ゲッターロボ+あずまんが大王 クリスマス2

Last-modified: 2011-01-05 (水) 00:05:58

ゲッターロボ+あずまんが大王世界のクリスマス

 
 

「さぁ」

 

しんとした空気を、不敵さを含んだ少女の声が震わせた。

 

「いくか」

 

同じく、決意を秘めた、別の少女の、勝気な声が続く。

 

「せやな」

 

気の抜けるような、落ち着いた伸びやかな声が、最後に続いた。
それらの声を出した彼女らの口が、多量の空気を吸い込んだ。
冷ややかな空気が、血の巡りによる熱を湛えた肺に吸い込まれ、瞬く間に熱と化した。
それは心臓の脈動によって、彼女らの体内を駆け巡る。

 

そして、彼女らの目がかっと開いた。
一つは半月に、もう一つはアーモンド型に、最後のものは、アーチのような、緩やかな半円に。

 

「メェェエエエエリィィイイイイイ!!!!!」
「メッリィィイイイイイイイイイイイ!!!!!」
「めりー」

 

冷えた空気を、少女らの声が震わせる。
(最後の一つは、かき消されていると思いきや、妙なアクセントとなって、声全体を盛り上げていた)
そのバカ声は、紛れも無く、「ボンクラーズ」によるものだった。

 

「クリィッ!!!スマァァァアアアアアアアアアアアアアス!!!!!!!!!!」
「クリスマァァアアアアアアアアアアアアアスッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「くりすま~す」
「うるせぇえええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

舞い落ちる粉雪を震わせるそのヴォイスは、水原暦のものであった。

 
 
 

「いいじゃねえか。折角のクリスマスだぜ?」

 

と言うのは神楽。
その称号は、「ボンクラー2」。
巨乳。

 

「そうやで。少しぐらい騒いでもバチはあたらんで。私にも大声出さしてな?」

 

続くのは春日歩、もとい大阪。
色々と酷い仇名であるが、本人は気に入っている。
呼ばれたことはないが、前リーダーは彼女に、「ボンクラー3」の称号を与えようと考えている。
無乳。
そして最後に、真打登場。
本当の馬鹿。
暴走女子高生。
微乳。
ボンクラー1の、滝野智。
尚、1といいつつ、定義上のボンクラーズのリーダーは神楽であったりする。
ボンクラーズでは、成績の低さが優劣を分ける指標となっている模様であるが、詳細は不明。
その後の動向がかなりいい加減になっているためである。

 

「大阪、お前は少々叫びが足りん。こうするんだよ、神楽、行くぜ?」
「おう!!」
「やめろっつってんだろボンクラ供!!!!!」

 

舞い落ちる粉雪を震わせるそのヴォ(略。

 

「まぁいいじゃんさぁ。ここんとこは平和で。学校も無事に終業式迎えられたんだからさぁ」
「そうやな。ここ最近は静かやった」
「でも凄かったよなぁ、この間の。ついこの辺りまで来たんだろ?」
「お陰で夜中に叩き起こされてさ。まぁったく余計なことしてくれるよねぇ」
「お?避難勧告喰らったか?」
「いやぁ、ちょおっと違うんだなぁ、これが」

 

ちっちっちっ、と右手の人差し指を、俗に言うしたり顔で、
観るものを微妙に不快にさせる笑顔を湛えて左右に降る滝野智。
凄惨極まるテスト結果を突きつけられた後に、
ボンクラー1などと名乗ったことは、彼女らの記憶に新しい。

 
 

「いやさ、私がぐっすり寝てたら、いきなり窓が「ガン!ガン!ガン!ガン!」って言い出したんよ」
「おお、それは大事件やな」
「窓が喋ったのか?」

 

もっと重要な事があったって言っただろ。
そんな窓があるか。
叫びを誘発するようなむず痒さが走ったが、暦は無視をすることにした。

 

