自身が彼だけでやるというならば、任せても大丈夫だろう。
今頃は草壁を説得しているところだろうよ」
「はあ…」
「それともうひとつ、解放戦線がゲッタービームを搭載した雷光を保持していた件はどうなった?」
「はい、その件に関してですが、解放戦線メンバーを尋問したところ、不可解な事を言っていまして」
「不可解なこと?」
「ええ、なんでも早乙女博士がやってきて、調整してくれた、と。
早乙女博士って確か7年前にお亡くなりになっているはずなのですが…」
「なるほど、死んだはずの人間から、か。分かった。その件はもういい」
納得してない様子の部下をさておいて、隼人は事の次第を把握した。
まさか早乙女博士がこのビルにいるとは思ってもみなかったが。
シンジュクでの一件のあと、早乙女博士は解放戦線と合流したのだろう。
そして、自分を匿う見返りにゲッタービームの技術供与をいた。
これが事の次第なのだろうと隼人は考えた。
そこにゼロから合図の通信が入る。
「さあ、これからこの舞台のクライマックスだ。全員持ち場につけ!」
隼人の号令の後、ゼロが建てた作戦を遂行するため、全員が動き出す。

 

爆発もおさまり、ビルが完全に崩壊した後。
スザクは誰も救えなかったと、自責の念にかられていた。
竜馬も一瞬だけ見たあの博士は見間違いではなかったのか、と自問自答を繰り返していた。
『ブリタニア人よ』
すると突如、ゼロの声が聞こえてくる。放送波をジャックしているらしい。
『ホテルに捕らわれていた人質は全員救出した。あなた方の元へお返ししよう』
見ると、人質だった人々がボートに乗せられ、次々と現れる。
人質の無事を知ったスザクは安心し、目に涙を浮かべている。
(よく言うぜ。これで軍がゼロに手出ししようとすれば、また人質にするつもりのクセに…)
しかし竜馬はこの、ゼロという男の胡散臭さに気付いていた。
『人々よ!! 我らを恐れ、求めるがいい!』
ゼロの周囲がライトアップされ、ゼロに協力している連中も姿を現す。
全員がゼロに合わせたのか黒い服とバイザーをつけている。
『我らの名は黒の騎士団!!』
そしてゼロの口から、彼らの組織の名が明かされる。
『我々は武器を持たぬ人々の味方である! それがブリタニア人でもイレブンでも関係ない。
ましてや、日本解放戦線のような卑劣な暴力も許容しない!
我々は弱者の味方、力を持つすべてのものが弱者を虐げる時、我々は再び現れる!
力あるものよ、我を恐れよ!!
力なきものよ、我を求めよ!!
世界は、我々黒の騎士団が裁く!!』
これが、世界を混乱に導く、黒の騎士団のデビューであった。