ゲッターギアス(9)

Last-modified: 2010-05-17 (月) 22:59:45

「ゼロ、明日の件についてだが」
「ああ、報告を聞こう」
ここは黒に騎士団のアジトにあるゼロの執務室。ゼロは仮面をかぶらず素顔をさらしていた。
隼人が報告にきたのは、明日、ブリタニア軍がナリタ連山にある日本解放戦線の基地を襲撃する情報を元に、
黒の騎士団によるブリタニア軍急襲作戦をゼロが立案しており、その作戦の準備の進行具合を伝えるためであった。
「物資の搬送は予定通り行えそうだ。紅蓮はカレンに起動キーと取説を。
彼女ならば問題ないだろう。例のモノも準備が出来た」
「そうか。これで問題はクリアされたも同然。明日の作戦の成功の確率はかなり上昇した。
…ところで神、例の月下はどうなった?」
「月下試作壱号機から参号機の各機を敷島博士が改造中だが、明日に間に合うのは俺が乗る試作弐号機だけだ。
これがその月下試作弐号機の仕様書だ。見るだろう?」
「ああ。…なるほど、これは凄い改造だな。右腕は簡易輻射波動機構の付いたクローアームに
左腕はドリル状の大型ランスか。出力向上でかなりの機動力もあるらしい。
これはもう元の機体と同じとは思えないな」
「ああ、月下試作弐号機改とするんだろうが、博士達はこれをゲッカー2と呼んでいる」
「ゲッカー2…、なるほど。君達ならではだな。それでは明日の作戦ではその力、見せてもらおう」
「ああ、期待にそえるよう、努力しよう」

 
 

そして翌日。
ナリタ連山をコーネリア率いるブリタニア軍は完全に包囲し、攻撃を開始していた。
「ブリタニアの攻撃だと!?」
基地司令である片瀬少将はこの事態に焦りを見せる。
「ブリタニアはこのナリタ連山を完全に包囲している模様!
地下協力員もいっせいに逮捕されました。コーネリアからは降伏せよと…」
「バカモノ! ここで我らが潰えれば、日本解放の火は消える!
無頼出撃準備! 攻撃を開始し、包囲網の一角を崩し脱出する!」
「はっ! 了解しました!!」
片瀬の命令が伝達され、基地全体が反撃準備に入る。
「すみませんな、博士。博士を巻き込む形となってしまって…」
そう言って、片瀬はそばにいた人物に謝罪する。
「いえいえ、追われていた私をお救いくださったのは片瀬少将、あなたではありませんか。
それに私のやり残した研究の手助けもしていただいた。頭を下げるのはむしろこちらの方です」
「…ありがとうございます。しかしあなたは優先的に脱出してください。
あなたは客人、その権利がある。そうでしょう、早乙女博士」
「お心づかい、感謝します」
彼の名は早乙女。シンジュクで姿を消した彼は秘密裏に日本解放戦線と接触。
その身を匿うことを条件に解放戦線に協力していたのだった。
「これまで我らにお力添えしてくださりありがとうございます。それでは、どうかご無事で」
片瀬がそう言った後、早乙女は案内をするという軍人について行き、司令部から姿を消すのだった。
「…早乙女博士か。何故死んだ人間が生き返ったか、終ぞ聞きそびれたな…。
各員、全力をもって敵を撃退せよ! 我ら日本の誇りを見せてやれ!!」

 

解放戦線側はその持てる戦力全てを投入し、必死の抵抗を続けていた。
だがブリタニアの圧倒的戦力はそれを次々に撃破し、包囲網をじわじわとせばめていた。
総督であるコーネリアも自ら先陣に立ち、解放戦線のKMFを撃破していっていた。
「ほう、山を要塞化していたか。しかし!」
「コーネリア!? 大将首だ、討ち取れ…ぐわぁ!」
コーネリアを見つけた解放戦線側のKMF無頼は、即座に攻撃を開始する。
しかしコーネリアの乗るグロースターは的確に攻撃をかわし、その手に持つ巨大な槍で瞬く間にそれを片づける。
「フン、他愛もない。しょせんは脆弱者のあつまりか」
「コーネリア殿下! まったく、援護にまわります。くれぐれもご無理はなされぬよう」
「ふふ、ギルフォードよ。私をそこらの女と同じにするなよ?」
護衛である彼女の騎士、ギルフォードが彼女の身を案じるが、それは彼女には不要のようだった。
そこへ他の隊から連絡が入る。
『ダールトン将軍が敵の本拠地入り口を発見された模様』
「そうか。ならば我らはここで備える。予備隊をダールトン側へまわせ」
コーネリアの指示をうけ、主力部隊、予備部隊の戦力がダールトンの方へと集結してゆく。
「これで、日本最大の抵抗組織も終わりだな」
思わず、コーネリアは勝利の確信を口にした。
だが、戦いはまだこれからであった。