「何か来たのか?」
「惜しい!ニアピンだ!!」
「神楽ちゃん凄いなぁ、早速三等賞や」
「何がきたと思う?」
「うぅん、変質者?」
「近い!!」
「近くねぇ!!」

 

流石に無視はできなかった。
尚、この時、彼女らに声を掛け様としていた、ガラの悪そうな連中が、
怖気づいて逃げ出したことに気付いたものは誰もいなかった。
この喧騒は、一種のバリアーの役割を果たしているようだ。

 

「誰が変質者だ!!誰が!!」
「よみちゃんって、そうだったん!?」
「よみ、踏み止まれ!こいつはバカだけど男じゃないんだぞ!!」
「私にそんな趣味はない!!」
「そうだ!それに私は女だぞ!確かめるか!!」

 

あろうことか、その両手は既にロングパンツのベルト・ループのあたりを掴み、
今にも摺り降ろしそうな雰囲気を醸し出していた。
内部に這入り込んだ指の深さを見る限り、指は既に下着に触れているだろう。
半ばどころか、七割近くは本気が入っている。
頭に、『真』を付けても通じるほどの馬鹿だった。

 

「で、実際には何があったんだ?」
「ああ、街中星や光でいっぱいや」

 

バシバシと殴られる様子を半ば風景と同化させて神楽は尋ね、話題からはみ出た(或いは飽きた)
大阪は、明かりの煌く路地の方へと視線を飛ばしていた。

 

「よみったらさ、いきなり真夜中に私の家の窓叩いて、「『おいとも起きろ!!』」って叫んだんだ」
「なんだよ、普通じゃねえか」
「神楽、お前にとって私はそれが普通なのか」
「でさ、ここからですよ、面白いのは」
「なんだよ?よみの背中に羽があったとか?偉大なる勇者の真っ赤なやつか?それとも円盤?」
「おい神楽、お前、休部になったからって何やってた!?」
「大阪にいた頃ちょろっと観てたけどな、なんであの人ら胸や尻尾に人の顔があるんやろ?」
「馬鹿にしちゃいけないぞ大阪。あれはよみの家系図に深く関わって」
「ねぇよ!!」
「その格好がさ、凄いのなんのって。まずはパジャマだろ。水色のシンプルなやつ。
 で、これはいいんだよ。ブラ着けてないのはアレだったけど」
「見えたのか!?」
「寒いから二つのぽっちがバッチリ」
「サービスやな」
「ここからが凄いんだ。まずは頭、髪はボサボサで角みたいになっててさ。
 そうだなぁ、そうだ。神楽、あんたは、あの頭に鎌生やしたドクロみたいな奴知ってる?あんな感じだった」
「マジ!?」
「相方はおらへんの?」
「んなワケねぇし、いるわけねぇだろ!!」

 

相方という言葉を借りれば、智は双頭の機械の獣のポジションか。
ふっとそのビジョンが思い浮かび、さしもの神楽も青ざめた。
合体した様子を思い浮かべていれば、思わずふらっときたかもしれない。

 

「そんで耳にはコード付けてたな。まるで改造されてるみたいだった」
「急いで来たんだよ。イヤホン外すのも忘れちまってたんだ」
「でもあんなでっかいラジオを手に持って来るってのはどうよ?」
「悪かったな。自分でも驚くぐらい慌ててたんだよ。
 その上、お前の家に着いたときにびっくりして落しちゃったせいで結局ダメになっちまったよ。
 あーあ、小遣いが余ったら新しいの買おうかな」
「じゃあ、榊が来たら行くか?電気製品なら安いとこ知ってるぜ」
「珍しいな。神楽が文明の利器の在り処を知ってるなんて!」
「人を古代人みたいに言うな!店の数も減ってるから、百貨店とか行く機会が増えたんだよ。
 MTB探したりすると、階層が近かったりするんだ」
「MTB探したりアニメ観たりと忙しいな。部活が無いと持て余すのか?」
「まぁな。自主トレは怠ってないけどさ。親父に勧められたんだよ。面白いから観てみろって。
 そういや、智も観たことあるのか?」
「うん、私もお父さんに」
「借りてきてもらったのか?」
「うんにゃ、DVDを一括で買って、全部ぶっ続けで観た。家族総出で、92話全部」
「・・・すげぇな、お前ん家」
「こいつの父ちゃんはこいつに似て突発的なんだよ。おい智、それ、思いつきでやったんだろう」
「うん、3日ほど暇になったので」
「ま、こんなご時世だし、暇潰すにはいいかもな。ぶっ続けってのは、ちょっと不健康だけど」
「そうでもないよ。観終わったあとはなんかすっごくテンション上がった」
「「・・・・・・・・・」」
「気力300は余裕で越えてたかな、一家総出で。あ、お母さんは何時も通りだったかな。
 お父さんとクロと私が、なんか色々と凄かった。お母さんには『サバトみたい』って言われたな。
 サバトって、サンバの一種だよね?」

