ゲッターロボ+あずまんが大王 第6話-(5)

Last-modified: 2010-10-31 (日) 23:18:26
 

ゲッターロボ+あずまんが大王

 

第6話-(5)

 
 

「・・・・・・・・・」

 

相変わらずの仏頂面で、彼女は進んだ。

 

形の整った、柔らかく瑞々しい唇に開いた隙間から零れる息は、
ほんのりと熱を帯びている。
姿形といった意味での外見の変化はあまり生じず、反面、彼女の心は、
晴れた日の遠足に赴く幼子のように高揚していた。

 

いつもは優雅とも思えるゆっくりとした足取りが、5割増し程の速度で進んでいるのを、
交差する美脚と、揺れる乳房が示している。

 

長身と長い脚による歩幅は、同世代の少女らと比べても広く、
それが彼女の高い運動能力に、更なる磨きを掛けている。
彼女のライバルを自称する神楽が勝負に勝てない、或いは勝ち辛いのは、恐らくこれが原因だろう。
体格の違いは、身体を動かす分野の大半において、非常なまでに優劣を分ける。

 

それを神楽は羨み、努力を重ねて勝負に挑む。
結果は、大半において彼女が遅れをとるが、
彼女のさばけた性格ゆえか、そこに恨みつらみは微塵も無い。

 

ただ、自分自身の実力を出し切った満足感と、次の活力へと繋がる、僅かな悔しさが広がるだけだ。
これは、榊にしても幸いであり、
体育会系が苦手な彼女が、神楽を親友とできたのは、そのためだった。
それ以前、自分に向けられる視線の多くは、嫉妬と、畏怖が殆どであったと、
少なくとも、彼女はそのように感じていた。

 

だがそれも、その親友とめぐり合えたことを考えれば、
この関係を築けた事を思えば、良かったこととさえ思える。

 

しかし、その反面、彼女自身はこの身長に
コンプレックスを感じているというのは、何とも言えない皮肉である。

 

話を今の彼女の現状に戻す。

 

隼人と別れてからすぐ、『トイレ』と小さな出っ張りが入り口に備え付けられた手洗いには辿り着いた。
辿り着いたのだが、その近くの壁面に、

 

『使用禁止』

 

の張り紙が、デカデカと貼られていた。
しかも、よりにもよって女子用の方に。

 

また嫌がらせかと思ったが、入り口に板が打ち付けられている。
科学的な内観の中に突如出現した自然物と、荒く(下手くそに)打ち付けられた
釘のコラボレーションは、なんともいえずにシュールだった。

 

男子側には特にそういったものも無く、入ろうと思えば入れたのだが、
乙女にとって、それは酷というものだろう。

 

まぁ、とある外ハネのセミロングヘアーの馬鹿、もとい彼女と同い年の少女なら、

 
 

「何ィ!?使用禁止だとー!?知るか!!突撃ー!!って開かねー!!やるなコンチクショウ!!!
 仕方ねえ!!当って砕けろ!!男子の方へ直行だー!!!
 うぉぉぉぉおおお!!!!!いっくぜぇええ!!!!!!地獄へのエスカレータァァアアアア!!!!!!」

 
 

などと絶叫しつつ、跳梁跋扈の抱腹絶倒、変幻合体の勢いで周囲を駆けずり回るのだろうか。
過剰演出が入っているかもしれないが榊の脳内には、そんな映像が浮かんだ。
このバ・・・彼女にはある意味無限大の可能性があるため、その予測は困難どころか不可能に近い。
足りない分や分からない部分は、彼女の妄想で補っている。

 

そのため、隼人に伝えたことも、どこまで合っているのかは定かではない。
ただ、隼人に彼女の起こしたエピソードやサーガを話した際、受話器の奥で、
何かを砕くような恐ろしい音が聞こえ、また、それを塗り潰すような低い声で

 
 

『「・・・そいつ、本当に人間か?」』

 
 

と言われたのは確かだった。

 

