ゲッターロボ鬼(オーガ) 3話

Last-modified: 2009-04-23 (木) 23:32:04

ゲッターロボ鬼(オーガ)

第三話《強いんだ星人》

人間、と呼ばれている生物には二種類の種族が存在する。
一つは、普通の女性を好み平和な生活を望む、地球人。
この地球の支配種族だ。
文明を用いて自然を征服する地球人の生活モデルは、この星においてはそれなりの有効性を示している。
だがもう一つ。
数こそ少ないが、地球人社会に巧妙に紛れ込む種族がいる。
生物学上、限りなくホモサピエンスに近い生物。
その旺盛な繁殖力と戦闘力で、人間社会に適応した彼らは、実は地球人ではない。
人間同様、彼らには性別が二つ存在する。「怖いほど、女」そして「超雄」。
彼らこそが、松本梢江を好み、二種生物間での闘争をその生の至上命題とする異星人。「強いんだ星人」である。
強いんだ星が銀河のどこにあるのか知るものはいない。
遠く、はるか虚無の果てから来た一族。
だが、彼らは確かに存在する。
夜の公園に、川原に、電話ボックスの中に、刑務所に、武術道場に。
ゆっくりと、しかし着実に子孫を増やしていく。
その男も、そんな強いんだ星人たちの末裔の一人だった。
「脱獄なんてやめなさい。いかに君とはいえ、これだけの警官隊の包囲の中、逃げられるとは思えない」
「この俺をなめんじゃねえ!!」
叫び、拳を振るう。
機動隊の構えた盾が、男の拳によりひしゃげ砕ける。
夜の路地裏で、一人の男と完全武装の警官隊が対峙する。
戦力は警官隊に分がある。はず。
だが。
男の戦闘力は異常だった。
戦闘開始は唐突。
開始の合図は、恐怖に駆られた警官の発砲音だ。
発砲を見切り、向かいの警官の銃を蹴り上げる。
回転を利用し、左右に蹴り。
そのまま彼らを足場にして月面宙返り。
そこに落ちてくるのは、先ほど蹴り上げた拳銃だ。
それを、後ろ手でキャッチする。
「返すぜ!大サービスだ!」
連射。
強化プラスチックの盾には通用しないが、目くらましとしては十分だ。
だから行く。
身体を低く沈め、足払いを放つ。
狭い路地だ。
密集した群集は案外にもろい。
一瞬で、警視庁の精鋭機動部隊が物言わぬ肉体の山と化す。
「どうでえ。てやんでえ。これが空手よ!!」
捨て台詞を吐いて塀を飛び越える青年。
その後姿を見ながら、刑事は苦々しげにつぶやいた。
「あくまで…あくまで戦うというのか……史上最強の道場破りにして死刑囚、ミスターアンチェイン…流一岩!!」

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「流一岩……ですか?」
「そうだ。東京近辺においてあらゆる空手道場を壊滅させ、数百名を徒手空拳で殺傷。死刑を宣告されるも素手で牢を破壊して脱獄した、最強最悪の戦士(グラップラー)だ」
「その男が…ここ浅間山麓に逃げ込んだと?」
「ああ。我々も全力をもって警戒に当たっているが、諸君らも気をつけて欲しい」
「それなら、心配は要りませんよ」
「なぜだね?」
「そういう男なら、慣れてますから」
にやりと笑い、早乙女達人は浅間の夜に目を細めた。