 

口をぽかんと開ける、暦と神楽。
両者の顔は、ぎこちない動きで互いの眼を見ると、しばしの間固まった。
そして、智に向き直り、息を吸い込みこう言った。

 

「「バァカ!!」」
「なんだとう!?」

 

ぎゃぁぎゃぁと、再び喧騒が始まった。
道行く人の何人かが、彼女らに目をやったが、皆、年に一度のこのイベントを楽しむためか、
連れ添ったものや、一人のものも、光煌き粉雪の降る、夜の街へと歩いていった。

 

「なぁなぁ」

 

三人が、やや殺気だった眼つきで大阪の方を振り返った。
正確には二人か。
暦と神楽はそれぞれ、智の左と右の頬を引っ張っており、
智は凶暴さの欠片を湛えた半月の眼を剥き、手足をバタつかせていた。

 

「ちよちゃんはどうしたん?」

 

「ああ、悪い、伝えるの遅れた」
「みぎゃっ!?」

 

殺気を放り投げ、ついでに智の頬をぱちんと抓って離した。
連動して鳴った面白い悲鳴は、そのためである。

 

「そこのデパートでケーキ買ってくるってさ。なんでも、変わったキャンペーンやってるんだって」
「キャンペーン?」
「ぎえっ!」

 

神楽も習って、ぱちんと離した。
が、背は低くとも力は強いためか、破壊力は暦のそれより2~3倍は高い。
跡には残らないだろうが、智の柔肌は面白いほどびにょーんと伸びた。
遅すぎる天罰と思えば、まぁ、許される範囲だろう。

 

「着ぐるみだよ、着ぐるみ。私らの学際で使っただろ?」
「ああ、よみが着れなかったやつか」
「試してねぇよ!!」

 

頬を擦りつつ、ほざく智。
ここまで来ると、最早プロである。

 

「あのデザインが気に入られたとかで、今日の客引きに使われてるんだってさ」
「へぇ・・・ペンギンの方?」
「いや、猫の方みたいだ」
「・・・残念だ」
「「「うわぁっ!?」」」

 

何時の間にか。
唐突に。
榊は彼女らの背後にいた。
この場にいる誰よりも、彼女らの目の前を行く人ごみの中の人々と比べても高い身長の
榊は、半ば見下ろすようにして、そこにいた。

 

「おー榊ちゃん。めりーくりすますー」
「・・・メリー・クリスマス」
「しまった!大阪に先を越された!!」
「なんてこった!!これは私らも続くしか『・・・・・・なぁ・・・キミ達』」

 

智と神楽の言葉を遮る、そのヴォイス。
低く、威圧感のあるそれとともに、智と神楽の両肩に、緩やかな重圧がかかった。
それは直後、その声でびくっと震えた筋肉の上に、重く圧し掛かった。

 

「カラオケでは・・・・・・ちゃんと歌いたいよな?やっと再建されて、
 折角・・・・・・ちよちゃんが予約してくれたんだしな」

 

