ゲッターロボ鬼(オーガ) 4話

Last-modified: 2009-04-24 (金) 11:39:54

ゲッターロボ鬼(オーガ)

最終話《鬼の行き先、範馬王編》

空が、割れた。
早乙女研究所の上。
はるか空の向こうから、巨大な蓮の花が姿を見せた。
「何だ。あれは」
早乙女の疑問に、勇次郎がわかりやすく答える。
「何でもいい!敵だろう!喰うぜ!」
出撃する三機のゲットマシン。
だが、早乙女を始め、あらゆる研究所の職員は不安を隠しきれなかった。
あれは鬼ではない。
むろん、鬼獣でもない。
では、あれは何なのか。
蓮華座にも似た巨大な蓮の花。
それは、いまだにその底面しか見せていなかった。
ゲットマシンが連なり重なり、ゲッターオーガが蓮に突進する。
「うおおおおおおおおっ!」
蓮が割れ、ゲッターの上を数万を超える鬼が覆う。
そのすべてを、郭はある種の確信をもって見ていた。

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「おい勇次郎!こいつはやばいぜ!」
一岩のベアーから通信が飛ぶ。
鬼の群れとゲッターとの戦闘は、もう半日を超えようとしていた。
ハンマーを振るい、ドリルが回転し、ミサイルが山をえぐりとる。
三体合体三変化、変幻自在のゲッターの戦闘能力をもってなお、ここまでの数の敵を同時に相手することは難しかった。
「一岩よ…同時に100人に喧嘩で勝つ方法を教えよう…」
「あぁ?こんなときに何言って…」
「100人が囲んできて殴りかかってくるとする…だが!俺にとっては4人だ!」
よくわからないことを絶叫しつつ、ゲッターは大槌を振り回す。
鬼獣の肉が弾け、骨が砕ける。
だが、数が多すぎる。
エネルギーが不足し、ゲッターが地に足を着く。
オープンゲット。
分離した三機のゲットマシンを、鬼が一斉に襲う。
勇次郎がイーグルを捨てる用意をしたとき、それが来た。
数万を超える鬼を一瞬で蒸発させる暴力の穿光。
ゲッタービーム。
はるか空の果てから降り注いだのは、ゲッタービームそのものだった。
「どういうことだッッ!!」
「間に合ったようじゃな。ゲッターの意思が」
郭が、ジャガーの操縦席でにやりと笑った。
夜明けだ。
もはや空に鬼は無く。
蓮華座だけが朝の光に浮いている。
蓮華座から声が響く。
「聞け!範馬勇次郎!俺の名は夢幻美勒!!」
天地を震撼させるその声は、鬼神を超えた力を持っていた。

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美勒と名乗った蓮華座に向かい、天の果てから影が殺到した。
大小無数の大きさを持つ、機械の怪物たちだ。
先ほどのゲッタービームの発生源である。
「何だ…これは…」
「オーガよ。見るがいい、ゲッターの真実を」
「そうだ。これこそがゲッター」
「ゲッターとは進化」
「進化とは増殖」
「ゲッターの意思は強さを裏切らない」
周囲に展開するゲッターの群れから発せられる声は、紛れもなくすべて郭海皇のものだった。
それら無数のゲッターを、美勒と名乗った蓮華座は一撃でなぎ払う。
そして告げた。
「知れ!範馬勇次郎!鬼と呼ばれた男よ!これが虚無の戦いだ!」
直後、知識が映像として勇次郎の頭に流れ込む。