 

『流石はコーネリア。理にかなったいい作戦だ。しかし、その分行動も読みやすい』
そんな中、黒の騎士団は山の山頂付近に布陣していた。
最初はブリタニアの軍勢を見た団員達が反発したものの、ゼロの説得により、覚悟を決めていた。
「良かったのかゼロ? これで団員のいくらかは確実に死ぬぞ?」
隼人の乗るゲッカー2からゼロの乗る無頼に秘匿通信が入る。
何故隼人がこんなことを聞いてくるのか。
それをルルーシュは瞬時に理解し、それに回答する。
『そうだろうな。しかし、我々が挑むのはブリタニアという超大国だ。その道は困難を
極め地獄とも言える。
だからもしここで死ぬのなら、死なせてやるほうが親切だ。だろう?』
「なるほど。流石は…、と言ったところか。ゼロ、その言葉の意味と重さ、しっかりと心に刻み込めよ」
『無論だな。おっと各員準備が出来たようだな。それでは神、話はここまでだ』
ルルーシュは隼人との通信回線を閉じ、仮面を外した後、全員へ向け通信回線をひらく。
「よし! 準備は整った! 総員出撃準備!! これより我らはブリタニアへ山頂からの奇襲を敢行する。
私の指示に従い、作戦目的、ブリタニア第二皇女コーネリアを確保せよ!
突入ルートを切り開くのはカレンの紅蓮弐式と、神の月下試作弐号機改、ゲッカー2だ!
カレン、頼むぞ」
「はい、紅蓮弐式、輻射波動機構、出力確認。外周伝達、いきます!」
ゼロの合図とともに騎士団の面々は武器を手に所定の位置につく。
カレンの乗る紅蓮弐式は掘削機により山の地下水帯までのばされた電極にその右腕を乗せる。
そしてカレンがコントローラーのボタンを押すと同時に、輻射波動が山の地下水へと叩きこまれる。
その後しばらく何も起こらず、ほとんどの者が固唾を飲んで事の成り行きを見守っていた。
すると徐々に地面が唸りをあげる。その唸りはどんどんと大きくなり、強烈な地響きが山頂に響き渡る。
「やった…!」
カレンが成功を確信し、つい喜びが口に出る。
伝達された輻射波動により、地下水は一気に沸騰、水蒸気爆発をおこす。
そしてその水蒸気爆発によって山頂の一角が吹き飛び、大量の土石流となり中腹にいたブリタニア軍のみならず、日本解放戦線も巻き込んでゆく。
「なんだ!? うわああああ」
「こ、こんなときに!」
「た、助け…」
各地で両軍兵士の悲鳴が木霊する。
その様子にルルーシュは満足げな表情を浮かべる。
「くくく、まさかここまで思ったようにいくとはな。輻射波動、想像以上の武器だ。
よし! 総員、この機を逃すな!! 一気に斜面を滑り降り、目的を果たす!」
「「「おおおおおお!!!」」」
ゼロの合図とともに、黒の騎士団は行動を開始する。
先陣を切るのはカレンの紅蓮弐式と隼人のゲッカー2。その後ろにゼロの機体を含めた数機の無頼。
これが現在黒の騎士団に動かせる最大の戦力であった。

 