女傑。
そう表現できるだろう。
普段よりも深く、そして口調は静かで優しく。
とてつもなく恐ろしい声で、智と神楽の耳元で、水原暦は呟いた。

 

「は、はび(は、はい)」
「ば、ばばりばびだ(分かりました)」

 

肩に回されて口へと至った暦の手に、唇をカモノハシのそれのように抑えられた
両者の声は、恐怖と相まって震えていた。

 

「榊ちゃん、ペンギン好きなん?」
「・・・うん、大好き・・・かな」

 

その様子を知ってかしらずか、大阪と榊のやり取りは実にほのぼのとしていた。
余談だが、智はこのやりとりに、以前父親に見せられた、
SEサボリと尺稼ぎを多用する、昔のアニメの1シーンを思い出していた。
流石の彼女でも、「お許しください!!」の一言では許されないものだと思ってはいた。
初見の時点で、腹を抱えてゲラゲラ笑い、床をゴロゴロと転がってはいたが。
その言葉が許されるのは、どこかコメディ調な悪役なのだと、妙な理論を構築していたのをよく覚えている。

 
 

「あ」

 
 

アイキャッチのような、大阪の一声に、暦もそちらを向いた。
緩んだ拘束を(極力感知されないように)、智と神楽は器用にすり抜けた。

 

「ちよちゃん、誘拐されへんかな?」

 

沈黙が、雪のように降りた。
ぼーっとした声と雰囲気からの危険な一言はなんとなく、嫌な破壊力がある。

 

「・・・何を言い出すんだ、お前は」
「確かに、あの髪型は挑発的だしな」
「挑発的って・・・」
「こうしちゃいられねぇ!!早くちよちゃんを助けに行こうぜ!!」
「もう捕まってるのかよ」
「・・・大丈夫、ちよちゃんには大いなる・・・・・・」
「榊、お前まで何を言っているんだ・・・。 まぁ、こんな人ごみだしな。迎えに行くか?」
「そうだな。善は急げ!死なばもろとも!」
「0.01秒の救出劇を見せてやろうぜ!!」
「あかんわ神楽ちゃん、それじゃ溶けてバターになってまうで?」
「・・・・・・・・・」

 

榊が沈黙しているのは、妄想に耽っているためだろうか。
願わくば、バターと化した神楽についてではなく、可愛い何かを夢想しているものと信じたい。

 

「・・・ふぅ」

 

なんとか、行き先がまとまってきたことに軽い安堵を覚え、暦は天を仰いだ。
流した視線の奥の景色が、数ヶ月前と比べてかなり広いのは、そこの場所が更地となっているためだ。
ニュースや学校の話ぐらいしか情報の入手はできないが、今の状況がどんなものなのかを、
彼女は理解しているつもりだった。
姦しいやり取りによる疲労が、ひどくありがたいものに思えた。
人間を、世界を取り巻く狂気に、自分たちが飲込まれていないことが、確認できたためだった。

 

落ち着いたためか、肺に入った空気が、幾分か冷たさを帯びてきた。
身体を滾らせる熱い空気もいいが、全身に清涼感を与えるこの冷たさも、悪くない。
空をじっと見てみると、美しく輝く月が見えた。
今を生きる人間たちを、祝福してるように、暦は思えてならなかった。

 

「何やってるんだ突っ込みメガネ。着いてこないんなら置いてくぞ?」

 

やれやれ無粋な奴め。
ちょっと空を見てみろよ。

 

そう言い掛けて、彼女はやめた。
彼女がそうしている間、智や神楽、榊と大阪も、
そうしていたに違いないことを彼女は信じて疑わなかった。
皆、月を美しいと思え、今生きていることを、今とは、十二分に楽しむものだということを、
彼女らは、互いに知っている。

 

「・・・この馬鹿野朗!!」

 

軽い悪態に、智はにかっと笑って応えた。
思わず、頭を撫でたくなるような笑みだった。
数歩進んだ仲間に合わせ、暦は歩み出した。

 
 