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遥か雲海の上、三機のゲットマシンが夜気を裂いて飛ぶ。
自動操縦のベアーを除いた二機のコクピット。
そこに、二人の戦士の影がある。
一号機であるイーグルには、地上最強の生物・範馬勇次郎。
二号機であるジャガーには、中国武術の頂点・郭海皇。
三つの戦闘機は螺旋を描くように上昇し、目標を捉える。
「喰うぜ…イィグルミサイルッ!」
「続くかの…ジャガーバルカン!」
戦闘機の攻撃が打ち込まれた先の雲が、爆風によって四散する。
全身に爆風と硝煙を受けながら、そこから浮かび上がる影がある。
剣呑な牙と爪、二本の角を持ち自在に天かける邪悪な暴力。
鬼獣。
だが、二人は怯まない。
「無傷か…喰いごたえがありそうだぜ!」
「行くぞ。オーガよ」
そして、三機の力は一つとなる。
「「チェンジ!ゲッターオーガ!」」
直後、鬼獣の頭部は遥か高空から振り下ろされたハンマーによって地上で爆散した。
戦闘の終了。
だが、ゲッターは臨戦態勢を解かない。
何かがおかしいと、二人の格闘者(グラップラー)の勘が告げている。
「オープンゲット!」
散開したゲッターの直下から、砲撃が飛んだ。
「鬼が生きてやがるのかッ!」
「中にもう一匹いたんじゃよ…ッ」
「もう一度ゲッターチェンジだ!喰らい直してやるッ!」
イーグル、ジャガー、ベアーの三機が空中で一直線に連なり、しかし
「何ッ!?」
そのまま墜落した。
「さっきの一撃で、自動操縦のベアーがやられておったようじゃの。この時代のゲッターはまだまだ試作品ということか」
何気なく呟かれた郭の言葉に、勇次郎は軽い違和感を覚える。
「この…時代? 郭、貴様何を知っているッ」
「…少ししゃべりすぎたかの。それよりオーガよ。鬼が来るぞ」
風防を開いて地面に着地した勇次郎の目の前に、身長数十メートルの鬼獣が着地する。
「邪ッ」
振動で震える大地を蹴り、勇次郎が跳躍。
地上最強の前蹴りが、鬼獣の頭部に炸裂する。
超巨大な象に対しても脳震盪を引き起こすことが可能な、人外の一撃だ。
だが。
「オオオオオオオオオオッ!」
鬼獣には通じない。
一本一本がオーガの身長ほどもある牙を並べた口が、大きく開かれる。
「チィッ!」
歯を蹴って距離をとる勇次郎。
その体を、郭が支える。
「さすがにデカ過ぎるぜ…ゲッターが動きゃあ…」
墜落したゲットマシンを苦々しげに見つめる勇次郎。
鬼獣が、動かないゲットマシンを見てにやりと笑い、こぶしを振り上げる。
「チィッ!」
それを押しとどめようと、勇次郎と郭は同時に地を蹴った。
だが、その動きは徒労に終わる。
見ると、振り下ろされつつあった鬼獣の右拳が、大きく上へと弾き飛ばされていた。
「何だッ?」
その空中にいるのは、空手着を着た青年だった。
愚地克巳よりやや年をくっているが、その父の独歩よりはさすがに若い。
だが、その技術と力は、これまで勇次郎が見てきたどの空手家よりも優れていた。
青年は鬼獣に向かい、恐れず立ち向かう。
避けられない運命の渦の中。
「おう!この流一岩様を舐めるんじゃねえ!てめえが何者かしらねえが、史上最悪の道場破りと恐れられたこの俺が
バケモノ相手に逃げたとあっちゃあ最強の空手の名が泣くぜ!」
叫び、鬼獣の体にとび蹴りを敢行する。
流石に装甲を破壊するには至らないものの、その攻撃は確かに鬼獣を押しとどめていた。
「おい、妖怪ジジイ、あいつは……」
「間違いないのう。ゲッターの申し子、流の家の戦士じゃ」
郭の言葉の意味はよく分からないが、流一岩と名乗った男の実力は確かだ。
気力、体力を併せ持つ男には、それにふさわしい場所と言うものがある。
男を見、オーガはにやりと笑った。
「……あの男、ベアーにのせてみねえか?」
「もとより、そのつもりじゃよ」
言葉とともに、郭が一岩に向かって跳ぶ。
空中での交錯。
その一瞬で、一岩の体が弛緩する。
中国武術に伝わるツボだ。
「おわっ!なにしやがる!」
「おぬしなら乗れる。ゲッターの三号機に!」
背後に迫った鬼獣の爪を足場にし、一岩をベアーの操縦席に放りなげる海皇。
そのまま消力で鬼獣の勢いを利用し、回転しながら自身も地上にあるジャガーの操縦席に収まる。
目配せをするまでもない。
勇次郎の乗ったイーグルはすでに天空にあり、
「チェンジ!ゲッターオーガッッ!!」
言葉とともに、三機の戦闘機は音を立てて連結した。
二本の角を持つ、荒ぶる進化の鬼神。
それが振り下ろした鉄槌の連撃は、しかし鬼獣の動きを捉えることができない。
「オーガよ。わしにかわれぃ!」
「ち…オープンゲットッッ!」
「おい!てめえら!何だここは!俺をどうするつもりだ!」
一岩の叫びを無視し、ゲッターは変形する。
ジャガーが先行し、鬼獣の左右をすり抜けるようにイーグルとベアーが続く。
「チェンジ!ゲッターカンフー!」
連結変形。直後に攻撃が始まる。
マッハを超えたドリルの連撃が、鬼獣を刺し貫いてミンチへと変える。
ベアーの操縦席で、男が目を見開いた。
「こいつは…」
勇次郎がコンソールからベアーの操縦席を見、エフエフと笑った。

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「間違いない…あれが三人目…!」
達人から、一岩を加えたゲッターロボのゲッター線指数表を受け取り、早乙女は頷いた。
オーガ、郭に匹敵する身体能力を持ち、ベアー号を乗りこなすことができる人物。
空手家・流一岩。
死刑囚らしいが、経歴など問題ではない。
大切なのはゲッターに乗れるか乗れないか、それだけだ。
鬼に対する早乙女の敵意は、もはや説明しがたいレベルにまで達していた。
「父さん。俺は不安です。一旦出撃を休んだほうがいいのではないでしょうか。
三人を乗せたゲッターの出力試験はすんでいませんし…第一、何がおきるかもわかっていないのに…」
達人の不安は、この司令室にいる誰もが感じていることだった。
「そうね。ゲッターも痛んできてる。オーガに休息は不要かもしれないけど」
だが。
「休息ではだめだ。進化こそが必要なのだ。宇宙が膨張する速度での進化がな」
早乙女はそれらの意見を否定する。
進化。
未来。
己を突き動かすものが何なのか、早乙女は知りたかった。
天才と呼ばれ、島本平八郎に師事した青春時代。
プラズマボムスを発見し、日輪砲遺跡の研究に携わった学者時代。
ゲッター線を発見し、鬼と出会った現在。
早乙女には、そのすべてが一本の線でつながっている気がしてならなかった。
大きな何かが、自分を研究へと、戦闘へと駆り立てている。
そして、オーガ、範馬勇次郎の出現。
オーガとは何なのか。
なぜ、ゲッターはオーガを選んだのか。
選んだ?
選んだと言ったか?
ゲッターに意思がある?
かつて、プロトゲッターの起動テストのとき、あるきっかけで一気に機体にゲッター線が通ったことがある。
あの時も、ゲッターに意思があるように感じたが。
だがしかし…
「ミチル。オーガについて、わかったことはあるか?」
「全然。鬼よりもミステリーよ。あの男は」
郭と名乗る老人についても謎しかない。
オーガの旧友らしいが、郭にはオーガにないある種の確信があると感じられる。
まるで、これから我々が行く先を知っているかのような。
そもそも、あの男はどこから現れた?
浅間の夜に、二重三重の謎だけが横たわっている。
血の匂いとともに。