「な、何事だこれは!?」
突然のこの事態にコーネリアは困惑していた。
順調に進んでいたと思っていた作戦が、突如発生した土石流によって部隊のほとんどが壊滅。
残った部隊もこの土石流によって分断。
この状態では作戦行動をとるのは不可能に近い状態に陥っていた。
「まさか日本解放戦線による攻撃でしょうか?」
「ありえぬ! あの脆弱者どもがこのような手を使うはずがない!」
ギルフォードが日本解放戦線の工作ではないかと提言するが、コーネリアはそれを即座に否定する。
「…!? まさかこの大胆な手、ゼロか!?」
「まさか! 黒の騎士団がこの戦場に!? この状況、かなりまずいですね」
「うむ、残った部隊に通達せよ! ゼロが出現する危険がある! 警戒を怠るなと!」
「イエス、マイロード!!」
そのコーネリアの読みは当たっていた。
しかし、この奇襲作戦を防ぎきれるかどうか、彼女自身、かなり厳しいだろうと感じていた。
それほどゼロの作戦はコーネリア軍に対し、致命的な打撃を与えていたのだった。
主力を失い、孤立した状態。
この状態で敵が仕掛けてくれば、かなりの苦戦を強いられることを彼女は感じ取っていた。

 

そのころ最前線から離れた後方の一角。そこに特派は陣取っていた。
「クソ! こんな後方で待機させやがって!!」
コーネリアのナンバーズを区別するやり方に竜馬は苛立っていた。
せっかくの早乙女博士につながる機会だというのに、後方待機。
「竜馬さん、落ち着いてください」
スザクがなだめるが、竜馬の苛立ちは消えない。
そこに山崩れにより、主力部隊が全滅したとの報告が届く。
「山崩れ、だと? このタイミングでか」
「ええ、これによりダールトン将軍率いる主力部隊は壊滅状態。日本解放戦線側にも相当の被害がでているわ」
「これはもしかして…」
「うん、スザク君も薄々感づいているだろうけど、これは人為的に起こされたモノだろうねえ」
「ということは、黒の騎士団か?」
「未確認だけど黒の騎士団の出現報告も来てる。これはマズイことになったねえ~」
こんな事態にも関わらず飄々とするロイドにセシルがお灸をすえている横で、竜馬は現在の戦況データを確認する。
「主力部隊は全滅…、予備部隊も動かしたのがそれに拍車をかけたのか。
そのおかげで部隊は寸断、コーネリア総督の部隊が完全に孤立している。
そしてこの方向から黒の騎士団が現れたとしたら…。
マズイな。オイ! セシル、ロイドに灸をすえるのは後だ!
黒の騎士団が現れたとすると目的は間違いなくコーネリア総督だ!
今すぐ指令本部に俺達を増援として向かわてくれるよう頼め!」
「ええ!? でもリョウ君…」
「いいから駄目もとでも頼め!! このままだと大将取られてオレ達の負けだぞ!!」
「わ、分かったわ。今すぐ本部に頼んでみるわ」
竜馬の剣幕に押され、セシルは竜馬の言うとおりにする。
「竜馬さん、一体どういうことですか?」
「分かれねえのかスザク。部隊マーカーの動きを良く見てみろ。
さっきの山崩れでヒメサマの部隊が完全に孤立している。
そこに黒の騎士団が出現してヒメサマ目指してまっしぐらだ。
おまけにヒメサマの方には解放戦線の部隊が攻撃を仕掛けたらしく、ギルフォード卿達がそれを相手どっている。
ヒメサマはギルフォード卿がそいつらを誘いす所に単身向かっている。
もしここに敵が待ち伏せていたらマズイどころの話じゃねえ!」
竜馬の指摘により事の重大さをスザクは認識した。
その一方で指令本部は特派の出撃を一向に認めようとはしない。
「セシルさん! 通信回線をランスロットに回して下さい!
確かG-1ベースにはユーフェミア副総督がご搭乗なされていたはず。
副総督に頼みこめば!」
「分かったわ、それじゃあスザク君、おねがい」
こうしてスザクがユフィに対し直談判を行った結果、なんとか特派に出撃許可がおりる。
「よし、スザク、とっとと支度しろ! おそらく騎士団は既に総督と接触してるはずだ。飛ばして行くぞ!」
「はい! 分かっています!!」
急いで起動準備に二人は入る。間に合うかどうかを心配していることに竜馬は気づいていなかった。