「ところでみんな、今日を一緒に過ごす彼氏はおらへんの?」

 
 

声が聞こえたか、聴こえなかったか、その声は通りの喧騒に揉まれて消えた。
そのまま数秒、ぼおっとしていた大阪も、

 

「待って~~」

 

という伸びやかな声と、ふわふわとしたと形容できる柔らかな足取りで、仲間の下へと歩んでいった。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

「黄昏てますなぁ、みなもさん。やけに色っぽい眼してるじゃない」
「・・・あんた、飲みすぎ。酒に呑まれてるわよ」

 

道端に出来た、簡素な居酒屋で、酒臭い息を吐きながら呟いたのは、傍若無人女教師の谷崎ゆかりである。
半ばほど飲み干した酒の入ったコップを、焼き鳥の串で無意味に弄びつつ、
同僚のみなもになにやらほざいている。

 

「まぁまぁ、こんな時世なんだから、番を見つけて、子孫を残したくもなるのは仕方が無いが」
「そうじゃないっつの!!」
「え?何?あんた、いい年こいた独身女が、
 男釣っても何もしないの?え?どうなの?ん?ん?んん?」
「ちょ、ちょっとゆかり!?」
「ああそうよ!私らは今年もこうなのよ!いや、未来永劫独身淑女で・・・・・・ん?」

 

ぎゅうぎゅう詰めになっているにも関わらず、半ば暴れる彼女の眼に、何かが留まった。
近場の百貨店―妙にでかいと悪態を付きながら居酒屋に入った―の前にいる一団を、その眼は捉えていた。

 

「・・・あれって・・・」
「・・・あんたらのクラスで使われたやつよね」
「・・・なんで、三つに増えてるの?」
「・・・三匹でしょ?」
「バァカ、三人だろっつの」
「・・・殴るぞコノヤロウ。・・・接客してるみたいね」
「そりゃあ、可愛いからね。あ、赤い奴が緑にぶつかった」
「・・・販売の人に怒られてるわね」
「みたいね」
「あ、緑が謝ってる」
「・・・頭をぽりぽり掻きながら、赤いのの頭を無理矢理下げてるわ」

 

コメディの1シーンのようなそれに、ゆかりの(ろくでもない)ひらめきが煌いた。

 

「よっしゃ、やるか」
「何を?」
「セリフ当て嵌めゲーム」
「はぁ!?」
「あ、あまりにもダメなセリフだったらオゴリねオゴリ」
「何言ってるのよ!?」
「あーあー聴こえない聴こえない。にゃもの場合は更に、借金帳消しが着くからね、くれぐれも気を付けなさいよ」
「分かったわよ。じゃあ、私が勝ったら『「ハイ、スタート」』」

 

回りを気にしない(というか、周囲は既にびびっている)、強い声とともにゲームが始まった。

 

「『おいてめぇ』」
「口調悪っ・・・」
「『こっちは銭貰ってんだからちゃんと働け!!これじゃ鏡餅も買えやしねぇ!!』」
「・・・切実ね。あ、赤い方が何かやってるわ。っていうか胸倉掴んでない!?」
「ふん、片っ端からぶった切ってやるわ」
「・・・頼むから、フォーク持ちながら言わないで」
「じゃあにゃものターンな」
「え!?そんな」
「ハイ、スタート」
「・・・『やってられるかそんなもの。俺は忙しいんだ、お前たちだけでやってくれ』・・・こんなのでどう?」
「おお、役者だにゃぁ。『なんだと!?リーダーは俺だ!リーダーの命令には従うんだ!!』」
「何よ、リーダーって・・・。ああもう、なんかやばそうな感じね。
 お客さんには演劇の一つみたいに見られてるけど」
「その脇で愛嬌振りまいてるデブ猫がいい味出してるわね。面白そうだから私、赤やるわ。
 『今日はやけにリーダー風を吹かすじゃねぇか、え?緑猫さんよ・・・』・・・あ、ヤンキーに絡まれた」
「・・・最近、多いわよね」