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遠い時空の果て。
遥か虚無の向こうにある宇宙。
「敵の量産型エンペラーまで、距離2845∞虚無!ゲッタービームが来ます!」
虎空の彼方にある、星々を砕く機械の怪物から砲撃が来る。
世界を貫く光。
闇も光も何もかも、虚無へと包み込む光。
それが、宇宙を覆いつくすように広がり、竜の民を飲み込んでゆく。
一人一人が、小さな惑星程度なら支配化における任意全能の竜の民が、なすすべもなく飲み込まれてゆく。
「バリヤーを貼れ!」
「だめです!敵のゲッターフィールドには、わが軍のどんな兵器も…ッ!」
「やむをえん!過去に飛ぶ!いま美勒を失うわけにはいかん!」
数万年にわたって、天文学的な規模で繰り返される、ラ・グースと竜の民との大戦。
最強の戦士美勒王を要してなお、戦況は絶望的と言えた。
ラ・グースの作り出した精神体兵器、ゲッター線。
それは自己増殖し、ラ・グースの進化を加速させて膨張させる悪魔の兵器だった。
ゲッター線は過去へと流れ込み、ラ・グース宇宙の遥か彼方にあった地球と呼ばれる星へと降り注いだ。
その星の生物進化を加速させ、ラ・グースの戦力として組み込むために。
過去において促進されたその星の生物進化は、現在のラ・グース陣営にエンペラーという強力な戦艦を加えていた。
対する竜の民は、それを防ぐため全力で行動を取った。
美勒が過去へ離脱し、自ら人類となりゲッター線を利用する方向へとシフトしたのだ。
同時に、ゲッター線が人類にもたらす影響も竜の民は監視していた。
未来においてエンペラーを作り出す可能性のある武器、ゲッターロボ。
人類がこれを完成させた場合、鬼と呼ばれる防御システムが作動する手はずであった。
鬼とは、ドグラのシステムを応用して作られた人体支配兵器。
噛み跡という「穴」から感染するそれが、ゲッターを破壊するのにさほど時間はかからないはずだった。
イレギュラーは、隣の宇宙から現れた。
ゲッターの呼び出した戦士、範馬勇次郎。
ゲッターがその記憶より作り上げた無数の郭海皇。
それが、鬼を押しとどめていた。

 

「で、てめぇが現れた、ってわけか」
「そうだ。俺は俺の宇宙を守るため、ラ・グースと戦っている。勇次郎、貴様はゲッター線に選ばれた者だ。
宇宙が膨張する速度で身体能力が向上する人間……それがゲッターの力だ」
そこまで喋ると、美勒は息をついた。
「どうする勇次郎、このままゲッターに身を任せそこの妖怪爺とともにラ・グースの僕となって闘争を続けるか、それとも」
「てめぇと一緒に行ってそのラ・グースと戦うか…か」
腕を組む勇次郎。
そのまま、イーグルのコンソールを無意味に叩き潰す。
「邪ッッッッ!!」
散らばる硝子の破片の中で、勇次郎は怒りの表情。
「フザけるなッ!空間の支配、ゲッター線、真理、ヘイアンキョウ防護陣…そんなものは貴様らで共有したらいい!
純粋な闘争にそのようなものを持ち込むなど、上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想ッ!」
勇次郎は拳を握り締め、ゲッターから飛び出した。
ゲッターの否定。
それはすなわち、進化の否定?
否。
ゲッターに頼ったいびつな進化の否定だ。
ゲッターを捨てた進化は、緩慢な速度でしか進行しない。
だが、
「俺は違う!!」
勇次郎の拳が、美勒の支配空間に干渉する。
本来ありえないはずの能力。
それを確認し。美勒が答えた。
「合格だ!勇次郎!!」
そして、美勒の姿が一瞬にして消えた。
勇次郎とともに。

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それから。
遠い虚無の果て。
永劫の時が流れた、そのはるか後。

 

儒生暦20780 範馬王、たった一人で参戦す!

 

「来ましたね、勇次郎は。味方でしょうか」
「いや…」
直後、宇宙の果てまで声が届く。
「ラ・グース、神の軍団…エンペラー…そして仏の軍団か…まとめて喰うぜッッ!」

 

儒生暦20780 範馬王、鬼の拳を振るいてラ・グースに攻撃開始!これより神の軍団との三つ巴の戦闘、数万年に及ぶ!

 

…そして!!

(完)

 

ゲッターロボ鬼(オーガ)

エピローグ

「ゲッターオーガの解体収納、完了しました」
巨大なジャッキが、早乙女研究所の地下へと潜る。
「ご苦労。しかし、なんじゃったんじゃろう。あの蓮と大量の鬼は…」
腕を組む早乙女の横では、一岩が山篭りの支度を整えていた。
「行くのか、一岩」
「ああ。俺はもうゲッターにはのらねえ。あれは俺が背負うにはデカ過ぎる。
この世界には俺の空手より強いやつがいるってこともわかったしな。最強は俺の息子に託すぜ」
「おぬしの息子か…さぞ危険な男にそだつじゃろうな」
「どういう意味だよ」
浅間の尾根に談笑が響く。
それは次なる戦いまでのインターバルとしての静けさ。
あの日、ゲッターロボと一岩のみを残して、異世界の二人は消失していた。
それが意味するものは何か。
ミチルにも、達人にも、博士にも、そして当の一岩にも本当のところはわからない。
早乙女がゲッターを完成させ、黒平安京での戦いが始まるまで、あと10年…