その言葉に彼女は二重の意味を見出し、不覚にも、くすりと笑ってしまった。
いや、くすり、どころでは済まなかった。
細々と話すため、あまり消費されなかった口腔内の空気を笑いと共に、吹いてしまった。
想像するのは難しいが、噴出してしまったのである。

 

その後しばらくの間、隼人からの音信が途絶え、
ほのぼのとした学園生活を送る一方で、世の中は荒んでいったのだが・・・・・・今は探索をするのが先決だった。

 

彼に言われたとおり、顔も洗いたかった。

 

それに、何より。

 

この施設のことが、どうしようもなく気になっていた。

 
 

それが、現状の、彼女の高揚を促していた。

 

足取りは軽く、カツカツと、小気味のよい音を立てて、彼女は進んでいる。

 
 
 
 
 

しかしながら。

 
 
 
 
 

「・・・・・・・・・広いなぁ」

 
 

そう。

 
 

広い。

 
 

広すぎる。

 

幸いにして、ある一定の間隔で案内図が設けられているのだが、
フロアの全体図と比較して、図中での進んでいる距離が非常に短い。

 

廃墟になり掛けている、外の部分は、まるでほんの一部とでも言わんばかりの、
空間の広がりようである。
ひょっとしたら、森を焼け焦がして広がる荒野の面積分、
この回廊は脈を成しているのではないかとさえ思った。

 

「・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

反射的に、小さく溜息をついた。
しかし、恥を承知で最初の所に入れば、こんな苦労はしないで済んだはずであり、
何より、ここへは自分の意思で、勝手に来た。
今日と昨日でどのぐらい歩いたかは定かではないが、そのぐらいは安い。
そうだ、ここを見学できれば安いと考え、しばらく歩いた先の案内図に眼をやった。

 

少し先で二手に分かれた回廊の先を指し示す図の、左の道のほうに

 

『居住区』

 

と書かれた一角を見つけた。
途端、彼女の凛とした線と光を持つ眼は開き、表情には、明らかな動揺の色が浮かんだ。

 
 

「・・・・・・!」

 

何かが、キたようだ。
少なくとも、隼人にとって決して良くないものが。

 
 

「・・・・・・・・・」

 

案内図を見つめたまま、なにやら考えている榊。
「見つめ」ていた視線は既に、猫に向けるようなもの――メンチを切るようなガン見――に
進化、もとい変化していた。

 
 

「・・・・・・よし」

 

その声は、決心の表れでもあった。
尚、居住区と掛かれた反対側、には『手洗い』とあったが、
顔にうっすらとこびり付いた汗と埃を払うことよりも、
探究への欲望の方が上回った。

 

それに、道中でのこともある。
あれを問い質す際、有効にコトを進められるかもしれない。

 

『ここはまだ設備が生きている』ということは、この辺りが棲息地ということだ。
調べてみる価値はある。

 
 

「・・・行くかな」

 
 

善は急げ、先手必勝、とでも感じたのだろうか、ふわりと黒髪を靡かせて、
彼女の足は左側の通路の方へ、つま先を向けた。

 

そこから進む足取りは、先程よりも数段速かった。

 

10歩と進まぬうちに、歩みは、走りへ、そして疾駆へと変わっていった。
下着の中にまで入り込んだ、汗による湿気による不快感も忘れ、彼女は回廊の中を突き進んでいった。

 
 
 
 
 

彼女が先程まで見ていた案内図。
彼女が目指す居住区よりも遥かに先ではあったが、
かなりの縮図で描かれた回廊の見取りと比べても、明らかに巨大な空間があった。

 
 

通常の文字よりも大きく、

 
 
 
 
 
 

『廃棄所』

 
 
 
 
 
 
 

と、その空間を指し示す線の末端に表示されていた。

 
 

また、その近くには、

 

『危険』
『関係者以外立ち入り禁止』
『DANGER!!』

 

等等の物騒な単語群が、大きな字で案内図上に羅列されていたが、
彼女はそれに、微塵も気付いていなかった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

つづく