 

確かに、最近ああいう輩は多い。
冬休みに入るにあたり、生徒らにも気を配る対象の一つにするように、
口うるさく言ったのを思い出していた。
街中で時折見かける連中の中でも、タチの悪い部類に入ると思えた。

 

数は、6人ほどか。
それに対し、ゆかりとみなもが「緑」「赤」といった猫のきぐるみが迎えた。
緑と赤は、互いに向き合い、ごろつきに向き合った。
この時何故か、ゆかりの背筋に、寒いものが奔った。
(年のせいとは思いたくなかったので、この光景のせいにすることにした。)

 
 

緑色のマフラーをした猫の、ふんわりと、もっこりした手が、ゆっくりと上がった。
紅色のマフラーをした猫の、ふわっとした手が、体幹に向けて引き寄せられていく。

 
 

上の二つに比べてやや頭身の低い、若干横に広がった体型の猫は、接客に勤しんでいた。
ぴょこぴょこと揺れる可愛らしいおさげをした少女と視線を同じ高さになるように膝を折り曲げ、
丸っこい頭を、肉球さながらに柔らかい手で撫でている。
その様子は、猫自体の可愛さもさながら、子供らしく、
楽しそう笑う少女が光景の中の主役となり、周囲の『客』の目を釘付けにした。

 

それが幸いし、複数の人間を路地裏の彼方へと吹き飛ばす光景は誰にも見えず、
肉体の破壊音は、喧騒に呑まれて、誰の耳にも聞こえなかった。

 

一仕事終えたとばかりに肩を組み、ハイタッチを決める二匹の猫。
よく分からないが、お客にはウケていた。

 

「「・・・・・・・・・」」
「『まぁいい続きだ。いいか、踊りってのはこうやるんだよ』」
「・・・あんた、すげぇわ」

 

呆れつつ、自分もまた、一杯の酒を、胃袋に流し込もうとしたその時。

 
 
 

音が、聞こえた。
人の営みを破壊するほどの、戦慄すべき音が。

 
 

喧騒が一瞬静まり返ると、その途端に、廃墟を踏み鳴らし、跋扈するものの足音が聞こえた。

 

巨大な、何かの群れの。
建物よりも、巨大なものの。
今の、この現状を造り出した者達の尖兵。
醜悪な姿を型作る無骨な装甲を纏いし、機械の鬼ども。

 

それらは、街の周囲に出来た、破壊の跡の中にいた。
人間の幸福を、生を踏みにじるために、その足並みをそろえて、迫りつつあった。

 
 

その事実に、ゆかりの酔いは吹き飛んだ。
不意に、百貨店の方に眼が向いた。

 

そこにいた三匹の猫は、どこにもいなかった。
そしてこの時、みなもは、ビルの上空を、何かが飛んでいくのを見た。
それらは、廃墟の方へ、百鬼獣の元へと向っていった。

 
 
 

迫る機影に向けて、五体の巨体は手を翳した。
人間に酷似した姿であることに嫌悪が湧いたその瞬間、腕の先端が、
鬼の身体が火花を吹いた。
そしてそこから、炎を巻いて音と光の炸裂とともに、幾つもの塊が飛び出した。

 

凍えた空気を引き裂いて、空気の悲鳴を浴びながら塊の群れは飛行し、
皆が首を動かす前に、月の光の下で爆発した。
柔らかな光を砕く、暴力的な爆発が、街の遥か上空に現われた。

 

「うわぁ!!」

 

悲鳴が、街の中で連鎖した。
顔にぶち当たる光の熱が、その威力を物語っている。
これほどの熱量が直撃して無事な兵器など、地球上には存在しない。

 
 

直撃すれば、当たれば、だが。

 
 

「あ、あれ・・・」

 

道の、遥か向こう。
人込みが崩れ、数百人の単位で、逃げ惑っている場所の末端に、それはいた。
道の両脇に建ったビルディングの奥に聳える、巨大な影を人々は見た。

 

街の光に照らされた、それは、青白い炎のようにも見えた。

 

風が生じた。
ツリーが大きくゆれ、飾りの幾つかが落下した。
あるところでは、風をもろに受けた、天辺の星飾りが落ちて、砕けた。

 

誰も、それに気付かなかった。
遥か彼方であるはずなのに、眼前で起こった出来事のように、誰もがそれに釘付けになった。

 

吹き上がる火柱に、それを上げる醜悪な姿の鬼自身の姿が、映っている光景に。
柔らかな光の下で、機械の鬼の胸元に鋭利を立てた、青い神獣の姿に。

 

「・・・・・・君」

 

暦は、自分の背後で、そんな呟きが聴こえた気がした。

 

再び、視線を彼方へ送ったころには、闇の中で立っている者は、わずかに二つになっていた。
正確に言えば、振り向いた直後には、まだ鬼は三体ほどいた。
ただし、それらは、その上半身を太い豪腕に貫かれてもぎ取られ、
残った下半身も、断面から火花を出して、瓦礫の海に沈んでいった。
地底と地獄より這い出た異形どもが破壊を繰り返したこの地を海とするならば、
今新たに、その異形を、残骸で作られた波の、うねりの一つへと変えた、この
重厚感溢れるフォルムの巨体は、荒波の様に、万物を砕く『海神』とでも言うべきか。

 

海神と、鬼。
街を背にするものと、破壊の跡に聳えるもの。
守るものと、壊すものの対比が、そこには出来上がっていた。
凍りつくような空気を震わせ、鬼が残骸を蹴り潰して跳んだ。

 

切り込みの激しい、曲線を下方に向けた半円の真ん中より、角を生やした、鬼の顔と体があった。
海神のほぼ真上に至った鬼――『メカ半月鬼』は、月の光を背に浴びながら、体をくねる。
すると、半月の周囲に、纏わり着いた冷たい空気が、刃となって海神へと飛来した。
限られた光源の中、ほぼ不可視にも関わらず、何かを察したのか。
海神は、ずんぐりとした頭部と胸部を、巨大な建物の胴体のような太い腕で被った。
空気の刃は、堅牢な装甲を前面に出した腕の上で弾かれ、元の空気に戻っていった。

 

だが、それが空気に混ざる前に、新たな刃が、海神の腕の上に火花を上げた。
一呼吸置くうちに、数発ほど放たれたそれらによって、
装甲には隙間が開き、中のメカニズムが空気に触れた。
切れ目の入った装甲と、メカの上を走る緑色の光の奥で、丸っこくも鋭い眼が、半月鬼を睨み付けた。

 

『いい気になるな』と、その眼は言っていた。
恐怖に駆られた、巨大な鬼を操る等身大の鬼は、怯えの捌け口とでも言うように、
狂ったような動作で機械に指示を打ち込んだ。
海神の真上に半月の刃、「エア・カッター」の大群が、海神の下へと降り注ぐ。

 

先走った刃の一陣が、残骸の山を切り崩す。
海神の、岩のように太い足の歩幅で一歩先に落ちたそれを皮切りに、
海神の周囲を刃の破壊が満たしていく。

 

その破片が、身長30mほどの海神の体躯を被いかけた時。

 

巻き上がった破片に、亀裂が生じた。
開いた裂け目から、あの三つの機影が飛び出した。

 
 

それらは月に向って、進んだ。
降り注ぐ刃を掻い潜り、荘厳なる、白い光の中を駆けた。
一つは、青。
一つは、黄色。

 

そして、最後の一つは―――。

 
 
 
 
 

ガシャリ

 
 
 

遥か彼方の音を、誰もが、耳元で聴いたような気がした。
心臓に穿たれるような熱気を、その音に感じた。

 

自らの背後で鳴ったと、鬼が気付いたのは、それからすぐの事だった。
背面に備わったバーニアが炎を巻き、その巨体に音を越えた速さを与えた。

 

背後に現われたそれから遠ざかった直後。機械の鬼の右腕が、断面を空気に晒していた。
付けたら、今にでも再び癒着しそうなほど、
綺麗な切れ目をした腕が、地に付く前に砕けて微塵となる。
その衝撃の凄まじさを語った直後、半月鬼は眼下に広がる街に気付いた。
内部の鬼は、引きつった顔で、にぃっと笑った。
やることは、唯一つだった。

 

身にかかる多大な負荷を代償に、無数の刃が、街の上空で息吹を上げた。

 

街の人々の頭上に、月の光の軸線上に広がる、斜光の束が広がった。
多くが、その光景に釘付けとなった。
迫り来る死の刃の前では、どんな逃走も、意味がない。

 

いくつか、例外があった。
彼らの眼は、別のところにあった。
不幸の色を友とした、黒い猫は、駅前から少し離れた住宅地の、
半壊しかけた塀の上で、そこを見ていた。
その眼に映っていたのは、月の明かりを遮る乱雑な光ではなく、
月に照らされた真紅の龍に集まる、深緑色の光だった。

 

滝野智も、その例外の、一つだった。

 

これより寸刻の後に、龍の体表に似た、鮮やかな熱線が街の上空に広がり、
刃と、半月鬼を微細な粒子と化した。

 

その様子は、派手に打ち上げられた、花火にも似ていた。

 

光の鳳仙花は、街の上空を広がったが、人の身長よりは遥かに高い場所にて、
その熱の全てを失った。
僅かな時の前には、狂気の塊であったそれが散る様は、何故か、とても美しく見えた。

 
 

月を背にした、三本の角と、刃のひげを持つ真紅の龍は、光が散るのを見届けると、街の人々に背を向けた。
巨大な背中の肩元から伸びた、羽根を震わせて。
鋼の勇者は、飛び立っていった。

 
 
 

「・・・・・・すごいなぁ」

 

誰もが黙っている中で、大阪が口を開いた。

 

「何が起こってたのか、よく分からんかった」

 

ぷっと、口から吹き出したものがいる。
彼女たちの輪、以外の場所で、その言葉を聞いたものから、出たものだった。

 

「バッカだな大阪!あんなすげぇの見逃すなんて!!」

 

その快活な声の持ち主は、滝野智である。

 
 

「そうだぞ!かぁーーーー!!もう一度見てぇなぁ!!」
「それは勘弁してくれ」

 

はしゃぐ神楽と智をたしなめる暦。
この頃には既に、街はクリスマスの活気を取り戻しつつあった。
かなりのタフさだが、爬虫類と鬼のダブルパンチを生き残っただけのことはある。

 

「・・・・・・・・・」

 

喧騒を尻目に、無言で夜空を見上げる榊。
それに、先ほどと似た様子で、大阪が近寄った。

 

「・・・危ないところだった」
「なぁ榊ちゃん、ひょっとして、怒ってるん?」
「・・・・・・・・・ほんの、少しだけ」

 

そう言った榊の眼を、大阪が見れなかったのは、何かを察したためだろうか。

 

「さ、ちよちゃん拾ってカラオケ行くぞ。おい智、行くぞ」

 

人込みに向けて、歩いていく暦達に少し遅れた智は、美しい月を見上げた。
その視線を、龍の飛び去った方に向けると、小さな口が、空気を吸った。
ほんのりと、温まっているように、感じられた。

 

「・・・メリー・クリスマス」

 

そう呟くように、微笑みながら言った後、彼女は先を進む仲間の下に駆け寄った。
暦に、キックを叩き込むのも、当然忘れなかった。

 
 

「そう言えば、今年は辰年ですね」

 

過ぎ去っていく少女らの傍ら、月を仰ぎつつ、美人の妻と利発そうな娘さんを
伴った細身の男性は、誰に向けるわけでもなく、そう呟いていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ゲッターロボ+あずまんが大王世界のクリスマス

 

おしまい